(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-166609(P2019-166609A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】細穴放電加工機
(51)【国際特許分類】
B23H 9/14 20060101AFI20190906BHJP
B23H 7/36 20060101ALI20190906BHJP
B23H 1/02 20060101ALI20190906BHJP
【FI】
B23H9/14
B23H7/36 D
B23H1/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-57516(P2018-57516)
(22)【出願日】2018年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山本 宜伸
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059CJ03
3C059DA03
3C059DA07
3C059DD10
3C059EB02
3C059EC02
3C059HA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加工液環境、吸引環境または動作目的に応じて自動的に加工液の噴出動作または吸引動作を選択する。
【解決手段】所定の加工間隙をもって被加工物Wと対向配置され被加工物Wを放電加工する細穴放電加工用の電極と、電極を位置決め案内する下ガイドを有するガイドベース45と、被加工物Wが収容される加工槽15と、加工液Fを貯留する貯留槽81と、噴出口から加工液Fを噴出する噴出装置5と、吸引口から加工液Fを吸引する吸引装置6と、加工間隙が加工液中に浸漬されているかどうかの加工液環境、吸引口が加工間隙に接近できているかどうかの吸引環境、または装置の動作が加工動作であるか接触検出動作であるかの動作目的に応じて、噴出装置5と吸引装置6とを選択的に動作するように制御する制御装置と、を備える細穴放電加工機である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加工間隙をもって被加工物と対向配置され前記被加工物を放電加工する細穴放電加工用の電極と、
前記電極を位置決め案内する下ガイドを有するガイドベースと、
前記被加工物が収容される加工槽と、
加工液を貯留する貯留槽と、
噴出口から前記加工液を噴出する噴出装置と、
吸引口から前記加工液を吸引する吸引装置と、
前記加工間隙が前記加工液中に浸漬されているかどうかの加工液環境、前記吸引口が前記加工間隙に接近できているかどうかの吸引環境、または装置の動作が加工動作であるか接触検出動作であるかの動作目的に応じて、前記噴出装置と前記吸引装置とを選択的に動作するように制御する制御装置と、を備える細穴放電加工機。
【請求項2】
前記噴出口は、前記ガイドベースの下面に設けられる、請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項3】
前記吸引口は、前記ガイドベースの下面に設けられる、請求項1または請求項2に記載の細穴放電加工機
【請求項4】
前記ガイドベースの下面に前記噴出口と前記吸引口とを兼ねる開口を備える、請求項1に記載の細穴放電加工機。
【請求項5】
前記開口は、前記電極を囲繞するように形成される、請求項4に記載の細穴放電加工機。
【請求項6】
前記加工槽に供給される前記加工液の液面を検出する液面計をさらに備え、
前記制御装置は、前記加工動作時において、前記液面が所定の高さ未満であるときに前記噴出装置を動作させ、前記液面が前記高さ以上であるときに前記吸引装置を動作させるよう、前記噴出装置および前記吸引装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【請求項7】
前記噴出部から噴出される前記加工液の圧力を測定する噴出圧力センサをさらに備え、
前記制御装置は、前記加工動作時において、所定の時間前記噴出装置を動作させて前記圧力を測定した後に、前記圧力が所定の閾値未満であるときに前記噴出装置を動作させ、前記圧力が前記閾値以上であるときに前記吸引装置を動作させるよう、前記噴出装置および前記吸引装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【請求項8】
