(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-167416(P2019-167416A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】染料インキ、熱転写シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/033 20140101AFI20190906BHJP
B41M 5/382 20060101ALI20190906BHJP
【FI】
C09D11/033
B41M5/382 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-55008(P2018-55008)
(22)【出願日】2018年3月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】田中 康史
(72)【発明者】
【氏名】松村 隆生
【テーマコード(参考)】
2H111
4J039
【Fターム(参考)】
2H111AA27
2H111BA03
2H111BA39
2H111BB06
2H111DA06
4J039AD07
4J039BC04
4J039BC16
4J039BE02
4J039BE07
4J039BE12
4J039BE29
4J039CA04
4J039GA03
(57)【要約】
【課題】グラビア印刷機を用いて熱転写シートにおける染料層を形成するにあたり、ミスト状となった染料インキが再付着する問題を解消可能な染料インキ、および当該染料インキを用いた熱転写シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】染料と、バインダー樹脂と、溶剤と、を含む染料インキにおいて、前記溶剤として、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10
-9/Ωcm以上のケトン系高極性溶剤を用い、前記染料インキ中の全溶剤の質量に対する前記ケトン系高極性溶剤の割合が55質量%以上とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と、バインダー樹脂と、溶剤と、を含む染料インキであって、
前記溶剤として、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10-9/Ωcm以上のケトン系高極性溶剤を含み、
前記染料インキ中の全溶剤の質量に対する前記ケトン系高極性溶剤の割合が55質量%以上である、ことを特徴とする染料インキ。
【請求項2】
前記ケトン系高極性溶剤がメチルエチルケトンである、ことを特徴とする請求項1に記載の染料インキ。
【請求項3】
前記溶剤としてトルエンを含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の染料インキ。
【請求項4】
グラビア印刷用である、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の染料インキ。
【請求項5】
熱転写シートの染料層形成用である、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の染料インキ。
【請求項6】
基材上に染料層が設けられた熱転写シートの製造方法であって、
基材上に染料層をグラビア印刷機により形成する染料層形成工程を含み、
前記染料層形成工程においては、前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の染料インキが用いられる、ことを特徴とする熱転写シートの製造方法。
【請求項7】
前記染料層形成工程におけるグラビア印刷機の印刷速度が400m/min以上である、ことを特徴とする請求項6に記載の熱転写シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料インキ、および熱転写シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータやワードプロセッサの出力プリント、あるいは種々の画像形成を昇華転写方式により行う場合、基材となるフィルムの一方の面に染料層が設けられた熱転写シートが使用されている。そして、この熱転写シートを製造するにあっては、いわゆるグラビア印刷機が用いられることが多い(例えば、特許文献1や2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−006313号公報
【特許文献2】特開2015−039783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、従来の一般的なグラビア印刷機を説明するための図である。
【0005】
図2は、
図1に示す一般的なグラビア印刷機において生じ得る問題を説明するための図である。
【0006】
図1に示すように、グラビア印刷機100は、版胴10と圧胴11とファニッシャロール12とを有しており、給紙側から版胴10と圧胴11との間に基材20が供給され、版胴10の表面のセルに溜まった染料インキが基材表面に写し取られることで、基材20の表面に染料層が形成され、排紙側において巻き取られる。
【0007】
このようなグラビア印刷機において、その印刷速度が高速化、例えば220m/minを超えると、
図1に示す「ミストの飛散」の部分でミストが発生、飛散し、飛散したミストが基材上に印刷された染料層表面に再付着してしまう場合があった。より具体的には、
図2に示すように、版胴10のセルに溜まった染料インキが基材20の表面に写し取られる過程において、当該染料インキが糸状となり(いわゆる糸引き状態)、糸状に引っ張られた染料インキが切れた瞬間に微細なミストとなって染料インキが飛散する。さらに、飛散し空中を浮遊しているミスト状の染料インキは静電引力によって基材20側に引き寄せられ、本来付着すべきではない部分に再付着してしまう場合があった。
【0008】
このようなミスト状の染料インキの再付着の問題は、グラビア印刷機の印刷速度が高速化する程に顕著化する。
【0009】
前記特許文献1にあっては、版胴10に形成されたセルの形状を工夫することによって飛散する染料インキのサイズを小さくすることで、ミスト状の染料インキの再付着の問題の解決を図っている。また、前記特許文献2にあっては、印刷対象物である基材側に帯電防止層を形成することで、同問題の解決を図っている。
