【課題】少なくとも(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含む、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を兼ね備えた水系仮止め接着剤、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能を有する水系仮止め接着剤、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及び安全性能を有し、環境への負荷が低い水系仮止め接着剤、該水系仮止め接着剤を用いた部材又は部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】(i)(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂等を含み、所定の融点を有する、(ii)少なくとも(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含み、所定の含有量で所定の金属イオンを含む、又は(iii)(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と(B)水を含む溶媒とを含み、該溶媒中の水の含有量が95質量%以上であり、所定の25℃における表面張力及び接着強さを有する、水系仮止め接着剤、該水系仮止め接着剤を用いた部材又は部品の製造方法である。
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)表面調整剤、及び(C)相溶化剤を含み、JIS K0064:1992に準拠して測定した融点が30℃以上である水系仮止め接着剤。
前記(B)表面調整剤が、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びアクリル系表面調整剤から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1又は2に記載の水系仮止め接着剤。
前記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)表面調整剤、及び(C)相溶化剤の組成物全量基準の含有量が、各々5質量%以上50質量%以下、0.01質量%以上3質量%以下、及び0.1質量%以上15質量%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の水系仮止め接着剤。
少なくとも(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含み、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの合計含有量が3000ppb以下であり、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量が各々1000ppb以下である、水系仮止め接着剤。
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と、(B)水を含む溶媒と、を含み、該溶媒中の水の含有量が95質量%以上であり、25℃における表面張力が20mN/m以上55mN/m以下であり、かつ接着強さが0.1MPa以上20MPa以下である水系仮止め接着剤。
前記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂のJIS K0064:1992に準拠して測定した融点が30℃以上の樹脂を少なくとも含む請求項1〜16のいずれか1項に記載の水系仮止め接着剤。
前記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂が、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールエステルから選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜18のいずれか1項に記載の水系仮止め接着剤。
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂及び金属イオンを含む組成物を、イオン交換体に接触させて、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの合計含有量を3000ppb以下とし、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量を各々1000ppb以下とする、水系仮止め接着剤の製造方法。
請求項1〜21のいずれか1項に記載の水系仮止め接着剤を用いて部材又は部品の前駆体と加工用基板とを仮止めする仮止工程、該前駆体に機械的加工を施して部材又は部品を作製する加工工程を有する部材又は部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水系仮止め接着剤について詳細に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「〜」に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例における数値を該上限及び下限とすることができる。
【0013】
〔水系仮止め接着剤〕
本発明の水系仮止め接着剤は、水系の接着剤として用いることができ、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた仮止め性能を発揮する(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含むことで、水系の接着剤であるにもかかわらず優れた仮止め性能を有することを特徴とする、以下の第1〜第3の水系仮止め接着剤である。
・第1の水系仮止め接着剤:(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)表面調整剤、及び(C)相溶化剤を含み、JIS K0064:1992に準拠して測定した融点が30℃以上である水系仮止め接着剤。
・第2の水系仮止め接着剤:少なくとも(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含み、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの合計含有量が3000ppb以下であり、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量が各々1000ppb以下である、水系仮止め接着剤。
・第3の水系仮止め接着剤:(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と、(B)水を含む溶媒と、を含み、該溶媒中の水の含有量が95質量%以上であり、25℃における表面張力が20mN/m以上55mN/m以下、かつ接着強さが0.1MPa以上20MPa以下である水系仮止め接着剤。
以下、第1の水系仮止め接着剤から説明する。
【0014】
<第1の水系仮止め接着剤>
本発明の第1の水系仮止め接着剤は、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)表面調整剤、及び(C)相溶化剤を含み、JIS K0064:1992に準拠して測定した融点が30℃以上である、というものである。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂(以下、「(A)成分」と称することがある。)は、主に接着性能と剥離性能とを有する仮止め性能を発現する成分であり、(B)表面調整剤(以下、「(B)成分」と称することがある。)は主に塗布性能を発現する成分であり、(C)相溶化剤(以下、「(C)成分」と称することがある。)は、主に該(A)成分と(B)成分との相溶性を向上させることにより、はじき防止性能を発現する成分である。本発明においては、上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分という三つの成分を組み合わせることにより、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を同時に満足することを可能としている。また、このような三つの成分を組み合わせて、かつ融点を30℃以上のものとすることにより、仮止め接着剤と被接着物との、素材、表面特性等の相違による相性に起因する塗布性能、機械的加工時の発熱に対する耐熱性が向上することで加工時の被接着物の支持体に対する位置ずれ、剥がれ等の発生を抑制して接着性能が向上し、また様々な被接着物の仮止めに対応し得る汎用性も得られる。
【0015】
((A)水酸基を有する熱可塑性樹脂)
本発明の第1の水系仮止め接着剤に含まれる(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂は、主に接着性能と剥離性能とを有する仮止め性能を発現する成分である。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂としては、分子中に水酸基を有している熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、融点が30℃以上のものが好ましい。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点が30℃以上であると、本発明の第1の水系仮止め接着剤の融点が30℃以上となり易くなり、仮止め性能とともに、汎用性も向上する。これと同様の観点から、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点は、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃、より更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは43℃以上である。また、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。(A)成分の融点の上限が200℃以下であると、本発明の第1の水系仮止め接着剤の剥離性能の向上により仮止め性能が向上し、また塗布性能、及び汎用性も向上する。本明細書において、(A)成分の融点は、JIS K0064:1992に準拠して測定された溶融終点を意味する。その具体的な測定については、後述する。
【0016】
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の数平均分子量は、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、好ましくは800以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,200以上、特に好ましくは1,400以上であり、上限として好ましくは25,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは15,000以下、特に好ましくは10,000以下である。本明細書において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定したものである。
【0017】
上記の性状を有する(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂としては、より優れた仮止め性能を得る観点から、オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂が好ましく挙げられ、一種のオキシアルキレン基を構成単位とする樹脂であることがより好ましい。
【0018】
オキシアルキレン基としては、炭素数が好ましくは1以上のもの、より好ましくは2以上のものであり、上限としては12以下のもの、より好ましくは8以下のもの、更に好ましくは4以下のもの、特に好ましくは3以下のものが挙げられる。
また、オキシアルキレン基の繰り返し単位数は、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは50以上であり、上限として好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは150以下である。
【0019】
オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂として、より具体的には、好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルが挙げられ、より好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、更に好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステルであり、特に好ましくはポリアルキレングリコールである。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0020】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が好ましく挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールがより好ましく、ポリエチレングリコールが更に好ましい。
ポリオキシアルキレンエステルとしては、好ましくは炭素数12以上24以下の脂肪酸のエステルが挙げられ、より具体的には、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリプロピレングリコールモノラウレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ポリプロピレングリコールモノオレエート等のポリオキシアルキレンモノエステル、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールジオレエート等のポリオキシアルキレンジエステルが好ましく挙げられ、ポリオキシアルキレンモノエステルがより好ましく、ポリオキシエチレンモノエステルが更に好ましく、特にポリオキシエチレンモノステアレートが好ましい。
【0021】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、好ましくは炭素数12以上24以下のアルキル基を有するものが挙げられ、より具体的には、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル等が好ましく挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルとしては、好ましくは炭素数12以上24以下のアルキルアリール基を有するものが挙げられ、より具体的には、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル等が好ましく挙げられる。
なお、本発明において、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、上記例示した所定の融点、数平均分子量を有する樹脂、更にはオキシアルキレン基を有する樹脂、一種のオキシアルキレン基を構成単位とする樹脂等を少なくとも含むことが好ましく、上記例示した樹脂以外のものを含んでいてもよいが、含まれる全ての樹脂が、上記例示した樹脂であることが好ましい。
