特開2019-162828(P2019-162828A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-162828(P2019-162828A)
(43)【公開日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】成形型及び成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/37 20060101AFI20190830BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20190830BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20190830BHJP
【FI】
   B29C45/37
   B29C33/42
   B29C45/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-53091(P2018-53091)
(22)【出願日】2018年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】305018823
【氏名又は名称】盛岡セイコー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晧
(72)【発明者】
【氏名】滝元 正和
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AG01
4F202AG23
4F202AG28
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK06
4F202CK15
(57)【要約】
【課題】製品品質の向上を図ることができる成形型及び成形品を提供する。
【解決手段】本発明に係る成形型100は、ゲート119を通じて樹脂材料が充填されるとともに、ゲート119の開口方向に直交する面内のうち樹脂材料の流通方向でゲート119から第1距離離れた歯先成形部116、及びゲート119から第2距離離れた歯底成形部115を有するキャビティCを画成する第2型102と、第1型101において、ゲート119と歯底成形部115との間に位置する部分に形成された成形用凹凸121と、を備えている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートを通じて樹脂材料が充填されるとともに、前記ゲートの開口方向に直交する面内のうち前記樹脂材料の流通方向で前記ゲートから第1距離離れた第1端部、及び前記ゲートから第2距離離れた第2端部を有するキャビティを画成する型本体と、
前記型本体において、前記ゲートと前記第2端部との間に位置する部分に形成された成形用凹凸と、を備えている成形型。
【請求項2】
前記キャビティは、
前記開口方向から見た平面視で前記ゲートを中心とする円形状に形成されたベース成形部と、
前記ベース成形部の外周に連なる外周成形部と、を有し、
前記外周成形部は、前記ベース成形部の周方向で前記第1端部及び前記第2端部が交互に配列され、
前記第2距離は、前記第1距離よりも短い請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記成形用凹凸は、前記キャビティのうち、前記ゲートと前記第2端部との間に位置する部分の前記開口方向における厚さが、前記ゲートと前記第1端部との間に位置する部分の前記開口方向における厚さよりも薄くなる型凸部を有している請求項1又は請求項2に記載の成形型。
【請求項4】
ゲート残りから第1距離離れた第1端部と、
前記ゲート残りから第2距離離れた第2端部と、
前記ゲート残りと前記第2端部との間に位置する部分に形成された凹凸と、を有している成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形により成形品には、美観や離型性の向上を図るために表面テクスチャ(凹凸)が設けられる場合がある(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5836852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した成形品を形成する場合には、成形型を型締めした状態で、成形型のキャビティ内に樹脂材料を充填する。樹脂材料は、ゲートを通してキャビティ内に放射状に射出され、キャビティ内の全域に行き亘る。
【0005】
