【実施例】
【0028】
実施例及び比較例について説明する。まず、バッテリーカバー20の樹脂製基材を成形する。
図7の表に示す樹脂の種類にて、各実施例及び各比較例のバッテリーカバー20の基材である樹脂層26を加熱溶融させて金型内に射出注入し、冷却・固化することで、射出成形した。バッテリーカバー20は天井部22とその周縁部でつながるカバー壁部24とからなり、上記カバーは、その内部に収納するバッテリー及びその電気部品等の形状にあわせてわずかに凹凸を有し、その凹凸以外の部分は、略平坦な形状をしている。この平坦部分を一般部と呼び、一般部の厚みは約2mmであった。
【0029】
次に、バッテリーカバーの基材に粒状熱硬化性プラスチック研磨剤(粒子径400〜500μ)を0.6MPaの圧力で噴射してブラスト処理を行い、この樹脂基材26の粗面側に金属溶射する。金属溶射は、金属溶射装置を使用し、メイン吐出空気圧力0.4MPa、サブ吐出空気圧力0.45MPa、ワイヤー供給速度は4.7m/min、ワイヤー径1.6mmの亜鉛線を用いアーク照射を行った。溶射電圧は22V、電流を80A〜150Aで、金属皮膜を形成した。金属溶射量として、一般部における目付量を表1に示す。
【0030】
成形加工性、電磁波シールド性、重量等については、以下のようにの評価した。
(成形加工性)
成形加工性は、基材の樹脂成形時に引けや成形不良があるものは×、また、金属溶射後、樹脂層が変形・歪があるものは×とし、樹脂成型時の樹脂基材の成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もないものを○とした。
【0031】
(電磁波シールド性)
金属溶射後のバッテリーカバー20成形品の天井部22から、100mm×100mmの試験片を切り出し、試験片の重量を測定し、1m
2当たりの重量(g)及び溶射金属の塗布目付(g/m
2)を求めた。さらに、溶射後の試験片をKEC法に準拠して近傍電界10MHz〜1GHzの領域における電磁波シールド性(電界シールド・磁界シールド)を測定し、100MHzにおける電界シールド及び磁界シールドの値を表1に示す。
電界シールド、磁界シールド共に、0db以下から−30db未満を×、−30db以下から−40db未満を△(許容範囲内)、−40db以下から−100db未満を○、で評価した。1m
2当たりの重量は、5000g以上を×、4000g以上〜5000g未満を△、3000g以上〜4000g未満を○、2000g以上〜3000g未満を◎、と評価した。なお、磁界シールドについては、樹脂を主材とした軽量化材料で高いレベルを実現することが難しいため、−30db以下から−40db未満は△で許容範囲内である。
【0032】
(総合評価)
成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれかの項目において×があるものは、総合判定で×と評価し、成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれかの項目において×がなく△があるものは、総合判定で△と評価し、成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても×及び△のないものは、総合判定で○と評価する。
【0033】
実施例1では、樹脂としてABSを用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバー20の基材を得た。バッテリーカバーの天井部20の上面側及びカバー壁部24の外表面側をブラスト処理した。このブラスト処理面に対して亜鉛線を用いアーク照射を行った。金属溶射後の天井部20から試験片を切り出し、樹脂基材26の上に金属層28が積層されているのを確認した。溶射金属の目付は72g/m
2であり、1m
2当たりの重量は2192gであった。基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、また、金属溶射後、樹脂層26が変形・歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−61db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−31db(△)であり許容できる。成形加工性、電界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であったが、磁界シールドが△であり、総合判定は△であった。
【0034】
実施例2では、溶射金属の目付を95g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2215gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−68db(○)であったが、100MHzにおける磁界シールドは−37db(△)であり許容できる。成形加工性、電界シールド、1m
2当たりの重量の項目は○であったが、磁界シールドが△であり、総合判定は△であった。
【0035】
実施例3では、溶射金属の目付を100g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2220gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−72db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−41db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0036】
実施例4では、溶射金属の目付を120g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2240gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−78db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−44db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0037】
実施例5では、溶射金属の目付を150g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2270gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−82db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−49db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0038】
実施例6では、溶射金属の目付を270g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層を溶射により積層した。樹脂層の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2390gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−85db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−59db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0039】
実施例7では、樹脂としてPP(ポリプロピレン)を用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバー20の基材を成形し、溶射金属の目付を320g/m
2とした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m
2当たりの重量は2140gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−92db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−80db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m
2当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0040】
比較例1では、樹脂としてABS樹脂に金属であるステンレス繊維を1.8重量%混入させた金属繊維入り樹脂を用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバーの基材を得た。ブラスト処理および金属溶射は行わす、1m
2当たりの重量は2340gであった。基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、また、金属溶射後、樹脂層が変形・歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは−64db(○)であったが、100MHzにおける磁界シールドは−22db(×)であった。成形加工性、電界シールド、1m
2当たりの重量の項目は○であったが、磁界シールドが×であり、総合判定は×であった。
【0041】
比較例2では、0.7mmの厚みの鋼板を用いて、バッテリーカバーの基材を得た。ブラスト処理および金属溶射は行わず、1m
2当たりの重量は5495gであった。鋼板からバッテリーカバーを得るには、大型のプレス機と溶接ロボット等の大型設備が必要となる点で△と評価する。100MHzにおける電界シールドは−93db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは−81db(○)であった。成形加工性は△であり、電界シールド、磁界シールドが○であったが、1m
2当たりの重量の項目は×であり、総合判定は×であった。
【0042】
以上のように、電磁波シールド性は、KEC法(100MHz)で電界シールドと磁界シールドについて確認した。各実施例の電界シールド性は100MHzにおいて、−61db〜−92dbであった。また磁界シールド性は100MHzにおいて、−31db〜−80dbであった。これにより、本発明は電界シールドと磁界シールドの両方が優れ、電磁波シールド性が優れており、また成形加工性、1m
2当たりの重量(軽量化)にも優れている。