【0022】
本発明において、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂として、一種の熱可塑性樹脂を用いてもよく、また数平均分子量の異なる二種以上の熱可塑性樹脂、例えば数平均分子量の異なる二種以上のポリアルキレングリコールを用いることもできる。この場合、数平均分子量が800以上5,000未満のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールA」と称することがある。)と、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールB」と称することがある。)と、を組み合わせることが好ましく、数平均分子量が800以上5,000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリエチレングリコールと、を組み合わせることがより好ましい。
【0023】
ポリアルキレングリコールAとポリアルキレングリコールBとの配合比率(質量比率)は、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは15:85〜85:15、更に好ましくは20:80〜80:20である。配合比率が上記範囲内であると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上し、また塗布性能、はじき防止性能も向上する。
【0024】
水系仮止め接着剤中の(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、上限として好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、更に好ましくは45質量%以下であり、特に好ましくは42質量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲内とすると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上する。
【0025】
((B)表面調整剤)
本発明の第1の水系仮止め接着剤に含まれる(B)表面調整剤は、主に塗布性能、とりわけウェハ等の被接着物に対する塗布性能を発現する成分である。(B)表面調整剤としては、一般に高分子量化に伴う粘性の変化、表面張力の変化、泡の発生に起因して生じる塗膜の欠陥を解消し得る性能を有する、表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等と称されるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、セルロース系、天然ワックス系、水溶性有機溶媒等の各種表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等の他、界面活性剤も好ましく挙げられ、中でも界面活性剤、中でもノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0026】
ノニオン系界面活性剤として、より具体的には、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン付加アセチレングリコール等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、特に、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が好ましく、アセチレン系界面活性剤がより好ましい。本発明において、(B)表面調整剤としては、上記のものを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0027】
アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤としては、更に具体的には、以下の一般式(1)で示されるアセチレンアルコール系界面活性剤、及び一般式(2)で示されるアセチレングリコール系界面活性剤が好ましく挙げられる。
【0029】
一般式(1)において、R
11及びR
12はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の炭化水素基を示し、A
11は単結合又は繰り返し単位数1以上30以下のオキシアルキレン基を示す。また、一般式(2)において、R
21、R
22、R
23及びR
24はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下の炭化水素基を示し、A
21及びA
22はそれぞれ独立に単結合又は繰り返し単位数1以上30以下のオキシアルキレン基を示す。
R
11、R
12、R
21、R
22、R
23及びR
24の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基が好ましく挙げられ、アルキル基がより好ましく、これらの炭化水素基は直鎖状でも分岐状であってもよい。また、炭素数の上限としては、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0030】
また、A
11、A
21及びA
22が繰り返し単位数1以上30以下のオキシアルキレン基である場合、上記一般式(1)で示されるアセチレンアルコール系界面活性剤はアセチレンアルコールのアルキレンオキシド付加物となり、上記一般式(2)で示されるアセチレングリコール系界面活性剤は、アセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物となる。
A
11、A
21及びA
22の繰返し単位数としては、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限として好ましくは24下、より好ましくは12以下、更に好ましくは8以下、特に好ましくは6以下である。
【0031】
A
11、A
21及びA
22のオキシアルキレン基としては、炭素数が好ましくは炭素数1以上のもの、より好ましくは2以上のものであり、上限としては炭素数12以下のもの、より好ましくは8以下のもの、更に好ましくは4以下のもの、特に好ましくは3以下のものが挙げられる。アルキレン基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
また、A
11、A
21及びA
22の繰返し単位数が2以上の場合、複数のA
11、A
21及びA
22は同じでも異なっていてもよい。例えば、A
11としてはオキシエチレン基とオキシプロピレン基とが連結したものであってもよく、A
21及びA
22も同様である。
【0032】
本発明において、アセチレン系界面活性剤の中でも、一般式(2)で示されるアセチレングリコール系界面活性剤が好ましく、A
21及びA
22の少なくとも一方が繰り返し単位数1以上30以下のオキシアルキレン基であるアセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物がより好ましく、A
21及びA
22が繰り返し単位数1以上30以下のオキシアルキレン基のアセチレングリコールのアルキレンオキシド付加物が更に好ましい。
【0033】
上記アセチレン系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール104E、104H、104A、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、PSA−336、DF−110、DF37、オルフィンE1004、E1006、E1010、E1020、E1030W、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4300、PD−002W、SPC、AF−103、AK−02(以上、日信化学工業株式会社製)等の市販品として入手可能である。
【0034】
フッ素系界面活性剤としては、含フッ素基・親油性基含有オリゴマー、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマーが挙げられる。含フッ素基・親油性基含有オリゴマーとしては、例えばメガファックF−569、F−574(以上、DIC株式会社製)等の市販品として入手可能であり、含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマーとしては、例えばメガファック F−477、F−553、F−556、R−94、F−559(以上、DIC株式会社製)等の市販品として入手可能である。
【0035】
フッ素系界面活性剤としては、下記一般式(3)で示される、部分フッ素化アルコール置換グリコールが挙げられる。このようなフッ素系界面活性剤としては、Capstone FS−3100、FS−30、FS−31、FS−34、FS−35(以上、Dupont社製)等の市販品として入手可能である。
C
6F
13−CH
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH・・・(3)
(式中、nは、1以上40以下の整数である。)
【0036】
フッ素系界面活性剤としては、部分フッ素化アルコールが挙げられ、Capstone FS−65(Dupont社製)等の市販品として入手可能である。
【0037】
また、(B)表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤も好ましく用いられる。アクリル系表面調整剤としては、ポリ(メタ)アクリレート、変性ポリ(メタ)アクリレート等のアクリル系共重合物が挙げられ、例えば、BYK−381、BYK−3440、BYK−3441(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等の市販品として入手可能である。
【0038】
(B)表面調整剤としては、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤が好ましく、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤がより好ましく、アセチレン系界面活性剤が更に好ましい。また、フッ素系界面活性剤については、ノニオン系の他、両性等も存在するが、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、ノニオン系のものが好ましい。
なお、本発明において、(B)表面調整剤としては、上記例示した表面調整剤を少なくとも含むことが好ましく、上記例示したもの以外のものを含んでいてもよいが、含まれる全てのものが、上記例示した表面調整剤であることが好ましい。
【0039】
水系仮止め接着剤中の(B)表面調整剤の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.10質量%以上であり、上限として好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。
【0040】
((C)相溶化剤)
本発明の第1の水系仮止め接着剤に含まれる(C)相溶化剤は、主に上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と(B)表面調整剤との相溶性を向上させて、はじき防止性能を発現する成分である。上記(A)成分は水酸基を含むため親水性を呈し、一方(B)表面調整剤は疎水性を呈する傾向があるため、(A)成分と(B)成分とは互いに相溶性が高いとはいえないものである。そのため、(A)成分と(B)成分とを併用すると、特に接着剤の塗膜の一部にはじきによる接着剤の塗布量が少ない、又は塗布されないはじき部分が生じやすくなり、接着剤をウェハ等の被接着物に均一に塗布しにくくなる。そこで、本発明においては、(C)相溶化剤を用いることで、(A)成分と(B)成分との相溶性を向上させて、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を得ることを可能としている。
【0041】
(C)相溶化剤としては、親水性を呈する(A)成分と疎水性を呈する(B)成分との相溶性を向上させる相溶化性能を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、分子中に親水部と疎水部とを有する化合物を用いることが好ましい。このような化合物としては、アルキレンオキシドの共重合体が好ましく挙げられる。アルキレンオキシドとしては、好ましくは炭素数2以上8以下、より好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド、例えば、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、1,3−プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、1,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でもエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの組合せが好ましい。
また、アルキレンオキシドの共重合体としては、ランダム型、ブロック型、グラフト型のいずれであってもよいが、より優れた相溶化性能を発現し、はじき性能を向上させる観点から、ブロック型であることが好ましい。
【0042】
上記アルキレンオキシドの共重合体の中でも、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体(以下、「エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体」とも称する。)が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロック共重合体(以下、「エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体」とも称する。)がより好ましく、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体の中でも特に、プロピレンオキシド鎖を主鎖として、その両端にエチレンオキシド鎖を有するトリブロック共重合体(以下、「エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体」とも称する。)、エチレンオキシド鎖を主鎖として、その両端にプロピレンオキシド鎖を有するトリブロック共重合体(以下、「プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体」とも称する。)が好ましい。エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、とりわけエチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体、プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体は、エチレンオキシド鎖が親水性を、プロピレンオキシド鎖が疎水性を呈することから、親水性を呈する(A)成分と疎水性を呈する(B)成分との相溶性を向上させる相溶化性能をより顕著に発現するものとなり、より優れたはじき防止性能が得られる。
【0043】
