【解決手段】本発明の一態様は、鉄道車両の車体傾斜装置10FLにおいて、制御部40は、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに、電磁弁21Bにより、車高を上昇位置H1よりも低く通常高さ位置H0よりも高い所定高さ位置Haに調整した状態を所定時間保った後に、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替える。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。なお、鉄道車両の車体傾斜装置の構成と作用、および、レベリングバルブの詳細な構造と作用について説明した後、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに行われる制御について説明する。
【0018】
<鉄道車両の車体傾斜装置の構成と作用について>
まず、鉄道車両の車体傾斜装置の構成と作用について説明する。鉄道車両において、
図1に示すように、車体1は、走行する前後2つの台車2F,2Bの上方に設けられている。各台車2F,2Bの枕木方向の両端には、それぞれ空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRが載置されていて、各空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRによって車体1が支持されている。これら各空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRは、タンク4(空気溜め)から圧縮空気が供給されると、伸張して車体1の高さ(以下、「車高」という。)を上昇させ、貯留する圧縮空気を排出すると、収縮して車高を下降させる。タンク4は、空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRに供給するための圧縮空気を貯留しており、高圧状態になっている。
【0019】
この鉄道車両では、各空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRの圧縮空気の給排気を利用して、曲線路を走行する際に車体1を曲線路の内軌側に傾ける車体傾斜制御が行われる。例えば、鉄道車両が
図1の矢印側に向かって走行して右向きに曲がる場合、曲線路の円曲線(曲線路は入口緩和曲線と円曲線と出口緩和曲線とで構成され、曲線路のうち曲率が最大でほぼ一定になっている部分が円曲線である)に到達する前に、曲線路の外軌側に設けられている空気バネ3FL,3BLを伸張させて、車体1における曲線路の外軌側の車高を通常高さ位置から上昇位置へ上昇させる。
【0020】
これにより、車体1が曲線路の内軌側に傾くように傾斜して、曲線路を走行する際に、車体1に作用する横方向の加速度が減少する。この結果、乗客に作用する横方向の遠心力を減少させることができ、乗り心地を向上させることができる。そして、鉄道車両が曲線路の円曲線から直線路に到達する前に、曲線路の外軌側に設けられている空気バネ3FL,3BLを収縮させて、車体1における曲線路の外軌側の車高を上昇位置から通常高さ位置まで下降させる。この結果、車体1が水平になる。
【0021】
このような車体傾斜制御を行うための車体傾斜装置10FL,10FR,10BL,10BRが、各空気バネ3FL,3FR,3BL,3BRに対応して設けられている。各車体傾斜装置10FL,10FR,10BL,10BRの構成はそれぞれ同様であるため、以下では、車体傾斜装置10FLの構成を代表して説明する。
【0022】
まず、車体傾斜装置10FLの構造について説明する。車体傾斜装置10FLは、
図2〜
図4に示すように、主に空気バネ3FLと、タンク4と、レベリングバルブ(LV)21Aと、電磁弁21Bと、切替弁30と、制御部40などを有する。なお、制御部40は、鉄道車両1両につき1台設けられている。
【0023】
レベリングバルブ21Aは、空気バネ3FLとタンク4の間に形成される通常走行用回路50A(第1回路、第1空気流路)に設けられ、車高に応じて空気バネ3FLへの圧縮空気の給気と排気と遮断を行うことにより車高を調整する。このレベリングバルブ21Aには、アーム22と支持柱23が取り付けられている。なお、通常走行用回路50Aは、空気流路51Aと空気流路52Aを備えている。
【0024】
レベリングバルブ21Aは、車体1に取付けられており、車高に応じて、タンク4から空気バネ3FLに圧縮空気を供給する側(後述する
図5参照)と、圧縮空気の流れを遮断する側(後述する
図6参照)と、空気バネ3FL内の圧縮空気を大気に排出する側(後述する
