(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-166507(P2019-166507A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】セレン含有排水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20060101AFI20190906BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20190906BHJP
C02F 1/20 20060101ALI20190906BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20190906BHJP
C02F 9/08 20060101ALI20190906BHJP
C02F 9/04 20060101ALI20190906BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
C02F1/58 H
C02F1/20 A
C02F1/52 K
C02F9/08
C02F9/04
C02F1/58 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-57869(P2018-57869)
(22)【出願日】2018年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】塚本 敏男
【テーマコード(参考)】
4D015
4D037
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA22
4D015BA24
4D015CA20
4D015DA13
4D015DB01
4D015DC08
4D015EA12
4D015FA01
4D015FA02
4D015FA24
4D015FA25
4D037AA11
4D037AB11
4D037BA23
4D037BB05
4D037CA08
4D037CA09
4D037CA14
4D038AA08
4D038AB59
4D038AB70
4D038AB82
4D038BA04
4D038BB03
4D038BB13
4D038BB15
4D038BB18
4D050AA13
4D050AB59
4D050BA01
4D050BA10
4D050BD02
4D050BD06
4D050CA03
4D050CA13
4D050CA16
(57)【要約】
【課題】セレンの還元反応の妨害イオンを含む排水からセレンを効率よく除去することができる排水処理方法及び排水処理装置を提供する。
【解決手段】セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理工程と、軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去工程と、軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去工程と、を含むセレン含有排水の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理工程と、
軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去工程と、
軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去工程と、
を含むセレン含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記軟化処理工程は、前記セレンを含有する排水に、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加して、排水のpHを中性域乃至弱アルカリ性域に調整して、排水中の硬度成分を難溶性の炭酸塩として沈殿させて除去することを含む、請求項1に記載のセレン含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記炭酸除去工程は、軟化処理後のセレンを含有する排水を曝気しながら、当該排水のpHを弱酸性域乃至中性域に調整して、排水から炭酸ガスを追い出すことを含む、請求項1又は2に記載のセレン含有排水の処理方法。
【請求項4】
前記セレン除去工程は、炭酸除去後の排水のpHを弱アルカリ性域に調整して、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加して、セレンを不溶化させて沈殿させることを含む、請求項1〜3のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理方法。
【請求項5】
セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理部と、
軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去部と、
軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去部と、
を含むセレン含有排水の処理装置。
【請求項6】
前記軟化処理部は、pH調整手段と、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加する炭酸添加手段と、を具備する軟化処理槽である、請求項5に記載のセレン含有排水の処理装置。
