【解決手段】本開示の一態様は、少なくとも1つの連結部を備える車両用のサスペンションアームである。少なくとも1つの連結部は、繊維強化樹脂製の基材と、金属製かつ筒状の補強部材と、圧入部材と、を有する。基材は、開口部を有する。補強部材は、基材における開口部の内周面よりも外側に少なくとも一部が埋め込まれる。圧入部材は、開口部に圧入される。開口部の内周面と補強部材の内周面との間に、繊維が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、金属部材を開口部に埋め込んだ際、金属部材と圧入部材との間に介在する繊維強化樹脂の厚みによっては、樹脂の潰れや剥がれ等によって、圧入部材の保持力が安定しないことがある。
【0006】
本開示の一局面は、繊維強化樹脂を用いつつ、圧入部材の保持力の安定性を高めることができるサスペンションアームを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、少なくとも1つの連結部を備える車両用のサスペンションアームである。少なくとも1つの連結部は、繊維強化樹脂製の基材と、金属製かつ筒状の補強部材と、圧入部材と、を有する。基材は、開口部を有する。補強部材は、基材における開口部の内周面よりも外側に少なくとも一部が埋め込まれる。圧入部材は、開口部に圧入される。開口部の内周面と補強部材の内周面との間に、繊維が存在する。
【0008】
このような構成によれば、補強部材と圧入部材との間に繊維層が形成されることで、圧入強度の安定性が長期にわたって保証できる。その結果、圧入部材の保持力が安定的に確保できる。
【0009】
本開示の一態様では、補強部材の軸方向の少なくとも一方の端面は、少なくとも一部が基材に埋め込まれてもよい。このような構成によれば、補強部材が軸方向に抜け落ちることが抑制されるため、圧入部材の保持力の安定性をより高めることができる。
【0010】
本開示の別の態様は、少なくとも1つの連結部を備える車両用のサスペンションアームの製造方法である。サスペンションアームの製造方法は、繊維強化樹脂製の基材の開口部に圧入部材を圧入する工程を備える。基材には、開口部の内周面よりも外側に金属製かつ筒状の補強部材の少なくとの少なくとも一部が埋め込まれている。圧入後の補強部材の平均内径をD1、開口部の平均径をD2、圧入後の補強部材の内周面と開口部の内周面との平均距離をT1、圧入前の補強部材の平均内径をD3、圧入前の前記圧入部材の平均外径をD4、圧入前の補強部材の内周面と開口部の内周面との平均距離をT2としたとき、圧入する工程において、圧入前に下記式(2)が満たされると共に、圧入後に下記式(1)が満たされる。
D1≧D2+2・T1 ・・・(1)
D3<D4+2・T2 ・・・(2)
【0011】
このような構成によれば、補強部材と圧入部材との間に繊維層が形成されることで、圧入強度の安定性が長期にわたって保証できる。その結果、圧入部材の保持力が安定的に確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示すサスペンションアーム1は、サスペンションフレームの車体の幅方向外側に取り付けられ、車輪を懸架する構造部材である。なお、サスペンションフレームは、自動車の車体内で前後方向に延びる2つのサイドメンバに掛け渡されるように取り付けられる構造部材である。サスペンションアーム1は、トレーリングアームとも称される。
【0014】
サスペンションアーム1は、3つの連結部2A,2B,2Cを備える。3つの連結部2A,2B,2Cは、それぞれ、サスペンションアーム1の異なる端部に設けられている。3つの連結部2A,2B,2Cには、自動車のサスペンションを構成する構造部材がそれぞれ連結される。
【0015】
本実施形態では、サスペンションアーム1は、3つの連結部2A,2B,2Cが3つの延伸部1A,1B,1Cによって接続されている。サスペンションアーム1の中央部分には、3つの延伸部1A,1B,1Cによって開口1Dが形成されている。
【0016】
以下では、第1連結部2Aについて説明する。第2連結部2B及び第3連結部2Cの構成は、サスペンションアーム1における位置を除いて、第1連結部2Aと同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0017】
第1連結部2Aは、
図2に示すように、基材3と、補強部材4と、圧入部材5とを有する。補強部材4は、基材3に埋め込まれている。圧入部材5は、基材3の開口部6に圧入されている。
【0018】
<基材>
基材3は、繊維強化樹脂で形成されており、サスペンションアーム1の端部を構成する部位である。基材3は、本体部3Aと、平坦部3Bと、延伸部3Cとを有する。
【0019】
本体部3Aは、径が一定の開口部6を有する円筒体である。開口部6には、圧入部材5が圧入されている。つまり、開口部6の内周面6Aは、圧入部材5の外周面5Aと当接している。圧入部材5は、本体部3Aの軸方向の第1端部(
図2の上端部)から第2端部(
