【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成によって上記課題を解決したリン回収材とその製造方法に関する。
〔1〕珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含有し、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が0.8以上〜3.5未満であって、磁性粉の含有量が5質量%以上、消石灰の含有量が21質量%以下、および遊離の二酸化ケイ素の含有量が20質量%以下であることを特徴とするリン回収材。
〔2〕珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が1.0以上〜1.5以下であり、該珪酸カルシウム水和物が磁性粉の分散下で生成されたものであって、磁性粉の含有量が8質量%以上、消石灰の含有量が2質量%以下、および遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下である上記[1]に記載するリン回収材。
〔3〕リン回収率が50%以上、磁気分離時の磁性粉の流出量が20%以下である上記[1]または上記[2]に記載するリン回収材。
〔4〕珪酸カルシウム水和物の含有量が55質量%以上〜95質量%未満、磁性粉の含有量が5質量%以上〜45質量%未満、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するリン回収材。
〔5〕消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム水溶液を添加し、磁性粉の分散下で、pH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させ、該珪酸カルシウム水和物に磁性粉が分散したリン回収材を製造することを特徴とするリン回収材の製造方法。
〔6〕消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに、珪酸ナトリウム水溶液を少量ずつ添加し、磁性粉の分散下で、珪酸カルシウム水和物を生成させる上記[5]に記載するリン回収材の製造方法。
【0013】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含有し、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が0.8以上〜3.5未満であって、磁性粉の含有量が5質量%以上、消石灰の含有量が21質量%以下、および遊離の二酸化ケイ素の含有量が20質量%以下であることを特徴とするリン回収材である。
好ましくは、本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が1.0以上〜1.5以下であり、該珪酸カルシウム水和物が磁性粉の分散下で生成されたものであって、磁性粉の含有量が8質量%以上、消石灰の含有量が2質量%以下、および遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であり、リン回収率が50%以上、磁気分離時の磁性粉の流出量が20%以下のリン回収材である。
【0014】
〔リン回収材〕
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)を主成分とする。珪酸カルシウム水和物(CSH)はリンと反応してヒドロキシアパタイト(HAP)を生成し、リンとの反応性が良いので、リンの回収率を高めることができる。
【0015】
珪酸カルシウム水和物(CSH)は、消石灰または生石灰の石灰スラリーに珪酸ナトリウム水溶液を混合して生成することができる。珪酸カルシウム水和物(CSH)の原料である珪酸ナトリウム水溶液は、珪質頁岩、非晶質シリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、珪藻土などの珪酸質原料を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて製造することができる。また市販の水ガラスなどを用いることができる。
【0016】
本発明のリン回収材において、珪酸カルシウム水和物(CSH)のCa/Siモル比は0.8〜3.5未満の範囲が適当であり、1.0〜1.5の範囲がより好ましい。なお、本発明のリン回収材が未反応の消石灰を含む場合には、上記Ca/Siモル比はリン回収材全体のCa/Siモル比である。該Ca/Siモル比が0.8未満では、リンと反応するCa量が少ないのでリン回収率が低下するため、リン回収率を高めるにはCa/Siモル比は0.8以上が好ましい。さらに、Ca/Siモル比が1.0以上であれば、リン回収材中の遊離の二酸化ケイ素の含有量を5質量%以下に抑えることができるため、より好ましい。
【0017】
