【実施例】
【0052】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
(材料)
キサントアンゲロール(Xanthoangelol)(以下、「XA」と略記する。)と4−ヒドロキシデリシン(4-Hydroxyderricin)(以下、「4HD」と略記する。)は、株式会社日本生物.科学研究所製から入手した「あした葉ポリフェノールCHALSAP」からから80%Methanol(メタノール)を用いて抽出した後、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)を2回繰り返し、純度95%以上に精製したものを用いた。
【0054】
ここで、HPLCの条件は以下の通りである。
<HPLCによる精製条件>
カラム:Intersil OSD-4(10.0×250 mm)
移動相:80% Methanol
流速:4.0 ml/min
溶媒:Methanol
検出:280 nm
インジェクション量:0.75 ml
【0055】
ヒドロキシチロソール(Hydroxytyrosol)以下、「HT」と略記する。)は、Cayman社から入手した。
【0056】
血管内皮細胞(Vascular endothelial cells)は、土浦食肉協同組合から購入したブタ胸部大動脈から採取し、単離、培養した。具体的には、土浦食肉協同組合から購入したブタ胸部大動脈をPBS(−)で洗浄した後、抗生物質を含むPBS(−)に30分間以上浸して滅菌した。滅菌後の血管をハサミで切り開き、血管内膜表面の細胞をメスで採取し、DMEM培地に懸濁した。その後、1,500rpmで5分間遠心することで細胞を回収し、6cmディッシュに細胞を播種して、37℃、5%CO
2環境下で培養した。培養には、10%FBS(Fetal Bovine Serum)、1%P/S(ペニシリン−ストレプトマイシン溶液)、及び1.0g/L濃度のグルコースを含むDMEM培地を用いた。実験には、継代数7代から10代までの細胞を用いた。
【0057】
還元型グルタチオン(GSH:glutathione)は、和光純薬工業株式会社から入手した。
【0058】
グルタチオンリダクターゼ(GR:Glutathione reductase)は、Sigma-Aldrich社から入手した。
【0059】
tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BuOOH)は、Sigma-Aldrich社から入手した。
【0060】
ウエスタンブロット解析用の内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性型であるリン酸化eNOS(p−eNOS)に対する特異抗体は、Sigma-Aldrich社から入手した。
【0061】
ウエスタンブロット解析用のα−チューブリンに対する特異抗体は、Calbiochem社から入手した。
【0062】
<試験例1>
被験物質が血管内皮細胞の酸化ストレス抵抗性に与える影響を、トリパンブルー染色による細胞生存率の測定により評価した。具体的には、血管内皮細胞を24ウェルプレートに5×10
4cells/wellで播種し、7時間接着させた後、1%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM培地で17時間同調培養を行ない、その後、各被検物質を添加して24時間培養した。PBS(−)で2回洗浄して各被検物質を除去した後、1%FBS(Fetal Bovine Serum)及びH
20
2を最終濃度が800μMで含むDMEM培地を添加し、24時間培養後、トリプシンEDTA溶液を用いて細胞をディッシュから剥がして回収し、0.5%トリパンブルー染色液と混合して、自動セルカウンター「Countess(登録商標)11FL Automated Cell Counter (Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞生存率を測定した。
【0063】
血管内皮細胞に添加する被検物質としては、HTについては最終濃度が2μMとなるよう、XA及び4HDについては最終濃度が0.3μMとなるよう、それぞれ培地に添加した。また、対照として、H
20
2を添加しない参照コントロールや、H
