【課題】プレキャストコンクリート部材を用いたカルバート構造物において、ヒンジ構造を用いることなく、部材厚の厚みを抑え、安全性や耐久性の向上と製造コストの低減を両立させる。
【解決手段】複数の部材を組み立てて構築されるアーチカルバートであって、略半楕円形状のアーチ軸線に沿って構成されるアーチ部材と、基礎地盤である設置面上に設置され、前記アーチ部材の左右両側壁部の下端に接続する基礎部材として設けられるフーチング部材と、を備え、前記フーチング部材は、当該フーチング部材のカルバート外側への張り出し幅が、当該フーチング部材のカルバート内側への張り出し幅よりも大きい状態で前記アーチ部材に接続されることを特徴とする、アーチカルバートが提供される。
前記フーチング部材のカルバート外側への張り出し幅dと、カルバート内側への張り出し幅cと、の比率である張り出し比率d/cが1.1以上1.9以下に設計されることを特徴とする、請求項1に記載のアーチカルバート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、以下の説明において、従前のアーチカルバートと、本発明に係るアーチカルバートにおいて重複するような構成要素に関しては、同一の符号を用いて説明する場合がある。
【0017】
(従前のアーチカルバートの構成)
先ず、従前のアーチカルバートの構成について説明する。
図1は従前のアーチカルバート10の概略説明図であり、半楕円形状に近似されたアーチ形状を有し、上記特許文献1や非特許文献1で開示された半楕円アーチ理論に基づき、アーチ部材の曲げモーメントを極小化させ、薄肉化を前提として構成したカルバート構造物を示している。なお、「半楕円アーチ理論」に基づくアーチ部材の軸線の設計方法については、具体例を交えて後述する。
【0018】
図1に示すように、従前のアーチカルバート10は、半楕円形状のアーチ部材20と、当該アーチ部材20の左右両側壁部の下端に基礎部材としてのフーチング部材25(25a、25b)が設けられている。これらフーチング部材25は、アーチカルバート10を施工する際に設置面G(基礎地盤)に対し固定され、その状態で周辺に盛土施工を行うことで最終的な構造物とされる。半楕円形状であるアーチ部材20の形状については施工状況等に応じて好適に設計可能であり、後述する「半楕円アーチ理論」に基づきアーチ部材の軸線を設計することが好ましい。
【0019】
また、フーチング部材25は、アーチ部材20の左右の脚部(下端部)に作用する側壁の鉛直方向軸力を支持する目的のため、左右均一の張り出しでもって設計されるのが一般的である。即ち、フーチング部材25は、アーチ部材20の左右両側壁部の下端を幅方向中央とするように当該下端に接続され、
図1に図示したように、アーチカルバート10の幅長さLにおいて、カルバート外側への張り出し幅L1と、カルバート内側への張り出し幅L2は等しく設計される。
【0020】
(従前のアーチカルバートにおける課題)
図1のように構成される従前のアーチカルバート10を用いて盛土施工を行う場合に、フーチング部材25には、アーチ部材20の側壁の鉛直方向軸力だけでなく、カルバート外側のみに対し盛土による土被り荷重が作用するため、フーチング部材25全体にかかる荷重のバランスが不均一になり、荷重合力はフーチング部材25の中央ではなく外側へ偏芯することになる。その為、フーチング部材25にかかる地盤(設置面G)からの反力も不均一となる。
【0021】
図2は、盛土施工時に従前のアーチカルバート10のフーチング部材25にかかる荷重の分布の一例を示す概略説明図である。
図2中の下向き矢印F1で示したように、盛土施工時には、フーチング部材25の外側には盛土による荷重が作用するのに対し、フーチング部材25の内側には盛土が無いために荷重はかからない。その為、設置面Gからの反力(地盤反力)は、フーチング部材25の外側ほど大きく、内側ほど小さいといった不均一な荷重分布となる(