一方、該Ca/Siモル比が3.5以上では、磁気分離時に該リン回収材に含まれる磁性粉の流出量が多くなるので好ましくない。具体的には、例えば、該Ca/Siモル比が3.5以上になると、磁気分離時の磁性粉の流出量が20質量%を上回るようになる。Ca/Siモル比が3.5以上では、リン回収材に未反応の消石灰が20.6質量%以上と多く残るようになり、このCSH表面に存在する消石灰のプラス電荷と磁性粉表面のプラス電荷の反発作用により、CSHと磁性粉との結合力が弱まるので、未反応の消石灰が多いと磁性粉の流出率が増加するようになる。従って、磁気分離時の磁性粉の流出量を抑制するには該Ca/Siモル比は3.5未満が良く、1.5以下がより好ましい。このように、Ca/Siモル比が3.5未満であれば、未反応の消石灰の含有量は21質量%以下、好ましくは20.6質量%未満になり、磁性粉の流出を低く抑えることができる。さらに、Ca/Siモル比が0.8〜1.5の範囲であれば、本発明のリン回収材中に含まれる消石灰の量は2質量%以下、好ましくは1.6質量%以下になり、磁性粉の流出量をさらに下げることができる。
【0018】
また、リン回収材をリンと炭酸が共存する液に使用したときに、Caと炭酸の反応が進行してCaとリンの反応が抑制されるため、Caが多いとリン回収率が低下する傾向がある。従って、リンと炭酸が共存する液に使用する場合には、該Ca/Siモル比は1.5以下が好ましい。
【0019】
リン回収材の珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量は55質量%〜95質量%の範囲が好ましい。珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が55質量%より少ないとリン回収効果が低下する。一方、珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が95質量%を上回ると相対的に磁性粉の含有量が少なくなるので磁気分離を行い難くなる。
【0020】
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に磁性粉を含有する磁気分離用のリン回収材である。磁気分離は、例えば、リンと反応してヒドロキシアパタイト(HAP)を生成したリン回収材を磁気フィルターに通じ、磁気によって該フィルターにリン回収材を吸着させて溶液から分離する方法、あるいは、HAPを生成したリン回収材を磁石に吸着させて溶液から引き上げて分離する方法など、磁気を利用した種々の方法を適用することができる。本発明のリン回収材は、磁気分離を行うことによって、一般的な沈降分離などよりも固液分離時間が短く、処理時間を大幅に短縮することができる。
【0021】
本発明のリン回収材において、磁性粉の含有量は、Fe
2O
3として、5質量%〜45質量%の範囲が良く、8.8質量%〜42質量%の範囲がより好ましい。磁性粉の含有量が5質量%未満であると、固液分離時に十分な磁気効果を得ることができない。一方、磁性粉の含有量が45質量%を超えると、相対的に珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が少なくなるので、十分なリン回収効果を得ることが難しくなる。
【0022】
なお、リン回収材が磁性粉を含むことによって、珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が相対的に減少するが、CSHに磁性粉が適量含有され分散されていることによって、リンとCSHの反応によって生成したHAPを固液分離する時に、HAPが磁気によって確実に保持されて回収されるので、リン回収率を高めることができる。
【0023】
本発明のリン回収材において、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に磁性粉を含有するとは、CSHのCa/Siモル比が0.8〜3.5未満の範囲であれば、CSHに磁性粉を混合した態様をも含むが、好ましくは、磁性粉の分散下でCSHが生成されたものである。
【0024】
磁性粉の分散下でCSHが生成されたものとは、具体的には、例えば、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム水溶液を添加して、磁性粉の分散下で、CSHを生成させたものである。CSHが磁性粉の分散下で生成されたものであれば、該CSHの組織中に磁性粉が取り込まれた状態になるので、リンとCSHの反応によって生成したHAPを磁気分離する時に、磁性粉の流出量が格段に抑制される。具体的には、例えば、CSHのCa/Siモル比が0.8以上〜1.5以下の範囲であって、磁性粉添加量が8質量%以上、好ましくは8.8質量%以上であれば、磁性粉の流出量を20質量%以下に抑制することができる。
【0025】
一方、CSHを生成させた後に磁性粉を混合したものは、CSHの周囲に磁性粉が混在した状態であり、CSHの組織中に磁性粉が取り込まれた状態ではないので、磁気分離時に磁性粉の流出量が多くなる傾向がある。
【0026】
本発明のリン回収材によって回収される沈澱物は、珪酸カルシウム水和物(CSH)と液中のリンとの反応によって生じたヒドロキシアパタイト(HAP)であり、十分な量のリン酸を含むのでリン酸肥料として利用することができる。一般にリン酸肥料として利用するには、副産リン酸肥料の規格上、ク溶性リン酸(C−P
2O
5)の含有量は15質量%以上であることが求められる。
【0027】
