【解決手段】筋かい本体21の端部側を筋かい本体21の長手方向に相対移動可能に挿通保持しており柱材の側部に固定金具を介して固定される保持部22と、筋かい本体21の端部に形成されて架構構築の初期位置において保持部22の長手方向の柱材側の端部に接して筋かい本体21の抜け止めをする抜け止め部23と、保持部22に形成されて回転の入力で内部の筋かい本体21に対する接触時の摩擦力を増減させる締め付け機構24と、筋かい本体21の直線運動に従って締め付け機構24に回転を入力する変換機構25を備える。変換機構25は、筋かい12に圧縮力がかかった場合に、筋かい本体21の移動に従って締め付け機構24による締め付け力を増大させて、筋かい本体21との間で常に所定の摩擦力が作用する状態をつくる。この状態で筋かい本体21を移動させて振動のエネルギーを消散させて、架構の揺れを抑制する。
前記変換機構が、前記筋かい本体における前記保持部よりも長手方向の両側部位に端部が固定されて前記筋かい本体の進退に伴って移動する牽引部材と、前記牽引部材の移動に伴って回動して前記締め付け機構に回転を伝達する回動アームを備えた
請求項3から請求項5のうちいずれか一項に記載の筋かい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は建築物の揺れを抑制することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段は、架構における柱材と柱材の間に斜めに固定される筋かいに備える筋かいの制振装置であって、筋かい担体の端部側を前記筋かい担体の長手方向に相対移動可能に挿通保持する保持部と、前記筋かい担体の端部に形成されて架構構築の初期位置において前記保持部の長手方向の端部に接して前記筋かい担体を前記保持部から抜け止めする抜け止め部と、前記保持部に形成されて回転の入力によって内部の前記筋かい担体に対しての接触時の摩擦力を増減させる締め付け機構と、前記抜け止め部を前記保持部から離す前記筋かい担体の突出し方向への直線運動を前記締め付け機構が発揮する摩擦力を増加させる回転に変換する一方で、前記保持部から離れている前記抜け止め部を前記保持部に近づける前記筋かい担体の後退方向への直線運動を前記締め付け機構が発揮する摩擦力を低下させる回転に変換する変換機構を備えた筋かいの制振装置である。
【0010】
別の手段は、架構における柱材と柱材の間に斜めに固定される筋かいであって、筋かい本体の端部側を前記筋かい本体の長手方向に相対移動可能に挿通保持する保持部と、前記保持部を前記柱材の側部に固定する固定金具と、前記筋かい本体の端部に形成されて架構構築の初期位置において前記保持部の長手方向の前記柱材側の端部に接して前記筋かい本体の抜け止めをする抜け止め部と、前記保持部に形成されて回転の入力で内部の前記筋かい本体に対する接触時の摩擦力を増減させる締め付け機構と、前記抜け止め部を前記保持部から離す前記筋かい本体の突出し方向への直線運動を前記締め付け機構が発揮する摩擦力を増加させる回転に変換する一方で、前記保持部から離れている前記抜け止め部を前記保持部に近づける前記筋かい本体の後退方向への直線運動を前記締め付け機構が発揮する摩擦力を低下させる回転に変換する変換機構を備えた筋かいである。
【0011】
これらの構成では、風圧力や地震力、つまり外力が作用して架構が変形し、引張力が作用した場合には、抜け止め部が保持部の端部に接して引張力に抵抗する。一方、圧縮力が作用した場合には、締め付け機構によって摩擦力で以て締め付けられている筋かい担体又は筋かい本体が、圧縮力に対抗する。圧縮力が増大して締め付け力を超えると、筋かい担体又は筋かい本体は、締め付け機構で締め付けられた状態のまま、抜け止め部が保持部から離れる突出し方向へ移動する。この移動に伴って変換機構が締め付け機構に回転を入力して筋かい担体又は筋かい本体に対する摩擦力を増加させる。移動する筋かい担体又は筋かい本体は、動摩擦係数は静止摩擦係数よりも低いので移動しやすくなるところを、摩擦力を増加させて締め付け、移動を抑制しながら、摩擦力で揺れのエネルギーを消散して、揺れを減衰させる。
【0012】
揺れによって架構が元に戻る方向に変形する場合には、突出し方向に移動して抜け止め部を保持部の端部から離していた筋かい担体又は筋かい本体は、架構の戻りの変形に伴って抜け止め部を保持部の端部に近づける後退方向に移動する。このとき変換機構は締め付け機構に前述とは逆の回転を入力して筋かい担体又は筋かい本体に対する摩擦力を低減しながら引張力に抵抗する。
