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特開2019-156939インク受容層形成用コーティング液およびインク受容層形成用コーティング液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-156939(P2019-156939A)
(43)【公開日】2019年9月19日
(54)【発明の名称】インク受容層形成用コーティング液およびインク受容層形成用コーティング液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20190823BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20190823BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190823BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20190823BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20190823BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D129/04
   C09D5/00 D
   B41M5/52 100
   C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-44009(P2018-44009)
(22)【出願日】2018年3月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000201113
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】江高 恵一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐己
【テーマコード(参考)】
2H186
4J038
【Fターム(参考)】
2H186BA11
2H186BB14X
2H186BC66X
2H186CA05
2H186DA07
4J038CE021
4J038JA19
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA14
4J038PA07
4J038PB01
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成するとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することが可能なインク受容層形成用コーティング液を提供する。
【解決手段】この受容層形成用コーティング液は、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールと、水溶性の高分子を含むバインダ剤と、を含有し、アルコールは、35重量%以上90重量%以下含有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールと、
水溶性の高分子を含むバインダ剤と、を含有し、
前記アルコールは、35重量%以上90重量%以下含有している、インク受容層形成用コーティング液。
【請求項2】
前記アルコールは、50重量%よりも多く含有している、請求項1に記載のインク受容層形成用コーティング液。
【請求項3】
前記バインダ剤は、ポリビニルアルコールを含む、請求項1または2に記載のインク受容層形成用コーティング液。
【請求項4】
前記バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上であり、60モル%以上のけん化度を有している、請求項3に記載のインク受容層形成用コーティング液。
【請求項5】
蛍光剤をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液。
【請求項6】
ネイルプリンタ用のプリコート剤に用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液。
【請求項7】
水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールとを含む溶媒に、水溶性の高分子を含むバインダ剤を混合して、溶解させ、
その後、前記アルコールをさらに追加して、前記アルコールが35重量%以上90重量%以下となるように溶液を生成する、インク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒に前記バインダ剤を混合して溶解させる際に、前記アルコールよりも前記水の方が大きい重量を有する前記溶媒に、前記バインダ剤を混合して溶解させる、請求項7に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒に前記バインダ剤を混合して溶解させる際に、前記溶媒に前記バインダ剤を混合して撹拌および加温することにより、前記バインダ剤を前記溶媒に溶解させる、請求項7または8に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒に前記バインダ剤を混合して溶解させる際に、前記バインダ剤を、前記溶媒に、複数回に分けて混合させる、請求項7〜9のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項11】
