【解決手段】車両状態推定部1200は、車両状態に関する状態量についての演算を行う主演算部1210を備えており、主演算部1210への入力値には、車輪の接地荷重変動が含まれる。当該車輪の接地荷重変動は、タイヤ接地荷重変動算出部1220中の車輪有効半径算出部が算出したタイヤ有効半径R
車輪の接地荷重変動を少なくとも参照して、車輪の路面変位を算出する路面変位算出部を更に備え、前記1又は複数の入力値には、車輪の路面変位が含まれていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両状態推定装置。
車両の前後方向のバネ上速度、車両の横方向のバネ上速度、車両のバネ上鉛直速度、車両のロールレート、車両のピッチレート、車両のヨーレート、及び、車輪のバネ下鉛直速度を推定することを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の車両状態推定装置。
車両のロール角、車両のピッチ角、車両のヨー角、各車輪のサスストローク変位、各車輪のバネ下鉛直変位、実舵角、実舵角速度、各車輪のスリップ比、各車輪のスリップ角、各車輪のタイヤ前後力、各車輪の横力、各車輪の接地荷重変動、各車輪のタイヤ有効半径、及び各車輪での路面変位の少なくとも何れかを推定することを特徴とする請求項10に記載の車両状態推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0016】
(車両900の構成)
図1は、本実施形態に係る車両900の概略構成例を示す図である。
図1に示すように、車両900は、懸架装置(サスペンション)100、車体200、車輪300、タイヤ310、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、エンジン500、ECU(Electronic Control Unit、制御装置、ステアリング制御装置、サスペンション制御装置、サスペンション制御部)600、発電装置700及びバッテリ800を備えている。ここで、懸架装置100、及びECU600は、本実施形態に係るサスペンション装置を構成する。また、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、及びECU600は、ステアリング装置を構成する。なお、車両900としては、ガソリン車、ハイブリッド電気自動車(HEV車)、電気自動車(EV車)等を挙げることができる。
【0017】
タイヤ310が装着された車輪300は、懸架装置100によって車体200に懸架されている。車両900は、四輪車であるため、懸架装置100、車輪300及びタイヤ310については、それぞれ4つ設けられている。
【0018】
なお、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪のタイヤ及び車輪をそれぞれ、タイヤ310A及び車輪300A、タイヤ310B及び車輪300B、タイヤ310C及び車輪300C、並びに、タイヤ310D及び車輪300Dとも称する。以下、同様に、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪にそれぞれ付随した構成を、符号「A」「B」「C」及び「D」を付して表現することがある。
【0019】
懸架装置100は、油圧緩衝装置、アッパーアーム及びロアーアームを備えている。また、油圧緩衝装置は、一例として、当該油圧緩衝装置が発生させる減衰力を調整する電磁弁であるソレノイドバルブを備えている。ただし、これは本実施形態を限定するものではなく、油圧緩衝装置は、減衰力を調整する電磁弁として、ソレノイドバルブ以外の電磁弁を用いてもよい。例えば、上記電磁弁として、電磁流体(磁性流体)を利用した電磁弁を備える構成としてもよい。
【0020】
エンジン500には、発電装置700が付設されており、発電装置700によって生成された電力がバッテリ800に蓄積される。
【0021】
運転者の操作する操舵部材410は、ステアリングシャフト420の一端に対してトルク伝達可能に接続されており、ステアリングシャフト420の他端は、ラックピニオン機構470に接続されている。
【0022】
ラックピニオン機構470は、ステアリングシャフト420の軸周りの回転を、ラック軸480の軸方向に沿った変位に変換するための機構である。ラック軸480が軸方向に変位すると、タイロッド及びナックルアームを介して車輪300A及び車輪300Bが転舵される。
【0023】
トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に印加される操舵トルク、換言すれば、操舵部材410に印加される操舵トルクを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号をECU600に提供する。より具体的には、トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に内設されたトーションバーの捩れを検出し、検出結果をトルクセンサ信号として出力する。なお、トルクセンサ430として磁歪式トルクセンサを用いてもよい。
【0024】
舵角センサ440は、操舵部材410の舵角を検出し、検出結果をECU600に提供する。
【0025】
トルク印加部460は、ECU600から供給されるステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを、ステアリングシャフト420に印加する。トルク印加部460は、ステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを発生させるモータと、当該モータが発生させたトルクをステアリングシャフト420に伝達するトルク伝達機構とを備えている。
【0026】
なお、本明細書における「制御量」の具体例として、電流値、デューティー比、減衰率、減衰比等が挙げられる。
【0027】
なお、上述の説明において「トルク伝達可能に接続」とは、一方の部材の回転に伴い他方の部材の回転が生じるように接続されていることを指し、例えば、以下のいずれかの場合を含む。
【0028】
・一方の部材と他方の部材とが一体的に成形されている場合。
【0029】
・一方の部材に対して他方の部材が直接的又は間接的に固定されている場合。
【0030】
・一方の部材と他方の部材とが継手部材等を介して連動するよう接続されている場合。
【0031】
また、上記の例では、操舵部材410からラック軸480までが常時機械的に接続されたステアリング装置を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではない。本実施形態に係るステアリング装置は、例えばステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置であってもよい。ステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置に対しても本明細書において以下に説明する事項を適用することができる。
【0032】
ECU600は、車両900が備える各種の電子機器を統括制御する。より具体的には、ECU600は、トルク印加部460に供給するステアリング制御量を調整することにより、ステアリングシャフト420に印加するアシストトルク又は反力トルクの大きさを制御する。
【0033】
また、ECU600は、サスペンション制御量を供給することによって懸架装置100を制御する。より具体的には、ECU600は、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して、サスペンション制御量を供給することによって当該ソレノイドバルブの開閉を制御する。この制御を可能とするために、ECU600からソレノイドバルブへ駆動電力を供給する電力線が配されている。
【0034】
また、車両900は、車輪300毎に設けられ各車輪300の車輪速(車輪の車輪角速度ω)を検出する車輪速センサ320を備えている。また、車両900は、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350、エンジン500が発生させるトルクを検出するエンジントルクセンサ510、エンジン500の回転数を検出するエンジン回転数センサ520、及びブレーキ装置が有するブレーキ液に印加される圧力を検出するブレーキ圧センサ530を備える構成としてもよい。これらの各種センサによる検出結果は、ECU600に供給される。
【0035】
なお、図示は省略するが、車両900は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのシステムであるABS(Antilock Brake System)、加速時等における車輪の空転を抑制するTCS(Traction Control System)、及び、旋回時のヨーモーメント制御やブレーキアシスト機能等のための自動ブレーキ機能を備えた車両挙動安定化制御システムであるESC(Electronic Stability Control)制御可能なブレーキ装置を備えている。
【0036】
ここで、ABS、TCS、及びESCは、推定した車体速に応じて定まる車輪速と、車輪速センサ320によって検出された車輪速とを比較し、これら2つの車輪速の値が、所定の値以上相違している場合にスリップ状態であると判定する。ABS、TCS、及びESCは、このような処理を通じて、車両900の走行状態に応じて最適なブレーキ制御やトラクション制御を行うことにより、車両900の挙動の安定化を図るものである。
【0037】
また、上述した各種のセンサによる検出結果のECU600への供給、及び、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。
【0038】
(懸架装置100)
