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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-162057(P2019-162057A)
(43)【公開日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】食品用粉末状制菌剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20190830BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20190830BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20190830BHJP
【FI】
   A23L3/3508
   A23L35/00
   A23G3/34 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-51444(P2018-51444)
(22)【出願日】2018年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【テーマコード(参考)】
4B014
4B021
4B036
【Fターム(参考)】
4B014GG07
4B014GG10
4B014GG11
4B014GG14
4B014GK04
4B014GK10
4B014GL04
4B014GP01
4B021MC01
4B021MK05
4B021MK16
4B021MK19
4B021MP01
4B036LC04
4B036LF15
4B036LH07
4B036LH10
4B036LH13
4B036LH22
4B036LH39
4B036LH41
4B036LK04
4B036LP01
(57)【要約】
【課題】酸臭や臭いの飛散が抑制された食品用粉末状制菌剤を製造する方法を提供すること。
【解決手段】食品用粉末状制菌剤の製造方法が開示される。この製造方法は、酢酸類を含む粉末状原料に対し、液状の食用油脂を所定の速度にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程を含む。また、この製造方法は、酢酸類を含まない粉末状原料に対し、液状の食用油脂を所定の速度にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程、および該添加および混合工程により得られた混合物と、酢酸類を含む粉末状原料とを混合する工程を含むものであってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用粉末状制菌剤の製造方法であって、
酢酸類を含む粉末状原料に対し、該粉末状原料1kg当たり液状の食用油脂を0.01g/秒〜60g/秒にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
食品用粉末状制菌剤の製造方法であって、
酢酸類を含まない粉末状原料に対し、該粉末状原料1kg当たり液状の食用油脂を0.01g/秒〜60g/秒にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程、および
該添加および混合工程により得られた混合物と、酢酸類を含む粉末状原料とを混合する工程
を含む、製造方法。
【請求項3】
前記酢酸類が、氷酢酸および無水酢酸ナトリウムを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記食用油脂が、菜種油、オリーブオイル、大豆油、米油、中鎖脂肪酸油、ヤシ油、コーン油およびひまわり油からなる群から選択される少なくとも1つの食用油脂を含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記食用油脂が中鎖脂肪酸油である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
食品の製造方法であって、
請求項1から5のいずれかに記載の方法により食品用粉末状制菌剤を得る工程、および
該食品用粉末状制菌剤と該食品の原材料とを合わせる工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用粉末状制菌剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工食品の製造時や保存中における、腐敗、劣化に関与する菌の発生やその増殖を抑制するために、種々の保存料、抗菌剤、日持向上剤ならびに制菌剤が提案されている。なお、制菌剤または日持向上剤とは、市場に流通させる消費期限の比較的短い食品の品質を、微生物の制御等によって数日間程度維持する効果を発揮するものを指し、比較的長期間にわたって食品の保存性を維持する効果を発揮する保存料とは明確に区別されている。そして、制菌剤または日持向上剤の有効成分については、安全性が高く食経験の豊富なものが求められ、例えば、エタノール、グリシン、有機酸(例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸、乳酸)などが好んで用いられ得る。