図2の下端部)に向かって圧入される。
【0020】
平坦部3Bは、本体部3Aの第1端部から径方向外側に延伸した平坦な板状の部位である。平坦部3Bの板面は、基材3の中心軸方向(つまり圧入部材5の圧入方向)に対して垂直である。平坦部3Bは、サスペンションアーム1の複数の連結部2A,2B,2C同士を接続する骨格も構成している。
【0021】
延伸部3Cは、平坦部3Bにおける本体部3Aとは反対側の端部から、圧入部材5の圧入方向に延伸する板状の部位である。延伸部3Cは、サスペンションアーム1の側壁も構成している。
【0022】
基材3を構成する繊維強化樹脂(FRP)は、マトリックス樹脂と、マトリックス樹脂中に保持された繊維とを含む。基材3は、一定の長さの繊維(いわゆる強化繊維)にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートの成形によって得られる。
【0023】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が使用される。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリウレタン、シリコン等が挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。
【0025】
基材3を構成する繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、樹脂繊維等が挙げられる。この中でも炭素繊維が好ましい。また、基材3は、複数種の繊維を含んでいてもよい。
【0026】
<補強部材>
補強部材4は、
図2に示すように、金属で形成された円筒状の部材である。補強部材4は、筒状部4Aと、鍔部4Bとを有する。
【0027】
筒状部4Aは、内径及び外径が一定の円筒体である。筒状部4Aは、基材3の本体部3Aにおける開口部6の内周面6Aよりも外側に、径方向内側の一部が埋め込まれている。また、筒状部4Aは、本体部3Aと同軸に配置されている。
【0028】
つまり、筒状部4Aの内周面4Cは、開口部6の内周面6Aから径方向外側に一定距離離間した位置に配置され、基材3の本体部3A内に埋設されている。そのため、筒状部4Aの内周面4Cは開口部6内に露出せず、圧入部材5と当接していない。
【0029】
また、筒状部4Aの軸方向の第2端部(
図2の下端部)は、端面4Dの一部(つまり径方向の内側の部分)が本体部3Aに埋め込まれている。換言すれば、基材3の本体部3Aの第2端部は、筒状部4Aの第2端部よりも軸方向外側に延伸している。
【0030】
鍔部4Bは、筒状部4Aの軸方向の第1端部(
図2の上端部)から径方向外側に延伸した円環状の部位である。鍔部4Bは、基材3の平坦部3Bと平行に延伸しており、平坦部3Bに厚み方向の一部が埋め込まれている。
【0031】
具体的には、鍔部4Bは、平坦部3Bにおける本体部3Aと延伸部3Cとに挟まれた側に埋め込まれている。また、鍔部4Bの筒状部4Aとは反対側の端面4Eは、厚み方向において筒状部4Aから遠い部分が平坦部3Bに埋め込まれている。
【0032】
補強部材4は、
図3Aに示すように、筒状部4Aを径方向に貫通する複数の貫通孔14Aをさらに有してもよい。また、補強部材4は、筒状部4Aの内周面から径方向内側に突出する複数の凸条14B(
図3B参照)、又は内周面において径方向外側に凹む複数の溝14C(
図3C参照)をさらに有してもよい。複数の凸条14B及び複数の溝14Cは、それぞれ、筒状部4Aの周方向に沿って環状に形成されている。
【0033】
複数の貫通孔14A、複数の凸条14B、複数の溝14C又はこれらの組み合わせを補強部材4が有することによって、補強部材4と基材3との接合面積が増え、両者間の接合強度を高めることができる。
【0034】
補強部材4を構成する金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、鋳鉄、チタン、チタン合金等が挙げられる。補強部材4は、例えば、基材3のプレス成型時に基材3内に埋め込まれる。また、補強部材4は、防錆を目的とした表面処理が施されてもよい。
【0035】
<圧入部材>
圧入部材5は、
図2に示すように、開口部6に圧入されている。圧入部材5としては、例えば、カラー、ブッシュ、ボールジョイント等の、繰り返し荷重や振動が負荷される部材が挙げられる。
【0036】
圧入部材5の外周面5Aの材質としては、金属、樹脂等が挙げられる。
【0037】
<基材と補強部材との関係>
サスペンションアーム1では、
図4に示すように、補強部材4の平均内径をD1、開口部6の平均径をD2、補強部材4の内周面4Cと開口部6の内周面6Aとの平均距離をT1としたとき、下記式(1)が成り立つ。
D1≧D2+2・T1 ・・・(1)
【0038】
そのため、開口部6の内周面6A(つまり圧入部材5の外周面5A)と、補強部材4(つまり筒状部4A)の内周面4Cとの開口部6の径方向における平均距離は、繊維3Fの平均径以上である。なお、補強部材4の平均内径D1は、基材3の本体部3Aの外径未満である。