図7参照)とに切換えられる。アーム22は、一端がレベリングバルブ21Aに接続され、他端が支持柱23に接続されている。支持柱23は、台車2Fに起立した状態で取付けられ、車体1と台車2Fとの間の距離(車高)に応じてアーム22を動かすことができる。
【0025】
そして、
図3に示すように、車高が通常高さ位置であるとき、アーム22は水平状に延びて、レベリングバルブ21Aは圧縮空気の流れを遮断する側に設定される(後述する
図6参照)。そして、
図4に示すように、車高が上昇位置であるときに、アーム22はレベリングバルブ21Aから下方傾斜して延びて、レベリングバルブ21Aは圧縮空気を大気に排出する側に設定される(後述する
図7参照)。一方、車高が下降位置であるときには(図示省略)、アーム22はレベリングバルブ21Aから上方傾斜して延びて、レベリングバルブ21Aは空気バネ3FLに圧縮空気を供給する側に設定される(後述する
図5参照)。なお、レベリングバルブ21Aについての詳細な構造と作用については、後述する。
【0026】
電磁弁21Bは、空気バネ3FLとタンク4の間に形成される車体傾斜用回路50B(第2回路、第2空気流路)に設けられ、空気バネ3FLへの圧縮空気の給気と遮断と排気を行うことにより車高を調整する。なお、電磁弁21Bは、複数絞りの組み合わせを変更することで、圧縮空気を給気する速度を調整して、車体1を傾斜させる速度を調整できる。なお、車体傾斜用回路50Bは、空気流路51Bと空気流路52Bを備えている。また、電磁弁21Bの動作は、制御部40により制御される。
【0027】
切替弁30は、空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を通常走行用回路50Aまたは車体傾斜用回路50Bに切り替える。すなわち、切替弁30は、レベリングバルブ21Aと空気バネ3FLの間の空気流路51Aで圧縮空気の流れを許容又は禁止すると共に、電磁弁21Bと空気バネ3FLの間の空気流路51Bで圧縮空気の流れを許容又は禁止するものである。なお、切替弁30による圧縮空気の流れの切換えは、制御部40により制御される。
【0028】
図2〜
図4に示すように、レベリングバルブ21Aと切替弁30との間に、圧縮空気が流れる空気流路51Aが設けられ、レベリングバルブ21Aとタンク4との間に、圧縮空気が流れる空気流路52Aが設けられている。また、電磁弁21Bと切替弁30との間に、圧縮空気が流れる空気流路51Bが設けられ、電磁弁21Bとタンク4との間に、圧縮空気が流れる空気流路52Bが設けられている。そして、切替弁30と空気バネ3FLとの間に、圧縮空気が流れる空気流路53が設けられている。
【0029】
制御部40は、CPUとRAMとROMとを備え、車体傾斜制御を行うための制御プログラムを実行するものである。具体的には、制御部40は、鉄道車両の車速と鉄道車両の走行位置とデータベースに記憶されている走行路線データや実際の車体1の傾斜状況に基づいて、鉄道車両が曲線路を走行すると判断するときに、切替弁30や電磁弁21Bを制御して車体傾斜制御を行う。なお、鉄道車両の車速は、加速度センサや速度発電機等を用いた周知の方法によって逐次演算され、制御部40に逐次入力される。また、鉄道車両の走行位置は、データベースに記憶されている走行路線データと車速から演算される走行距離等を用いた周知の方法によって求められ、制御部40に逐次入力される。
【0030】
次に、車体傾斜装置10FLの作用について説明する。ここでは、鉄道車両が
図1の矢印側に向かって走行して右向きに曲がる際に、制御部40が、車体傾斜制御を行う場合を例にして説明する。この車体傾斜制御では、鉄道車両が直線路から曲線路の円曲線に到達する前に、空気バネ3FL(3BL)を伸張させて、車体1を傾斜させる。そこで、制御部40は、走行中に曲線路の入口緩和曲線を認識して、鉄道車両が曲線路の入口緩和曲線に進入した時点で、切替弁30により圧縮空気の流れを切り替える。
【0031】
具体的には、空気流路51Aと空気流路53との間で圧縮空気の流れが禁止され、空気流路51Bと空気流路53との間で圧縮空気の流れが許容される。すなわち、制御部40は、切替弁30により、空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を、通常走行用回路50Aから車体傾斜用回路50Bに切替える。このようにして、レベリングバルブ21Aが実質的に機能しなくなる一方で、電磁弁21Bが機能することになる。そして、電磁弁21Bにより、タンク4の圧縮空気を、空気流路52Bと電磁弁21Bと空気流路51Bと切替弁30と空気流路53を介して、空気バネ3FLに供給する。
【0032】
これにより、空気バネ3FLが伸張し、かつ、車体傾斜装置10BLの空気バネ3BLも同様に伸長することにより、車体1における曲線路の外軌側の車高が通常高さ位置(