【0003】
加工食品の保存中に発生するカビ抑制を目的として、種々の制菌剤が提案されている。しかし、このような制菌剤の有効成分(制菌成分)については、添加または配合により最終食品の本来の風味等を損ねるという欠点がある。例えば、酢酸および酢酸ナトリウムには食品へのカビ抑制効果があることが知られている。しかし、カビ抑制効果をより高いものとするために配合量を増量すると、製剤自体の酸臭が強まり、最終食品に強い酸味や酸臭が付与されてしまう。また、菓子、パンの製造現場において、酸臭の強い制菌剤は、その臭いが飛散しやすく、作業性に影響するという問題がある。
【0004】
したがって、制菌剤の有効成分の使用に当たっては、使用する食品本来の風香味、色、粘度等に対する影響を与えにくい成分を選択するか、有効成分使用量を可能な限り減らして使用することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、油脂とグリセリン脂肪酸エステルまたは/およびポリグリセリン脂肪酸エステルとを混合し、加熱溶融したものを酢酸ナトリウムに混合吸着させることによる、粉末状食品変質防止剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−124569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸臭や臭いの飛散が抑制された食品用粉末状制菌剤を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、食品用粉末状制菌剤の製造方法を提供し、この方法は、
酢酸類を含む粉末状原料に対し、該粉末状原料1kg当たり液状の食用油脂を0.01g/秒〜60g/秒にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程
を含む。
【0009】
本発明は、食品用粉末状制菌剤の製造方法を提供し、この方法は、
酢酸類を含まない粉末状原料に対し、該粉末状原料1kg当たり液状の食用油脂を0.01g/秒〜60g/秒にて連続または不連続にて添加し、かつ混合する工程、および
該添加および混合工程により得られた混合物と、酢酸類を含む粉末状原料とを混合する工程
を含む。
【0010】
1つの実施形態では、上記酢酸類は、氷酢酸および無水酢酸ナトリウムを含む。
【0011】
1つの実施形態では、上記食用油脂は、菜種油、オリーブオイル、大豆油、米油、中鎖脂肪酸油、ヤシ油、コーン油およびひまわり油からなる群から選択される少なくとも1つの食用油脂を含む。
【0012】
1つの実施形態では、上記食用油脂は中鎖脂肪酸油である。
【0013】
本発明はまた、食品の製造方法を提供し、この方法は、
上記の食品用粉末状制菌剤の製造方法により食品用粉末状制菌剤を得る工程、および
当該食品用粉末状制菌剤と当該食品の原材料とを合わせる工程
を含む。
【0014】
本発明はさらに、上記の食品用粉末状制菌剤の製造方法により製造された食品用粉末状制菌剤を提供する。
【0015】
本発明はなおさらに、上記食品用粉末状制菌剤を含む食品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸臭や臭いの飛散が抑制された食品用粉末状制菌剤を製造することができる。このような制菌剤の使用により、食品への酸味や酸臭の付与が抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、食品用粉末状制菌剤の製造方法を提供する。「食品用粉末状制菌剤」とは、食品への添加または配合を目的とし、かつ粉末のような粒子の群から構成される製剤形態である制菌剤をいう。なお、「粉末状」には、顆粒等の粒子の集合体からなる形態をも包含され得る。本明細書中において「制菌」とは、微生物の増殖および生育を制御することにより、「制菌」を行わない場合と比較して、食品の品質の維持を一定期間(例えば、食品の種類に依存し得るが、数日間〜数週間(例えば、2〜6日間、または約1〜2週間))延長する効果をいう。このような制菌剤は、「日持向上剤」と呼ばれることもある。制菌効果が発揮され得る微生物としては、特に限定されず、細菌類(耐熱菌、大腸菌群など)や真菌類(酵母、カビなど)に効果的であり、例えば、食品の保存中に発生するカビ(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus)(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))、ペニシリウム属(Penicillium)(例えば、ペニシリウム・グラブラム(Penicillium glabrum))が挙げられる。
【0018】
