(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-167675(P2019-167675A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】粉粒体移送用のバケット、及び、粉粒体の移送方法
(51)【国際特許分類】
E02F 3/40 20060101AFI20190906BHJP
【FI】
E02F3/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-53879(P2018-53879)
(22)【出願日】2018年3月22日
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青山 努
(72)【発明者】
【氏名】福畑 大介
(72)【発明者】
【氏名】亀井 一成
【テーマコード(参考)】
2D012
【Fターム(参考)】
2D012HB02
(57)【要約】
【課題】堆積された粉粒体の山から粉粒体を出荷する際の粉粒体からの不要物の除去と当該粉粒体の次工程を行なう場所までの輸送手段への初期移送を、従来よりも効率よく行なうことができる篩別及び移送手段を提供すること。
【解決手段】粉粒体移送用のバケットを、正面側が開口面である箱体からなり、箱体の底板11及び/又は背板13の一部又は全部が、多数の篩い孔152が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面15とされていて、篩い面15は、篩い孔152の周縁部において、表面の粗さがより大きい方の面が、バケット1を構成する箱体の内部側に向けられている、バケット1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒体移送用のバケットであって、
正面側が開口面である箱体からなり、
前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、
前記篩い面は、前記篩い孔の周縁部において、表面の粗さがより大きい方の面が、前記バケットを構成する箱体の内部側に向けられている、バケット。
【請求項2】
前記篩い面がエキスパンドメタルで構成されている、請求項1に記載のバケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバケットが、回旋可能なアームの先端に取り付けられている、パワーショベル。
【請求項4】
粉粒体移送用のバケットの製造方法であって、
前記バケットは、正面側が開口面である箱体からなり、
前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、
前記バケットが静止している時及び水平方向に所定速度以下で移動している時には、前記バケットで移送後に前記篩い孔から落下させることを想定する粉粒体が固結してなる塊状物が、前記篩い孔を閉塞させた状態を保持することができるように、前記篩い面の形状を決定する、篩い面設計工程を含んでなる、バケットの製造方法。
【請求項5】
前記篩い面設計工程において、
前記篩い面を構成する材料として、表面と裏面とで表面の粗さが異なる材料を選択し、
前記箱体の内側面の前記篩い孔の周縁部の表面の粗さが、前記箱体の外側面の前記篩い孔の周縁部の表面の粗さよりも大きくなるように、該篩い部材を配置する、
請求項4に記載のバケットの製造方法。
【請求項6】
粉粒体が堆積されてなる堆積物から粉粒体を取り出して移送する、粉粒体の移送方法であって、
前記堆積物から前記粉粒体を掬い取って、バケットの底板に載置する掬い取り工程と、
前記バケットを所定速度以下で略水平に移動させて、粉粒体集積位置の上方に移送する移送工程と、
前記粉粒体集積位置の上方域において、前記バケットの移動速度を、前記所定速度を超える速度とするか、或いは、前記バケットを振動させることにより、前記粉粒体を、篩い孔から前記粉粒体集積位置に落下させる落下工程とを、備えてなり、
前記バケットは、正面側が開口面である箱体により構成されていて、前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、
前記篩い面の形状が、前記移送工程において、前記粉粒体が固結してなる塊状物が、前記篩い孔を閉塞させた状態を保持することができるように、形成されている、
粉粒体の移送方法。
【請求項7】
前記篩い面は、前記篩い孔の周縁部において、表面の粗さがより大きい方の面が、前記バケットを構成する箱体の内部側に向けられている、
