【解決手段】自律操舵装置は、前方目標角度算出部と、ヨーレート取得部と、演算タイヤ角度算出部と、舵角制御部と、を備える。前方目標角度算出部は、走行経路上の前方の点であって田植機を当該走行経路に近づけるための目標とする点である前方目標点と当該田植機とを結ぶ線分と、走行経路と、がなす角である前方目標角度を算出する。ヨーレート取得部は、田植機に配置された角速度センサから、鉛直方向を回転軸とした田植機の角速度であるヨーレートを取得する。演算タイヤ角度算出部は、ヨーレート取得部が取得したヨーレートを実現するタイヤの舵角である演算タイヤ角度を算出する。舵角制御部は、前方目標角度と演算タイヤ角度を比較する第1比較処理を行い、当該比較結果に基づいて舵角を制御する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態の自律走行システム100は、圃場内で田植え(苗の植付け)を行う田植機1に自律走行を行わせるためのシステムである。ここで、自律走行とは、少なくとも操舵を自律的に行って田植機1を走行させることを意味する。本実施形態では、無線通信端末7を用いてオペレータが自律走行に関する設定を行い、その設定に基づいて田植機1が自律走行を行う。また、本実施形態では、オペレータの乗車中において田植機1に自律走行を行わせる構成であるが、オペレータが乗車していない田植機1に自律走行を行わせることもできる。
【0017】
初めに、本実施形態の田植機1について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、田植機1の側面図である。
図2は、田植機1の平面図である。
図1及び
図2に示すように、田植機1は、車体部11と、左右1対の前輪12と、左右一対の後輪13と、植付部14と、を備える。
【0018】
車体部11の前部に配置されたボンネット21の内部には、エンジン22が配置されている。エンジン22が発生させた動力はミッションケース23を介して前輪12及び後輪13に伝達される。ミッションケース23を介して伝達された動力は、車体部11の後部に配置されたPTO軸24を介して植付部14にも伝達される。車体部11の前後方向で前輪12と後輪13の間の位置には、オペレータが搭乗する運転座席25が設けられている。運転座席25の前方には、オペレータが田植機1を操舵するための操舵ハンドル26が配置されている。
【0019】
植付部14は、車体部11の後方に昇降リンク機構31を介して連結されている。昇降リンク機構31は、トップリンク31a及びロワーリンク31b等を含む平行リンク構造により構成されている。ロワーリンク31bには昇降シリンダ32が連結されている。この構成で、昇降シリンダ32を伸縮させることにより、植付部14全体を上下に昇降させることができる。
【0020】
植付部14は、植付入力ケース33と、複数の植付ユニット34と、苗載台35と、複数のフロート36と、予備苗台38と、を主として備えている。
【0021】
それぞれの植付ユニット34は、植付伝動ケース41と、回転ケース42と、を備える。植付伝動ケース41には、PTO軸24及び植付入力ケース33を介して動力が伝達される。それぞれの植付伝動ケース41には、車幅方向の両側に回転ケース42が取り付けられている。それぞれの回転ケース42には、田植機1の進行方向に並べて2つの植付爪43が取り付けられている。これらの2つの植付爪43により、1条分の植付が行われる。
【0022】
図1に示すように、苗載台35は、植付ユニット34の前上方に配置されており、苗マットを載置可能に構成されている。苗載台35は、往復で横送り移動可能(横方向にスライド可能)に構成されている。また、苗載台35は、当該苗載台35の往復移動端で苗マットを間欠的に下方に縦送り搬送可能に構成されている。この構成により、苗載台35は、苗マットの苗を各植付ユニット34に対して供給できるようになっている。こうして、田植機1では、各植付ユニット34に対して苗を順次供給し、連続的に苗の植付けを行うことができる。
【0023】
図1に示すフロート36は、植付部14の下部に設けられ、その下面が地面に接触することができるように配置されている。フロート36が地面に接触することにより、苗を植え付ける前の田面が整地される。また、フロート36には、当該フロート36の揺動角を検出する図略のフロートセンサが設けられている。フロート36の揺動角は、地面と植付部14の距離に対応している。田植機1は、フロート36の揺動角に基づいて昇降シリンダ32を動作させて植付部14を上下に昇降させることにより、植付部14の対地高さを一定に保つことができる。