前記バインダ剤が前記溶媒に完全に溶解した後、前記アルコールを追加する、請求項7〜10のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項12】
前記バインダ剤が前記溶媒に溶解した後、前記アルコールを滴下または噴霧により追加する、請求項7〜11のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項13】
前記バインダ剤が前記溶媒に溶解した後に追加する前記アルコールは、前記溶媒に含まれる前記アルコールの重量よりも大きい、請求項11または12に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項14】
前記バインダ剤が前記溶媒に溶解した後、加温せずに、前記アルコールを撹拌しながら追加する、請求項11〜13のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項15】
前記バインダ剤は、ポリビニルアルコールを含む、請求項7〜14のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項16】
前記バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上であり、60モル%以上のけん化度を有している、請求項15に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項17】
蛍光剤をさらに追加する、請求項7〜16のいずれか1項に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【請求項18】
前記バインダ剤が前記溶媒に溶解した後、蛍光剤を追加する、請求項17に記載のインク受容層形成用コーティング液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インク受容層形成用コーティング液およびインク受容層形成用コーティング液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク受容層が設けられた媒体に印刷を行うプリンタが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、水性インク受像層(インク受容層)が設けられた付け爪素材に、インクジェットヘッドにより印刷を行うインクジェットプリンタが開示されている。付け爪素材は、印刷が行われた後、人の爪に貼り付けられて使用されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−361936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、付け爪素材は、印刷が行われた後、人の爪に貼り付けられて使用されるため、付け爪素材を人に付ける前に、事前に付け爪素材に対して水性インク受像層(インク受容層)を塗布し、印刷が行われる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1とは異なり、人の爪などの生体に直接印刷を行う場合には、インク受容層を形成するために、生体(人体)に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液を用いる必要がある。また、人の爪などの生体に直接印刷を行う場合に、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間が長い場合には、印刷が行われる生体の負担が大きくなるため、乾燥時間を短くすることが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成するとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することが可能なインク受容層形成用コーティング液およびインク受容層形成用コーティング液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液は、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールと、水溶性の高分子を含むバインダ剤と、を含有し、アルコールは、35重量%以上90重量%以下含有している。
【0009】
この発明の第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液では、上記のように構成することによって、エタノールおよびイソプロピルアルコールは、他のアルコール類に比べて生体への影響が少ないので、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができる。また、アルコールの含有量を35重量%未満にする場合に比べて、乾燥時間が長くなるのを抑制することができる。ここで、アルコールの含有量を多くした場合は、バインダ剤が溶解しにくかったり、粘度が大きくなったりする。つまり、アルコールの含有量を90重量%より多くする場合に比べて、バインダ剤を溶解させることができるとともに、粘度が過度に大きくなるのを抑制することができる。これらの結果、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができるとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液において、好ましくは、アルコールは、50重量%よりも多く含有している。このように構成すれば、揮発しやすいアルコールの割合を多くすることができるので、乾燥時間を効果的に短縮することができる。
【0011】
