特開2019-155779(P2019-155779A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オイレス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2019155779-金型および成形機 図000003
  • 特開2019155779-金型および成形機 図000004
  • 特開2019155779-金型および成形機 図000005
  • 特開2019155779-金型および成形機 図000006
  • 特開2019155779-金型および成形機 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-155779(P2019-155779A)
(43)【公開日】2019年9月19日
(54)【発明の名称】金型および成形機
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/34 20060101AFI20190823BHJP
【FI】
   B29C45/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-47305(P2018-47305)
(22)【出願日】2018年3月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】桐明 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】店橋 純一
(72)【発明者】
【氏名】安部 哲
(72)【発明者】
【氏名】平田 紀弘
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AM32
4F202CA11
4F202CB01
4F202CM02
4F202CP01
4F202CP10
(57)【要約】
【課題】高品質の成形品を生産可能な金型および成形機を、より低コストで提供する。
【解決手段】金型を構成する一対の型のうちの少なくとも一方の型に設けられた傾斜ピン穴352にはめ込まれ、この傾斜ピン穴352内でピン部品351を摺動可能に支持する傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面に、ベント部として、この傾斜ピンガイドブッシュ353の両端側を繋ぐベント溝3543を設ける。このベント溝3543により、傾斜ピン穴352の内壁3520とピン部品351の外周面3510との間に、キャビティ部Cからのガス抜き路Rを形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ部に射出された成形材料で成形品を成形する金型であって、
第一の型板と、
前記第一の型板に対向配置されており、型締めにより前記第一の型板との間に形成される前記キャビティ部と当該キャビティ部の外部とにつながるピン穴が形成された第二の型板と、
前記第二の型板のピン穴の内部に配置されたピン部品と、
前記ピン穴の内周と前記ピン部品の外周との間に介在し、前記ピン部品を摺動可能に支持するピンガイドブッシュと、
前記ピン穴から前記ピン部品の一端部が前記第一の型板側に突き出すように、前記ピン穴に沿った方向に前記ピン部品を往復移動させるエジェクタプレートと、を備え、
前記ピンガイドブッシュは、
当該ピンガイドブッシュの一方の端部側と他方の端部側とを繋ぎ、前記ピン穴を介して前記キャビティ部のガスを排出するベント部を有する
ことを特徴とする金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
前記ピンガイドブッシュの前記ベント部は、
当該ピンガイドブッシュの一方の端部から他方の端部まで形成されたスリットである
ことを特徴とする金型。
【請求項3】
請求項1に記載の金型であって、
前記ピンガイドブッシュの前記ベント部は、
当該ピンガイドブッシュの外周面および内周面のうちの少なくとも一方に、当該ピンガイドブッシュの両端部を貫通するように形成されたベント溝である
ことを特徴とする金型。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載された金型であって、
前記ピン穴は、前記エジェクタプレートの移動方向に対して傾斜した方向に形成され、当該ピン穴の内部には、前記ピン部品として、前記ピン穴に沿って移動する傾斜ピンが配置され、
前記金型は、
前記傾斜ピンの一端部に設けられ、当該傾斜ピンとともに当該傾斜ピンの移動方向に移動してアンダーカット部を処理する傾斜コアと、
