(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-162056(P2019-162056A)
(43)【公開日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】カプセル化プロテオグリカン、その製造方法、およびプロテオグリカン添加食品
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20190830BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20190830BHJP
A23L 33/17 20160101ALN20190830BHJP
A23L 11/20 20160101ALN20190830BHJP
A23L 33/125 20160101ALN20190830BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L5/00 C
A23L5/00 K
A23L33/17
A23L11/20 103
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-51422(P2018-51422)
(22)【出願日】2018年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 敦子
(72)【発明者】
【氏名】宮木 博
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
【Fターム(参考)】
4B018LB09
4B018MD20
4B018MD27
4B018MD31
4B018MD49
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF08
4B035LC05
4B035LE01
4B035LG15
4B035LG17
4B035LG34
4B035LK14
4B035LP22
4B035LP36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発酵食品中における添加プロテオグリカンの経時的減少の抑制、安定的に保持するための技術の提供。
【解決手段】マイクロカプセル化されたプロテオグリカン2であり食品添加用であるカプセル化プロテオグリカン10。粒径が25μm以下であるカプセル化プロテオグリカン10。微生物に対して難分解性の物質、または微生物由来酵素に対して難分解性の物質が膜物質5として用いられているカプセル化プロテオグリカン10。生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後14日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している安定性を有しているカプセル化プロテオグリカン10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロカプセル化されたプロテオグリカンであり、食品添加用であることを特徴とする、カプセル化プロテオグリカン。
【請求項2】
粒径が25μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項3】
粒径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項4】
微生物に対して難分解性の物質、または微生物由来酵素に対して難分解性の物質が膜物質として用いられていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項5】
膜物質として疎水性物質が用いられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項6】
膜物質としてツェインが用いられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項7】
生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後14日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有していることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項8】
生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後30日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有していることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【請求項9】