上記第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液において、好ましくは、バインダ剤は、ポリビニルアルコールを含む。このように構成すれば、受容層形成用コーティング液の生体への影響を効果的に抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上であり、60モル%以上のけん化度を有している。このように構成すれば、ポリビニルアルコールの重合度を1000未満とし、けん化度を60モル%未満とする場合に比べて、受容層の機械的強度を高めるとともに、耐水性を高めることができる。これにより、受容層の割れや剥離を抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液において、好ましくは、蛍光剤をさらに含有する。このように構成すれば、紫外線などの励起光を照射することにより、インク受容層形成用コーティング液が発光するので、インク受容層形成用コーティング液を塗布し終えた範囲を容易に確認することができる。
【0014】
上記第1の局面によるインク受容層形成用コーティング液において、好ましくは、ネイルプリンタ用のプリコート剤に用いられる。このように構成すれば、ネイルプリンタにより爪に直接印刷を行う場合に、人体への負担が大きくなるのを抑制することができる。
【0015】
この発明の第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法は、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールとを含む溶媒に、水溶性の高分子を含むバインダ剤を混合して、溶解させ、その後、アルコールをさらに追加して、アルコールが35重量%以上90重量%以下となるように溶液を生成する。
【0016】
この発明の第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法では、上記のように構成することによって、エタノールおよびイソプロピルアルコールは、他のアルコール類に比べて生体への影響が少ないので、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができる。また、アルコールの含有量を35重量%未満にする場合に比べて、乾燥時間が長くなるのを抑制することができる。ここで、アルコールの含有量を多くした場合は、バインダ剤が溶解しにくかったり、粘度が大きくなったりする。つまり、アルコールの含有量を90重量%より多くする場合に比べて、バインダ剤を溶解させることができるとともに、粘度が過度に大きくなるのを抑制することができる。これらの結果、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができるとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することが可能なインク受容層形成用コーティング液の製造方法を提供することができる。また、水およびアルコールを含む溶媒にバインダ剤を混合して溶解させた後、アルコールをさらに追加することにより、バインダ剤を溶かし残したり、析出させることなく、インク受容層形成用コーティング液に溶解させることができる。なお、上記した製造方法により、35重量%以上90重量%以下のアルコール含有量のインク受容層形成用コーティング液にバインダ剤を溶かし残したり、析出させることなく溶解させることができるという効果は、本願発明者が鋭意検討した結果見い出したものである。
【0017】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、アルコールよりも水の方が大きい重量を有する溶媒に、バインダ剤を混合して溶解させる。このように構成すれば、水よりもアルコールの方が大きい重量を有する溶媒に比べて、バインダ剤を容易に溶媒に溶解させることができる。
【0018】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、溶媒にバインダ剤を混合して撹拌および加温することにより、バインダ剤を溶媒に溶解させる。このように構成すれば、撹拌および加温により、バインダ剤を溶媒に確実に溶解させることができる。
【0019】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、バインダ剤を、溶媒に、複数回に分けて混合させる。このように構成すれば、バインダ剤が液中で塊りになるのを抑制することができるので、バインダ剤を溶媒に容易に溶解させることができる。
【0020】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、バインダ剤が溶媒に完全に溶解した後、アルコールを追加する。このように構成すれば、バインダ剤が溶媒に溶解した後に、アルコールをさらに追加しても、バインダ剤が析出したり、粘度が過度に大きくなることがないので、アルコールの含有量を容易に増加させることができる。この効果は、本願発明者が鋭意検討した結果見い出したものである。
【0021】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、バインダ剤が溶媒に溶解した後、アルコールを滴下または噴霧により追加する。このように構成すれば、アルコールの滴下または噴霧により、追加するアルコールに起因して、局所的にアルコールの濃度が大きくなる部分が生じるのを抑制することができるので、バインダ剤が析出するのを効果的に抑制することができる。
【0022】