【0013】
このように、外力により架構の変形が大きくなるに従って、引張力に対しては確固とした抵抗をする一方で、圧縮力に対しては圧縮力の増大に従って筋かい本体又は筋かい本体に対する摩擦力を増大しながら、常に所定の摩擦力が発揮される状態を作出し、摩擦力によって揺れのエネルギーを消散させて揺れを減衰し、共振現象の発生を防止し、建築物の損壊を回避する。
【0014】
前述の筋かいに係る発明の態様として、前記保持部が前記筋かい本体の全周を囲む筒形であるとともに、前記締め付け機構を、前記保持部の外周側から内部の前記筋かい本体に対して突き当たる押圧ピンを備えたものとすることができる。
【0015】
この構成では、筒状の保持部が筋かい本体を強力に保持する。また締め付け機構が押圧ピンの接触で筋かい本体に対する摩擦力を増減させるので、摩擦力は押圧ピンなどの材質に固有の静止摩擦係数に基づいて容易に算出できて、所望の性能を発揮させることができる。
【0016】
別の態様として、前記締め付け機構が、前記保持部よりも外周側に位置して前記保持部に対して相対変位不可の外部壁と、前記外部壁に形成された雌ねじ部に螺合して回転可能なねじ軸部を有し、前記押圧ピンの頭部には、前記ねじ軸部の先端が相対回転可能に嵌合する嵌合凹部が形成され、前記押圧ピンの頭部における前記嵌合凹部より外周部位と前記ねじ軸部との間に、離間方向に付勢する付勢手段が備えられたものとすることができる。
【0017】
この構成では、付勢手段の選定によって締め付け機構による初期荷重・摩擦力が設定される。また施工前において、押圧ピンと筋かい本体との間に適正な初期摩擦力が得られるようにねじ軸部の締め付け量を確認したあとで、押圧ピンと保持部との間に介装材を挟みこんで付勢手段に抗して押圧ピンを筋かい本体から離しておく。そして、施工で筋かいを所定の状態に設置したのち、介装材を外すと、押圧ピンと筋かい本体との間に適正な初期摩擦力が得られる。
【0018】
付勢手段には、例えば皿ばねを好適に使用できる。皿ばねを用いると、変形の程度に応じて応力を算出しやすいからである。
【0019】
別の態様として、前記変換機構が、前記筋かい本体における前記保持部よりも長手方向の両側部位に端部が固定されて前記筋かい本体の進退に伴って移動する牽引部材と、前記牽引部材の移動に伴って回動して前記締め付け機構に回転を伝達する回動アームを備えたものとすることができる。
【0020】
この構成では、牽引部材が回動アームを回動させて締め付け機構に回転を入力するので、牽引部材の移動量を正確に回動アームの回動量、つまり締め付け機構に対する回転の入力に変換できる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば建築物の揺れを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0024】
図1は、筋かいの制振装置11(以下、「制振装置」という)と、制振装置11を備えた筋かい12と、筋かいを備えた建築物の架構の一部を示している。この図に示すように筋かい12は、基礎13の上の土台14と、土台14の上に間隔をあけて立設された柱材15と、柱材15の上の梁材16で囲まれた空間内に、斜めに固定されるものであり、X字状に交差させて2本配設される。
【0025】
柱材15間には横に延びる複数本の貫17を備えている。筋かい12は、
図1のA1−A1断面を示す
図2の(a)とA2−A2断面を示す
図2の(b)に示したように、貫17に形成された斜めの切欠き17aを貫通して延びている。切欠き17aは筋かい12の交差部位から離れた個所では貫担体17bの双方に、交差部位に近い箇所では貫担体17bのいずれか一方に形成される。貫17は、筋かい12を挟み付けるように接合される2本の貫担体17bで構成されており、想定される変形荷重を考慮して適宜のピッチで配設される。図示は省略するが、柱材15にはホールダウン金物が取り付けられる。
【0026】
筋かい12は固定状態において、圧縮力が作用して架構が変形するときに揺れを抑制、換言すれば揺れを減衰し、揺れの増幅を防止する機能を有しており、そのための制振装置11が筋かい12の一方の端部、図示例では、下方の端部に備えられている。
【0027】
