【解決手段】p型半導体コンタクト層と、n型半導体コンタクト層と、p型半導体コンタクト層とn型半導体コンタクト層との間に配置される光吸収層と、を備える半導体受光素子であって、光吸収層は、厚さWdの第1半導体吸収層と、厚さWpのp型の第2半導体吸収層と、を含み、第1半導体吸収層と第2吸収層とは同一組成で構成され、第1半導体吸収層は、入力される光を吸収するバンドギャップエネルギーを有し、所定の逆バイアス電圧が印加される場合に、第1半導体吸収層は空乏化し、第2半導体吸収層は第1半導体吸収層との界面近傍領域を除いて電荷中立条件を保ち、厚さWdと厚みWpとの関係が0.47≦Wp/(Wp+Wd)≦0.9である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の計算方法を用いて計算すると、受光感度を一定に保ったまま応答速度を最大化するためのp型吸収層の比率は45%であり、非特許文献1に記載の例では35%である。
【0008】
特許文献1及び非特許文献1に記載の計算方法では、p型吸収層の実効的なキャリア走行時間τ
Aは、p型吸収層で発生する電子の拡散によってアンドープ吸収層へドリフトすることで規定されると仮定している。一般的な電子の拡散係数D
e=200cm
2/sとしてキャリア走行時間τ
Aを計算している。
【0009】
しかしながら、発明者らは鋭意検討の結果、以下のような知見を得ている。p型吸収層で発生した電子は拡散モデルによって単にドリフトしているのではない。アンドープ吸収層で発生する電子と正孔(ホール)のうち、電子は短時間内にn型電極へ到達するので、アンドープ吸収層内には正孔が残留する。アンドープ吸収層内に残留する正孔とp型吸収層の電子との間に発生する内部電界により、p型吸収層の電子は、一般的な電子の拡散係数D
eから計算されるドリフト速度を上回る高速度でアンドープ吸収層内へ到達する。それゆえ、応答速度を最大化するp型吸収層の比率は特許文献1及び非特許文献1に示す値よりも大きくなるものと考えられる。
【0010】
また、特許文献1及び非特許文献1では、アンドープ吸収層の正孔のドリフト速度V
hを一定の値であると仮定している。これは、正孔のドリフト速度が飽和速度(5×10
6cm/s)にあることを仮定しているが、逆バイアス電圧が低い場合は、アンドープ吸収層が厚くなると電界強度が低下するので、正孔のドリフト速度が飽和速度より遅くなるので、計算結果がより不正確になるという問題がある。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、受光感度を維持した状態でより速い応答速度が実現される、半導体受光素子、光受信モジュール、光モジュール、及び光伝送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る半導体受光素子は、p型電極と、前記p型電極に接続するp型半導体コンタクト層と、n型電極と、前記n型電極に接続するn型半導体コンタクト層と、前記p型半導体コンタクト層と前記n型半導体コンタクト層との間に配置される、光吸収層と、を備える、半導体受光素子であって、前記光吸収層は、前記n型半導体コンタクト層側に配置され、厚さWdを有する第1半導体吸収層と、前記第1半導体吸収層に接し、前記p型半導体コンタクト層側に配置され、厚さWpを有しp型にドープされる第2半導体吸収層と、を含み、前記第1半導体吸収層と前記第2吸収層とは同一組成で構成され、前記第1半導体吸収層は、入力される光を吸収するバンドギャップエネルギーを有し、前記p型電極と前記n型電極との間に所定の逆バイアス電圧が印加される場合に、前記第1半導体吸収層は空乏化し、前記第2半導体吸収層は前記第1半導体吸収層との界面近傍領域を除いて電荷中立条件を保ち、厚さWdと厚みWpとの関係が、0.47≦Wp/(Wp+Wd)≦0.9である、ことを特徴とする。
【0013】
(2)上記(1)に記載の半導体受光素子であって、前記第1半導体吸収層は前記n型半導体コンタクト層に接しており、前記第2半導体吸収層は前記p型半導体コンタクト層に接しており、厚さWdと厚みWpとの関係が、0.47≦Wp/(Wp+Wd)≦0.85であってもよい。
【0014】
