【実施例】
【0052】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0053】
[合成例1:顔料分散樹脂含有のアルカリ性水溶液BP−1の調製]
<A−BブロックコポリマーBP−1の合成>
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、DEGBE)を82.5部、ヨウ素を1.0部、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、以下、V−70)を3.7部、シクロヘキシルメタクリレート(以下、CHMA)を3.4部、ベンジルメタクリレート(以下、BzMA)を26.8部、メタクリル酸メチル(以下、MMA)を3.0部、及びジフェニルメタン(以下、DPM)を0.17部仕込んだ。そして、窒素バブリングしながら、45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。
【0054】
サンプリングし、固形分を測定したところ、不揮発分から換算した重合転化率は83.5%であった。なお、この固形分は、一部をアルミ皿に所定量取り、真空乾燥機、150℃、3時間乾燥した後の重量から算出したものである。以下、固形分はこの方法で測定した。また、この時の、THFを展開溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPC)の示差屈折検出器(以下、RI)での数平均分子量(以下、Mn)は3800であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量、以下、PDI)は1.21であった。以下、分子量はこの方法で測定した。
【0055】
ついで、40℃に冷却し、BzMAを34.0部、メタクリル酸(以下、MAA)を9.2部、及びV−70を1.3部加え、3.5時間重合させた。その後、70℃に加熱し1時間撹拌を続け、顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1を得た。固形分を測定し、不揮発分から換算した重合転化率は100%であった。また、GPCのRIでのMnは8000であり、PDIは1.35であった。ここで得られたブロックコポリマーBP−1の酸価は78.6mgKOH/gであった。
【0056】
<アルカリ性水溶液BP−1の調製>
別の容器に準備した、水酸化リチウム一水和物(以下、LiOH・H
2O)を4.9部、及び水を36.3部加えよく撹拌し、計41.2部にしたものを、上記で得た顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1に加え、ブロックコポリマーBP−1を含むアルカリ性水溶液を得た。この水溶液に水を加えて固形分濃度30%に調整した。これをアルカリ性水溶液BP−1と呼ぶ。
【0057】
[合成例2:顔料分散樹脂含有のアルカリ性水溶液RP−1の調製]
<ランダムコポリマーRP−1の合成>
撹拌機、逆流コンデンサー及び温度計を取り付けた反応容器に、DEGBEを52.2部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGME)52.2部を仕込んで、75℃に加熱した。また、別容器にスチレン(以下、St)を20部、MAAを10部、MMAを30部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(以下、2EHMA)を40部、及び2,2’−アゾビス(イソブチルニトリル)(以下、AIBN)を4部仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器に3分の1添加後、残り3分の2を1.5時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了から3.5時間重合後、AIBNを0.5部添加し、85℃に加熱し、さらに2時間重合し、顔料分散樹脂であるランダムコポリマーRP−1を得た。固形分を測定し、不揮発分から換算した重合転化率はほぼ100%であった。GPCのRIでのMnは16400であり、PDIは1.96であった。ここで得られたランダムコポリマーRP−1の酸価は65.2mgKOH/gであった。
【0058】
<アルカリ性水溶液RP−1の調製>