すなわち、筋かい12は、固定状態において斜めに延びることになる鋼製の筋かい本体21と、筋かい本体21の一方の端部に備えられる制振装置11で構成されており、筋かい12の両端は柱材15の側部、具体的には土台14と柱材15、又は柱材15と梁材16の角に固定金具18で固定される。
【0028】
筋かい12の他方の端部、
図1の例では上方の端部は、固定金具18に対して筋かい12の長手方向に不動に固定されている。このような固定は、例えば
図1に一部を拡大してしますように、筋かい本体21の端部を固定金具18の一部の筒状部18aに挿通して保持させて、この筒状部18aを挟む位置にナット19を螺合して挟み付けるとよい。
【0029】
図3、
図4、
図5に制振装置11を示す。
図3は制振装置11の外観を示しており、
図3の(a)は制振装置11の正面から見た状態であり、(b)は平面から見た状態であり、いずれも
図1の施工状態では傾くものを水平にして描いている。
図4の(a)は
図3(b)のC−C断面図であり、
図4の(b)は
図3(a)のB−B断面図である。
図5の(a)は
図4(b)のD−D断面図であり、
図5の(b)は
図4(b)のE−E断面図である。
【0030】
これらの図に示すように制振装置11は、筋かい本体21の端部側を筋かい本体21の長手方向に相対移動可能に挿通保持する保持部22と、筋かい本体21の端部に形成されて架構構築の初期位置において保持部22の長手方向の端部に接して筋かい本体21を保持部22から抜け止めする抜け止め部23と、保持部22に形成されて回転の入力によって内部の筋かい本体21に対しての接触時の摩擦力を増減させる締め付け機構24を備えている。
【0031】
また、締め付け機構24に回転を入力するために、筋かい本体21の直線運動を回転運動に変換する変換機構25も備えている。変換機構25は、抜け止め部23を保持部22から離す筋かい本体21の突出し方向(図面において矢印Xで示す方向)への直線運動を締め付け機構24が発揮する摩擦力を増加させる回転に変換する一方で、保持部22から離れている抜け止め部23を保持部22に近づける筋かい本体21の後退方向(図面において矢印Yで示す方向)への直線運動を締め付け機構24が発揮する摩擦力を低下させる回転に変換するものである。
【0032】
以下、各部の構成について具体的に説明する。
【0033】
保持部22は、筋かい本体21の全周を囲む筒形であり、筋かい本体21に嵌合対応する断面形状に形成されている。筋かい本体21が中実の断面円形であるので、保持部22は円筒形である。保持部22の内径は、筋かい本体21を挿入して軸方向に相対移動可能であるとともに、がたつかない大きさに設定されている。
【0034】
保持部22の長さは、筋かい本体21を安定して保持できる適宜の長さである。また、保持部22の長手方向の一端部、詳しくは固定金具18(
図1参照)に固定される側と反対側の端部の外周面には、側面を平らにするため、四角柱状の角柱状部22aが形成されている。角柱状部22aの軸方向の長さは、軸方向に直交する縦方向の長さと同程度か、それよりも長く形成される。
【0035】
このような形状の保持部22は、前述の固定金具18に固定される保持器31に固定一体化されている。
【0036】
保持器31は、金属板で形成されており、底板32と、底板32の両側縁で起立する側壁33を備えている。底板32は、前述の保持部22よりも幅広に形成されており、側壁33は保持部22の高さよりも若干高く形成されている。
【0037】
保持器31の底板32は保持部22を固定する部位であり、保持部22は底板32における幅方向の中間位置、つまり両側に位置する側壁33との間に等しい間隔を形成できる位置に、側壁33の長手方向と平行に固定されている。底板32における保持部22を固定する部位の長さは、保持部22と同じ長さであり、保持部22における角柱状部22aと反対側の端部には、保持部22の端部に接する座金34が備えられる。座金34の中央の穴は、筋かい本体21を貫通させる貫通穴34aである。座金34は保持部22や底板32に対して非固定状態でよいが、固定しても構わない。
【0038】
保持器31の側壁33における保持部22の角柱状部22aと反対側の部位は、固定金具18に対して取り付けられる取り付け部33aである。保持器31における取り付け部33aに対応する部位は、底板32を有しておらず、取り付け部33aの端部には、固定金具18に対する固定のための貫通穴33bが形成されている。
