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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-164027(P2019-164027A)
(43)【公開日】2019年9月26日
(54)【発明の名称】X線回折装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20008 20180101AFI20190830BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20190830BHJP
【FI】
   G01N23/20008
   G01N23/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-52056(P2018-52056)
(22)【出願日】2018年3月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】刑部 剛
(72)【発明者】
【氏名】光永 徹
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001EA07
2G001EA09
2G001PA12
2G001SA02
2G001SA07
(57)【要約】
【課題】ユーザの手間を省くとともに簡易な構成でミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系の切り換えを可能にするX線回折装置を提供する。
【解決手段】X線ビームを生成するX線源110と、X線ビームを所定の発散角で通過させる第1の入射経路と、X線ビームを多層膜ミラーに反射させて、第1の入射経路を通過したX線ビームと平行に通過させる第2の入射経路と、それぞれの相対位置を維持しつつX線源110、第1の入射経路および第2の入射経路を所定の方向に移動させる移動機構と、試料に入射するX線ビームを通過させる入射スリット160と、入射スリット160に対して固定された位置で試料Sを支持する試料支持台165と、を備え、移動機構により、第1の入射経路または第2の入射経路を通過したX線ビームR1、R2のうち、入射スリット160を通過させるX線ビームを切り換える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ビームを生成するX線源と、
前記生成されたX線ビームを所定の発散角で通過させる第1の入射経路と、
前記生成されたX線ビームを多層膜ミラーに反射させて、前記第1の入射経路を通過したX線ビームと平行に通過させる第2の入射経路と、
それぞれの相対位置を維持しつつ前記X線源、前記第1の入射経路および前記第2の入射経路を所定の方向に移動させる移動機構と、
試料に入射するX線ビームを通過させる入射スリットと、
前記入射スリットに対して固定された位置で試料を支持する試料支持台と、を備え、
前記移動機構により、前記第1の入射経路または前記第2の入射経路を通過したX線ビームのうち、前記入射スリットを通過させるX線ビームを切り換えることを特徴とするX線回折装置。
【請求項2】
前記第1の入射経路は、前記生成されたX線ビームを所定の発散角に絞る第1のアパーチャ開口および前記第1のアパーチャ開口を通過したX線ビームを選択する第1の選択スリット開口で形成され、
前記第2の入射経路は、前記生成されたX線ビームを前記多層膜ミラーに向けて絞る第2のアパーチャ開口、前記多層膜ミラーおよび前記多層膜ミラーで反射されたX線ビームを選択する第2の選択スリット開口で形成されることを特徴とする請求項1記載のX線回折装置。
【請求項3】
前記多層膜ミラーは、前記生成されたX線ビームを平行ビーム、集光ビームまたは発散ビームに整形するものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のX線回折装置。
【請求項4】
前記入射スリットを通過したX線ビームを絞るコリメータを、前記入射スリットに対して固定された姿勢で保持するコリメータホルダを更に備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のX線回折装置。
【請求項5】