前記加工槽に供給される前記加工液の液面を検出する液面計と、
前記噴出部から噴出される前記加工液の圧力を測定する噴出圧力計をさらに備え、
前記制御装置は、前記加工動作時において、所定の時間前記噴出装置を動作させて前記圧力を測定した後に、前記液面が所定の高さ未満であるときまたは前記液面が前記高さ以上でありかつ前記圧力が所定の閾値未満であるときに前記噴出装置を動作させ、前記液面が前記高さ以上でありかつ前記圧力が前記閾値以上であるときに前記吸引装置を動作させるよう、前記噴出装置および前記吸引装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【請求項9】
加工状態を検出する加工状態検出装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記加工動作時において、前記噴出装置の動作時および前記吸引装置の動作時の各加工状態を比較し、前記噴出装置の動作および前記吸引装置の動作のうち加工状態がより良好となる動作を行うよう、前記噴出装置および前記吸引装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【請求項10】
前記電極と前記被加工物との接触を検出する接触検出装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記接触検出動作時において、少なくとも前記被加工物の前記上面を接触検出する前に、前記被加工物の前記上面に対して前記噴出装置の動作を行うよう前記噴出装置を制御する、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細穴放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工機は、加工槽中に被加工物を載置し、工具側の電極(以下、単に電極というときは工具側の電極を指す)と電極に対向配置された被加工物とで形成される加工間隙に加工電圧を印加して放電を発生させるとともに、電極と被加工物とを相対移動させて放電エネルギにより被加工物を所望の形状に加工する工作機械である。加工間隙には、通常絶縁性の液体である加工液が供給される。特に、放電加工装置の1種として、棒状またはパイプ状の電極を用いて微細穴を加工する細穴放電加工機がある。
【0003】
放電加工により発生した微細な金属粉を含む加工屑が加工間隙に滞留すると、短絡や異常放電が発生しやすくなり加工速度低下や精度悪化の原因となる。また、加工槽中の視野性の低下にも繋がる。とりわけ、細穴放電加工においては、加工穴の直径に対して加工深さが深く、加工が進むほど加工屑が排出しにくくなる。加工間隙の加工屑が排出できたとしても、加工穴の周囲に残っていることが多い。加工中、加工液の噴出や吸引により加工間隙周辺の加工屑を除去する構成が公知である(特許文献1および特許文献2)。
【0004】
また、被加工物の上面を接触検出する際、検出精度の向上のために、被加工物の上面に付着した加工屑を除去することが望ましい。加工液を被加工物の上面に噴射することで、上面に付着した加工屑を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−047025号公報
【特許文献2】特許第2565680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従前の細穴放電加工機においては、“加工液環境”の違いによって加工屑の効果的な排除に与える影響が異なるが、そのときの加工液処理方法については、殆ど考慮されていない。熟練作業者であるならば、加工液環境を窺いながら適宜判断して加工液の噴出動作と吸引動作のどちらかを選択的に行なうことができるかも知れない。しかしながら、たとえそうであったとしても、自動運転による多数個穴の連続加工に少なからず悪影響を与えるおそれがあり、作業者が細穴放電加工機を適切に操作する必要があるので、作業者に余計な負担を与える。具体的には、例えば、被加工物が加工液中に浸漬されている状態である場合は、加工穴の深さに対して径が小さい細穴放電加工において加工間隙に発生する加工屑は、被加工物を覆う加工液によって加工間隙の外により排出されにくいので、加工屑とともに加工液を吸引したほうが効果的に排除できるが、被加工物が加工液中に浸漬されていない状態である場合は、加工間隙と加工穴の周囲に加工液を噴出して加工穴の周囲から加工屑を追い払うようにしたほうが加工穴の周囲に残留堆積しやすい加工屑の排除にも効果的である。