しかしながら、成形型では、ゲートからキャビティ端部までの距離が全周に亘って一様な距離にゲートを設定することが難しい。この場合、キャビティ端部のうち、ゲートから近い部分は、ゲートから遠い部分に比べて樹脂材料が早く到達する。そのため、樹脂材料の流通方向において、ゲートからキャビティ端部までの距離が近い部分と遠い部分との間で、樹脂材料の充填ばらつきが生じる可能性がある。樹脂材料の充填ばらつきは、ショートショットや反り、ヒケ等を生じさせる原因となり、成形品の成形不良(寸法ばらつきやショート、ウェルド)に繋がる可能性がある。
【0006】
本発明は、製品品質の向上を図ることができる成形型及び成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記目的を達成するために、鋭意努力検討した結果、成形型に形成した成形用凹凸によって、キャビティ内での樹脂材料の流動速度を制御することで、ゲートからキャビティ端部までの距離の違いによる成形不良を抑制できることを見出した。
具体的に、本発明の一態様に係る成形型は、ゲートを通じて樹脂材料が充填されるとともに、前記ゲートの開口方向に直交する面内のうち前記樹脂材料の流通方向で前記ゲートから第1距離離れた第1端部、及び前記ゲートから第2距離離れた第2端部を有するキャビティを画成する型本体と、前記型本体において、前記ゲートと前記第2端部との間に位置する部分に形成された成形用凹凸と、を備えている。
【0008】
本態様によれば、ゲートから射出される樹脂材料がキャビティ内を流通する過程で、成形用凹凸が樹脂材料の流通抵抗となる。そのため、キャビティのうち、ゲートと第2端部との間の領域が平坦面に形成されている場合に比べて、ゲートと第2端部との間の領域を流れる樹脂材料の流通速度を低下させることができる。すなわち、成形用凹凸のパターンや大きさ等を調整することで、樹脂材料がキャビティの第2端部まで到達する時間を調整することができる。これにより、キャビティ内での充填ばらつきの抑制や樹脂材料の合流位置の調整を図ることができる。その結果、成形不良の発生を抑制し、製品品質の向上を図ることができる。
【0009】
上記態様の成形型において、前記キャビティは、前記開口方向から見た平面視で前記ゲートを中心とする円形状に形成されたベース成形部と、前記ベース成形部の外周に連なる外周成形部と、を有し、前記外周成形部は、前記ベース成形部の周方向で前記第1端部及び前記第2端部が交互に配列され、前記第2距離は、前記第1距離よりも短くてもよい。
本態様によれば、例えば歯車のように第1端部及び第2端部が交互に配列されている場合には、ゲートから端部までの距離がキャビティの全周で異なる。このような場合において、成形用凹凸が樹脂材料の流通抵抗となることで、ゲートと第2端部との間の領域を流れる樹脂材料の流通速度を低下させることができる。これにより、キャビティにおいて、ゲートから端部までの距離がキャビティの全周で異なる場合であっても、樹脂材料がキャビティの端部まで到達する時間を全周に亘って均一化することができる。その結果、成形不良の発生を抑制し、製品品質の向上を図ることができる。
【0010】
上記態様の成形型において、前記成形用凹凸は、前記キャビティのうち、前記ゲートと前記第2端部との間に位置する部分の前記開口方向における厚さが、前記ゲートと前記第1端部との間に位置する部分の前記開口方向における厚さよりも薄くなる型凸部を有していてもよい。
本態様によれば、成形型のうち、型凸部が位置する部分には、型凸部以外の部分に比べて樹脂材料の流通方向に交差する断面積が小さくなる狭小部が形成される。この場合、樹脂材料が流通方向に沿って流れる過程で、狭小部を通過する際に樹脂材料に対して流通方向と逆向きに作用するせん断応力が大きくなる。すなわち、型凸部が樹脂材料の流通抵抗となることで、充填時間の低下に繋げることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る成形品は、ゲート残りから第1距離離れた第1端部と、前記ゲート残りから第2距離離れた第2端部と、前記ゲート残りと前記第2端部との間に位置する部分に形成された凹凸と、を有している。
本態様によれば、ゲート残りと第2端部との間に位置する部分に凹凸を有しているため、成形品の成形時において、ゲートと第2端部との間の領域を流れる樹脂材料の流通速度を低下させることができる。これにより、樹脂材料がキャビティの第2端部まで到達する時間を調整することができるので、キャビティ内での充填ばらつきの抑制や樹脂材料の合流位置の調整を図ることができる。その結果、成形不良の発生を抑制し、製品品質の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、製品品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る成形品の平面図である。