(3)上記(1)に記載の半導体受光素子であって、前記第1半導体吸収層と前記n型半導体コンタクト層との間に配置される、半導体電子走行層を、さらに備え、前記半導体電子走行層は、入力される光を吸収するバンドギャップエネルギーより大きく、光吸収層として機能しないバンドギャップエネルギーを有し、前記p型電極と前記n型電極との間に所定の逆バイアス電圧が印加される場合に、前記半導体電子走行層は空乏化し、厚さWdと厚みWpとの関係が、0.5≦Wp/(Wp+Wd)≦0.88であってもよい。
【0015】
(4)上記(3)に記載の半導体受光素子であって、前記第1半導体吸収層と前記半導体電子走行層との間に配置され、前記第1半導体吸収層のドーピング濃度及び前記半導体電子走行層のドーピング濃度のいずれよりも高いドーピング濃度の不純物が添加される半導体電界調整層を、さらに備えていてもよい。
【0016】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体受光素子であって、III−V族化合物半導体で構成される半導体多層構造を有していてもよい。
【0017】
(6)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体受光素子であって、前記第1半導体吸収層及び前記第2半導体吸収層がともに、InGaAs、InGaAsP、InAlGaAsからなる群より選択される1の組成によって構成されていてもよい。
【0018】
(7)本発明に係る光受信モジュールは、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の半導体受光素子、を備えていてもよい。
【0019】
(8)本発明に係る光モジュールは、上記(7)に記載の光受信モジュールと、光送信モジュールと、を備えていてもよい。
【0020】
(9)本発明に係る光伝送装置は、上記(8)に記載の光モジュールが搭載されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、受光感度を維持した状態でより速い応答速度が実現される、半導体受光素子、光受信モジュール、光モジュール、及び光伝送装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置1及び光モジュール2の構成を示す模式図である。光伝送装置1は、プリント回路基板11とIC12を備えている。光伝送装置1は、例えば、大容量のルータやスイッチである。光伝送装置1は、例えば交換機の機能を有しており、基地局などに配置される。光伝送装置1に、複数の光モジュール2が搭載されており、光モジュール2より受信用のデータ(受信用の電気信号)を取得し、IC12などを用いて、どこへ何のデータを送信するかを判断し、送信用のデータ(送信用の電気信号)を生成し、プリント回路基板11を介して、該当する光モジュール2へそのデータを伝達する。
【0025】
光モジュール2は、送信機能及び受信機能を有するトランシーバである。光モジュール2は、プリント回路基板21と、光ファイバ3Aを介して受信する光信号を電気信号に変換する光受信モジュール23Aと、電気信号を光信号に変換して光ファイバ3Bへ送信する光送信モジュール23Bと、を含んでいる。プリント回路基板21と、光受信モジュール23A及び光送信モジュール23Bとは、それぞれフレキシブル基板22A,22B(FPC)を介して接続されている。光受信モジュール23Aより電気信号がフレキシブル基板22Aを介してプリント回路基板21へ伝送され、プリント回路基板21より電気信号がフレキシブル基板22Bを介して光送信モジュール23Bへ伝送される。光モジュール2と光伝送装置1とは電気コネクタ5を介して接続される。光受信モジュール23Aや光送信モジュール23Bは、プリント回路基板21に電気的に接続され、光信号/電気信号を電気信号/光信号にそれぞれ変換する。プリント回路基板21は、光受信モジュール23Aより伝送される電気信号を制御する制御回路(例えばIC)や、光送信モジュール23Bへ伝送する電気信号を制御する制御回路(例えばIC)を備えている。
【0026】