20
2を添加するが被験物質を添加しない比較コントロールを実施した。試験は、各々の被験物質やコントロールについて4例ずつ行い、参照コントロールの細胞生存率を100%としたときの相対生存率を求めた。結果は、平均値±SE(標準誤差:Standard Error)で示した。各集団の比較は、Tukey-Kramer検定又はt検定を行い、p<0.05のときに有意であると判断した。その結果を
図1に示す。
【0064】
図1(a)に示されるように、最終濃度800μMのH
20
2で処理した比較コントロールの血管内皮細胞の細胞生存率はおよそ57%と低下し、H
20
2で処理しない参照コントロールの血管内皮細胞に比べ、酸化ストレスによる細胞障害が認められた。一方、血管内皮細胞を、予め最終濃度2μMのHT、又は最終濃度0.3μMのXAで単独処理してからH
20
2で処理したときの細胞生存率は、それぞれおよそ63%、59%であり、比較コントロールの結果とあまり差異がなかった(
図1(a)中、「b」は比較コントロールとの有意差が認められないことを示す。)。これに対し、血管内皮細胞を、予め最終濃度2μMのHT及び最終濃度0.3μMのXAで併用処理してからH
20
2で処理したときの細胞生存率はおよそ90%であり、比較コントロールからの顕著な回復がみられた(
図1(a)中、「a」は比較コントロールとの有意差がp<0.05で認められたことを示す。)。
【0065】
図1(b)には、HT又はXAのそれぞれの単独処理による細胞生存率の増加分の和と、HT及びXAの併用処理による細胞生存率の増加分とを比較した結果を示す。この
図1(b)からも、HTとXAとが相乗的に作用して、血管内皮細胞の酸化ストレス抵抗性を顕著に高めたことが分かる。
【0066】
また、
図1(c)に示されるように、血管内皮細胞を、最終濃度800μMのH
20
2で処理した比較コントロールの血管内皮細胞の細胞生存率はおよそ49%と低下し、予め最終濃度2μMのHTで単独処理してからH
20
2で処理したときの細胞生存率はおよそ60%であったのに対して(
図1(a)に示した通り)、予め最終濃度0.3μMの4HDで単独処理してからH
20
2で処理したときの細胞生存率はおよそ65%であった。したがって、同様に比較コントロールの結果とあまり差異がなかった(
図1(c)中、「b」は比較コントロールとの有意差が認められないことを示す。)。これに対し、血管内皮細胞を、予め最終濃度2μMのHT及び最終濃度0.3μMの4HDで併用処理してからH
20
2で処理したときの細胞生存率はおよそ88%であり、比較コントロールからの顕著な回復がみられた(
図1(c)中、「a」は比較コントロールとの有意差がp<0.05で認められたことを示す。)。
【0067】
図1(d)には、HT又は4HDのそれぞれの単独処理による細胞生存率の増加分の和と、HT及び4HDの併用処理による細胞生存率の増加分とを比較した結果を示す。この
図1(d)からも、HTと4HDとが相乗的に作用して、血管内皮細胞の酸化ストレス抵抗性を顕著に高めたことが分かる。
【0068】
<試験例2>
被験物質が血管内皮細胞の創傷治癒促進作用に与える影響を、顕微鏡下の観察により評価した。具体的には、血管内皮細胞を3.5cmディッシュに3×10
5cells/dishで播種し、7時間接着させた後、1%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM培地で17時間同調培養を行い、各被検物質を添加した。各被検物質の添加後、200μLチップの先端を用いてディッシュ面にほぼコンフルエントに接着した細胞に擬似的な傷を作り、顕微鏡下で観察、撮影した。24時間後に再び撮影を行い、最初に作成した傷の範囲内に存在する細胞数をカウントすることで傷の修復の程度を評価した。
【0069】
血管内皮細胞に添加する被検物質としては、HTについては最終濃度が20μMとなるよう、XA及び4HDについては最終濃度が0.3μMとなるよう、それぞれ培地に添加した。また、対照として、被験物質を添加しない比較コントロールを設けた。試験は、各々の被験物質やコントロールについて3例ずつ行った。各試験は、被験物質やコントロールの各々について撮影を1ディッシュにつき3視野分行い、その視野ごと、比較コントロールの場合に観察された傷の範囲内に存在する細胞数を100%としたときの相対的な創傷治癒率を求めた。結果は、平均値±SE(標準誤差:Standard Error)で示した。各集団の比較は、Dunnett検定を行い、p<0.05のときに有意であると判断した。その結果を