また、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体としては、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのジブロック共重合体(「エチレンオキシド−プロピレンオキシドジブロック共重合体」とも称する。)も好ましい。上記トリブロック共重合体と同様に、エチレンオキシド鎖が親水性を、プロピレンオキシド鎖が疎水性を呈することから、親水性を呈する(A)成分と疎水性を呈する(B)成分との相溶性を向上させる相溶化性能をより顕著に発現するものとなり、より優れたはじき防止性能が得られる。
【0044】
なお、上記のエチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体、プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体等のアルキレンオキシドの共重合体は、例えば、ニューポールPE61、62、64、68、71、74、75、78、108、128(以上、三洋化成工業株式会社製)、プルロニックP85、F88、F108(以上、株式会社ADEKA製)、ユニルーブ70DP−600B、70DP−950B、プロノン#208、プロノン#238、プロノン#357(以上、日油株式会社製)、エパン485、エパン680、エパン785、エパンU−108(以上、第一工業製薬株式会社製)等の市販品としても入手可能である。
【0045】
エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体において、エチレンオキシドに対するプロピンレンオキシドの割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、上限として好ましくは300質量%以下、より好ましくは200質量%以下、更に好ましくは100質量%以下である。エチレンオキシドとプロピンレンオキシドとの割合が上記範囲内であると、より優れた相溶化が得られ、結果としてより優れたはじき防止性能が得られる。
【0046】
(C)相溶化剤がアルキレンオキシドの共重合体の場合、その数平均分子量は、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは7,000以上、特に好ましくは8,000以上であり、上限として好ましくは500,000以下、より好ましくは250,000以下、更に好ましくは100,000以下、特に好ましくは50,000以下である。
なお、本発明において、(C)相溶化剤としては、上記例示したアルキレンオキシドの共重合体を少なくとも含むことが好ましく、上記例示したアルキレンオキシドの共重合体以外のものを含んでいてもよいが、含まれる全てのものが、上記例示したアルキレンオキシドの共重合体であることが好ましい。
【0047】
上記エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体は、公知の方法にて調製することができ、例えば、エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体の場合は、プロピレンオキシド鎖を主鎖として、その両端にエチレンオキシド鎖を有するブロック共重合体は、アルカリ触媒の存在下、プロピレングリコールに酸化エチレンを加圧、加温状態で吹き込んで重合させて、ポリプロピレンオキシドを調製し、次いで、例えば金属アルコラート触媒の存在下、エチレンオキシドを該ポリプロピレンオキシドの両端を重合拠点として重合させることで調製することができる。
【0048】
水系仮止め接着剤中の(C)相溶化剤の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0049】
(溶媒)
本発明の第1の水系仮止め接着剤は、溶媒に上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を溶解させて用いることができる。溶媒としては、水が用いられ、例えばイオン交換水を用いればよい。本発明において、溶媒として水以外の溶媒、例えば各種有機溶媒を含んでもよいが、自然環境、作業環境等の環境への負荷の低減、安全性等を考慮すると、該有機溶媒を含まないことが好ましい。すなわち、本発明の第1の水系仮止め接着剤は、有機溶媒を含まない、実質的に完全水系の仮止め接着剤である。ここで、「有機溶媒を含まない」とは、有機溶媒の含有量が0質量%であることの他、意図的に有機溶媒を用いないこと、例えば上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分に不可避的に含まれ得る有機溶媒の含有は許容され、この場合、全溶媒に含まれる有機溶媒の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であること、を意味する。
【0050】
(その他添加剤)
本発明の第1の水系仮止め接着剤には、所望に応じて、上記成分以外のその他添加剤として、消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、結晶核剤、可塑剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0051】
(第1の水系仮止め接着剤の各種性状)
本発明の第1の水系仮止め接着剤は、融点が30℃以上であることを要する。融点が30℃以上でないと、仮止め接着剤と被接着物との、素材、表面特性等の相違による相性に起因する塗布性能の低減を抑制することができず、機械的加工時の発熱に対する耐熱性が向上することで加工時の被接着物の支持体に対する位置ずれ、剥がれ等の発生を抑制することができないため、優れた仮止め性能(特に接着性能)が得られず、また様々な被接着物の仮止めに対応し得る汎用性も得られない。水系仮止め接着剤の融点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃以上、より更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは43℃以上である。また、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。水系仮止め接着剤の融点が上記範囲内であると、本発明の第1の水系仮止め接着剤の接着性能だけでなく剥離性能も向上することで仮止め性能が向上し、また汎用性も向上する。
本明細書において、融点は、上記の通り、JIS K0064:1992(化学製品の融点及び溶融範囲測定方法)に準拠して測定した溶融終点を意味する。具体的には、本発明の第1の水系仮止め接着剤を加熱融解(温度条件:30〜90℃)し、冷却(温度条件:−20〜30℃)したものを微細(最大粒子径:300μm)な粉末状とし、JIS K0064:1992(化学製品の融点及び溶融範囲測定方法)に規定される「4.溶融範囲測定方法」に基づき、必要に応じてデシケーターの中で24時間乾燥したものをサンプルとして、これを毛管(ガラス製、内径0.8〜1.2mm、厚さ:0.2〜0.3mm、長さ:150mm)に充填し、これを昇温スピード1℃/分の条件で昇温を行い、目視観察で固体を認めなくなった溶融温度(粉末状の固体のサンプルが完全に液化した状態の温度)を、本発明の第1の水系仮止め接着剤の融点とした。
【0052】
(第1の水系仮止め接着剤の用途)
本発明の第1の水系仮止め接着剤は、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を有し、また水系であることから、自然環境、作業環境等の環境への負荷を低減でき、安全性にも優れる接着剤である。そのため、本発明の第1の水系仮止め接着剤は、接着剤として仮止め性能が求められる用途、例えば、OA機器、情報機器、家庭電化機器等の各種電子機器、光学機器、医療用機器、自動車用機器等の各種機器に用いられる各種部材及び部品、例えば、シリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、またサファイア、ガリウムヒ素、水晶、磁性部材、金属部材、ガラス部材、樹脂部材、半導体デバイス用部材等の切削、研磨、切断、研削、穴開け等の種々の機械的加工の際の一時的な支持体への固定(仮止め)に好適に用いられる。
【0053】
上記の各種部材及び部品の機械的加工の中でも、電子機器等に用いられる半導体デバイス用部材である、シリコンウェハ等のウェハ表面の研磨加工の方法の典型的な例を説明する。
まず、ウェハの一方の面の全面に、本発明の第1の水系仮止め接着剤をスピンコーター法、スプレー法、ダイコート法、インクジェット法、ディップコート法、ロールコート法等の塗布方法により均一となるように塗布し、接着剤の塗膜を形成する。接着剤の塗膜を必要に応じて乾燥して、ウェハと研磨機の定盤とを、通常50〜140℃の温度で加熱圧着し、ウェハを研磨機の定盤上に固定する。次いで、研磨機によりウェハ表面を研磨加工する。研磨加工終了後、剃刀を用いて、あるいは加熱溶融により、ウェハを研磨機の定盤より剥離すればよい。なお、接着剤の塗布の方法は、特に限定されるものではなく、例えば上記のようにウェハ等の被接着物に行ってもよいし、支持体に行ってもよく、また研磨加工後の剥離の方法についても特に限定されるものではなく、ウェハの形状等に応じて適宜選択することができる。
また、必要に応じて、ウェハを剥離した後に、該ウェハ上の仮止め接着剤の残さを水又は温水等を用いて除去する洗浄を行うこともできる。本発明の第1の水系仮止め接着剤は、水系であるため、水又は温水等による洗浄により、容易に被接着体から除去できるという利点も有している。
【0054】
本発明の第1の水系仮止め接着剤は、研磨加工時にはウェハが定盤より剥離又は位置ずれすることがない接着性能を発揮し、研磨加工を終了した後、ウェハは剃刀等を用いて定盤から容易に剥離することを可能とする。また、接着剤の塗膜はウェハの全面にはじきがなく均一に存在するため、本発明の第1の水系仮止め接着剤は、例えば、機械的加工等の高い精度要求にも対応することが可能となる。また、本発明の第1の水系仮止め接着剤は、上記ウェハの研磨加工に限らず、他の各種部材及び部品の機械的加工においても、同じ効果を発現し、高い精度要求に対応することが可能である。
【0055】
<第2の水系仮止め接着剤>
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、少なくとも(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を含み、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの合計含有量が3000ppb以下であり、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量が各々1000ppb以下である、ことを特徴とするものである。
【0056】
((A)水酸基を有する熱可塑性樹脂)
本発明の第2の水系仮止め接着剤に含まれる(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂は、主に接着性能と剥離性能とを有する仮止め性能を発現する成分であり、また一般的に各種金属イオンの含有量が小さい傾向にあるため、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能の向上の点でも有利なものである。
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂としては、分子中に水酸基を有している熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、融点が30℃以上のものが好ましい。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点が30℃以上であると、本発明の水系仮止め接着剤の融点が30℃以上となりやすくなり、仮止め性能が向上し、また汎用性も向上する。これと同様の観点から、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点は、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃以上、より更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは43℃以上である。また、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。(A)成分の融点の上限が200℃以下であると、本発明の第2の水系仮止め接着剤の剥離性能の向上により仮止め性能が向上し、汎用性も向上する。本明細書において、融点はJIS K0064:1992に準拠して測定された融解終点を意味する。その具体的な測定については、後述する。
【0057】
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の数平均分子量は、仮止め性能を向上させる観点から、好ましくは800以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,200以上、特に好ましくは1,400以上であり、上限として好ましくは25,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは15,000以下、特に好ましくは10,000以下である。また、数平均分子量が上記範囲内であると、汎用性も向上する。本明細書において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定したものである。
【0058】
上記の性状を有する(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂としては、より優れた仮止め性能を得る観点から、オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂が好ましく挙げられ、一種のオキシアルキレン基を構成単位とする樹脂であることがより好ましい。
オキシアルキレン基の炭素数、オキシアルキレン基の繰り返し単位数は、上記第1の水系仮止め接着剤の(A)成分のオキシアルキレン基と同じである。
【0059】
オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂として、より具体的には、好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルが挙げられ、より好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、更に好ましくはポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステルであり、各種金属イオンの含有量が小さく、より優れた光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能を得る観点から、特に好ましくはポリアルキレングリコールである。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0060】
また、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルのより具体的な例は、上記第1の水系仮止め接着剤の(A)成分として例示したものと同じものが挙げられる。
【0061】