但し、加工液の吸引により切削屑を除去する際は加工間隙に吸引口が十分接近している必要があり、吸引口が加工間隙に接近できていない場合は加工液の噴出により加工屑を除去した方が望ましい。すなわち、吸引口が加工間隙に接近できているかどうかの吸引環境も加工屑の排除に影響を与える。また、加工液環境の違いは、細穴放電加工機の動作が加工動作である場合と接触検出動作である場合との加工屑の効果的な排除の違いに影響を与え、例えば、加工液中に浸漬されていない状態で行なう接触検出動作においては、加工穴の周囲に加工液を噴出したほうが接触検出動作の障害になる加工穴の周囲の加工屑を速やかに有効に排除することができる。より適切に切削屑を除去するために、加工液環境や吸引環境によって加工液の噴出動作または吸引動作を切り換えて実行することが望まれている。また、加工液環境以外で、例えば動作目的に対応して加工液の噴出動作と吸引動作を選択的に切り換えることができるならば、同じように作業負担が軽減されることが期待できる。具体的に、動作目的とは、例えば、細穴放電加工機の動作が加工動作であるか、接触検出動作であるかどうかである。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、加工液環境、吸引環境または動作目的に応じて自動的に加工液の吸引動作または噴出動作を行い加工屑を除去することができる細穴放電加工機をを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、所定の加工間隙をもって被加工物と対向配置され被加工物を放電加工する細穴放電加工用の電極と、電極を位置決め案内する下ガイドを有するガイドベースと、被加工物が収容される加工槽と、加工液を貯留する貯留槽と、噴出口から加工液を噴出する噴出装置と、吸引口から加工液を吸引する吸引装置と、加工間隙が加工液中に浸漬されているかどうかの加工液環境、吸引口が加工間隙に接近できているかどうかの吸引環境、または装置の動作が加工動作であるか接触検出動作であるかの動作目的に応じて、噴出装置と吸引装置とを選択的に動作するように制御する制御装置と、を備える細穴放電加工機を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る細穴放電加工機においては、加工液環境、吸引環境または動作目的に応じて自動的に加工液の噴出動作または吸引動作が選択される。具体的には、加工中であって加工間隙が加工液に浸漬しているか否か、吸引口が加工間隙に接近できているか否か、または接触検出前であるかに応じて、より最適な動作が選択される。これにより、高速で高精度な加工や、高精度な接触検出を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の細穴放電加工機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に説明される複数の各構成部材における変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の細穴放電加工機1は、Z軸ユニット11と、W軸ユニット13と、加工槽15とを備える。W軸ユニット13は、不図示のW軸駆動装置によって鉛直1軸方向(W軸方向)に位置決め移動可能に構成される。Z軸ユニット11は、W軸ユニット13に設けられたスライダを介して、不図示のZ軸駆動装置によってW軸方向と平行な鉛直1軸方向(Z軸方向)に位置決め可能に構成される。Z軸ユニット11には、電極Eを供給する供給部2と、電極Eを回転自在に保持する主軸部3が設けられる。また、W軸ユニット13の下部には、電極Eを案内するガイド部4が設けられる。なお、Z軸ユニット11およびW軸ユニット13は、不図示のX軸駆動装置およびY軸駆動装置によって、水平1軸方向(X軸方向)およびX軸方向に垂直な水平1軸方向(Y軸方向)に位置決め可能に構成される。不図示のベッド上に積載されるテーブルとテーブルを囲む槽壁で形成される加工槽15には、加工の対象となる被加工物Wが収容され、必要に応じて加工液Fが供給される。
図5に示されるように、加工槽15には加工槽15に供給される加工液Fの液面を検出する液面計17が設けられ、液面計17は例えば加工液Fの液面が被加工物Wを浸漬するに十分な所定高さであるときに信号を出力するフロート式レベル計である。加工動作時には、
図6に示される電源95から電極Eと被加工物Wとの間に形成される加工間隙に所定の加工電圧が印加される。