図2中の上向き矢印F2参照)。このような地盤反力の荷重分布に伴い、フーチング部材25やアーチ部材20の側壁(カルバート脚部)には曲げモーメントが発生する。
【0022】
この様な要因により発生した曲げモーメントにより、アーチカルバート10の設計において当該曲げモーメントを考慮した部材厚や材質(例えば鉄筋量等)を採用する必要があるために製造コストが増大するといった問題がある。例えば地震時には、フーチング部材25やアーチ部材20の水平方向への変形が顕著となるため、フーチング部材25とアーチ部材20との接続部(付け根部)への応力集中が助長され、安全性や耐久性の面でネックになるといった事が懸念される。
【0023】
以上のような事情に鑑み、アーチカルバート設計に関し、フーチング部材25とアーチ部材20のいずれにおいてもできるだけ曲げモーメントを発生させることなく極小化させ、ヒンジ構造を用いることなく、部材厚や鉄筋量を縮減させ、安全性や耐久性の向上と製造コストの低減を両立させることができるような技術が求められる。そこで、本発明者らは以下に説明するような本実施の形態に係る構成のアーチカルバート設計を実現させた。
【0024】
(本発明の実施の形態に係るアーチカルバートの構成)
以下では、上記従前のアーチカルバート10の問題点に鑑みて設計される本発明の実施の形態に係るアーチカルバート40について図面等を参照して説明する。
【0025】
(アーチ部材形状)
先ず、アーチ部材20の形状設計について、アーチ部材20に生じる曲げモーメントを極小化させるような形状(アーチ軸線)を定めるための「半楕円アーチ理論」について簡単に説明する。一般的に、アーチ型のカルバート構造物においては、部材に生じる曲げモーメントを極小化することで、カルバート内の応力状態を軸圧縮応力状態にすることができることが知られている。カルバート構造物を構成するコンクリートは圧縮に強い性質を持つことから、曲げモーメントを極小化し、部材内を軸圧縮応力状態にすることで、コンクリート部材の薄肉化や鉄筋量の縮減を図ることが可能となる。
【0026】
アーチ部材20に対して盛土施工を行う場合には、鉛直方向の土圧(単に鉛直土圧とも呼称)と、水平方向の土圧(単に水平土圧とも呼称)が異なる。アーチ部材20に対し半楕円形モデルを適用した場合に、鉛直土圧と水平土圧が好適にバランスするようなカルバート形状に限り、曲げモーメントが極小化され、カルバート内が圧縮応力状態となる。
【0027】
図3は半楕円アーチ軸線モデルに関する概略説明図であり、(a)は鉛直土圧が卓越する場合、(b)は水平土圧が卓越する場合を示している。
図3(a)に示すように、カルバート高さb1が最適値に比べ短い場合には、水平土圧に対し鉛直土圧が卓越する。この時、カルバート内の曲げモーメントは、カルバート内側に引張応力を発生させるようにプラスのモーメントとして発生し、カルバート天端部P1で最大値、カルバート下端部(脚部)で0となる。また、
図3(b)に示すように、カルバート高さb2が最適値に比べ長い場合には、鉛直土圧に対し水平土圧が卓越する。この時、カルバート内の曲げモーメントは、カルバート外側に引張応力を発生させるようにマイナスとして発生し、カルバート天端部P2で最小値、カルバート下端部(脚部)で0となる。
【0028】
図3を参照して説明したように、カルバート構造物の構成において、半楕円形モデルを用いてアーチ軸線を規定する場合、鉛直土圧が卓越する場合と、水平土圧が卓越する場合のいずれの場合であっても、カルバート天端部(P1、P2)で曲げモーメントの絶対値が最大となっている。即ち、カルバート構造物においてカルバート内の曲げモーメント発生を極力抑え、曲げモーメントを極小化させるためには、カルバート天端部の曲げモーメントを0とすることが求められる。