当該実施形態に係る伝送システムは、2個以上の光伝送装置1と2個以上の光モジュール2と、1個以上の光ファイバ3(図示せず:例えば光ファイバ3A,3B)を含む。各光伝送装置1に、1個以上の光モジュール2が接続される。2個の光伝送装置1にそれぞれ接続される光モジュール2の間を、光ファイバ3が接続している。一方の光伝送装置1が生成した送信用のデータが接続される光モジュール2によって光信号に変換され、かかる光信号を光ファイバ3へ送信される。光ファイバ3上を伝送する光信号は、他方の光伝送装置1に接続される光モジュール2によって受信され、光モジュール2が光信号を電気信号へ変換し、受信用のデータとして当該他方の光伝送装置1へ伝送する。
【0027】
図2は、当該実施形態に係る光受信モジュール100の構造を示す模式図である。当該実施形態に係る光受信モジュール100は、
図1に示す光受信モジュール23Aである。光受信モジュール100は、200Gbit/s級であり4チャンネル(各チャンネルは50Gbit/s級)のROSA(Receiver Optical SubAssembly)である。光受信モジュール100は、金属基板101(支持基板)と、IC102と、PD素子103(Photo Detector)と、マイクロレンズアレイ104と、光分波回路105と、箱型筺体106と、コリメートレンズ107Aを含む接続部107と、を備える。金属基板101は箱型筺体106の内側底面に配置される。金属基板101の表面に、IC102と、PD素子103と、マイクロレンズアレイ104と、光分波回路105とが配置される。接続部107は箱型筺体106の側面に配置される。なお、
図2は光受信モジュール100のxz平面による断面を示している。ここで、x軸方向は接続部107より入射する光の向き(−x軸方向)と平行であり、z軸方向は金属基板101の表面に垂直な方向である。IC102の複数の端子とPD素子103の複数の端子とは、それぞれ対応するワイヤ110によって接続される。
【0028】
PD素子103は、IC102の端部に沿って並ぶ4個のpin型のフォトダイオード200(Photo Diode)とサブマウント201とを含む。各フォトダイオード200の(素子の裏面に該当する)上部に受光窓が配置され、フォトダイオード200は受光窓に入射する光信号を電気信号に変換する。サブマウント201は表面に電極パターンが配置されるセラミック基板(例えば、AlN基板)によって形成されている。4個のフォトダイオード200はサブマウント201の上面に配置される。なお、本実施形態では受光窓部はレンズ構造となっているが、これに限定されない。
【0029】
マイクロレンズアレイ104は、レンズ本体部と、レンズ本体部を両側から支持する2個の橋脚部を含む。マイクロレンズアレイ104のレンズ本体部は、前方の立ち上がり面に、y軸方向に並ぶ4個のレンズ124が配置される。各レンズ124は、前方よりレンズ124へ入射する光を集光させる凸レンズである。4個のレンズ124を覆って反射防止膜は配置されている。なお、y軸方向はx軸及びz軸に対してともに垂直となる方向であり、
図2の紙面を垂直に貫く方向である。
【0030】
マイクロレンズアレイ104のレンズ本体部の上面にミラー126が配置されており、ミラー126はレンズ124により集光される光それぞれを反射して対応するフォトダイオード200の受光窓へ集光させる。各レンズ124により集光される光の焦点は、対応するフォトダイオード200の受光窓又はフォトダイオード200内部の吸収層に位置しているのが望ましいが、焦点位置は必要に応じて選択されればよい。
【0031】
接続部107はコリメートレンズ107Aを含むとともに、接続部107に光ファイバ130が接続されている。光ファイバ130より光受信モジュール100の箱型筺体106の内部へ入射する光は、コリメートレンズ107Aによって平行光に変換され、光分波回路105へ入射する。光ファイバ130より入射する光(光信号)は、波長多重伝送信号である。光分波回路105は、デマルチプレクサー(Demultiplexer)とミラーと光フィルタなどの光学部品を含んでいる。光分波回路105に入射する光(波長多重伝送信号)は4チャンネルの光(単波長信号)に分波され、各光がマイクロレンズアレイ104の対応するレンズ124へ入射する。
【0032】