図2図1のII−II線に相当する断面図であって、Aパターンの凹凸を示す図である。
図3図1のII−II線に相当する断面図であって、Bパターンの凹凸を示す図である。
図4図1のII−II線に相当する断面図であって、Cパターンの凹凸を示す図である。
図5図1のII−II線に相当する断面図であって、Dパターンの凹凸を示す図である。
図6】第1実施形態に係る成形型の断面図である。
図7図6のVII−VII線に沿う断面図である。
図8図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Aパターンの成形用凹凸を示す図である。
図9図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Bパターンの成形用凹凸を示す図である。
図10図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Cパターンの成形用凹凸を示す図である。
図11図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Dパターンの成形用凹凸を示す図である。
図12】基準モデルの斜視図である。
図13】凹モデルを示す斜視図である。
図14】凸モデルを示す斜視図である。
図15】CASE1〜CASE4について、表1の結果から充填時間をまとめたグラフである。
図16】CASE1、CASE5〜CASE7について、表1の結果から充填時間をまとめたグラフである。
図17】第2実施形態に係る成形品の平面図である。
図18】第2実施形態に係る成形型(第2型)の平面図である。
図19】変形例に係る凹凸の平面図である。
図20】変形例に係る凹凸の平面図である。
図21】変形例に係る凹凸の平面図である。
図22】変形例に係る凹凸の断面図である。
図23】変形例に係る凹凸の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
[成形品]
図1は、成形品10の平面図である。
図1に示すように、本実施形態の成形品10は、例えば時計等に搭載される歯車である。すなわち、成形品10は、円板状のベース部11と、ベース部11の外周に形成された歯部12と、を有している。
【0015】
歯部12は、成形品10の中心軸O回りの周方向に交互に配列された歯底部(第2端部)21及び歯先部(第1端部)22と、隣り合う歯底部21及び歯先部22間を接続する歯面部23と、を有している。
歯底部21は、ベース部11の外周縁に一致している。
歯先部22は、歯底部21に対して径方向の外側に位置している。
歯面部23は、歯底部21及び歯先部22を接続する湾曲面である。なお、歯面部23は、湾曲面に限らず、平坦面(歯底部21及び歯先部22を結ぶ直線状)に形成されていてもよい。
【0016】
ベース部11のうち軸方向を向く第1面(以下、表面11aという。)には、ゲート残り31が形成されている。ゲート残り31は、ベース部11の中心から軸方向に突出している。なお、ゲート残り31は、成形品10の成形後に除去してもよい。
【0017】
本実施形態の成形品10は、ゲート残り31(中心軸O)から成形品10の外周縁までの径方向の距離(半径)が、周方向で連続的に変化する。具体的に、径方向において、ゲート残り31から歯底部21までの距離D1(歯底円半径)は、ゲート残り31から歯先部22までの距離D2(歯先円半径)に比べて短くなっている。
【0018】
ここで、成形品10は、ベース部11の表面11aのうち、ゲート残り31から歯底部21に至る小径部分34に凹凸35を有している。凹凸35は、軸方向から見た平面視で扇形状に形成されている。具体的に、凹凸35は、径方向の内側から外側に向かうに従い周方向の幅が漸次拡幅している。但し、凹凸35は、周方向の幅が径方向で一様に形成されていてもよい。なお、凹凸35における径方向の形成範囲は、適宜変更が可能である。すなわち、凹凸35は、小径部分34における径方向の全体に亘って形成されていてもよく、径方向の一部に形成されていてもよい。また、凹凸35は、径方向に連続的に形成されていてもよく、径方向に間隔をあけて形成されていてもよい。
【0019】
次に、軸方向に沿う断面視での凹凸35の形状について、各パターンに分けて説明する。なお、以下の説明では、凹凸35及び凹凸35を構成する部分について、各パターンで対応する部分には数字の末尾に各パターンを示す英大文字を付す。
【0020】
<Aパターン>
図2は、図1のII−II線に相当する断面図であって、Aパターンの凹凸35Aを示す図である。