前記傾斜ピンの他端部を保持し、前記エジェクタプレートとともに移動しながら、前記ピン穴に沿って前記傾斜ピンを移動させるスライドユニットと、をさらに備える
ことを特徴とする金型。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の金型と、
前記キャビティ部に前記成形材料を射出する射出装置と、
前記第一および第二の型板を開閉するとともに、前記第一および第二の型板に対して前記エジェクタプレートを移動させる型開閉機構と、を備える
ことを特徴とする成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エジェクタピン、傾斜ピン等のピン部品を案内するピンガイドブッシュにベント部を設けた金型および成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートショット、焼け等の成形不良の発生を防止するため、従来の射出成形用金型には、キャビティ部に供給される溶融樹脂から発生するガスやキャビティ部の残留ガスを外部に排出するベントが設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の射出成形用金型においては、可動金型に抱きついた成形品の突き出しに利用されるエジェクタピンの外周にDカット加工が施されており、これによりエジェクタピンの外周に形成された平坦面とこのエジェクタピンを案内するピン孔の内周との間に生じる隙間がベントとして機能する。同様に、アンダーカットを処理するためのスライドコアに連結された傾斜ピンの外周にもDカット加工が施され、これにより傾斜ピンの外周に形成された平坦面と傾斜ピンを案内するピン孔の内周との間に生じる隙間もベントとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−223989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、耐摩耗性等の機械的性質が要求される金型部材の材料には、例えば、高炭素クロム軸受鋼、高速度工具鋼等の高硬度材料が用いられることが多い。高炭素クロム軸受鋼、高速度工具鋼等は難加工材であり、このような難加工材で形成されたエジェクタピン、傾斜ピン等の外周にDカットを追加工するには多大な時間およびコストを要し、一般に歩留りも低くなりがちである。このため、このようなエジェクタピン、傾斜ピン等を用いることは金型のコスト増大の要因となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高品質の成形品を生産可能な金型および成形機を、より低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明においては、一方の型に設けられたピン穴にはめ込まれ、このピン穴内でピン部品を摺動可能に支持するピンガイドブッシュに、キャビティ部からガスを逃がすベント部を設ける。
【0008】
例えば、本発明は、
キャビティ部に射出された成形材料で成形品を成形する金型であって、
第一の型板と、
前記第一の型板に対向配置されており、型締めにより前記第一の型板との間に形成される前記キャビティ部と前記キャビティ部の外部とにつながるピン穴が形成された第二の型板と、
前記第二の型板のピン穴の内部に配置されたピン部品と、
前記ピン穴の内周と前記ピン部品の外周との間に介在し、前記ピン部品を摺動可能に支持するピンガイドブッシュと、
前記ピン穴から前記ピン部品の一端部が前記第一の型板側に突き出すように、前記ピン穴の軸方向に沿った方向に前記ピン部品を往復移動させるエジェクタプレートと、を備え、
前記ピンガイドブッシュは、当該ピンガイドブッシュの一方の端部側と他方の端部側とを繋ぎ、前記ピン穴を介して前記キャビティ部のガスを排出するベント部を有する。
【0009】
ここで、前記ベント部は、例えば、前記ピンガイドブッシュの一方の端部から他方の端部まで形成されたスリットであってもよいし、前記ピンガイドブッシュの外周面および内周面のうちの少なくとも一方に、当該ピンガイドブッシュの両端部を貫通するように形成されたベント溝であってもよい。また、前記ピンガイドブッシュの一方の端部から他方の端部に到達するようにピンガイドブッシュの外周面に形成された平坦面であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ピン穴にはめ込められたピンガイドブッシュに、キャビティ部からガスを逃がすベント部が設けられ、ピン部品にはベント部を追加工する必要がないため、成形不良のない高品質な成形品を生産可能な金型および成形機をより低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る射出成形機9の金型部分の概略断面図である。