図2に示す。
【0070】
図2(a)に示されるように、血管内皮細胞を、最終濃度20μMのHT又は最終濃度0.3μMのXAで単独処理したときの創傷治癒率は、それぞれおよそ110%、118%であり、比較コントロールの結果とあまり差異がなかった(
図2(a)中、「a」は比較コントロールとの有意差が認められないことを示す。)。これに対し、血管内皮細胞を、最終濃度2μMのHT及び最終濃度0.3μMのXAで併用処理したときの創傷治癒率はおよそ167%であり、比較コントロールに比べて創傷治癒が顕著であった(
図2(a)中、「b」は比較コントロールとの有意差がp<0.05で認められたことを示す。)。
【0071】
図2(b)には、HT又はXAのそれぞれの単独処理による創傷治癒率の増加分の和と、HT及びXAの併用処理による創傷治癒率の増加分とを比較した結果を示す。この
図2(b)からも、HTとXAとが相乗的に作用して、血管内皮細胞の創傷治癒促進作用を顕著に高めたことが分かる。
【0072】
また、
図2(c)に示されるように、血管内皮細胞を、最終濃度20μMのHTで単独処理したときの創傷治癒率はおよそ103%であったのに対して(
図2(a)に示した通り)、予め最終濃度0.3μMの4HDで単独処理したときの創傷治癒率はおよそ145%であり、比較コントロールに比べて創傷治癒促進作用が高められた(
図2(c)中、「a」で示すように比較コントロールとの有意差は認められなかった。)。一方、血管内皮細胞を、最終濃度20μMのHT及び最終濃度0.3μMの4HDで併用処理したときの創傷治癒率はおよそ242%であり、比較コントロールに比べて創傷治癒促進作用が更により一層顕著であった(
図2(c)中、「b」は比較コントロールとの有意差がp<0.05で認められたことを示す。)。
【0073】
図2(d)には、HT又は4HDのそれぞれの単独処理による創傷治癒率の増加分の和と、HT及び4HDの併用処理による創傷治癒率の増加分とを比較した結果を示す。この
図2(d)からも、HTと4HDとが相乗的に作用して、血管内皮細胞の創傷治癒促進作用を顕著に高めたことが分かる。
【0074】
<試験例3>
被験物質が血管内皮細胞のグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)(以下、「GPx」と略記する。)の活性に与える影響を、血管内皮細胞の総タンパク抽出液を用いた試験管内酵素活性測定により評価した。具体的には、血管内皮細胞を3.5cmディッシュに3×10
5cells/dishで播種し、7時間接着させた後、1%FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM培地で17時間同調培養を行い、その後、各被検物質を添加して24時間培養した。PBS(−)で2回洗浄して各被検物質を除去した後、直ちに−80℃で凍結・保存した。その後、各ディッシュに溶出バッファー(50mM HEPES、pH7.5、50mM NaC1、1mM EDTA、50% Glycero1、100mM NaF、10mM Sodium pyrophosphate、1% TritonX-100、1mM NaVO
4、1mM PMSF、10pg/mL Antipain、10μg/mL Leupeptin、10pg/mL Aprotinin)を150μL/dishで加え、5分間静置した後、スクレーパーで細胞を剥離、回収した。氷上で15分間静置した後、4℃、14,000rpmで15分間遠心分離を行い、回収した上清を最終的なサンプルとした。
【0075】
血管内皮細胞に添加する被検物質としては、HTについては最終濃度が2μMとなるよう、XAについては最終濃度が0.3μMとなるよう、それぞれ培地に添加した。また、対照として、被験物質を添加しない比較コントロールを実施した。試験は、各々の被験物質やコントロールについて4例ずつ行い、比較コントロールのGPx活性を1倍としたときの相対的な活性増加倍率を求めた。結果は、平均値±SE(標準誤差:Standard Error)で示した。各集団の比較は、Games Howell又はt検定を行い、p<0.05のときに有意であると判断した。