図2は、本実施形態に係る懸架装置100における油圧緩衝装置の概略構成例を示す概略断面図である。
図2に示すように、懸架装置100は、シリンダ101と、シリンダ101内に摺動可能に設けられたピストン102と、ピストン102に固定されたピストンロッド103とを備えている。シリンダ101は、ピストン102によって上室101aと下室101bとに仕切られており、上室101a及び下室101bは作動油によって満たされている。なお、
図2において図示は省略しているが、懸架装置100には、バーストを防止するようにガス室が設けられている。
【0039】
また、
図2に示すように、懸架装置100は、上室101aと下室101bとを連通させる連通路104を備えており、当該連通路104上には、懸架装置100の減衰力を調整するソレノイドバルブ105が設けられている。
【0040】
ソレノイドバルブ105は、ソレノイド105aと、ソレノイド105aによって駆動され、連通路104の流路断面積を変更するバルブ105bとを備えている。
【0041】
ソレノイド105aはECU600から供給されるサスペンション制御量に応じてバルブ105bを出し入れし、それにより連通路104の流路断面積が変更され、懸架装置100の減衰力が変更される。
【0042】
なお、懸架装置100として、アクティブサスペンションやエアサスペンションを用いてもよい。
【0043】
(ECU600)
以下では、参照する図面を替えて、ECU600について具体的に説明する。
図3は、ECU600の概略構成例を示す図である。
【0044】
図3に示すように、ECU600(制御装置)は、制御量演算部1000、及び車両状態推定部(車両状態推定装置)1200を備えている。なお、
図3に示す車両各部1300は、制御量演算部1000による演算結果を参照して制御される車両900の各部、及び車両900の状態量を取得するための各種のセンサを表している。制御対象の車両900の各部の一例として、懸架装置100やトルク印加部460が挙げられ、各種センサの一例として、各車両の角速度センサ、横Gセンサ330、前後Gセンサ340、及びヨーレートセンサ350が挙げられる。
【0045】
(制御量演算部)
制御量演算部1000は、
図3に示すように、規範車両モデル演算部1100、減算部1012、積分部1014、第1の増幅部1021、第2の増幅部1022、第3の増幅部1023、及び加算部1024を備えている。
【0046】
規範車両モデル演算部1100は、入力値に対して規範用車両モデルを用いた演算を行い、演算結果である規範出力を減算部1012に供給する。また、規範車両モデル演算部1100は、演算対象である種々の状態量を、規範状態量として第3の増幅部1023に供給する。規範車両モデル演算部1100が出力する規範出力は、車両制御における目標値としての意味を有する。ここで、規範出力は、上記演算対象である種々の状態量の少なくとも一部を構成する。
【0047】
規範車両モデル演算部1100への入力の一例として、
図3に示すように、車輪の車輪角速度ω
fl〜ω
rr、操作入力、及び、後述の車両状態推定部1200において推定する各車輪の接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrから算出する各車輪の路面変位z
0fl〜z
0rrが挙げられる。ここで、操作入力には、操舵部材410の操舵角が含まれる。ここで、各車輪の接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrとは、各車輪の接地荷重の変動分のことを指す。
【0048】
なお、本明細書において、添え字「fl」、「fr」、「rl」、「rr」はそれぞれ左前、右前、左後、右後の車輪に関するものであることを明示するための添え字である。上記のように、これらの添え字をまとめて、例えば「ω
fl〜ω
rr」のように表示することもある。いずれのパラメータについても同様である。
【0049】
また、規範車両モデル演算部1100が減算部1012に供給する規範出力の例として、車体200の前後方向のバネ上速度u、横方向のバネ上速度v、バネ上鉛直速度w、ロールレートp、ピッチレートq、ヨーレートr、ロール角phi、ピッチ角theta、ヨー角psi、各車輪のサスストローク変位SusSt
fl〜SusSt
rr、各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、実舵角δ、及び実舵角速度dδの少なくとも何れか又はそれらの組み合わせによって表現することができる物理量が挙げられる。また、規範車両モデル演算部1100が第3の増幅部1023に供給する規範状態量の例として、車体200の前後方向のバネ上速度u、横方向のバネ上速度v、バネ上鉛直速度w、ロールレートp、ピッチレートq、ヨーレートr、ロール角phi、ピッチ角theta、ヨー角psi、各車輪のサスストローク変位SusSt
fl〜SusSt
rr、各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、実舵角δ、及び実舵角速度dδの少なくとも何れかが挙げられる。なお、規範車両モデル演算部1100の具体的な構成は後述する。
【0050】
減算部1012は、後述する車両状態推定部1200からの推定出力を取得し、取得した推定出力から、規範車両モデル演算部1100が出力する規範出力を減算し、減算結果を積分部1014に供給する。
【0051】
車両状態推定部1200が推定し、減算部1012に供給する推定出力の一例として、車体200の前後方向のバネ上速度、横方向のバネ上速度、バネ上鉛直速度、ロールレート、ピッチレート、ロール角、ピッチ角、ヨー角、各車輪のサスストローク変位、各車輪のバネ下鉛直変位、各車輪のバネ下鉛直速度、実舵角、及び実舵角速度の少なくとも何れか又はそれらの組み合わせによって表現することができる物理量が挙げられる。また、車両状態推定部1200が推定し、第1の増幅部1021に供給する推定状態量の一例として、車体200の前後方向のバネ上速度u、横方向のバネ上速度v、バネ上鉛直速度w、ロールレートp、ピッチレートq、ヨーレートr、ロール角phi、ピッチ角theta、ヨー角psi、各車輪のサスストローク変位SusSt
fl〜SusSt
rr、各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、実舵角δ、及び実舵角速度dδの少なくとも何れかが挙げられる。
【0052】
なお、本発明の車両状態推定装置により、推定可能な物理量は、車両状態推定部1200における演算対象の「各状態量」、「各状態量の何れかの組み合わせで表現することができる物理量」、「タイヤモデル演算部1240で計算されるタイヤ前後力及びタイヤ横力」、「スリップ算出部1230で計算されるスリップ比及びスリップ角」、「タイヤ接地荷重変動算出部1220の出力を利用し得られるタイヤ接地荷重」、「タイヤ接地荷重変動算出部1220で算出するタイヤ有効半径」、「参照用タイヤ有効半径演算部1270で計算される参照用タイヤ有効半径」、及び「路面変位算出部1280で算出される路面変位」である。
【0053】
積分部1014は、減算部1012による減算結果を積分する。積分した結果は、第2の増幅部1022に供給される。
【0054】
第1の増幅部1021は、車両状態推定部1200から供給される推定状態量を、増幅係数K1を用いて増幅し、増幅した結果を加算部1024に供給する。
【0055】
第2の増幅部1022は、積分部1014による積分結果を、増幅係数K2を用いて増幅し、増幅した結果を加算部1024に供給する。
【0056】
第3の増幅部1023は、規範車両モデル演算部1100から供給される規範状態量を、増幅係数K3を用いて増幅し、増幅結果を加算部1024に供給する。
【0057】
加算部1024は、第1の増幅部1021による増幅結果と、第2の増幅部1022による増幅結果と、第3の増幅部1023による増幅結果とを加算し、加算した結果を車両状態推定部1200、及び車両各部1300に供給する。加算部1024による加算結果は、制御量演算部1000による演算結果を表している。
【0058】
制御量演算部1000は、車両状態推定部1200の出力値である推定出力から、規範車両モデル演算部1100の出力値である規範出力を減算する減算部1012と、減算部1012による減算結果を積分する積分部1014と、車両状態推定装置1200による演算対象である推定状態量を増幅する第1の増幅部1021と、積分部1014による積分結果を増幅する第2の増幅部1022と、規範車両モデル演算部1100の演算対象である規範状態量を増幅する第3の増幅部1023と、第1の増幅部1021による増幅結果、第2の増幅部1022による増幅結果、及び第3の増幅部1023による増幅結果を加算する加算部1024を備えているので、車両900は、偏差なく規範モデル特性に追従することができる。
【0059】
また、制御量演算部1000が、積分部1014を備えていることにより、車両900は、偏差なく規範モデル特性に追従することができる。
【0060】
(規範車両モデル演算部)
続いて、
図4を参照して規範車両モデル演算部1100の構成について具体的に説明する。
図4は、規範車両モデル演算部1100の構成例を示すブロック図である。
図4に示すように、規範車両モデル演算部1100は、主演算部1110、規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部1120、スリップ算出部1130、タイヤモデル演算部1140、操縦安定性・乗心地制御部1150、及び、参照用タイヤ有効半径演算部1160を備えている。
【0061】
(主演算部)
主演算部1110は、1又は複数の入力値を参照し、車両状態に関する状態量についての線形演算を行うことによって1又は複数の出力値を算出する。主演算部1110のことを単に演算部と呼称することもある。
【0062】