図2図2(A)は、キャビティ部Cからのガス抜き路を形成するためのベント部として外周面3532にベント溝3533を有する傾斜ピンガイドブッシュ353の外観図であり、図2(B)、図2(C)、図2(D)および図2(E)は、図2(A)の傾斜ピンガイドブッシュ353の平面図、正面図、底面図および背面図であり、図2(F)は、図2(D)のA−A断面図である。
図3図3は、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532のベント溝3533により傾斜ピン穴352内に形成されるガス抜き路Rを説明するための図である。
図4図4(A)、図4(B)、図4(C)および図4(D)は、キャビティ部Cからのガス抜き路Rを傾斜ピン穴352内に形成するためのベント部として内周面3531Aにベント溝3533Aを有する傾斜ピンガイドブッシュ353Aの外観図、平面図、正面図および底面図であり、図4(E)は、図4(D)のB−B断面図である。
図5図5(A)は、キャビティ部Cからのガス抜き路Rを形成するためのベント部としてスリット3533Bを有する傾斜ピンガイドブッシュ353Bの外観図であり、図5(B)、図5(C)および図5(D)は、傾斜ピンガイドブッシュ353Bの平面図、正面図および底面図であり、図5(E)は、図5(D)のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
まず、射出成形機を一例に挙げて、本実施の形態に係る金型が組み込まれた成形機の概略構成について説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る射出成形機9の金型部分の概略断面図である。
【0015】
図示するように、本実施の形態に係る射出成形機9は、金型1と、金型1を開閉する型開閉機構7と、型締めにより金型1内に形成された空間(キャビティ部)Cに射出ノズル80から溶融樹脂を射出する射出装置8と、を有しており、所定のサイクルで、金型1内のキャビティ部Cの反転形状を有する樹脂成形品を成形する。
【0016】
ここで、金型1は、パーティングラインPで分割された固定側2および可動側3を有している。固定側2は、射出装置8の射出ノズル80側に位置するように型開閉機構7の固定ダイプレート70に固定されており、可動側3は、型開閉機構7の可動ダイプレート71に固定され、可動ダイプレート71とともにタイバー方向(型開閉方向)Z1に所定のストロークで往復移動する。
【0017】
固定側2は、固定ダイプレート70に取り付けられる固定側取付け板20と、可動側3に対向するように固定側取付け板20に固定された固定側型板21と、を有している。
【0018】
固定側型板21は、入れ子構造を有しており、後述の可動側型板31の成形品反転形状面(凸部)とともにキャビティ部Cを形成する成形品反転形状面(凹部)が掘り込まれた入れ子22がはめ込まれて構成されている。また、固定側型板21には、射出装置8の射出ノズル80からの溶融樹脂をキャビティ部Cに誘導するためのスプルブッシュ23と、後述の可動側型板31に植え込まれたガイドピン314が挿入されるガイドブッシュ24と、がはめ込まれている。なお、スプルブッシュ23のノズルタッチ部230に射出装置8の射出ノズル80の先端がタッチできるように、固定側取付け板20および固定ダイプレート70には、スプルブッシュ23のノズルタッチ部230を射出装置8側に露出させる連通穴72が設けられている。
【0019】
一方、可動側3は、可動ダイプレート71に取り付けられる可動側取付け板30と、固定側型板21に対向する位置に配置された可動側型板31と、可動側型板31の裏面(可動側取付け板30側に向けられた面)310に取り付けられた受け板32と、受け板32の裏面(可動側取付け板30側に向けられた面)320と可動側取付け板30との間に所定のスペースSを確保する一対のスペーサブロック33と、を有している。
【0020】