図3参照)よりも高い上昇位置(
図4参照)に調整されるので、車体1が曲線路の内軌側に傾くように傾斜する。
【0033】
また、このように車体1の傾斜によって車体1における曲線路の外軌側の車高が上昇位置となると、レベリングバルブ21Aは圧縮空気を大気に排出する側に設定される(後述する
図7参照)。これにより、空気流路51Aの内部の圧縮空気は、レベリングバルブ21Aを通って大気中に排出される。
【0034】
そして、鉄道車両は車体1が傾斜した状態で曲線路の円曲線を通過した後、直線路に到達する前に、伸張した空気バネ3FL(3BL)を収縮させて、車体1を水平復帰させる。つまり、鉄道車両が直線路に到達する前に、車体1における曲線路の外軌側の車高を上昇位置から通常高さ位置まで下降させる。そこで、制御部40は、走行中に曲線路の出口緩和曲線を認識して、出口緩和曲線に進入したときに、電磁弁21Bにより、空気バネ3FLの圧縮空気を、空気流路53と切替弁30と空気流路51Bと電磁弁21Bを通って大気中に排出する。これにより、空気バネ3FLが収縮し、かつ、車体傾斜装置10BLの空気バネ3BLも同様に収縮することにより、車体1における曲線路の外軌側の車高が通常高さ位置(
図3参照)となるので、車体1が水平になる。
【0035】
そして、このように車体1における曲線路の外軌側の車高を通常高さ位置まで下降させた後に、切替弁30により圧縮空気の流れを切り替える。具体的には、空気流路51Aと空気流路53との間で圧縮空気の流れが許容され、空気流路51Bと空気流路53との間で圧縮空気の流れが禁止される。すなわち、制御部40は、切替弁30により、空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を、車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替える。そして、その後、車高はレベリングバルブ21Aにより調整される。このようにして、制御部40は、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替える。
【0036】
また、このように車体1の水平復帰によって車体1における曲線路の外軌側の車高が通常高さ位置になると、レベリングバルブ21Aは圧縮空気の流れを遮断する側に設定される(後述する
図6参照)。これにより、空気流路51Aの内部の圧縮空気は、レベリングバルブ21Aを通って大気中に排出されなくなる。
【0037】
<レベリングバルブの詳細な構造と作用について>
次に、レベリングバルブ21Aの詳細な構造と作用について説明する。まず、レベリングバルブ21Aの構造について説明する。
図5〜
図7に示すように、レベリングバルブ21Aは、本体116と、主軸117と、給気弁118と、排気弁119と、オイルダンパ120とを備えている。
【0038】
給気弁118と排気弁119とは、本体116を貫通すると共に空気流路51Aに連結される通路によって連結されている。給気弁118及び排気弁119は、バネ(不図示)の力により空気流路51Aへの通路が閉塞されるように構成されている。
【0039】
空気流路51Aと給気流路115とは、給気弁118の先端部分によって連通・遮断される。なお、給気流路115は、タンク4に接続する空気流路52Aに接続している。また、空気流路51Aと排気流路114とは、排気弁119の先端部分によって連通・遮断される。なお、排気流路114は、大気に開放されている。
【0040】
また、オイルダンパ120は、ピストン121と、ピストン121に連結すると共に逆流防止の機能を有するチェック弁122、124と、チェック弁122、124の背後に設けられた背室136、137とを備えており、これらが油中に浸漬されている。
【0041】
また、チェック弁122には、背室136と連通路126とを連通させる絞り通路としてオリフィス131が設けられている。チェック弁124には、背室137と連通路128とを連通させる絞り通路としてオリフィス132が設けられている。
【0042】
また、
図7の状態において、背室136と主軸室135とを連通させる連通路133が設けられている。この連通路133は、
図5と
図6の状態でピストン121によって塞がれ、これにより主軸室135と背室136とが遮断される。また、
図5の状態において、背室137と主軸室135とを連通させる連通路134が設けられている。この連通路134は、
図6と
図7の状態でピストン121によって塞がれ、主軸室135と背室137とが遮断される。
【0043】