図2に示すように、凹凸35Aは、ベース部11の表面11aから軸方向に突出する凸部41Aを有している。凸部41Aは、平面視において周方向に延在している。凸部41Aは、径方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、各凸部41Aは、ベース部11の接線方向に平行な方向に直線状に延在していても、ベース部11の曲率半径に倣って湾曲していてもよい。
【0021】
<Bパターン>
図3は、図1のII−II線に相当する断面図であって、Bパターンの凹凸35Bを示す図である。
図3に示すように、凹凸35Bは、ベース部11の表面11aから軸方向に突出する凸部41Bを有している。凸部41Bは、径方向に沿って直線状に延在している。凸部41Bは、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0022】
<Cパターン>
図4は、図1のII−II線に相当する断面図であって、Cパターンの凹凸35Cを示す図である。
図4に示すように、凹凸35Cは、ベース部11の表面11aに対して軸方向に窪む凹部42Cを有している。凹部42Cは、周方向に延在している。凹部41Cは、径方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、各凹部41Cは、ベース部11の接線方向に平行な方向に直線状に延在していても、ベース部11の曲率半径に倣って湾曲していてもよい。
【0023】
<Dパターン>
図5は、図1のII−II線に相当する断面図であって、Dパターンの凹凸35Dを示す図である。
図5に示すように、凹凸35Dは、ベース部11の表面11aに対して軸方向に窪む凹部42Dを有している。凹部42Dは、径方向に沿って直線状に延在している。凹部42Dは、周方向に間隔をあけて複数配設されている。
【0024】
なお、各パターンにおいて、凸部41A,41B及び凹部42C,42Dの断面視形状は、何れも矩形状に形成されている。すなわち、凸部41A,41B及び凹部42C,42Dにおける軸方向を向く端面は、軸方向に直交する平坦面に形成されている。
【0025】
[成形型]
次に、上述した成形品10を成形するための成形型100について説明する。図6は、成形型100の断面図である。なお、以下で説明する軸方向、径方向及び周方向は、成形品10に対応している。
本実施形態の成形品10は、成形型100を利用した射出成型により成形される。成形型100は、固定型である第1型(型本体)101と、可動型である第2型(型本体)102と、を有している。
【0026】
図7は、図6のVII−VII線に沿う断面図である。
図6図7に示すように、第2型102は、第1型101に対して軸方向に対向して配置されている。第2型102は、駆動機構(不図示)によって第1型101に対して軸方向に接近又は離間可能に構成されている。第2型102は、第1型101に向けて開口する凹部105を有している。図7に示すように、凹部105は、軸方向から見た平面視で成形品10の外形形状に対応した形状に形成されている。すなわち、凹部105は、ベース部11を成形するベース成形部110と、歯部12を成形する歯成形部(外周成形部)111と、を有している。
【0027】
歯成形部111は、凹部105の内周面により画成されている。歯成形部111は、歯底成形部(第2端部)115と、歯先成形部(第1端部)116と、歯底成形部115及び歯先成形部116間を接続する歯面成形部117と、を有している。
【0028】
図6に示すように、第1型101は、第2型102が重ね合わされたときに(型締めされたとき)、凹部105を閉塞する。型締めされた状態において、第1型101と第2型102とにより画成された空間は、樹脂材料が充填されるキャビティCを構成している。
【0029】
第1型101には、射出通路118が形成されている。射出通路118は、第1型101を軸方向に延在している。第1型101のうち、キャビティCを画成する成形基準面120(第2型102を向く面)上には、射出通路118とキャビティCとを連通させるゲート119が開口している。図7に示すように、ゲート119は、軸方向から見た平面視において、キャビティCにおける径方向の中心に位置している。キャビティCの中心は、ベース成形部110の中心に一致している。
【0030】
本実施形態のキャビティCは、ゲート119の中心からキャビティCの端部までの距離が周方向で連続的に変化する。具体的に、ゲート119から歯底成形部115までの距離(第2距離)d1は、ゲート119の中心から歯先成形部116までの距離(第1距離)d2に比べて短くなっている。
【0031】