可動側型板31は、固定側型板21と同様、入れ子構造を有しており、固定側型板21の入れ子22の成形品反転形状面(凹部)に対向する成形品反転形状面(凸部)が掘り込まれた入れ子311がはめ込まれて構成されている。また、可動側型板31の所定の位置(例えば4箇所の各コーナ部)には、固定側2のガイドブッシュ24内に挿入されるガイドピン314が裏面310側から植え込まれて受け板32で固定されており、可動ダイプレート71の作動により可動側型板31と固定側型板21とが型閉じされる際、固定側2のガイドブッシュ24の内周面内の摺動領域によりガイドピン314が案内されて、固定側型板21に対して可動側型板31が位置合わせされるようになっている。これにより、型締めによって可動側型板31のパーティング面が固定側型板21のパーティング面に密着すると、固定側型板21の入れ子22の成形品反転形状面(凹部)と、可動側型板31の入れ子311成形品反転形状面(凸部)とに囲まれたキャビティ部Cが形成される。
【0021】
ここで、樹脂成形品を突き出す際にアンダーカットを開放するため、入れ子311は、ボルト等で可動側型板31に固定されたメインコア3111と、樹脂成形品の内側に向かうアンダーカット形状が掘り込まれた傾斜コア3112と、に分割されており、傾斜コア3112が、型開閉方向Z1に対して所定の角度傾斜した方向(以下、傾斜コア移動方向Z2)にメインコア3111から押し上げ可能となっている。
【0022】
可動側型板31および受け板32には、受け板32の裏面320からメインコア3111の成形品反転形状面まで型開閉方向Z1に貫通する連通穴がエジェクタピン穴342として形成されている。このエジェクタピン穴342の内部には円筒状のエジェクタピンガイドブッシュ(不図示)がはめ込まれており、後述のエジェクタピン341の一端部は、このエジェクタピンガイドブッシュの内周面内の摺動領域で摺動可能に支持され、型開閉方向Z1に案内される。
【0023】
さらに、可動側型板31および受け板32には、受け板32の裏面320から傾斜コア移動方向Z2に傾斜コア3112の底面31121まで到達する連通穴が傾斜ピン穴352として形成されている。可動側型板31の入れ子311のパーティング面には、例えば成形品反転形状面の縁部から傾斜ピン穴352の縁部につながるベント溝3113(図3参照)が形成されており、このベント溝3113を介してキャビティ部Cと傾斜ピン穴352とがつながっている。また、傾斜ピン穴352の内部には、例えば傾斜ピン穴352の両端部の位置にそれぞれ円筒状の傾斜ピンガイドブッシュ353がはめ込まれており、後述の傾斜ピン351の一端部は、これらの傾斜ピンガイドブッシュ353の内周面3531内の摺動領域で摺動可能に支持され、傾斜コア移動方向Z2に案内される。なお、傾斜ピン穴352のキャビティ部C側端部に設けられた傾斜ピンガイドブッシュ353の端面のうち、傾斜コア3112の底面31121に対向する端面は、傾斜コア3112の底面31121に沿うように傾斜ピンガイドブッシュ353の軸心Oに対して傾斜していてよい。この傾斜ピンガイドブッシュ353により、傾斜ピン穴352の内壁と傾斜ピン351の外周面3510との間には、キャビティ部Cからのガスが通過するガス抜き路が形成されているが、これについては傾斜ピンガイドブッシュ353の形状とともに後述する。
【0024】
さらに、可動側3には、スペーサブロック33により受け板32と可動側取付け板30との間に確保されたスペースに、可動側型板31に抱き付いた樹脂成形品を突き出すためのエジェクタ機構34と、エジェクタ機構34による樹脂成形品の突き出しの際にアンダーカット部を処理するアンダーカット処理部35と、が設けられている。
【0025】
エジェクタ機構34は、型開閉機構7から前進してくるエジェクタロッド(不図示)によって受け板32に向かって押し出されるエジェクタプレート340と、エジェクタロッドにより押し出されるエジェクタプレート340を型開閉方向Z1に案内するエジェクタガイドピン(不図示)と、一方の端部がエジェクタプレート340から可動側型板31に向かって突き出すように他方の端部がエジェクタプレート340に植え込まれたエジェクタピン341と、を有している。
【0026】
エジェクタピン341の一方の端部は、可動側型板31および受け板32に設けられたエジェクタピン穴342内に配置され、このエジェクタピン穴342の内部にはめ込まれたエジェクタピンガイドブッシュの内周面内の摺動領域で摺動可能に支持されている。可動ダイプレート71の作動により可動側型板31と固定側型板21とが型開きされた後、エジェクタロッドの作動によりエジェクタプレート340が受け板32に向かって押し出されると、エジェクタプレート340に連動して、エジェクタピン341の一方の端部がエジェクタピン穴342内のエジェクタピンガイドブッシュの内周面内の摺動領域によって案内されてメインコア3111の成形品反転形状面から突き出す。これにより、メインコア3111から樹脂成形品が引き離される。
【0027】