【請求項7】
前記炭酸除去部は、曝気装置及び酸添加装置を具備し、軟化処理されたセレンを含有する排水を曝気しながら、排水のpHを弱酸性域乃至中性域に調整して、当該排水から炭酸ガスを追い出す炭酸除去槽である、請求項5又は6に記載のセレン含有排水の処理装置。
【請求項8】
前記セレン除去部は、pH調整手段と、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加するセレン除去剤添加手段と、を具備するセレン還元反応槽である、請求項5〜7のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理装置。
【請求項9】
前記セレン除去部は、セレン還元反応槽、凝集反応槽及び固液分離槽を具備し、
前記セレン還元反応槽は、pH調整手段と、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加するセレン除去剤添加手段と、を具備し、
前記凝集反応槽は、凝集剤添加手段を具備する、請求項5〜7のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレン含有排水の処理方法及び処理装置に関し、特にセレンと炭酸とを含有する排水中のセレンを除去する、セレン含有排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは種々の工業分野で使用されているが、イオン化傾向は小さいが、電気陰性度は大きく、各種の元素との反応性が大きいため、排水中からのセレンの除去は容易ではない。環境省の定める水質汚濁防止法に基づく排水基準では、一律排水基準としてセレンの濃度は0.1mg/L未満とすることが定められているが、達成が困難であるため、セレン化合物製造業など特定の業種については一律排水基準よりも緩やかな暫定基準が設けられている。セレンは排水中で種々の形態で存在し、溶解性セレンとしては亜セレン酸[SeO
32−(IV)]及びセレン酸[SeO
42−(VI)]があり、水不溶性セレンとしては金属態セレン(Se
0)がある。亜セレン酸Se(IV)に対しては水酸化鉄(III)による共沈処理が有効であるが、セレン酸Se(VI)に対しては効率が低く、10%以下の除去率に留まる(非特許文献1)。
【0003】
近年は比較的一般的な化学薬品である第一鉄[Fe(II)]を用いる還元反応が注目されている。たとえば、セレン酸イオンを含有する排水にFeSO
4・7H
2O又はFeCl
2・4H
2Oを添加し、セレン酸イオンを0価の金属セレンまで還元する方法が提案されている。
【0004】
しかし、この方法はセレン濃度を0.1mg/L未満にするために多量の硫酸第一鉄や塩化第一鉄を必要とするため、沈殿する鉄塩も多量になり、現実には適用困難である。そこで、酸を添加してpHを調整した後に鉄金属充填層に通水し、溶出した二価の鉄イオンによりセレン酸を下記反応式に従って還元処理する方法が提案されている。
【0005】
【化1】
【0006】
還元されたセレンを含む被処理水は、アルカリを添加してpHを7以上とすることにより、水中の鉄イオンを水不溶性の水酸化鉄とし、還元されたセレンを水酸化鉄のフロックに吸着させて凝集分離する。
【0007】
しかし、この方法は酸の注入量が過剰になりやすく、鉄溶出量が過剰となり、鉄金属粒子の消耗量及び沈殿量が多くなるという問題があった。そこで、セレンを含む火力発電所排水に、塩酸を添加してpHを4に調整してアルカリ度成分を除去し、次いで排水にさらに所定量の塩酸を注入してpHを2に調整したのち鉄金属充填層に通水して還元処理し、次いで水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整して水中の二価の鉄イオン及び三価の鉄イオンを水不溶性の水酸化第一鉄及び水酸化第二鉄とし、鉄フロックを形成させて、還元されたセレンを吸着させ、凝集分離する方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法は、排水のpHを測定しながら、酸を2段階に分けて注入する必要があり、さらに鉄金属粒子を充填した鉄金属充填層を設ける必要があるため、装置構成が複雑となる。
【0009】
また、実際の排水にはセレン以外に様々な塩類やイオンが共存し、セレンの還元反応を妨害するため、多量のFe(II)塩が必要となることや、0.1mg/L未満にまでセレンを除去できないなどの問題がある。たとえば、セレン除去を阻害する難分解性物質として過硫酸などの酸化性物質が知られている。鉄が溶解する際に放出する電子を難分解性物質が受け取り還元されるため、セレンと難分解性物質との還元反応が競合し、セレン除去が阻害されると考えられることから、炭酸カルシウムを添加してpH8〜10で中和処理した後に凝集沈殿処理を行い、COD成分及び/又は硫酸イオンの濃度を低減する前処理を行ない、次いで滞留還元法によりセレンを除去する方法が提案されている(特許文献2)。
【0010】
一方、排水中にカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分が高濃度で含有されている場合、処理設備へのスケール発生のリスクが高まるため、これらスケール発生の原因となる硬度成分を除去する軟化処理が行われることがある。軟化処理として一般的に用いられているのは、カルシウムやマグネシウムを難溶性の炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなどの炭酸塩として沈殿させて固液分離する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3240940号公報