前記移動機構は、前記入射スリットを通過させるX線ビームを切り換える指示を受けたときに、前記X線源、前記第1の入射経路および前記第2の入射経路を移動させる電動軸を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線回折装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に照射するX線ビームを切り換えることができるX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置の入射光学系には、ミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系があり、それぞれの特長を生かしたアプリケーションが知られている。そして、近年、in-situ測定等で光学系を迅速に切り換えて連続で測定するニーズが増えており、これに対しては、いわゆるCBO(クロスビームオプティクス)が開発されている(例えば特許文献1参照)。CBOとは、ミラーを使用するためにX線を取り込む窓とミラーを使用しないでX線を試料に導く窓との2つの光路を備え、片方の光路を遮ってもう一方を通す選択スリットを使用するビーム切換機構である。
【0003】
図5(a)〜(c)は、それぞれCBOによる従来の入射光学系を示す模式図である。図5(a)に示すように、CBOを用いれば、ミラー935を使用しないX線ビームr1とミラー935を使用するX線ビームr2とを切り換えて試料Sに照射できる。具体的には、図5(b)、(c)に示すように、2種類の選択スリット941、942を変更することで、一方のX線ビームを遮断し、他方を通過させることができる。なお、図5(b)、(c)では、機構を単純化して選択スリット941、942を強調している。
【0004】
図6は、コリメータを用いた場合のCBOによる従来の入射光学系を示す模式図である。CBOによる入射光学系でコリメータを用いる場合には、X線ビームr1のためのコリメータ991とX線ビームr2のためのコリメータ992のそれぞれの位置および方向が異なる。したがって、コリメータ991、992それぞれを支持する2つのコリメータホルダが必要となる。
【0005】
このようなCBOを用いた装置以外にも、光学ユニットの回転動作により入射光学系を選択する装置、3系列のX線光路を複数の開口を有するスリット装置の回転により切り換える装置および3系列のX線光路をX線光学アセンブリのキャリッジを移動することで切り換える装置が知られている(例えば特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3548556号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0043965号明細書
【特許文献3】特許第3757199号公報
【特許文献4】特開2017−151082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のCBOのようなX線ビームの切り換え技術においては、ユーザが手作業でスリット交換することを前提としている。そして、仮に自動でスリットを変えるとしても選択スリットの位置および幅を変更するための電動軸を必要とし、複雑な構成を要してしまう。したがって、X線回折装置において2つの入射経路を介したX線ビームをユーザの手間をかけずに簡易な構成で可能にすることが求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ユーザの手間を省くとともに簡易な構成でミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系の切り換えを可能にするX線回折装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のX線回折装置は、X線ビームを生成するX線源と、前記生成されたX線ビームを所定の発散角で通過させる第1の入射経路と、前記生成されたX線ビームを多層膜ミラーに反射させて、前記第1の入射経路を通過したX線ビームと平行に通過させる第2の入射経路と、それぞれの相対位置を維持しつつ前記X線源、前記第1の入射経路および前記第2の入射経路を所定の方向に移動させる移動機構と、試料に入射するX線ビームを通過させる入射スリットと、前記入射スリットに対して固定された位置で試料を支持する試料支持台と、を備え、前記移動機構により、前記第1の入射経路または前記第2の入射経路を通過したX線ビームのうち、前記入射スリットを通過させるX線ビームを切り換えることを特徴としている。
【0010】
このように、X線源、第1の入射経路および第2の入射経路を所定の方向に移動させることで、各経路を通過した互いに平行なX線ビームのいずれかを試料に照射している。その結果、ユーザの手間を省くとともに簡易な構成でミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系の切り換えを可能にしている。
【0011】