【0039】
本実施形態では、厚み方向に2列の繊維3Fを配置した繊維強化樹脂シートを用いて基材3を形成している。そのため、基材3は本体部3Aの端部から延伸部3Cの端部まで、略一様に2列の連続した繊維3Fが配置されている。また、本体部3Aのうち、補強部材4が埋め込まれている部分では、他の部分よりも径方向内側に繊維3Fの列が補強部材4によってシフトされている。
【0040】
そのため、開口部6と補強部材4との間には、少なくとも1列(
図4では2列)の繊維3Fが配置されている。各繊維3Fは、補強部材4の周方向に沿って延伸しており、補強部材4によって切断されていない。
【0041】
なお、開口部6の開口形状は、真円に限らず、楕円や多角形であってもよい。つまり、基材3の本体部3A及び補強部材4は、楕円筒や角筒であってもよいし、圧入部材5の外形は、楕円や多角形であってもよい。
【0042】
開口部6の開口形状が真円でない場合、開口部6の平均径D2は、開口部6の断面積Sと等面積の真円の径(つまり真円換算径D=(S/π)
1/2×2)を軸方向に平均したものを意味する。補強部材4が円筒でない場合の補強部材4の平均径D1は、同様に、真円換算径を平均したものを意味する。
【0043】
[1−2.製造方法]
次に、サスペンションアーム1の製造方法について説明する。
サスペンションアーム1の製造方法は、複数の連結部2A,2B,2Cそれぞれの開口部6に圧入部材5を圧入する工程を備える。
【0044】
圧入工程では、
図5に示すように、補強部材4が埋め込まれた基材3に対し、圧入部材5を圧入する。圧入部材5の圧入前の状態において、補強部材4の平均内径をD3、圧入部材5の平均外径をD4、補強部材4の内周面4Cと開口部6の内周面6Aとの平均距離をT2としたとき、下記式(2)が成り立つ。
D3<D4+2・T2 ・・・(2)
【0045】
つまり、補強部材4の平均内径D3は、圧入部材5の平均外径D4に補強部材4と開口部6との間に存在する繊維3Fの層の厚み(つまり並列した繊維3Fの径の総計)を加えた値よりも小さくされる。換言すれば、圧入部材5の平均外径D4は、補強部材4の平均内径D3から繊維3Fの層の厚みを差し引いた値よりも大きくされる。
【0046】
また、T1<T2である。つまり、繊維層は圧入部材5の圧入によって圧縮される。なお、圧入前の補強部材4の平均内径D3は、圧入後の補強部材4の平均内径D1とは必ずしも一致しない。
【0047】
[1−3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)上記式(1)と式(2)とを満たすことによって、補強部材4と圧入部材5との間に繊維層が形成され、圧入強度の安定性が長期にわたって保証できる。その結果、圧入部材の保持力が安定的に確保できる。
【0048】
(1b)補強部材4の軸方向の少なくとも一方の端面4Dの一部が基材3に埋め込まれているので、補強部材4が軸方向に抜け落ちることが抑制される。その結果、圧入部材5の保持力の安定性をより高めることができる。
【0049】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0050】
(2a)開口部6の内周面6Aと補強部材4の内周面4Cとの間に存在する繊維3Fは、必ずしも開口部6の周方向に沿って延伸していなくてもよい。繊維3Fは、例えば、径方向や軸方向に沿って延伸していてもよい。
【0051】
(2b)上記実施形態のサスペンションアーム1において、補強部材4の軸方向の少なくとも一方の端面4Dは、必ずしも基材3に埋め込まれなくてもよい。つまり、補強部材4の軸方向の端面4Dが、基材3の軸方向外側に突出していてもよい。
【0052】
(2c)上記実施形態のサスペンションアーム1において、
図6に示すように、補強部材4は、その全体が基材3に埋め込まれてもよい。
図6の連結部2Aでは、補強部材4の筒状部4Aの全体が基材3の本体部3Aに埋め込まれ、鍔部4Bの全体が基材3の平坦部3Bに埋め込まれている。また、補強部材4の軸方向の端面4Dも全体が基材3に埋め込まれている。
【0053】
図6の連結部2Aでは、
図7に示すように、本体部3Aの第2端部には、第1端部に向かって凹んだ切欠き3Dを形成するとよい。切欠き3Dにおいて補強部材4の端面4Dを露出させることで、補強部材4の基材3に対する位置決めを容易に行うことができる。
【0054】
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0055】
1…サスペンションアーム、1A,1B,1C…延伸部、1D…開口、
2A,2B,2C…連結部、3…基材、3A…本体部、3B…平坦部、3C…延伸部、
3D…切欠き、3F…繊維、4…補強部材、4A…筒状部、4B…鍔部、
4C…内周面、4D,4E…端面、5…圧入部材、5A…外周面、6…開口部、
6A…内周面、14A…貫通孔、14B…凸条、14C…溝。