本発明の第2の水系仮止め接着剤において、仮止め性能を向上させる観点から、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、一種の熱可塑性樹脂を用いてもよく、また数平均分子量の異なる二種以上の熱可塑性樹脂、例えば数平均分子量の異なる二種以上のポリアルキレングリコールを用いることもできる。この場合、数平均分子量が800以上5,000未満のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールA」と称することがある。)と、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールB」と称することがある。)と、を組み合わせることが好ましく、数平均分子量が800以上5,000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリエチレングリコールと、を組み合わせることがより好ましい。
【0062】
ポリアルキレングリコールAとポリアルキレングリコールBとの配合比率(質量比率)は、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは15:85〜85:15、更に好ましくは20:80〜80:20である。配合比率が上記範囲内であると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上する。
【0063】
第2の水系仮止め接着剤中の(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の含有量は、仮止め性能を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、上限として好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、更に好ましくは45質量%以下であり、特に好ましくは42質量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲内とすると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上する。
【0064】
((B)各種金属イオン)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの各種金属イオン(以下、単に「(B)成分」と称することがある。)の合計含有量が3000ppb以下であり、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量が各々1000ppb以下である。なお、本明細書において特記がなければ「ppb」は「質量ppb」を意味する。(B)各種金属イオンの合計含有量が3000ppbより大きいと、例えば、シリコンウェハ等の部材の特性劣化によりpn接合リークの問題が生じるなど、部材の信頼性の低下が生じやすくなり、また製造歩留まりが急増しやすくなる。また、ナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの各々の含有量が1000ppbより大きくなる場合も同様である。
【0065】
本発明の第2の水系仮止め接着剤において、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能をより向上させる、すなわち各種部材及び部品の機能低下をより抑制する観点から、(B)各種金属イオンの含有量は少なければ少ないほど好ましく、好ましくは2500ppb以下、より好ましくは2000ppb以下、更に好ましくは1000ppb以下、より更に好ましくは500ppb以下、特に好ましくは200ppb以下であり、最も好ましくは100ppb以下である。また、(B)各種金属イオンの含有量の下限値については、0ppb、すなわち各種金属イオンが含まれないことが望ましいが、現実的には通常0.5ppb以上程度である。また、ナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量は、好ましくは950ppb以下、より好ましくは750ppb以下、更に好ましくは600ppb以下、特に好ましくは450ppb以下であり、下限値としては0ppb、現実的には通常0.5ppb以上である。本発明の第2の水系仮止め接着剤において、(B)各種金属イオンの含有量は、各種金属イオンの種類に応じて適切な分析法により測定した測定値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定した測定値とする。
【0066】
本発明の第2の水系仮止め接着剤において、(B)各種金属イオンの含有量の低減は、例えば、上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の種類の選定等によって行うことができる。水系であって、仮止め性能を有する接着剤に用いられる樹脂成分として、アクリル樹脂等の樹脂のナトリウム塩等の樹脂の金属塩等を用いた塩タイプ、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等のエマルジョンを含むエマルジョンタイプ等も採用される場合があるが、これらの塩タイプ、エマルジョンタイプに用いられる樹脂成分は、それ自体が金属イオンを含む、あるいはこれらの樹脂成分の原料に含まれる、製造工程において含有してしまう等の理由から、金属イオン等の汚染物質の含有量が多い傾向にある。塩タイプの樹脂成分は、それ自体に含まれる(B)各種金属イオン含有量が極めて高く、エマルジョンタイプの樹脂成分は該エマルジョンの粒子内に(B)各種金属イオンが取り込まれている、ことから各種金属イオンを除去処理しようとしても、困難である。また、上記の樹脂成分の他、例えば、スルホン酸基(−SO
3H)、カルボキシル基(−COOH)を有する熱可塑性樹脂等が採用される場合があるが、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂はこれらの樹脂に比べて水との親和性が高いため、水系仮止め接着剤としての安定性が得られる。本発明の第2の水系仮止め接着剤においては、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を用いることで、後述する(B)各種金属イオンの除去処理によって、更に(B)各種金属イオンの含有量の低減が容易に図りやすく、接着剤中の(B)各種金属イオンの含有量を極めて少なくすることが可能である。
【0067】
(他の成分:(C)表面調整剤)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、上記の(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)各種金属イオン以外、他の成分として(C)表面調整剤を含有してもよい。(C)表面調整剤は、主に接着剤の塗布性能、とりわけウェハ等の各種電子部材等に対する塗布性能を向上させる成分である。接着剤を光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品に塗布する場合、接着剤と各種部材及び部品の材料等の相違に起因して、該接着剤が該各種部材及び部品の外縁まで塗布できず、その全面に塗布できないことがある。このような場合、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂とともに、(C)表面調整剤を用いることにより、各種部材及び部品の材料等の相違によらず、優れた塗布性能を得ることができるようになる。
【0068】
(C)表面調整剤としては、一般に高分子量化に伴う粘性の変化、表面張力の変化、泡の発生に起因して生じる塗膜の欠陥を解消し得る性能を有する、表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等と称されるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、セルロース系、天然ワックス系、水溶性有機溶媒等の各種表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等の他、界面活性剤も好ましく挙げられ、中でもノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0069】
(C)表面調整剤として用いられるノニオン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤としては、上記第1の水系仮止め接着剤中の(B)表面調整剤として用いられ得るものとして記載したものと同じものが例示される。
【0070】
(C)表面調整剤としては、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤が好ましく、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤がより好ましく、アセチレン系界面活性剤が更に好ましい。また、特に金属除去の観点からノニオン系のものが好ましい。
なお、本発明の第2の水系仮止め接着剤において、(C)表面調整剤としては、上記例示した表面調整剤を少なくとも含むことが好ましく、上記例示したもの以外のものを含んでいてもよいが、含まれる全てのものが、上記例示した表面調整剤であることが好ましい。
【0071】
第2の水系仮止め接着剤中の(C)表面調整剤の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.10質量%以上であり、上限として好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。
【0072】
(他の成分:(D)相溶化剤)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、他の成分として(D)相溶化剤(以下、「(D)成分」と称することがある。)を含有してもよい。(D)相溶化剤は、上記(C)表面調整剤を用いる場合、主に上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と該(C)表面調整剤との相溶性を向上させて、はじき防止性能を発現する成分である。該(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂は水酸基を含むため親水性を呈し、一方(C)表面調整剤は疎水性を呈する傾向があるため、(A)成分と(C)成分とは互いに相溶性が高いとはいえないものである。そのため、(A)成分と(C)成分とを併用すると、特に接着剤の塗膜の一部にはじきによる接着剤の塗布量が少ない、又は塗布されないはじき部分が生じやすくなり、接着剤をウェハ等の各種部材及び部品等に均一に塗布しにくくなる場合がある。上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に、(C)表面調整剤を用いる場合は、(D)相溶化剤を用いることで、はじきの発生を低減することができ、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、優れた仮止め性能、また光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能とともに、優れた塗布性能及びはじき防止性能を有するものとなる。
【0073】
本発明の第2の水系仮止め接着剤で用いられ得る(D)相溶化剤は、上記第1の水系仮止め接着剤で用いられる(C)相溶化剤と同じであり、アルキレンオキシドの共重合体が好ましく用いられる。アルキレンオキシドの共重合体の具体例は、上記第1の水系仮止め接着剤で用いられる(C)相溶化剤と同じであり、このような共重合体は、エチレンオキシド鎖が親水性を、プロピレンオキシド鎖が疎水性を呈することから、親水性を呈する(A)成分と疎水性を呈する(C)成分との相溶性を向上させる相溶化性能をより顕著に発現するものとなり、より優れたはじき防止性能が得られる。また、これらのアルキレンオキシドの共重合体は、それ自体が金属イオンを含む、あるいはこれらの共重合体の原料、製造工程において含有してしまうといったことがなく、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及びの機能低下抑制性能の向上に有効である。
【0074】
上記のエチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体、プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体等のアルキレンオキシドの共重合体の市販品については、上記第1の水系仮止め接着剤において例示した市販品と同じものが挙げられる。
【0075】
エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体において、エチレンオキシドに対するプロピンレンオキシドの割合、(D)相溶化剤がアルキレンオキシドの共重合体の場合、その数平均分子量、上記エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体は、公知の方法にて調製方法については、上記第1の水系仮止め接着剤において説明した内容と同じである。
【0076】
第2の水系仮止め接着剤中の(D)相溶化剤の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0077】
(溶媒)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、溶媒に溶解させて用いることができる。溶媒としては、水が用いられ、例えばイオン交換水を用いればよい。溶媒として水を用いる場合の溶媒の含有量は、水系である本発明の第2の仮止め接着剤の特徴、取扱いの容易性等を考慮すると、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、上限として好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0078】
本発明の第2の水系仮止め接着剤において、溶媒として水以外の溶媒、例えば各種有機溶媒を含んでもよいが、自然環境、作業環境等の環境への負荷の低減、安全性等を考慮すると、該有機溶媒を含まないことが好ましい。すなわち、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、有機溶媒を含まない、実質的に完全水系の仮止め接着剤である。ここで、「有機溶媒を含まない」とは、有機溶媒の含有量が0質量%であることの他、意図的に有機溶媒を用いないこと、例えば上記(A)成分〜(D)成分に不可避的に含まれ得る有機溶媒の含有は許容され、この場合、全溶媒に含まれる有機溶媒の含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下であること、を意味する。すなわち、全溶媒に含まれる水の含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、より更に好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上である。なお、本発明の第2の水系仮止め接着剤において、上記の水以外の溶媒、有機溶媒には、上記(A)成分〜(D)成分に不可避的に含まれ得る該(A)成分〜(D)成分以外の成分(不純物として含まれるもの)も含めることとする。
【0079】
(その他添加剤)