請求項6に記載の粉粒体の移送方法。
【請求項8】
前記篩い面がエキスパンドメタルで構成されている、
請求項6又は7に記載の粉粒体の移送方法。
【請求項9】
前記バケットが、パワーショベルの回旋可能なアームの先端に取り付けられている、
請求項6から8のいずれかに記載の粉粒体の移送方法。
【請求項10】
前記粉粒体がフェロニッケルスラグである、
請求項6から9のいずれかに記載の粉粒体の移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒体移送用のバケット、及び、粉粒体の移送方法に関する。より詳しくは、本発明は、堆積保管された粉粒体製品を、パワーショベル等の重機によりバケットに掬い取って移送する際に、バケット内に混在する不要な塊状物を除去しつつ、均一な性状の粉粒体を、所定の集積場所にまで効率良く移送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フェロニッケルの製造プロセスにおいて、還元工程の実施時に排出されるFe−Niスラグ等、各種の金属製錬において排出される粉粒体状のスラグは、多くの場合、各種の産業材としての再利用のために再出荷するまでの間の一定期間、屋外に堆積された状態で保管されている。そして、堆積保管されている粉体状のスラグを再出荷する際は、パワーショベル等の重機を用いて積み上げられたスラグの山から所定量のスラグを掬い取り、掬い取ったスラグを、コンベヤや輸送車等の次工程を行なう場所までの輸送手段が配置されている所定の粉粒体集積位置まで移送する。
【0003】
ここで、堆積保管されている上記のスラグ等の粉粒体は、時間の経過とともに、その一部が固結した塊状物となる場合がある。均一な性状の粉粒体として出荷する際には、これらの除去や解砕が必要となる。又、屋外に長時間堆積されると製品以外の、例えば木の根や石コロ等が混入する場合もあり、これらの混入物も同様に除去することが必要となる。
【0004】
塊状物や混入物のスラグからの除去については、篩別装置を別途設けてこれを行なうことができる。但し、この場合、先ず設置された篩別装置まで粉粒体を移送し、篩別装置を稼働させて篩別後の粉粒体を得て、その後、改めて目的の場所まで移送するという工程を経る必要があった。
【0005】
塊状物や混入物のスラグからの除去及び所定の粉粒体集積位置迄の移送を行なう工程を簡素化する手段として、例えば、土に含まれる根茎と土砂を分離させ根茎を回収できるバケット、及びこれを備えたパワーショベルが用いられている(特許文献1参照)。又、パワーショベルに装着して土砂の篩い分け作業を行う振動バケットにおいて、加振装置及びその駆動連結機構の構造が簡単で、篩い作業の作業性にも優れた振動バケットも開発されている(特許文献2参照)。
【0006】
上記の各装置(パワーショベル)は、いずれも、移送用のバケットが篩別装置を兼ねる構造である。これにより、別途の篩別装置の配置は不要となる。これらの装置によれば、篩別作業後、篩上に残るもの、(篩上)を引き続き別の場所に移送することは可能である。しかしながら、篩別作業後、篩の下に落下するもの(篩下)は、掬い上げた同じ場所に落下するので、目的の粉粒体を移送するためには、改めて移送作業が必要となる。この点、更なる作業効率の改善策が模索されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−224539号公報
【特許文献2】特開2002−309609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況を鑑みて開発されたものである。即ち、堆積された粉粒体の山から粉粒体を出荷する際の粉粒体からの不要物の除去と、当該粉粒体の所定の粉粒体集積位置までの初期移送を、従来よりも効率よく行なうことができる篩別及び移送手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、粉粒体の配管閉塞の原因となる、棚吊り現象(粉粒体がアーチ構造を形成して落下させるための空間を閉塞させること)を利用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 粉粒体移送用のバケットであって、正面側が開口面である箱体からなり、前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、前記篩い面は、前記篩い孔の周縁部において表面の粗さがより大きい方の面が、前記バケットを構成する箱体の内部側に向けられている、バケット。
【0011】
