(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-155417(P2019-155417A)
(43)【公開日】2019年9月19日
(54)【発明の名称】非消耗電極パルスアーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/09 20060101AFI20190823BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20190823BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-44835(P2018-44835)
(22)【出願日】2018年3月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA08
4E082AA09
4E082BA04
4E082EA02
4E082EA06
4E082EB11
4E082EC13
4E082ED01
4E082ED03
4E082EF07
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】非消耗電極パルスアーク溶接において、パルス周波数及び通電路のインダクタンス値が大きい場合でも、平均溶接電流値を設定値にほぼ維持すること。
【解決手段】ピーク期間Tp中のピーク電流Ip及びベース期間Tb中のベース電流Ibから形成される溶接電流Iwを通電して溶接する非消耗電極パルスアーク溶接制御方法において、ピーク電流設定信号Ipr、ベース電流設定信号Ibr及び電流傾斜係数Gを設定し、溶接電流を検出して電流検出信号Idを出力し、ピーク期間Tp中は、予め定めた制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ipr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて溶接電流Iwを制御し、ベース期間Tb中は、制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ibr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて溶接電流Iwを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成される溶接電流を通電して溶接する非消耗電極パルスアーク溶接制御方法において、
ピーク電流設定信号Ipr、ベース電流設定信号Ibr及び電流傾斜係数G(Gは1.0未満かつ0よりも大きな実数)を設定し、
前記溶接電流を検出して電流検出信号Idを出力し、
前記ピーク期間中は、予め定めた制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ipr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて前記溶接電流を制御し、
前記ベース期間中は、前記制御周期ごとに前記電流設定信号Ir=(Ibr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて前記溶接電流を制御する、
ことを特徴とする非消耗電極パルスアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記電流傾斜係数Gを、前記溶接電流の通電路のインダクタンス値に応じて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極パルスアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記電流傾斜係数Gを、前記ピーク期間及び前記ベース期間を繰り返すパルス周波数に応じて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極パルスアーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成される溶接電流を通電して溶接する非消耗電極パルスアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非消耗電極アーク溶接には、直流又は交流のティグ溶接、直流又は交流のプラズマアーク溶接がある。この非消耗電極アーク溶接において、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成されるパルス状の溶接電流を通電して溶接する非消耗電極パルスアーク溶接が広く使用されている。
【0003】
特許文献1の発明では、消耗電極パルスアーク溶接において、ピーク電流の立上り及び立下りを曲線状の所望値に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−75890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非消耗電極パルスアーク溶接においては、ピーク期間とベース期間とを繰り返すパルス周波数の設定範囲は0.5〜500Hz程度である。溶接電流の通電路のインダクタンス値は、溶接電源の内部に設けられたリアクトルのインダクタンス値と溶接トーチのケーブルのインダクタンス値との合算値となる。したがって、溶接トーチのケーブルが長くなると、通電路のインダクタンス値は大きくなる。
【0006】