食品用粉末状制菌剤(本明細書中においては、「食品用粉末状制菌剤」を単に「制菌剤」ともいう)は、基本的に、粉末状の原料(本明細書中においては、「粉末状原料」ともいう)から調製され得る。粉末状原料には、酢酸類を含む制菌成分に加えて、pH調整剤、乳化剤または分散剤、賦形剤などの他の成分が含まれる。粉末状原料は、このような制菌成分および他の成分の物質を粉末化したものであり得る。粉末状原料は、制菌成分および他の成分の物質のうち2つ以上の物質を予め粉末状の状態で混合したものであってもよく、あるいは液状物もしくはペースト状物またはこれらのいずれかと固体との混合物を当業者に周知の方法(例えば、スプレードライ)によって粉末化または顆粒化したものであってもよい。本発明においては、制菌剤は、粉末状原料に加えて、液状油脂を用いて製造される。
【0019】
本発明において用いられる「酢酸類」とは、酢酸または酢酸塩のいずれか1つ、および酢酸と酢酸塩との組合せを包含していう。「酢酸類」とは、酢酸または酢酸塩のいずれかで1つの物質である場合であってもよいし、あるいは2以上の物質を含む場合であってもよい。酢酸としては、特に限定されず、例えば、酢酸、氷酢酸、醸造酢、これらの混合物が挙げられる。好ましくは、氷酢酸が用いられる。酢酸塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸ナトリウム、無水酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸カリウム、およびこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、酢酸ナトリウムおよび/または無水酢酸ナトリウムであり、無水酢酸ナトリウム(「酢酸ナトリウム(無水)」とも称され得る)が特に好ましい。好ましくは、「酢酸類」は、氷酢酸および無水酢酸ナトリウムを含む。本発明の食品用粉末状制菌剤の製造方法においては、「酢酸類」は、酢酸(例えば、氷酢酸)と酢酸塩(例えば、無水酢酸ナトリウム)とが予め混合されたものであってもよい。あるいは、酢酸(例えば、氷酢酸)と酢酸塩(例えば、無水酢酸ナトリウム)とが、本発明の製造方法における1つの混合工程内で、別々に添加されるものであってもよい。
【0020】
「酢酸類」を含む粉末状原料とは、酢酸または酢酸塩のいずれかの1つの物質を含む粉末状原料であってもよいし、あるいは2以上の物質(例えば、酢酸および酢酸塩)を含む粉末状原料であってもよい。「酢酸類」を含む粉末状原料として、例えば、無水酢酸ナトリウムの粉末のような無水酢酸ナトリウム含有粉末、液状の酢酸を粉末化基材と混合し、粉末化したもののような酢酸含有粉末、氷酢酸と無水酢酸ナトリウムとを混合し、粉末化したもののような氷酢酸および無水酢酸ナトリウムを含有する粉末などが挙げられる。
【0021】
制菌剤中の酢酸類の量は、特に限定されないが、制菌効果を発揮する量が好ましい。酢酸類の量は、制菌剤全体の量に対し、例えば、30重量%〜90重量%、好ましくは、50重量%〜87重量%、より好ましくは70重量%〜85重量%である。酢酸類の量が上記範囲内のような量であることにより、製剤の酸臭の抑制および制菌効果の発揮がより効果的になされ得る。
【0022】
酢酸類が酢酸と酢酸塩との混合物である場合、これらの重量比は特に限定されない。例えば、氷酢酸と無水酢酸ナトリウムとの混合物である場合、氷酢酸と無水酢酸ナトリウムとの重量比率は、氷酢酸:無水酢酸ナトリウムが、例えば、1〜0.1:1〜40である。
【0023】
制菌成分および/またはpH調整剤として、酢酸類以外の有機酸または無機酸およびそれらの塩類を用いることができる。有機酸およびその塩類としては、例えば、クエン酸、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸、アスコルビン酸、フィチン酸、プロピオン酸、安息香酸、ソルビン酸およびそれらの酸性塩または塩基性塩(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの塩類)が挙げられる。粉末状原料として、グルコノデルタラクトンもまた用いることができ、これは食品のpH調整作用を有する。無機酸類およびその塩類としては、例えば、リン酸(例えば、一リン酸、二リン酸、三リン酸、ピロメタポリリン酸など)またはその酸性塩、アルカリ性塩、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなど)などが挙げられる。制菌成分として、任意の保存料を用いてもよく、例えば、アミノ酸またはその重合体(例えば、グリシン、ε-ポリリジン、しらこたん白抽出物(プロタミン))が挙げられる。乳化剤または分散剤として、特に限定されないが、例えば、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンの重合度が2〜10)、ソルビタン脂肪酸エステル、カゼインナトリウムなどが用いられ得る。賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、糖質および糖アルコール;ガム類が挙げられる。糖質としては特に限定されないが、例えば、単糖類、オリゴ糖類、多糖類が挙げられる。単糖類としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、およびフルクトースが挙げられる。オリゴ糖類としては、特に限定されないが、例えば、乳糖、ショ糖、および麦芽糖が挙げられる。多糖類としては、特に限定されないが、例えば、デンプン、ペクチン、およびデキストリンが挙げられる。糖アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、およびキシリトールが挙げられる。ガム類としては、特に限定されないが、例えば、グアーガムおよびキサンタンガムが挙げられる。賦形剤として市販の食品素材もまた用いられ得る。
【0024】
酢酸類以外の粉末状原料については、それぞれの含有量は、制菌剤の制菌効果を喪失させない範囲において、当業者によって適宜設定され得る。
【0025】
本発明において用いられる食用油脂に関して、「液状」とは、粉末状原料への添加の際に液状である限り、特に限定されない。液状の油脂としては、例えば、常温で液状である油脂、および当業者に周知の手段によって予め加温することにより液状とされた油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。好ましくは、常温で液状である油脂である。「常温」とは、例えば、5〜30℃であり、好ましくは15〜25℃である。本明細書において、例えば、「20℃において液状である油脂」とは、20℃にて1重量%以下の固体脂を含有していてもいい液状油脂を意味する。油脂の固体脂含量は、日本油化学会基準油脂分析試験法の「固体脂含量NMR法」に記載の方法に従って測定される。
【0026】
食用油脂としては、例えば、菜種油、オリーブオイル、米油、大豆油、サラダ油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、胡麻油、綿実油、魚油(例えば、鯨油、鮫油、および肝油)、動植物油、分別油、中鎖脂肪酸油(MCT)(例えば、C〜C12の脂肪酸トリグリセリド)、およびエステル交換油などが用いられ得る。本発明においては、液状の食用油脂(以下、「液状の食用油脂」を単に「液状油脂」ともいう)は、粉末状原料への添加の際に液状である限り、1種類を用いてもよく、または2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。好ましくは、食用油脂は、常温において粘度が低い油脂であり、例えば、菜種油、オリーブオイル、米油、大豆油、中鎖脂肪酸油、ヤシ油、コーン油、ひまわり油あるいはこれらの任意の2種以上の組合せである。1つの実施形態では、食用油脂は、中鎖脂肪酸油である。
【0027】
制菌剤中の食用油脂の量は、酸臭抑制効果(酸臭または臭いの飛散を抑制する効果をいう)を発揮する量である限り特に限定されないが、制菌剤全体の量に対し、例えば、0.5重量%〜20重量%、好ましくは、1重量%〜10重量%である。0.5重量%未満であると酸臭抑制効果が劣る傾向にあり、20重量%より多いと制菌剤の製造の際にペースト化するおそれがある。
【0028】
本発明の制菌剤の製造方法では、粉末状原料に対し液状油脂を添加し、かつそれらを混合する工程を含む。液状油脂は、添加されるべき粉末状原料1kg当たりに対し、0.01g/秒〜60g/秒、好ましくは、0.1g/秒〜20g/秒の範囲内の速度にて添加される。このような添加は、連続的であってもよく、または不連続的(断続的)であってもよい。混合は、例えば、混合されるべき原料が略均一になるまで行われ得る。粉末状原料に対する液状油脂の添加および混合は、好ましくは、撹拌下で行われる。撹拌は、添加された液状油脂と粉末状原料とが略均一に混合されるまで、例えば、ミキサーの撹拌翼を十分に周回することによってなされ得る。撹拌翼の周速は、撹拌される粉末状原料の量に依存し得るが、粉末状原料が流動されるような速度であればよい。
【0029】
1つの実施形態では、上記添加および混合工程における粉末状原料は、酢酸類を含む。この実施形態では、酢酸類を含む粉末状原料に対し、液状油脂が上記所定の速度にて添加され、これらが混合される。この添加および混合工程における粉末状原料は、酢酸類を含む粉末状原料以外の少なくとも1つの粉末状原料を含んでもよく、または全ての粉末状原料を含んでもよい。
【0030】
別の実施形態では、上記添加および混合工程における粉末状原料は、酢酸類を含まない。この実施形態では、酢酸類を含まない粉末状原料に対し、液状油脂が上記所定の速度にて添加され、これらが混合される。さらに、このような添加および混合工程により得られた混合物と、酢酸類を含む粉末状原料との混合が行われる。この実施形態では、酢酸類を含まない少なくとも1つの粉末状原料と液状油脂との混合後、この混合物に対し酢酸類を含む粉末状原料が添加され、これらが混合される。酢酸類を含む粉末状原料との混合工程には、液状油脂と混合されていない残りの粉末状原料を併せて入れてもよく、あるいは、酢酸類を含む粉末状原料との混合工程後、残りの粉末状原料とさらに混合してもよい。