アンダーカット処理部35は、エジェクタプレート340に固定されたスライドユニット350と、傾斜コア移動方向Z2に沿った姿勢でスライドユニット350のピンホルダに一方の端部が固定された傾斜ピン351と、を備えている。傾斜ピン351の他方の端部は、可動側型板31および受け板32に設けられた傾斜ピン穴352内に配置され、この傾斜ピン穴352の内部にはめ込まれた傾斜ピンガイドブッシュ353の内周面3531内の摺動領域で摺動可能に支持されている。エジェクタロッドの作動によりエジェクタプレート340が受け板32に向かって押し出されると、エジェクタプレート340に連動して、傾斜ピン351を保持したピンホルダが、傾斜コア3112を樹脂成形品の内側に向かわせる方向(樹脂成形品のアンダーカット部から引き離れる方向)Xにスライドするとともに、傾斜ピン351が、傾斜ピンガイドブッシュ353の内周面3531内の摺動領域により傾斜コア移動方向Z2に案内され、メインコア3111から傾斜コア3112を押し上げる。これにより、エジェクタピン341により樹脂成形品が押し上げられる過程において、樹脂成形品のアンダーカット部から傾斜コア3112が外される。
【0028】
つぎに、傾斜ピンガイドブッシュ353の構造およびこの傾斜ピンガイドブッシュ353により傾斜ピン穴352内部に形成されるガス抜き路について説明する。
【0029】
図2(A)は、キャビティ部Cからのガス抜き路を形成するためのベント部として外周面3532にベント溝3533を有する傾斜ピンガイドブッシュ353の外観図であり、図2(B)、図2(C)、図2(D)および図2(E)は、この傾斜ピンガイドブッシュ353の平面図、正面図、底面図および背面図であり、図2(F)は、図2(D)のA−A断面図である。
【0030】
図示するように、傾斜ピンガイドブッシュ353は、例えば銅合金、焼結合金、裏金上に摺動層を有する複層材等で形成された円筒状の摺動部材であり、その内周面3531には、傾斜ピン351の外周面3510を摺動可能に支持する摺動領域が形成されている。なお、複層材としては、例えば、裏金上に焼結合金層(摺動層)が形成された複層材、裏金上に多孔質焼結金属層を介して樹脂層(摺動層)が形成された複層材が挙げられる。
【0031】
この傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532には、傾斜ピンガイドブッシュ353の両端面3534、3535を貫通する適当な深さのベント溝3533が軸心O方向に沿って形成されている。図2には、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に3本のベント溝3533が軸心O周りにほぼ等角度間隔で形成された場合を例示しているが、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532には少なくとも1本のベント溝3533が形成されていればよい。また、2本以上のベント溝3533を傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に形成する場合におけるベント溝3533のレイアウトは任意である。
【0032】
このような傾斜ピンガイドブッシュ353が、可動側型板31および受け板32に設けられた傾斜ピン穴352にはめ込まれている場合、図3に示すように、傾斜ピン穴352の内壁3520と傾斜ピン351の外周面3510との間には、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に設けられたベント溝3533により、傾斜ピンガイドブッシュ353の一方の端面3534側と他方の端面3535側とを繋ぐガス抜き路Rが形成される。射出装置8の射出ノズル80からキャビティ部C内に溶融樹脂が射出された場合、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスは、このガス抜き路Rを通過して傾斜ピン穴352の一方(キャビティ部C側)から他方(エジェクタプレート340側)へと排出される。
【0033】
このため、この傾斜ピンガイドブッシュ353を組み込んだ金型1を射出成形機9に用いることにより、傾斜ピン351を保持する傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に形成された1本以上のベント溝3533を介して、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスが金型1外部に排出されるため、キャビティ部C内のガスに起因する成形不良の発生を防止することができる。また、傾斜ピン351の外周面3510にベント部を追加工する必要がなくなるため、金型1および射出成形機9の製造コストを抑制することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0035】