主演算部1110は、
図4に示すように、第1の入力行列演算部1111、第2の入力行列演算部1112、第3の入力行列演算部1113、第4の入力行列演算部1118、加算部1114、積分部1115、システム行列演算部1116、観測行列演算部1117を備えている。ここで、第1の入力行列演算部1111、第2の入力行列演算部1112、第3の入力行列演算部1113、及び、第4の入力行列演算部1118を第1の演算部とも呼称する。
【0063】
路面入力に対する入力行列B0に関する演算を行う第1の入力行列演算部1111には、一例として路面変位(鉛直方向の変位)z
0fl、z
0fr、z
0rl、z
0rrが入力される。ここで、路面変位z
0fl、z
0fr、z
0rl、z
0rrとしては、後述する車両状態推定部1200にて算出したものを用いる。
【0064】
第1の入力行列演算部1111は、入力された路面変位z
0fl〜z
0rrに対して、入力行列B0を演算し、演算した結果を加算部1114に供給する。
【0065】
操作量に対する入力行列B1に関する演算を行う第2の入力行列演算部1112は、一例として、操舵部材410の操舵角に対して入力行列B1を演算し、演算した結果を加算部1114に供給する。
【0066】
タイヤ前後/横力に対する入力行列B2に関する演算を行う第3の入力行列演算部1113は、後述するタイヤモデル演算部1140から供給される各車輪のタイヤ前後力F
x0fl〜F
x0rr、及び各車輪のタイヤ横力F
y0fl〜F
y0rrに対して入力行列B2を演算し、演算した結果を加算部1114に供給する。
【0067】
制御結果を反映した、追加サスペンション力、アシストトルク、及び反力トルクに対する入力行列B3に関する演算を行う第4の入力行列演算部1118は、後述する操縦安定性・乗心地制御部1150の出力に対して入力行列B3を演算し、演算した結果を加算部1114に供給する。
【0068】
加算部1114は、第1の入力行列演算部1111、第2の入力行列演算部1112、第3の入力行列演算部1113、第4の入力行列演算部1118、及び後述するシステム行列演算部1116からの出力を加算し、加算結果を積分部1115に供給する。
【0069】
積分部1115は、加算部1114から供給される加算結果を積分する。積分部1115による積分結果は、前述した第3の増幅部1023、システム行列演算部1116、及び、観測行列演算部1117に供給される。また、積分部1115による積分結果のうち、z
1flm〜z
1rrmは、規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部1120に供給される。
【0070】
システム行列演算部(第2の演算部)1116は、積分部1115による積分結果に対して、システム行列Aを演算し、演算した結果を加算部1114に供給する。
【0071】
観測行列演算部(第3の演算部)1117は、積分部1115による積分結果に対して、観測行列Cを演算し、演算した結果を規範出力として、前述した減算部1012に供給する。また、観測行列Cを演算した結果はスリップ算出部1130にも供給される。
【0072】
なお、主演算部1110が備える各部における演算は、線形演算として実行される。したがって、上記の構成を有する主演算部1110によれば、1又は複数の入力値を参照した車両状態に関する状態量についての線形演算を好適に行うことができる。
【0073】
また、主演算部1110への入力は上記の例に限られるものではなく、例えば、
・操舵トルク
・各車輪の車輪角速度
・各車輪の実舵角
・各車輪の駆動トルク
の少なくとも何れかを主演算部1110に入力する構成とし、主演算部1110がこれらの入力値に対する線形演算を実行する構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1110が、各システム行列A、入力行列B、及び観測行列Cによって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、上記の入力を参照して各車両モデルを切り替える構成とすることができる。
【0074】
また、車両900が、積載量検知手段を備える構成とし、主演算部1110には、当該積載量検知手段による検出値を入力する構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1110が、各積載量に応じたシステム行列A、入力行列B、及び観測行列Cによって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、積載量検知手段による検出値に応じて各車両モデルを切り替える構成とすることができる。なお、上記積載量検知手段は、センサで積載量を検知する構成であってもよいし、センサレスで積載量を検知する構成であってもよい。
【0075】
主演算部1110への入力は、
・ヨーレート
・前後G
・横G
・ブレーキ圧
・ESCフラグ、TCSフラグ、ABSフラグ
・エンジントルク
・エンジン回転数
の少なくとも何れかをさらに含む構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1110が、各システム行列A、入力行列B、及び観測行列Cによって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、上記の入力を参照して各車両モデルを切り替える構成とすることができる。
【0076】
(主演算部による演算対象の状態量の例)
主演算部1110による演算対象の状態量の一例を状態量ベクトルxとして表現すれば以下の通りである。
【0077】
以下、x方向は、車両900の進行方向(前後方向)を示し、z方向は鉛直方向を示し、y方向はx方向及びz方向の双方に垂直な方向(横方向)のことを示す。
【0079】
ここで、
u、v、wは、車体200のバネ上速度のx、y、z方向成分であり、
p、q、rは、車体200のバネ上角速度のx軸、y軸、z軸方向成分、すなわち、ロールレート、ピッチレート、及び、ヨーレートである。また、
【0081】
はそれぞれオイラー角の3成分(それぞれ、phi、theta、psiとも表記する。また、phiはロール角、thetaはピッチ角、psiはヨー角を表す。)であり、
SusSt
fl〜SusSt
rrは、各車輪のサスストローク変位であり、上記は、バネ上と同じ動きをするボディ座標系で観測した状態量である。
【0082】
また、z
1flm〜z
1rrmは、各車輪のバネ下鉛直変位であり、w
1flm〜w
1rrmは、各車輪のバネ下鉛直速度である。ただし、z
1flm〜z
1rrm、w
1flm〜w
1rrmは、x方向及びy方向の並進運動、並びにz軸方向の回転運動(ヨー)のみ、バネ上と同じ動きをする座標系で観測した状態量である。
【0083】
また、δは、実舵角であり、
dδは、実舵角速度である。
【0084】
なお、実舵角δ、及び実舵角速度dδは、各車輪300それぞれについて個別に設定する構成としてもよいが、本明細書中では、一例として前輪のみについて設定されるものとし、かつ、タイヤの切戻りは考慮していない。
【0085】
(主演算部出力の例)
主演算部1110が出力する規範出力の種類は、観測行列Cをどのように選ぶかによって決定される。一例として、主演算部1110が出力する規範出力を特定状態量ベクトルyとして表現すれば以下のように、車体200の前後方向のバネ上速度u、横方向のバネ上速度v、バネ上鉛直速度w、ロールレートp、ピッチレートq、ヨーレートr、ロール角phi、ピッチ角theta、ヨー角psi、各車輪のサスストローク変位SusSt
fl〜SusSt
rr、各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、実舵角δ、及び実舵角速度dδを含んでいる。
【0087】
また、主演算部1110が出力する規範出力は、上述した状態量ベクトルxに含まれる状態量の何れか又はそれらの組み合わせによって表現することができる物理量である。
【0088】
(主演算部による演算対象の運動方程式の一例)
主演算部1110による演算対象の運動方程式の一例を示せば以下の通りである。また、各物理量の上に付されたドット「・」は時間微分を表す。
【0089】
・バネ上並進及び回転運動に関する下記運動方程式
【0093】
・バネ下鉛直運動に関する下記運動方程式
【0095】
・実舵に関する下記運動方程式(ただし、タイヤ切戻りを考慮せず)
【0101】
上記の運動方程式及び関係式において、
mは車両のバネ上質量(すなわち車体200の質量)であり、
F
x、F
y、F
zは、車両のバネ上(すなわち車体200)に作用するx、y、z方向の力であり、
M
x、M
y、M
zは、車両のバネ上に作用するx、y、z軸に関するモーメントであり、
I
x、I
y、I
zは、車両のバネ上のx、y、z軸に関する慣性モーメントであり、
I
zxは、y軸の慣性乗積である。
【0102】
k
2f、k
2rは、前輪及び後輪に関するスプリングのバネ定数であり、
c
2f、c
2rは、前輪及び後輪に関するダンパの減衰係数であり、
F
contfl、F
contfr、F
contrl、F
contrrは、制御の結果、追加されるサスペンション力である。
【0103】
また、F
zfl、F
zfr、F
zrl、F
zrrは各車輪のサスペンション力であり、
z
fl〜z
rrは、各車輪におけるバネ上鉛直変位であり、
w
fl〜w
rrは、各車輪におけるバネ上鉛直速度であり、
z
1fl〜z
1rrは、各車輪におけるバネ下鉛直変位であり、
w
1fl〜w
1rrは、各車輪におけるバネ下鉛直速度であり、
上記は、バネ上と同じ動きをするボディ座標系で観測した状態量である。
【0104】
m1はバネ下質量、k
1はタイヤ上下変位に対する剛性である。また、F
zflm〜F