【0031】
本発明の制菌剤の製造方法では、粉末状原料の混合(例えば、氷酢酸と無水酢酸ナトリウムとの混合)に際し、混合する粉末状原料同士を合わせてふるいにかけてもよい。混合する粉末状原料同士は、液状油脂添加前に予め(必要に応じて撹拌下で)混合を行ってもよい。液状油脂の添加および混合工程後に得られた粉末混合物をふるいにかけた後、(必要に応じて撹拌下で)混合を行ってもよい。
【0032】
上記のようにして、粉末状の製剤を得ることができる。このようにして得られた粉末状の製剤は制菌剤であり、これは、制菌効果を有し、かつ酸臭または臭いの飛散が抑制されたものであり得る。
【0033】
上記のように得られた制菌剤は、食品の製造に際して添加され得る。このような食品としては、特に限定されないが、例えば、食パン、菓子パンなどのパン類、蒸しケーキ、蒸しパン、中華まんじゅうなどの蒸し物類、ドーナツなどの揚げ菓子類、マフィン類、スポンジケーキ、シュー皮などの焼き菓子類、大福、饅頭などの和菓子類、カスタードクリーム、生クリームなどのフィリング類、天ぷらなどの揚げ物類、お好み焼、たこ焼きなどの惣菜類、はんぺんなどの水産加工品、ハンバーグなどの畜肉加工品が挙げられる。この制菌剤は、食品添加剤として使用され得る。
【0034】
本発明の食品の製造方法は、上記方法によって制菌剤を得る工程、および当該制菌剤と食品の原材料とを合わせる工程を含む。本発明における制菌剤と食品の原材料とを合わせるタイミングおよび方法は、例えば、酢酸類を含む制菌剤を食品の原材料と合わせるタイミングおよび方法に準じ得る。
【0035】
本発明によれば、上記のようにして製造された制菌剤を含む食品が提供される。本発明における制菌剤の食品中の含有量としては、通常、酢酸を含む制菌剤が食品に配合される量が採用され得る。本発明における制菌剤は、当該制菌剤中の制菌成分または酢酸類の含有量に依存し得るが、制菌剤添加前の食品の重量(または制菌剤添加前の食品の原材料の総重量)に対して、例えば、0.05%〜3%、好ましくは、0.1%〜2%、より好ましくは、0.5%〜1.5%にて、食品中に配合され得る。このような制菌剤配合量にて、例えば、酢酸類80重量%(例えば、無水酢酸ナトリウム70重量%および氷酢酸10重量%)を含む制菌剤が用いられ得る。
【0036】
本発明によれば、酸臭や臭いの飛散が抑制された食品用粉末状制菌剤を製造することができる。このような制菌剤の使用により、食品に制菌効果を付与しつつ、食品への酸味や酸臭の付与が抑えられる。制菌効果を高めるために、食品における制菌剤の配合量を高めることができる。菓子、パンなどの食品の製造においては、このような制菌剤の使用により、その製造現場の作業性を高めることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
以下に示すように、制菌剤として、実施例1〜12ならびに比較例1〜3の製剤を調製した。これらの製剤の合計重量は200gとした。実施例1〜12ならびに比較例1〜3の製剤はいずれも、粉末から構成される製剤(粉末製剤)であった。
【0039】
(実施例1)
無水酢酸ナトリウム含有粉末と無水酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含有する粉末とをミキサーに入れた後、撹拌下、液状の菜種油を0.03g/秒(粉末1kg当たりにて換算すると0.3g/秒)にて連続的に添加しながら、これらが略均一になるまで撹拌した。次いで、フマル酸、クエン酸および食品素材(いずれも粉末)を同じミキサーに入れ、ミキサーの内容物が略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0040】
(実施例2)
液状の菜種油の代わりに液状のオリーブ油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0041】
(実施例3)
液状の菜種油の代わりに液状の大豆油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0042】
(実施例4)
液状の菜種油の代わりに液状の米油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0043】
(実施例5)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1における液状の菜種油を除く粉末状原料をまとめてミキサーに入れ、略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0045】
(比較例2)
液状の菜種油の代わりに水(液状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末製剤を得た。