主軸117は、支持柱23に回動可能に連結されたアーム22に、回動可能に保持されている。これにより、車高の変化に追随してアーム22の傾斜角度が変化すると、主軸117はその傾斜角度の変化に伴って回動される。ここで、主軸117は、アーム22に対して正逆のねじりバネを介して取り付けられており、正逆方向のいずれの方向に対しても、各々のねじりバネの付勢力により中立点に復帰するように構成されている。
【0044】
また、主軸117は、上側突起部144を備えている。この上側突起部144は、バネの付勢力に抗することにより、給気弁118または排気弁119を開閉させることができる。また、主軸117は、下側突起部145を備えている。この下側突起部145は、ピストン121を左右方向に移動させる。
【0045】
次に、レベリングバルブ21Aの作用について説明する。まず、レベリングバルブ21Aが給気弁として作用している場合(車高が下降位置であり、レベリングバルブ21Aが空気バネ3FLに圧縮空気を供給する側に設定される場合)について説明する。このとき、
図5に示すように、給気弁118が開通されており、排気弁119が閉じられている。すなわち、アーム22が上昇傾斜されることで主軸117が図中時計回りに回動して、主軸117の下部に設けられた下側突起部145が、ピストン121を左方向へ移動させる。ピストン121の左側にあるチェック弁122は、左から右方向への油の逆流を防止し、右から左方向への流れは許可しているため、ピストン121の背室136が油圧室となる。
【0046】
次に、レベリングバルブ21Aが排気弁として作用する場合(車高が上昇位置であり、レベリングバルブ21Aが圧縮空気を大気に排出する側に設定される場合)について説明する。このとき、
図7に示すように、給気弁118が閉じられており、排気弁119が開放されている。すなわち、アーム22が下降傾斜されることで主軸117が図中反時計回りに回動して、主軸117の下部に設けられた下側突起部145が、ピストン121を右方向へ移動させる。ピストン121の右側にあるチェック弁124は、右から左方向への油の逆流を防止し、左から右方向への流れは許可しているため、ピストン121の背室137が油圧室となる。
【0047】
また、レベリングバルブ21Aが遮断弁として作用している場合(車高が通常高さ位置であり、レベリングバルブ21Aが圧縮空気の流れを遮断する側に設定される場合)は、
図6に示すように、給気弁118と排気弁119が閉じられている。
【0048】
さらに、本実施形態のレベリングバルブ21Aは、前記のように、チェック弁122にはオリフィス131が設けられ、チェック弁124にはオリフィス132が設けられている。これにより、レベリングバルブ21Aは、車高が通常高さ位置であるとき、車体1が瞬間的に振動や傾斜等を起こしても、圧縮空気の流れを遮断し、空気バネ3FLに対して圧縮空気の給排気を開始するまでに一定のタイムラグを生じさせるようになっている。つまり、レベリングバルブ21Aは、作動時間遅れを有する遅延タイプのレベリングバルブで構成されている。これにより、車体1が瞬間的に振動や傾斜等を起こしても、圧縮空気の給排気によるハンチングを防止して、圧縮空気の浪費を防止できる。
【0049】
<車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに行われる制御について>
次に、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに行われる制御に関して説明する。
【0050】
鉄道車両の車体傾斜装置10FLは、切替え可能な通常走行用回路50Aと車体傾斜用回路50Bの2つの回路を有している。そして、鉄道車両が曲線を走行する場合において空気バネ3FLが曲線路の外軌側に配置されるときに、空気バネ3FLに対応して設けられる車体傾斜装置10FLは、空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路(以下、適宜、単に「回路」という。)を車体傾斜用回路50Bとする。これにより、車体傾斜装置10FLは、電磁弁21Bにより車高を上昇位置に調整して(
図4参照)、車体1における曲線路の外軌側の車高(以下、適宜、単に「車高」という。)を上昇させることで車体1の傾斜動作を行う。そして、このとき、車高が上昇位置であるため、車体傾斜装置10FLにおいて、通常走行用回路50Aに備わるレベリングバルブ21Aは排気モード(圧縮空気を大気に排出する側に設定されるモード)になり(
図7参照)、レベリングバルブ21Aと切替弁30との間の空気流路51A内が排気されることになる。
【0051】
そして、このように車体1の傾斜動作を行っている状態から、鉄道車両が出口緩和曲線に進入したときにおいて、車体傾斜装置10FLは、電磁弁21Bにより車高を通常高さ位置まで低下させ、出口緩和曲線通過後に回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替える。これにより、鉄道車両は、車体1を水平にして直線路を走行する。