図4に示すカルバート座標条件において、xとyの値とモーメントMとの関係は、軸力Nや軸線角度θ等を用いた所定の数式で定まるが(非特許文献1参照)、当該数式に対しカルバート天端部Pの条件を代入し、モーメントM=0となるような半楕円形状を定めることで最適なアーチ軸線が規定される。
【0029】
以上、
図3及び
図4を参照して説明した「半楕円アーチ理論」に基づき、アーチ部材20に関しカルバート内に曲げモーメントが発生しないような半楕円形状が定められる。例えばプレキャストコンクリート部材といった薄肉の部材を用いてカルバート構造物を構成する場合に、上記のような方法によりアーチ部分における曲げモーメントは抑えられるものの、
図2を参照して説明したように、フーチング部分に発生する曲げモーメントについては上記「半楕円アーチ理論」に基づく形状構成では解消されない。
【0030】
(フーチング部材形状)
そこで本発明者らは、アーチ部材20の下端部(脚部)に接続するフーチング部材の構成について鋭意検討を行い、フーチング部材のカルバート外側への張り出し幅と、カルバート内側への張り出し幅を異なる値とし、また、それら張り出し幅の比率(張り出し比率)を好適な数値範囲内に設計することで、アーチカルバート全体に曲げモーメントが発生せず、且つ、設置面G(基礎地盤)の支持力を満足するような構成が実現できることを見出した。以下、図面を参照して本知見について説明する。
【0031】
図5は、本実施の形態に係るアーチカルバート40の概略説明図である。なお、
図5に示すアーチ部材20は従前の部材と同様の構成を有するものであり、上記「半楕円アーチ理論」に基づき定めた形状を有する部材であるため、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。アーチカルバート40においては、アーチ部材20の左右両側壁部の下端に基礎部材としてのフーチング部材45(45a、45b)が設けられている。これらフーチング部材45は、アーチカルバート10を施工する際に設置面G(基礎地盤)に対し固定され、その状態で周辺に盛土施工を行うことで最終的な構造物とされる。
【0032】
このフーチング部材45の全幅wは、例えば設置面Gの地盤硬さによって好適に設計される。
図5に示すように、アーチ部材20の短径をa、長径をbとした場合に、アーチ部材の短径aに対するフーチング部材の全幅wで規定される「フーチング比率w/a」は、例えば0.2〜0.8となるように設計されることが好ましい。例えば、地盤が軟弱な場合には「フーチング比率w/a」を0.8程度まで大きくすることで設置面G(基礎地盤)からの支持力が十分に確保され、地盤が硬い場合には「フーチング比率w/a」を0.2程度まで小さくしても設置面G(基礎地盤)からの支持力が十分に確保される。
【0033】
また、本実施の形態に係るフーチング部材45においては、
図2を参照して上述した地盤反力の荷重分布に伴い、フーチング部材25やアーチ部材20の側壁(カルバート脚部)に生じる曲げモーメントを極小化するために、左右の張り出し幅を異なる値として設計している。上述したように、盛土施工時には、フーチング部材45の外側には盛土による荷重が作用するのに対し、フーチング部材45の内側には盛土が無いために荷重はかからないことから、設置面Gからの反力(地盤反力)は、フーチング部材45の外側ほど大きく、内側ほど小さくなる。このような地盤反力の分布に鑑み、フーチング部材45においては、カルバート外側への張り出し幅dと、カルバート内側への張り出し幅cとの関係をd>cに設計している。以下、本明細書では、これらカルバート外側への張り出し幅dとカルバート内側への張り出し幅cとの比率d/cを「張り出し比率」と呼称する。
【0034】
このようにd>cに設計されたフーチング部材45を有するアーチカルバート40によれば、設置面Gからの地盤反力を均一化することで、フーチング部材45やアーチ部材20の側壁(カルバート脚部)に生じる曲げモーメントを極小化することができる。これにより、部材の薄肉化といった製造コスト低減や、安全性及び耐久性の向上が図られる。
