(I)無機多孔質基材上に、合成樹脂エマルション(A)、及び水溶性シラン化合物(B)を含み、上記合成樹脂エマルション(A)は、平均粒子径が100nm以下、pHが2以上6以下であり、上記合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100重量部に対し、上記水溶性シラン化合物(B)を0.1〜20重量部含有する水性被覆材を塗付する工程、
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の被膜形成方法は、無機多孔質基材上に、被膜を形成する被膜形成方法である。
(無機多孔質基材)
本発明の無機多孔質基材としては、例えば、床面、床材、不燃ボード、トンネル内装板、打ち放し面等に使用されているものであり、例えば、モルタル、コンクリート、石膏ボード、サイディングボード、押出成形板、スレート板、繊維混入セメント板、ケイ酸カルシウム板、ALC板、等が挙げられる。
【0011】
本発明は、このような無機多孔質基材に、
(I)合成樹脂エマルション(A)、及び水溶性シラン化合物(B)を含有する特定の水性被覆材を塗付する工程、
(II)上記水性被覆材が乾燥後、上塗材を塗付する工程、
を含むことを特徴とし、特に上記(I)において、特定の水性被覆材を塗付した場合、十分な浸透性を有し、無機多孔質基材へ止水性能を付与するとともに、ムラ等を生じることなく美観性に優れた仕上がりが得られるものである。
【0012】
(水性被覆材)
上記(I)における水性被覆材は、合成樹脂エマルション(A)、及び水溶性シラン化合物(B)を含有するものである。
本発明の合成樹脂エマルション(A)としては、
(1)平均粒子径が100nm以下(好ましくは10nm以上90nm以下)、
(2)pHが2以上6以下(好ましくは2.5以上5以下)、
であることを特徴とする。
【0013】
合成樹脂エマルション(A)の樹脂粒子の平均粒子径が、上記(1)の範囲であることにより、無機多孔質基材に対し、優れた浸透性、補強性、密着性を発揮することができる。これにより、優れた止水性能を発揮することができる。一方、樹脂粒子の平均粒子径が上記(1)範囲を超える場合には、浸透性、補強性の低下により、十分な止水性能が得られない場合がある。なお、本発明において、樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される値である。具体的には、動的光散乱測定装置(「LB‐550」株式会社堀場製作所製)等を用いて測定することができる。(測定温度は25℃。)
【0014】
また、合成樹脂エマルション(A)のpHが、上記(2)の範囲であることにより、無機多孔質基材に対し、優れた浸透性、補強性、密着性を発揮することができる。これにより、優れた止水性能を発揮することができる。その作用機構は明らかではないが、無機多孔質基材の表面は一部を除きアルカリ性となっており、アルカリ環境下で被膜形成することにより、無機基材と強固に密着することができると考えられる。
【0015】
このような合成樹脂エマルション(A)としては、特に限定されないが、アクリル樹脂エマルションが好ましく、さらにはアクリルシリコン樹脂エマルションであることが好ましい。この場合、無機多孔質基材と良好な密着性を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明の合成樹脂エマルション(A)として、上記(1)(2)を満たすカチオン性アクリル樹脂エマルションを含むことが好ましい。このようなカチオン性アクリル樹脂エマルションとしては、構成モノマーとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、カチオン性モノマーを必須成分として重合した重合体の水分散体が好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、樹脂骨格の主成分となるものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0019】
カチオン性モノマーとしては、不飽和二重結合を持ったカチオン性モノマーであれば特に限定はされないが、例えば、カチオン性(メタ)アクリルアミド系モノマー、カチオン性マレイン酸アミド系モノマー、カチオン性ピリジン系モノマー等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0020】
具体的に、
カチオン性(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2−(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、2−(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート等の(メタ)アクリルアミドトリアルキルアンモニウム塩;
3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等の(メタ)アクリルアミドヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩;
2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド塩酸塩、2−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド硫酸塩、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド塩酸塩等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド塩;