(2)また、本発明のX線回折装置は、前記第1の入射経路が、前記生成されたX線ビームを所定の発散角に絞る第1のアパーチャ開口および前記第1のアパーチャ開口を通過したX線ビームを選択する第1の選択スリット開口で形成され、前記第2の入射経路が、前記生成されたX線ビームを前記多層膜ミラーに向けて絞る第2のアパーチャ開口、前記多層膜ミラーおよび前記多層膜ミラーで反射されたX線ビームを選択する第2の選択スリット開口で形成されることを特徴としている。
【0012】
このようにアパーチャ、多層膜ミラーおよび選択スリットで第1の入射経路と第2の入射経路を構成できる。また、試料位置で各ビームがクロスされるビームの切り換え装置(CBO)に対してハードウェアの変更はアパーチャと選択スリットだけなので、CBOに対して低コストで変更が可能である。
【0013】
(3)また、本発明のX線回折装置は、前記多層膜ミラーが、前記生成されたX線ビームを平行ビーム、集光ビームまたは発散ビームに整形するものであることを特徴としている。これにより、第2の入射経路によるX線ビームとして、平行ビーム、集光ビームおよび発散ビームを利用できる。
【0014】
(4)また、本発明のX線回折装置は、前記入射スリットを通過したX線ビームを絞るコリメータを、前記入射スリットに対して固定された姿勢で保持するコリメータホルダを更に備えることを特徴としている。これにより、切り換える2つのX線ビームに対して1つのコリメータホルダを共用できる。
【0015】
(5)また、本発明のX線回折装置は、前記移動機構が、前記入射スリットを通過させるX線ビームを切り換える指示を受けたときに、前記X線源、前記第1の入射経路および前記第2の入射経路を移動させる電動軸を有することを特徴としている。
【0016】
このように指示を受けてX線ビームの切り換えが可能なので、ユーザが手作業でスリット交換することなく、電動軸の制御だけで入射光学系を自動切換できる。試料位置で各ビームがクロスされるビームの切り換え装置に対して、電動軸を新たに追加することなくビームの自動切換えが可能である。また、自動切換えが可能となるので、2つの入射光学系を自動で切り換えた連続測定もできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザの手間を省くとともに簡易な構成でミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系の切り換えを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のX線回折装置の構成を示す平面図である。
図2】(a)、(b)第1および第2の入射経路のそれぞれを介したX線ビームを試料に照射した場合の入射光学系を示す模式図である。
図3】(a)、(b)コリメータを用いて第1および第2の入射経路のそれぞれを介したX線ビームを試料に照射した場合の入射光学系を示す模式図である。
図4】X線回折システムを示すブロック図である。
図5】(a)〜(c)それぞれCBOによる従来の入射光学系を示す模式図である。
図6】コリメータを用いた場合のCBOによる従来の入射光学系を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
[X線回折装置の構成]
図1は、X線回折装置100の構成を示す平面図である。図1に示すように、X線回折装置100は、X線源110、アパーチャ120、多層膜ミラー135、選択スリット140、入射スリット160、コリメータホルダ163、試料支持台165、受光スリット180およびX線検出器190を備えている。図1の例では、第1の入射経路を通過したX線ビームR1が試料Sに照射されている。入射経路の詳細は後述する。
【0021】
X線源110は、X線ビームを生成する。X線源110は、X線焦点として、X線管におけるターゲット上の電子線照射領域により形成され、X線の出射方向に垂直な方向に細長く延びている。X線源110と試料Sとの間には、X線源110の側から順に、アパーチャ120と、多層膜ミラー135と、選択スリット140と、入射スリット160が配置されている。
【0022】
アパーチャ120は、アパーチャスリット板で形成され、不要なX線が入射経路に入るのを防ぎ、散乱X線の影響を少なくしている。アパーチャ120には第1開口120a(第1のアパーチャ開口)と第2開口120b(第2のアパーチャ開口)が形成されていて、第1開口120aを通過したX線ビームは、所定の発散角で進む。一方、第2開口120bを通過したX線ビームは多層膜ミラー135の反射面で反射して整形されたビームとなる。アパーチャ120は多層膜ミラー135の端面にネジで固定されていて両者は一体化されていることが好ましい。なお、アパーチャ120はX線源110から近い位置にあるので、入射スリット160で規定されるX線ビームの一部がアパーチャ120で遮られることはない。