【0039】
また、保持器31における保持部22の角柱状部22aに対応する部位には、締め付け機構24を形成するための覆い部35が一体に形成されている。覆い部35は、保持器31を構成する金属板の厚さよりも厚い金属材で形成されており、
図5の(a)に示したように、保持部22を底板32との間に挟み込むとともに、保持部22を両側面側からも覆う断面逆U字形である。つまり、覆い部35は保持部22を押さえ込む押さえ部36と、押さえ部36の両側から垂設された外部壁37を有している。
【0040】
覆い部35のうち保持器31の側壁33に並ぶ外部壁37は、保持部22よりも外周側に位置して保持部22に対して相対変位不可である。外部壁37の内側面は側壁33の内側面と面一にしている。
【0041】
保持部22と保持器31と覆い部35は、溶接などの適宜手段で互いに結合一体化される。
【0042】
筋かい本体21に形成される前述の抜け止め部23は、筋かい本体21よりも大径に形成されている。具体的には抜け止め部23は、筋かい本体21における対応する端部に雄ねじ(図示せず)を形成し、この雄ねじにナットを螺合して、このナットを抜け止め部23として構成することができる。抜け止め部23をナットで構成すると、筋かい本体21の長手方向における位置調整ができる利点もある。ナットではなく適宜の筒状体をビスやピン、溶接等の適宜手段で固定して抜け止め部23とすることもできる。抜け止め部23は、筋かい本体21に保持部22から抜ける方向の力がかかった場合に、保持部22の角柱状部22aと反対側の端部、より正確には座金34に接して、筋かい本体21の抜け止めを行う。
【0043】
前述の締め付け機構24は、前述した覆い部35の左右両側の外部壁37と、外部壁37に形成された雌ねじ部37aに螺合して回転可能なねじ軸部38と、保持部22の外周側から内部の筋かい本体21に対して突き当たる押圧ピン39を有している。
【0044】
ねじ軸部38は、外部壁37の外側位置から保持部22の角柱状部22aの手前位置まで延びるものであり、長手方向の全体に雄ねじ38aが形成されている。ねじ軸部38の頭部38bには、前述の変換機構25を構成する回動アーム41が一体に形成されている。
【0045】
また、ねじ軸部38の長手方向の中間部、すなわちねじ軸部38を雌ねじ部27aに螺合した状態で外部壁37よりも内側に位置する部位には、ナット42が螺合されて、ねじ軸部38と相対変位不可に固定されている。ナット42の固定は溶接やピン、ビス等の適宜手段で行われる。
【0046】
押圧ピン39は、頭部39aと軸部39bを有しており、頭部39aは、ねじ軸部38に固定したナット42と同程度の直径に形成されている。軸部39bはねじを有さず、頭部39aより小径の丸棒状である。軸部39bの太さは、筋かい本体21の側面に当接して摩擦力を発揮できる適宜の直径に形成されている。軸部39bの先端には、丸棒状の筋かい本体21の周面に適合する円弧状に凹む円弧凹面39cが形成されている。押圧ピン39には、例えばアルミ合金製のものが好適に用いられる。これはアルミ合金の静止摩擦係数が高いからである。
【0047】
このような押圧ピン39を備えるため、保持部22の角柱状部22aの両側面には、丸穴43が貫通形成されている。丸穴43は、押圧ピン39の軸部39bが軸部39bの長手方向に相対移動可能に挿入される部分である。
【0048】
押圧ピン39の頭部39aには、ねじ軸部38の螺合により押圧ピン39に対して進退するねじ軸部38の押圧力を伝達するため、ねじ軸部38の先端が相対回転可能に嵌合する嵌合凹部44が形成されている。嵌合凹部44は、ねじ山を有しない丸穴で構成されている。
【0049】
そして、押圧ピン39とねじ軸部38との間、具体的には押圧ピン39の頭部39aにおける嵌合凹部44より外周部位とねじ軸部38の長手方向の中間部に備えたナット42との間には、離間方向に付勢する付勢手段として皿ばね45が備えられている。
【0050】
皿ばね45には、押圧ピン39の材質のもつ静止摩擦係数などに応じて、押圧ピン39の先端を筋かい本体21に当接して所定の摩擦力を発揮させられるものを選定して使用する。
【0051】
嵌合凹部44の深さは、押圧ピン39とねじ軸部38との間に皿ばね45を介在させて所定の摩擦力を押圧ピン39の先端に発揮させた状態で嵌合凹部44の底面とねじ軸部38との間に所定の隙間ができるように設定されている。
