【解決手段】噴射装置は、燃焼容器と、燃料供給源と、レーザ照射部とを具備する。燃焼容器は、ガス噴射口を有する。燃料供給源は、燃焼容器内に供給するイオン性液体を吸蔵することが可能な燃料吸蔵体を含む。レーザ照射部は、燃料吸蔵体にレーザ光を照射することができる。これにより、イオン性液体が使用され毒性が緩和され、イオン性液体を燃焼容器に送り込むための高圧ガス機構を要さず、噴射装置が小型になり、イオン性液体をレーザによって着火するので、触媒が不要になり、噴射装置の寿命が触媒の寿命によって左右されなくなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態に係る噴射装置の模式的断面図である。
【0011】
図1には、噴射装置100の概略的な構成が示されている。
図1では、燃焼容器10のノズル部10nから蓋部10cに向かう方向をZ軸方向、レーザ照射部30から燃料供給源20に向かう方向をY軸方向、Z軸方向及びY軸方向に直交する方向をX軸方向としている。
【0012】
図1に示す噴射装置100は、燃焼容器10と、燃料供給源20と、レーザ照射部30とを具備する。噴射装置100は、例えば、ガス噴射口10jから噴射ガスを噴射するガス噴射装置として用いられる。
【0013】
燃焼容器10は、例えば、筒状の金属製容器である。燃焼容器10の内部は、中空状である。燃焼容器10は、蓋部10cと、筒状体部10bと、ノズル部10nとを有する。筒状体部10bは、蓋部10cに連結され、ノズル部10nは、筒状体部10bに連結される。蓋部10cとノズル部10nとは、筒状体部10bを介して対向配置されている。例えば、ガス噴射口20jから蓋部10cに向かう方向は、レーザ照射部30から燃料供給源20に向かう方向に直交する。ノズル部10nには、例えば、蓋部10cから離れるにつれテーパ状に広がる空間が形成されている。この空間は、燃焼容器10のガス噴射口10jとして機能する。
【0014】
燃焼容器10を上方から見た場合の外形は、例えば、円形状である。燃焼容器10の外形は、円形状に限らず、三角形、四角形等の多角形でもよい。燃焼容器10の外径は、一例として、50mm以下であり、燃焼容器10の長さは、100mm以下に構成されている。
【0015】
燃料供給源20は、収容部21と、移送部22とを有する。収容部21は、イオン性液体40を収容する小型の容器である。収容部21は、例えば、金属材、無機材、有機樹脂、無機樹脂等のいずれかで構成されている。
図1の例では、球体の収容部21が示されている。収容部21は、直方体でもよく、チューブ体でもよい。
【0016】
但し、収容部21が有機樹脂、無機樹脂等のフレキシブル材で構成されている場合、噴射装置100が宇宙空間に置かれた場合に収容部21に空気が存在すると、収容部21内の空気の自発的な膨脹が予想される。このため、噴射装置100を宇宙空間で使用する場合には、収容部21に空気が存在していないことが望ましい。
【0017】
移送部22は、燃焼容器10と収容部21との間に設けられる。移送部22は、筒状体26と、筒状体26内に配置された燃料吸蔵体25aとを有する。移送部22は、Y軸方向において、一方の側が筒状体部10bに取り付けられ、他方の側が収容部21に接続されている。なお、移送部22の一方の側は、筒状体部10bに限らず、蓋部10cに取り付けられてよい。但し、この場合には、燃料吸蔵体25aがレーザ光30Lによって照射される配置構成が必要になる。
【0018】
燃料吸蔵体25aは、Y軸方向において、一方の側が燃焼容器10内に露出され、他方の側がイオン性液体40に接する。燃料吸蔵体25aは、供給されるイオン性液体40を保持できるものならば制限はないが、例えば、炭素繊維、セラミック多孔質体、合成樹脂繊維等が好ましく使用できる。例えば、炭素繊維の一例としては、カーボンウール等が適用される。
【0019】
燃料吸蔵体25aは、例えば、炭素繊維間(または、多孔質体)の毛細管現象によって燃料吸蔵体25aを収容部21から吸収することができる。さらに、燃料吸蔵体25aがイオン性液体40を吸収した後において、イオン性液体40の密度が収容部21側よりも燃焼容器10側の低くなった場合には、毛細管現象によって、イオン性液体40が収容部21側から燃焼容器10側に自発的に浸透移動する。このようなイオン性液体40の自発的な移動により、移送部22は、収容部21から燃焼容器10にイオン性液体40を移送することができる。
【0020】