3−ジメチルアミド−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド塩酸塩、3−ジエチルアミノ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド硫酸塩等のジアルキルアミノヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド塩;
等が挙げられる。
【0021】
カチオン性マレイン酸アミド系モノマーとしては、例えば、マレイン酸(N,N−ジメチルプロピレンジアミンモノアミド)塩等が挙げられる。このようなカチオン性モノマーを含むことにより、無機多孔質基材に対し、高い密着性を発揮することができる。
【0022】
さらに、本発明の合成樹脂エマルション(A)として、上記(1)(2)を満たすカチオン性アクリルシリコン樹脂エマルションが好適である。カチオン性アクリルシリコン樹脂エマルションとしては、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、上記カチオン性モノマー、及びアルコキシシランモノマーを必須成分として重合した重合体の水分散体が好ましい。
【0023】
アルコキシシランモノマーとしては、重合性二重結合と共に、加水分解し得るアルコキシ基を有するものが好ましく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0024】
本発明では、合成樹脂エマルション(A)を構成する成分として上記モノマーの他に、例えば、芳香族モノマー、ビニルエステル系モノマー、アクリロニトリル系モノマー等を加えてもよい。
芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられる。
アクリルニトリル系モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
合成樹脂エマルション(A)の重合方法は特に限定されず、例えば、重合開始剤、重合触媒、還元剤、界面活性剤、pH調整剤等が使用でき、バッチ方式、注入方式など公知の方法により重合することが可能である。この際の重合温度も適宜選択できる。
【0026】
合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分は、好ましくは1〜50重量%(より好ましくは5〜40重量%)である。合成樹脂エマルション(A)は媒体として水を含むが、水溶性溶剤等を含むこともできる。また、合成樹脂エマルション(A)の最低造膜温度及び/またはガラス転移温度は、好ましくは5℃以下(さらに好ましくは0℃以下)である。このような最低造膜温度及び/またはガラス転移温度を有する(A)成分を採用することにより、造膜助剤等の使用量を削減することが可能となる。
【0027】
本発明の水性被覆材は、水溶性シラン化合物(B)を必須成分として含むことを特徴とする。水溶性シラン化合物(B)を含むことにより、上記合成樹脂エマルション(A)の浸透性がよりいっそう高まり、無機多孔質基材内部で被膜を形成するとともに、無機多孔質基材表面に均一な被膜を形成することができる。このため、よりいっそう優れた止水性能を発揮するとともに、美観性に優れた仕上がりを得ることができる。特に、低温環境下において、無機多孔質基材内部まで十分な被膜を形成することができ、十分な止水性を得ることができる。この作用機構としては限定されるものではないが、一般的に、低温環境下においては、水性被覆材の粘度上昇は大きくなる傾向にあり、このため水性被覆材は、無機多孔質基材内部まで浸透しにくくなる。これに対して、本発明の水性被覆材は、水溶性シラン化合物(B)の作用により水性被覆材が低粘度化されるため、上記合成樹脂エマルション(A)の含浸性を高めることができ、その結果、無機多孔質基材内部において十分な被膜を形成することができる。上記作用により十分な浸透性を発揮し、無機多孔質基材内部で被膜を形成するとともに、無機多孔質基材表面に均一な被膜を形成することができる。なお、本発明における水溶性シラン化合物とは、水に溶解するものであればよく、好ましくは1重量%シラン水溶液を作製できるものが好ましい。この1重量%シラン水溶液作製時には、必要に応じてpHを調整してもよい。
【0028】
水溶性シラン化合物(B)としては、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン化合物;3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン化合物;その他、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3−イソシアネートプロピルエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0029】
さらに、上記水溶性シラン化合物(B)は、1重量%シラン水溶液のpHが、7未満(より好ましくは1以上6.5以下、さらに好ましくは1.5以上6以下)であることが好ましい。(すなわち、pH7未満(より好ましくは1以上6.5以下、さらに好ましくは1.5以上6以下)の水への溶解度が、少なくとも1g/100g以上であることが好ましい。)このような場合、水性被覆材の安定性を高め(ゲル化等を抑制)、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。本発明では、水溶性シラン化合物(B)として、エポキシ基含有シラン化合物が好適である。なお、1重量%シラン水溶液のpHとは、1重量%シラン水溶液を作製した場合のpHを測定したものである。
【0030】
上記水溶性シラン化合物(B)は、上記合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100重量部に対し、0.1〜20重量部(好ましくは0.3〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部)を含有する。これにより、水性被覆材が、無機多孔質基材に対して、十分な浸透性を有し、止水性能に優れた、均一な仕上がりの被膜を形成することができる。