上記バインダ剤が溶媒に溶解した後アルコールを追加する構成において、好ましくは、バインダ剤が溶媒に溶解した後に追加するアルコールは、溶媒に含まれるアルコールの重量よりも大きい。このように構成すれば、アルコールの量が少ない溶媒にバインダ剤を溶解させることができるので、バインダ剤を容易に溶解させることができる。また、追加するアルコールの量を多くすることができるので、アルコールの量を高めることができる。これにより、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間を効果的に短縮することができる。
【0023】
上記バインダ剤が溶媒に溶解した後アルコールを追加する構成において、好ましくは、バインダ剤が溶媒に溶解した後、加温せずに、アルコールを撹拌しながら追加する。このように構成すれば、バインダ剤が溶解した後は、加温しなくてもバインダ剤は析出しないとともに、アルコールは溶解するので、加温によるアルコールの蒸発を抑制して、アルコールの含有量を効果的に高めることができる。
【0024】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、バインダ剤は、ポリビニルアルコールを含む。このように構成すれば、受容層形成用コーティング液の生体への影響を効果的に抑制することができる。
【0025】
この場合、好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上であり、60モル%以上のけん化度を有している。このように構成すれば、ポリビニルアルコールの重合度を1000未満とし、けん化度を60モル%未満とする場合に比べて、受容層の機械的強度を高めるとともに、耐水性を高めることができる。これにより、受容層の割れや剥離を抑制することができる。
【0026】
上記第2の局面によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法において、好ましくは、蛍光剤をさらに追加する。このように構成すれば、紫外線などの励起光を照射することにより、インク受容層形成用コーティング液が発光するので、インク受容層形成用コーティング液を塗布し終えた範囲を容易に確認することができる。
【0027】
この場合、好ましくは、バインダ剤が溶媒に溶解した後、蛍光剤を追加する。このように構成すれば、蛍光剤に色がついている場合に、バインダ剤が溶媒に溶解する前に蛍光剤を追加する場合と異なり、溶媒に色がつかないので、バインダ剤の溶解を目視により容易に確認することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができるとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一実施形態によるインク受容層形成用コーティング液の製造方法を説明するための図である。
図2】エタノールの濃度と乾燥時間との関係を説明するための表である。
図3】ポリビニルアルコールの重合度と印字品質との関係を説明するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
本実施形態のインク受容層形成用コーティング液は、プリンタにより印刷する際のインク受容層を形成するために用いられる。具体的には、下地層が塗布された状態の印刷領域に、インク受容層形成用コーティング液が塗布される。つまり、印刷領域にインクが乗りやすいように、インク受容層を形成する。印刷領域は、生体上に設定される。印刷領域は、たとえば、人の爪や皮膚などである。したがって、インク受容層形成用コーティング液は、生体に影響が少ない成分により構成されている必要がある。
【0032】
インク受容層が形成された印刷領域へのインクの印刷は、インクジェットプリンタにより行われる。インクジェットプリンタでは、水性インクが用いられる。インク受容層は、水性インクを印刷領域に定着させるように構成されている。インク受容層形成用コーティング液は、たとえば、ネイルプリンタ用のプリコート剤に用いられる。
【0033】
ここで、本実施形態では、インク受容層形成用コーティング液は、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールと、水溶性の高分子を含むバインダ剤と、を含有し、アルコールは、35重量%以上90重量%以下含有しており、生体に塗布される。好ましくは、インク受容層形成用コーティング液に、アルコールは、50重量%よりも多く含有している。より好ましくは、インク受容層形成用コーティング液に、アルコールは、50重量%よりも多く、60重量%未満含有している。
【0034】
また、インク受容層形成用コーティング液のバインダ剤は、ポリビニルアルコール(PVA)を含む。また、好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上である。なお、ポリビニルアルコールの重合度は、含有する高分子の平均の重合度である。より好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1500以上である。さらに好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1700以上である。
【0035】
また、好ましくは、バインダ剤のポリビニルアルコールは、60モル%以上のけん化度を有している。なお、ポリビニルアルコールのけん化度は、含有する高分子の平均のけん化度である。つまり、バインダ剤としてのポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基以外に酢酸エステルなどのカルボン酸エステルを含む。
【0036】