コアセルベーション法によりプロテオグリカンをマイクロカプセル化することを特徴とする、食品添加用カプセル化プロテオグリカン製造方法。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカンが添加されていることを特徴とする、プロテオグリカン添加食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカプセル化プロテオグリカン、その製造方法、およびプロテオグリカン添加食品に係り、特に、発酵食品中における安定化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカン(Proteoglycan)は高等多細胞動物の皮膚や軟骨を由来とする糖とタンパク質の複合体であり、糖タンパク質の一種である。中心となるたんぱく質に多数の糖鎖が結合した構造を有し、糖鎖と糖鎖の間に水分を保持する機能がある。かかる機能に基づく保湿作用に加えプロテオグリカンには、細胞のよみがえり因子とされるEGF(Epidermal Growth Factor、上皮細胞増殖因子)類似の作用や、抗炎症作用、骨代謝異常改善作用など、様々な機能の存在が明らかになっている。
【0003】
プロテオグリカンは、抽出に有害な薬品が必要な上にコストが相当高かったこともあり、発見された1970年代以来、実用化できない期間が長期に亘った。しかし1990年代に、プロテオグリカンがサケ鼻軟骨に高濃度で存在することが青森県によって解明されたのに続き、弘前大学によって食用酢酸とアルコールのみによる抽出技術が確立した。現在では、高純度のプロテオグリカンを低コストで大量生産することができるようになり、食品や化粧品分野での産業創出につながっているとともに、国立大学法人弘前大学や出願人・青森県産業技術センターによる新たな効能の探索、産業での応用化等に関する研究が進められている(特許第6265335号、特許第6253047号、特許第6218732号、特許第6099777号、特許第6071558 号、特許第5933264号、特許第5678397号、特許第5470612号、特許第5252623号、特許第5194253 号、特許第4982852号、他)。
【0004】
出願人や国立大学法人弘前大学以外にも、プロテオグリカンが言及された特許出願等はなされている。たとえば後掲特許文献1には、人の管腔表面の細胞成長促進のために用いられる組成物として、生分解性高分子製膜材によるマイクロカプセルが内部に分散している運搬体からなる組成物が開示されており、当該マイクロカプセルの芯材として、粘膜下層、骨髄、細胞外マトリックス、分離細胞外マトリックス構成要素、基底膜、コラーゲン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、糖タンパク質、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(乳酸グルコール複合)酸の適宜の組合せが用いられる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−533015号公報「腔内組織工学のためのマイクロカプセル化された組成物」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにプロテオグリカンの産業化が進められる中、出願人は、プロテオグリカンを活用した高機能性食品の開発に取り組んでいる。その一テーマとして、味噌やシードル等の発酵食品におけるプロテオグリカン利用の可能性を検討しているが、これらの発酵食品に対してプロテオグリカンを添加すると、経時的にプロテオグリカンが減少することが確認された。これは、発酵食品中に存在する微生物由来の酵素による影響と考えられる。発酵食品おけるプロテオグリカンの経時的減少を抑制する技術が求められている。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、食品中、特に発酵食品中における添加プロテオグリカンの経時的減少を抑制し、安定的に保持するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した結果、プロテオグリカンを食品に直接そのまま添加するのではなく、マイクロカプセル化して添加することを着想した。そこで、膜物質にツェインを用い、コアセルベーション法によりプロテオグリカンを包含したマイクロカプセル(以下、「カプセル化PG」ともいう。)を開発した。そして、カプセル化PGを用いると、食品中でのプロテオグリカンの経時的減少を軽減できることを確認し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 マイクロカプセル化されたプロテオグリカンであり、食品添加用であることを特徴とする、カプセル化プロテオグリカン。
〔2〕 粒径が25μm以下であることを特徴とする、〔1〕に記載のカプセル化プロテオグリカン。
〔3〕 粒径が10μm以下であることを特徴とする、〔1〕に記載のカプセル化プロテオグリカン。
〔4〕 微生物に対して難分解性の物質、または微生物由来酵素に対して難分解性の物質が膜物質として用いられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【0010】
〔5〕 膜物質として疎水性物質が用いられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
〔6〕 膜物質としてツェインが用いられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