【0010】
しかしながら、いずれの方法においても完全な解決には至っておらず、未だ改良の余地があった。
【0011】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、グラビア印刷機を用いて熱転写シートにおける染料層を形成するにあたり、ミスト状となった染料インキが再付着する問題を解消可能な染料インキ、および当該染料インキを用いた熱転写シートの製造方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本願発明は、染料と、バインダー樹脂と、溶剤と、を含む染料インキであって、前記溶剤として、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10
-9/Ωcm以上のケトン系高極性溶剤を含み、前記染料インキ中の全溶剤の質量に対する前記ケトン系高極性溶剤の割合が55質量%以上である、ことを特徴とする。
【0013】
前記の発明にあっては、前記ケトン系高極性溶剤がメチルエチルケトンであってもよい。
【0014】
また、前記の発明にあっては、前記溶剤としてトルエンを含んでいてもよい。
【0015】
また、前記の発明にあっては、グラビア印刷に用いることが好ましい。
【0016】
また、前記の発明にあっては、熱転写シートの染料層の形成に用いることが好ましい。
【0017】
前記課題を解決するための別の本願発明は、基材上に染料層が設けられた熱転写シートの製造方法であって、基材上に染料層をグラビア印刷機により形成する染料層形成工程を含み、前記染料層形成工程においては、前記本願発明の染料インキが用いられる、ことを特徴とする。
【0018】
前記の発明にあっては、前記染料層形成工程におけるグラビア印刷機の印刷速度が400m/min以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の染料インキによれば、これを構成する溶剤として、所定の比誘電率と導電率を有するケトン系高極性溶剤が、所定量含まれているので、当該染料インキが帯電することを防止することができ、したがって、基材上の染料層を形成する段階において、染料インキのミストが発生したとしても、当該ミストが基材上の印刷された染料層表面に再付着することを効果的に防止することができる。
【0020】
また、本願発明の熱転写シートの製造方法にあっても、前記本願発明の染料インキを用いていることから、前記と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来の一般的なグラビア印刷機を説明するための図である。
【
図2】
図1に示す一般的なグラビア印刷機において生じ得る問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明の実施形態にかかる染料インキ、および熱転写シートの製造方法について詳細に説明する。
【0023】
(染料インキ)
本願発明の実施形態にかかる染料インキは、少なくとも、染料と、バインダー樹脂と、溶剤と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0024】
・染料
本実施形態にかかる染料インキを構成する染料については、特に限定されることはなく、従来から熱転写シートの染料層を形成する際に用いられている各種染料から適宜選択して用いることができる。
【0025】
例えば、赤色染料としては、MS Red G、Macrolex Red Violet R、Ceres RedHBSL、Resolin Red F3BS等を挙げることができる。黄色染料としては、ホロンブリリアントイエロー6GL、PTY−52、マクロレックスイエロー6G等を挙げることができる。また、青色染料としては、カヤセットブルー714、ワクソリンブルーAP−FW、ホロンブリリアントブルーS−R、MSブルー100等が挙げることができる。
【0026】
このような染料の、染料インキ全質量に対する割合についても特に限定されることはなく、適宜設計可能である。
【0027】
・バインダー樹脂
本実施形態にかかる染料インキを構成するバインダー樹脂についても、特に限定されることはなく、従来公知の各種バインダー樹脂から適宜選択して用いることができる。
【0028】
具体的には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酪酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル等を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、染料移行性の点からセルロース誘導体、ポリビニルアセタール、及びポリエステルなどを好適に用いることができる。
【0029】
このようなバインダー樹脂の、染料インキ全質量に対する割合についても特に限定されることはなく適宜設計可能である。
【0030】
・溶剤
本実施形態にかかる染料インキにあっては、これを構成する溶剤に特徴を有している。具体的には、染料インキを構成する溶剤として、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10
-9/Ωcm以上のケトン系高極性溶剤が含まれていることに特徴を有している。このようなケトン系高極性溶剤を所定量含有せしめることにより、ミスト状に飛散した染料インキが静電引力によって引き寄せられて、印刷された染料層表面に再付着することを効果的に防止することができる。なお、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10
-9/Ωcm以上の、いわゆる高極性溶剤としては、本実施形態にかかる染料インキにおいて用いられている「ケトン系」の他、例えばメタノール、エタノール、さらにはイソプロピルアルコールなどの、いわゆる「アルコール系溶剤」も存在するが、これらアルコール系溶剤は、グラビア印刷での高速化を達成するにあたり乾燥効率の観点で、「ケトン系」に比べて好ましくない。
【0031】
なお、本実施形態において「比誘電率」は、LCRメーターによって測定した値であり、「導電率」は、JIS K 0130に準拠して測定した値である。
【0032】
本実施形態にかかる染料インキにあっては、比誘電率が13以上で、導電率が1.0×10