ついで、別容器に、水酸化ナトリウム(以下、NaOH)を4.7部と水を47.5部仕込んでよく撹拌し、中和液を調製した。この中和液を上記で得たランダムコポリマーRP−1に添加して中和を行い、ランダムコポリマーRP−1を含むアルカリ性水溶液を得た。この水溶液に水を加えて固形分濃度30%に調整した。これをアルカリ性水溶液RP−1と呼ぶ。
【0059】
[顔料合成例1]
<粗製有機顔料−1(C.I.PigmentRed122)の合成>
温度計を取り付けた反応容器にて、2,5−ジ(p−トルイジノ)テレフタル酸を600部と、ポリリン酸とを110〜130℃の温度で4時間撹拌することにより、ポリリン酸を用いて2,5−ジ(p−トルイジノ)テレフタル酸を縮合閉環させた。反応系内の温度を90℃に下げ、その反応物を水に徐々に流下させた。反応物の水溶液を撹拌させ、2,9−ジメチルキナクリドンの粗顔料を析出させた。温度計を取り付けた反応容器内で、得られた2,9−ジメチルキナクリドンの粗顔料をジメチルホルムアミドに流下させ、110〜140℃の温度で6時間撹拌させた。混合物を水に徐々に流下させ、得られたスラリーを濾過し、残渣を水洗及び乾燥して、粗製有機顔料−1として、2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.PigmentRed122)を得た。
【0060】
[顔料合成例2]
<粗製有機顔料−2(C.I.PigmentOrange43)の合成>
温度計を取り付けた反応容器に、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸600部、o−フェニレンジアミン537部を、氷酢酸4050部と共に仕込み、120℃に加熱し、縮合させた。得られた反応混合物を、水酸化カリウムを溶解させたアルコール中に排出し、75℃で加熱後、20℃に冷却した。沈殿するカリウム付加体を濾過して析出物を得た。得られた析出物を、水酸化カリウムを溶解させたアルコール中に排出し、75℃にて加熱後、20℃に冷却し、濾過して得られた析出物をアルコール、水、及び水酸化カリウムの混合物で洗浄、60℃の水中で加水分解し、水洗及び乾燥して、粗製有機顔料−2として、trans−ナフトレンビスベンゾイミダゾール(C.I.PigmentOrange43)を得た。
【0061】
[実施例1]
<(1)混練工程:混練物−1の調製>
有機顔料として、顔料合成例1で製造した粗製有機顔料−1を400部、磨砕助剤として塩化ナトリウムを2400部、及び、水溶性有機溶剤としてジエチレングリコール560部をニーダーで混錬し、内容物を均一に湿潤した塊とした。冷却装置及び熱媒装置を調整し、内容物の温度が60〜90℃になるように管理しながら12時間混練磨砕処理(ソルベントソルトミリング処理)して、微細化した有機顔料−1を含む混練物−1を得た。
【0062】
下記の方法で、上記で得た混練物−1中の有機顔料の性状を確認した。すなわち、混練物−1の一部を少量採取し、従来の製造方法で行っているのと同様の方法で、採取した混練物−1を濾過及び水洗して塩化ナトリウムとジエチレングリコールを除去した後、100℃で24時間乾燥し、その後に粉砕して測定用試料を得た。得られた測定用試料について、透過型電子顕微鏡を使用して6万倍の撮影条件で撮影し、観察した。その結果、顔料粒子の形状は、比較的球状であり、短軸に対する長軸の比(長軸/短軸)の平均値は1.2であった。さらに、平均一次粒子径は約70nmであった。
【0063】
<(2)混合工程:混合液−1の調製>
先述した合成例1で得たA−BブロックコポリマーBP−1を含有してなるアルカリ性水溶液BP−1を125部、純水13615部を計量し、ディスパー羽根にてよく撹拌して溶液BP−1を均一に混合した。引き続き撹拌しながら、(1)の混練工程で得た混練物−1を少量ずつ投入して、投入した混練物−1の総量が1260部となった時点で投入を完了し、その後、2時間撹拌して混練物を解膠して混合液−1とした。得られた混合液−1を濾紙に少量滴下したところ、濾紙を通過せず濾紙表面に残る固形物も見られたが、一部の溶液は濾紙を通過した。また、このときの溶液のpHは7.8であった。
【0064】
<(3)酸析工程:樹脂処理顔料−1の調製>