〔7〕 生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後14日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有していることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
【0011】
〔8〕 生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後30日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有していることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカン。
〔9〕 コアセルベーション法によりプロテオグリカンをマイクロカプセル化することを特徴とする、食品添加用カプセル化プロテオグリカン製造方法。
〔10〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載のカプセル化プロテオグリカンが添加されていることを特徴とする、プロテオグリカン添加食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカプセル化プロテオグリカン、その製造方法、およびプロテオグリカン添加発酵食品は上述のように構成されるため、これらによれば、発酵食品中における添加プロテオグリカンの経時的減少を抑制し、プロテオグリカンを食品中に安定的に保持することができる。これにより、味噌等の発酵食品にプロテオグリカンの有する様々な機能性を付加することができ、価値を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明カプセル化プロテオグリカンの構成を示す概念図である。(以下は、実施例に係る各図面である。)
【
図2】カプセル調製方法のスキームを示す説明図である。
【
図3】カプセル化PG懸濁液および調製されたカプセル化PGの写真図である。
【
図4】カプセル内液の調製方法を示すフロー図である。
【
図5】カプセル内液の定性分析結果を示す電気泳動パターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明カプセル化プロテオグリカンの構成を示す概念図である。図中の(a)に示すように本カプセル化PG10は、膜物質5によってマイクロカプセル化されたプロテオグリカン2であり、特に食品添加用である。また、図中(b)に示すように、カプセル化PG10が食品20に添加されてなるプロテオグリカン添加食品30も、本発明の範囲内である。なお、カプセル化PG10が添加される対象の食品20は発酵食品とすることができるが、それに限定されない。
【0015】
かかる構成のカプセル化PG10は、膜物質5によって被覆されたカプセル形態をとるため、これを発酵食品20中に添加した場合であっても、プロテオグリカン2をそのまま添加する場合と比較して、食品30中における添加プロテオグリカンの経時的減少を抑制することができ、プロテオグリカン2を発酵食品20中に安定的に保持することができる。これにより、味噌等の発酵食品にプロテオグリカン2が有する様々な機能性を付加することができ、価値を高めることができる。
【0016】
本発明のカプセル化PG10は、その粒径を25μm以下とすることができ、また、さらに小さく10μm以下とすることができる。本発明カプセル化PG10は食品添加用であり、添加された食品30を食す際にはできる限り食感への影響を低減できるサイズがよいからである。なお、人間の食感に影響を及ぼさないとされるサイズは直径10μm以下であり、したがって本発明カプセル化PG10のサイズの粒径も10μm以下とすることがより望ましい。
【0017】
本カプセル化PG10の膜物質5としては、微生物に対して難分解性の物質、または微生物由来酵素に対して難分解性の物質を用いることとすることができる。上述の通り、プロテオグリカンをそのまま発酵食品に対して添加した際の経時的な減少は発酵食品中に存在する微生物由来の酵素によるものと考えられ、かかる添加プロテオグリカンの経時的減少抑制および安定的保持を目的として、本発明のカプセル化によるプロテオグリカン2の被覆・保護が構想された。それによっても所期の課題を解決できるのだが、さらに膜物質5として酵素難分解性等の物質を用いることで、添加プロテオグリカンの経時的減少抑制および安定的保持の作用効果をより高めることができる。
【0018】
膜物質5として用いる微生物に対して難分解性の物質、または微生物由来酵素に対して難分解性の物質としては、疎水性物質を用いることができる。なお、かかる疎水性物質もまた食用に適したものでなくてはなならいことは言うまでもない。たとえば、トウモロコシタンパク質であるツェインは、本カプセル化PG10の膜物質5として好適に用いることができる。
【0019】