【特許文献2】特許第5579414号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規(水質編)通産省環境立地局監修
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、セレン及び硬度成分を含む排水からセレン及び硬度成分を効率よく除去することができるセレン含有排水の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究の結果、硬度成分を除去するための軟化処理に用いる炭酸イオン[CO
32−]、炭酸水素イオン[HCO
3−]、炭酸塩[MCO
3]、炭酸水素塩[MHCO
3]、炭酸[H
2CO
3]などがセレンの還元反応の妨害となることを知見し、軟化処理、炭酸除去処理及びセレン除去処理の順番に排水の処理を行うことにより、セレン及び硬度成分を含有する排水を軟化処理してセレンを排水基準濃度の0.1mg/L未満にまで除去することができる本発明を完成させた。
【0015】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理工程と、
軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去工程と、
軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去工程と、
を含むセレン含有排水の処理方法。
[2]前記軟化処理工程は、前記セレンを含有する排水に、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加して、排水のpHを中性域乃至弱アルカリ性域に調整して、排水中の硬度成分を難溶性の炭酸塩として沈殿させて除去することを含む、前記[1]に記載のセレン含有排水の処理方法。
[3]前記炭酸除去工程は、軟化処理後のセレンを含有する排水を曝気しながら、当該排水のpHを弱酸性域乃至中性域に調整して、排水から炭酸ガスを追い出すことを含む、前記[1]又は[2]に記載のセレン含有排水の処理方法。
[4]前記セレン除去工程は、炭酸除去後の排水のpHを弱アルカリ性域に調整して、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加して、セレンを不溶化させて沈殿させることを含む、前記[1]〜[3]のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理方法。
[5]セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理部と、
軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去部と、
軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去部と、
を含むセレン含有排水の処理装置。
[6]前記軟化処理部は、pH調整手段と、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加する炭酸添加手段と、を具備する軟化処理槽である、前記[5]に記載のセレン含有排水の処理装置。
[7]前記炭酸除去部は、曝気装置及び酸添加装置を具備し、軟化処理されたセレンを含有する排水を曝気しながら、排水のpHを弱酸性域乃至中性域に調整して、当該排水から炭酸ガスを追い出す炭酸除去槽である、前記[5]又は[6]に記載のセレン含有排水の処理装置。
[8]前記セレン除去部は、pH調整手段と、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加するセレン除去剤添加手段と、を具備するセレン還元反応槽である、前記[5]〜[7]のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理装置。
[9]前記セレン除去部は、セレン還元反応槽、凝集反応槽及び固液分離槽を具備し、
前記セレン還元反応槽は、pH調整手段と、セレンの還元剤として作用する鉄を含むセレン除去剤を添加するセレン除去剤添加手段と、を具備し、
前記凝集反応槽は、凝集剤添加手段を具備する、前記[5]〜[7]のいずれか1に記載のセレン含有排水の処理装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セレン含有排水を軟化させると共に、従来達成困難であったセレンの排水基準である0.1mg/L未満にまで排水からセレンを除去することができる。
本発明の処理装置は、既存の装置に追加して設置することができるため、大規模な設置工事が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の排水処理装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の処理方法は、亜セレン酸イオン[SeO
32−(IV)]及びセレン酸イオン[SeO
42−(VI)](これらをまとめて「セレン」ということもある)、並びに炭酸イオン[CO
32−]、炭酸水素イオン[HCO
3−]、炭酸[H
2CO
3]、炭酸塩[MCO
3]及び炭酸水素塩[MHCO
3](Mは金属元素である)(これらをまとめて「炭酸」ということもある)を含む排水からのセレン除去に効果がある。本発明者らは、第一鉄イオン又は二価鉄イオン[Fe