本発明の第2の水系仮止め接着剤には、所望に応じて、上記成分以外のその他添加剤として、消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、結晶核剤、可塑剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0080】
(第2の水系仮止め接着剤の各種性状)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、融点が30℃以上であることが好ましい。融点が30℃以上であると、仮止め接着剤と被接着物との、素材、表面特性等の相違による相性に起因する塗布性能の低減を抑制でき、機械的加工時の発熱に対する耐熱性が向上することで加工時の被接着物の支持体に対する位置ずれ、剥がれ等の発生を抑制することができるので、優れた仮止め性能(特に接着性能)が得られ、また様々な被接着物の仮止めに対応し得る汎用性も得られる。これと同様の観点から、第2の水系仮止め接着剤の融点は、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃以上、より更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは43℃以上である。また、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
融点は、上記第1の水系仮止め接着剤の融点と同じ方法で測定したものとする。
【0081】
(第2の水系仮止め接着剤の用途)
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、優れた仮止め性能を有し、各種金属イオンの含有量が少ないため、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能に優れており、また水系であることから、自然環境、作業環境等の環境への負荷を低減でき、安全性にも優れる接着剤である。そのため、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、接着剤として仮止め性能が求められる用途、例えば、OA機器、情報機器、家庭電化機器等の各種電子機器、光学機器、医療用機器、自動車用機器等の各種機器に用いられる各種部材及び部品、例えば、シリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、またサファイア、ガリウムヒ素、水晶、磁性部材、金属部材、ガラス部材、樹脂部材、半導体デバイス用部材等の切削、研磨、切断、研削、穴開け等の種々の機械的加工の際の一時的な支持体への固定(仮止め)に好適に用いられる。
【0082】
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、機械的加工時には各種部材及び部品が加工用基板(定盤等)より剥離又は位置ずれすることがない接着性能を発揮し、研磨加工を終了した後、各種部材及び部品は剃刀等を用いて、あるいは加熱溶融により、加工用基板(定盤等)から容易に剥離することを可能とする。また、接着剤の塗膜は各種部材及び部品の全面にはじきがなく均一に存在するため、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、例えば、機械的加工等の高い精度要求にも対応することが可能となる。よって、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、特に高い精度が要求される機械的加工、例えばシリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、半導体デバイス用部材、とりわけシリコンウェハ等のウェハの表面の研磨加工に好適に用いられる。
【0083】
〔第2の水系仮止め接着剤の製造方法〕
本発明の第2の水系仮止め接着剤の製造方法は、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂及び金属イオンを含む組成物を、イオン交換体に接触させて、ナトリウム金属イオン、アルミニウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン、銅金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオン及び鉛金属イオンの合計含有量を3000ppb以下とし、かつナトリウム金属イオン、鉄金属イオン、亜鉛金属イオン及び銅金属イオンの含有量を各々1000ppb以下とする、ものである。
【0084】
(イオン交換体)
本発明の第2の水系仮止め接着剤の製造方法で用いられるイオン交換体としては、例えば、イオン交換樹脂等の有機イオン交換体、及び無機イオン交換体が挙げられ、(B)各種金属イオンの含有量をより低減する観点から、イオン交換樹脂等の有機イオン交換体が好ましく、また陽イオン捕捉性能を有するものが好ましい。
【0085】
無機イオン交換体としては、陽イオン捕捉性能を有するものとして、例えば、リン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、モリブデン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、アンチモン酸ジルコニウム、セレン酸ジルコニウム、テルル酸ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、リンケイ酸ジルコニウム、ポリリン酸ジルコニウム等の金属酸化物等が挙げられる。これらの無機イオン交換体は単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0086】
有機イオン交換体としては、陽イオン捕捉性能を有する、陽イオン交換樹脂を用いたものが好ましい。
陽イオン交換樹脂としては、酸性基としてスルホン酸基(RSO
3−H
+)を有するスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂等の強酸性陽イオン交換樹脂;酸性基としてカルボン酸基(R−COO
−H
+)、ホスホン酸基(R−P(O)(O
−H
+)
2)、ホスフィン酸基(R−PH(O)(O
−H
+))等を有する弱酸性陽イオン交換樹脂等のいずれを用いてもよい。また、陽イオン交換樹脂のイオン型としては、水素型、アンモニア型のものが好ましく挙げられ、(B)各種金属イオンの含有量をより低減する観点から、水素型の陽イオン交換樹脂がより好ましい。これらの有機イオン交換体は単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
有機イオン交換体の形態は特に制限はなく、例えば、粒子状、繊維状、液体状、ゲル状等のいずれであってもよく、また、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂等の樹脂繊維に有機イオン交換樹脂を装飾したタイプであってもよい。
【0087】
その他、第2の水系仮止め接着剤について、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)各種金属イオン、また必要に応じて含まれる(C)表面調整剤、(D)相溶化剤、及びこれらの含有量、その他添加剤等については、上記第2の水系仮止め接着剤に含まれ得る各成分に関する説明と同じであり、その説明は省略する。
【0088】
本発明の第2の水系仮止め接着剤は、その製造方法には特に制限はないが、上記の本発明の第2の水系仮止め接着剤の製造方法により製造することが好ましい。本発明の第2の水系仮止め接着剤の製造方法によれば、優れた仮止め性能とともに、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能を有する水系仮止め接着剤を容易に得ることができる。また、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、該接着剤に含まれる成分である、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂等を選定し、所定の金属イオン含有量とすることにより製造することも可能である。本製造方法は、第2の水系仮止め接着剤の製造方法として説明したが、上記第1の水系仮止め接着剤、後述する第3の水系仮止め接着剤の製造にあたり、(A)水酸基を有する樹脂及び金属イオンを含む組成物を用いる場合は、本製造方法に従い、イオン交換体を用いて製造することも可能である。
【0089】
〔部材又は部品の製造方法〕
本発明の部材又は部品の製造方法は、上記本発明の第2の水系仮止め接着剤を用いて部材又は部品の前駆体と加工用基板とを仮止めする仮止工程、該前駆体に機械的加工を施して部材又は部品を作製する加工工程を有するものである。以下、仮止工程、加工工程について詳細に説明する。本発明の部材又は部品の製造方法の説明においては、用いられる水系仮止め接着剤を第2の水系仮止め接着剤としているが、上記第1の水系仮止め接着剤、後述する第3の水系仮止め接着剤を用いることも可能である。
【0090】
仮止工程は、本発明の第2の水系仮止め接着剤を用いて部材又は部品の前駆体と加工用基板とを仮止めする工程であり、より具体的には前駆体と加工用基板との間に本発明の水系仮止め接着剤の塗膜を形成し、該前駆体と加工用基板とを仮止めする工程である。塗膜の形成し、仮止めする方法としては、前駆体の一方の面に仮止め接着剤を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を設けた面を貼り付け面として加工用基板に該前駆体を仮止めする方法(i)、加工用基板に仮止め接着剤を塗布して塗膜を形成し、該塗膜の上に前駆体を配置することで、該塗膜を介して該前駆体を加工用基板に仮止めする方法(ii)のいずれであってもよい。
【0091】
例えば、上記方法(i)方法では、第2の水系仮止め接着剤の塗布する方法としては、スピンコート法、スプレー法、ダイコート法、インクジェット法、ディップコート法、ロールコート法等の塗布方法が挙げられる。第2の水系仮止め接着剤の塗布量としては、前駆体の仮止めする面の面積にもよるが、例えば4インチのシリコンウェハ等のウェハ部材の前駆体に対して1〜3mL程度を塗布すればよい。
その後、加工用基板に対して前駆体に設けた塗膜を対向させながら、該前駆体を該加工用基板の所定の位置に配置して、仮止めする。このとき、前駆体と加工用基板とを、通常50〜140℃の温度で加熱圧着して仮止めすると、より確実に仮止めができるので、好ましい。
なお、前駆体は、加工用基板と仮止めする前に、研磨剤等で表面を粗く研磨し、必要に応じて化学的エッチングにより表面処理を行っておいてもよい。
【0092】
加工工程は、仮止め工程で加工用基板に仮止めした前駆体の被加工面を加工する工程である。本発明の製造方法における加工としては、切削、研磨、切断、研削、穴開け等の種々の機械的加工が挙げられ、これらの単独加工、あるいはこれらの加工を組み合わせた加工であってもよい。
【0093】
本発明の製造方法における加工工程における加工は、特段の精密性が求められない一般的な加工と、高い精密性が求められる精密加工と、に大別される。例えば、シリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、半導体デバイス用部材の機械的加工、とりわけシリコンウェハ等のウェハの表面の研磨加工は、精密加工による加工が必要となる。本発明の製造方法では、優れた仮止め性能を有する上記本発明の水系仮止め接着剤を用いることから、加工用基板に対して、前駆体を傾斜させることなく仮止めでき、また該接着剤の塗膜の面内膜厚差が小さく、かつ非着面積が非常に小さくなる。そのため、加工工程において、前駆体の被加工面に対して、機械的加工用の冶具から該前駆体に対してかかる圧力は、該前駆体の被加工面に対して略均一とすることができ、結果として前駆体を高精度に加工することができるので、高品質な部材又は部品を製造することが可能となる。
【0094】
本発明の製造方法によれば、厳しい機械的加工の条件下においても高精度に加工が可能であり、ウェハとしては、シリコンウェハの他、サファイア、リン化ガリウム又は窒化ガリウム等のウェハ用材料からなる各種ウェハが挙げられるが、これら各種ウェハの製造方法として、特にモース高度が9以上のウェハ(例えば、サファイアウェハ等)の製造方法としても好適である。
【0095】
本発明の部材又は部品の製造方法は、上記加工工程の後、機械的加工が施された部材又は部品を加工用基板から剥離する剥離工程を有してもよい。剥離は、例えば剃刀、スクレイパー等を用いて、又は加熱溶融により、ウェハ等の部材又は部品を加工用基板より剥離すればよい。
また、必要に応じて、部材又は部品を剥離した後に、該部材又は部品上の仮止め接着剤の残さを水又は温水等を用いて除去する洗浄を行うこともできる。本発明の水系仮止め接着剤は、水系であるため、水又は温水等による洗浄により、容易に被接着体から除去できるという利点も有している。
【0096】
本発明の部材又は部品の製造方法により得られる部材、部品としては、例えば、OA機器、情報機器、家庭電化機器等の各種電子機器、光学機器、医療用機器、自動車用機器等の各種機器に用いられる各種部材及び部品、より具体的には、シリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、またサファイア、ガリウムヒ素、水晶、磁性部材、金属部材、ガラス部材、樹脂部材、半導体デバイス用部材等が挙げられる。また、本発明の部材又は部品の製造方法の特長を考慮すると、シリコンウェハの他、サファイア、リン化ガリウム又は窒化ガリウム等のウェハ用材料からなる各種ウェハ、光学レンズ、半導体デバイス用部材が好ましく、中でも各種ウェハが好ましい。
【0097】
<第3の水系仮止め接着剤>
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と、(B)水を含む溶媒と、を含み、該溶媒中の水の含有量が95質量%以上であり、25℃における表面張力が20mN/m以上55mN/m以下、かつ接着強さが0.1MPa以上20MPa以下である、ことを特徴とするものである。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂(以下、「(A)成分」と称することがある。)は、主に接着性能と剥離性能とを有する仮止め性能を発現する成分であり、25℃における表面張力を20mN/m以上55mN/m以下とし、かつ接着強さを0.1MPa以上20MPa以下とすることにより、仮止め性能とともに、優れた塗布性能が得られる。また、溶媒中の水の含有量が95質量%以上の水系であることから、安全性能が高く、また環境への負荷が低い接着剤となる。
【0098】
((A)水酸基を有する熱可塑性樹脂)
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂としては、分子中に水酸基を有している熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、融点が30℃以上のものが好ましい。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点が30℃以上であると、仮止め性能及び塗布性能が向上し、また汎用性も向上する。(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に含まれる樹脂の融点は、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃以上、より更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは43℃である。また、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃、特に好ましくは100℃以下である。(A)成分の融点の上限が200℃以下であると、本発明の第3の水系仮止め接着剤の剥離性能の向上により仮止め性能が向上し、汎用性も向上する。本明細書において、融点はJIS K0064:1992に準拠して測定された融解終点を意味する。その具体的な測定については、後述する。