【0013】
供給部2は、不図示の電極ケースと、ケースプッシャ21を含む。電極ケースには複数本の電極Eが収容されており、ケースプッシャ21によって1本ずつ電極Eが主軸部3へと供給される。
【0014】
図2に示すように、主軸部3は、コレットユニット31と、コレットチャック32と、スピンドルモータ33と、伝達機構34と、軸受35と、ブラシ36と、シールプッシャ37とを含む。供給部2から送られた電極Eはコレットユニット31へと送られ、コレットユニット31のコレット311によって電極Eが把持される。コレットフィンガ32はコレットユニット31のロックナット312を把持して固定する開閉式アクチュエータである。コレットユニット31のコレットホルダ313は軸受35によって回動自在に保持され、プーリ、ベルト等の伝達機構34を介してスピンドルモータ33によって回転可能に構成される。加工動作時には、ブラシ36を介して電源95から電極Eに電流が供給される。なお、電極Eがパイプ状であるとき、加工中は不図示の加工液供給口から供給された加工液Fを電極E内部に流通させ、電極Eの先端から加工液Fを噴出させることが望ましい。電極E内部に加工液Fを供給する際は、シールプッシャ37が閉じられ、供給部2側に加工液Fが逆流することが防止される。
【0015】
図3に示すように、ガイド部4は、中間ガイド41と、ブラケット43と、下ガイド47を有するガイドベース45とを含む。中間ガイド41は、電極Eの撓みを防止するため、主軸部3とガイドベース45と間で電極Eを支持案内する。中間ガイド41は、主軸部3とガイドベース45との距離に応じて電極Eの方向に突出させて使用され、不要なときは
図3紙面奥側に収納される。ガイドベース45はブラケット43を介してW軸ユニット13に固定される。ガイドベース45の下ガイド47には電極Eが挿通され、電極Eを位置決め案内する。ガイドベース45内部には加工液Fが流通可能な流路75が設けられ、ガイドベース45の下面には開口77が設けられる。後述するように、継手73から供給された加工液Fは流路75を通り開口77から噴出される。また、開口77から吸引された加工液Fは流路75を通り継手73から排出される。ガイドベース45は加工中は被加工物Wに可能な限り接近するよう位置決めされるので、ガイドベース45の下面に開口77を設けることで、加工中はより近い位置で加工液Fの噴出および吸引を行うことができる。
【0016】
好ましくは、開口77は、電極Eを囲繞するように設けられる。電極Eを囲繞するにあたって、
図4に示すように、開口77は、円弧状、矩形状、円形等、種々の形状が採用可能であり、1つであっても複数であってもよい。このような開口77であれば、電極Eと略同軸に加工液Fの噴出および吸引の流れを形成できることができるので、より効率的に加工穴の周囲の加工屑を除去することができる。
【0017】
ここで、
図5を参照しながら加工液Fの給排出経路について説明する。加工液Fを貯留する貯留槽81は、清液槽811と汚液槽813とに仕切られている。汚液槽813は、加工屑などを含んで汚れている使用済の加工液Fを回収して貯留する。ポンプ82は、汲み上げた汚液槽813の加工液Fをフィルタ83を通過させることで浄化し、浄化された加工液Fを清液槽811へ所定の流量で送る。浸漬加工を行う際は、ポンプ84によって汲み上げられた加工液Fが電磁弁85を介して加工槽15へと送られる。ドレンバルブ86は加工槽15に加工液Fが所定の液位まで供給されるまで閉じられ、加工槽15から加工液Fを排出する際に開かれる。またドレンバルブ86は、浸漬加工時においては、開度を調整することで、加工槽15の液位を一定に維持しながら加工槽15と貯留槽81との間で加工液Fを循環させる。
【0018】
前述の通り、電極Eがパイプ状であるとき、加工中はポンプ87から加工液Fが電極Eに所定の流量で送られることが望ましい。ポンプ87と電極Eとの間には圧力計88が設けられ、適切に電極Eから加工液Fが噴出されているかを確認可能である。このように構成することで、被加工物Wの加工穴の底部に堆積する加工屑を加工穴の外へと排出することができる。
【0019】