2+]による亜セレン酸イオン[SeO
32−]及びセレン酸イオン[SeO
42−]の還元除去方法において、特にセレン酸イオン[SeO
42−]の除去が困難である事象を鋭意研究し、排水中に炭酸が存在する場合に、セレンの除去が困難となる事象を確認した。この理由は詳らかではないが、炭酸イオン[CO
32−]が第一鉄イオン[Fe
2+]と反応して炭酸第一鉄[FeCO
3]を形成することにより、亜セレン酸イオン及びセレン酸イオンの還元を阻害すると考え、排水から炭酸を除去する方法を検討し、排水を曝気しながら、酸を添加して弱酸性域〜中性域にpH調整することにより、排水中の炭酸を炭酸ガス[CO
2]として追い出し、排水中の炭酸の濃度を低下させた後に排水を弱アルカリ性域にpH調整して第一鉄イオンを添加することにより、セレン酸イオン[SeO
42−]及び亜セレン酸イオン[SeO
32−]がセレン金属[Se
0]まで十分に還元されることを知見した。
【0019】
本発明のセレン含有排水の処理方法は、セレンを含有する排水を軟化処理する軟化処理工程と、軟化処理後のセレンを含有する排水から炭酸を除去する炭酸除去工程と、軟化処理し、炭酸を除去した後のセレンを含有する排水からセレンを除去するセレン除去工程と、を含む。
【0020】
軟化処理工程は、セレンを含有する排水に、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加して、排水のpHを中性域乃至弱アルカリ性域に調整して、排水中の硬度成分を難溶性の炭酸塩として沈殿させて除去することを含む。炭酸又は水溶性の炭酸化合物としては、排水中で炭酸イオン[CO
32−]及び炭酸水素イオン[HCO
3−]を形成することができる、炭酸[H
2CO
3]、炭酸塩[MCO
3]及び炭酸水素塩[MHCO
3](Mは金属元素である)を好適に挙げることができ、炭酸塩[MCO
3]及び炭酸水素塩[MHCO
3]の金属元素Mは、硬度成分であるカルシウムやマグネシウムなどよりイオン化傾向の強い金属元素であり、アルカリ金属が好ましく、Naであることが特に好ましい。
【0021】
軟化処理工程において、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加した後に、酸又はアルカリのpH調整剤を添加して排水を中性域乃至弱アルカリ性域、好ましくはpH8以上10以下に調整した後、塩化第二鉄[FeCl
3]を添加し、さらに水酸化ナトリウム[NaOH]を添加して排水を中性域乃至弱アルカリ性域、好ましくはpH8以上10以下に調整して、カルシウムやマグネシウムなどの硬度成分の炭酸塩を凝集沈殿させる。塩化第二鉄[FeCl
3]は、炭酸塩の凝集性を良くするために添加するものであり、添加しなくてもよい。
【0022】
軟化処理工程において、排水中に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分は、難溶性の炭酸塩(炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム)として沈殿するため、これらの沈殿物を固液分離することにより処理水を軟化することができる。難溶性の炭酸塩の固液分離を促進するために、高分子凝集剤を添加してもよい。
【0023】
軟化処理後のセレン含有排水は、次いで炭酸除去工程に供される。
炭酸除去工程は、軟化処理後のセレン含有排水を曝気しながら、当該排水のpHを弱酸性域乃至中性域、好ましくはpH4以上7以下、より好ましくはpH4以上6以下、さらに好ましくはpH4以上5以下に調整して、排水から炭酸ガスを追い出すことを含む。pHの調整は、硫酸又は塩酸などの酸を適量添加することにより行うことができる。
【0024】
炭酸除去工程において、セレン含有排水を曝気することにより、排水中に存在する炭酸を炭酸ガスとして排水から追い出す。曝気量及び曝気時間は0.5Lガス/L槽/hr以上10Lガス/L槽/hr以下程度で15分以上60分以下程度が好ましい。
【0025】
軟化処理、及び炭酸除去した後のセレン含有排水は、次いでセレン除去工程に供される。
セレン除去工程において、炭酸を除去した後の排水は、弱アルカリ性、好ましくはpH7以上10以下、より好ましくはpH8以上10以下、さらに好ましくはpH8以上9以下に調整する。pHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのpH調整剤を適量添加することにより行うことができる。
セレン除去工程において添加するセレン除去剤は、セレン含有排水中でセレンの還元剤として作用する鉄化合物又は金属鉄である。鉄化合物としては、第一鉄イオン[Fe
2+]を放出する硫酸第一鉄[FeSO
4]、塩化第一鉄[FeCl
2]、硫化第一鉄[FeS]などを好適に挙げることができる。金属鉄としては、鉄くず、スチールウール、粒径1mm以下の粉体を好適に挙げることができる。セレン除去剤は、弱アルカリ性域にpH調整された排水中で、排水中の亜セレン酸イオン[SeO
32−]及びセレン酸イオン[SeO
42−]を金属セレン[Se
0]に還元するとともに、自身は二価及び/又は三価の鉄に酸化されて水酸化第一鉄[Fe(OH)
2]及び/又は水酸化第二鉄[Fe(OH)
3]などの水不溶性の鉄フロックを形成し、還元された金属セレン[Se
0]を吸着する。
セレン除去工程の後、セレンが吸着した水酸化第一鉄などの水不溶性の鉄塩は沈殿するため、固液分離することにより、排水からセレンを除去することができる。セレン除去工程の後、水不溶性の鉄塩を含む排水に、高分子凝集剤を添加して凝集沈殿させてから、固液分離してもよい。