zrrmは、各輪のバネ下にかかるサスペンション反力であり、x方向及びy方向の並進運動、並びにz軸方向の回転運動(ヨー)のみ、バネ上と同じ動きをする座標系で、観測した物理量である。
【0105】
また、αは操舵角であり、
I
sは、キングピン軸周りの車輪慣性モーメントであり、
c
sは、キングピン等価粘性摩擦係数であり、
k
sは、キングピン軸周りの等価弾性係数である。
【0106】
M
contは、制御の結果、追加されるアシストトルクである。
【0107】
上記に挙げた運動方程式以外にも、主演算部1110は車輪回転運動に関する運動方程式を演算対象としてもよい。また、上記に挙げた運動方程式に現れる物理量は、互いに結びつけられる複数の関係式(例えば各座標変換等)が存在しており、各運動方程式は、これらの関係式と共に解かれる。
【0108】
(運動方程式の線形化と主演算部への実装)
上述した運動方程式は一般に非線形であり、以下のように表現できる。
【0110】
ここで、xは状態量を示すベクトルであり、f(x)、g(x)は、xの関数であり、ベクトルとして表現される。
【0111】
上記非線形の運動方程式をテイラー展開し、ヤコビ行列に各状態量の初期値を代入することにより以下に示す行列Aが得られ、同様の方法で以下に示す行列B、Cが得られる。
【0112】
その結果、線形化された運動方程式が、以下のように状態空間にて表現される。
【0114】
ここで、行列Aは、上述したシステム行列Aに対応し、行列Bは、上述した入力行列B0、B1、B2、B3に対応し、行列Cは、上述した観測行列Cに対応する。
【0115】
以上の説明から、
図4に示した主演算部1110は、対象とする運動方程式を線形的に演算する構成であることが分かる。
【0116】
(規範車両モデル演算部のその他の構成)
続いて、規範車両モデル演算部1100が備える構成のうち、主演算部1110以外の構成について説明する。
【0117】
(規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部)
規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部1120は、積分部1115による積分結果として、算出される状態量の一部である各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、後述する車両状態推定部1200にて算出する各車輪の路面変位z
0fl〜z
0rr、及び、接地荷重の定常値F
z0constfl〜F
z0constrrを用いて、規範車両モデルタイヤ接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを以下の式を用いて算出する。接地荷重の定常値F
z0constfl〜F
z0constrrは、例えば、フラット路面での静止状態における接地荷重値を予め、例えば出荷前に、計測することにより求められる。
【0118】
F
z0fl = -k
1(z
1flm-z
0fl) + F
z0constfl
F
z0rl = -k
1(z
1rlm-z
0rl) + F
z0constrl
F
z0fr = -k
1(z
1frm-z
0fr) + F
z0constfr
F
z0rr = -k
1(z
1rrm-z
0rr) + F
z0constrr
算出した規範車両モデルタイヤ接地荷重F
z0fl〜F
z0rrは、タイヤモデル演算部1140及び参照用タイヤ有効半径演算部1160に入力される。参照用タイヤ有効半径演算部1160は、規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部1120にて算出する規範車両モデルタイヤ接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを用い、例えば後述する参照用タイヤ有効半径に係る第二の式を用いて、参照用タイヤ有効半径R
efl〜R
errを算出する。
【0119】
(スリップ算出部)
スリップ算出部1130は、観測行列演算部1117による演算結果、参照用タイヤ有効半径演算部1160による演算結果、及び車輪速センサ320が検出した各車輪の車輪角速度ω
fl〜ω
rrを参照する。そして、各車輪のスリップ比s
fl〜s
rrを算出し、観測行列演算部1117による演算結果として各車輪のスリップ角β
fl〜β
rrを算出する。さらに、算出した結果を積算部1131及びタイヤモデル演算部1140に供給する。
【0120】
(タイヤモデル演算部)
タイヤモデル演算部1140は、主演算部1110による演算結果の少なくとも一部を直接的または間接的に参照した非線形演算を行う。
図4に示す例では、タイヤモデル演算部1140は、観測行列演算部1117による演算により得られる各車輪のスリップ比s
fl〜s
rr、各車輪のスリップ角β
fl〜β
rr、及び規範車両モデルタイヤ接地荷重算出部1120が算出した規範車両モデルタイヤ接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを参照して非線形演算を行う。すなわち、
図4に示す例では、タイヤモデル演算部1140は、主演算部1110による演算結果の少なくとも一部を間接的に参照した非線形演算を行う。
【0121】
より具体的には、タイヤモデル演算部1140は、各車輪のスリップ比s
fl〜s
rr、各車輪のスリップ角β
fl〜β
rr、及び各車輪の規範車両モデルタイヤ接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを参照する。そして、タイヤモデルに関する演算式を用いて、各車輪のタイヤ前後力F
x0fl〜F
x0rr、及び各車輪のタイヤ横力F
y0fl〜F
y0rrを算出する。タイヤモデル演算部1140による具体的な演算式は、本実施形態を限定するものではないが、例えば、左前輪を代表すると、一般に知られている近似式
【0123】
を用いることができる。ここで、第1式におけるF
Px0flは、直進時の左前輪のタイヤ前後力を表している。各変数は、タイヤの特性やF
z0flに依存する値である。第2式におけるF
Py0flは、タイヤ前後力を伴わない際のタイヤ横力を表している。
【0124】
ここで、本実施形態に係る規範車両モデル演算部1100において、主演算部1110は線形演算を行い、タイヤモデル演算部1140は主演算部1110による演算結果の少なくとも一部を直接的または間接的に参照した非線形演算を行う。このように線形演算部と非線形演算部とを分離させた構成を採用することにより、車両モデルを用いた状態量の演算を好適に行うことができる。
【0125】
また、タイヤモデル演算部1140は、タイヤモデルに基づく非線形演算を行うので、非線形演算を線形演算から好適に分離することができる。
【0126】
また、上述のように、第3の入力行列演算部1113は、タイヤモデル演算部1140による非線形演算結果を入力として取り込むので、主演算部1110による線形演算に非線形演算結果を好適に取り込むことができる。したがって、主演算部1110は線形演算を行いつつ精度の高い演算を行うことができる。
【0127】
(操縦安定性・乗心地制御部1150)
操縦安定性・乗心地制御部1150は、規範車両モデル各部を制御するための制御量を決定し、各部へ供給するために、観測行列演算部1117が出力する規範出力に対して作用する。操縦安定性・乗心地制御部1150による出力は、第4の入力行列演算部1118に供給され、入力行列B3が演算される。
【0128】
一例として、操縦安定性・乗心地制御部1150は、スカイフック制御、ロール姿勢制御、ピッチ姿勢制御及びバネ下制御、実舵角制御処理及び、制御量選択処理を行う。
【0129】
ここで、スカイフック制御とは、路面の凹凸を乗り越える際の規範車両モデルの動揺を抑制し、乗り心地を高める乗り心地制御(制振制御)のことである。
【0130】
スカイフック制御では、一例として、バネ上鉛直速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを参照して、スカイフック目標制御量を決定し、その結果を制御量選択処理の対象とする。
【0131】
ロール姿勢制御では、転舵時ロールレート、及び操舵角を参照して、ロール目標制御量を算出し、その結果を制御量選択処理の対象とする。
【0132】
ピッチ姿勢制御では、加減速時ピッチレートを参照してピッチ制御を行い、ピッチ目標制御量を算出し、その結果を制御量選択処理の対象とする。
【0133】
バネ下制御では、各車輪のバネ下鉛直速度を参照して、バネ下制振制御目標制御量を決定し、決定結果を制御量選択処理の対象とする。実舵角制御では、実舵角を参照して、目標制御量を算出し、その結果を制御量選択処理の対象とする。
【0134】
制御量選択処理では、スカイフック目標制御量、ロール目標制御量、ピッチ目標制御量、バネ下制振制御目標制御量、及び実舵角目標制御量のうち、最も大きい値を有する目標制御量を選択し出力してもよい。
【0135】
(車両状態推定部)
続いて、参照する図面を替えて、車両状態推定部1200について具体的に説明する。車両状態推定部1200は、入力値に対して推定用車両モデルを用いた演算を行い、演算結果である推定出力を減算部1012に供給する。また、車両状態推定部1200は、演算対象である種々の状態量を、第1の増幅部1021に供給する。
【0136】
図5は、車両状態推定部1200の構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、車両状態推定部1200は、主演算部1210、タイヤ接地荷重変動算出部(接地荷重変動算出部)1220、スリップ算出部1230、タイヤモデル演算部1240、仮想バネ・ダンパ力算出部1260、参照用タイヤ有効半径演算部(参照用車輪有効半径演算部)1270、路面変位算出部1280、積分部1231、積分部1271、及び加算部1275を備えている。
【0137】
(主演算部)