(2)の混合工程で得た混合液−1を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加して、溶液のpHを5.5まで低下させ、その後に70℃まで加熱し、酸析を行った。この際の溶液を濾紙に少量滴下したところ、顔料が浸透しないことから、顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1が有機顔料を包含して析出していることが確認された。
【0065】
<(4)洗浄工程>
(3)の酸析工程で得た析出物を含む溶液と、洗浄水とを、下記に述べるようにして順にヌッチェに投入して、濾過と水洗浄を行い、乾燥、粉砕して、A−BブロックコポリマーBP−1で処理された、粗製有機顔料−1を出発原料としてなる、本実施例の微細な有機顔料(微細樹脂処理有機顔料)を得た。これを樹脂処理顔料−1と呼ぶ。
【0066】
上記で、濾過と水洗浄を行うのに必要とした洗浄水は、60000部であり、かかった時間は6時間であった。濾過は、濾紙(商品名:ADVANTEC4A、東京濾紙会社製)を敷いたヌッチェを、ハンディアスピレーター(商品名:WP−15、ヤマト科学社製)に繋ぎ、ゲージ圧−80〜−60KPに減圧して行った。洗浄水の投入は、濾過して、酸析工程で得た析出物を含む溶液の50%が濾液として得られた時点で開始し、濾液の電気伝導度が6μS/cm以上10μS/cm以下となった時点で投入を終了した。上記した濾過時間は、ヌッチェに酸析工程後の溶液を投入してから、濾液を74375部得られるまでの時間とした。この濾液の量は、濾別された樹脂処理顔料−1のペーストの固形分が30%となるまでの量である。このことは、濾別した樹脂処理顔料−1のペーストの一部を採取し、乾燥機で重量の変化がなくなるまで乾燥させ、乾燥物の重量と乾燥前のペーストの重量を測定して、樹脂処理顔料−1のペーストの固形分が30%となったことで確認した。以下の実施例及び比較例についても同様に、濾過の際に濾別される顔料ペーストの固形分が30%となる量の濾液が得られるまでの時間を濾過時間とした。
【0067】
<使用例:顔料分散液−1の調製>
純水232部、10%濃度NaOH水溶液13部、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、TPGME)30部を計量して、これらをよく撹拌して、水−親水性有機溶媒のアルカリ性の混合溶媒を調製した。そして、調製した混合溶媒に、上記で得られた樹脂処理顔料−1を125部、少量ずつ全量加えよく撹拌し、均一化してミルベースを調製した。このミルベースを、直径0.5mmのジルコニア製ビーズを用いて横型媒体分散機ダイノミル(容量0.6リットル、シンマルエンタープライゼス社製)を使用し、周速10m/sで40分間分散処理を行った。そして、分散終了後に取り出し、水で顔料濃度を16%に調整した後に、遠心分離処理(12000回転、20分間)を行った。その後、この樹脂処理顔料−1を含有した顔料溶液を10μmのメンブレンフィルターで濾過し、粗粒を除き、得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して顔料分散液−1を得た。
【0068】
得られた顔料分散液−1について、粒度測定器NICOMP380(商品名、ピーエスエスジャパン社製)を用いて平均粒子径を測定したところ、106nmであった。また、粘度は、2.84mPa・sであり、液色度は、L
*が63.1、a
*が62.9、b
*が−26.6であった。測定方法については後述する。
【0069】
[実施例2]
<(2)混合工程:混合液−2の調製>
実施例1と同様に、顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1を含有したアルカリ性水溶液BP−1を125部と、純水13615部を均一に混合した。そして、実施例1の(2)の混合工程で行ったと同様に、引き続き撹拌しながら、その中に、実施例1の(1)混練工程で得た混練物−1を、総量が1260部となるまで少量ずつ投入し、解膠し、混合液−2を得た。なお、混合液−2は、混合液−1と同様のものである。
【0070】
<(3)酸析工程:樹脂処理顔料−2の調製>
(2)の混合工程で得た混合液−2を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させ、その後に50℃まで加熱し、酸析を行った。この際の溶液を濾紙に少量滴下したところ、顔料が浸透しないことから、顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1が、有機顔料を包含して析出していることを確認した。