本実施形態の細穴放電加工機1は、噴出口から加工液Fを噴出する噴出装置5と、吸引口から加工液Fを吸引する吸引装置6とを備える。噴出装置5および吸引装置6の動作は、加工液環境または動作目的に応じて選択的に切り換えられる。清液槽811から加工液Fを供給する、噴出装置5および吸引装置6兼用のポンプ71が設けられる。また開口77が、噴出装置5の噴出口および吸引装置6の吸引口として機能する。噴出装置5は、ポンプ71と開口77との間に設けられた噴出弁51、噴出調整バルブ53、噴出圧力計55および噴出圧力センサ57を有する。吸引装置6は、ポンプ71と開口77との間に設けられたアスピレータ65と、ポンプ71とアスピレータ65の給水口との間に設けられた第1吸引弁61と、アスピレータ65の吸込口と開口77との間に設けられた第2吸引弁63、吸引調整バルブ67および吸引圧力計69とを有する。アスピレータ65の排水口は、汚液槽813と接続される。
【0020】
噴出装置5を動作させるときは、噴出弁51を開き、第1吸引弁61および第2吸引弁63を閉じた状態でポンプ71から加工液Fを圧送する。加工液Fは継手73および流路75を通り、開口77から噴出される。加工液Fの噴出圧力は、噴出調整バルブ53によって適正圧力に調整可能であるとともに、噴出圧力計55によって計測され、適正に噴出が行われているかを確認可能である。また、噴出圧力センサ57は、加工液Fの噴出圧力を測定し、測定値を後述する制御装置9へと信号出力する。
【0021】
一方、吸引装置6を動作させるときは、噴出弁51を閉じ、第1吸引弁61および第2吸引弁63を開いた状態でポンプ71から加工液Fを圧送する。アスピレータ65の給水口から排水口へと加工液Fが送られることによるベンチュリ効果によってアスピレータ65の吸込口が減圧され、開口77から吸引された加工液Fが流路75および継手73を通り、アスピレータ65の排水口から汚水槽813へと排出される。加工液Fの吸引圧力は、吸引調整バルブ67によって適正圧力に調整可能であるとともに、吸引圧力計69によって計測され、適正に吸引が行われているかを確認可能である。
【0022】
次に、
図6に示す細穴放電加工機1の制御装置9について説明する。制御装置9は、各種演算を行う演算装置91と、操作画面や各種パラメータを表示する表示装置92と、加工プログラム等の各データを格納する記憶装置93と、キーボード等からの入力や外部記憶媒体を読み込む入力装置94を含み、細穴放電加工機1を制御する。電源95は、制御装置9の指令に従って、対向配置された電極Eと加工物Wとの間に形成される加工間隙に所定の加工電圧を印加して放電を発生させる。ドライバ96は、制御装置9の指令に従って、X軸駆動装置、Y軸駆動装置、Z軸駆動装置、W軸駆動装置およびスピンドルモータ33等の各種駆動装置を駆動する。
【0023】
加工状態検出装置97は、加工状態を検出して加工状態信号を制御装置9へ出力する。制御装置9は加工状態信号に応じて電源95をフィードバック制御する。加工状態とは放電加工に伴う各種パラメータのことを指し、具体的には、放電頻度、放電電圧、加工速度のうち少なくとも1つが含まれる。
【0024】
接触検出装置98は、接触検出動作時において、電極Eが被加工物Wに接触したことを検出して接触検出信号を制御装置9へ出力する。接触検出信号が入力された制御装置9は、ドライバ96に指令を送り各種駆動装置を停止または所定方向に移動させるとともに、検出位置を記憶装置93に記憶する。
【0025】
また、制御装置9は、加工液環境、吸引環境または動作目的に応じて、噴出装置5または吸引装置6のいずれか一方を択一的に動作させる。具体的には、噴出弁51、第1吸引弁61、第2吸引弁63を前述のように切り換えた上でポンプ71を動作させる。なお、具体的に加工液環境とは、加工間隙が加工液F中に浸漬されている状態(以下、浸漬状態)と、加工間隙が加工液F中に浸漬されていない状態(以下、非浸漬状態)を指す。また、具体的に吸引環境とは、吸引口(ここでは開口77)が加工間隙に十分に接近できている状態(以下、近接状態)と、吸引口(ここでは開口77)が加工間隙に十分に接近できていない状態を指す。また、具体的に動作目的とは、細穴放電加工機1の動作が電極Eによって被加工物Wを所望の形状に放電加工する加工動作と、電極Eをゆっくりと下降させ被加工物Wの上面位置を接触により検出する接触検出動作との、いずれの動作を目的としているかを指す。
【0026】
加工動作を行う際、浸漬状態のときは、吸引装置6を動作させて開口77から加工液Fを吸引し、加工穴周囲の加工屑を吸引除去することが望ましい。また、非浸漬状態のときは、噴出装置5を動作させて開口77から加工液Fを噴出し、加工穴周囲の加工屑を吹き飛ばすことが望ましい。
【0027】