【0052】
所定の隙間とは、
図6に示したように、押圧ピン39の頭部39aと保持部22の角柱状部22aとの間に介装材46を挟んで押圧ピン39を皿ばね45の付勢力に抗して後退させ、押圧ピン39の先端面、つまり円弧凹面39cを筋かい本体21の表面から僅かに浮かせた状態にできる隙間であって、隙間の大きさは各部の大きさに基づいて適宜設定される。
【0053】
介装材46は、筋かい12を柱材15等に固定する前の段階、つまり施工前に、強い摩擦力で押圧ピン39が筋かい本体21に接することなく、架構構築の初期位置に正しく対応させることができるようにするための構成要素であり、筋かい12を柱材15等に対して固定したあとで
図7の(a)に仮想線で示したように取り除かれるものである。
【0054】
介装材46には適宜の構成のものを使用できるが、この例の介装材46は金属製のピンで構成している。介装材46は、
図7の(b)に示したように、押圧ピン39の軸部39bを取り囲む内径のU字状をなす本体部46aと、本体部46aの一部から突出してU字状をなす取外し用の凸部46bを一連に有する形状である。
【0055】
前述の変換機構25は、筋かい本体21における保持部22よりも長手方向の両側部位に端部が固定されて筋かい本体21の進退に伴って移動する牽引部材51と、牽引部材51の移動に伴って回動して締め付け機構24に回転を伝達する前述の回動アーム41を備えている。
【0056】
前述のように回動アーム41は締め付け機構24のねじ軸部38と一体であり、保持器31の覆い部35における外部壁37の外側位置で、保持器31の底板32と反対側に延びている。回動アーム41は左右に一対設けられ、一対の回動アーム41の先端同士は連結バー52で連結されて一体である。つまり、一対の回動アーム41は一体に回動動作する。
【0057】
一対の回動アーム41が一方、つまり固定金具18側に回動した場合、換言すれば筋かい12の長さが短くなる方向の回動が起こった場合に締め付け機構24による締め付け力を増大させ、他方に回動した場合に締め付け機構24による締め付け力を低減するものであるため、前述した締め付け機構24における外部壁37の雌ねじ部37aと、ねじ軸部38の雄ねじ38aのねじの向きは、
図5の(b)に示したように左右で違えている。具体的には、回動アーム41を上に向けた姿勢において固定金具18方向を見たときに、右側に位置する雄ねじ38aは、固定金具18側への回動(右回転)で螺進するため通常のねじであり、反対側の左側に位置する雄ねじ38aは逆ねじである。
【0058】
牽引部材51は、ワイヤ又は金属製の棒状体で構成される。牽引部材51は、筋かい本体21と連結バー52との間に張設される。筋かい本体21の所定位置には牽引部材51の端部を固定するための固定鍔部53が設けられる。固定鍔部53は、筋かい本体21に固定されるナットなどの適宜の筒状体54に挟んで固定される。筒状体54としてナットを用いると、筋かい本体21上での位置調整ができる利点がある。筒状体54の固定は、別のビスやピンを差し込んでの固定や溶接などによる固定でも行える。
【0059】
図示例において牽引部材51は、3本ずつ設けたが、最短距離を結ぶ1本ずつで構成してもよい。牽引部材51をワイヤで構成する場合は、たるみを防止するためにコイルバネなどからなる付勢のための部材を設けてもよい。
【0060】
ここで、前述した架構構築の初期位置における締め付け機構24の押圧ピン39と筋かい本体21との関係について説明する。
【0061】
2本の押圧ピン39の先端の円弧凹面39cは筋かい本体21の両側面を挟み付けて圧縮している。つまり、筋かい本体21と押圧ピン39とのずれを阻止する摩擦力が作用した状態である。このときの摩擦力を作用させる初期荷重は、筋かい本体21の降伏点を考慮して設定される。
【0062】
以上のように構成された制振装置11を備えた筋かい12は、次のような作用を有する。
【0063】
図8に前述の筋かい12を交差させてX字状に2本備えた架構の一部を示す。これと対比させるため
図9に、従来の鋼製の筋かい101,102を交差させてX字状に2本備えた架構の一部を示す。
図8、
図9の実線で表した矢印は、部材に働く応力を示している。白抜き矢印は外力を示している。
【0064】
外力が図面左方からかかった場合、従来の架構では