【0071】
<(4)洗浄工程>
(3)の酸析工程で得た析出物を含む溶液と、洗浄水を、実施例1の(4)洗浄工程で行ったのと同様の手順でヌッチェに投入して、濾過と水洗浄を行い、乾燥、粉砕して、顔料分散樹脂であるA−BブロックコポリマーBP−1で処理された、粗製有機顔料−2を出発原料としてなる、微細な有機顔料(微細樹脂処理有機顔料)を得た。これを樹脂処理顔料−2と呼ぶ。実施例1の(4)洗浄工程の場合と同様、濾過するのに必要とした洗浄水は60000部、かかった時間は6.5時間であった。
【0072】
<使用例:顔料分散液−2の調製>
上記で得られた樹脂処理顔料−2を用いた以外は、実施例1の使用例と同様の手順で、ミルベースを調製し、ミルベースを、分散処理、遠心分離処理、濾過を行った後、得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して、樹脂処理顔料−2を含有した顔料分散液−2を得た。得られた顔料分散液−2について、実施例1の使用例で得た顔料分散液−1と同様に、平均粒子径、粘度、液色度を測定したところ、平均粒子径は107nmであり、粘度は、2.82mPa・sであり、液色度は、L
*が62.8、a
*が62.6、b
*が−26.6であった。
【0073】
[比較例1]
容器に、水13740部を計量し、ディスパー羽根にてよく撹拌しながら、その中に、実施例1の(1)混練工程で得た混練物−1を1260部、少量ずつ投入し、投入完了後2時間撹拌して混練物を解膠した。この溶液を、ヌッチェで、減圧濾過、水洗浄して、従来技術で行われているようにして、ソルベントソルトミリング処理後に、得られた混練物−1を濾過、洗浄して、微細化処理した顔料ペーストを得た。このペースト状のものを比較微細化顔料−1と呼ぶ。比較微細化顔料−1を得るまでに必要とした洗浄水の量は45000部、濾過にかかった時間は13時間であった。上記で得た微細化処理した顔料ペーストの一部を採取し、乾燥機で重量の変化がなくなるまで乾燥させ、比較微細化顔料−1の固形分が30%であることを確認した。
【0074】
ついで、前記した合成例1で得た顔料分散樹脂含有のアルカリ性水溶液BP−1を125部と、上記で得られた比較微細化顔料−1(固形分30%ペースト)を500部とを計量した後、よく撹拌して混合した溶液に、さらに水14375部を加え、よく撹拌して均一化して、比較混合液−1を調製した。
【0075】
上記で調製した比較混合液−1を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させた後、70℃まで加熱し、酸析を行った。この際の溶液を濾紙に少量滴下したところ、顔料が浸透しないことから、顔料分散樹脂が有機顔料を包含して析出していることが確認された。ついで、この溶液を、ヌッチェで、減圧濾過した後、水洗浄、乾燥、粉砕して、顔料分散樹脂で処理された微細な有機顔料を得た。これを比較樹脂処理顔料−1と呼ぶ。上記の最終段階での、減圧濾過、水洗浄に使用した洗浄水は45000部、濾過にかかった時間は、4時間であった。この結果、出発原料である粗製有機顔料−1の状態から、比較樹脂処理顔料−1を得るまでの全工程において、使用した濾過に要した合計時間は17時間で、水洗浄に用いた水の量は、90000部であった。
【0076】
ついで、上記で得られた比較樹脂処理顔料−1を用いた以外は、実施例1の使用例と同様にして均一化し、ミルベースを調製した。そして、実施例1の使用例と同様にして、分散処理、遠心分離処理、濾過を行った。そして、得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して比較顔料分散液−1を得た。得られた比較顔料分散液−1の平均粒子径は111nmであった。また、比較顔料分散液−1の粘度及び液色度を、実施例1で得た顔料分散液−1と同様にして測定し、結果を表1に記載した。
【0077】
[比較例2]
粗製有機顔料−1を用い、比較例1で行ったと同様の、ソルベントソルトミリング処理後に、濾過、洗浄を行う手順により、微細化顔料ペーストを得た。比較例2では、比較例1の場合と異なり、上記で得られた微細化顔料ペーストを、従来技術で行われているのと同様の方法で、さらに、乾燥、粉砕して比較微細化顔料−2とした。比較微細化顔料−2を得るまでに必要とした洗浄水の量は45000部、濾過にかかった時間は13時間であった。