特に本発明のカプセル化PG10は、生味噌環境下(食塩10重量%以上含有、酵素・アルコール成分含有、酸性)において、添加後14日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有するものとして提供することができる。さらには、添加後14日時点で添加されたプロテオグリカンの70重量%程度が残存している程度の安定性を有するものとして提供することも可能である。あるいはまた、同環境下において、添加後30日時点で添加されたプロテオグリカンの30重量%以上が残存している程度の安定性を有するものとして提供することができる。さらには、添加後30日時点で添加されたプロテオグリカンの50重量%以上が残存している程度の安定性を有するものとして提供することも可能である。本発明カプセル化PG10はこのように、高浸透圧かつ酵素が存在する環境下でも安定的なカプセル化PGであり、味噌への機能性付与のために利用できる他、もろみ段階での醤油などへの機能性付与のために利用することも可能である。
【0020】
なお、以上説明した食品添加用カプセル化PGを製造する方法もまた、本発明の範囲内である。同製造方法にはコアセルベーション法を好適に用いることができるが、かかる製造方法を含め、本発明の実施例を以下説明する。
【実施例】
【0021】
本発明完成に至る研究経緯の概要説明をもって、実施例の説明とする。なお、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
1.研究テーマ
カプセル化プロテオグリカンとその製造方法およびカプセル化プロテオグリカン添加発酵食品
2.研究経過概要
2.−1 カプセル調製方法
(1)膜物質の選択と膜物質溶液の調製
膜物質として疎水性トウモロコシタンパク質であるツェイン、アラビアゴム、およびセラックを試験したところ、ツェインが最もマイクロカプセルを形成しやすかった。そこで、膜物質にはツェインを用いて、コアセルべーション法によるマイクロカプセルの調製方法を検討することとした。ツェインは水や濃厚エタノールには難溶解性、あるいは不溶性だが、希釈エタノールにはよく溶解する。そこで本研究では、60%エタノールをツェインの溶媒として用い、0.2%膜物質溶液を調製した。
【0022】
(2)芯物質溶液の調製
プロテオグリカン(以下、「PG」ともいう。)は、50%エタノールには溶解せず、沈殿を生じることがわかっている。そこで本研究では、40%エタノールをPGの溶媒として用い、0.1%芯物質溶液を調製した。なお実際には、初めにPGを水に溶解し、その後エタノールを加えて、約40%エタノールとした。なお、用いたPGは、一丸ファルコス株式会社製のサケ鼻軟骨由来PG(Lot.101101)である。
【0023】
(3)プロテオグリカンのカプセル化
調製した芯物質溶液および膜物質溶液をを混合して、芯物質膜物質溶液とした。これを撹拌しながら一晩放置し、pH7.0の20mM PIPES緩衝液を毎分7.5ml添加し、さらに撹拌して、カプセル化PGを調製した。PIPESは、ピペラジン1.4ビス(2エタノスルフォニックアシッド)(Piperazine−1,4−bis(2−ethanesulfonic acid))である。
図2に、以上説明したカプセル調製方法のスキームを示す。
【0024】
(4)カプセル調製方法の評価
(1)〜(3)記載の方法により、分散性が良好なカプセル化PG(以下、「PGカプセル」ともいう。)の懸濁液を得ることができた。しかしながら、調製に時間がかかること、しかもこれを通常の限外ろ過法で濃縮した後、遠心分離処理してカプセル化PGを得るには、さらに時間を要する上、少量しか得られないという問題点が明らかになった。調製時間を短縮化するとともに収率を上げるための検討を行なうこととした。
【0025】
(5)濃縮方法の検討
カプセル化PG懸濁液をより効率的に濃縮するために、Vivaflow(登録商標、分画分子量MW=30000、Sartorius stedim社製)を用いて限外ろ過を行なった。その結果、カプセル化PGの分散性を保持したままで10倍以上の濃縮処理を行なうことができた。これにより、カプセル調製方法における一定の時間短縮効果および収率向上効果を得ることができた。表1に、濃縮試験結果を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
2.−2 調製したカプセル化PGの評価
(1)顕微鏡観察
図3に、カプセル化PG懸濁液および調製されたカプセル化PGの写真図を示す。図中、(a)はカプセル化PG懸濁液、(b)は光学顕微鏡画像、そして(c)は電子顕微鏡画像である。図示するように、得られたカプセル化PGの粒径は1μm前後であり、食品添加用途として食感に影響を与えないものが得られた。
【0028】
(2)カプセル内液の定性分析
調製したカプセル化PG内にPGが存在しているか否かを確認した。カプセル化PG懸濁液から遠心分離によってカプセル化PGを主とする沈殿を反応残液から分離し、これを洗浄回収するために蒸留水を加えての遠心分離を3回行なって沈殿(カプセル化PG)と上清(洗浄液)とに分離し、沈殿(カプセル化PG)を磨砕して内容物が外に出た状態とし、遠心分離によって膜物質を分離してカプセル内液を得た。
図4は、カプセル内液の調製方法を示すフロー図である。セルロースアセテート膜電気泳動により、カプセル内液におけるPGの定性分析を行なった。
【0029】