例えば、上記実施形態においては、傾斜ピン351を案内する傾斜ピンガイドブッシュ353に、キャビティ部Cからのガス抜き路Rを形成するベント部を設けているが、キャビティ部Cにつながるピン穴(固定側2および可動側3のいずれに形成されたものであってもよい)にはめ込まれ、このピン穴内に配置された他のピン部品(例えば、エジェクタピン341等)を案内するピンガイドブッシュに同様なベント部を設けるようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態においては、キャビティ部Cからのガス抜き路Rを形成するためのベント部として傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に1本以上のベント溝3533を形成しているが、傾斜ピンガイドブッシュ353に設けるベント部は、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532のベント溝3533である必要はない。例えば、傾斜ピンガイドブッシュ353の外周面3532に、ベント部として、傾斜ピン穴352の内壁3520に接触しない平坦面を一方の端面3534から他方の端面3535まで形成することによって、この平坦面と傾斜ピン穴352の内壁3520との間に隙間(ガス抜き路)が形成されるようにしてもよい。また、以下に示すように、外周面のベント溝の代わりに(あるいは、外周面のベント溝とともに)、内周面3531Aに1本以上のベント溝3533Aが設けられた傾斜ピンガイドブッシュ353Aを用いてもよいし、両端面3534B、3535Bに達する軸心O方向のスリット3533Bが形成された傾斜ピンガイドブッシュ353Bを用いてもよい。
【0037】
図4(A)、図4(B)、図4(C)および図4(D)は、キャビティ部Cからのガス抜き路を形成するためのベント部として内周面3531Aにベント溝3533Aを有する傾斜ピンガイドブッシュ353Aの外観図、平面図、正面図および底面図であり、図4(E)は、図4(D)のB−B断面図である。
【0038】
図示するように、傾斜ピンガイドブッシュ353Aは、図2の傾斜ピンガイドブッシュ353と同様、内周面3531Aの摺動領域で傾斜ピン351の外周面3510を摺動可能に支持する円筒形状を有している。この傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aには、一方の端面3534A側と他方の端面3535A側とを繋ぐ適当な深さのベント溝3533Aが軸心Oに沿って形成されている。なお、図4には、傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aに3本のベント溝3533Aが軸心O周りにほぼ等角度間隔で形成された場合を例示しているが、傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aには少なくとも1本のベント溝3533Aが形成されていればよく、また、傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aにおけるベント溝3533Aのレイアウトも任意である。
【0039】
このような傾斜ピンガイドブッシュ353Aが、可動側型板31および受け板32に設けられた傾斜ピン穴352にはめ込まれている場合、傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aに設けられたベント溝3533Aにより、傾斜ピンガイドブッシュ353Aの一方の端面3534A側と他方の端面3535A側とを繋ぐガス抜き路Rが傾斜ピン穴352の内壁3520と傾斜ピン351の外周面3510との間に形成される。射出装置8の射出ノズル80からキャビティ部C内に溶融樹脂が射出された場合、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスは、このガス抜き路Rを通過して傾斜ピン穴352の一方(キャビティ部C側)から他方(エジェクタプレート340側)へと排出される。
【0040】