図3は、当該実施形態に係るフォトダイオード200の概略図である。当該実施形態に係るフォトダイオード200は裏面入射型の半導体受光素子であり、
図3はその構成を模式的に示す断面図である。
【0033】
Feがドープされる半絶縁性InP基板215上に、ドーピング濃度5×10
18/cm
3のSiがドープされる厚さ1μmのn型InPコンタクト層214、厚さWdのアンドープInGaAs吸収層211、積層方向に沿ってドーピング濃度が5×10
17/cm
3から1×10
18/cm
3へBeを傾斜的にドープされる厚さWpのp型InGaAs吸収層212、ドーピング濃度5×10
19/cm
3のBeがドープされる厚さ0.1μmのp型InGaAsコンタクト層213とが順次積層される。
【0034】
光吸収層は、p型InGaAsコンタクト層213とn型InPコンタクト層214との間に配置され、アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212とを含んでいる。アンドープInGaAs吸収層211は、n型InPコンタクト層214側に配置され、意図的に不純物(添加物:ドーパント)が添加されていない第1半導体吸収層である。p型InGaAs吸収層212は、アンドープInGaAs吸収層211に接し、p型InGaAsコンタクト層213側に配置され、p型にドープされる第2半導体吸収層である。
【0035】
アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212とは同一組成(InGaAs)で構成される。ここで、同一組成とは、半導体層を構成する結晶材料(Base Material)が同じことを指しており、不純物(添加物:ドーパント)は異なっていてもよい。当該実施形態において、第1半導体吸収層と第2半導体吸収層とは、ともにInGaAsによって構成されている。InGaAsは、In
xGa
1−xAsを意味するが、第1半導体吸収層と第2半導体吸収層それぞれのxの値が異なっていても同一組成であるとみなすが、xの値は0<x<1の範囲であり、x=0(GaAs)やx=1(InAs)はInGaAsとは同一組成とはみなさない。ここでは、III族が複数の元素で構成されている場合を例示しているが、V族が複数の元素で構成されている場合やIII族及びV族それぞれが複数の元素で構成されている場合も同様である。
【0036】
アンドープInGaAs吸収層211、p型InGaAs吸収層212、及びp型InGaAsコンタクト層213は、直径10μmの円柱形状にエッチング加工されており、受光メサ部を構成している。p型電極216がp型InGaAsコンタクト層213に接続され、n型電極217がn型InPコンタクト層214に接続されている。アンドープInGaAs吸収層211、p型InGaAs吸収層212、及びp型InGaAsコンタクト層213は、半絶縁性InP基板215と格子整合している。
【0037】
図4は、当該実施形態に係るフォトダイオード200のバンドダイヤグラムである。第1半導体吸収層(アンドープInGaAs吸収層211)は、入力される光を吸収するバンドギャップエネルギーを有する。第2半導体吸収層(p型InGaAs吸収層212)のドーピング濃度は、p型半導体コンタクト層(p型InGaAsコンタクト層213)及びn型半導体コンタクト層214より低いドーピング濃度である。第1半導体吸収層のドーピング濃度は第2半導体吸収層のドーピング濃度より低い。特に、当該実施形態に係る第1半導体吸収層は、アンドープ半導体層である。ここで、アンドープとは意図的に不純物(添加物:ドーパント)が添加されていないことを指し、特に不純物のドーピング濃度が1×10
16/cm
3以下をいう。当該実施形態に係る第2半導体吸収層は、前述の通り、積層方向に沿って傾斜的にドーピング濃度が上昇しているが、これに限定されることはない。第2半導体吸収層の上面のドーピング濃度は、p型半導体コンタクト層のドーピング濃度より低く、第2半導体吸収層の下面のドーピング濃度は、第1半導体吸収層のドーピング濃度より高い。
【0038】