図9に示したように、図面左下から右上にかけて延びる筋かい101は引張筋かいとして作用し、図面右側の柱材103には圧縮の力がかかる。一方、図面左上から右下にかけて延びる筋かい102は圧縮筋かいとして作用し、図面左側の柱材104には引張の力がかかる。
【0065】
そして鋼製の筋かい101,102は圧縮耐力が引張よりも小さく、両端が緊結されており不動であるので、架構が変形し、
図9において左上から右下にかけて延びる筋かい102に過大な圧縮力が作用した場合には、変形が増長され、揺れは大きなものとなる。
【0066】
この点、前述の筋かい12を用いた架構では、
図8に示したように、圧縮筋かいとして作用する、図面左上から右下にかけて延びる筋かい12aに過大な応力が発生することを回避して揺れを抑制する。
【0067】
具体的には、筋かい12に圧縮力が作用すると、
図10の(a)に示したように、筋かい本体21が保持部22を有する方向(矢印X参照)に移動し、抜け止め部23が保持部22から離れて筋かい本体21が保持部22から突き出す方向の力がかかる。このとき、筋かい本体21は押圧ピン39によって締め付けられており、初期荷重を生じさせる所定の摩擦力が作用しているので、初期荷重を超える力が作用しない限り、筋かい本体21と押圧ピン39の相対移動は生じず、圧縮筋かいとして機能する。
【0068】
しかし、筋かい12の降伏点を超えるような過大な外力がかかって初期荷重を超える力が作用すると、筋かい本体21は押圧ピン39の先端をすべり、
図10の(a)に仮想線で示したように保持部22から突き出す方向(矢印X参照)に移動する。摩擦力が作用している状態で移動がなされるので、振動エネルギーが消散され、振動が減衰される。つまり揺れが抑制される。
【0069】
動摩擦係数は静止摩擦係数よりも小さいので、何もしないそのままであれば、筋かい本体21は突き出す方向へ容易に移動してしまう。ところが、前述の筋かい12の場合には、
図10の(a)に仮想線で示したように、筋かい本体21の移動と同期して変換機構25の一方の牽引部材51、つまり筋かい本体21の移動方向先端側の牽引部材51が連結バー52を引っ張ることによって回動アーム41が回動する。
【0070】
図10の(b)に示したように、回動アーム41が筋かい本体21の移動方向(
図10において矢印Xで示す方向)と同じ方向に回動することによって、
図11に示したように締め付け機構24のねじ軸部38は回転し、ねじ軸部38を螺進させ、押圧ピン39を押圧する。これによって、筋かい本体21は皿ばね45を介して筋かい本体21を圧縮し、摩擦力を増大させる。このため、筋かい本体21の突出し方向(
図10において矢印Xで示す方向)への更なる移動が抑制されて、筋かい12は圧縮筋かいとして機能する。つまり、架構の変形が大きくなるに従って筋かい本体21を締め付ける摩擦力を大きくする。
【0071】
そして、押圧ピン39による摩擦力を超える圧縮力が作用すると、押圧ピン39と筋かい本体21との間にずれを生じさせて、前述と同様に摩擦による振動エネルギーの消散がなされ、揺れが抑制される。
【0072】
このように、架構の変形に従って筋かい本体21を締め付ける摩擦力を大きくする、いわば非線形に減衰する摩擦力の線形化を行って、常に所定の摩擦力が作用する状態をつくり出して、揺れを抑制する。
【0073】
図10の(b)に示したように、筋かい本体21が突き出した状態において、前述の図面左方からの外力とは逆方向の外力がかかって引張筋かいとして作用することになる場合には、押圧ピン39と筋かい本体21との間に生じている荷重によって、引張力に抵抗する。両者間に生じている荷重を超えた引張力が作用すると、筋かい本体21は前述とは逆に、抜け止め部23を保持部22に近づける方向(
図10において矢印Yで示す方向)に移動する。この移動によって変換機構25における筋かい本体21の移動方向先端側の牽引部材51が連結バー52を引っ張り、回動アーム41はねじ軸部38を後退させる方向に回動する。これによって、押圧ピン39が筋かい本体21に対して作用させる摩擦力が低下するも、そのときに生じさせている荷重によって、引張力に抵抗する。最終的には、抜け止め部23が保持部22、詳しくは座金34に接した状態で強力に抵抗する。
【0074】
外力がかかったときに引張筋かいとして作用する筋かい12b(
図8の左下から右上に延びる筋かい)は、抜け止め部23を保持部22に接触させた状態で引張力に強力に抵抗する。