推定用車両モデルを用いた演算を行う主演算部1210は、1又は複数の入力値を参照し、車両状態に関する状態量についての線形演算を行うことによって1又は複数の出力値を算出する。主演算部1210のことを単に演算部と呼称することもある。
【0138】
主演算部1210は、
図5に示すように、第1の入力行列演算部1211、第2の入力行列演算部1212、第3の入力行列演算部1213、第4の入力行列演算部1218、第5の入力行列演算部1219、加算部1214、積分部1215、システム行列演算部1216、観測行列演算部1217を備えている。ここで、第1の入力行列演算部1211、第2の入力行列演算部1212、第3の入力行列演算部1213、第4の入力行列演算部1218、及び、第5の入力行列演算部1219を第1の演算部とも呼称する。
【0139】
接地荷重変動入力に対する入力行列B00'に関する演算を行う第1の入力行列演算部1211には、タイヤ接地荷重変動算出部1220により得られる接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrが入力される。
【0140】
第1の入力行列演算部1211は、入力された接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrに対して、入力行列B00'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。
【0141】
操作量に対する入力行列B1'に関する演算を行う第2の入力行列演算部1212は、一例として、操舵部材410の操舵角に対して入力行列B1'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。なお、第2の入力行列演算部1212が演算する入力行列B1'は、第2の入力行列演算部1112が演算する入力行列B1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0142】
タイヤ前後/横力に対する入力行列B2'に関する演算を行う第3の入力行列演算部1213は、後述するタイヤモデル演算部1240から供給される各車輪のタイヤ前後力F
x0fl〜F
x0rr、及び各車輪のタイヤ横力F
y0fl〜F
y0rrに対して入力行列B2'を演算する。そして、演算した結果を加算部1214に供給する。なお、第3の入力行列演算部1213が演算する入力行列B2'は、第3の入力行列演算部1113が演算する入力行列B2と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0143】
また、制御量演算部1000の出力に対する入力行列B4'に関する演算を行う第4の入力行列演算部1218には、制御量演算部1000の出力が入力される。第4の入力行列演算部1218は、制御量演算部1000の出力に対して、入力行列B4'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。
【0144】
仮想バネ・ダンパ力に対する入力行列B5'に関する演算を行う第5の入力行列演算部1219は、後述する仮想バネ・ダンパ力算出部1260の出力に対して入力行列B5'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。
【0145】
加算部1214は、第1の入力行列演算部1211、第2の入力行列演算部1212、第3の入力行列演算部1213、第4の入力行列演算部1218、第5の入力行列演算部1219、及び後述するシステム行列演算部1216からの出力を加算する。そして、加算結果を積分部1215に供給する。
【0146】
積分部1215は、加算部1214から供給される加算結果を積分する。積分部1215による積分結果は、推定状態量として出力されると共に、システム行列演算部1216、観測行列演算部1217及び、仮想バネ・ダンパ力算出部1260に供給される。
【0147】
システム行列演算部(第2の演算部)1216は、積分部1215による積分結果に対して、システム行列A'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。
【0148】
観測行列演算部(第3の演算部)1217は、積分部1215による積分結果に対して、観測行列C'を演算し、演算した結果を推定出力として、前述した減算部1012に供給する。また、観測行列C'を演算した結果はスリップ算出部1230にも供給される。
【0149】
なお、主演算部1210が備える各部における演算は、線形演算として実行される。したがって、上記の構成を有する主演算部1210によれば、1又は複数の入力値を参照した車両状態に関する状態量についての線形演算を好適に行うことができる。
【0150】
また、主演算部1110と同様に、主演算部1210への入力は上記の例に限られるものではなく、例えば、
・操舵トルク
・各車輪の車輪角速度
・各車輪の実舵角
・各車輪の駆動トルク
の少なくとも何れかを主演算部1210に入力する構成とし、主演算部1210がこれらの入力値に対する線形演算を実行する構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1210が、各システム行列A'、入力行列B'、及び観測行列C'によって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、上記の入力を参照して各車両モデルを切り替える構成とすることができる。
【0151】
また、車両900が、積載量検知手段を備える構成とし、主演算部1210には、当該積載量検知手段による検出値を入力する構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1210が、各積載量に応じたシステム行列A'、入力行列B'、及び観測行列C'によって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、積載量検知手段による検出値に応じて各車両モデルを切り替える構成とすることができる。なお、上記積載量検知手段は、センサで積載量を検知する構成であってもよいし、センサレスで積載量を検知する構成であってもよい。
【0152】
主演算部1210への入力は、
・ヨーレート
・前後G
・横G
・ブレーキ圧
・ESCフラグ、TCSフラグ、ABSフラグ
・エンジントルク
・エンジン回転数
の少なくとも何れかをさらに含む構成としてもよい。この場合、例えば、主演算部1210が、各システム行列A'、入力行列B'、及び観測行列C'によって表現される各車両モデルを切り替える車両モデル切替部を備える構成とし、当該車両モデル切替部が、上記の入力を参照して各車両モデルを切り替える構成とすることができる。
【0153】
(主演算部による演算対象の状態量の例)
主演算部1210による演算対象の状態量は、主演算部1110による演算対象の状態量と同様であるのでここでは詳細な説明を省略する。なお、主演算部1210が出力する規範出力は、主演算部1110と同様に、上述した状態量ベクトルxに含まれる状態量の何れか又はそれらの組み合わせによって表現することができる物理量である。
【0154】
(運動方程式の線形化と主演算部への実装)
運動方程式の線形化と主演算部1210への実装は、主演算部1110への実装において説明した事項と同様である箇所については、詳細な説明を省略する。車両状態推定部のバネした鉛直運動に関する運動方程式については、下式とする。なお、主演算部1110への実装において説明した、線形化された運動方程式における行列A、Cは、主演算部1210における行列A'、C'に対応する。また、線形化された運動方程式における行列Bは、主演算部1210における行列B00'、B1'、B2'、B4'、B5'に対応する。
【0156】
以上の説明から、
図5に示した主演算部1210は、対象とする運動方程式を線形的に演算する構成であることが分かる。
【0157】
(車両状態推定部のその他の構成)
続いて、車両状態推定部1200が備える構成のうち、主演算部1210以外の構成について説明する。
【0158】
(スリップ算出部)
スリップ算出部1230は、観測行列演算部1217による演算結果、参照用タイヤ有効半径演算部1270による演算結果、及び、車輪速センサ320が検出した各車輪の車輪角速度ω
fl〜ω
rrを参照する。そして、各車輪のスリップ比s
fl〜s
rrを算出し、観測行列演算部1217による演算結果として各車輪のスリップ角β
fl〜β
rrを算出し、算出した結果を積分部1231、及びタイヤモデル演算部1240に供給する。積算部1231は、スリップ算出部1230から供給される算出結果を積分し、積分後のスリップ比sを算出する。積算部1231により算出された積分後のスリップ比sは、タイヤ接地荷重変動算出部1220に供給される。
【0159】
(タイヤ接地荷重変動算出部)
タイヤ接地荷重変動算出部1220は、積分部1215により演算された前後方向のバネ上速度uの推定値、ピッチレートqの推定値、及びヨーレートrの推定値、車輪速センサ320が検出した各車輪の車輪角速度ω
fl〜ω
rrを参照する。そして、各車輪のタイヤ有効半径(車輪有効半径)R
efl〜R
errを算出する。各車輪のタイヤ有効半径R
efl〜R
errは、各車輪の車輪速度V
fl〜V
rrを各車輪の車輪角速度ω
fl〜ω
rrで除することにより求まる。
【0161】
また、各車輪の車輪速度V
fl〜V
rrは、車体200の前後方向のバネ上速度u、ピッチレートq、ヨーレートr、及び各車輪のスリップ比s
fl〜s
rrを用いて、以下のように表される。
【0163】
ここで、h
0は、路面から車体200の重心までの距離を表しており、tr
fは、車体200のフロントのトレッド幅に0.5を乗じたものを表しており、tr