【0024】
予備苗台38は、ボンネット21の車幅方向外側に配置されており、予備のマット苗を収容した苗箱を搭載可能である。左右一対の予備苗台38の上部同士は、上下方向及び車幅方向に延びる連結フレーム27によって互いに連結されている。連結フレーム27の車幅方向の中央には、筐体28が配置されている。筐体28の内部には、測位アンテナ61と、慣性計測装置(角速度センサ)62と、通信アンテナ63と、が配置されている。測位アンテナ61は、衛星測位システム(GNSS)を構成する測位衛星からの電波を受信することができる。この電波に基づいて公知の測位計算が行われることにより、田植機1の位置を取得することができる。慣性計測装置62は、3つのジャイロセンサ(角速度センサ)と3つの加速度センサを備える。従って、慣性計測装置62は、鉛直方向(上下方向)を回転軸とした田植機1の角速度であるヨーレートを含む値を検出する。この慣性計測装置62が検出する田植機1の角速度及び加速度が補助的に用いられることで、田植機1の測位結果の精度が高められている。通信アンテナ63は、無線通信端末7と無線通信を行うためのアンテナである。
【0025】
図3に示すように、田植機1は制御部(自律操舵装置)50を備える。制御部50は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力部等を備える。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部50を、記憶部51と、車速制御部52と、舵角制御部53、作業機制御部54、舵角取得部55、ヨーレート取得部56、前方目標角度算出部57、及び演算タイヤ角度算出部58として動作させることができる。制御部50は、1つのハードウェアであってもよいし、互いに通信可能な複数のハードウェアであってもよい。そのため、例えば自律操舵に関する処理を別のハードウェアが行う構成であってもよい。また、制御部50が行う処理の一部を田植機1以外に設けられたハードウェアで行う構成であってもよい。また、制御部50には、上記の慣性計測装置62に加え、位置取得部64と、通信処理部65と、車速センサ66と、舵角センサ67と、が接続されている。
【0026】
位置取得部64は、測位アンテナ61に電気的に接続されている。位置取得部64は、測位アンテナ61で受信した電波に基づく測位信号から、田植機1の位置を例えば緯度及び経度の情報として取得する。位置取得部64は、図示しない基準局からの測位信号を適宜の方法で受信した上で、公知のGNSS−RTK法を利用して測位を行う。しかしながら、これに代えて、例えばディファレンシャルGNSSを用いた測位、又は単独測位等が行われてもよい。あるいは、無線LAN等の電波強度に基づく位置取得又は慣性航法による位置取得等が行われてもよい。
【0027】
通信処理部65は、通信アンテナ63に電気的に接続されている。この通信処理部65は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、無線通信端末7との間でデータの送受信を行うことができる。
【0028】
車速センサ66は、田植機1の適宜の位置、例えば前輪12の車軸に配置されている。車速センサ66は、例えば車軸の回転に応じたパルスを発生させるように構成されている。車速センサ66で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。
【0029】
舵角センサ67は、舵角を検出するセンサである。本明細書において、舵角とは、ステアリング角度と、タイヤ角度(ホイール角度)と、を含む。ステアリング角度とは、ステアリングシャフトの回転角度である。タイヤ角度とは、田植機1の前後軸に対する車輪の傾斜角(更に言えば、平面視で、車両の前後軸と、車輪の回転軸と垂直な方向と、がなす角)である。本実施形態では、ステアリングシャフトに舵角センサ67が配置されており、ステアリング角度が検出される。なお、舵角センサ67は、タイヤ角度を検出する構成であってもよい。この構成では、舵角センサ67は、例えば前輪12に設けられた図示しないキングピンに備えられる。舵角センサ67で得られた検出結果のデータは、制御部50へ出力される。
【0030】
車速制御部52は、田植機1の車速を自律的に変更する車速制御を行う。車速制御とは、予め定められた条件に基づいて田植機1の車速を調整する制御である。具体的には、車速制御部52は、車速センサ66の検出結果により得られた現在の車速が目標の車速に近づくように、ミッションケース23内の変速装置の変速比、及び、エンジン22の回転速度の少なくとも一方を変更する。なお、この車速制御には、車速をゼロにして田植機1を停止させる制御も含まれる。