【0076】
GPx活性の測定は、次のようにして行った。すなわち、測定を行うエッペンに1×TE(トリスバッファー、pH8.0)を50μL、2回蒸留水を290μL加え、更に0.1M還元型グルタチオン(GSH:glutathione)を10μL、10U/mLグルタチオンリダクターゼ(GR:Glutathione reductase)を50μL、2mMNADPHを50μL、それぞれ加えて37℃に2分間置き、次いで7mM tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BuOOH)を5μL、サンプルを50μL加えて340nmの吸光度で測定を行った。測定は30秒ごとに300秒間の設定で行い、吸光度の経時的変化を追った。また、測定ブランクには1×TE(トリスバッファー、pH8.0)、0.1M還元型グルタチオン(GSH:glutathione)、10U/mLグルタチオンリダクターゼ(GR:Glutathione reductase)、2回蒸留水をそれぞれ50μL、10μL、50μL、390μL合わせたものを用いた。測定後、各サンプルにおける吸光値の変化量をタンパク量で割った値を酵素活性とした。その結果を
図3に示す。
【0077】
図3(a)に示されるように、血管内皮細胞を、最終濃度2μMのHT、又は最終濃度0.3μMのXAで単独処理したときのGPx活性増加倍率は、それぞれおよそ1.03倍、およそ1.10倍であり、比較コントロールの結果とあまり差異がなかった(
図3(a)中、「a」は比較コントロールとの有意差が認められないことを示す。)。これに対し、血管内皮細胞を、最終濃度2μMのHT及び最終濃度0.3μMのXAで併用処理したときのGPx活性増加倍率はおよそ2.32倍であり、比較コントロールに比べてGPx活性の顕著な増加が認められた(
図3(a)中、「b」は比較コントロールとの有意差がp<0.05で認められたことを示す。)。
【0078】
図3(b)には、HT又はXAのそれぞれの単独処理によるGPx活性増加倍率の増加分の和と、HT及びXAの併用処理によるGPx活性増加倍率の増加分とを比較した結果を示す。この
図3(b)からも、HTとXAとが相乗的に作用して、血管内皮細胞のGPx活性を顕著に高めたことが分かる。
【0079】
<試験例4>
被験物質が血管内皮細胞の内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthase)(以下、「eNOS」と略記する。)の活性化に与える影響を、血管内皮細胞の総タンパク抽出液を用いたウエスタンブロット解析により評価した。具体的には、血管内皮細胞に添加するHTの最終濃度を20μMとし、被験物質を加えてからの培養時間を12時間とした以外は試験例3と同様にして、総タンパク抽出液を調製し、常法に従い、これをSDSゲル電気泳動に供し、eNOSの活性型であるリン酸化eNOS(以下、「p−eNOS」と略記する。)に対する特異抗体を用いたウエスタンブロット解析を行って、その発現量を測定した。なお、α−チューブリン(α−Tubulin)をウエスタンブロット解析における供試タンパク量の内部標準とし、得られたバンドの強度をイメージ解析ソフト(Image Studio Software)により測定して、相対的な発現量を求めた。試験は、各々の被験物質やコントロールについて3例ずつ行い、比較コントロールのp−eNOS量を1倍としたときの相対的な発現量増加倍率を求めた。結果は、平均値±SE(標準誤差:Standard Error)で示した。各集団の比較は、Dunnett検定を行い、p<0.05のときに有意であると判断した。その結果を
図4に示す。
【0080】
図4(a)、(b)に示されるように、血管内皮細胞を、最終濃度20μMのHT、又は最終濃度0.3μMのXAで単独処理したときのp−eNOS産生量増加倍率は、それぞれおよそ1.22倍、1.60倍であり、比較コントロールから若干の増加しか認められなかった。これに対し、血管内皮細胞を、最終濃度20μMのHT及び最終濃度0.3μMのXAで併用処理したときのp−eNOS産生量増加倍率はおよそ2.27倍であり、比較コントロールに比べてp−eNOS産生量の顕著な増加が認められた。