【0046】
実施例1〜5ならびに比較例1および2の製剤の組成を以下の表1に示す。
【0047】
(検討例1:制菌剤の酸臭および臭いの飛散の抑制効果)
実施例1〜5ならびに比較例1および2の粉末製剤を、製剤の臭いについて官能評価を行った。パネラー5名により、酸臭の強さおよび臭いの飛散の程度に応じて、3段階にて評価した(酸臭および臭い飛散なし3点;若干の酸臭があるが、臭いの飛散は少なかった2点;酸臭が強く、臭いが飛散していた1点)。パネラーによる評価点数の平均点(小数点以下は四捨五入した)を算出して比較した。この結果もまた、以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示されるように、比較例1および比較例2の粉末製剤では、酸臭が強く、臭いの飛散が見られたのに対し、実施例1〜5の粉末製剤では酸臭はなく、臭いの飛散は生じなかった。従って、液状の食用油脂を用いて製造することにより、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤の酸臭および臭い飛散を抑制できることが明らかとなった。
【0050】
(実施例6)
無水酢酸ナトリウム含有粉末と、無水酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含有する粉末とをミキサーに入れた後、撹拌下、液状の菜種油を0.03g/秒(粉末1kg当たりにて換算すると0.3g/秒)にて連続的に添加しながら、これらが略均一になるまで撹拌した。次いで、グルコノデルタラクトン、クエン酸、炭酸カルシウムおよびデキストリン(いずれも粉末)を同じミキサーに入れ、ミキサーの内容物が略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0051】
(実施例7)
液状の菜種油の代わりに液状の米油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0052】
(実施例8)
液状の菜種油の代わりに液状のひまわり油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0053】
(実施例9)
液状の菜種油の代わりに液状のオリーブ油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0054】
(実施例10)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用いたこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0055】
(比較例3)
実施例6における液状の菜種油を除く粉末状原料をまとめてミキサーに入れ、略均一になるまで撹拌した。これにより、粉末製剤を得た。
【0056】
実施例6〜10ならびに比較例3の製剤の組成を以下の表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
(検討例2:液状油脂を用いた制菌剤中の酢酸揮発量)
実施例6〜10ならびに比較例3の粉末製剤について、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。
【0059】
GC−MSの22mL容量のヘッドスペースボトルに粉末製剤2.0gを量り取り、粉末製剤ごとに各2本ずつサンプリングした。このGC−MSにおける分析条件は、以下の通りとし、揮発量を酢酸のピーク面積の平均値をとることにより求めた。
【0060】
(使用機器)
GC:Clarus 680(PerkinElmer社製)
MS:Clarus SQ8T(PerkinElmer社製)
ヘッドスペースオートサンプラー:Turbo Matrix 40 Trap(PerkinElmer社製)
(GC)
カラム:TC-WAX(長さ60m,0.25mmI.D., df=0.32μm)(GL Science Inc.社製)
カラムオーブン温度:40℃(2分)で開始し、10℃/分にて昇温し、200℃(2分)
注入モード:スプリットレス
(MS)
インターフェース温度:200℃
イオン源温度:180℃
測定モード:Scan/SIR
SIRスキャン時間:0.3秒
(ヘッドスペースオートサンプラー)
オーブン温度:60℃
ニードル温度:70℃
トランスファー温度:80℃
保温時間:30分
注入口温度:180℃
キャリアガス:ヘリウムガス
【0061】
結果を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示されるように、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例6〜10の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少していた。したがって、液状の食用油脂を用いて製造することにより、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤中の酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。なお、実施例6〜10の粉末製剤は、比較例3の粉末製剤と比較して、いずれも酸臭を感じるものではなかった。