フォトダイオード200の動作時において、p型InGaAsコンタクト層213とn型InPコンタクト層214との間に所定の逆バイアス電圧が印加される。かかる場合に、第1半導体層は空乏化し、第2半導体吸収層は第1半導体吸収層との界面近傍領域を除いて電荷中立条件を保つよう設計されている。第1半導体吸収層(アンドープInGaAs吸収層211)及び第2半導体吸収層(p型InGaAs吸収層212)はともに、半絶縁性InP基板215の裏面から入射される波長1310nmの信号光に対して光吸収層として作用する。
【0039】
本発明に係る半導体受光素子の主な特徴は、第1半導体吸収層の厚みWdと第2半導体吸収層の厚みWpとの関係が、0.47≦Wp/(Wd+Wp)≦0.9であることにある。特に、当該実施形態に係る半導体受光素子は、第1半導体吸収層はn型半導体コンタクト層に接し、第2半導体吸収層はp型半導体コンタクト層に接しており、厚みWdと厚みWpとの関係が、0.47≦Wp/(Wd+Wp)≦0.85であるのがさらに望ましい。なお、当該実施形態に係る第1半導体吸収層はアンドープ半導体層であるが、第2半導体吸収層よりドーピング濃度が低い(p型又はn型の)低濃度半導体層であってもよい。アンドープ半導体層を形成する際に、結晶成長条件などにより、バックグラウンドの不純物濃度となる場合がある。この不純物濃度を打ち消すために、反対の極性の不純物を意図的に添加(ドープ)して、第1半導体層の不純物濃度を調整することなどが考えられる。ボーレート(BaudRate)50Gbit/s級の光受信モジュール100を実現するために、f3dBが40GHz以上が望ましく、かかるWp/(Wd+Wp)の範囲を有する場合、50Gbit/s級の光受信モジュール100に最適である。
【0040】
当該実施形態において、アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212の合計厚さW(=Wd+Wp)は1μmである。受光感度は0.86A/Wであり、順方向抵抗は10Ωである。
【0041】
本発明は、発明者らが、第1半導体吸収層に発生する正孔と第2半導体吸収層に発生する電子との間に発生する内部電界の効果を考慮し、さらに、第1半導体吸収層の正孔のドリフト速度(V
h)を一定(飽和速度)とせず電界強度の関数とすることでなされたものである。かかる知見に基づく新しい計算方法によって、受光感度を一定に保ちつつ応答速度をより高めるための第2半導体吸収層の比率Wp/(Wd+Wp)の範囲を見出している。なお、その範囲は、特許文献1及び非特許文献1に記載の範囲とは異なっている。
【0042】
最初に、従来技術について説明する。非特許文献1には、当該実施形態に係るフォトダイオード200と同様に、光吸収層の合計厚さW=1μm(=Wd+Wp)となる構造を有するフォトダイオードが開示されている。そこでは、アンドープInGaAs吸収層とp型InGaAs吸収層との合計厚さW=1μmの条件を保ちつつ、Wpを0から1μmまで、すなわち、Wp/(Wd+Wp)を0%から100%まで、変化させた時の3dB遮断周波数(f3dB)の計算結果が示されており、Wp=0.35μm、すなわち、Wp/(Wd+Wp)=35%において、f3dBが最大となり、40GHz程度が得られている。ここでは、Wp/(Wd+Wp)が小さくなる、すなわち、アンドープInGaAs吸収層の厚さWdが増加するに従って、アンドープInGaAs吸収層内の正孔によるキャリア走行時間τ
Dが増大してしまう。反対に、Wp/(Wd+Wp)が大きくなる、すなわち、p型InGaAs吸収層の厚さWpが増加するに従って、p型InGaAs吸収層内の電子によるキャリア走行時間τ
Aが増大してしまう。よって、帯域を制限する実効的な光吸収層全体のキャリア走行時間τ
totがWp/(Wd+Wp)=35%程度で最少となる。
【0043】
しかし、前述の通り、特許文献1及び非特許文献1に係る従来技術の計算方法は以下の問題点がある。第1に、p型吸収層内で発生する電子は、拡散によりアンドープ吸収層側へドリフトすると仮定している。これに対して、本発明では、アンドープ吸収層内に残留する正孔とp型吸収層の電子との間に発生する内部電界の効果を考慮している。第2に、アンドープ吸収層の正孔のドリフト速度V
hを一定の値(飽和速度)であると仮定している。これに対して、本発明では、アンドープ吸収層なの正孔のドリフト速度を電界強度の関数としている。