ここで、図7に示すように、第1型101の成形基準面120(図6参照)において、ゲート119と歯底成形部115との間に位置する小径部分122には、成形用凹凸121が形成されている。成形用凹凸121は、上述した凹凸35を成形するためのものであって、凹凸35の外面形状に対応している。なお、以下の説明では、成形用凹凸121のうち、成形品10の凹凸35に対応する部分については、適宜説明を省略する。
【0032】
次に、軸方向に沿う断面視での成形用凹凸121の形状について、各パターンに分けて説明する。なお、以下の説明では、成形用凹凸121及び成形用凹凸121を構成する部分について、各パターンで対応する部分には数字の末尾に各パターンを示す英大文字を付す。
【0033】
<Aパターン>
図8は、図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Aパターンの成形用凹凸121Aを示す図である。
図8に示すように、成形用凹凸121Aは、成形基準面120から軸方向に窪む型凹部141Aを有している。型凹部141Aは、上述した凸部41Aに対応して周方向に延在している。型凹部141Aは、径方向に間隔をあけて複数配設されている。
【0034】
<Bパターン>
図9は、図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Bパターンの成形用凹凸121Bを示す図である。
図9に示すように、成形用凹凸121Bは、成形基準面120から軸方向に窪む型凹部141Bを有している。型凹部141Bは、上述した凸部41Bに対応して径方向に沿って直線状に延在している。型凹部141Bは、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0035】
<Cパターン>
図10は、図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Cパターンの成形用凹凸121Cを示す図である。
図10に示すように、成形用凹凸121Cは、成形基準面120から軸方向に突出する型凸部142Cを有している。型凸部142Cは、上述した凹部42Cに対応して周方向に延在している。型凸部142Cは、径方向に間隔をあけて複数配設されている。
【0036】
<Dパターン>
図11は、図7のVIII−VIII線に相当する断面図であって、Dパターンの成形用凹凸121Dを示す図である。
図11に示すように、成形用凹凸121Dは、成形基準面120から軸方向に突出する型凸部142Dを有している。型凸部142Dは、上述した凹部42Dに対応して径方向に沿って直線状に延在している。型凸部142Dは、周方向に間隔をあけて複数配設されている。
【0037】
[成形品の製造方法]
上述した成形型100を用いた成形品10の製造方法について説明する。
まず、図6に示すように、駆動機構によって第1型101及び第2型102を重ね合わせ、成形型100を型締めする。続いて、射出装置(不図示)によって樹脂材料を射出通路118内に注入する。射出通路118内に注入された樹脂材料は、ゲート119を通じてキャビティC内に射出される。
【0038】
キャビティC内に射出された樹脂材料は、キャビティC内を放射状に広がる。すなわち、樹脂材料は、キャビティCの歯成形部111に向けて、キャビティC内を径方向の外側に順次流れる。その後、キャビティCの全体に樹脂材料が行き渡った時点で、樹脂材料の供給を停止する。
【0039】
樹脂材料が固化した後、第2型102を第1型101に対して離間させ、成形型100の型開きを行う。その後、エジェクタピン(不図示)等を用いて凹部105から成形品10を取り出す。
これにより、上述した成形品10を得ることができる。
【0040】
ところで、ゲート119から射出された樹脂材料が径方向に一定の速度でキャビティC内を広がる場合、キャビティCの端部のうち、ゲート119からの距離が短い部分と、ゲート119からの距離が長い部分と、で樹脂材料の到達時間に差が生じる。すなわち、樹脂材料が歯先成形部116に到達する時間は、樹脂材料が歯底成形部115に到達する時間に比べて長くなり易い。そのため、キャビティCの端部において、樹脂材料の充填ばらつきが生じる結果、成形不良に繋がる可能性がある。
【0041】
そこで、本実施形態では、キャビティCの小径部分122に、成形用凹凸121が形成されている構成とした。
この構成によれば、樹脂材料がゲート119から歯底成形部115に流れる過程で、成形用凹凸121が樹脂材料の流通抵抗となる。そのため、キャビティCのうち、小径部分122を画成する部分が平坦面に形成されている場合に比べて、小径部分122を流れる樹脂材料の流通速度を低下させることができる。すなわち、成形用凹凸121のパターンや大きさを調整することで、樹脂材料がキャビティCの歯底成形部115まで到達する時間を調整することができる。これにより、キャビティCにおいて、ゲート119から端部までの距離がキャビティCの全周で異なる場合であっても、樹脂材料がキャビティCの端部まで到達する時間を全周に亘って均一化することができる。その結果、成形不良の発生を抑制し、製品品質の向上を図ることができる。