【0099】
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の数平均分子量は、仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、好ましくは800以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは2,000以上、特に好ましくは3,000以上であり、上限として好ましくは25,000以下、より好ましくは20,000以下、更に好ましくは15,000以下、特に好ましくは10,000以下である。また、数平均分子量が上記範囲内であると、汎用性も向上する。本明細書において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定したものである。
【0100】
上記の性状を有する(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、仮止め性能の観点から、オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂が好ましく挙げられ、一種のオキシアルキレン基を構成単位とするものであることがより好ましい。
オキシアルキレン基の炭素数、オキシアルキレン基の繰り返し単位数は、上記第1の水系仮止め接着剤の(A)成分のオキシアルキレン基と同じである。
【0101】
オキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂の具体例は、上記第1の水系仮止め接着剤の(A)成分のオキシアルキレン基を有する熱可塑性樹脂と同じものが挙げられ、仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、特に好ましくはポリアルキレングリコールである。
また、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルのより具体的な例は、上記第1の水系仮止め接着剤の(A)成分として例示したものと同じものが挙げられる。
【0102】
第3の水系仮止め接着剤において、仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、一種の熱可塑性樹脂を用いてもよく、また数平均分子量の異なる二種以上の熱可塑性樹脂、例えば数平均分子量の異なる二種以上のポリアルキレングリコールを用いることもできる。この場合、数平均分子量が800以上5,000未満のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールA」と称することがある。)と、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリアルキレングリコール(以下、「ポリアルキレングリコールB」と称することがある。)と、を組み合わせることが好ましく、数平均分子量が800以上5,000未満のポリエチレングリコールと、数平均分子量が5,000以上10,000以下のポリエチレングリコールと、を組み合わせることがより好ましい。
【0103】
ポリアルキレングリコールAとポリアルキレングリコールBとの配合比率(質量比率)は、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは15:85〜85:15、更に好ましくは20:80〜80:20である。配合比率が上記範囲内であると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上する。
【0104】
また、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、セラック樹脂を用いることもできる。セラック樹脂は、ラックカイガラ虫が分泌する樹脂状の物質を公知の溶液抽出法、ソーダー法等の方法により精製したものであり、その樹脂分はアレウリチン酸、ジャラール酸、ラクシジャラール酸等の樹脂酸とのエステル化合物を主成分とする天然セラック樹脂、又は合成セラック樹脂が挙げられ、具体的には、精製セラック樹脂、漂白セラック樹脂、脱色セラック樹脂等が挙げられる。また、これらのセラック樹脂のアンモニウム中和物であってもよい。
【0105】
第3の水系仮止め接着剤中の(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、上限として好ましくは50質量%以下、より好ましくは47質量%以下、更に好ましくは45質量%以下であり、特に好ましくは42質量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲内とすると、水系仮止め接着剤の塗膜の膜厚を確保しやすくなるため、より安定した接着性能が得られることから仮止め性能が向上する。
【0106】
((B)水を含む溶媒)
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、水を含む溶媒(以下、「(B)成分」と称することがある。)であって、該溶媒中の水の含有量が95質量%以上である溶媒を含有する。
(B)水を含む溶媒に用いられる水としては、例えばイオン交換水を用いればよい。また、本発明の第3の水系仮止め接着剤において、溶媒として水以外の溶媒、例えば各種有機溶媒を含んでもよいが、自然環境、作業環境等の環境への負荷の低減、安全性等を考慮すると、該有機溶媒の含有量は小さいほど好ましい。(B)水を含む溶媒中の水の含有量は95質量%以上であることを要する。このように水以外の溶媒の含有量を少なくすることで、優れた安全性能が得られ、また環境への負荷の低減を図ることができる。
これと同様の観点から、(B)水を含む溶媒中の水の含有量は、好ましくは96質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは有機溶媒を含まない、実質的に完全水系の仮止め接着剤であることが好ましい。ここで、「有機溶媒を含まない」とは、有機溶媒の含有量が0質量%であることの他、意図的に有機溶媒を用いないこと、例えば上記(A)成分、また後述する(C)成分及び(D)成分に不可避的に含まれ得る有機溶媒の含有は許容され、この場合、全溶媒に含まれる有機溶媒の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であること、を意味する。すなわち、本発明において、「有機溶媒を含まない」とは、全溶媒中の水の含有量が、好ましくは99質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上であることを意味する。
【0107】
第3の水系仮止め接着剤中の(B)水を含む溶媒の含有量は、上記(A)成分、及び後述する他の成分の含有量に応じて適宜変更するものであるが、通常、50質量%以上、95質量%程度である。
【0108】
(他の成分:(C)表面調整剤)
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、上記の(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂、(B)水を含む溶媒以外、他の成分として(C)表面調整剤を含有してもよい。(C)表面調整剤は、主に接着剤の塗布性能、とりわけウェハ等の各種電子部品等に対する塗布性能を向上させる成分である。接着剤を光学機器、電子部品等の各種部品に塗布する場合、接着剤と各種部品の材料等の相違に起因して、該接着剤が該各種部品の外縁まで塗布できず、その全面に塗布できないことがある。このような場合、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂とともに、(C)表面調整剤を用いることにより、本発明の第3の水系仮止め接着剤の表面張力を調整し、各種部品の材料等の相違によらず、優れた塗布性能を得ることができるようになる。
【0109】
(C)表面調整剤としては、一般に高分子量化に伴う粘性の変化、表面張力の変化、泡の発生に起因して生じる塗膜の欠陥を解消し得る性能を有する、表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等と称されるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、セルロース系、天然ワックス系、水溶性有機溶媒等の各種表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等が好ましく挙げられる。また、(C)表面調整剤としては、界面活性剤も好ましく挙げられ、ノニオン系界面活性が好ましい。
【0110】
(C)表面調整剤として用いられるノニオン系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤としては、上記第1の水系仮止め接着剤中の(B)表面調整剤として用いられ得るものとして記載したものと同じものが例示される。
【0111】
(C)表面調整剤としては、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン結合を有するアセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤等の表面調整剤が好ましく、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系表面調整剤がより好ましく、アセチレン系界面活性剤が更に好ましい。また、フッ素系界面活性剤については、ノニオン系の他、両性等も存在するが、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、ノニオン系のものが好ましい。
なお、本発明の第3の水系仮止め接着剤において、(C)表面調整剤としては、上記例示した表面調整剤を少なくとも含むことが好ましく、上記例示したもの以外のものを含んでいてもよいが、含まれる全てのものが、上記例示した表面調整剤であることが好ましい。
【0112】
第3の水系仮止め接着剤中の(C)表面調整剤の含有量は、仮止め性能とともに、光学機器、電子部品等の各種部品の機能低下抑制性能、塗布性能を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.10質量%以上であり、上限として好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。
【0113】
(他の成分:(D)相溶化剤)
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、他の成分として(D)相溶化剤(以下、「(D)成分」と称することがある。)を含有してもよい。(D)相溶化剤は、上記(C)表面調整剤を用いる場合、主に上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と該(C)表面調整剤との相溶性に起因して、本発明の第3の仮止め接着剤を各種部品の外縁まで塗布できたとしても一部にはじきが生じて均一に塗布できない、いわゆるはじきが発生する場合がある。はじきが発生するような場合、(D)相溶化剤を用いることで上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂と(C)表面調整剤との相溶性を向上させて、はじき防止性能を向上させることが可能となる。
【0114】
(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂は水酸基を含むため親水性を呈し、一方(C)表面調整剤は疎水性を呈する傾向があるため、(A)成分と(C)成分とは互いに相溶性が高いとはいえないものである。そのため、(A)成分と(C)成分とを併用すると、特に接着剤の塗膜の一部にはじきによる接着剤の塗布量が少ない、又は塗布されないはじき部分が生じやすくなり、接着剤をウェハ等の各種部材及び部品等に均一に塗布しにくくなる場合がある。上記(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂に、(C)表面調整剤を用いる場合は、(D)相溶化剤を用いることで、はじきの発生を低減することができ、本発明の第3の水系仮止め接着剤は、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を有するものとなる。
【0115】
第3の水系仮止め接着剤で用いられ得る(D)相溶化剤は、上記第1の水系仮止め接着剤で用いられる(C)相溶化剤と同じであり、アルキレンオキシドの共重合体が好ましく用いられる。アルキレンオキシドの共重合体の具体例は、上記第1の水系仮止め接着剤で用いられる(C)相溶化剤と同じであり、このような共重合体は、エチレンオキシド鎖が親水性を、プロピレンオキシド鎖が疎水性を呈することから、親水性を呈する(A)成分と疎水性を呈する(C)成分との相溶性を向上させる相溶化性能をより顕著に発現するものとなり、より優れたはじき防止性能が得られる。
【0116】
上記のエチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体、プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体等のアルキレンオキシドの共重合体の市販品については、上記第1の水系仮止め接着剤において例示した市販品と同じものが挙げられる。
【0117】
エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体において、エチレンオキシドに対するプロピンレンオキシドの割合、(D)相溶化剤がアルキレンオキシドの共重合体の場合、その数平均分子量、上記エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体は、公知の方法にて調製方法については、上記第1の水系仮止め接着剤において説明した内容と同じである。
【0118】
第3の水系仮止め接着剤中の(D)相溶化剤の含有量は、仮止め性能とともに、塗布性能及びはじき防止性能を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限として好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0119】
(その他添加剤)
本発明の第3の水系仮止め接着剤には、所望に応じて、上記成分以外のその他添加剤として、消泡剤、レベリング剤、シランカップリング剤、結晶核剤、可塑剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0120】
(水系仮止め接着剤の各種性状)