通電路のインダクタンス値が大きくなるほど、溶接電流の変化速度は緩やかになる。それに加えて、パルス周波数が約100Hz以上になると、電流の振幅が制限されて設定されたピーク電流及びベース電流を通電することができなくなる。すなわち、通電路のインダクタンス値が大きくなり、かつ、パルス周波数が高くなると、電流振幅が小さくなり、平均溶接電流値も小さくなる。平均溶接電流値が小さくなると、溶け込み深さが変化し、ビード外観も変化して、溶接品質が悪くなるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明では、通電路のインダクタンス値が大きくなり、かつ、パルス周波数が高いときでも、設定された平均溶接電流値をほぼ維持することができる非消耗電極パルスアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流から形成される溶接電流を通電して溶接する非消耗電極パルスアーク溶接制御方法において、
ピーク電流設定信号Ipr、ベース電流設定信号Ibr及び電流傾斜係数G(Gは1.0未満かつ0よりも大きな実数)を設定し、
前記溶接電流を検出して電流検出信号Idを出力し、
前記ピーク期間中は、予め定めた制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ipr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて前記溶接電流を制御し、
前記ベース期間中は、前記制御周期ごとに前記電流設定信号Ir=(Ibr−Id)×G+Idを算出し、算出された電流設定信号に基づいて前記溶接電流を制御する、
ことを特徴とする非消耗電極パルスアーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項2の発明は、前記電流傾斜係数Gを、前記溶接電流の通電路のインダクタンス値に応じて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極パルスアーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項3の発明は、前記電流傾斜係数Gを、前記ピーク期間及び前記ベース期間を繰り返すパルス周波数に応じて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の非消耗電極パルスアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パルス周波数及び通電路のインダクタンス値が大きくなっても、設定された平均溶接電流値をほぼ維持することができるので、高品質の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る非消耗電極パルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る非消耗電極パルスアーク溶接制御方法を示す
図1における溶接電流Iwの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る非消耗電極パルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、非消耗電極パルスアーク溶接が直流のパルスティグ溶接の場合である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路、整流した直流を平滑するコンデンサ、上記の電流誤差増幅信号Eiに基づいて平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0016】
溶接電流Iwは、溶接トーチ4、電極1、アーク3及び母材2を通って通電し、電極1と母材2との間に溶接電圧Vwが印加する。
【0017】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。Ipr>Ibrである。
【0018】
パルス周波数設定回路FRは、予め定めたパルス周波数設定信号Frを出力する。Fr=0.5〜500Hz程度である。デューティ設定回路DRは、デューティ設定信号Drを出力する。Drは、1周期に占めるピーク期間の百分率である。Dr=30〜70%程度である。期間設定回路TRは、上記のパルス周波数設定信号Fr及び上記のデューティ設定信号Drを入力として、両値からピーク期間及びベース期間の時間長さを算出して、ピーク期間設定信号Tpr及びベース期間設定信号Tbrを出力する。ここで、Tpr=(1/Fr)×(Dr/100)であり、Tbr=(1/Fr)−Tprである。
【0019】
タイマ回路TMは、上記のピーク期間設定信号Tpr及び上記のベース期間設定信号Tbrを入力として、以下の処理を行い、タイマ信号Tmを出力する。タイマ信号TmがHighレベルのときがピーク期間Tpとなり、Lowレベルのときがベース期間Tbとなる。
1)ピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp中はHighレベルとなるタイマ信号Tmを出力する。
2)続けて、ベース期間設定信号Tbrによって定まるベース期間Tb中はLowレベルとなるタイマ信号Tmを出力する。
3)上記の1)及び2)の動作を繰り返す。
【0020】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0021】
電流設定回路IRは、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr、上記の電流検出信号Id及び上記のタイマ信号Tmを入力として、タイマ信号TmがHighレベル(ピーク期間)のときは、予め定めた制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ipr−Id)×G+Idを算出し、タイマ信号TmがLowレベル(ベース期間)のときは、制御周期ごとに電流設定信号Ir=(Ibr−Id)×G+Idを算出し、電流設定信号Irを出力する。上記の制御周期は、ピーク期間及びベース期間から形成されるパルス周期よりも小さな値に設定される。制御周期は、パルス周期の最小値の0.1以下に設定されることが望ましい。パルス周期の最小値は2ms(パルス周波数の最大値=500Hz)であるので、制御周期は200μs以下に設定されることが望ましい。例えば、制御周期は50μsに設定される。また、上記のGは、電流傾斜係数であり、1.0未満0よりも大の範囲の実数に設定される。電流傾斜係数Gは、ピーク電流への立上り速度及びベース電流への立下り速度を決める係数であり、Gが小になるほど電流傾斜は緩やかになる。電流傾斜係数Gの適正値への設定方法については、