【0023】
多層膜ミラー135は、その種類に応じて、アパーチャ120の第2開口120bを通過したX線ビームを平行ビーム(PB)、集光ビーム(CB)または発散ビーム(DB)に整形する。配置された多層膜ミラー135の種類によって成形されるビームの種類が異なる。多層膜ミラー135の長手方向の中心は、X線源110を中心とした所定の半径の円の上にある。
【0024】
選択スリット140は、第1開口140a(第1の選択スリット開口)および第2開口140b(第2の選択スリット開口)を有しており、各開口は、第1の入射経路を通過したX線ビームR1の方向と第2の入射経路を通過したX線ビームR2の方向が平行になる位置に配置されている。
【0025】
例えば、平行ビーム生成用の多層膜ミラー135の反射面は放物面の形状をしており、この放物面の焦点位置にX線焦点が来るように、多層膜ミラー135が配置されている。したがって、放物面で反射したX線ビームは平行ビームとなる。反射面は、重元素と軽元素を交互に積層した人工多層膜からなり、その積層周期は、放物面に沿って連続的に変化している。これにより、特定の波長のX線(この実施例ではCuKα線)について、反射面上のすべての位置でブラッグの回折条件を満足する。この場合の多層膜ミラー135は特定波長のX線だけを選択的に反射して平行ビームとするので、モノクロメータである。
【0026】
例えば、集中法と平行ビーム法を切り換え可能にするには、多層膜ミラー135で反射した平行ビーム法によるX線ビームR2が集中法によるX線ビームR1と平行方向に出射されるように多層膜ミラー135を位置決めする必要がある。多層膜ミラー135はCuKα線用に設計されたもので、多層膜ミラー135の長手方向の中心(多層膜ミラー135の中心)から所定の距離のところに放物面の焦点がある。したがって、X線焦点から所定の距離のところに多層膜ミラー135の中心が来るように放物面ミラーを配置すればよい。
【0027】
入射スリット160は、一つの開口160aを有し、試料Sに入射するX線ビームを通過させる。コリメータホルダ163は、入射スリット160を通過したX線ビームを絞るコリメータを、入射スリット160に対して固定された姿勢で保持する。これにより、切り換える2つのビームに対して1つのコリメータホルダ163を共用できる。
【0028】
入射光学系支持台105には、X線源110、アパーチャ120、多層膜ミラー135、選択スリット140、入射スリット160が搭載されている。このうち、X線源110、アパーチャ120、多層膜ミラー135および選択スリット140は移動ユニット150を構成しており、移動機構により移動ユニット150ごと各部の相対位置を維持したまま移動が可能である。集中法と平行ビーム法とを切り換えても、移動ユニット150の各部の相対的な位置関係は不変であり、入射スリット160と試料Sの中心との相対的な位置関係も不変である。
【0029】
移動機構は、入射スリット160を通過させるX線ビームを切り換える指示を受けたときに、X線源110、第1の入射経路および第2の入射経路を移動させる電動軸を有する。そして、それぞれの相対位置を維持しつつX線源110、第1の入射経路および第2の入射経路を所定の方向に移動させる。
【0030】
このように指示を受けてX線ビームの切り換えが可能なので、ユーザが手作業でスリット交換することなく、電動軸の制御だけで入射光学系を自動切換し、連続測定できる。試料位置で各ビームがクロスされるビームの切り換え装置に対して、電動軸を新たに追加することなくビームの自動切換えが可能である。また、自動切換えが可能となるので、2つの入射光学系を自動で切り換えた連続測定もできる。また、入射スリット160の前段に設置可能なチャンネルカット結晶をそのまま活かせる。
【0031】
入射光学系支持台105はゴニオメータの回転中心の回りを回転でき、検出器支持台175もゴニオメータの回転中心の回りを回転できる。集中法の測定をするときは、試料Sを静止したままで、入射光学系支持台105と検出器支持台175を互いに逆方向に同じ角速度で回転させて、回折パターンを測定できる。
【0032】
ゴニオメータの回転半径を半径とする集中円の上に、受光スリット180とX線源110とが配置されている。試料支持台165は、入射スリット160に対して固定された位置で、台上に試料Sを載せて支持しており、ゴニオメータの回転中心の回りを回転できる。試料Sは、基本的にX線ビームの切り換えに応じて適宜切り換えられるが、同一の試料Sを切り換えたX線で測定してもよい。受光スリット180とX線検出器190は検出器支持台175に載置され、検出器支持台175もゴニオメータの回転中心の回りを回転できる。