【0031】
舵角制御部53は、田植機1の舵角を自律的に変更する舵角制御を行う。舵角制御とは、予め定められた条件に基づいて田植機1の舵角を調整する制御である。具体的には、舵角制御部53は、舵角センサ67の検出結果により得られた現在舵角に基づいて、例えば操舵ハンドル26の回転軸(ステアリングシャフト)に設けられた操舵アクチュエータを駆動する。なお、舵角制御の詳細については後述する。舵角制御部53は、ステアリング角度ではなくタイヤ角度を直接調整する構成であってもよい。
【0032】
制御部50は、車速制御と舵角制御の両方を同時に行うこともできるが、何れか一方のみを行うこともできる。例えば、制御部50が舵角制御のみを行う場合、車速はオペレータが手動で操作する。
【0033】
作業機制御部54は、予め定められた条件に基づいて植付部14の動作(昇降動作又は植付動作等)を制御可能である。
【0034】
舵角取得部55は、舵角センサ67が検出した舵角を取得する処理を行う。ヨーレート取得部56は、慣性計測装置62の検出値の1つであるヨーレートを取得する処理を行う。前方目標角度算出部57及び演算タイヤ角度算出部58は、舵角制御部53が行う舵角制御で用いられる値を算出する(詳細は後述)。
【0035】
無線通信端末7は、タブレット型のコンピュータである。無線通信端末7は、通信アンテナ71と、通信処理部72と、表示部73と、操作部74と、制御部80と、を備える。なお、無線通信端末7はタブレット型のコンピュータに限るものではなく、スマートフォン又はノートパソコンであってもよい。無線通信端末7は、後述のように田植機1の自律走行に関する様々な処理を行うが、この処理の少なくとも一部を田植機1の演算装置が行うこともできる。逆に、田植機1が行う自律走行に関する様々な処理の少なくとも一部を無線通信端末7が行うこともできる。
【0036】
通信アンテナ71は、田植機1と無線通信を行うための近距離通信用のアンテナと、携帯電話回線及びインターネットを利用した通信を行うための携帯通信用アンテナと、を含んで構成されている。通信処理部72は、通信アンテナ71に電気的に接続されている。通信処理部72は、適宜の方式で変調処理又は復調処理を行って、無線通信端末7又は他の機器との間でデータの送受信を行うことができる。
【0037】
表示部73は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等であり、画像を表示可能に構成されている。表示部73は、例えば、自律走行に関する情報、田植機1の設定に関する情報、各種センサの検出結果、及び警告情報等を表示することができる。操作部74は、タッチパネルと、ハードウェアキーと、を含んでいる。タッチパネルは、表示部73に重ねて配置されており、オペレータの指等による操作を検出可能である。ハードウェアキーは、無線通信端末7の筐体の側面又は表示部73の周囲等に配置されており、オペレータが押圧することで操作可能である。なお、無線通信端末7は、タッチパネルとハードウェアキーの何れか一方のみを備える構成であってもよい。
【0038】
制御部80は公知のコンピュータとして構成されており、図示しないCPU、ROM、RAM、入出力部等を備える。CPUは、各種プログラム等をROMから読み出して実行することができる。ROMには、各種のプログラムやデータが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、制御部80を、記憶部81、表示制御部82、走行経路作成部83として動作させることができる。
【0039】
記憶部81は、田植機1の設定に関する情報、オペレータが作成した走行経路、及び走行経路を作成するための各種条件等が記憶されている。表示制御部82は、上述した情報を表示部73に表示する制御を行う。走行経路作成部83は、オペレータの操作に基づいて、走行経路を作成する処理を行う。走行経路には、直線状走行経路、旋回用走行経路、及びそれらを組み合わせた経路がある。また、直線状経路とは、完全に直線の経路だけでなく、方向が僅かに変化する経路も含む。
【0040】
次に、
図4から
図6を参照して、ヨーレートを用いて直線状走行経路91に沿うように舵角制御を行うことで、横滑りが生じる場合であっても、的確に直線状走行経路91に沿って田植機1を走行可能にする処理について説明する。
図4は、直線状走行経路91に沿って田植機1を自律走行させる様子及び前方目標角度を説明する図である。