【0035】
ここで、カルバート外側への張り出し幅dと、カルバート内側への張り出し幅cとの好適な関係、即ち、上記「張り出し比率d/c」の好適な数値範囲を定める方法について説明する。「張り出し比率d/c」は、アーチカルバート40に対する土かぶりの大きさに反比例する傾向にあり、フーチング部材45の幅や、土かぶりの量等に応じて適宜設計されるものである。本実施の形態に係るアーチカルバート40では、「張り出し比率d/c」は1.1〜1.9とすることが望ましいことが分かっている。この数値の根拠等については、実施例において後述する。
【0036】
(アーチ部材形状の円弧による近似)
また、
図3及び
図4を参照して上述したように、「半楕円アーチ理論」に基づき、アーチ部材20に関しカルバート内に曲げモーメントが発生しないような半楕円形状が定められるが、この様な半楕円形状のアーチ部材20を例えばプレキャストコンクリート部材により製作する場合に、運搬時の問題や製作コストの点からも、一体的な部材として製作することは極めて困難である。このような事情に鑑み、本発明者らは、アーチ部材20の半楕円形状に関し、2つの円弧でもって半楕円形状を近似し、当該2つの円弧が切り替わる箇所(変化点とも呼称される)で機械式継手を用いて接合することにより半楕円形状のアーチ部材20を構成する技術を創案した。
【0037】
図6は、半楕円形状を2つの円弧により近似した構成を示す概略説明図であり、説明の都合上、部材厚み等は省略して図示している。
図6に示すように、半楕円形状のアーチ部材20の1/4楕円弧を、2つの異なる中心O1、O2であるような2芯円弧である円弧50、60を繋げたものとして近似することができる。即ち、
図6に示す半径R1、中心O1の部分円51の円弧50と、半径R2、中心O2の部分円61の円弧60を組み合わせることでアーチ部材20の1/4楕円弧を構成し、同様の近似方法により他の部分の楕円弧も構成することでアーチ部材20全体の形状が複数の円弧により近似される。円弧50と円弧60の接合点(変化点)Qは、実際にアーチ部材20をコンクリート部材で構成する場合に、2つの部材を機械式継手を用いて接合する際の接合点となる。
【0038】
図6に示したように、アーチ部材20を2芯円弧でもって近似して構成する場合、各円弧は異なる部材(円弧部材)として製作され、例えばプレキャストコンクリートを用いたプレキャスト部材として製作される。その場合、設置面Gに設置される部材には上述したフーチング部材45が設けられるが、その際には、施工時にフーチング部材45と一体化した側壁(
図6における円弧60を含む円弧部材)が転倒せずに自立できるようなフーチング部材幅や張り出し比率でもって設計することが必要となる。
【0039】
図7は、アーチ部材20を2芯円弧で近似した場合の設置面Gに設置される円弧部材70(
図6の円弧60に相当)の概略図であり、フーチング部材45と一体的に構成されたものを図示している。このような円弧部材70の設計時には、その重心位置を測定し、施工時に部材単独で自立することができ、且つ、上述した「張り出し比率d/c」の好適な数値範囲を満たすような条件でもってフーチング部材45の位置や幅が決定される。即ち、円弧部材70の施工時の自立については、設置面Gと接する部材の核(例えばフーチング部材45の長さの中心位置から左右に、フーチング長さ×1/6の範囲)に円弧部材70の重心が作用することを確認することにより、自立できることを確認して設計条件が決定される。
【0040】
(地震時に対する有効性)
図5に示した本発明の実施の形態に係るアーチカルバート40の設計は常時について検討されたものであり、実際のカルバート構造物として用いるにあたっては、地震時に対する有効性についても確認する必要がある。そこで、本発明者らは、プレキャストコンクリートを用いて