【0033】
X線回折装置100は、移動機構を用いて集中法の入射経路と平行ビーム法の入射経路の開放と遮断を切り換えるので、経路の切り換えに伴って選択スリットの変更の必要がなく、集中法と平行ビーム法とを自動で切り換えることができる。また、平行ビーム法では放物面多層膜ミラーを用いることができ、その場合には高分解能で強度の大きな平行ビームが得られる。
【0034】
多層膜ミラー135の中心が円(X線焦点を中心とする半径上記所定の距離の円)の上に位置する限り、多層膜ミラー135をどこに置いても、多層膜ミラー135によって平行ビームが得られる。
【0035】
(入射光学系)
図2(a)、(b)は、第1および第2の入射経路のそれぞれを介したX線ビームを試料Sに照射した場合の入射光学系を示す模式図である。
【0036】
第1の入射経路(集中法の経路)は、生成されたX線ビームを所定の発散角で通過させる。第1の入射経路は、生成されたX線ビームを所定の発散角に絞るアパーチャ120の第1開口120aおよびその第1開口120aを通過したX線ビームを選択する選択スリット140の第1開口140aで形成されている。
【0037】
第2の入射経路(例えば平行ビーム法の経路)は、生成されたX線ビームを多層膜ミラー135に反射させて、第1の入射経路を通過したX線ビームR1と平行に通過させる。第2の入射経路は、生成されたX線ビームを多層膜ミラー135に向けて絞るアパーチャ120の第2開口120b、多層膜ミラー135および多層膜ミラー135で反射されたX線ビームを選択する選択スリット140の第2開口140bで形成されている。
【0038】
このようにアパーチャ120、多層膜ミラー135および選択スリット140で第1の入射経路と第2の入射経路を構成できる。また、試料位置で各ビームがクロスされるビームの切り換え装置(CBO)が使用されている場合には、この装置をベースにハードウェアの面ではアパーチャ120と選択スリット140だけ変更すればよいので、低コストで対応できる。
【0039】
X線回折装置100は、移動機構により、第1の入射経路または第2の入射経路を通過したX線ビームR1、R2のうち、入射スリット160を通過させるX線ビームを切り換える。このように、X線源110、第1の入射経路および第2の入射経路を所定の方向に移動させることで、各経路を通過した互いに平行なX線ビームのいずれかを試料Sに照射している。その結果、ユーザの手間を省くとともに簡易な構成でミラーを使用する光学系とミラーを使用しない光学系の切り換えを可能にしている。
【0040】
[X線回折システムの構成]
上記のX線回折装置100は、PC等の処理装置により操作およびデータ読み取りが可能になっている。図4は、X線回折システム10を示すブロック図である。X線回折システム10は、処理装置50およびX線回折装置100で構成されている。図4に示すように、処理装置50は、プロセッサ60およびメモリ70を備え、キーボード等の操作部からの入力を受け付け、ディスプレイ等へ読み取ったデータやその処理結果を出力できる。
【0041】
処理装置50は、有線または無線によりX線回折装置100に接続されている。処理装置50は、X線源110に対するX線発生の制御、ゴニオメータ170の駆動およびX線検出器190に対するX線検出データの読み取りが可能になっている。また、処理装置50は、操作または何らかの処理の結果を受け、移動機構155に指示を与えて移動ユニット150を移動させ、X線ビームの切り換えを自動で行なうことができる。
【0042】
[X線回折装置の使用方法]
次に、このX線回折装置100の使用方法を説明する。一例として、集中法と平行ビーム法とで切り換える場合を説明する。
【0043】
(セッティング)
まず、入射光学系のセッティングを行なう。X線源110と多層膜ミラー135は共通の調整台の上に載っている。多層膜ミラー135とX線源110の相対位置関係は、あらかじめ所定の設計上の位置に位置決めしておく。アパーチャ120、多層膜ミラー135および選択スリット140は、集光ビーム法のX線ビームと平行ビーム法のX線ビームが互いに平行になるように設定される。
【0044】
多層膜ミラー135は、その入射X線に対する出射X線のなす角度が特定の角度δになるように設計されている。この角度δは、多層膜ミラー135の反射面でX線が回折するときのブラッグ角θMの2倍に等しい。多層膜ミラー135はCuKα線を使うように設計されている。
【0045】