図5は、直線状走行経路91に沿って田植機1を自律走行させる場合の目標ステアリング角速度を算出する処理を示す図である。
図6は、ヨーレートから演算タイヤ角度を算出する処理を説明する図である。
【0041】
図4には、直線状走行経路91が示されている。田植機1は、直線状走行経路91から離れた位置を走行している。この状況において、舵角制御部53が田植機1を直線状走行経路91に戻すために行う舵角制御を説明する。また、
図5に示すように、この舵角制御の入力は、前方目標角度φと演算タイヤ角度θである。
【0042】
初めに、前方目標角度φの算出方法について説明する。前方目標角度φは、制御部50(前方目標角度算出部57)によって算出される。前方目標角度φは、田植機1を直線状走行経路91に沿って走行させる際に用いられる角度である。前方目標角度φは、前方目標点P1に基づいて定められる。田植機1には予め前方目標距離が設定されており、前方目標角度算出部57は、田植機1から直線状走行経路91までの距離が前方目標距離となる点(前方目標点P1)を特定する。また、前方目標角度算出部57は、田植機1と前方目標点P1とを接続する線分(線L1)を引く。線L1と直線状走行経路91とがなす角度(特に180度以下の角度)が前方目標角度φである。なお、田植機1を通り直線状走行経路91に平行な線L2を引く場合、前方目標角度φは線L1と線L2とがなす角と表現することもできる。また、前方目標角度φの求め方は一例であり、田植機1を直線状走行経路91に沿わせるために必要な角度であれば、別の求め方で求めることもできる。
【0043】
次に、演算タイヤ角度θの算出方法について
図6を参照して説明する。演算タイヤ角度θは、制御部50(演算タイヤ角度算出部58)によって算出される。演算タイヤ角度θは、検出したヨーレートで田植機1を旋回させるための理想的な(理論上の)タイヤ角度である。言い換えれば、演算タイヤ角度θは、検出されたヨーレートをタイヤ角度に変換した値である。演算タイヤ角度θは、4輪車である田植機1を2輪車モデルに変換して算出される。2輪車モデルとは、前輪12及び後輪13が左右一対ではなく中央に1つずつあると仮定したモデルである。また、
図6において、ωはヨーレートであり、Vは車速であり、Wbはホイールベースであり、Rは2輪車モデルにおける旋回半径である。Vは車速センサ66の検出結果を用いることができる。ホイールベースは予め記憶部51等に記憶されている。
図6の式(1)は、2輪車モデルにおける旋回半径の算出方法を示す式である。式(2)は、角速度、速度、半径の関係を示す式に、式(1)の関係を代入した式である。式(3)は、式(2)を変形することで、演算タイヤ角度θの値を示す式である。このような処理を行うことで、ヨーレートから演算タイヤ角度θを算出することができる。
【0044】
ここで、田植機1が圃場において横滑りする場合を考える。横滑りとは、タイヤ角により算出される方向とは異なる方向に田植機1が走行することである。田植機1は水田を走行するため、土を走行するトラクタと比較して、横滑りが生じ易い。また、トラクタ等の他の作業車両であっても圃場が傾斜している場合等は横滑りが発生し易くなる。横滑りが発生することで、タイヤ角とは異なる方向へ田植機1が走行することとなる。そのため、仮に舵角センサ67の検出結果と前方目標角度φとに基づいて、舵角制御を行う場合、タイヤ角と進行方向の差異を含んでいる影響で、田植機1を安定して直線状走行経路91に沿って走行させることができなかった。
【0045】
これに対し、本実施形態では、舵角センサ67の検出結果に代えて、ヨーレートから算出した上記の演算タイヤ角度θを用いる。具体的には、舵角制御部53は、前方目標角度φと演算タイヤ角度θとを比較する第1比較処理を行う(詳細には、前方目標角度φから演算タイヤ角度θを減算する)。これにより、演算タイヤ角度θに基づいて横滑りの影響がなくなるように前方目標角度φが補正されることとなる。第1比較処理の比較結果は、前方目標角度φを実現するために足りないタイヤ角度に関する値であり、この値がPID制御器の入力となる。また、PID制御器の出力は、目標ステアリング角速度である。PID制御器が出力した目標ステアリング角速度を適用することで、前方目標角度φ及び演算タイヤ角度θの値が変化するため、第1比較処理の比較結果も変化し、新たな目標ステアリング角速度が出力される。以上の処理を継続して行うことで、田植機1を直線状走行経路91に沿って走行させることができる。
【0046】