イオン性液体40は、融点100℃以下の塩で、室温で液体として存在しているものが好ましく、例えば、共融型イオン性液体である。例えば、イオン性液体40は、アンモニウムジニトラミド(ADN)/メチルアミン硝酸塩/尿素を含む。それぞれの配合比は、例えば、60wt%/30wt%/10wt%である。その他、イオン性液体40は、例えば「イオン液体を用いた高性能低毒性推進剤の研究開発」(宇宙航空研究開発機構研究開発報告 JAXA-RR-15-004)、特開2002-020191号公報、特開2015-218096号公報に記載の態様で使用することができる。
【0021】
レーザ照射部30は、燃料吸蔵体25aに対向配置される。例えば、Y軸方向において、レーザ照射部30は、燃料供給源20に並ぶ。これにより、レーザ照射部30から発せられたレーザ光30Lが効率よく燃料吸蔵体25aの露出面25Eに照射される。レーザ光30Lは、例えば、パルスレーザ光である(波長:980nm、4W、ビーム径10mm)。レーザ照射部30は、制御部310から供給される電気信号系31によって制御されている。レーザ光30Lは、燃料吸蔵体25aに垂直に入射されてもよく、斜めに入射されてもよい。制御部310は、不図示の指示装置の指示に基づいて、レーザ照射部30を制御する制御信号を送信する。なお、制御部310は、燃焼容器10内に設けられた不図示の圧力センサの検知した圧力や温度センサの検知した温度によりレーザ照射部30のレーザ発光を制御するようにしてもよい。
【0022】
また、噴射装置100においては、移送部22から筒状体26を取り除き、燃料吸蔵体25aを収容部21と燃焼容器10との間で露出させてもよい。燃料吸蔵体25aの一部を露出させても、イオン性液体40は、燃料吸蔵体25aから蒸発しにくく、燃料吸蔵体25aに貯蔵されることになる。
【0023】
また、噴射装置100を短期間で使用する場合には、燃料供給源20から収容部21を取り除いてもよい。この場合、燃料供給源20は、燃料吸蔵体25aを含み、例えば、燃焼容器10内に供給されるイオン性液体40を含んだ燃料吸蔵体25aがレーザ光30Lに照射され得る位置において筒状体部10b内に取り付けられる。
【0024】
噴射装置100の動作の一例を説明する。
【0025】
図2(a)は、本実施形態に係る噴射装置の動作を示す模式的断面図である。
図2(b)は、本実施形態に係る噴射装置の燃焼時の時間とレーザ照射部30に供給される制御信号の関係を示す概略的グラフ図である。なお、
図2(b)の縦軸は、規格値(N.U.)で表されている。
【0026】
図2(a)に示すように、レーザ照射部30からレーザ光30Lを燃料吸蔵体25aの露出面に照射すると、燃料吸蔵体25aがレーザ光30Lのエネルギーを熱として吸収する。この吸収された熱が燃料吸蔵体25aに浸透されたイオン性液体40に伝熱すると、イオン性液体40が加熱効果により昇温し、気相成分が発生した後にイオン性液体40が熱分解し着火する。これにより、燃焼容器10内で発生した高圧ガスGがガス噴射口10jから矢印Jの方向に噴射する。
【0027】
例えば、
図2(b)に示すように、レーザ光30Lが燃料吸蔵体25aの露出面25Eにパルス照射されると(ON)、しばらくの間は燃料吸蔵体25aがレーザ光30Lのエネルギーを熱として吸収し、イオン性液体40が加熱効果により昇温しイオン性液体40が熱分解し着火すると、燃焼容器10内の圧力が急減に上昇する。この急激な圧力上昇によって高圧ガスGが生み出される。燃焼容器10内の圧力は、レーザ光30Lの燃料吸蔵体25aへの照射を断ち切った後に(OFF)、徐々に減衰する。なお、高圧ガスGの発生量は、ONからOFFまでの時間及びレーザ照射部30の発光量を調整することにより制御可能である。
【0028】
燃焼時には、燃料吸蔵体25aは加熱されるものの、燃料吸蔵体25a付近で、イオン性液体40が熱分解することで加熱された熱が熱分解によって吸熱され、燃料吸蔵体25aの露出面において加熱と吸熱との調和が起こる。これにより、燃料吸蔵体25aの熱的損傷が緩和される。
【0029】
特に、燃料吸蔵体25aとして炭素繊維を用いた場合、レーザ光30Lのエネルギーがピンポイントで炭素繊維に吸収されて、吸収された熱によってイオン性液体40が効率よく着火する。また、炭素繊維は、耐熱性が高く、熱劣化が起きにくい。
【0030】
また、燃焼により、燃料吸蔵体25aの露出面においてイオン性液体40が消費されると、燃料吸蔵体25aの露出面におけるイオン性液体40の密度が相対的に低くなる。しかし、燃料吸蔵体25aの毛細管現象によって、再び、燃料吸蔵体25aの露出面にイオン性液体40が補充される。すなわち、収容部21から燃料吸蔵体25aの露出面にイオン性液体40が移送される。この燃焼動作の繰り返しにより、噴射装置100は、パルス燃焼スラスタとして機能する。
【0031】