【0044】
図5は、当該実施形態に係るフォトダイオード200の3dB遮断周波数の計算結果を示す図である。
図5の横軸はWp/(Wd+Wp)を、縦軸は3dB遮断周波数(f3dB)を、それぞれ示している。
図5は、以下に説明する3つの条件(条件A乃至C)それぞれの下で、第1半導体吸収層及び第2半導体吸収層の合計の厚みW=Wd+Wp=1μm(一定)として、様々なWp/(Wd+Wp)の値におけるf3dBの計算結果を示している。
【0045】
条件Aは、逆バイアス電圧Vr=5Vの高バイアスで、光信号入力強度Pin=0dBm、光吸収層(アンドープInGaAs吸収層211およびp型InGaAs吸収層212)における光信号の直径ω=8μmである。
図5に条件Aと示す曲線は条件Aの下で計算された計算結果である。条件Aでは、Wp/(Wd+Wp)が20〜85%の広い範囲でf3dB>40GHzとなっている。非引用文献1で示される35%においても50GHz以上のf3dBが得られている。
【0046】
しかしながら、3.3Vの単一電源による動作を想定すると、フォトダイオード200の端子間電圧は最小で1.5V程度まで低下する恐れがある。また、アンドープInGaAs吸収層211内に発生する正孔とp型InGaAs吸収層212に発生する電子との間に発生する内部電界強度は、光吸収層内での光信号強度のピーク値が大きい、すなわち光信号入力強度が強く、光吸収層における光信号の直径が小さいほど、強くなる傾向にある。光信号入力強度は、光源の光信号出力強度や伝送距離等により、−12dBmから5dBm程度まで変動する可能性がある。吸収層における光信号の直径は、光受信モジュール100の光学系により、3μmから10μm程度まで変動する可能性がある。
【0047】
条件Bは、逆バイアス電圧Vr=1.5Vの低バイアスで、光信号入力強度Pin=5dBm、及び光吸収層における光信号の直径ω=10μmと、光吸収層内での光信号強度のピーク値が小さい。
図5に条件Bと示す曲線は条件Bの下で計算された計算結果である。条件Bでは、Wp/(Wd+Wp)が42〜85%の範囲でf3dB>40GHzとなっている。
【0048】
条件Cは、逆バイアス電圧Vr=1.5Vの低バイアスで、光信号入力強度Pin=−12dBm、及び光吸収層における光信号の直径ω=3μmと、光吸収層内での光信号強度のピーク値が大きい。
図5に条件Cと示す曲線は条件Cの下で計算された計算結果である。条件Cでは、Wp/(Wd+Wp)が47〜85%の範囲でf3dB>40GHzとなっている。よって、条件A乃至Cをすべて満たすのは、Wp/(Wd+Wp)が47〜85%の範囲でf3dB>40GHzとなっている。さらにより安定した高速動作のためにはf3dB>50GHzとすることが望ましく、条件A乃至Cをすべて満たすのは、Wp/(Wd+Wp)が48%以上82%以下の範囲となる。
【0049】
条件Bでは70%以下、条件Cでは60%以下でそれぞれ、値が小さくなるに従ってf3dBが低下する原因は、アンドープInGaAs吸収層211が厚くなり電界強度が低下し、正孔のキャリア走行時間τ
Dが増加するためである。条件Bでは70%以上、条件Cでは60%以上でそれぞれ、値が大きくなるに従ってf3dBが低下する原因は、容量の増加に伴うCR時定数が増加するためである。
【0050】
Wp/(Wd+Wp)=60%、すなわちWp=0.6μm、Wd=0.4μmとなるフォトダイオード200を作製し、フォトダイオード200が実装され、3.3Vの単一電源回路を備える光受信モジュール100において、実装に伴う約20fFの寄生容量によるCR時定数の増加の効果も含め、所望の光信号入力強度範囲において、約40GHzのf3dBが得られている。3.3Vの単一電源回路を備える光受信モジュール100において、フォトダイオード200のp型InGaAsコンタクト層213とn型InPコンタクト層214との間に所定の逆バイアス電圧は1.5V〜2.5Vになるものと考えられ、かかる逆バイアス電圧が印加される場合に、反応速度がより速くなっているのが望ましい。
【0051】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係るフォトダイオード230の概略図である。当該実施形態に係るフォトダイオード230は裏面入射型の半導体受光素子であり、