【0052】
ここで、比較例として、鉄道車両が出口緩和曲線に進入したときにおいて、車体傾斜装置10FLが、電磁弁21Bにより車高を上昇位置から通常高さ位置まで一気に低下させた後に、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替える例を想定する。すると、レベリングバルブ21Aは、レベリングバルブ21A自身が持つ戻り遅れ、すなわち、オリフィス131,132(
図5〜
図7参照)を油が通過する際の抵抗により発生する一定の作動時間遅れにより、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替えた後においても、しばらくの間、排気モードを保持する。
【0053】
すなわち、車高を上昇位置から通常高さ位置まで低下させるときには、レベリングバルブ21Aのピストン121は、前記の
図7の状態から、図面の左方向に移動して、前記の
図6の状態へ戻るが、このとき、ピストン戻り工程(ピストン121が戻る工程)の初期状態においては、
図9に示すように、油が背室136から連通路133を介して主軸室135へ流れる。しかし、やがてピストン戻り工程が進んだ状態になると、
図10に示すように、連通路133はピストン121に塞がれて油は背室136から連通路133を介して主軸室135へ流れなくなり、代わりに、油は背室136からオリフィス131を介して、さらに連通路126を経由して、主軸室135へ流れることになる。そのため、オリフィス131を油が通過する際の抵抗によって、レベリングバルブ21Aにおいて一定の作動時間遅れが発生するので、レベリングバルブ21Aの戻り遅れが生じる。
【0054】
すると、比較例においては、このようにレベリングバルブ21A自身が持つ戻り遅れにより、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替えた後(
図8に示す時間T0後)においても、レベリングバルブ21Aは排気モードを保持するため、車高が通常高さ位置(
図8に示すH0)から必要以上に下がる可能性がある(
図8の破線参照)。なお、
図8において、上昇位置をH1で示す。
【0055】
そこで、本実施形態では、鉄道車両が出口緩和曲線に進入して、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替える際に、車高について、前記の比較例のように上昇位置から通常高さ位置まで一気に下げるのではなく、ある一定高さまで下げて、その高さを一定期間保った後に、回路を切り替える。このようにして、本実施形態では、電磁弁21Bによる制御からレベリングバルブ21Aによる制御に切替える際に、電磁弁21Bによる制御を比較例よりも一定時間長くする(
図8参照)。なお、
図8において、比較例において電磁弁21Bによる制御を行う時間をα0として示し、本実施形態において電磁弁21Bによる制御を行う時間をα1として示している。
【0056】
すなわち、制御部40は、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに、電磁弁21Bにより、車高について、上昇位置H1から、一旦、所定高さ位置Haに調整した状態を所定時間保った後に、通常走行制御へ切り替える(
図8の実線参照)。ここで、所定高さ位置Haは、
図8に示すように、上昇位置H1よりも低く、かつ、通常高さ位置H0よりも高い位置である。また、所定時間は、レベリングバルブ21A自身が持つ戻り遅れによりレベリングバルブ21Aが排気モードに保持される時間に相当する時間である。すなわち、所定時間は、レベリングバルブ21Aが排気モードに保持される時間を考慮して規定される。
【0057】
そして、本実施形態では、このような制御を行うことにより、電磁弁21Bによる制御を一定時間長くした間に、レベリングバルブ21Aについて排気モードから遮断モード(圧縮空気の流れを遮断する側に設定されるモード)に移行させることができる。そのため、レベリングバルブ21Aの戻り遅れによる影響を小さくでき、回路を通常走行用回路50Aに切替えた後(
図8に示す時間T1後)において、車高が通常高さ位置から低下することを抑制できる(
図8の実線参照)。そして、このように車高の低下(沈み込み)を抑制できることから、車高の低下時に生じる排気量と、車高の低下後にレベリングバルブ21Aの機能により車高が通常高さ位置に戻ろうとする(上昇する)際に生じる給気量相当の空気消費量の削減が図れる。そのため、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときの空気の消費量を抑制できる。そして、これにより、タンク4の小型化やタンク4に接続するコンプレッサ(不図示)の小型化も可能となる。