【0031】
本発明の水性被覆材は、pHが1.5〜7(より好ましくは2〜6.5)であることが好ましい。また、その加熱残分が好ましくは2〜30重量%(より好ましくは5〜20重量%)であり、イワタカップNK−2による粘度が20sec以下(より好ましくは15sec以下)(温度23℃)である。このような場合、無機多孔質基材に対して、十分な浸透性、及び止水性能を付与し、均一な仕上がりを得ることができる。なお、水性被覆材の加熱残分は、JIS K 5601−1−2の方法にて測定された値であり、加熱温度は105℃、加熱時間は60分)である。
【0032】
本発明の水性被覆材の製造方法としては、特に限定されず、上記合成樹脂エマルション(A)、上記水溶性シラン化合物(B)を常法により混合すればよく、混合時には攪拌することもできる。本発明の水性被覆材は、水溶性シラン化合物(B)が水に溶解した態様であることが好ましく、水溶性シラン化合物(B)が乳化されていない状態で合成樹脂エマルション(A)と混合することが好ましい。
【0033】
本発明の水性被覆材には、造膜助剤(C)を含むことが好ましい。これにより、無機多孔質基材内部での被膜形成性を十分に発揮することができる。造膜助剤(C)は、上記合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100重量部に対し、好ましくは10重量部以下(より好ましくは0.5〜5重量部)である。造膜助剤(C)の混合量が上記範囲内である場合であっても、水性被覆材が無機多孔質基材内部まで浸透し被膜が形成されるため、止水性能を十分に発揮できる。一般的に、造膜助剤を含む合成樹脂エマルションは膨潤して、水性被覆材の粘度が上昇する。しかし、本発明では上記水溶性シラン化合物(B)の作用により水性被覆材が低粘度化されるため、造膜助剤(C)の使用量が上記範囲の場合であっても、その効果を十分に発揮させることができる。
【0034】
造膜助剤(C)としては、非水溶性、難溶性、水溶性等のいずれも使用でき、特には限定されないが、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、ベンジルアルコール等が挙げられる。好ましくは、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等である。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0035】
本発明の水性被覆材には、上述の成分の他、必要に応じ着色顔料、体質顔料、防錆顔料、pH調整剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、触媒、架橋剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を、本発明の効果が阻害されない範囲内で混合することができる。
【0036】
水性被覆材の塗装においては、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
【0037】
水性被覆材の塗付け量については、好ましくは0.01〜0.5kg/m
2(より好ましくは0.05〜0.3kg/m
2)程度である。水性被覆材の塗回数は、下地の状態によって適宜設定すればよいが、好ましくは1〜2回である。水性被覆材の乾燥時間は、好ましくは1時間以上とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下であればよい。
【0038】
(上塗材)
上記(II)における上塗材としては、一般的に建築物や土木構造物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではない。上記(I)の水性被覆材により形成された被膜は、多種多様な上塗材に対し優れた密着性を有することができる。使用可能な上塗材としては、樹脂成分、及び必要に応じて着色顔料を含むものが挙げられる。
【0039】
樹脂成分としては、各種樹脂が使用できる。樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等から選ばれる1種または2種以上が好適である。また、このような樹脂成分の形態としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂(樹脂エマルション)、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂、粉末樹脂等が挙げられる。また、溶剤可溶性樹脂及び/または非水分散性樹脂のうち、全溶剤のうち50重量%以上(好ましくは60重量%以上)が脂肪族炭化水素である所謂弱溶剤形樹脂も好適である。脂肪族炭化水素としては、例えば、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン等、あるいはテルピン油やミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。この中でも、本発明では、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂が好適である。また、これら樹脂成分は架橋反応性を有するものであってもよい。架橋反応性を有する樹脂成分を使用した場合は、被膜の耐久性、耐水性、耐候性、耐薬品性、密着性等を向上させることができる。
【0040】
着色顔料としては、例えば公知の無機着色顔料、有機着色顔料等が使用できる。これら着色顔料の1種または2種以上を適宜使用することにより、上塗材を所望の色相に設定することができる。着色顔料の混合比率は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、好ましくは1〜500重量部、より好ましくは5〜200重量部、さらに好ましくは10〜100重量部である。