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、25℃における表面張力が20mN/m以上55mN/m以下であることを要する。25℃における表面張力が上記範囲内にないと、優れた仮止め性能とともに、塗布性能が得られない。仮止め性能とともに、塗布性能を向上させる観点から、本発明の第3の水系仮止め接着剤の25℃における表面張力は、好ましくは20mN/m以上、より好ましくは22mN/m以上、更に好ましくは25mN/m以上であり、上限として好ましくは55mN/m以下、より好ましくは50mN/m以下、更に好ましくは45mN/m以下である。本発明において、25℃における表面張力は、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂の種類及びその含有量により調整することができ、また(C)表面調整剤を用いて調整することも可能である。
本明細書において、25℃における表面張力は、測定温度25℃において、Wolhelmy法により測定される値であり、例えば、表面張力計(「CBVP−Z(型番)」、協和界面化学株式会社製)等を用いて測定することができる値である。
【0121】
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、接着強さが0.1MPa以上20MPa以下であるであることを要する。接着強さが上記範囲内にないと、優れた仮止め性能が得られない。仮止め性能を向上させる観点から、本発明の第3の水系仮止め接着剤の接着強さは、好ましくは0.15Pa以上、より好ましくは0.2MPa以上、更に好ましくは0.5MPa以上であり、上限として好ましくは15MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは7MPa以下、より更に好ましくは5MPa以下である。
本明細書において、接着強さは、一方のステンレス基板に5滴滴下して、100℃で20分の加熱乾燥をしてから、他方のステンレス基板に貼り合わせ、常温まで冷却して20分後に、該貼り合わせ基板のせん断力を、引張強度測定器を用い、JIS K6850:1999に規定の「引張せん断接着強さ試験方法」に準拠して測定したせん断力とする。
【0122】
また、本発明の第3の水系仮止め接着剤は、融点が30℃以上であることが好ましい。融点が30℃以上であると、仮止め性能とともに、優れた汎用性が得られる。仮止め性能とともに、塗布性能、更に汎用性を向上させる観点から、第3の水系仮止め接着剤の融点は、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは37℃以上、より更に好ましくは40℃、特に好ましくは43℃以上であり、上限として好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、より更に好ましくは120℃、特に好ましくは100℃以下である。
融点は、上記第1の水系仮止め接着剤の融点と同じ方法で測定したものとする。
【0123】
(第3の水系仮止め接着剤の用途)
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、優れた仮止め性能とともに、塗布性能及び安全性能を有し、また環境への負荷が低い接着剤である。そのため、本発明の第3の水系仮止め接着剤は、接着剤として仮止め性能が求められる用途、例えば、光学機器、OA機器、情報機器、家庭電化機器等の各種電子機器、医療用機器、自動車用機器等の各種機器に用いられる各種部材及び部品、例えば、シリコンウェハ等のウェハ、光学レンズ、またサファイア、ガリウムヒ素、水晶、磁性部材、金属部材、ガラス部材、樹脂部材、半導体デバイス用部材等の切削、研磨、切断、研削、穴開け等の種々の機械的加工の際の一時的な固定(仮止め)に好適に用いられる。
【0124】
電子部品の機械的加工の中でも、電子機器等に用いられる半導体デバイス用部材である、シリコンウェハ等のウェハ表面の研磨加工の方法の典型的な例を説明する。
まず、ウェハの一方の面の全面に、本発明の第3の水系仮止め接着剤をスピンコーター法、スプレー法、ダイコート法、インクジェット法、ディップコート法、ロールコート法等の塗布方法により均一となるように塗布し、接着剤の塗膜を形成する。接着剤の塗膜を必要に応じて乾燥して、ウェハと研磨機の定盤とを、通常50〜140℃の温度で加熱圧着し、ウェハを研磨機の定盤上に固定する。次いで、研磨機によりウェハ表面を研磨加工する。研磨加工終了後、剃刀を用いて、あるいは加熱溶融により、ウェハを研磨機の定盤より剥離すればよい。なお、接着剤の塗布の方法は、特に限定されるものではなく、例えば上記のようにウェハ等の被接着物に行ってもよいし、支持体に行ってもよく、また研磨加工後の剥離の方法についても特に限定されるものではなく、ウェハの形状等に応じて適宜選択することができる。
また、必要に応じて、ウェハを剥離した後に、該ウェハ上の仮止め接着剤の残さを水又は温水等を用いて除去する洗浄を行うこともできる。本発明の第3の水系仮止め接着剤は、水系であるため、水又は温水等による洗浄により、容易に被接着体から除去できるという利点も有している。
【0125】
本発明の第3の水系仮止め接着剤は、研磨加工時にはウェハが定盤より剥離することがない接着性能を発揮し、研磨加工を終了した後、ウェハは剃刀等を用いて定盤から容易に剥離することを可能とする。また、接着剤の塗膜はウェハの全面にはじきがなく均一に存在するため、本発明の水系仮止め接着剤は、例えば、機械的加工等の高い精度要求にも対応することが可能となる。また、本発明の第3の水系仮止め接着剤は、上記ウェハの研磨加工に限らず、他の各種部材及び部品の機械的加工においても、同じ効果を発現し、高い精度要求に対応することが可能である。
【実施例】
【0126】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0127】
(評価及び測定方法:第1の水系仮止め接着剤)
(1−1)融点の測定
各実施例及び比較例で得られた接着剤について、JIS K0064:1992に準拠して融点を測定した。具体的には、各実施例及び比較例で得られた接着剤に含まれる水分を乾燥処理した試料(該接着剤2mlを、内径40mmの小型シャーレに入れて、蓋無しの状態で、クリーンオーブンで120℃、60分の条件で乾燥させた試料)及びこれらの例で用いたA−PEG1〜5及びA−PPGSを、加熱融解(温度条件:30〜90℃)し、冷却(温度条件:−20〜30℃)したものを微細(最大粒子径:300μm)な粉末状とし、これを毛管(ガラス製、内径0.8〜1.2mm、厚さ:0.2〜0.3mm、長さ:150mm)に充填し、これを昇温スピード1℃/分の条件で昇温を行い、目視観察で固体を認めなくなった溶融温度(粉末状の固体のサンプルが完全に液化した状態の温度)を、融点とした。
(2−1)塗布性能の評価
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、スピンコーター(回転数:3000rpm、塗布時間:3秒)を用いて、シリコンウェハ(大きさ:φ150mm、厚さ:625μm)の一方の面に塗布し、シリコンウェハ全面に対する接着剤の塗膜面積の割合を目視で確認し、以下の基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
A:塗膜面積は100%となった。
B:塗膜面積が80%以上100%未満となった。
C:塗膜面積が80%未満となった。
(3−1)はじき防止性能の評価
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、スピンコーター(回転数:3000rpm、塗布時間:3秒)を用いて、シリコンウェハ(大きさ:φ150mm、厚さ:625μm)の一方の面に塗布し、シリコンウェハ全面に対する接着剤の塗膜におけるはじき部の面積の割合を目視で確認し、以下の基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
A:はじき部の面積は0%となった。
B:はじき部の面積は0%超10%以下となった。
C:はじき部の面積は10%超となった。
(4−1)接着性能の評価
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、一方のステンレス基板に5滴滴下して、100℃で20分の加熱乾燥をしてから、他方のステンレス基板に貼り合わせ、常温まで冷却して20分後に、該貼り合わせ基板のせん断力を、引張強度測定器を用い、JIS K6850:1999に規定の「引張せん断接着強さ試験方法」に準拠して測定し、以下の基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
A:せん断力が0.5MPa以上であった。
B:せん断力が0.1MPa以上0.5MPa未満であった。
C:せん断力が0.1MPa未満であった。
(5−1)剥離性能の評価
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、スピンコーター(回転数:3000rpm、塗布時間:3秒)を用いて、シリコンウェハ(大きさ:φ150mm、厚さ:625μm)の一方の面に塗布し、該シリコンウェハをセラミック定盤に70℃の温度条件で加熱圧着した。次いで、常温まで冷却して仮止めした後、剃刀をその先端が15°傾斜するように設置できる冶具に固定して、該先端をシリコンウェハと定盤との間に差し込み、その差込量(mm)に応じて、以下の基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
A:差込量10mm未満で、定盤からシリコンウェハが剥離した。
B:差込量10mm以上15mm未満で、定盤からシリコンウェハが剥離した。
C:差込量15mm以上で定盤からシリコンウェハが剥離した。
【0128】
実施例1−1〜17−1、比較例1−1〜4−1:第1の水系仮止め接着剤
第1−1表に示す配合量(質量%)で接着剤を調製した。得られた接着剤について、上記(1−1)〜(5−1)の方法により、塗布性能、はじき防止性能、仮止め性能(接着性能及び剥離性能)について評価した。評価結果を第1−1表に示す。
【0129】
【表1】
註)本実施例で用いた第1−1表に示される各成分の詳細は以下の通りである。
・A−PEG1:ポリエチレングリコール(数平均分子量:1,000、融点:40℃)
・A−PEG2:ポリエチレングリコール(数平均分子量:3,100、融点:55℃)
・A−PEG3:ポリエチレングリコール(数平均分子量:8,800、融点:60℃)
・A−PEG4:ポリエチレングリコール(数平均分子量:20,000、融点:65℃)
・A−PEG5:ポリエチレングリコール(数平均分子量:600、融点:18〜23℃)
・A−PPGS:ポリプロピレングリコールモノステアレート(オキシエチレン基繰り返し単位数:140、融点:56.5〜61.5℃)
・B−1:アセチレングリコール系界面活性剤(上記一般式(2)において、R
21及びR
23がメチル基、R
22及びR
24がイソブチル基、A
21及びA
22が単結合である、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(オキシエチレン基繰り返し単位数:4))
・B−2:フッ素系界面活性剤(部分フッ素化アルコール置換グリコール、商品名「Capstone FS−34」、Dupont社製)
・B−3:アクリル系界面活性剤(商品名「BYK−3440」、ビックケミー社製)
・C−1:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体(HO−(EO)
a−(PO)
55−(EO)
b−H(a+b=300)で示される共重合体(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド))、数平均分子量:16500、エチレンオキシド:プロピレンオキシド(モル比)=300:55)
・C−2:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレングリコール5.2質量部に、酸化エチレン995重量部をアルカリ触媒の存在下で加圧、加温状態で吹き込み重合させて、ポリエチレングリコール(数平均分子量:12,000)を作製し、金属アルコラート触媒を用いて、該ポリエチレングリコールと酸化プロピレン1,000重量部とを重合させて、ポリエチレングリコールを主鎖として、その両端にポリプロピレングリコールが100質量%部分付加重合された、プロピレンオキシド−エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体)
【0130】
実施例の結果から、本発明の第1の水系仮止め接着剤は、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた、優れた仮止め性能を有しており、また塗布性能及びはじき防止性能にも優れていることが確認され、結果として、精度の高いシリコンウェハが得られた。また、本発明の接着剤は、実質的に有機溶媒を含まない、水系の接着剤であることから、自然環境、作業環境等の環境への負荷を低減でき、また安全性に優れたものである。
一方、(A)成分を含まない比較例1−1の接着剤は、塗布性能が劣り、また接着性能を発揮するものではなかった。(C)成分を含まない比較例2−1の接着剤は、はじき防止性能に劣るものであり、(B)成分を含まない比較例3−1の接着剤は、塗布性能に劣るものであった。また、融点が30℃未満の比較例4−1の接着剤は、接着剤が固まらず接着できず、性能評価を行うことができなかった。
一種の(A)成分を含む実施例10−1〜13−1の接着剤と、他の実施例の二種の(A)成分を含む接着剤(特に、実施例1−1〜3−1の接着剤)との対比から、(A)成分としては二種以上の樹脂を併用することで、仮止め性能、塗布性能、はじき防止性能は同等又は向上効果がみられることが確認された。
【0131】
実施例18−1〜22−1:第1の水系仮止め接着剤
第2−1表に示す配合量(質量%)で接着剤を調製した。得られた接着剤について、上記(1−1)〜(5−1)の方法により、塗布性能、はじき防止性能、仮止め性能(接着性能及び剥離性能)について評価した。評価結果を第2−1表に示す。
【0132】
【表2】
註)本実施例で用いた第2−1表に示される各成分の詳細は以下の通りである。
・A−PEG6:ポリエチレングリコール(数平均分子量:1,540、融点:45℃)
・A−PEG7:ポリエチレングリコール(数平均分子量:2,000、融点:50℃)
・C−3:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体(HO−(EO)
a−(PO)
35−(EO)
b−H(a+b=150)で示される共重合体(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド))、数平均分子量:9,400、エチレンオキシド:プロピレンオキシド(モル比)=150:35)
【0133】
実施例18−1〜22−1より、第1の水系仮止め接着剤は、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた、優れた仮止め性能を有しており、また塗布性能及びはじき防止性能にも優れていることが確認され、結果として、精度の高いシリコンウェハが得られた。また、本発明の接着剤は、実質的に有機溶媒を含まない、水系の接着剤であることから、自然環境、作業環境等の環境への負荷を低減でき、また安全性に優れたものである。
【0134】
(評価及び測定方法:第2の水系仮止め接着剤)
(1−2)各種金属イオンの含有量の測定