本発明のリン回収材において、磁性粉の含有量が多くなると、相対的に珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が少なくなるので、リン回収物に含まれるク溶性リン酸含有量が低下する。概ね、磁性粉の含有量が40質量%を超えると、リン回収物のク溶性リン酸の含有量が15質量%を下回る傾向がある。従って、リン回収物をリン酸肥料として利用する場合には、リン回収材に含まれる磁性粉の量は40質量%以下が好ましい。
【0028】
本発明のリン回収材に含まれる磁性粉は、マグネタイト等の磁性鉄酸化物、ニッケル亜鉛フェライト等の磁性鉄合金などである。これらの磁性粉は市販品を用いることができる。磁性粉の粒子径は20μm以下が良く、5μm以下がより好ましい。磁性粉の粒子径が150μmより大きいと、リン回収材全体に均一に分散し難くなるので好ましくない。
【0029】
本発明のリン回収材は、遊離の二酸化ケイ素の含有量は20質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。特許文献3には、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に二酸化ケイ素を含有するリン回収材に磁性粉末を加えたリン回収材が記載されており、このリン回収材は、リンとの反応によって生成するHAPの表面積を二酸化ケイ素の凹凸構造や多孔質構造によって広げてリン回収効果を高めることを意図しているが、この二酸化ケイ素はHAPの形成には直接には関与しないので、二酸化ケイ素の含有量が多いと、リン回収物中のリンの含量が低下する。
【0030】
例えば、特許文献3のリン回収材は、珪酸塩のアルカリ性水溶液(珪酸ナトリウム水溶液等)にカルシウムを添加し、この前後または同時に磁性粉を添加し、塩酸を添加してpHを調整し、珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させる方法によって製造されている。このようなpH調整によって製造されるリン回収材の二酸化ケイ素含有量は概ね23質量%〜28質量%であり、リン回収材全量の約1/4に及ぶ多量の二酸化ケイ素が含まれている。この二酸化ケイ素はリンと反応してHAPを生成する成分ではないので、多量の二酸化ケイ素が含まれていると回収物のリンの含量が低下する。
【0031】
本発明のリン回収材は、珪酸ナトリウムとカルシウムの反応によって珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させる際に、塩酸添加などのpH調整を行わず、遊離の二酸化ケイ素をできるだけ生成させない。従って、本発明のリン回収材は遊離の二酸化ケイ素の含有量が少ない。例えば、本発明のリン回収材は、CSHのCa/Siモル比が0.8ではSiがCaよりやや多いので、遊離の二酸化ケイ素の含有量が20質量%になる場合があるが、CSHのCa/Siモル比が1.0〜3.5未満の範囲では、遊離の二酸化ケイ素の含有量は概ね5質量%以下である。
【0032】
〔製造方法〕
本発明のリン回収材は、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、好ましくは珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、pH調整を行わずに、珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させることによって製造することができる。この方法によれば、遊離の二酸化ケイ素量が格段に少なく、磁性粉が均一に分散したリン回収材を製造することができる。
【0033】
さらに、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加して珪酸カルシウム水和物を生成させる方法によれば、磁性粉の分散下で珪酸カルシウム水和物が生成され、該珪酸カルシウム水和物の組織中に磁性粉が取り込まれた状態になるので、磁気分離時に磁性粉の流出量が格段に少ないリン回収材を得ることができる。
【0034】
特許文献3に記載されているように、上記石灰スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、その添加前後に磁性粉を加える方法では、磁性粉が十分に分散しないうちに珪酸カルシウム水和物(CSH)が生成し、磁性粉が珪酸カルシウム水和物(CSH)に十分に取り込まれた状態にならないので、磁気分離時に磁性粉の流出量が多くなる傾向がある。
【0035】
また、特許文献3の製造方法では、珪酸塩のアルカリ性水溶液に消石灰等を添加した後に、塩酸を添加してpH5〜12、好ましくはpH10前後に調整して二酸化ケイ素を生成させているが、このようなpH調整を行うと遊離の二酸化ケイ素量が多くなるので、本発明の製造方法ではこのようなpH調整を行わない。本発明の製造方法では、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、好ましくは珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、pH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させることによって、遊離の二酸化ケイ素量が5質量%未満のリン回収材を得ることができる。