このように、本実施形態に係る噴射装置100によれば、燃料剤が燃料吸蔵体25aの毛細管現象によって収容部21から燃焼容器10に移送されるので、燃料剤を燃焼容器10に送り込む高圧ガス機構を必要としない。これにより、噴射装置100は、高圧ガス機構を必要とする噴射装置に比べてより小型になる。
【0032】
また、噴射装置100では、燃料剤としてヒドラジンを用いず、イオン性液体40を用いる。これにより、燃料剤の毒対策、発火性対策等の安全に係る防護措置が不要になり、低コスト化が実現する。
【0033】
また、噴射装置100では、燃料剤としてイオン性液体40を用い、不活性な溶媒を用いない。これにより、イオン性液体40の化学ポテンシャルを有効に活用でき、燃料剤として不活性な溶媒を用いた燃料剤に比べて推進性能が大きく向上する。
【0034】
また、噴射装置100では、イオン性液体40を収容部21に収容した場合は、長時間にわたりイオン性液体40を燃料源として用いることができる。
【0035】
また、噴射装置100では、イオン性液体40をレーザ光30Lによって着火するので、燃料剤を着火するための触媒が不要になる。これにより、噴射装置100の寿命は、触媒の寿命によって左右されなくなる。
【0036】
また、噴射装置100では、レーザ光30Lの照射時のみ、イオン性液体40の熱反応が起こり、レーザ光30Lの照射を断つとイオン性液体40の熱反応が停止する。パルスレーザの出力、パルス数、パルス幅等によって、燃焼容器10から放出されるガス量が精度よく制御される。つまり、レーザ光出力の照射時間による積分値で燃焼容器10から放出される噴射ガスの量が精度よく制御される。
【0037】
また、レーザ光30Lを連続光でなくパルスレーザ光を採用した場合には、燃料吸蔵体25aの過剰な加熱が抑制されて、燃料吸蔵体25aの熱劣化が抑制される。
【0038】
本実施形態に係る噴射装置の変形例を以下に説明する。
【0040】
図3は、本実施形態の変形例1に係る噴射装置の模式的断面図である。
【0041】
イオン性液体40を吸蔵する燃料吸蔵体は、移送部22の少なくとも一部に設けられてもよい。例えば、
図3に示す噴射装置101においては、移送部22が燃料吸蔵体25bと、筒状体26と、止冶具27とを有する。
【0042】
ここで、燃料吸蔵体25bは、燃料吸蔵体25aよりも薄く構成されている。このため、燃焼時の燃焼容器10内の急激な圧力上昇によって燃料吸蔵体25bが収容部21側に変形しないように、燃料吸蔵体25bが止冶具27により支持されている。止冶具27は網状になっており、イオン性液体40は、止冶具27を介して燃料吸蔵体25bに接触する。
【0043】
図3に示す噴射装置101によれば、燃料吸蔵体25bの体積を調整することにより、燃料吸蔵体25bの露出面25Eにレーザ光30Lが照射されたときの燃料吸蔵体内での熱拡散が抑制されて、レーザ照射時の燃料吸蔵体の温度が最適な着火温度に設定される。
【0045】
図4は、本実施形態の変形例2に係る噴射装置の模式的断面図である。
【0046】
図4に示す噴射装置102においては、レーザ照射部30が複数のレーザ光30Lを放出することができる。すなわち、本実施形態において、レーザ照射部30は、少なくとも1つレーザ光源を有し、不図示のレーザスプリッタ等により複数のレーザ光30Lを放出する。
【0047】
このような噴射装置102によれば、レーザ照射部30が少なくとも1つレーザ光源を有するので、レーザ光30Lの数によっても、燃焼容器10から放出される噴射ガスの量を調整することができる。
【0049】
図5は、本実施形態の変形例3に係る噴射装置の模式的断面図である。
【0050】
図5に示す噴射装置103においては、レーザ照射部30は、レーザ光30Lが燃料吸蔵体25aに照射される位置を変更することが可能な位置変更機構301を有する。例えば、位置変更機構301は、レーザ光の進行方向を曲げる複数の回転ミラーが組み合わされたレーザ偏向機構等を有し、レーザ光30LがYZ軸平面において振動したり、XY軸平面において振動したりする(振動角θ)。
【0051】
このような噴射装置103によれば、レーザ照射部30が位置変更機構301を有するので、燃料吸蔵体25aの同じ位置にレーザ光30Lが照射されることが避けられ、燃料吸蔵体25aの熱劣化が抑制される。
【0052】
さらに、本実施形態では、噴射装置100〜103のいずれかを具備する推進システムが提供される。推進システムとしては、人工衛星、ロケット、宇宙船、航空機等があげられる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。