rは、車体200のリアのトレッド幅に0.5を乗じたものを表している。このように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪角速度ω、バネ上前後速度u、ピッチレートq及びヨーレートrを参照して各車輪のタイヤ有効半径R
eを算出する。このように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、1又は複数の入力値を参照してタイヤ有効半径R
eを算出する車輪有効半径算出部を兼ねている。
【0164】
さらに、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、fl、rl、fr及びrrのそれぞれについて、入力された車輪角速度ω及び算出した車輪速度Vの少なくとも一方がゼロであるか否かを判定する。入力されたω及び算出したVの一方または両方がゼロでない場合には、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、算出したR
eを真とする。fl、rl、fr及びrrのいずれかにおける入力されたω及び算出したVの一方または両方がゼロである場合には、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、対応するfl、rl、fr及びrrのR
econstを真とする。R
econstは、定常値であるR
eであり、例えば、接地荷重F
z0constとなるときのR
eの値である。
【0165】
タイヤ接地荷重変動算出部1220は、真と判定したR
eを参照し、下記式(接地荷重変動に係る第一の式)
【0167】
によって、接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrを算出する。
【0168】
ここで、f(R
e)は、タイヤ有効半径R
eとの相関関係から決まる接地荷重F
z0の値であり、このようなR
eとF
z0との相関関係は、例えば、
図6に示すマップで表される。このようなマップを参照することにより、タイヤ有効半径R
efl、R
efr、R
erl、R
errに応じた接地荷重F
z0が求められる。
【0169】
算出した接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrは、第1の入力行列演算部1211及び後述する路面変位算出部1280に供給される。また、算出した接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrは、各車輪の接地荷重定常値F
z0constfl〜F
z0constrrと加算されたうえで、各車輪の接地荷重F
z0fl〜F
z0rrとしてタイヤモデル演算部1240及び後述する参照用タイヤ有効半径演算部(参照用車輪有効半径演算部)1270に供給される。
【0170】
このように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪角速度ω、バネ上前後速度u、ピッチレートq及び、ヨーレートr、及びスリップ比sを参照する。そして、車輪の接地荷重変動を計算し、フィードバック的に第1の入力行列演算部1211に入力する。
【0171】
なお、本実施形態において、上述した車体200の前後方向のバネ上速度u、ピッチレートq、ヨーレートr、及び各車輪のスリップ比s
fl〜s
rrは、何れもセンサ値ではない。このように本実施形態において、ECU600の各部において算出した値を用いている。このため、追加のセンサを要することなく、状態量を好適に演算することができる。
【0172】
本実施形態において、参照用タイヤ有効半径演算部1270が算出する参照用タイヤ有効半径は、後述するようにスリップ算出部1230、タイヤモデル演算部1240等を介して結果的にタイヤ接地荷重変動算出部1220に参照される。このように、参照用タイヤ有効半径演算部1270が算出する参照用タイヤ有効半径は、タイヤ接地荷重変動算出部1220にフィードバック的に入力される。よって、状態量を精度よく演算することができる。
【0173】
(タイヤモデル演算部)
タイヤモデル演算部1240は、主演算部1210による演算結果の少なくとも一部を直接的または間接的に参照した非線形演算を行う。
図5に示す例では、タイヤモデル演算部1240は、観測行列演算部1217による演算により得られる各車輪のスリップ比s
fl〜s
rr、各車輪のスリップ角β
fl〜β
rr、及びタイヤ接地荷重変動算出部1220が演算する接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrと定常値F
z0constfl〜F
z0constrrとを加算して得られる各車輪の接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを参照して非線形演算を行う。すなわち、
図5に示す例では、タイヤモデル演算部1240は、主演算部1210による演算結果の少なくとも一部を間接的に参照した非線形演算を行う。
【0174】
より具体的には、タイヤモデル演算部1240は、各車輪のスリップ比s
fl〜s
rr、各車輪のスリップ角β
fl〜β
rr、及び各車輪の接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを参照する。そして、タイヤモデルに関する演算式を用いて、各車輪のタイヤ前後力F
x0fl〜F
x0rr、及び各車輪のタイヤ横力F
y0fl〜F
y0rrを算出する。タイヤモデル演算部1240による具体的な演算式は、本実施形態を限定するものではないが、例えば、タイヤモデル演算部1140が用いる数式と同様の数式を用いることができる。
【0175】
なお、主演算部1210による演算結果の少なくとも一部を直接的または間接的に参照した非線形演算を行うタイヤモデル演算部1240は、各車輪のタイヤ前後力F
x0fl〜F
x0rr、及び各車輪のタイヤ横力F
y0fl〜F
y0rrを算出するタイヤ力推定装置としても捉えることができる。
【0176】
(仮想バネ・ダンパ力算出部)
仮想バネ・ダンパ力算出部1260は、積分部1215により演算した結果の一部である各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、及び各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、を参照する。そして、各車輪に関する仮想バネ及び仮想ダンパによる力F
s1fl〜F
s1rrを以下の式により算出し、算出結果を第5の入力行列演算部1219に供給する。
【0178】
ここでk
s1f〜k
s1rは、各車輪のバネ下変位に乗ぜられる係数であり、c
s1f〜c
s1rは、各車輪のバネ下速度に乗ぜられる係数である。ここで、この仮想バネ・ダンパ力を考慮するために、バネ下鉛直運動に関する運動方程式としては、
【0181】
(参照用タイヤ有効半径演算部)
参照用タイヤ有効半径演算部1270は、入力された定常値加算後の接地荷重F
z0fl〜F
z0rrを参照する。そして、各車輪の参照用タイヤ有効半径R
efl、R
efr、R
erl、R
errを以下の式(参照用タイヤ有効半径に係る第二の式)によって演算する。さらに、演算した結果をスリップ算出部1230に供給する。
【0183】
ここで、B
Reff、D
Reff、F
Reff、F
z0nomは、実験結果等から得られるフィッティング係数である。また、k
1は、タイヤの上下変位に対する剛性であり、定数である。また、前述した接地荷重変動に係る第一の式中におけるf(R
e)マップは、上記参照用タイヤ有効半径に係る第二の式で表現されるF
z0とR
eとの関係と実質的に等価である。
【0184】
積算部1231は、スリップ算出部1230から供給される算出結果を積分し、積分後のスリップ比s
fl〜s
rrを算出する。積算部1231により算出された積分後のスリップ比s
fl〜s
rrは、タイヤ接地荷重変動算出部1220に供給される。
【0185】
参照用タイヤ有効半径R
efl〜R
errは、スリップ算出部1230に供給される。
【0186】
(路面変位算出部)
路面変位算出部1280は、主演算部1210が演算した各車輪のバネ下変位z
1flm〜z
1rrm、及び、タイヤ接地荷重変動算出部1220が算出した各車輪の接地荷重変動dF
z0fl〜dF
z0rrを用いて、
【0188】
により、各車輪の路面変位z
0fl〜z
0rrを算出する。算出した路面変位z
0fl〜z
0rrは、規範車両モデル演算部1100に供給される。
【0189】
ここで、本実施形態に係る車両状態推定部1200において、主演算部1210は線形演算を行い、タイヤモデル演算部1240は主演算部1210による演算結果の少なくとも一部を直接的または間接的に参照した非線形演算を行う。このように線形演算部と非線形演算部とを分離させた構成を採用することにより、車両モデルを用いた状態量の演算を好適に行うことができる。
【0190】
また、タイヤモデル演算部1240は、タイヤモデルに基づく非線形演算を行うので、非線形演算を線形演算から好適に分離することができる。
【0191】
また、上述のように、第3の入力行列演算部1213は、タイヤモデル演算部1240による非線形演算結果を入力として取り込むので、主演算部1210による線形演算に非線形演算結果を好適に取り込むことができる。したがって、主演算部1210は線形演算を行いつつ精度の高い演算を行うことができる。
【0192】
また、上述のように、本実施形態に係る車両状態推定部1200の主演算部1210には、各車輪のタイヤ接地荷重変動算出部1220で算出した接地荷重変動dF
z0fl、dF
z0fr、dF
z0rl、dF
z0rrが入力される。このような構成とすることによって、追加センサを備える必要なく、状態量をより精度よく演算することができる。
【0193】