【0078】
ついで、顔料分散樹脂含有のアルカリ性水溶液BP−1を125部と水350部を計量してよく撹拌混合した溶液に、上記で得た比較微細化顔料−2を150部と、さらに、水14375部を加え、よく撹拌して均一化して、比較混合液−2を調製した。
【0079】
調製した比較混合液−2を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させた後、70℃まで加熱し、酸析を行った。この際の溶液を濾紙に少量滴下したところ、顔料が浸透しないことから、顔料分散樹脂が有機顔料を包含して析出していることが確認された。ついで、この溶液を、ヌッチェで減圧濾過した後、水洗浄、乾燥、粉砕して、A−BブロックコポリマーBP−1で処理された微細な有機顔料を得た。これを比較樹脂処理顔料−2と呼ぶ。上記の最終段階での、減圧濾過、水洗浄に使用した洗浄水は45000部、濾過にかかった時間は、4.5時間であった。この結果、出発原料である粗製有機顔料−1の状態から、比較樹脂処理顔料−2を得るまでの全工程において、濾過に要した合計時間は17.5時間で、水洗浄に用いた水の量は、90000部であった。なお、比較例2では、上記濾過時間に加えて、さらに、乾燥時間が17時間かかっている。
【0080】
上記で得られた比較樹脂処理顔料−2を用いた以外は、実施例1の使用例と同様にして均一化し、ミルベースを調製した。そして、実施例1の使用例と同様にして、分散処理、遠心分離処理、濾過を行った。得られた溶液に純水を加え、顔料濃度を14%に調整して比較顔料分散液−2を得た。粗製有機顔料−1を出発原料とし、A−BブロックコポリマーBP−1を含有してなるアルカリ性水溶液BP−1を用い、上記のようにして得た比較顔料分散液−2の平均粒子径は、130nmであった。また、比較顔料分散液−2の粘度及び液色度を実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示した。
【0081】
[顔料分散液の評価]
(平均粒子径、粘度、液色度の評価)
実施例及び比較例で得られたそれぞれの顔料分散液について、平均粒子径を粒度測定器NICOMP380(動的光散乱法)で、粘度を粘度計RE−80L(東機産業社製)で、液色度をU−3310型分光光度計(日立製作所社製)でそれぞれ測定し、結果を表1に示した。
(平均粒子径、粘度の保存性の評価)
実施例及び比較例で得られた顔料分散液をそれぞれ、70℃で7日間保存し、保存前と比較して保存後に生じた粒子径及び粘度の変化についてそれぞれ上記と同様の方法で測定し、以下の規準で保存性を評価した。結果を表1に示した。
【0082】
<評価基準>
以下、同様の試験においては、同様の評価基準とする。
○:70℃で1週間静置後の変化率が±3%未満
△:70℃で1週間静置後の変化率が±3%以上±5%未満
×:70℃で1週間静置後の変化率が±5%以上
【0083】
【0084】
表1に示したように、実施例1の使用例で顔料分散液を得るまでに要した洗浄水の量及び濾過時間は、比較例1、比較例2の使用例で得た顔料分散液を得るまでの場合と比べて、洗浄水の量が約67%に低減され、濾過時間が約34%〜35%と大きく低減され、本発明の製造方法がコスト面で極めて有利なことがわかる。
【0085】
また、実施例1及び比較例1、2で原料に同じ粗製有機顔料を用い、同じ条件で、樹脂処理顔料を分散させているのに対し、粒子径が比較例1、比較例2の顔料分散液と比べて小さいことから、実施例1の樹脂処理顔料の方が、分散性が良好であるという結果が得られた。分散性が良好であることから、液色度a
*b
*の値についてもより高くなっており、目視でも良好な発色が得られている。その理由としては、実施例1の製造方法では、粗製有機顔料に対してソルベントソルトミリング処理した後に比較例で行っている微細化顔料を得るための濾過工程がないので、微細化顔料の凝集が少なく、このため、最終的に得た顔料分散液の分散性が良好だったと考えられる。また、表1に示したように、比較例2の顔料分散液では、比較例1の顔料分散液と比べて保存性に劣ることがわかった。これは、比較例2の顔料分散液では、微細化顔料の乾燥工程により顔料が凝集したためと考えられる。また、比較例1のように微細化顔料ペーストを用いれば保存性の低下は防げるが、顔料ペーストは水分を多く含むため、この場合は、腐敗、水分の蒸発による品質の変化が起こることがあり、保存に適さないという別の問題がある。これらのことから、ソルベントソルトミリング処理後の混練物に対して、従来技術では必須とされている水洗工程(濾過工程)を経ることなく、発色性、保存安定性に優れる顔料を得ることができた実施例1の製造方法の有効性を確認した。