図6はその構成を模式的に示す断面図である。当該実施形態に係るフォトダイオード230は、半導体多層構造に、第1半導体吸収層(アンドープInGaAs吸収層211)とn型半導体コンタクト層(n型InPコンタクト層214)との間に配置されるアンドープInAlGaAs電子走行層238がさらに含まれる点で第1の実施形態と異なっているが、それ以外は第1の実施形態と同じ構造をしている。
【0052】
Feがドープされる半絶縁性InP基板215上に、ドーピング濃度5×10
18/cm
3のSiがドープされる厚さ1μmのn型InPコンタクト層214、バンドギャップ波長1.2μmで厚さWtのアンドープInAlGaAs電子走行層238、厚さWdのアンドープInGaAs吸収層211、積層方向に沿ってドーピング濃度が5×10
17/cm
3から1×10
18/cm
3へBeを傾斜的にドープされる厚さWpのp型InGaAs吸収層212、ドーピング濃度5×10
19/cm
3のBeがドープされる厚さ0.1μmのp型InGaAsコンタクト層213とが順次積層される。
【0053】
図7は、当該実施形態に係るフォトダイオード230のバンドダイヤグラムである。アンドープInAlGaAs電子走行層238が有するバンドギャップエネルギーは、入力される光を吸収するバンドギャップエネルギーより大きく、光吸収層として機能しないバンドギャップエネルギーである。フォトダイオード230の動作時において、p型InGaAsコンタクト層213とn型InPコンタクト層214との間に所定の逆バイアス電圧が印加される。かかる場合に、第1半導体層であるアンドープInGaAs吸収層211とアンドープInAlGaAs電子走行層238は空乏化し、第2半導体吸収層であるp型InGaAs吸収層212はアンドープInGaAs吸収層211との界面近傍領域を除き電荷中性条件を保つように設計されている。アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212はともに、半絶縁性InP基板215の裏面から入射される波長1310nmの信号光に対して光吸収層として作用し、アンドープInAlGaAs電子走行層238は波長1310nmの信号光を吸収しない。
【0054】
アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212の合計厚さW=1μm(=Wd+Wp)であり、アンドープInGaAs吸収層211とアンドープInAlGaAs電子走行層238の合計厚さW2=0.6μm(=Wd+Wt)である。受光感度は0.86A/Wであり、順方向抵抗は10Ωである。フォトダイオード230の受光メサ部の容量は約16fFである。
【0055】
図8は、当該実施形態に係るフォトダイオード230の3dB遮断周波数の計算結果を示す図である。
図8は第1の実施形態に係る
図5に対応している。2つの条件(条件B及びC)それぞれの下で、アンドープInGaAs吸収層211とp型InGaAs吸収層212の合計厚さW=Wd+Wp=1μm(一定)とし、アンドープInGaAs吸収層211とアンドープInAlGaAs電子走行層238の合計厚さW2=Wd+Wt=0.6μm(一定)として、様々なWp/(Wd+Wp)の値におけるf3dBの計算結果を示している。ただし、Wp/(Wp+Wd)≦40%、すなわち、Wp≧0.4μm及びWd≦0.6μmにおいて、Wt=0μmに固定している。
【0056】
図8に条件Bと示す曲線は条件Bの下で計算された計算結果であり、条件Bでは、Wp/(Wd+Wp)が45〜88%の範囲でf3dB>40GHzとなっている。
図8に条件Cと示す曲線は条件Cの下で計算された計算結果であり、条件Cでは、Wp/(Wd+Wp)が50〜95%の範囲でf3dB>40GHzとなっている。
【0057】
第1の実施形態と比べると、f3dB>40GHzとなるWp/(Wd+Wp)の範囲が高い値側へシフトしている。特に80%以上でのf3dBが大きい理由は、アンドープInAlGaAs電子走行層238がさらに配置されることにより、空乏層の厚さW2が0.6μmで一定となり、容量が約16fFで一定となり、CR時定数にて制限される帯域の低下が抑制されるためである。