【0064】
(実施例11および12)
液状の菜種油の代わりに液状の中鎖脂肪酸油を用い、中鎖脂肪酸油およびデキストリンの量をそれぞれ表4に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様にして粉末製剤を得た。
【0065】
実施例10〜12ならびに比較例3の製剤の組成を以下の表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
(検討例3:液状油脂含有量による制菌剤中の酢酸揮発量)
実施例10〜12ならびに比較例3の粉末製剤について、検討例2と同じ条件にて、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。結果を以下の表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示されるように、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例10〜12の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少し、さらに、粉末製剤の製造に用いた液状油脂量が増大するにつれて、酢酸の揮発量が減少した。したがって、液状油脂量の増大により、酢酸ナトリウムおよび氷酢酸を含む粉末製剤である制菌剤中の酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。実施例10〜12の粉末製剤は、比較例3の粉末製剤と比較して、いずれも酸臭を感じるものではなかった。
【0070】
(実施例13:制菌剤を用いた蒸しパンの製造)
実施例10〜12および比較例3の粉末製剤(制菌剤)について、下記の表6に示す配合の原材料(表中の「制菌剤」として、実施例10〜12または比較例3のいずれかの粉末製剤を用いた)を用いて、以下のように蒸しパンを製造した。まず粉末状原材料である強力粉、薄力粉、膨張剤「トップふくらし粉750」(奥野製薬工業株式会社製)、グラニュー糖および制菌剤を合わせてふるいにかけた。液状原材料である牛乳、全卵、液体油脂および水を合わせ、これに対し、ふるいにかけた後の粉末状原材料を添加し、ミキシングを行い、生地を得た。生地を容器に入れ、15分間蒸して、蒸しパンを得た。
【0071】
【表6】
【0072】
(検討例4:制菌剤を添加した蒸しパン中の酢酸揮発量)
実施例13で製造した各蒸しパンについて、検討例2と同じ条件にて、酢酸の揮発量をガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)にて各々2回ずつ測定し、ピーク面積として求めた。結果を以下の表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
表7に示されるように、粉末製剤である制菌剤を用いて蒸しパンを製造した際も、比較例3の粉末製剤に比較して、実施例10〜12の粉末製剤では、酢酸の揮発量が減少し、さらに、粉末製剤の製造に用いた液状油脂量が増大するにつれて、酢酸の揮発量が減少した。したがって、液状油脂を用いて製造した制菌剤を添加することにより、そのような制菌剤を添加した食品(蒸しパン)においても、液状油脂を用いないで製造した制菌剤と比較して、酢酸の揮発量が減少する傾向にあることを確認した。
【0075】
(検討例5:蒸しパンにおける制菌効果)
実施例13で製造した各蒸しパンを用いて、実施例10〜12のそれぞれの粉末製剤によるカビの発育抑制効果を検討した。カビには、ペニシリウム・グラブラムおよびアスペルギルス・ニガーを用いた。各カビの胞子液(10cfu/g)を蒸しパンに10箇所に植菌し、目視にて発育を観察した。植菌後の蒸しパンは25℃にて保存した。比較のため、粉末製剤無添加であること以外は実施例13と同様に製造した蒸しパンを用いた。ペニシリウム・グラブラムおよびアスペルギルス・ニガーについての結果をそれぞれ以下の表8および表9に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
表8および表9に示されるように、実施例10〜12のいずれかの粉末製剤を配合した蒸しパンでは、粉末製剤無添加の蒸しパンと比べて、ペニシリウム・グラブラム、アスペルギルス・ニガーともに発育の抑制が見られた。このようなカビの発育の抑制の程度は、実施例10、実施例11、実施例12の順に高くなった。よって、中鎖脂肪酸油の配合量の増大につれて、カビの発育が遅くなり、制菌効果が向上していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品の製造分野において有用である。