【0086】
[実施例3]
<(1)混練工程:混練物−2の調製>
有機顔料として、顔料合成例2で製造した粗製有機顔料−2を用いた以外は、実施例1における(1)の混練工程で行ったと同様に処理し、混練磨砕処理して微細化した有機顔料−2を含む混練物−2を得た。実施例1で使用した混練物−1の場合と同様にして、混練物−2中の顔料粒子を観察したところ、混練物−1中の顔料粒子とほぼ同様の性状を有することを確認した。
【0087】
<(2)混合工程:混合液−3の調製>
合成例2で製造した顔料分散樹脂であるランダムコポリマーRP−1を含有してなるアルカリ性水溶液RP−1を100部、純水10892部を計量し、ディスパー羽根にてよく撹拌して溶液RP−1を均一に混合した。そして、引き続き撹拌しながら、その中に、(1)の混練工程で、粗製有機顔料−2を用いて製造した混練物−2を少量ずつ投入し、総量が1008部となったところで投入を完了し、その後2時間撹拌して混練物を解膠し、混合液−3とした。この際の混合液のpHは8.8であった。
【0088】
<(3)酸析工程:樹脂処理顔料−3の調製>
(2)の混合工程で得た混合液−3を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させた後に、70℃まで加熱し、酸析を行った。
【0089】
<(4)洗浄工程>
(3)の酸析工程で得た析出物を含む溶液と、洗浄水を、実施例1の(4)洗浄工程で行ったのと同様の手順でヌッチェに投入して、減圧濾過し、水洗浄、乾燥、粉砕して、顔料分散樹脂であるランダムコポリマーRP−1で処理された微細な有機顔料(微細樹脂処理有機顔料)を得た。これを樹脂処理顔料−3と呼ぶ。上記で濾過するのに必要とした洗浄水は48000部であり、かかった時間は4時間であった。
【0090】
<使用例:顔料分散液−3の調製>
純水235部、10%濃度NaOH水溶液10部、TPGME30部を計量して、これらをよく撹拌して、水−親水性有機溶媒のアルカリ性の混合溶媒を調製した。そして、調製した混合溶媒に、上記で得られた樹脂処理顔料−3を125部、少量ずつ全量加えよく撹拌し、均一化してミルベースを調製した。このミルベースを、直径0.5mmのジルコニア製ビーズを用いて横型媒体分散機ダイノミルを使用し、周速10m/sで40分間分散処理を行った。そして、分散終了後に取り出し、水で顔料濃度16%に調整した後に、遠心分離処理(12000回転、20分間)を行った。その後、その顔料溶液を10μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して顔料分散液−3を得た。得られた顔料分散液−3について、粒度測定器NICOMP380で平均粒子径を測定したところ、128nmであった。また、顔料分散液−3の粘度及び液色度を、実施例1で得た顔料分散液−1と同様にして測定し、結果を表2に記載した。
【0091】
[比較例3]
容器に、水10992部を計量し、ディスパー羽根にてよく撹拌しながら、その中に、実施例3の(1)混練工程で得た出発原料に粗製有機顔料−2を用いた混練物−2を1008部、少量ずつ投入し、投入完了後2時間撹拌して混練物を解膠した。この溶液を、ヌッチェで、減圧濾過、水洗浄して、従来技術で行われているようにして、ソルベントソルトミリング処理後に、得られた混練物−2を濾過、洗浄して、微細化処理した顔料ペーストを得た。このペースト状のものを比較微細化顔料−3と呼ぶ。比較微細化顔料−3を得るまでに必要とした洗浄水の量は36000部、濾過にかかった時間は12時間であった。上記で得た微細化処理した顔料ペーストの一部を採取し、比較例1と同様にして比較微細化顔料−3の固形分を確認したところ、30%であった。
【0092】