このため、この傾斜ピンガイドブッシュ353Aを組み込んだ金型1を射出成形機9に用いた場合にも、傾斜ピン351を保持する傾斜ピンガイドブッシュ353Aの内周面3531Aに形成された1本以上のベント溝3533Bを介して、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスが金型1外部に排出されるため、傾斜ピン351に追加工を施すことなく、キャビティ部Cからのガス抜き路を金型1に設けることができる。さらに、傾斜ピン穴352内を往復移動する傾斜ピン351を保持する内周面3531Aにベント溝3533Aが設けられているため、樹脂、ガス成分等がベント溝3533Aに付着しても、傾斜ピン351の移動に伴いベント溝3533Aから付着物を脱落させることができる。このため、ベント溝3533Aの詰まりを抑制することができる。
【0041】
図5(A)は、キャビティ部Cからのガス抜き路を形成するためのベント部としてスリット3533Bを有する傾斜ピンガイドブッシュ353Bの外観図であり、図5(B)、図5(C)および図5(D)は、傾斜ピンガイドブッシュ353Bの平面図、正面図および底面図であり、図5(E)は、図5(D)のC−C断面図である。
【0042】
図示するように、傾斜ピンガイドブッシュ353Bは、図2および図4の傾斜ピンガイドブッシュ353、353Aと同様、内周面3531B内の摺動領域で傾斜ピン351の外周面3510を摺動可能に支持する円筒形状を有している。この傾斜ピンガイドブッシュ353Bには、一方の端面3534Bから他方の端面3535Bに到達するスリット3533Bが軸心Oに沿って形成されている。
【0043】
このような傾斜ピンガイドブッシュ353Bが、可動側型板31および受け板32に設けられた傾斜ピン穴352にはめ込まれている場合、傾斜ピンガイドブッシュ353Bのスリット3533Bにより、傾斜ピンガイドブッシュ353Bの一方の端面3534B側と他方の端面3535B側とを繋ぐガス抜き路Rが傾斜ピン穴352の内壁3520と傾斜ピン351の外周面3510との間に形成される。射出装置8の射出ノズル80からキャビティ部C内に溶融樹脂が射出された場合、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスは、このガス抜き路Rを通過して傾斜ピン穴352の一方(キャビティ部C側)から他方(エジェクタプレート340側)へと排出される。
【0044】
このため、この傾斜ピンガイドブッシュ353Bを組み込んだ金型1を射出成形機9に用いた場合にも、傾斜ピン351を保持する傾斜ピンガイドブッシュ353Bに形成されたスリット3533Bを介して、キャビティ部Cの残留ガスおよび溶融樹脂から発生したガスが金型1外部に排出されるため、傾斜ピン351に追加工を施すことなく、キャビティ部Cからのガス抜き路を金型1に設けることができる。
【0045】
なお、上記においては、射出成形用の2プレート金型を例に挙げたが、本発明は、キャビティ部につながるピン穴内に配置されたピン部品を有する金型であれば、金型のタイプおよび金型の用途によらず適用可能である。例えば、3プレート金型にも適用可能であるし、受け板を備えない金型、可動側型板および固定側型板が入れ子構造を有さない金型等にも適用可能である。また、ダイカスト用の金型にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1:金型、 2:固定側、 3:可動側、 7:型開閉機構、 8:射出装置、 9:射出成形機、 20:固定側取付け板、 21:固定側型板、 22:入れ子、 23:スプルブッシュ、 24:ガイドブッシュ、 30:可動側取付け板、 31:可動側型板、 32:受け板、 33:スペーサブロック、 34:エジェクタ機構、 35:アンダーカット処理部、 70:固定ダイプレート、 71:可動ダイプレート、 72:連通穴、 80:射出ノズル、 230:スプルブッシュのノズルタッチ部、 310:可動側型板の裏面、 311:入れ子、 314:ガイドピン、 320:受け板の裏面、 340:エジェクタプレート、 341:エジェクタピン、 342:エジェクタピン穴、 350:スライドユニット、 351:傾斜ピン、 352:傾斜ピン穴、 353、353A、353B:傾斜ピンガイドブッシュ、 3111:メインコア、 3112:傾斜コア、 3510:傾斜ピンの外周面、 3520:ピン穴の内壁、 3531、3531A、3531B:傾斜ピンガイドブッシュの内周面、 3532:ピンガイドブッシュの外周面、 3533、3533A:ベント溝、 3533B:スリット、 3534、3535、3534A、3535A、3534B、3535B:ピンガイドブッシュの端面
図1
図2
図3
図4
図5