図5は、カプセル内液の定性分析結果を示す電気泳動パターン図である。パターンは左から、標品(コンドロイチン4硫酸など)、PG、カプセル内液、洗浄液である。図示するように、カプセル内液試料においてはPGが同定された。一方、洗浄液からはPGが検出されなかった。このことから、調製したカプセル化PGは、その内部にPGが良好に含有されているとともに、カプセル外である洗浄液の方には実質的に漏出しておらず、初期目的通りにPGをマイクロカプセル化できていることが確認された。
【0030】
(3)カプセル内液の定量分析
カプセル内液と洗浄液について、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いてPGの定量分析を行なった。
カプセル内液を蒸留水で適宜希釈し、0.45μmフィルターでろ過後、高速液体クロマトグラフ(Prominence GPCシステム、島津製作所製)に供した。分析条件は次の通りである。すなわち、カラムはTSKgel G5000―PWXL(Φ7.8×300mm、東ソー製)、注入量は50μl、分析時間は30min、移動相は50mMリン酸緩衝液(pH6.8)、流速は0.5ml/min、カラム温度は40℃、検出には示差屈折率検出器(RID−20A)を用いた。
【0031】
その結果、PGはほとんどカプセル内液のみから検出され、洗浄液からはほとんど検出されなかった。定量分析結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
2.−3 発酵食品中におけるプロテオグリカンの安定性
酵素等が含まれる発酵食品中におけるPGの安定性について評価した。発酵食品としては、生味噌抽出液を調製して用いた。用いた生味噌はワダカン株式会社製の「マルサ蔵出し完熟」である。その80gを1/10Mコハク酸緩衝液に懸濁し、さらに食塩を補填したものを、8000rpmで10分間遠心分離して上澄みを取り、これを生味噌抽出液とした。
【0034】
懸濁に用いた1/10Mコハク酸緩衝液を対照とし、緩衝液、生味噌抽出液それぞれに、10mg/mLとなるようにPGFを添加し、15℃で静置した。ここでPGFとは、PG約20%、デキストリン約80%からなる粉末であり、カプセル化はされていない。用いたPGFは、一丸ファルコス(株)製の「プロテオグリカンF」である。1日後、それぞれ1mLずつ分取し、酵素が失活する沸騰水中で10分加熱し、10000rpmで10分間遠心分離し、その上清をHPLCにより分析した。
【0035】
その結果、緩衝液では1日後でもPG濃度が高く維持されていてほとんど変化がなかったのに対し、生味噌抽出液では1日後には1/4程度にまでPGが減少していた。PGをそのままの形態で生味噌に添加すると、相当の速さで減少することが明らかとなった。すなわち、PGは酵素によって分解されやすいものと考えられ、発酵食品においてはPGをそのまま添加しても急速に消失してしまい、安定性が悪いことが示唆された。表3に、PGのHPLC定量分析結果を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
2.−4 カプセル化PGの安定性
酵素等が含まれる発酵食品中におけるカプセル化PGの安定性について評価した。発酵食品および対照として、2.−3の生味噌抽出液および緩衝液を用いた。
カプセル化PG1gずつを精秤し、緩衝液、生味噌抽出液、緩衝液9mLをそれぞれ注加した。生味噌抽出液は30℃で静置した。そして0、1、14、30、60日後に取り出し、酵素を失活させるために沸騰水中で10分加熱した。その後、8000rpmで10分間の遠心分離、緩衝液1mLを注加しての沈殿の洗浄、8000rpmで10分間の遠心分離を5回、回収した沈殿の乳鉢での磨砕を行い、磨砕液を10000rpmで10分間遠心分離して得た上清をHPLCにより分析した。
【0038】
その結果、生味噌抽出液においてはカプセルPG形態でのPGが、14日経過時点でも約70%残存、30日経過時点であっても50%以上残存していた。さらに60日経過時点においても減少が認められなかった。このことから、PGはマイクロカプセル化することによって生味噌中に安定的に保持されることが明らかとなった。発酵食品に対するPG添加におけるマイクロカプセル化の有効性が示された。表4に、カプセルPGのHPLC定量分析結果を示す。
【0039】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のカプセル化プロテオグリカン、その製造方法、およびプロテオグリカン添加食品によれば、食品中、特に発酵食品中における添加プロテオグリカンの経時的減少を抑制し、プロテオグリカンを食品中に安定的に保持することができる。これにより、味噌等の発酵食品にプロテオグリカンの有する様々な機能性を付与することができ、価値を高めることができる。実施例では味噌を採り上げたが、醤油を初めその他の発酵食品、微生物や酵素類を含む食品への応用ももちろん可能であり、プロテオグリカンの市場拡大が期待される。したがって、プロテオグリカン製造分野、食品製造分野、特に発酵食品製造分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0041】
2…プロテオグリカン
5…膜物質
10…カプセル化プロテオグリカン
20…発酵食品
30…プロテオグリカン添加食品