また、インク受容層形成用コーティング液は、蛍光剤をさらに含有している。蛍光剤は、紫外線などの励起光を照射することにより、発光するように構成されている。インク受容層形成用コーティング液に、蛍光剤は、1重量%未満含有している。好ましくは、インク受容層形成用コーティング液に、蛍光剤は、0.1重量%程度含有している。
【0037】
また、インク受容層形成用コーティング液は、界面活性剤をさらに含有している。また、インク受容層形成用コーティング液に、界面活性剤は、3重量%程度含有している。これにより、インク受容層形成用コーティング液の塗布領域(インクの印刷領域)に対する密着性を向上させることが可能である。界面活性剤は、たとえば、カチオン系の界面活性剤を含んでいる。カチオン系の界面活性剤は、たとえば、ポリクオタニウム−7を含んでいる。好ましくは、インク受容層形成用コーティング液には、カチオン系界面活性剤が、0.1重量%〜5重量%程度含有している。より好ましくは、インク受容層形成用コーティング液には、カチオン系界面活性剤が、0.5重量%〜2重量%程度含有している。
【0038】
また、インク受容層形成用コーティング液は、常温において、200mPa・s〜1500mPa・s程度の粘度を有する。好ましくは、インク受容層形成用コーティング液は、常温において、500mPa・s〜900mPa・s程度の粘度を有する。これにより、インク受容層形成用コーティング液を、容易に塗布することが可能である。
【0039】
次に、図1を参照して、インク受容層形成用コーティング液の製造方法について説明する。
【0040】
ここで、本実施形態では、インク受容層形成用コーティング液の製造方法は、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールとを含む溶媒に、水溶性の高分子を含むバインダ剤(ポリビニルアルコール)を混合して、溶解させ、その後、アルコールをさらに追加して、アルコールが35重量%以上90重量%以下となるように溶液を生成する。具体的には、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、アルコールよりも水の方が大きい重量を有する溶媒に、バインダ剤を混合して溶解させる。
【0041】
また、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、溶媒にバインダ剤を混合して撹拌および加温することにより、バインダ剤を溶媒に溶解させる。また、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、バインダ剤を、溶媒に、複数回に分けて混合させる。また、バインダ剤が溶媒に完全に溶解した後、アルコールを追加する。
【0042】
また、バインダ剤が溶媒に溶解した後、アルコールを滴下または噴霧により追加する。また、バインダ剤が溶媒に溶解した後に追加するアルコールは、溶媒に含まれるアルコールの重量よりも大きい。また、バインダ剤が溶媒に溶解した後、加温せずに、アルコールを撹拌しながら追加する。また、バインダ剤が溶媒に溶解した後、蛍光剤を追加する。
【0043】
インク受容層形成用コーティング液の製造方法の一例として、水:エタノール(アルコール):ポリビニルアルコール(バインダ剤):蛍光剤:界面活性剤=34.4:56:6.5:0.1:3の割合で配合してインク受容層形成用コーティング液を製造する。
【0044】
図1の0分の時点において、低濃度エタノール溶液を反応容器に入れる。低濃度エタノール溶液は、配合する全量のイオン交換水(水)に、配合する全量の20重量%のエタノール(アルコール)が混合された溶液である。この例では、水:エタノール=34.4:11.2となる。撹拌を行い、10分の時点において、ポリビニルアルコール(バインダ剤)の一部が低濃度エタノール溶液(溶媒)に追加される。10分の時点から所定の時間をかけて、ポリビニルアルコールは、配合する全量の50重量%が入れられる。この時点で、溶液の配合割合(重量)は、水:エタノール:ポリビニルアルコール=34.4:11.2:3.25となる。ポリビニルアルコールは、撹拌しつつ、所定の時間をかけて溶媒に投入される。
【0045】
撹拌を行い、20分の時点から所定の時間をかけて、ポリビニルアルコールの残りの一部が低濃度エタノール溶液(溶媒)に追加される。20分の時点において、ポリビニルアルコールは、配合する全量の50重量%が入れられる。この時点で、溶液の配合割合(重量)は、水:エタノール:ポリビニルアルコール=34.4:11.2:6.5となる。ポリビニルアルコールは、撹拌しつつ、所定の時間をかけて溶媒に投入される。0分〜30分の時点まで、室温(20℃程度)により、撹拌しつつ、溶解反応が行われる。
【0046】
30分の時点において、加温を初めて、徐々に溶液の温度を上げていく。30分の時点から70分の時点まで、徐々に温度を上げていき、60℃程度まで、溶液を加温する。加温とともに、溶液は、撹拌される。
【0047】
100分の時点において、溶媒にポリビニルアルコールが完全に溶解すると、加温をやめて、撹拌を行いながら、残りのエタノールが追加される。100分の時点から所定の時間をかけて、エタノールの残りが溶液に追加される。100分の時点において、エタノールは、配合する全量の80重量%が入れられる。この時点で、溶液の配合割合(重量)は、水:エタノール:ポリビニルアルコール=34.4:56:6.5となる。エタノールは、溶液を撹拌しつつ、所定の時間をかけて滴下されて投入される。
【0048】
上記のように、高温度環境下を保ちつつ撹拌しながらエタノールを滴下しエタノール濃度を徐々に増やしていく。この手順で高濃度化したポリビニルアルコール溶液は、その後常温に戻しても安定しており、再びゲル化や結晶化することは無い。
【0049】