【0042】
そのため、例えば歯車の歯底部21及び歯先部22のように外径が異なる部分が交互に配列されている場合であっても、ゲート119と歯底成形部115との間の領域に成形用凹凸121を形成することで、キャビティCの全周に亘って均一に樹脂材料を充填できる。
【0043】
[速度検証試験]
本願発明者は、成形用凹凸121による流通速度低減の効果を検証するための試験を行った。本試験では、成形用凹凸121の有無や、成形用凹凸121のパターンの違い、成形用凹凸121の寸法等による流通速度の変化を、CAE解析を用いて検証した。
【0044】
図12は、基準モデル200の斜視図である。
図12に示すように、本試験を行うにあたり、凹凸35を有さない基準モデル200を設定した。基準モデル200は、凹凸35を有さない以外は、上述した成形品10と同一の構成である。すなわち、基準モデル200は、円板状のベース部11の外周に歯部12が形成された構成である。その他、成形品10と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。なお、以下の説明では、ベース部11の軸方向をZ方向とし、径方向のうち互いに直交する2方向をそれぞれX方向、Y方向として説明する。
【0045】
基準モデル200の寸法は、例えば以下の通りに設定した。
歯先円直径φ1 :5.5mm
歯底円直径φ2 :4.0mm
厚さT :0.3mm
【0046】
図13は、凹モデル210を示す斜視図である。図14は、凸モデル211を示す斜視図である。
図13図14に示すように、基準モデル200と比較するモデルとして、上述したCパターン、Dパターンの凹部42C,42Dを有する凹モデル210と、上述したAパターン、Bパターンの凸部41A,41Bを有する凸モデル211と、を設定した。
具体的に、図13に示す凹モデル210には、+Y方向に沿ってDパターンの凹凸35D(凹部42D)を付し、−X方向に沿ってCパターンの凹凸35C(凹部42C)を付している。
図14に示す凸モデル211には、+Y方向に沿ってBパターンの凹凸35B(凸部41B)を付し、−X方向に沿ってAパターンの凹凸35A(凸部41A)を付している。なお、本試験では、ベース部11の表面11aのうち、ゲート残り31から歯先部22に至る大径部分215にそれぞれ凹凸35を付しているが、上述した実施形態と同様に小径部分34に凹凸35を付していてもよい。
【0047】
各モデル200,210,211において、凹凸35の寸法や、解析結果は、以下の表1に示す通りである。
【0048】
【表1】
【0049】
表1において、各用語の定義は以下の通りである。
幅 :平面視において凸部41A,41B及び凹部42C,42Dの短手方向での長さ。
深さ :凸部41A,41BのZ方向での高さ、若しくは凹部42C,42DのZ方向での深さ。
ピッチ :隣り合う凸部41A同士(凸部41B同士、凹部42C同士又は凹部42D同士)の間隔。
凹凸体積比 :各モデルにおいて、凹凸35が占める体積の割合。
充填時間 :各方向においてキャビティCの端部まで樹脂材料の充填が完了した時間。
減速効果 :(各方向での最大充填時間−各方向での最小充填時間)/(各方向での平均充填時間)
【0050】
表1に示すように、基準モデル200であるCASE1については、X方向及びY方向の何れも充填開始から0.099sec後に樹脂材料の充填が完了している。
【0051】
図15は、CASE1〜CASE4について、表1の結果から充填時間をまとめたグラフである。図15中において、実線はCパターンの凹凸35Cを示し、破線はDパターンの凹凸35Dを示している。
表1、図15に示すように、凹モデル210では、Cパターン及びDパターン何れについても、基準モデル200に対して充填時間が長くなっていることが分かる。これは、凹モデル210の場合には、凹モデル210を成形するための成形型100に、凹部42に対応する型凸部142C,142D(図10,11参照)を形成する必要がある。そのため、成形型100のうち、型凸部142C,142Dが位置する部分には、型凸部142C,142D以外の部分に比べて樹脂材料の流通方向(径方向)に直交する断面積(以下、単にキャビティCの断面積という。)が小さくなる狭小部220(図10,11参照)が形成される。この場合、樹脂材料が径方向の外側に流れる過程で、狭小部220を通過する際に樹脂材料に対して流通方向と逆向きに作用するせん断応力が大きくなる。すなわち、CASE2〜CASE4では、型凸部142C,142Dが樹脂材料の流通抵抗となることで、充填時間の低下に繋げることができる。