加工液環境がいずれの状態であるかは、例えば液面計17によって判断される。具体的に、液面計17によって加工槽15の加工液Fの液面が所定の高さ以上であるか未満であるかを検出し、制御装置9は、液面が所定の高さ未満であるときに噴出装置5を動作させ、液面が所定の高さ以上であるときに吸引装置6を動作させる。
【0028】
また、加工動作を行う際、近接状態のときは、吸引装置6を動作させて開口77から加工液Fを吸引し、加工穴周囲の加工屑を吸引除去することが望ましい。また、非近接状態のときは噴出装置5を動作させて開口77から加工液Fを噴出し、加工穴周囲の加工屑を吹き飛ばすことが望ましい。
【0029】
吸引環境がいずれの状態であるかは、例えば噴出圧力センサ57によって判断される。加工液Fの噴出圧力は、近接状態であるとき高くなり、非近接状態であるとき低くなる。そのため、加工動作の開始時に所定の時間噴出装置5を動作させて噴出圧力を測定することで、近接状態であるか、非近接状態であるかを判断できる。そして、制御装置9は、噴出圧力が所定の閾値未満であるときに噴出装置を動作させ、噴出圧力が所定の閾値以上であるときに吸引装置を動作させる。
【0030】
通常、加工動作時は下ガイド47は被加工物Wに近接する位置へと位置決めされるので、ガイドベース45の下面に設けられた開口77も電極Eによって形成された被加工物Wの加工穴に近接する。但し、被加工物Wの上面に段差や傾斜がある場合は十分に下ガイド47が被加工物Wに接近できない場合があり、結果開口77も加工穴に接近できない可能性がある。この方法であれば、被加工物Wの形状を問わず、正確に近接状態を判断できる。なお、Z軸ユニット11およびW軸ユニット13にX軸方向またはY軸方向の移動があった際は、近接状態に変化が生じる可能性があるので再度近接状態を確認することが望ましい。
【0031】
以上に示した方法は、好適には組み合わせて実施される。すなわち、制御装置9は、加工動作の開始時に所定の時間前記噴出装置を動作させて噴出圧力を測定した後に、液面が所定の高さ未満であるときまたは液面が所定の高さ以上でありかつ噴出圧力が所定の閾値未満であるときに噴出装置5を動作させ、液面が所定の高さ以上でありかつ噴出圧力が所定の閾値以上であるときに吸引装置6を動作させるよう、噴出装置5および吸引装置6を制御する。これにより、加工穴の周囲の加工屑が加工液環境および吸引環境に応じて好適に除去され、ひいては高速で高精度な加工が実現できる。
【0032】
また、接触検出動作を行う際、制御装置9は、少なくとも被加工物Wの上面を接触検出する前に、換言すれば電極Eが下降する前または下降中に、被加工物Wの上面に対して噴出装置5の動作を行うよう制御する。このようにして、加工液Fの噴出により被加工物Wの上面に付着した加工屑が除去され、より正確に接触検出動作を行うことができる。なお、接触検出装置98が、電極Eが被加工物Wに接触したことを検出した後も、加工液Fの噴出を継続してもよい。
【0033】
本発明は、すでにいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。
【0034】
例えば、上述の実施形態では、噴出装置5の噴出口および吸引装置6の吸引口を兼ねる開口77が設けられたが、噴出口と吸引口とがそれぞれ別個に設けられてもよい。また、噴出口および吸引口、またはそれらを兼ねる開口77は、加工動作時に加工穴付近に位置すればよく、ガイドベース45の下面以外の場所に設けられてもよい。
【0035】
また、噴出装置5および吸引装置6は、加工液Fの噴出および吸引が選択的に切換可能であればよく、実施形態に具体的に示した構成に限定されない。例えば、本実施形態では噴出装置5および吸引装置6兼用のポンプ71が設けられたが、噴出装置5と吸引装置6それぞれ個別にポンプを設けてもよい。また、本実施形態の吸引装置6は、アスピレータ65を用いて加工液Fの吸引を行ったが、真空ポンプ等その他の手段を利用してもよい。
【0036】
また、加工液環境および吸引環境がいずれの状態であるかの判断方法は、上述の方法以外であってもよい。例えば、制御装置9が、噴出装置5と吸引装置6をそれぞれ動作させて所定時間加工動作を行い、それぞれにおける加工状態を比較して、噴出装置5と吸引装置6のうちより加工状態が良好となる方を動作させるよう制御してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 細穴放電加工機
5 噴出装置
6 吸引装置
9 制御装置
15 加工槽
17 液面計
45 ガイドベース