【0058】
当該実施形態に係る半導体受光素子の主な特徴は、第1半導体吸収層の厚みWdと第2半導体吸収層の厚みWpとの関係が、0.5≦Wp/(Wp+Wd)≦0.88であることにある。特に、当該実施形態に係る半導体受光素子は、第1半導体吸収層は半導体電子走行層に接し、半導体電子走行層はn型半導体コンタクト層に接し、第2半導体吸収層はp型半導体コンタクト層に接している。なお、当該実施形態に係る半導体電子走行層はアンドープ半導体層であるが、第1半導体吸収層よりドーピング濃度が同じかより低い(p型又はn型の)低濃度半導体層であってもよい。
【0059】
Wp/(Wd+Wp)=70%、すなわちWp=0.7μm、Wd=0.3μm、Wt=0.3μmとなるフォトダイオード230を作製し、フォトダイオード230が実装され、3.3Vの単一電源回路を備える光受信モジュール100において、実装に伴う約20fFの寄生容量によるCR時定数の増加の効果も含め、所望の光信号入力強度範囲において、約47GHzのf3dBが得られている。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係る半導体受光素子、光受信モジュール、光モジュール、光伝送装置、及び光伝送システムについて説明した。本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能であり、本発明を広く適用することができる。上記実施形態で説明した構成を、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【0061】
第2の実施形態に係るフォトダイオード230は、アンドープInAlGaAs電子走行層238がアンドープInGaAs吸収層211に接する半導体構造を有していたが、これに限定されることはない。フォトダイオード230が、アンドープInGaAs吸収層211とアンドープInAlGaAs電子走行層238との間に配置される、半導体電界調整層をさらに備えていてもよい。ここで、半導体電界調整層には、アンドープInGaAs吸収層211のドーピング濃度及びアンドープInAlGaAs電子走行層238のドーピング濃度のいずれよりも高いドーピング濃度の不純物が添加(ドープ)される。さらに、半導体電界調整層は、上面がアンドープInGaAs吸収層211に、下面がアンドープInAlGaAs電子走行層238に、それぞれ接していてもよい。半導体電界調整層のドーピング濃度は、印加される電圧を、アンドープInGaAs吸収層211及びアンドープInAlGaAs電子走行層239に適当となるように配分するよう調整される。
【0062】
上記実施形態では、第1半導体吸収層及び第2半導体吸収層は、ともにInGaAsによって構成されるとしたが、これに限定されることはない。第1半導体吸収層及び第2半導体吸収層がともに、InGaAs、InGaAsP、InAlGaAsからなる群より選択される1の組成によって構成されていればよい。また、第2の実施形態では、半導体電子走行層はInAlGaAsによって構成されるとしたが、これに限定されることはない。例えば、InPによって構成されても、InGaAsPによって構成されてもよい。
【0063】
以上のように本発明はアンドープ吸収層とp型吸収層の2層構造で形成される吸収層を有する半導体受光素子において、従来はアンドープ吸収層厚の比率を高くした方がf3dB帯域を大きくできると知られていたことに対し、新たな計算モデルを構築することでp型吸収層厚の比率を大きくした方が帯域の向上が見られることを初めて見出した。
【0064】
上記実施形態では、4チャンネルのマイクロレンズアレイ104の場合について説明したが、これに限定されることはなく、他の数のチャンネルの場合であってもよいし、単チャンネルであってもよい。また、上記実施形態に係る半導体受光素子は、pin型フォトダイオードとしていたが、これに限定されることはなく、本発明に係る半導体構造を有するのであれば他の半導体受光素子であってもよい。上記実施形態に係る半導体受光素子に入力される信号光の波長は1310nmとしたがこれに限定されることはない。例えば、本発明は1550nm帯にも適用可能である。