図5に示したように構成される本発明に係るプレキャストアーチカルバートに関し、構造物の耐用期間内に発生する可能性のあるL2地震動を考慮して、FEMによる非線形応答震度法解析を実施し、地震に対する適用性について検討した。なお、L2地震動としては、陸地近傍で発生する大規模なプレート境界地震(タイプI)と、主要な活断層による内陸直下の地震(タイプII)が考えられる。
【0041】
FEMによる非線形応答震度法解析としては、地震に対する損傷程度を照査するため、対象とするカルバートに対して、構造物の重要度と必要な耐震性能を規定して、曲げモーメントとせん断力の2項目について照査が行われる。具体的には、曲げモーメントについては、発生曲率が許容塑性率以下、せん断力については、発生せん断力がせん断耐力以下であることを確認することにより、地震に対する安全性(耐震性)が確認される。
【0042】
(本発明の実施の形態に係るアーチカルバートの設計方法)
以上、
図3〜
図7を参照して説明した形状設計に鑑み、ここでは本発明の実施の形態に係るアーチカルバート40の設計方法について順を追って説明する。
1)設計条件に基づいて、先ず、基本となるアーチカルバートの軸線を設計する。この時、鉛直土圧係数αは、指定された方法により計算する。側圧係数Kは一般に0.3あるいは0.5が採用されるが、アーチカルバートの軸線を設計する際は、両者の中間値であるK=0.4とすることが望ましい。
2)上記鉛直土圧係数α、側圧係数Kを用いて、鉛直土圧及び水平土圧を算出し、上述した「半楕円アーチ理論」に基づき半楕円アーチ形状の軸線(半楕円の寸法)を定める。
3)定めた半楕円アーチ形状の軸線を2芯円弧で近似しても良い。
4)フーチング部材については、フーチング直下の地盤性状に基づく地盤の支持力を考慮すると共に、地盤反力による曲げモーメントを極小化でき、且つ、フーチングと一体化した円弧部材が地盤に自立可能であるようなフーチング幅を決定し、フーチングの内側外側の張り出し量を決定する。
5)上記2)〜4)の計算は自動計算プログラムを用いて連続的に行う。これにより、本発明の実施の形態に係るアーチカルバート40の軸線が決定される。
6)上記5)において決定されたアーチカルバート軸線を使用し、上記1)において決定された鉛直土圧係数α、側圧係数Kに基づき骨組み構造計算を実施する。その計算結果から、必要な部材厚さ、鉄筋量を求める。
7)地震時に対する耐震性の確認として、L2地震動に対するFEMによる非線形応答震度法解析を行う。
【0043】
以上の1)〜7)に説明した設計方法によって設計され、製造されたアーチカルバート40によれば、プレキャストコンクリート部材を用いたカルバート構造物において、ヒンジ構造を用いることなく、部材厚の厚みを抑え、安全性や耐久性の向上と製造コストの低減を両立させることができる。特に、大型のプレキャストアーチカルバートを施工する場合の工期短縮や耐久性の向上が実現される。また、プレキャストコンクリート部材を用いた従前のカルバート構造物に比べ、部材厚みや鉄筋使用量を低減させても従来と同等の安全性を確保でき、コストを削減することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
(本発明の変形例)
上記実施の形態においては、アーチ部材20の半楕円形状に関し、2つの円弧でもって半楕円形状を近似する技術について説明したが、半楕円形状の近似方法はこれに限られるものではない。即ち、半楕円形状のアーチ部材20の1/4楕円弧を、中心、半径の異なる3つ以上の異なる円弧を接合させて近似しても良い。
【0046】
図8は、中心の異なる3つの部分円の円弧によってアーチ部材20の1/4楕円弧が近似される場合の概略説明図である。具体的には、
図8に示すように、中心O1、半径R1の部分円81と、中心O2、半径R2の部分円82と、中心O3、半径R3の部分円83の円弧を接合してアーチ部材20の1/4楕円弧が構成され、その場合、変化点は2箇所Q1、Q2となる。