47 下ガイド
57 噴出圧力センサ
77 開口
81 貯留槽
97 加工状態検出装置
98 接触検出装置
E 電極
F 加工液
W 被加工物
【手続補正書】
【提出日】2019年4月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項8
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項8】
前記加工槽に供給される前記加工液の液面を検出する液面計と、
前記噴出部から噴出される前記加工液の圧力を測定する噴出圧力センサをさらに備え、
前記制御装置は、前記加工動作時において、所定の時間前記噴出装置を動作させて前記圧力を測定した後に、前記液面が所定の高さ未満であるときまたは前記液面が前記高さ以上でありかつ前記圧力が所定の閾値未満であるときに前記噴出装置を動作させ、前記液面が前記高さ以上でありかつ前記圧力が前記閾値以上であるときに前記吸引装置を動作させるよう、前記噴出装置および前記吸引装置を制御する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細穴放電加工機。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−047025号公報
【特許文献2】特許第2565680号公報
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、加工液環境、吸引環境または動作目的に応じて自動的に加工液の吸引動作または噴出動作を行い加工屑を除去することができる細穴放電加工機
を提供することを主たる目的とするものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
図2に示すように、主軸部3は、コレットユニット31と、
コレットフィンガ32と、スピンドルモータ33と、伝達機構34と、軸受35と、ブラシ36と、シールプッシャ37とを含む。供給部2から送られた電極Eはコレットユニット31へと送られ、コレットユニット31のコレット311によって電極Eが把持される。コレットフィンガ32はコレットユニット31のロックナット312を把持して固定する開閉式アクチュエータである。コレットユニット31のコレットホルダ313は軸受35によって回動自在に保持され、プーリ、ベルト等の伝達機構34を介してスピンドルモータ33によって回転可能に構成される。加工動作時には、ブラシ36を介して電源95から電極Eに電流が供給される。なお、電極Eがパイプ状であるとき、加工中は不図示の加工液供給口から供給された加工液Fを電極E内部に流通させ、電極Eの先端から加工液Fを噴出させることが望ましい。電極E内部に加工液Fを供給する際は、シールプッシャ37が閉じられ、供給部2側に加工液Fが逆流することが防止される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
好ましくは、開口77は、電極Eを囲繞するように設けられる。電極Eを囲繞するにあたって、
図4に示すように、開口77は、円弧状、矩形状、円形等、種々の形状が採用可能であり、1つであっても複数であってもよい。このような開口77であれば、電極Eと略同軸に加工液Fの噴出および吸引の流れを
形成することができるので、より効率的に加工穴の周囲の加工屑を除去することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
本実施形態の細穴放電加工機1は、噴出口から加工液Fを噴出する噴出装置5と、吸引口から加工液Fを吸引する吸引装置6とを備える。噴出装置5および吸引装置6の動作は、加工液環境
、吸引環境または動作目的に応じて選択的に切り換えられる。清液槽811から加工液Fを供給する、噴出装置5および吸引装置6兼用のポンプ71が設けられる。また開口77が、噴出装置5の噴出口および吸引装置6の吸引口として機能する。噴出装置5は、ポンプ71と開口77との間に設けられた噴出弁51、噴出調整バルブ53、噴出圧力計55および噴出圧力センサ57を有する。吸引装置6は、ポンプ71と開口77との間に設けられたアスピレータ65と、ポンプ71とアスピレータ65の給水口との間に設けられた第1吸引弁61と、アスピレータ65の吸込口と開口77との間に設けられた第2吸引弁63、吸引調整バルブ67および吸引圧力計69とを有する。アスピレータ65の排水口は、汚液槽813と接続される。