このように、本実施形態に係る車両状態推定部1200は、標準的に装備された車載センサ情報のみを利用し、路面入力起因及び操舵入力起因により生じる車両挙動を区別せず同一の車両挙動推定部(車両モデル)を利用する、これにより、車両の状態を好適に推定することができる。特に、従来の技術では不可能であった、路面入力及び操舵入力が同時に生じる際の車両挙動の推定を実現することができる。
【0194】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る車両状態推定部1200は、車両における車輪の接地荷重F
z0の変動分である車輪の接地荷重変動dF
z0を算出するタイヤ接地荷重変動算出部1220と、1又は複数の入力値を参照してタイヤ有効半径R
eを算出する車輪有効半径算出部と、車両モデルを用いた演算を行う主演算部1210とを備えている。そして、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪有効半径算出部が算出したタイヤ有効半径R
eを入力とし接地荷重F
z0を出力とするマップを参照して、車輪の接地荷重変動dF
z0を算出する。また、主演算部1210は、タイヤ接地荷重変動算出部1220が算出した車輪の接地荷重変動dF
z0を含む1又は複数の入力値を参照し、車両状態に関する状態量についての演算を行うことによって1又は複数の出力値を算出する。よって、車両状態推定部1200に入力される各車輪の接地荷重変動を好適に算出することができる。
【0195】
前述した実施形態では、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪有効半径算出部を兼ねているが、当該車輪有効半径算出部は、タイヤ接地荷重変動算出部1220から独立した構成であってもよい。たとえば、上記車輪有効半径算出部は、タイヤ接地荷重変動算出部1220から独立して配置され、u、q、r及びωが入力され、かつ算出したタイヤ有効半径R
eをタイヤ接地荷重変動算出部1220に供給するように構成されていてもよい。このような構成は、タイヤ接地荷重変動算出部1220の負荷を軽減する観点からより効果的である。
【0196】
また、上述のように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪角速度、バネ上前後速度の推定値、ヨーレートの推定値、及びピッチレートの推定値を参照して、車輪の接地荷重変動を好適に算出することができる。
【0197】
また、上述のように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車両の車輪速度の推定値V及び車輪角速度ωの一方または両方が0である場合に、定常値であるタイヤ有効半径R
econstを算出してもよい。この構成によれば、ホイルスピン(V
fl〜V
rrのいずれかがゼロ)の場合、あるいはホイルロック(ω
fl〜ω
rrのいずれかがゼロ)の場合においても接地荷重変動を参照する車両状態の推定制御を継続して実施することが可能である。よって、車輪の接地荷重変動dF
z0をより好適に算出することができる。
【0198】
上記の車輪速度Vの推定値及び車輪角速度ωの判定は、車輪速度V、車輪角速度ω、車輪速度Vの算出で参照されるバネ上速度u、ピッチレートq、ヨーレートr、からなる群から選ばれる一以上の数値が、算出されるタイヤ有効半径R
eとして許容される所定の範囲内に含まれているか否か、の判定に置き換えることが可能である。あるいは、上記の車輪速度Vの推定値及び車輪角速度ωの判定は、算出されたタイヤ有効半径R
eとして許容される所定の範囲内に含まれているか否か、の判定に置き換えることが可能である。このような許容される所定の範囲に基づく判定では、範囲外の場合に、前述したように定常値を採用してもよいし、あるいは範囲外の期間、接地荷重変動を参照する車両状態の制御を停止してもよい。
【0199】
また、上述のように、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、スリップ比の推定値を更に参照して車輪の接地荷重変動を好適に算出することができる。さらに、車両状態推定部1200は、参照用タイヤ有効半径R
eを算出する参照用タイヤ有効半径演算部1270を更に備え、スリップ算出部1230は、参照用タイヤ有効半径演算部1270が算出する参照用タイヤ有効半径R
eを、スリップ比の推定にさらに参照する。よって、タイヤ接地荷重変動算出部1220は、車輪の接地荷重変動をより一層好適に算出することができる。
【0200】
なお、参照用タイヤ有効半径演算部1270は、独自に参照用タイヤ有効半径R
eを算出するが、タイヤ接地荷重変動算出部1220で算出したタイヤ有効半径R
eをそのまま参照用タイヤ有効半径R
eとしてもよい。あるいは、参照用タイヤ有効半径演算部1270は、タイヤ接地荷重変動算出部1220で算出したタイヤ有効半径R
eと、加算部1275から供給される接地荷重F
z0とを参照して参照用タイヤ有効半径R
eを算出してもよい。
【0201】
また、前述したように、車両状態推定部1200における1又は複数の入力値には、操作入力が含まれてもよい。このような構成によれば、車両の状態を好適に推定して高い乗り心地及び高い操縦安定性を実現する観点からより一層効果的である。
【0202】
また、本実施形態に係る車両状態推定部1200は、車輪の接地荷重変動を少なくとも参照して、車輪の路面変位を算出する路面変位算出部を備えているので、車輪の路面変位を好適に算出することができる。
【0203】
また、上述のように、本実施形態に係る車両状態推定部1200は、仮想バネ・ダンパ力算出部1260を備えており、仮想バネ・ダンパ力算出部1260は、仮想バネ及び仮想ダンパによる力(単に仮想的なバネの力ともいう)F
s1fl〜F
s1rrを算出し、算出結果を第5の入力行列演算部1219に供給する。
【0204】
発明者の知見によれば、仮想バネ及び仮想ダンパによる力を考慮しない場合、車両状態推定部1200による状態量の推定において、推定結果が発散しやすいという傾向がある。上記のように仮想的なバネ・ダンパ力F
s1fl〜F
s1rrを算出し、算出結果を車両状態推定部1200の主演算部1210に供給することによって、このような発散を抑制することができる。
【0205】
また、車両状態推定部1200は、車両900の前後方向のバネ上速度u、横方向のバネ上速度y、バネ上鉛直速度w、ロールレートp、ピッチレートq、ヨーレートr、及び、車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrmを推定する。このような構成は、車両900を偏差なく規範モデル特性に追従させるようにその車両状態を好適に制御する観点からより一層効果的である。
【0206】
また、車両状態推定部1200は、車両900のロール角、ピッチ角、ヨー角、各車輪のサスストローク変位、各車輪のバネ下鉛直変位、実舵角、実舵角速度、各車輪のスリップ比、各車輪のスリップ角、各車輪のタイヤ前後力、各車輪の横力、各車輪の接地荷重変動、各車輪のタイヤ有効半径、各車輪の参照用タイヤ有効半径、及び各車輪での路面変位の少なくとも何れかを推定する。このような構成も、車両900を偏差なく規範モデル特性に追従させるようにその車両状態を好適に制御する観点からより一層効果的である。
【0207】
また、上記推定出力(出力値)は、バネ上鉛直速度、ロールレート、及びピッチレートを含む。このような構成も、車両900を偏差なく規範モデル特性に追従させるようにその車両状態を好適に制御する観点からより一層効果的である。
【0208】
また、上記入力値は、更に、制御量演算部1000の出力値を含み、当該出力値は、更に、車両900の前後方向のバネ上速度u、車両の横方向のバネ上速度y、車両のヨーレートr、車両のロール角phi、車両のピッチ角theta、車両のヨー角psi、各車輪のサスストローク変位SusSt
fl〜SusSt
rr、各車輪のバネ下鉛直変位z
1flm〜z
1rrm、各車輪のバネ下鉛直速度w
1flm〜w
1rrm、実舵角δ、実舵角速度dδの少なくとも何れかを含んでいる。このような構成も、車両900を偏差なく規範モデル特性に追従させるようにその車両状態を好適に制御する観点からより一層効果的である。
【0209】
また、ECU600は、前述した車両状態推定部1200、規範車両モデル演算部1100、減算部1012、積分部1014、第1の増幅部1021、第2の増幅部1022、第3の増幅部1023、ならびに、これらの増幅部による増幅結果を加算する加算部1024、を備える。そして、車両状態推定部1200による推定結果を利用して車両状態の制御を行う。このため、高い乗り心地及び高い操縦安定性を実現することができる。
【0210】
また、本実施形態に係るサスペンション制御装置、及びサスペンション装置は、車両状態推定部1200を備え、車両状態推定部1200による推定結果を利用してサスペンションの制御を行う。このため、高い乗り心地及び高い操縦安定性を実現することができる。
【0211】
また、本実施形態に係るステアリング制御装置、及びステアリング装置は、車両状態推定部1200を備え、車両状態推定部1200による推定結果を利用してステアリングの制御を行う。このため、高い乗り心地及び高い操縦安定性を実現することができる。
【0212】
〔実施形態2〕
以下、本発明の実施形態2について、詳細に説明する。なお、既に説明した部材と同様の部材については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0213】
(車両900の構成)
本実施形態に係る車両900は、実施形態1と同様に、車輪速センサ320に加え、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、及び、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350を備えている。