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、白金製容器に秤取し、電気炉で加熱温度550℃にて加熱灰化した。これを希塩酸で処理した後、希硝酸に溶解して定容とした。得られた溶液について、偏光ゼーマン原子吸光光度計(「180−80(型番)」、日立株式会社製)を用いて原子吸光分析法によりナトリウム金属イオンの含有量の測定を、ICP質量分析装置(「SPQ6500(型番)」、セイコー電子工業株式会社製)を用いてICP質量分析法により、アルミニウム金属イオン、亜鉛金属イオン、ニッケル金属イオン、クロム金属イオンの含有量の測定を、偏光ゼーマン原子吸光光度計(「Z8270(型番)」、日立株式会社製)を用いてフレームレス原子吸光分析法により銅金属イオンの含有量の測定を、シーケンシャル型ICP発光分光分析装置(「SPS4000(型番)」、セイコー電子工業株式会社製)を用いてICP発光分光分析方により鉄金属イオンの含有量の測定を行った。
また、各実施例及び比較例で得られた接着剤を、テフロン(登録商標)ビーカーに秤取し、硫酸、硝酸及び過塩素酸で加熱分解した後、希硝酸に溶解して定容とした。得られた溶液について、ICP質量分析装置(「SPQ6500(型番)」、セイコー電子工業株式会社製)を用いてICP質量分析法により、鉛金属イオンの含有量の測定を行った。測定した各種金属イオンの含有量(ppb)を、第1−2表に示す。
(2−2)融点の測定
各実施例及び比較例で得られた接着剤について、JIS K0064:1992に準拠して融点を測定した。具体的には、各実施例及び比較例で得られた接着剤に含まれる水分を乾燥処理した試料(該接着剤2mlを、内径40mmの小型シャーレに入れて、蓋無しの状態でクリーンオーブンで120℃、60分の条件で乾燥させた試料)及びこれらの例に用いたA−PEG1を、加熱融解(温度条件:30〜130℃)し、冷却(温度条件:−20〜30℃)したものを微細(最大粒子径:300μm)な粉末状とし、デシケーターの中で24時間乾燥したものをサンプルとして、これを毛管(ガラス製、内径0.8〜1.2mm、厚さ:0.2〜0.3mm、長さ:150mm)に充填し、これを昇温スピード1℃/分の条件で昇温を行い、目視観察で固体を認めなくなった溶融温度(粉末状の固体のサンプルが完全に液化した状態の温度)を、融点とした。
【0135】
(3−2)接着性能の評価
上記「(4−1)接着性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
(4−2)剥離性能の評価
上記「(5−1)剥離性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
【0136】
実施例1−2〜6−2、比較例1−2〜6−2:第2の水系仮止め接着剤
第1−2表に示す配合量(質量%)で接着剤を調製し、第1−2表中の金属イオン除去方法に従って金属イオン除去を行い、各実施例及び比較例の接着剤とした。金属イオン除去方法は以下の方法により行った。得られた接着剤について、上記(1−2)の方法により各種金属イオンの含有量を測定し、上記(2−2)の方法により融点を測定し、また上記(3−2)及び(4−2)の方法により仮止め性能を評価した。評価結果を第1−2表に示す。
(金属イオン除去方法)
A:イオン交換体として、水素型陽イオン交換樹脂(「オルライトDS−4(品番)」、酸性基:スルホン酸基、オルガノ株式会社製)を用いて、接着剤より処理した。
B:イオン交換体として、アンモニア型陽イオン交換樹脂(樹脂製カラム(直径:13cm、高さ:50cm)に、「オルライトDS−4(品番)」(オルガノ株式会社製)を4L充填し、10%アンモニア水4Lを線速度1cm/分で流下させて、イオン交換水で流出液が中性になるまで洗浄したアンモニア型陽イオン交換樹脂)を用いて、接着剤より処理した。
−:金属イオン除去を行わなかった。
【0137】
【表3】
註)表中、各種金属イオン欄の「−」は測定不可、又は各種金属イオンの含有量が低減しなかったことを示す。また、本実施例で用いた第1−2表に示される各成分の詳細は以下の通りである。
・A−PEG1:ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール1(数平均分子量:3,100、融点:55℃)50質量部とポリエチレングリコール2(数平均分子量:8,800、融点:60℃)50質量部との混合物)
・A−エステル:ポリエチレングリコールモノステアレート(オキシエチレン基繰り返し単位数:140、融点:56.5〜61.5℃)
・A−塩:ロジン系熱可塑樹脂のナトリウム塩(「Vinsol NVX(商品名)」、Pinova社製)
・A−エマルション:ロジン系樹脂(「スーパーエステルNS−121(商品名)」、荒川化学工業株式会社製)
・C−1:アセチレングリコール系界面活性剤(上記一般式(2)において、R
21及びR
23がメチル基、R
22及びR
24がイソブチル基、A
21及びA
22が単結合である、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(オキシエチレン基繰り返し単位数:4))
・D−1:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体(HO−(EO)
a(PO)
55−(EO)
b−H(a+b=300)で示される共重合体(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド))、数平均分子量:16500、エチレンオキシド:プロピレンオキシド(モル比)=300:55))
【0138】
実施例の結果から、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた、優れた仮止め性能を有しており、また各種金属イオンの含有量が少なく、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能に優れたものである。また、樹脂成分として(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を採用することにより、各種金属イオン除去処理を行うことなく、各種金属イオンの含有量を所定範囲内とすることができ、更にイオン交換体を用いた各種金属イオン除去処理を行うことにより、各種金属イオンの含有量を低減し、極めて少量とすることができ、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能に極めて優れた接着剤とすることができる。
実施例1−2及び4−2の結果から、本発明の第2の水系仮止め接着剤は、該接着剤に含まれる成分((A)水酸基を有する熱可塑性樹脂)の選定により各種金属イオンの含有量を所定範囲内とすることができ、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂は水との親和性が高いため、水系仮止め接着剤としての安定性が得られる。また、各種金属イオンの含有量をより低減させて用いる場合は、実施例2−2、3−2、5−2及び6−2に示されるように、金属イオン除去処理を行えばよく、(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を用いることにより、より容易に金属イオンの含有量を低減させることが可能となる。
【0139】
一方、比較例1−2及び4−2の結果より、樹脂成分として(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を用いないと、各種金属イオンの合計含有量は3000ppb以下とすることができず、また比較例1−2及び4−2の接着剤をイオン交換体により各種金属イオンの含有量の低減を図ろうとしたが、比較例1−2の接着剤はナトリウム金属イオンの含有量が多すぎて所定含有量まで低減できなかった(比較例2−2及び3−2)。なお、比較例2−2の接着剤はイオン交換樹脂が析出したため含有量を測定することができなかった。また、比較例4−2の接着剤は樹脂成分としてエマルジョンタイプを用いているが、各種金属イオンがエマルジョン内に取り込まれていることから所定含有量まで低減できなかった(比較例5−2及び6−2)。
【0140】
実施例7−2〜15−2:第2の水系仮止め接着剤
第2−2表に示す配合量(質量%)で接着剤を調製した。得られた接着剤について、得られた接着剤について、上記(1−2)の方法により各種金属イオンの含有量を測定し、上記(2−2)の方法により融点を測定し、また上記(3−2)及び(4−2)の方法により仮止め性能を評価した。評価結果を第2−2表に示す。
【0141】
【表4】
註)本実施例で用いた第2−2表に示される各成分の詳細は以下の通りである。
・A−PEG2:ポリエチレングリコール(数平均分子量:1,540、融点:45℃)
・D−2:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレンオキシド−プロピレンオキシドトリブロック共重合体(HO−(EO)
a−(PO)
35−(EO)
b−H(a+b=150)で示される共重合体(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド))、数平均分子量:9,400、エチレンオキシド:プロピレンオキシド(モル比)=150:35)
【0142】
実施例7−2〜15−2の結果から、第2の水系仮止め接着剤は、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた、優れた仮止め性能を有しており、また各種金属イオンの含有量が少なく、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能に優れたものである。また、樹脂成分として(A)水酸基を有する熱可塑性樹脂を採用することにより、各種金属イオン除去処理を行うことなく、各種金属イオンの含有量を所定範囲内とすることができ、更にイオン交換体を用いた各種金属イオン除去処理を行うことにより、各種金属イオンの含有量を低減し、極めて少量とすることができ、光学機器、電子機器等に用いられる各種部材及び部品の機能低下抑制性能に極めて優れた接着剤とすることができる。
【0143】
(評価及び測定方法:第3の水系仮止め接着剤)
(1−3)25℃における表面張力の測定
各実施例及び比較例で得られた接着剤について、JIS K0064:1992に準拠して融点を測定した。具体的には、各実施例及び比較例で得られた接着剤に含まれる水分を乾燥処理した試料(該接着剤2mlを、内径40mmの小型シャーレに入れて、蓋無しの状態でクリーンオーブンで120℃、60分の条件で乾燥させた試料)及びこれらの例に用いたA−PEG1を、加熱融解(温度条件:30〜90℃)し、冷却(温度条件:−20〜30℃)したものを微細(最大粒子径:300μm)な粉末状とし、デシケーターの中で24時間乾燥したものをサンプルとして、これを毛管(ガラス製、内径0.8〜1.2mm、厚さ:0.2〜0.3mm、長さ:150mm)に充填し、これを昇温スピード1℃/分の条件で昇温を行い、目視観察で固体を認めなくなった溶融温度(粉末状の固体のサンプルが完全に液化した状態の温度)を、融点とした。
【0144】
(2−3)融点の測定
上記「(1−1)融点の測定」と同じ方法により、各実施例及び比較例で得られた接着剤について、その融点を測定した。
【0145】
(3−3)接着強さの測定
各実施例及び比較例で得られた接着剤を、一方のステンレス基板に5滴滴下して、100℃で20分の加熱乾燥をしてから、他方のステンレス基板に貼り合わせ、常温まで冷却して20分後に、該貼り合わせ基板のせん断力を、引張強度測定器を用い、JIS K6850:1999に規定の「引張せん断接着強さ試験方法」に準拠して測定した。
【0146】
(4−3)塗布性能の評価
上記「(2−1)塗布性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
(5−3)はじき防止性能の評価
上記「(3−1)塗布性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
(6−3)接着性能の評価
上記「(3−3)接着強さの測定」に基づき測定した接着強さについて、上記「(4−1)接着性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
(7−3)剥離性能の評価
上記「(5−1)剥離性能の評価」と同じ方法、同じ基準で評価した。本実施例においては、B評価以上であれば合格とした。
【0147】
実施例1−3〜14−3、比較例1−3〜4−3
第1−3表に示す配合量(質量%)で接着剤を調製した。また、(B)水を含む溶媒としては、イオン水を用いた(溶媒中の水の含有量は100質量%である。)。得られた接着剤について、上記(1−3)の方法により表面張力を測定し、上記(2−3)の方法により融点を測定し、上記(3−3)の方法により接着強さの測定し、また上記(4−3)〜(7−3)の方法により各種性能について評価した。測定結果及び評価結果を第1−3表に示す。
【0148】
【表5】
【0149】
註)本実施例で用いた第1−3表に示される各成分の詳細は以下の通りである。
・A−PEG1:ポリエチレングリコール(数平均分子量:1,000、融点:40℃、25℃における表面張力:56mN/m[20%水溶液])
・A−PEG2:ポリエチレングリコール(数平均分子量:3,100、融点:55℃、25℃における表面張力:56mN/m[20%水溶液])
・A−PEG3:ポリエチレングリコール(数平均分子量:8,800、融点:60℃、25℃における表面張力:55mN/m[20%水溶液])
・A−PEG4:ポリエチレングリコール(数平均分子量:20,000、融点:65℃、25℃における表面張力:54mN/m[20%水溶液])
・樹脂成分1:セラック樹脂(25℃における表面張力:45mN/m[20%水溶液]、「セラックKTA(商品名)」、興洋化学製)のアンモニウム中和物
・樹脂成分2:スチレンマレイン酸樹脂水溶解物(30質量%)(25℃における表面張力:41mN/m[20%水溶液]、「アラスター 703S(商品名)」、荒川化学工業製)
・C−1:アセチレングリコール系界面活性剤(上記一般式(2)において、R
21及びR
23がメチル基、R
22及びR
24がイソブチル基、A
21及びA
22が単結合である、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(オキシエチレン基繰り返し単位数:4))
・C−2:フッ素系界面活性剤(「FS−31(商品名)」、Dupont社製)
・D−1:アルキレンオキシドのブロック共重合体(エチレンオキシド−プロピレンオキシド−エチレンオキシドトリブロック共重合体(HO−(EO)
a−(PO)
55−(EO)
b−H(a+b=300)で示される共重合体(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド))、数平均分子量:16,500、エチレンオキシド:プロピレンオキシド(モル比)=300:55))
【0150】
実施例の結果から、本発明の第3の水系仮止め接着剤は、所定の表面張力を有し、かつ接着強さを有することから、接着性能と剥離性能とを兼ね備えた、優れた仮止め性能を有しており、また塗布性能にも優れていることが確認され、結果として、精度の高いシリコンウェハが得られた。また、第3の水系仮止め接着剤は、実質的に有機溶媒を含まない、水系の接着剤であることから、自然環境、作業環境等の環境への負荷を低減でき、また安全性に優れたものである。
一方、比較例1−3〜4−3では、表面張力が大きい又は小さい、また接着強さが小さいために、優れた塗布性能が得られず、シリコンウェハの仮止め用として機能を果たさないものとなった。