【0075】
このように、筋かい12は引張力に対しては強力に抵抗して引張筋かいとして機能する。そして、圧縮筋かいとして機能する場合にも、前述のように架構の変形が大きくなるに従って圧縮筋かいの筋かい本体21を締め付ける摩擦力を大きくするという特異な構成によって、圧縮筋かいとして十分に機能させつつ、揺れを抑制する。また、制振装置11が作用して筋かい本体21の突出し方向への移動がなされた状態において、筋かい本体21を締め付ける摩擦力が増大する構成であるとともに、逆の力が作用した場合には摩擦力を低減する、往復動可能な構成であるので、架構の揺れを効果的に抑制できる。この結果、共振の発生も抑制でき、建築物が損壊して人が下敷きになるような事故を減らすことができる。
【0076】
前述のように締め付け機構24に皿ばね45を備えており、筋かい本体21に対する初期荷重を自由に設定できるので、架構における部位ごとに初期荷重を定めることによって、部位ごとの強度や振動時の位相を変えられ、振動の仕方を制御することもできる。
【0077】
また、前述のように筋かい本体21を保持する保持部22は、筋かい本体21の全周を囲む筒形であるので、筋かい本体21を強力に保持でき、一体性を高められる。この結果、前述の作用を確実に行わせることができる。
【0078】
さらに、締め付け機構24は、保持部22の外周側から内部の筋かい本体21に対して突き当たる押圧ピン39を備えた構成であるので、筋かい本体21に対して作用させる摩擦力を所望に応じて設定しやすい。このため、所望の性能を有する筋かいを比較的容易に得られる。
【0079】
締め付け機構24は、施工時に初期荷重がかかった状態とするものであるが、締め付け機構24を、外部壁37と、外部壁37の雌ねじ部37aに螺合するねじ軸部38と、押圧ピン39で構成し、押圧ピン39とねじ軸部38との間に皿ばね45を備えた構成であるので、施工前の段階では前述のような介装材46を押圧ピン39と保持部22との間に介装して筋かい本体21に初期荷重がかからない状態にすることができる。このため、施工が容易に、しかも正確に行える。
【0080】
変換機構25は、牽引部材51と回動アーム41で構成しているので、比較的簡素でコンパクトな構成とすることができる。
【0081】
以下に、その他の例について説明する。この説明において、前述の構成と同一の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0082】
図12は、締め付け機構24の押圧ピン39の他の例を示す断面図である。この図に示すように、押圧ピン39の先端は平坦であってもよい。
【0083】
図13は、保持部22の他の例を示す断面図である。前述例の保持部22は一端部に角柱状部22aを備えたが、
図13に示したように、保持部22を全体が円筒形をなすパイプで構成して、その保持部22の一端部の両側面に座金などの板材27を溶接等で固定してもよい。板材27が介装材46を受ける面となる。
【0084】
図14は、牽引部材51の他の例を示す平面図である。前述例では、牽引部材51が筋かい本体21の軸心の上方を軸心に沿って延びる例を示したが、
図14に示したように、牽引部材51における筋かい本体21側に取り付ける部分が二股に分かれる態様で配設し、筋かい本体21に対しては、二股に分かれた態様の2本の牽引部材51の端部を軸心に近い上下方向の中間位置に固定している。このように構成することによって、より安定した牽引が行えることになる。
【0085】
図示は省略するが、締め付け機構24は、押圧ピン39に代えて、筋かい本体21を掴む断面C字形の金具を用いてもよい。
【0086】
押圧ピン39と筋かい本体21の互いに接する面は、鏡面であるほか、粗面であってもよい。
【0087】
また前述例では、締め付け機構24と変換機構25を一つずつ備えた例を示したが、筋かい本体21の長手方向に、2連式など複数備えてもよい。複数備えることにより、1箇所の皿ばね45に持たせる荷重を小さくすることができ、締め付け機構24の耐荷重性を低くすることができる。
【0088】
制振装置11は、筋かい12の下端部に備えた例を示したが、上端や、長手方向の中間部に備えてもよい。制振装置11を長手方向の中間部に備えて筋かい12を構成する場合には、前述の筋かい本体21に対応する部材は、この発明における筋かい担体となる。