【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
以下に示すように、制菌剤として、実施例1〜12ならびに比較例1〜3の製剤を調製した。これらの製剤の合計重量は200gとした。実施例1〜12ならびに比較例1〜3の製剤はいずれも、粉末から構成される製剤(粉末製剤)であった。
【0039】
(実施例1)
無水酢酸ナトリウム含有粉末と無水酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含有する粉末とをミキサーに入れた後、撹拌下、液状の菜種油を0.03g/秒(粉末1kg当たりにて換算すると0.3g/秒)にて連続的に添加しながら、これらが略均一になるまで撹拌した。次いで、フマル酸、クエン酸および食品素材(いずれも粉末)を同じミキサーに入れ、ミキサーの内容物が略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0040】
(実施例2)
液状の菜種油の代わりに液状のオリーブ油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0041】
(実施例3)
液状の菜種油の代わりに液状の大豆油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0042】
(実施例4)
液状の菜種油の代わりに液状の米油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0043】
(実施例5)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1における液状の菜種油を除く粉末状原料をまとめてミキサーに入れ、略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0045】
(比較例2)
液状の菜種油の代わりに水(液状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0046】
実施例1〜5ならびに比較例1および2の製剤の組成を以下の表1に示す。
【0047】
(検討例1:制菌剤の酸臭および臭いの飛散の抑制効果)
実施例1〜5ならびに比較例1および2の粉末製剤を、製剤の臭いについて官能評価を行った。パネラー5名により、酸臭の強さおよび臭いの飛散の程度に応じて、3段階にて評価した(酸臭および臭い飛散なし3点;若干の酸臭があるが、臭いの飛散は少なかった2点;酸臭が強く、臭いが飛散していた1点)。パネラーによる評価点数の平均点(小数点以下は四捨五入した)を算出して比較した。この結果もまた、以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示されるように、比較例1および比較例2の粉末製剤では、酸臭が強く、臭いの飛散が見られたのに対し、実施例1〜5の粉末製剤では酸臭はなく、臭いの飛散は生じなかった。従って、液状の食用油脂を用いて製造することにより、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤の酸臭および臭い飛散を抑制できることが明らかとなった。
【0050】
(実施例6)
無水酢酸ナトリウム含有粉末と、無水酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含有する粉末とをミキサーに入れた後、撹拌下、液状の菜種油を0.03g/秒(粉末1kg当たりにて換算すると0.3g/秒)にて連続的に添加しながら、これらが略均一になるまで撹拌した。次いで、グルコノデルタラクトン、クエン酸、炭酸カルシウムおよびデキストリン(いずれも粉末)を同じミキサーに入れ、ミキサーの内容物が略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0051】
(実施例7)
液状の菜種油の代わりに液状の米油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0052】
(実施例8)
液状の菜種油の代わりに液状のひまわり油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0053】
(実施例9)
液状の菜種油の代わりに液状のオリーブ油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0054】
(実施例10)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0055】
(比較例3)
実施例6における液状の菜種油を除く粉末状原料をまとめてミキサーに入れ、略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0056】
実施例6〜10ならびに比較例3の製剤の組成を以下の表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
(検討例2:液状油脂を用いた制菌剤中の酢酸揮発量)
実施例6〜10ならびに比較例3の粉末製剤について、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。
【0059】
GC−MSの22mL容量のヘッドスペースボトルに粉末製剤2.0gを量り取り、粉末製剤ごとに各2本ずつサンプリングした。このGC−MSにおける分析条件は、以下の通りとし、揮発量を酢酸のピーク面積の平均値をとることにより求めた。
【0060】
(使用機器)
GC:Clarus 680(PerkinElmer社製)
MS:Clarus SQ8T(PerkinElmer社製)
ヘッドスペースオートサンプラー:Turbo Matrix 40 Trap(PerkinElmer社製)
(GC)
カラム:TC-WAX(長さ60m,0.25mmI.D., df=0.32μm)(GL Science Inc.社製)
カラムオーブン温度:40℃(2分)で開始し、10℃/分にて昇温し、200℃(2分)