図2で後述する。
【0022】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって定電流制御され、ピーク電流Ip及びベース電流Ibから形成される溶接電流Iwが通電する。
【0023】
図2は、
図1で上述した溶接電源における溶接電流Iwの波形図である。同図は、アークスタートから過渡期間を経過した定常状態における波形図である。同図は、パルス周波数が100Hz以上であり、溶接トーチのケーブル長が10m以上であるので通電路のインダクタンス値が比較的大きい場合である。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0024】
時刻t1〜t2の期間が、
図1のピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tpとなる。時刻t2〜t3の期間が、
図1のベース期間設定信号Tbrによって定まるベース期間Tbとなる。時刻t1〜t3の期間がパルス周期となり、その逆数がパルス周波数となる。
【0025】
(1)時刻t1〜t2のピーク期間Tpの動作
図1の電流設定回路IRの出力信号である電流設定信号Irは、予め定めた制御周期ごとに下式によって算出される。Gは、予め定めた電流傾斜係数であり、Idは電流検出信号である。
Ir=(Ipr−Id)×G+Id
同図において、溶接電流Iwは、上記の電流設定信号Irを目標値として定電流制御される。この結果、溶接電流Iwは、変化率が経時的に小さくなるように上昇する波形となる。
【0026】
(2)時刻t2〜t3のベース期間Tbの動作
上記の電流設定信号Irは、上記の制御周期ごとに下式によって算出される。
Ir=(Ibr−Id)×G+Id
同図において、溶接電流Iwは、上記の電流設定信号Irを目標値として定電流制御される。この結果、溶接電流Iwは、変化率が経時的に小さくなるように下降する波形となる。
【0027】
上記の電流傾斜係数Gは、溶接電流Iwの上昇及び下降時の電流傾斜を決める係数である。電流傾斜係数Gは、1未満0よりも大の実数に設定される。電流傾斜係数Gは、その値が小さいほど電流傾斜は緩やかになる。G=1.0のときが従来技術のときとなる。
【0028】
パルス周波数が高くなるほど、かつ、通電路のインダクタンス値が大きくなるほど、溶接電流Iwの振幅は小さくなる。同時に、従来技術においては、溶接電流Iwの平均値も小さくなり、溶接品質が悪くなる。これに対して、本実施の形態では、溶接電流Iwの平均値はほぼ設定値を維持することができるので、良好な溶接品質となる。
【0029】
溶接電流Iwの平均値の変化の数値例を以下に示す。ピーク電流設定信号Ipr=300A、ベース電流設定信号Ibr=40A、デューティ=50%とすると、平均電流値の設定値=170Aとなる。パルス周波数が100Hz未満であり、かつ、溶接トーチのケーブル長が5m以下である場合には、従来技術においても、平均溶接電流値はほぼ170Aとなる。パルス周波数が300Hzとなり、かつ、溶接トーチのケーブル長が10mとなると、従来技術では、平均溶接電流値は140A程度に減少する。これに対して、本実施の形態では、平均溶接電流値は165Aとなり、設定値との差分が大幅に小さくなる。さらに、従来技術では、パルス周波数の設定値又は溶接トーチのケーブル長が変化すると、平均溶接電流値も大きく変化することになる。これに対して、本実施の形態では、パルス周波数の設定値又は溶接トーチのケーブル長が変化しても、平均溶接電流値はほぼ設定値を維持することができる。
【0030】
上記の電流傾斜係数Gの適正値への設定方法は、以下の通りである。電流傾斜係数Gが小さいほど、パルス周波数及び溶接トーチのケーブル長が変化したときの平均電流値の変化は小さくなる。他方、電流傾斜係数Gが小さくなるほど、アークスタートから溶接電流Iwの波形が定常状態に収束するまでの過渡期間が長くなる。過渡期間が長くなると、アークスタート部の溶接品質が悪くなる。したがって、アークスタート時の過渡期間が100ms以下となり、かつ、平均電流値と設定値との差分が許容範囲になるように、電流傾斜係数Gは実験によって設定される。例えば、制御周期が50μsであるときは、G=0.05に設定される。
【0031】
パルス周波数又は溶接トーチのケーブル長(通電路のインダクタンス値)によって、アークスタート時の過渡期間及び平均電流値と設定値との差分が変化する。したがって、パルス周波数及び/又は通電路のインダクタンス値に応じて、電流傾斜係数Gを変化させることが望ましい。このようにすると、溶接品質をさらに向上させることができる。
【0032】
上述した実施の形態においては、非消耗電極パルスアーク溶接が直流パルスティグ溶接の場合であるが、交流パルスティグ溶接、直流/交流パルスプラズマアーク溶接の場合も同様である。
【符号の説明】
【0033】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
DR デューティ設定回路
Dr デューティ設定信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
FR パルス周波数設定回路
Fr パルス周波数設定信号
G 電流傾斜係数
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
IW 溶接電流
PM 電源主回路
Tb ベース期間
Tbr ベース期間設定信号
TM タイマ回路
Tm タイマ信号
Tp ピーク期間
Tpr ピーク期間設定信号
TR 期間設定回路
Vw 溶接電圧