-9/Ωcm以上のケトン系高極性溶剤であれば、その種類については特に限定されることはないが、具体的には、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンであることが好ましい。
【0033】
ここで、本実施形態にかかる染料インキにあっては、前記ケトン系高極性溶剤の、染料インキ中の全溶剤の質量に対する配合割合が55質量%以上であることも特徴である。ケトン系高極性溶剤の配合割合が55質量%未満であると、上記の作用効果、つまり飛散したミスト状の染料インキの再付着の防止たる作用効果を十分に発揮できない場合がある。ここで、ケトン系高極性溶剤の配合割合の上限については特に限定されることはなく、したがって100質量%、つまり染料インキ中の溶剤のすべてがケトン系高極性溶剤であってもよい。しかしながら、前述した染料やバインダー樹脂との相性や溶解性などを考慮すると、その上限は80質量%程度であることが好ましい。
【0034】
前記の通り、本実施形態にかかる染料インキを構成する溶剤は、そのすべてが前記ケトン系高極性溶剤である必要はなく、45質量%未満の割合において他の溶剤が含有されていてもよい。ケトン系高極性溶剤と併用可能な溶剤については特に限定されることはなく、用いられる染料やバインダー樹脂との相性などを考慮して適宜選択可能である。例えば、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素や、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコールや、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類や、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類などを挙げることができる。
【0035】
これらの中でも、メチルエチルケトンに代表されるケトン系高極性溶剤との相性から、トルエンを用いることが好ましい。
【0036】
なお、本実施形態にかかる染料インキにあっては、溶剤の、染料インキ全質量に対する割合については特に限定されることはなく適宜設計可能である。
【0037】
・その他の成分
本実施形態にかかる染料インキにあっては、前記染料、バインダー樹脂、および溶剤に加え、染料インキの印刷適性や転写適性を向上することなどを目的として、従来公知の種々の添加剤を添加することも可能である。添加剤としては、例えば、ポリエチレンワックス微粒子、ブロッキング防止剤、滑剤、さらには静電気防止剤などを挙げることができる。
【0038】
(熱転写シートの製造方法)
次に、本実施形態にかかる熱転写シートの製造方法について説明する。
【0039】
本実施形態にかかる熱転写シートの製造方法は、基材上に染料層が設けられた熱転写シートの製造方法であって、基材上に染料層をグラビア印刷機により形成する染料層形成工程を含み、前記染料層形成工程においては、前記本実施形態にかかる染料インキが用いられる、ことを特徴としている。
【0040】
本実施形態にかかる熱転写シートの製造方法において用いられる基材やグラビア印刷機については特に限定されることはなく、従来公知のそれぞれから適宜選択して用いることができる。
【0041】
このような本実施形態にかかる熱転写シートの製造方法にあっては、特にグラビア印刷機の印刷速度が400m/min以上であることが好ましい。本実施形態にかかる熱転写シートの製造方法において用いられている本実施形態にかかる染料インキは、染料インキの再付着を効果的に防止できるので、ミストが発生し易い高速印刷においても好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0042】
下記組成の実施例1〜2、および比較例1〜2にかかる染料インキをそれぞれ形成した。
【0043】
<実施例1の染料インキ>
・染料(ホロンブリリアントブルーSR Sandoz社製) 4.0部
・バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂
積水化学工業(株)製 エスレック(登録商標)BX−1) 3.5部
・メチルエチルケトン 74.0部
・トルエン 18.5部
【0044】
<実施例2の染料インキ>
・染料(ホロンブリリアントブルーSR Sandoz社製) 4.0部
・バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂
積水化学工業(株)製 エスレック(登録商標)BX−1) 3.5部
・メチルエチルケトン 61.7部
・トルエン 30.8部
【0045】
<比較例1の染料インキ>
・染料(ホロンブリリアントブルーSR Sandoz社製) 4.0部
・バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂
積水化学工業(株)製 エスレック(登録商標)BX−1) 3.5部
・メチルエチルケトン 46.3部
・トルエン 46.3部
【0046】
<比較例2の染料インキ>
・染料(ホロンブリリアントブルーSR Sandoz社製) 4.0部
・バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂
積水化学工業(株)製 エスレック(登録商標)BX−1) 3.5部
・メチルエチルケトン 18.5部
・トルエン 74.0部
【0047】
前記実施例1〜2、および比較例1〜2にかかる染料インキをそれぞれ用いて、基材フィルムとして厚さ4.5μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標))に、400m/minの速度で印刷して、転写層パターンを形成した。
【0048】
(ミスト再付着欠点数の評価)
前記の条件にて製造された熱転写シートのそれぞれについて、ミスト状の染料インキが再付着することにより生じる欠点の数を目視により数えた。その結果を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
以上から、本発明の染料インキおよび本発明の熱転写シートの製造方法によれば、ミスト状となった染料インキの再付着を効果的に抑制することができることが分かった。
【符号の説明】
【0051】
100…グラビア印刷機
10…版胴
11…圧胴
12…ファニッシャローラ
20…基材