多層膜ミラー135からの平行ビームが集中法によるX線ビームと平行方向に出射されるようにするには、例えばアパーチャ120の第1開口120aと選択スリット140の第1開口140aとで設定されるX線ビームの方向と、アパーチャ120の第2開口120bで設定されるX線ビームの方向とのなす角がδになるように設定すればよい。
【0046】
(集中法)
次に、集中法によるX線回折測定を説明する。図2(a)に示す配置では、X線源110から出射されたX線のうち、アパーチャ120の第1開口120aを通過するX線ビームは、選択スリット140の第1開口140aを通過してから、入射スリット160で所定の発散角に制限されて、試料Sに入射する。
【0047】
図2(a)に示す例では、集中法用のX線ビームだけが入射スリット160の開口を通過する位置に移動ユニット150が配置されている。これにより、集中法で試料SのX線回折測定ができる。このX線ビームは入射スリット160で所定の発散角に制限されてから、試料Sの表面に入射する。
【0048】
一方、アパーチャ120の第2開口120bを通過したX線ビームは多層膜ミラー135で反射する。しかし、そこから出射される平行ビームは入射スリット160で遮られて試料Sには到達しない。
【0049】
試料Sからの回折X線は、受光スリット180を通過してX線検出器190で検出される。その際、入射光学系支持台105と検出器支持台175を互いに逆方向に同じ角速度で連動して回転することで、X線回折パターンが得られる。
【0050】
(平行ビーム法)
集中法から平行ビーム法に切り換えるには、第2の入射経路を通過したX線ビームが入射スリット160の開口160aを通る位置まで移動ユニット150を移動させる。図2(b)に示すように、平行ビーム法用のX線ビームは、アパーチャ120の第2開口120bを通過し、多層膜ミラー135で反射して平行ビームとなる。この平行ビームだけが入射スリット160の開口160aを通過する。一方、集中法用のX線ビームは入射スリット160に遮られる。入射スリット160については、入射スリット160の開口160aから試料Sまでの経路が、第1または第2の入射経路を経たX線ビームR1、R2に平行になるように設定しておく。
【0051】
この場合、これで集中法から平行ビーム法への切り換えが完了する。すなわち、入射スリット160および試料Sの中心位置を動かさずに、X線源110、アパーチャ120、選択スリット140を動かすだけで、集中法から平行ビーム法への切り換えが完了する。光学系のセッティングをやり直す必要はない。集中法から平行ビーム法に切り換えるときに、移動ユニット150は各部の相対位置を維持したまま自動で駆動でき、入射スリット160と試料支持台165は固定されているので、最初に設定したセッティング状態が崩れることがない。なお、平行ビーム法から集中法への切り換えの移動方向が逆になり、その他は同様である。
【0052】
平行ビーム法でX線回折測定をするには、受光スリット180の開口幅を非常に広くするのが好ましい。また、検出するX線強度を高めるために、X線検出器190は試料Sに近づけるのが好ましい。したがって、X線検出器190は検出器支持台175の長手方向にスライドできるようにするのが好ましい。
【0053】
(コリメータ使用時)
コリメータを利用する場合について説明する。図3(a)、(b)は、コリメータ164を用いて第1および第2の入射経路のそれぞれを介したX線ビームを試料に照射した場合の入射光学系を示す模式図である。図3(a)、(b)に示すように、コリメータホルダは、入射スリットに対してコリメータ164を固定された姿勢で保持しており、X線ビームの切り換えに対して一つのコリメータホルダがあれば十分である。なお、入射スリット160の前段にチャネルカットモノクロメータを設置して用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 X線回折システム
50 処理装置
60 プロセッサ
70 メモリ
100 X線回折装置
105 入射光学系支持台
110 X線源
120 アパーチャ
120a アパーチャの第1開口
120b アパーチャの第2開口
135 多層膜ミラー
140 選択スリット
140a 選択スリットの第1開口
140b 選択スリットの第2開口
150 移動ユニット
155 移動機構
160 入射スリット
160a 入射スリットの開口
163 コリメータホルダ
164 コリメータ
165 試料支持台
170 ゴニオメータ
175 検出器支持台
180 受光スリット
190 X線検出器
R1 X線ビーム
R2 X線ビーム
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6