【0026】
本発明のセレン含有排水の処理装置の概要を
図1に示す。
本発明の処理装置1は、軟化処理部10、炭酸除去部20、及びセレン除去部30を含む。
【0027】
軟化処理部10は、炭酸又は水溶性の炭酸化合物を添加する炭酸添加手段12を具備する軟化処理槽11である。軟化処理槽11は、さらに排水のpHを調整するためのpH調整剤添加手段13を具備することもできる。また、軟化処理部10は、軟化処理槽11の下流に、pH調整剤添加手段14及び塩化第二鉄[FeCl
3]添加手段15を具備する混和槽16、凝集剤添加手段17を具備する凝集反応槽18及び固液分離槽19を具備するものでもよい。
【0028】
炭酸除去部20は、曝気装置22及び酸添加手段24を具備し、セレン含有排水を曝気しながら、排水のpHを弱酸性域乃至中性域に調整して、排水から炭酸ガスを追い出す。炭酸除去部20は、上部が開放されている槽であり、曝気装置22は槽底部から空気を導入するように設けられていることが好ましい。
【0029】
セレン除去部30は、pH調整手段32と、セレン除去剤添加手段33と、を具備するセレン還元反応槽31である。また、セレン除去部30は、セレン還元反応槽31の下流に、凝集反応槽34及び固液分離槽36を具備するものでもよい。凝集反応槽34は、凝集剤添加手段35を具備する。
【実施例】
【0030】
以下の実施例及び比較例において、セレンの濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(島津製作所株式会社製ICPE−9000)で測定した全セレン濃度であり、カルシウムの濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(島津製作所株式会社製ICPE−9000)で測定したカルシウム濃度であり、炭酸イオン[CO
32−]の濃度は、全有機炭素計TOC(島津製作所株式会社製TOC−L)で無機炭素(IC)を測定し、このICを炭酸由来と仮定して換算した濃度である。
【0031】
[実施例1]
セレン5.7mg/L及びカルシウム1,500mg/Lを含む排水500mLに、炭酸ナトリウム[Na
2CO
3]8,000mg/Lを注入し、さらにpH調整剤として硫酸[H
2SO
4]を添加してpH9に調整し、15分間撹拌した。さらに塩化第二鉄[FeCl
3]500mg/Lを注入し、pH調整剤として水酸化ナトリウム[NaOH]を添加してpH9に調整し、10分間撹拌した。次いで、アニオン性高分子凝集剤(水ing株式会社製エバグロースA−158)3mg/Lを注入して5分間撹拌した後、静置して固形分を沈殿させた。
【0032】
沈殿を除去した上澄水に、酸として硫酸を添加してpH4に調整した後、曝気を開始した。曝気中、排水のpHを測定し、必要に応じて硫酸を添加してpH4に維持した。30分間曝気した後、硫酸第一鉄[FeSO
4・7H
2O]5,000mg/Lを注入した。pH調整剤として水酸化ナトリウム[NaOH]を添加して、排水をpH9に調整して、30分間撹拌した。次いで、アニオン性高分子凝集剤(水ing株式会社製エバグロースA−158)3mg/Lを注入して5分間撹拌した後、静置して固形分を沈殿させた。上澄水のセレン濃度、カルシウム[Ca]濃度及び炭酸イオン[CO
32−]濃度を測定した。処理水中のセレンは0.1mg/L未満、炭酸イオン[CO
32−]は10mg/L未満、カルシウムは15mg/Lまで除去することができた。
【0033】
[比較例1]
セレン5.7mg/L及びカルシウム1,500mg/Lを含む排水500mLに、炭酸ナトリウム[Na
2CO
3]8,000mg/Lを注入し、さらにpH調整剤として硫酸[H
2SO
4]を添加してpH9に調整し、15分間撹拌した。さらに塩化第二鉄[FeCl
3]500mg/Lを注入し、pH調整剤として水酸化ナトリウム[NaOH]を添加してpH9に調整し、10分間撹拌した。次いで、アニオン性高分子凝集剤(水ing株式会社製エバグロースA−158)3mg/Lを注入して5分間撹拌した後、静置して固形分を沈殿させた。
【0034】
沈殿を除去した上澄水に、硫酸第一鉄[FeSO
4・7H
2O]5,000mg/Lを注入した。pH調整剤として水酸化ナトリウム[NaOH]を添加して、排水をpH9に調整して、30分間撹拌した。次いで、アニオン性高分子凝集剤(水ing株式会社製エバグロースA−158)3mg/Lを注入して5分間撹拌した後、静置して固形分を沈殿させた。上澄水のセレン濃度、カルシウム[Ca]濃度及び炭酸イオン[CO
32−]濃度を測定した。処理水中のカルシウムは15mg/Lまで除去することができたが、セレンは4.4mg/Lと排水基準を上回り、炭酸イオン[CO
32−]は1,500mg/Lと高かった。
【0035】
実施例1及び比較例1の条件及び結果をまとめて表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、軟化処理、炭酸除去処理及びセレン除去処理の順番に行った実施例1では、セレン濃度が排水基準の0.1mg/L未満を達成したが、炭酸除去処理を行わなかった比較例1ではセレン濃度が4.4mg/Lと高く、排水基準を超える濃度であった。軟化処理、炭酸除去処理及びセレン除去の順番で行う本発明により、硬度成分を除去して軟化処理を達成すると共に、軟化処理に用いる炭酸による妨害を排除して、排水基準値を充足するまでセレンを除去できることが確認された。