注入モード:スプリットレス
(MS)
インターフェース温度:200℃
イオン源温度:180℃
測定モード:Scan/SIR
SIRスキャン時間:0.3秒
(ヘッドスペースオートサンプラー)
オーブン温度:60℃
ニードル温度:70℃
トランスファー温度:80℃
保温時間:30分
注入口温度:180℃
キャリアガス:ヘリウムガス
【0061】
結果を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示されるように、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例6〜10の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少していた。したがって、液状の食用油脂を用いて製造することにより、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤中の酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。なお、実施例6〜10の粉末製剤は、比較例3の粉末製剤と比較して、いずれも酸臭を感じるものではなかった。
【0064】
(実施例11および12)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用い、中鎖脂肪酸油およびデキストリンの量をそれぞれ表4に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0065】
実施例10〜12ならびに比較例3の製剤の組成を以下の表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
(検討例3:液状油脂含有量による制菌剤中の酢酸揮発量)
実施例10〜12ならびに比較例3の粉末製剤について、検討例2と同じ条件にて、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。結果を以下の表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示されるように、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例10〜12の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少し、さらに、粉末製剤の製造に用いた液状油脂量が増大するにつれて、酢酸の揮発量が減少した。したがって、液状油脂量の増大により、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤中の酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。実施例10〜12の粉末製剤は、比較例3の粉末製剤と比較して、いずれも酸臭を感じるものではなかった。
【0070】
(実施例13:制菌剤を用いた蒸しパンの製造)
実施例10〜12および比較例3の粉末製剤(制菌剤)について、下記の表6に示す配合の原材料(表中の「制菌剤」として、実施例10〜12または比較例3のいずれかの粉末製剤を用いた)を用いて、以下のように蒸しパンを製造した。まず粉末状原材料である強力粉、薄力粉、膨張剤「トップふくらし粉750」(奥野製薬工業株式会社製)、グラニュー糖および制菌剤を合わせてふるいにかけた。液状原材料である牛乳、全卵、液体油脂および水を合わせ、これに対し、ふるいにかけた後の粉末状原材料を添加し、ミキシングを行い、生地を得た。生地を容器に入れ、15分間蒸して、蒸しパンを得た。
【0071】
【表6】
【0072】
(検討例4:制菌剤を添加した蒸しパン中の酢酸揮発量)
実施例13で製造した各蒸しパンについて、検討例2と同じ条件にて、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。結果を以下の表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
表7に示されるように、粉末製剤である制菌剤を用いて蒸しパンを製造した際も、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例10〜12の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少し、さらに、粉末製剤の製造に用いた液状油脂量が増大するにつれて、酢酸の揮発量が減少した。したがって、液状油脂を用いて製造した制菌剤を添加することにより、そのような制菌剤を添加した食品(蒸しパン)においても、液状油脂を用いないで製造した制菌剤と比較して、酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。
【0075】
(検討例5:蒸しパンにおける制菌効果)
実施例13で製造した各蒸しパンを用いて、実施例10〜12のそれぞれの粉末製剤によるカビの発育抑制効果を検討した。カビには、ペニシリウム・グラブラムおよびアスペルギルス・ニガーを用いた。各カビの胞子液(10
2cfu/g)を蒸しパンに10箇所に植菌し、目視にて発育を観察した。植菌後の蒸しパンは25℃にて保存した。比較のため、粉末製剤無添加であること以外は実施例13と同様に製造した蒸しパンを用いた。ペニシリウム・グラブラムおよびアスペルギルス・ニガーについての結果をそれぞれ以下の表8および表9に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
表8および表9に示されるように、実施例10〜12のいずれかの粉末製剤を配合した蒸しパンでは、粉末製剤無添加の蒸しパンと比べて、ペニシリウム・グラブラム、アスペルギルス・ニガーともに発育の抑制が見られた。このようなカビの発育の抑制の程度は、実施例10、実施例11、実施例12の順に高くなった。よって、中鎖脂肪酸油の配合量の増大につれて、カビの発育が遅くなり、制菌効果が向上していることが示された。