【0041】
本発明の上塗材としては、透明被膜を形成するものも使用可能であり、この場合、無機多孔質基材の外観を活かしつつ、止水性、耐久性、美観性等の性能を付与することができるため好適である。また、上塗材は1種または2種以上使用できる。2種以上の上塗材を使用する場合、色調の異なる上塗材を用い、2色以上の多色の外観に仕上げることも可能である。
【0042】
このような上塗材は、本発明の効果が著しく損われない範囲内であれば、上記成分以外の各種成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、体質顔料、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、溶剤、水等が挙げられる。本発明の上塗材は、上述の各種成分を常法によって均一に混合することで製造できる。
【0043】
上塗材の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。
上塗材の塗付け量は、基材の表面形状、上塗材の種類や塗装器具の種類等に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは0.1〜3kg/m
2、より好ましくは0.15〜2.5kg/m
2である。塗装時には、必要に応じ上塗材を適宜希釈することもできる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0045】
(水性被覆材1〜15製造)
表1に示す配合に従い、(A)成分、(B)成分、および添加剤、水を常法により混合し水性被覆材1〜15を得た。
なお、原料としては以下のものを使用した。
・(A1)アクリル樹脂エマルション(固形分:40重量%、平均粒子径:70nm、pH:5.1)
・(A2)カチオン性アクリル樹脂エマルション(固形分:30重量%、平均粒子径:60nm、pH:3.7)
・(A3)カチオン性アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分:30重量%、平均粒子径:40nnm、pH:3.5)
・(A4)アクリル樹脂エマルション(固形分:40重量%、平均粒子径:125nm、pH:4.0)
・(A5)アクリル樹脂エマルション(固形分:40重量%、平均粒子径:70nm、pH:8.7)
・(B1)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(有効成分:100重量%、水溶性:1重量%水溶液のpH5.3)
・(B2)3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(有効成分:100重量%、水溶性:1重量%水溶液のpH4.0)
・(B3)2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(有効成分:100重量%、水溶性:1重量%水溶液のpH4.0)
・(B4)N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分:100重量%、水溶性:1重量%水溶液のpH4.0)
・(B5)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分:100重量%、水溶性:1重量%水溶液のpH10)
・(B6)P−スチリルトリメトキシシラン(有効成分:100重量%、水不溶性)
・(B7)プロピルトリメトキシシランの乳化液(有効成分:30重量%、界面活性剤を含む。)
・添加剤1:プロピレングリコールモノブチルエーテル
・添加剤2:消泡剤、増粘剤、等
【0046】
(実施例I−1〜I−10、比較例I−1〜I−5)
水性被覆材1〜15について、試験体[I]を作製し、それぞれ以下の評価を実施した。結果は表1に示す。
<試験体[I]の作製>
(I)無機多孔質基材(スレート板:L100×W100×T3mm)に、水性被覆材を塗付け量0.1kg/m
2で刷毛塗りし、常温(25℃)で24時間乾燥させた。
(II)次いで、水性上塗材(アクリルシリコン系エマルション塗料)を塗付け量0.1kg/m
2となるように塗付し、標準状態で、24時間乾燥させたものを試験体[I]とした。
【0047】
<浸透性評価>
上記(I)工程において、目視により、水性被覆材の浸透性を評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:浸透性良好。
B:浸透性おおむね良好。
C:浸透性やや不十分。
D:浸透性不十分。
<美観性評価>
上記試験体[I]表面の状態について、目視により美観性(外観)を評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:ムラのない仕上がり。
B:部分的にムラが発生。
C:基材表面の被膜にクラック等の不具合が発生。
【0048】
<止水性評価>
上記試験体[I]の裏側面をエポキシ樹脂でシールし、24時間水に浸漬させ、水の浸透性を評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:水の浸透がない(濡れ色にならない)。
B:水が部分的に浸透する(部分的に濡れ色になる)。
C:水が基材に浸透する(ほぼ全面が濡れ色になる)。
D:水が基材に浸透する(全面が濡れ色になる)。
【表1】
【0049】
(実施例II−1〜II−10)
水性被覆材1〜10について、それぞれ以下の試験体[II]を作成し、同様の評価を実施した。結果は表2に示す。
<試験体[II]の作製>
上記工程(I)において、水性被覆材を塗付後、低温(5℃)で24時間養生した以外は、試験体[I]の作製方法と同様にして試験体[II]を作成した。
【0050】
【表2】