ついで、合成例2で製造した顔料分散樹脂であるランダムコポリマーRP−1を含有してなるアルカリ性水溶液RP−1を100部と、上記で得られた比較微細化顔料−3(固形分:30%ペースト)を400部とを計量した後、よく撹拌して混合した溶液に、さらに、水11500部を加え、よく撹拌して均一化して比較混合液−3を調製した。
【0093】
調製した比較混合液−3を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させた後、70℃まで加熱し、酸析を行った。この際の溶液を濾紙に少量滴下したところ、顔料が浸透しないことから、顔料分散樹脂が有機顔料を包含して析出していることを確認した。ついで、この溶液を、ヌッチェで、減圧濾過した後、水洗浄、乾燥、粉砕して、顔料分散樹脂で処理された微細な有機顔料を得た。これを比較樹脂処理顔料−3と呼ぶ。上記の最終段階での、減圧濾過、水洗浄に使用した洗浄水は36000部、濾過にかかった時間は、5時間であった。この結果、出発原料である粗製有機顔料−2の状態から、比較樹脂処理顔料−3を得るまでの全工程において、使用した濾過に要した合計時間は17時間で、水洗浄に用いた水の量は、72000部であった。
【0094】
ついで、上記で得られた比較樹脂処理顔料−3を用いた以外は、実施例3の使用例と同様にして均一化し、ミルベースを調製した。そして、実施例3の使用例と同様にして、分散処理、遠心分離処理、濾過を行った。得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して比較顔料分散液−3を得た。得られた比較顔料分散液−3の平均粒子径は133nmであった。また、比較顔料分散液−3の粘度及び液色度を、実施例1で得た顔料分散液−1と同様にして測定し、結果を表2に記載した。
【0095】
[比較例4]
粗製有機顔料−2を用い、比較例3で行ったと同様の、ソルベントソルトミリング処理後に、濾過、洗浄を行う手順により、微細化顔料ペーストを得た。本比較例では、比較例3の場合と異なり、上記で得られた微細化顔料ペーストを、従来技術で行われているのと同様の方法で、さらに、乾燥、粉砕して比較微細化顔料−4とした。比較微細化顔料−4を得るまでに必要とした洗浄水の量は36000部、濾過にかかった時間は12時間であった。
【0096】
ついで、顔料分散樹脂であるランダムコポリマーRP−1を含有したアルカリ性水溶液RP−1を100部と、水280部を計量してよく撹拌混合した溶液に、上記で得られた比較微細化顔料−4を120部と、さらに、水11500部を加え、よく撹拌して均一化して比較混合液−4を調製した。
【0097】
調製した比較混合液−4を撹拌しながら、5%酢酸水溶液を少量ずつ添加し、溶液のpHを5.5まで低下させた後、70℃まで加熱し、酸析を行った。その後、この溶液を、ヌッチェで、減圧濾過した後、水洗浄、乾燥、粉砕して、顔料分散樹脂で処理された微細な有機顔料を得た。これを比較樹脂処理顔料−4と呼ぶ。上記の最終段階での、減圧濾過、水洗浄に使用した洗浄水は36000部、濾過にかかった時間は、4時間であった。この結果、出発原料である粗製有機顔料−2の状態から、比較樹脂処理顔料−4を得るまでの全工程において、使用した濾過に要した合計時間は16時間で、水洗浄に用いた水の量は、72000部であった。
【0098】
ついで、上記で得られた比較樹脂処理顔料−4を用いた以外は、実施例3の使用例と同様にして均一化し、ミルベースを調製した。そして、実施例3の使用例と同様にして、分散処理、遠心分離処理、濾過を行った。得られた溶液に純水を加えて顔料濃度を14%に調整して比較顔料分散液−4を得た。得られた比較顔料分散液−4の平均粒子径は145nmであった。また、比較顔料分散液−4の粘度及び液色度を、実施例1で得た顔料分散液−1と同様にして測定し、結果を表2に記載した。
【0099】
【0100】
表2に示したように、粗製有機顔料及び顔料分散樹脂が異なる実施例3、比較例3、4の樹脂処理顔料の場合も、実施例1、比較例1、2の樹脂処理顔料の場合と同様に、本発明の製造方法によって樹脂処理した顔料の分散液の方が、従来の製法で得た比較例3、4の顔料の分散液より、分散性が良好であるという結果が得られた。
【0101】
[樹脂処理顔料をインクの着色剤に用いた場合の印刷適正の評価]
実施例及び比較例の各顔料分散液を用いて、下記のようにしてインクを調製し、インクの性能を評価した。
【0102】
(印刷評価用インクの調製−顔料分散液−1を使用)