【0214】
これらの各種センサによる検出結果は、ECU600aに供給される。
【0215】
(ECU600a)
本実施形態に係る車両900は、実施形態1において説明したECU600に代えて、ECU600aを備えている。
【0216】
以下では、
図7〜
図9を参照して、本実施形態に係るECU600aについて具体的に説明する。
図7は、ECU600aの概略構成例を示す図である。
【0217】
図7に示すように、ECU600aは、ECU600と同様に、規範車両モデル演算部1100を備えている。また、ECU600aは、ECU600が備える車両状態推定部1200に代えて、車両状態推定部1200aを備えている。
【0218】
また、ECU600aには、車両各部1300から、
【0220】
が入力される。ここで、ωは、実施形態1と同様に、車輪速センサ320が検出した車輪の角速度を表している。ドット付のu
sは、前後Gセンサ340が検出した車両のバネ上前後方向加速度を表している。ドット付のv
sは、横Gセンサ330が検出した車両のバネ上横方向加速度を表している。また、ECU600aには実施形態1と同様に操作入力も入力される。なお、本実施形態において、下付き添え字「s」が付された状態量は、当該状態量がセンサによって検出されたものであることを示している。
【0221】
図7に示したECU600aのその他の構成は、実施形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0222】
(車両状態推定部)
図8を参照して本実施形態に係る車両状態推定部1200aについて説明する。
図8は、車両状態推定部1200aの構成例を示すブロック図である。
【0223】
図8に示すように、本実施形態に係る車両状態推定部1200aは、実施形態1に係る車両状態推定部1200が備える各構成に加え、フロント路面変位算出部1285、リア路面変位算出部1290、第1の入力行列演算部1211a、第2の入力行列演算部1211b、推定状態量再構築部1210a、ゲイン適用部1211c、減算部1211d、及び第6の入力行列演算部1211eを備えている。なお、車両状態推定部1200aは、実施形態1に係る車両状態推定部1200が備える路面変位算出部1280を備えていない。
【0224】
図8に示すように、車両状態推定部1200aには、実施形態1に係る車両状態推定部1200への各種の入力に加え、
・前後Gセンサ340が検出した車両のバネ上前後方向加速度(ドット付のu
s)
・横Gセンサ330が検出した車両のバネ上横方向加速度(ドット付のv
s)
・ヨーレートセンサ350が検出した車両のヨーレートr
s
も入力される。また、推定状態量再構築部1210aには、初期速度u_iniも入力される。
【0225】
(フロント路面変位算出部)
フロント路面変位算出部1285は、主演算部1210が演算した前輪のバネ下鉛直変位z
1flm、z
1frm、及び、タイヤ接地荷重変動算出部1220が算出した前輪の接地荷重変動dF
z0fl、dF
z0frを用いて、前輪の路面変位z
0fl、z
0frを算出する。フロント路面変位算出部1285による路面変位z
0fl、z
0frの具体的な算出処理は、路面変位算出部1280と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0226】
(リア路面変位算出部)
リア路面変位算出部1290は、前輪の接地荷重変動、及び前輪のバネ下変位に基づき、後輪の路面変位を算出する。より具体的には、前輪の接地荷重変動dF
z0fl、dF
z0fr、及び前輪のバネ下鉛直変位z
1flm、z
1frmに基づき、以下の式を用いて、後輪の路面変位z
0rl、z
0rrを算出する。
【0228】
ここで、k
1は、タイヤ上下変位に対する剛性であり、定数である。
【0229】
また、リア路面変位算出部1290は、前輪の接地荷重変動dF
z0fl、dF
z0fr、及び前輪のバネ下鉛直変位z
1flm、z
1frmに基づき、算出した路面変位z
0rl、z
0rrを、前輪の路面変位に比べて、
t=WH/V
ave
の時間的遅れを伴わせて、第2の入力行列演算部1211bに入力する。ここで、WHは、車両900のホイールベースの長さを表しており、V
aveは、例えば、車輪速センサ320による検出結果の四輪の平均値を利用できる。ここで、V
aveについては、推定のバネ上前後速度を利用してもよいし、GPSセンサの利用などの別手段で取得したものを利用してもよい。
【0230】
(第2の入力行列演算部)
リア路面変位に対する入力行列B0
r'に関する演算を行う第2の入力行列演算部1211bは、上述したリア路面変位算出部1290の出力に対して入力行列B0
r'を演算し、演算した結果を加算部1214に供給する。
【0231】
減算部1211dは、推定状態量再構築部1210aの出力である、バネ上前後方向加速度の推定値、バネ上横方向加速度の推定値及びヨーレートの推定値から、前後Gセンサ340が検出した車両のバネ上前後方向加速度(ドット付のu
s)、横Gセンサ330が検出した車両のバネ上横方向加速度(ドット付のv
s)、及びヨーレートセンサ350が検出した車両のヨーレートr
sを減算して得られる結果を、ゲイン適用部1211cに供給する。
【0232】
(ゲイン適用部)
ゲイン適用部1211cは、減算部1211dの出力に対してオブザーバゲインを乗じることによって得られた結果を第6の入力行列演算部1211eに入力する。第6の入力行列演算部1211eは、ゲイン適用部1211cの出力に対して入力行列B6'を演算し、演算した結果を加算部1214に入力する。
【0233】
減算部1211d及びゲイン適用部1211cが存在することによって、実施形態1において説明したバネ上並進及び回転運動に関する運動方程式のうち、F
x、F
y、M
zに関する運動方程式は、本実施形態に係る車両状態推定部1200aでは、以下のように変更される。
【0235】
ここで、ドット付のuは、車両のバネ上前後方向加速度の推定値を示しており、ドット付のu
sは、上述の通り、前後Gセンサ340が検出した車両のバネ上前後方向加速度である。ドット付のuと、ドット付のu
sとの差分は、上述した減算部1211dによって算出される。vについても同様である。また、rは、ヨーレートの推定値を示しており、r
sは、ヨーレートセンサ350が検出したヨーレートを示している。rとr
sとの差分は、上述した減算部1211dによって算出される。
【0236】
また、L
1、L
2、L
3は、ゲイン適用部1211cによって乗ぜられる各オブザーバゲインを表している。
【0237】
なお。L
1、L
2、L
3としては、それぞれ一定値を用いる構成としてもよいが、車体の速度に応じて変化する値を用いる構成としてもよい。
【0238】
(推定状態量再構築部)
図9は、推定状態量再構築部1210aの構成例を示すブロック図である。推定状態量再構築部1210aは、
図9に示すように、加算部1221、及び推定状態量再計算部1222を備えている。推定状態量再構築部1210aには、再構築前の状態量が入力される。再構築前の状態量のうち、車体200の前後方向のバネ上速度uは、加算部1221にて、初期速度u_iniと加算されたうえで、推定状態量再計算部1222に入力される。また、推定状態量再計算部1222には以下が入力される。
【0239】
・車体200の横方向のバネ上速度v
・車体200の上下方向のバネ上速度w
・オイラー角の3成分(phi、theta、psi)
・前後Gセンサ340が検出した車両のバネ上前後方向加速度(ドット付のu
s)
・横Gセンサ330が検出した車両のバネ上横方向加速度(ドット付のv
s)
そして、推定状態量再計算部1222は、以下の式に基づき、再計算後の前後方向のバネ上速度u
new、再計算後の横方向のバネ上速度v
new、車両のバネ上前後方向加速度の推定値(ドット付のu)、及び車両のバネ上横方向加速度の推定値(ドット付のv)を算出する。
【0241】
ここで、下付き添え字「g」が付された状態量は、地上に固定されたグローバル座標系での状態量を示しており、下付き添え字「g」が付されていない状態量は、バネ上と同じ動きをするボディ座標系での状態量を示している。また、車体200の上下方向のバネ上の加速度であるドット付のwとしては、推定された状態量を元に計算する。
【0242】
また、
GR
Bは、ボディ座標系からグローバル座標系への座標変換行列を示しており、また、
BR
Gは、グローバル座標系からボディ座標系への座標変換行列を示しており、それぞれ、以下の式で与えられる。
【0244】
推定状態量再計算部1222によって再計算された前後方向のバネ上速度u
new及び横方向のバネ上速度v
newは、
図9に示すように、他の状態量と共に、再構築後の状態量として推定状態量再構築部1210aから出力され、システム行列演算部1216及び減算部1211cに入力される。また、推定状態量再計算部1222によって計算された、ドット付きのu、ドット付きのvは、状態量rとともに、減算部1211dに入力される。
【0245】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ECU600、600aの制御ブロック(制御量演算部1000、規範車両モデル演算部1100、車両状態推定部1200、1200a)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0246】
後者の場合、ECU600、600aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラム及び各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0247】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。