特に、ヨーレートは横滑りの影響も含んだ値であるため、横滑りの影響も考慮しつつ舵角制御を行うことができる。そのため、本実施形態の舵角制御部53は、舵角センサ67の検出結果を用いる構成と比較して、田植機1の蛇行及びオフセットを防止して、直線状走行経路91に沿って安定して田植機1を走行させることができる。
【0047】
次に、
図7及び
図8を参照して、田植機1を旋回用走行経路92に沿って自律走行させる場合の舵角制御について説明する。
図7は、旋回用走行経路92に沿って田植機1を自律走行させる様子及び前方目標角度を説明する図である。
図8は、旋回用走行経路92に沿って田植機1を自律走行させる場合の目標ステアリング角速度を算出する処理を示す図である。
【0048】
旋回用走行経路92に沿って田植機1を自律走行させる場合の前方目標角度φは、以下のようにして算出される。前方目標点P1の求め方は直線状走行経路91の場合と同じであるが、前方目標距離の値は直線状走行経路91と旋回用走行経路92で異ならせてもよい。そして、前方目標角度算出部57は、田植機1と、旋回用走行経路92の旋回中心を示す点P2と、を結ぶ線分である線L3を引く。次に、前方目標角度算出部57は、線L3に垂直であって田植機1を通る線L4を引く。前方目標角度算出部57は、線L1と線L4がなす角を前方目標角度φとして算出する。線L4は、線L3と旋回用走行経路92の交点における旋回用走行経路92から引いた接線であるため、現在の田植機1における旋回用走行経路92の方向を示していると捉えることもできる。なお、これとは異なる方法を用いて点P2又は前方目標角度φを求めてもよい。また、演算タイヤ角度算出部58は、直線状走行経路91と同様に、慣性計測装置62が検出したヨーレートに基づいて、演算タイヤ角度θを算出する。
【0049】
図8に示すように、旋回用走行経路92に沿って田植機1を走行させる場合、第1比較処理の比較結果に、旋回演算タイヤ角度が加算される。旋回演算タイヤ角度とは、旋回用走行経路92に沿って旋回するために必要となるタイヤ角度である。旋回演算タイヤ角度は、旋回用走行経路92に沿って旋回するためのヨーレートである旋回ヨーレートを推測し、当該旋回ヨーレートから
図6を用いて説明した方法でタイヤ角度に変換する。旋回ヨーレートは、旋回用走行経路92の曲率半径等に基づいて推測できる。
【0050】
旋回用走行経路92に沿って走行する場合、旋回演算タイヤ角度が加算されるだけであり、それ以外は上記と同様の制御が行われる。従って、上記で説明したように、仮に田植機1に横滑りが発生している場合であっても、田植機1の蛇行及びオフセットを防止して、旋回用走行経路92に沿って安定して田植機1を走行させることができる。
【0051】
次に、
図9を参照して、第1変形例について説明する。
図9は、第1変形例に係る目標ステアリング角速度を算出する処理を示す図である。なお、第1変形例及び第2変形例において、旋回用走行経路92に沿って田植機1を自律走行させる場合は旋回演算タイヤ角度が加算されるだけであるので、説明を省略する。
【0052】
図9に示す第1変形例では、第1比較処理に加え、第2比較処理が行われる。第2比較処理とは、前方目標角度φと、現在のタイヤ角度(現在舵角)と、を比較する処理(前方目標角度φから現在のタイヤ角度を減算する処理)である。なお、本実施形態では舵角センサ67はステアリング角度を検出しているため、予め設定された比率を積算することで、現在のステアリング角度を現在のタイヤ角度に変換できる。このような変換を行った場合であっても、ステアリング角度とタイヤ角度は何れも舵角に相当するため、舵角取得部55が取得した現在舵角と、前方目標角度φと、を比較していることとなる。なお、上述したように、現在のタイヤ角度を直接検出することもできる。
【0053】
第2比較処理の比較結果は、第1比較処理の比較結果に加算される。従って、例えば前方目標角度φと現在のタイヤ角度の差が大きい場合、言い換えれば前輪12が目標から大きく離れた方向を向いている場合、第2比較処理の比較結果が大きくなる。そのため、第2比較処理を行うことで、このような場合にステアリング角度を早期に修正することができる。
【0054】
次に、
図10を参照して、第2変形例について説明する。
図10は、第2変形例に係る目標ステアリング角速度を算出する処理を示す図である。なお、第1変形例及び第2変形例において、旋回用走行経路92に沿って田植機1を自律走行させる場合は旋回演算タイヤ角度が加算されるだけであるので、説明を省略する。
【0055】