115分の時点において、蛍光剤および界面活性剤が溶液に追加される。その後、撹拌を続けて、125分の時点において、撹拌を終了し、インク受容層形成用コーティング液の製造が終了される。蛍光剤には、蛍光顔料の沈降を防止するため、予め AS (アクリロニトリルスチレンコポリマー(スチレン-アクリロニトリル共重合体)) と、アニオン系界面活性剤(ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム)により水中に蛍光顔料を分散させた蛍光剤分散液を使用している。上記配合比に記載した0.1%は、顔料のみの重量比である。
【0050】
ここで、比較的低重合のポリビニルアルコールを用いてカチオン性界面活性剤などを添加する事でインクの受容性を補完する場合では、1週間程度常温に放置する事で顕著な沈降が見られた。これに対して、本願発明のインク受容層形成用コーティング液では沈降は発生しない。つまり、従来では、溶液中で異種の界面活性剤が意図しない結合を起こさないよう分散液に使用される分散剤や界面活性剤の選定にも注意を要する。一方、本願発明のインク受容層形成用コーティング液は、分散液の種類を選ばないといえる。
【0051】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0052】
本実施形態では、アルコールとしてエタノールおよびイソプロピルアルコールを用いる。これにより、他のアルコール類に比べて生体への影響が少ないアルコールを用いることができるので、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができる。また、インク受容層形成用コーティング液には、アルコールが、35重量%以上90重量%以下含有している。これにより、アルコールの含有量を35重量%未満にする場合に比べて、乾燥時間が長くなるのを抑制することができる。ここで、アルコールの含有量を多くした場合は、バインダ剤が溶解しにくかったり、粘度が大きくなったりする。つまり、アルコールの含有量を90重量%より多くする場合に比べて、バインダ剤を溶解させることができるとともに、粘度が過度に大きくなるのを抑制することができる。これらの結果、生体に影響の少ないインク受容層形成用コーティング液によりインク受容層を形成することができるとともに、乾燥時間が長くなるのを抑制して、印刷対象の生体への負担が大きくなるのを抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態では、アルコールは、50重量%よりも多く含有している。これにより、揮発しやすいアルコールの割合を多くすることができるので、乾燥時間を効果的に短縮することができる。
【0054】
また、本実施形態では、バインダ剤は、ポリビニルアルコールを含む。これにより、受容層形成用コーティング液の生体への影響を効果的に抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、バインダ剤のポリビニルアルコールは、重合度が1000以上であり、60モル%以上のけん化度を有している。これにより、ポリビニルアルコールの重合度を1000未満とし、けん化度を60モル%未満とする場合に比べて、受容層の機械的強度を高めるとともに、耐水性を高めることができる。その結果、受容層の割れや剥離を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、蛍光剤をさらに含有する。これにより、紫外線などの励起光を照射することにより、インク受容層形成用コーティング液が発光するので、インク受容層形成用コーティング液を塗布し終えた範囲を容易に確認することができる。
【0057】
また、本実施形態では、ネイルプリンタ用のプリコート剤に用いられる。これにより、ネイルプリンタにより爪に印刷を行う場合に、人体への負担が大きくなるのを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、水と、エタノールおよびイソプロピルアルコールのうち少なくとも一方を含むアルコールとを含む溶媒に、水溶性の高分子を含むバインダ剤を混合して、溶解させ、その後、アルコールをさらに追加して、アルコールが35重量%以上90重量%以下となるように溶液を生成する。これにより、水およびアルコールを含む溶媒にバインダ剤を混合して溶解させた後、アルコールをさらに追加することにより、バインダ剤を溶かし残したり、析出させることなく、インク受容層形成用コーティング液に溶解させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、アルコールよりも水の方が大きい重量を有する溶媒に、バインダ剤を混合して溶解させる。これにより、水よりもアルコールの方が大きい重量を有する溶媒に比べて、バインダ剤を容易に溶媒に溶解させることができる。
【0060】
また、本実施形態では、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、溶媒にバインダ剤を混合して撹拌および加温することにより、バインダ剤を溶媒に溶解させる。これにより、撹拌および加温により、バインダ剤を溶媒に確実に溶解させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、溶媒にバインダ剤を混合して溶解させる際に、バインダ剤を、溶媒に、複数回に分けて混合させる。これにより、バインダ剤が液中で塊りになるのを抑制することができるので、バインダ剤を溶媒に容易に溶解させることができる。
【0062】