実施例1の使用例で得た顔料分散液−1(顔料濃度:14%)を42.9部、DEGBEを5部、2−ピロリドンを5部、グリセリンを16部、サーフィノール465(エア・プロダクツ社製)1部、水30.1部を加え、十分撹拌した。その後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターで濾過を行い、インクジェットプリンター用の、マゼンタ色の顔料インクW−1を得た。
【0103】
(印刷評価用インクの調製−比較顔料分散液−1を使用)
顔料分散液−1を使用して行った顔料インクW−1の調製で、顔料分散液−1(顔料濃度:14%)を、比較例1で得た比較顔料分散液−1(顔料濃度:14%)に替えた以外は同様にして、インクを調製し、水性顔料インクW−2を得た。
【0104】
[印刷評価−比較例2]
顔料分散液−1を使用して行った顔料インクW−1の調製で、顔料分散液−1(顔料濃度:14%)を、比較例2で得た比較顔料分散液−2(顔料濃度:14%)に替えた以外は同様にして、インクを調製し、水性顔料インクW−3を得た。
【0105】
(水性顔料インクの評価)
上記で得られたマゼンタインクをそれぞれインクカートリッジに充填し、マイクロジェット社製の印刷試験機により、写真光沢紙にベタ印刷を行った。印刷後、室内に1日放置し、測色計Eye−One−Pro(商品名、X−Rite社製)にて光学濃度ODと色彩値を測定した。彩度C
*値は、a
*、b
*値より計算した。また、光沢計(商品名:マイクロトリグロス、BYKガードナー社製)にて20度グロスを測定した。それぞれ測定各5回の平均値を表3に示した。
【0106】
また、吐出安定性(吐出性)については、印刷物を目視で確認し、スジ抜けが見られない場合は○、1箇所見られた場合は△、それ以上の場合は×とした。
【0107】
【0108】
表3に示したように、実施例1の顔料分散液−1を用いたインクW−1は、比較顔料分散液を用いたインクと比べて、光学濃度、彩度、グロスの値が高いという結果が得られた。その理由は、表1に示したように、顔料分散液−1は、比較顔料分散液に比べて分散性が良好で粒径が小さいためと考えられる。また、比較例2の比較顔料分散剤−2を用いたインクW−3では、吐出が不安定であった。その理由は、比較顔料分散剤−2を得る工程で、ソルベントソルトミリング処理後に、水洗工程に加え、微細化顔料の乾燥工程を設けたことにより、顔料が凝集したためと考えられる。
【0109】
(印刷評価用インクの調製−顔料分散液−3を使用)
実施例3の使用例で得た顔料分散液−3(顔料濃度:14%)を42.9部、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを8部、グリセリンを17部、サーフィノール465(エア・プロダクツ社製)1部、水31.1部を加え、十分撹拌した。その後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターで濾過を行い、オレンジ色の水性顔料インクW−4を得た。
【0110】
(印刷評価用インクの調製−比較顔料分散液−3を使用)
顔料分散液−3を使用して行った顔料インクW−4の調製で、顔料分散液−3(顔料濃度:14%)を、比較例3で得た比較顔料分散液−3(顔料濃度:14%)に替えた以外は同様にして、インクを調製し、水性顔料インクW−5を得た。
【0111】
(印刷評価用インクの調製−比較顔料分散液−4を使用)
顔料分散液−3を使用して行った顔料インクW−4の調製で、顔料分散液−3(顔料濃度:14%)を、比較例4で得た比較顔料分散液−4(顔料濃度:14%)に替えた以外は同様にして、インクを調製し、水性顔料インクW−6を得た。
【0112】
(水性顔料インクの評価)
上記で得た水性顔料インクW−4〜水性顔料インクW−6について、先に水性顔料インクW−1〜水性顔料インクW−3で行ったと同様にしてインクの評価を行った。結果を表4に示した。
【0113】
【0114】
表4に示したように、本発明の顔料分散液−3を用いた水性顔料インクW−4は、先に評価したマゼンタインクの水性顔料インクW−1と同様に、比較顔料分散液を用いたインクと比べて、彩度、グロスの値が高いという結果が得られた。その理由は、表2に示したように、顔料分散液−3は、比較顔料分散液に比べて分散性が良好で粒径が小さいためと考えられる。