【0058】
ところで、レベリングバルブ21Aと切替弁30間に設けられる空気流路51A(
図4等参照)内は、車体1の傾斜動作中においてレベリングバルブ21Aから排気されて圧力が低下する(例えば、大気圧になる)。そのため、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替えた後において、高圧の空気バネ3FLから空気流路53と切替弁30を介して低圧の空気流路51Aへ圧縮空気が流れることにより、車高が低下するおそれがある。
【0059】
そこで、車高を一定に保つ際の高さは、レベリングバルブ21Aと切替弁30間に設けられる空気流路51Aの容量を考慮した高さであることが望ましい。すなわち、前記の所定高さ位置Haは、通常走行用回路50Aにおける空気流路51Aの容量を考慮して規定されることが望ましい。これにより、回路を車体傾斜用回路50Bから通常走行用回路50Aに切替えた後の車高の低下、すなわち、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えた後の車高の低下を、より効果的に抑えることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の車体傾斜装置10FLは、台車2Fに載置され車体1を支持する空気バネ3FLと、空気バネ3FLに供給する圧縮空気を貯留するタンク4と、空気バネ3FLとタンク4との間に形成される通常走行用回路50Aおよび車体傾斜用回路50Bと、通常走行用回路50Aに設けられ車高を調整するレベリングバルブ21Aと、車体傾斜用回路50Bに設けられ車高を調整する電磁弁21Bと、空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を通常走行用回路50Aまたは車体傾斜用回路50Bに切り替える切替弁30と、を有する。さらに、車体傾斜装置10FLは、切替弁30により空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を通常走行用回路50Aとしてレベリングバルブ21Aにより車高を調整する通常走行制御と、切替弁30により空気バネ3FLとタンク4との間を繋げる回路を車体傾斜用回路50Bとして電磁弁21Bにより車高を通常高さ位置H0よりも高い上昇位置H1に調整する車体傾斜制御と、を切り替えて行う制御部40を有する。制御部40は、鉄道車両1両に1台設けられている。
【0061】
そして、このような車体傾斜装置10FLにおいて、制御部40は、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときに、電磁弁21Bにより、車高を上昇位置H1よりも低く通常高さ位置H0よりも高い所定高さ位置Haに調整した状態を所定時間保った後に、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替える。
【0062】
以上のように、電磁弁21Bによる制御からレベリングバルブ21Aによる制御に切替える際に、電磁弁21Bによる制御を一定時間長くする。そして、このように電磁弁21Bによる制御を一定時間長くした間に、レベリングバルブ21Aについて圧縮空気の排気を行う排気モードからの戻り動作を進めることができる。そのため、車体傾斜制御から通常走行制御への切替え時においてレベリングバルブ21A自身が持つ戻り遅れによる排気動作の影響を小さくできるので、車体傾斜制御から通常走行制御へ切替えた後における車高の低下を抑制できる。したがって、車高の低下時に生じる排気量と、車高の低下後にレベリングバルブ21Aにより車高を通常高さ位置H0まで戻す際に生じる給気量とに相当する空気の消費量を削減できる。ゆえに、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えるときの空気の消費量を抑制できる。
【0063】
また、レベリングバルブ21Aは、車高が上昇位置であるときに通常走行用回路50Aにおけるレベリングバルブ21Aと切替弁30との間の空気流路51Aにおける圧縮空気の排気を行う。そこで、所定高さ位置Haを通常走行用回路50Aにおけるレベリングバルブ21Aと切替弁30との間の空気流路51Aの容量を考慮して規定することにより、車体傾斜制御から通常走行制御へ切り替えた後の車高の低下を、より効果的に抑えることができる。
【0064】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。