また、本実施形態では、バインダ剤が溶媒に完全に溶解した後、アルコールを追加する。これにより、バインダ剤が溶媒に溶解した後に、アルコールをさらに追加しても、バインダ剤が析出したり、粘度が過度に大きくなることがないので、アルコールの含有量を容易に増加させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、バインダ剤が溶媒に溶解した後、アルコールを滴下または噴霧により追加する。これにより、アルコールの滴下または噴霧により、追加するアルコールに起因して、局所的にアルコールの濃度が大きくなる部分が生じるのを抑制することができるので、バインダ剤が析出するのを効果的に抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態では、バインダ剤が溶媒に溶解した後に追加するアルコールは、溶媒に含まれるアルコールの重量よりも大きい。これにより、アルコールの量が少ない溶媒にバインダ剤を溶解させることができるので、バインダ剤を容易に溶解させることができる。また、追加するアルコールの量を多くすることができるので、アルコールの量を高めることができる。その結果、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間を効果的に短縮することができる。
【0065】
また、本実施形態では、バインダ剤が溶媒に溶解した後、加温せずに、アルコールを撹拌しながら追加する。これにより、バインダ剤が溶解した後は、加温しなくてもバインダ剤は析出しないとともに、アルコールは溶解するので、加温によるアルコールの蒸発を抑制して、アルコールの含有量を効果的に高めることができる。
【0066】
(実施例)
次に、上記実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0067】
エタノールの分量と水の分量とを変化させて実験を行った。なお、エタノールと水以外の成分は、共通である。
【0068】
エタノールの分量が0重量%、水の分量が93重量%の場合(比較例1)、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間は、10分であった。エタノールの分量が20重量%、水の分量が73重量%の場合(比較例2)、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間は、8分であった。エタノールの分量が58重量%、水の分量が35重量%の場合(実施例1)、インク受容層形成用コーティング液の乾燥時間は、6分であった。つまり、アルコールを、35重量%以上90重量%以下含有することにより、乾燥時間を効果的に短縮することができる。
【0069】
次に、ポリビニルアルコールの重合度を変化させて実験を行った。
【0070】
ポリビニルアルコールの重合度を600とした場合(比較例3)、プリンタにより印刷すると、滲みが大きくなった。この場合、印刷の受容層に用いることは困難である。一方、ポリビニルアルコールの重合度を1700とした場合(実施例2)、プリンタにより印刷すると、滲みもなく、良好な状態となった。つまり、ポリビニルアルコールの重合度を1000以上にすることにより、受容層の機械的強度を高めるとともに、耐水性を高めることができる。
【0071】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0072】
たとえば、上記実施形態では、インク受容層形成用コーティング液は、人体に塗布される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、インク受容層形成用コーティング液は、人体以外の生体に塗布されてもよい。たとえば、動物や植物に塗布されてもよい。また、インク受容層形成用コーティング液は、生体以外に塗布されてもよい。たとえば、皮、ビニル、プラスチック(たとえば、ポリカーボネート)などに塗布されてもよい。本願のインク受容層形成用コーティング液は、上記のような生体以外の材質に対しても影響を少なくすることが可能である。
【0073】
また、上記実施形態では、インク受容層形成用コーティング液は、下地層の上に塗布される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、インク受容層形成用コーティング液は、下地層を介さずに生体に直接塗布されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、インク受容層形成用コーティング液は、アルコールとして、エタノールを含む構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、インク受容層形成用コーティング液は、アルコールとして、イソプロピルアルコールを含んでいてもよい。また、アルコールは、エタノールとイソプロピルアルコールの混合物でもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、インク受容層形成用コーティング液は、プリンタによる印刷を行う際の受容層を形成するために用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ペンなどを用いて生体にインクを塗布する場合に、インク受容層形成用コーティング液により受容層を形成してもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、バインダ剤が溶媒に溶解した後、加温せずに、アルコールを撹拌しながら追加する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、バインダ剤が溶媒に溶解した後、加温するとともに、アルコールを撹拌しながら追加してもよい。
図1
図2
図3