図10に示す第2変形例では、第1比較処理の比較結果に重み係数αを積算するとともに、第2比較処理の比較結果に重み係数βを積算する。重み係数αと重み係数βは値が異なる。ここで、第1比較処理の比較結果を用いて舵角制御を行うことで、横滑り等が生じている場合であっても田植機1の走行を安定させることができるが、状況によっては、ステアリング角度を早期に修正できない場合がある。これに対し、第2比較処理の比較結果を用いて舵角制御を行うことで、ステアリング角度を早期に修正できるが、横滑り等が生じている場合であっても田植機1の走行を安定させることができない場合がある。
【0056】
従って、圃場の状態、作業車両の性質、及びオペレータの要望等に基づいて重み係数を調整することで、状況及びオペレータの要望に応じた舵角制御が実現できる。重み係数の調整は、オペレータ又は保守業者が手動で調整する構成であってもよいし、各種センサの検出値に応じて最適値が算出される構成であってもよい。
【0057】
以上に説明したように、制御部50は、田植機1の操舵を自律的に行って、圃場内に予め設定された走行経路に沿って当該田植機1を走行させる。この制御部50は、前方目標角度算出部57と、ヨーレート取得部56と、演算タイヤ角度算出部58と、舵角制御部53と、を備える。前方目標角度算出部57は、走行経路上の前方の点であって田植機1を当該走行経路に近づけるための目標とする点である前方目標点P1と当該田植機1とを結ぶ線分(線L1)と、走行経路と、がなす角である前方目標角度φを算出する。ヨーレート取得部56は、田植機1に配置された慣性計測装置62から、鉛直方向を回転軸とした田植機1の角速度であるヨーレートを取得する。演算タイヤ角度算出部58は、ヨーレート取得部56が取得したヨーレートを実現するタイヤ(前輪12)の舵角である演算タイヤ角度を算出する。舵角制御部53は、前方目標角度φと演算タイヤ角度を比較する第1比較処理を行い、当該比較結果に基づいて舵角を制御する(目標ステアリング角速度を算出して適用する)。
【0058】
これにより、タイヤ角度ではなくヨーレートを用いることで、外乱による横滑り等が発生し得る場合であっても、走行経路に沿って安定して田植機1を走行させることができる。
【0059】
また、本実施形態の制御部50は、田植機1に配置された舵角センサ67から現在舵角(現在のステアリング角度)を取得する舵角取得部55を備える。舵角制御部53は、舵角取得部55が取得した現在舵角(現在のステアリング角度を変換した現在のタイヤ角度)を前方目標角度φと比較する第2比較処理を行い、第1比較処理と第2比較処理の両方の比較結果に基づいて舵角を制御する。
【0060】
これにより、現在舵角を更に考慮して制御を行うことで、特に現在舵角を大きく変更する場合があっても、短期間で田植機1の位置を修正できる。
【0061】
また、本実施形態の制御部50においては、舵角制御部53は、第1比較処理の比較結果と、第2比較処理の比較結果と、のそれぞれに異なる重みを付けて舵角を制御する。
【0062】
これにより、田植機1の仕様、圃場の性質、及び要求される動作等に適した制御を行うことができる。
【0063】
また、本実施形態の制御部50においては、舵角制御部53は、第1比較結果及び第2比較結果に基づいて目標ステアリング角速度を算出し、当該目標ステアリング角速度を変化させる。
【0064】
これにより、ステアリング角度、特にステアリング角速度を制御対象とすることで、状況に応じた適切な角速度でステアリング角度を変更することができる。
【0065】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0066】
上記実施形態では、舵角制御部53が行う舵角制御の出力値(制御対象)が目標ステアリング角速度であるが、目標タイヤ角速度であってもよい。また、舵角制御の出力値は、目標ステアリング角度であってもよいし、目標タイヤ角度であってもよい。
【0067】
上記実施形態では、慣性計測装置62は3軸の角速度センサを含んで構成されているが、ヨーレートのみを検出可能な構成であってもよい。
【0068】
上記実施形態では、PID制御により目標舵角(目標ステアリング角速度)を算出するが、他のフィードバック制御(例えばPI制御)により目標舵角を算出することもできる。
【0069】
上記実施形態では田植機1と無線通信端末7とが無線通信を行うが、有線通信を行う構成であってもよい。
【0070】
上記実施形態では、自律操舵装置を田植機1に適用する例を説明したが、他の農業用の作業車両であるトラクタ及びコンバインにも、自律操舵装置を適用できる。また、田植機1以外の作業車両に適用する場合であっても、自律操舵装置は作業車両に配置されていてもよいし、作業車両とは異なる装置に配置されていてもよい。