【0052】
特に、Cパターンでは、型凸部142Cが樹脂材料の流通方向に直交する方向に延在するとともに、樹脂材料の流通方向に間隔をあけて形成されている。そのため、樹脂材料の流通方向において、キャビティCの断面積の拡縮が交互に行われる。これによっても、樹脂材料の流通抵抗を大きくすることができるので、充填時間の低下に繋げることができる。なお、型凸部142C,142Dによる減速効果は、DパターンよりもCパターンの方が高く、また凹凸体積比が大きいほど高いことが分かる。
【0053】
図16は、CASE1、CASE5〜CASE7について、表1の結果から充填時間をまとめたグラフである。図16中において、実線はAパターンの凹凸35Aを示し、破線はBパターンの凹凸35Bを示している。
表1、図16に示すように、凸モデル211では、Aパターン及びBパターン何れについてもCパターン及びDパターンに比べると、充填速度の低下の効果は少なくなっている。特に、Bパターンについては、凹凸35Bを有さない場合(CASE5〜7の−Y方向)と比べても充填時間に大きな変化は見られなかった。凸モデル211の場合には、成形型100に型凹部141A,141B(図8,9参照)を形成するので、凹モデル210と異なり、狭小部220が形成されない。そのため、成形用凹凸121A,121Bによる流通抵抗の影響が少ない。例えばAパターンにおいては、型凹部141A内に樹脂材料が充填される際に、周方向にせん断応力が発生するものの、充填時間には大きな影響はなかった。凸モデル211の場合、寸法等の条件によっては例えば型凹部141A,141B内に充填される樹脂材料が型凹部141A,141B内に充填される分、基準モデル200よりも充填時間が低下することがあると考えられる。
【0054】
なお、Aパターンについては、凹凸体積比の増加に伴い、充填時間が低下するものの、Bパターンについては、凹凸体積比の増加に伴う充填時間の大きな変化は見られなかった。
【0055】
以上の結果から、凹凸35による減速効果については、以下の関係がある。
(1)凹凸パターン:型凸部142C,142Dを有するもの(Cパターン、Dパターン)の方が、型凹部141A,141Bを有するもの(Aパターン、Bパターン)に比べて減速効果が高い。
(2)凹凸の向き:樹脂材料の流通方向に交差する方向に延在するもの(Aパターン、Cパターン)方が、樹脂材料の流通方向に沿って延在するもの(Bパターン、Dパターン)に比べて減速効果が高い。
(3)凹凸体積比:大きいほど減速効果が高い傾向にある。
【0056】
本実施形態では、成形品10の形状に応じて上述した(1)〜(3)の条件を適宜組み合わせることで、樹脂材料がキャビティCの端部まで到達する時間を全周に亘って均一化することができる。その結果、成形不良の発生を抑制し、製品品質の向上を図ることができる。
【0057】
(第2実施形態)
[成形品]
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図17は、第2実施形態に係る成形品300の平面図である。
図17に示す成形品300は、軸方向から見た平面視で円形のベース部301を有している。ベース部301の表面301aにおいて、中心軸Oに対して径方向の第1側にずれた位置には、ゲート残り302が形成されている。ベース部301において、中心軸Oに対して径方向の第2側にずれた位置には、ベース部301を軸方向に貫通する貫通孔303が形成されている。
【0058】
ベース部301の外周部分のうち、貫通孔303よりも径方向の外側に位置する部分は、回り込み部305を構成している。回り込み部305は、貫通孔303の内周面とベース部301の外周面とにより画成され、ベース部301の周方向に延在している。回り込み部305は、周方向の両側から中心(第1端部、第2端部)P1に向かうに従い径方向での幅が漸次縮小している。すなわち、回り込み部305における周方向の中心P1は、回り込み部305の最小幅部となっている。
【0059】
ここで、ベース部301の表面301aのうち、回り込み部305に位置する部分には、凹凸310が形成されている。凹凸310は、周方向に延在している。凹凸310における周方向の中心P2は、回り込み部305における周方向の中心P1に対して周方向の一方側にずれている。なお、凹凸310には、例えば上述した各パターンを適宜選択できる。
【0060】
[成形型]
次に、上述した成形品300を成形するための成形型320について説明する。図18は、成形型320(第2型330)の平面図である。