【0047】
このようにアーチ部材20の設計においては、好適な半楕円形状を「半楕円アーチ理論」に基づき定めた後、当該半楕円形状を任意の複数の部分円円弧により近似することが可能である。このように複数の部分円円弧を接続した形状として近似することで、近似精度が向上すると共に、半楕円形状のアーチ部材20をより多くの複数の円弧部材を接合して構成することが可能となる。これにより、アーチ部材20を例えばプレキャストコンクリート部材により製作する場合に、一体的な部材として製作することが困難であっても、複数の円弧部材として製作し、それらを接合してアーチ部材20を構成することで、簡易に部材が製作でき、且つ、部材製作コストの低減が実現される。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例として、本実施の形態に係るアーチカルバート(
図5等参照)において「張り出し比率d/c」を1.1〜1.9とすることの根拠について実験データ等を参照して説明する。本実施例では、本発明に係るアーチカルバートの寸法条件として、
図5を参照し、半楕円形状のアーチ部材の短径をa、長径をbとし、フーチング部材の全幅をw、フーチング部材のカルバート内側への張り出し幅をc、フーチング部材のカルバート外側への張り出し幅をdと定義して説明する。
【0049】
「張り出し比率d/c」の好適な数値範囲は、アーチ部材の短径aに対するフーチング部材の全幅wで規定されるフーチング比率w/aや、アーチカルバートの土かぶり量(以下、単に土かぶりとも記載)により異なる。
本発明者らは、実施例として、土かぶり5m、10m、20mの各条件において、アーチ部材の寸法条件一定のもとで、フーチング比率w/aが0.2、0.4、0.6、0.8であるそれぞれの場合について「張り出し比率d/c」を1.00〜2.40まで変化させた時のアーチ部材下端部(脚部)に発生する曲げモーメント(kN・m)を測定した。
【0050】
以下の表1は、土かぶり5mの条件下で、フーチング幅を「フーチング比率w/a」で0.2、0.4、0.6、0.8とした場合のそれぞれにおいて、「張り出し比率d/c」を1.00〜2.40まで変化させた時のアーチ部材下端部(脚部)に発生した曲げモーメント(kN・m)を示したものである。また、
図9は、表1に対応するグラフである。
【0051】
【表1】
【0052】
また、以下の表2は、土かぶり10mの条件下で、フーチング幅を「フーチング比率w/a」で0.2、0.4、0.6、0.8とした場合のそれぞれにおいて、「張り出し比率d/c」を1.00〜2.40まで変化させた時のアーチ部材下端部(脚部)に発生した曲げモーメント(kN・m)を示したものである。また、
図10は、表2に対応するグラフである。
【0053】
【表2】
【0054】
また、以下の表3は、土かぶり20mの条件下で、フーチング幅を「フーチング比率w/a」で0.2、0.4、0.6、0.8とした場合のそれぞれにおいて、「張り出し比率d/c」を1.00〜2.40まで変化させた時のアーチ部材下端部(脚部)に発生した曲げモーメント(kN・m)を示したものである。また、
図11は、表3に対応するグラフである。
【0055】
【表3】
【0056】
本発明に係るアーチカルバートにおいて、盛土施工時にアーチ部材下端部(脚部)に発生する曲げモーメントを0にすることが究極的な目標となる。この点に鑑み、上記表1〜表3及び
図9〜
図11を参照すると、土かぶり5m、10m、20m、また、「フーチング比率w/a」が0.2、0.4、0.6、0.8のいずれの条件下においても、「張り出し比率d/c」が1.10〜1.90の範囲内で発生する曲げモーメントが0となるような条件が存在していることが分かる。
【0057】
本実施例に基づき、本発明に係るアーチカルバートにおいては、「張り出し比率d/c」は1.1〜1.9とすることが望ましいことが分かった。