図18に示すように、成形型320の第2型330は、第1型325に向けて開口する凹部331を有している。凹部331は、成形品300の外形形状に対応した形状に形成されている。第2型330の底面において、中心軸Oに対して第2側に位置する部分には、軸方向に突出する貫通孔成形部332が形成されている。凹部331のうち、貫通孔成形部332よりも径方向の外側に位置する部分は、上述した回り込み部305を成形する回り込み成形部333を構成している。すなわち、回り込み成形部333は、周方向の両側から中心(第1端部、第2端部)p1に向かうに従い平面視での幅が漸次縮小している。なお、成形品300のうち、貫通孔303を成形する部分は、別途スライドピン等を用いてもよい。
【0061】
第1型325において、中心軸Oに対して径方向の第1側にずれた位置には、ゲート334が開口している。第1型325の成形基準面において、回り込み成形部333に対応する部分には、成形用凹凸335が形成されている。成形用凹凸335における周方向の中心p2は、回り込み成形部333における周方向の中心p1に対して周方向の一方側にずれている。
【0062】
この構成によれば、ゲート334を通じてキャビティC内に供給された樹脂材料は、ゲート334を中心に放射状に流通する。この際、樹脂材料は、貫通孔成形部332を回り込んで周方向の両側から回り込み成形部333内に進入する。回り込み成形部333内に進入した樹脂材料は、回り込み成形部333内において周方向の中心p1に向けて流れる。その後、回り込み成形部333内で樹脂材料が合流することで、樹脂材料がキャビティCの全体に行き渡る。
【0063】
本実施形態では、回り込み成形部333における周方向の中心p1に対してずれた位置に、成形用凹凸335を形成することで、回り込み成形部333内に周方向の両側から進入する樹脂材料の充填速度を異ならせることができる。これにより、樹脂材料が回り込み成形部333における周方向の中心p1で合流するのを抑制し、ウェルドラインL(図17参照)を回り込み部305の中心P1から凹凸310寄りにずらすことができる。すなわち、回り込み部305の最小幅部にウェルドラインLが形成されるのを抑制できるので、製品品質の向上を図ることができる。
【0064】
(その他の変形例)
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は上述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、上述した実施形態では、凸部及び凹部それぞれが平面視で直線状に延在している構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば図19に示す点状(ドット状)や、図20に示す格子状、図21に示す市松模様(互いに直交する2方向に交互に凸部41(又は凹部42)を配置する形状)等に凸部41(又は凹部42)を形成してもよい。また、凸部41及び凹部42は、直線状に限らず、波線状等であってもよい。
【0065】
上述した実施形態では、凸部41A,41B(凹部42C,42D)の断面視形状が矩形状である場合について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、凸部41A,41Bの断面視形状は、図22に示す球面状や図23に示す三角状に形成されていてもよい。
【0066】
上述した実施形態では、成形品の平面視外形が円形状に形成された構成について説明したが、この構成のみに限られない。成形品の平面視外形は、矩形状や三角状等、適宜設計変更が可能である。このような場合においても、ゲートからキャビティの外周縁までの距離が短い部分に凹凸を設けることで、樹脂材料の充填速度を全周に亘って均一化できる。
上述した実施形態では、成形品の表面のみに凹凸を形成する場合について説明したが、成形品の両面に凹凸を形成してもよい。
【0067】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0068】
10…成形品
21…歯底部(第2端部)
22…歯先部(第1端部)
35…凹凸
35A…凹凸
35B…凹凸
35C…凹凸
35D…凹凸
100…成形型
101…第1型(型本体)
102…第2型(型本体)
110…ベース成形部
111…歯成形部(外周成形部)
115…歯底成形部(第2端部)
116…歯先成形部(第1端部)
119…ゲート
121…成形用凹凸
121A…成形用凹凸
121B…成形用凹凸
121C…成形用凹凸
121D…成形用凹凸
142C…型凸部
142D…型凸部
300…成形品
334…ゲート
335…成形用凹凸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図23