(1)の発明によれば、例えば、フェロニッケルの製造プロセスにおいて、還元工程の実施時に排出されるFe−Niスラグ等、各種の金属製錬において排出される粉粒体状のスラグの堆積物から所定量の粉粒体を掬い取って出荷する際に、出荷する粉粒体からの不要物の除去と、当該粉粒体の次の集積場所までの初期移送とを、単一の装置による連続的な作業により、従来よりも効率よく行なうことができる。
【0012】
(2) 前記篩い面がエキスパンドメタルで構成されている、(1)に記載のバケット。
【0013】
(2)の発明によれば、(1)のバケットの篩い面を、両面において表面の粗さに差異がある網状部材であって、市場において安定的に入手可能なエキスパンドメタルで構成するものとした。これにより、(1)のバケットの上記効果の発現の安定性を、実施容易な手段によって更に高めることができる。
【0014】
(3) (1)又は(2)に記載のバケットが、回旋可能なアームの先端に取り付けられている、パワーショベル。
【0015】
(3)の発明によれば、積み上げ高さ数mから数10m程度の様々なスケールで屋外に積み上げられている粉粒体の堆積体からの上述の出荷作業を、(1)又は(2)のバケットの上記作用効果を享受しつつ、効率良く行なうことができる。
【0016】
(4) 粉粒体移送用のバケットの製造方法であって、前記バケットは、正面側が開口面である箱体からなり、前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、前記バケットが静止している時及び水平方向に所定速度以下で移動している時には、前記バケットで移送後に前記篩い孔から落下させることを想定する粉粒体が固結してなる塊状物が、前記篩い孔を閉塞させた状態を保持することができるように、前記篩い面の形状を決定する、篩い面設計工程を含んでなる、バケットの製造方法。
【0017】
(4)の発明によれば、出荷する粉粒体からの不要物の除去と当該粉粒体の次の集積場所までの初期移送とを、単一の装置によって連続的に行なうことができる輸送手段を構成するバケットを製造することができる。
【0018】
(5) 前記篩い面設計工程において、前記篩い面として、表面と裏面とで表面の粗さが異なる篩い部材を選択し、前記箱体の内側面の前記篩い孔の周縁部の表面の粗さが、前記箱体の外側面の前記篩い孔の周縁部の表面の粗さよりも大きくなるように、該篩い部材を配置する、(4)に記載のバケットの製造方法。
【0019】
(5)の発明によれば、(4)の製造方法の篩い孔形状設計工程において、移送中に粉粒体及びこれが固結してなる塊状体等の塊状物の不要な落下を抑制するために、バケットの内面側の篩い孔の周縁部の表面の粗さを相対的に大きくすることを必須の要件とした。これにより、(4)の製造方法の奏する上記の有利な効果を、実施容易な加工処理により、より安定的に発現させることができる。
【0020】
(6) 粉粒体が堆積されてなる堆積物から粉粒体を取り出して移送する、粉粒体の移送方法であって、前記堆積物から前記粉粒体を掬い取って、バケットの底板に載置する掬い取り工程と、前記バケットを所定速度以下で略水平に移動させて、粉粒体集積位置の上方に移送する移送工程と、前記粉粒体集積位置の上方域において、前記バケットの移動速度を前記所定速度を超える速度とするか、或いは、前記バケットを振動させることにより、前記粉粒体を、前記篩い孔から前記粉粒体集積位置に落下させる落下工程とを、備えてなり、前記バケットは、正面側が開口面である箱体により構成されていて、前記箱体の底板及び/又は背板の一部又は全部が、多数の篩い孔が千鳥状又はマトリクス状に配列されている篩い面とされていて、前記篩い面の形状が、前記移送工程において、前記粉粒体が固結してなる塊状物が、前記篩い孔を閉塞させた状態を保持することができるように、形成されている、粉粒体の移送方法。
【0021】
(6)の発明によれば、例えば、フェロニッケルの製造プロセスにおいて、還元工程の実施時に排出されるFe−Niスラグ等、各種の金属製錬において排出される粉粒体状のスラグの堆積物から所定量の粉粒体を掬い取って出荷する際に、出荷する粉粒体からの不要物の除去と、当該粉粒体の次の集積場所までの初期移送とを、単一の装置による連続的な作業により、従来よりも効率よく行なうことができる。
【0022】
(7) 前記篩い面は、前記篩い孔の周縁部の表面の粗さがより大きい方の面が、前記バケットを構成する箱体の内部側に向けられている、(6)に記載の粉粒体の移送方法。
【0023】
(7)の発明によれば、(6)の粉粒体の移送方法の実施に際して、移送中に粉粒体及びこれが固結してなる塊状体等の塊状物の不要な落下を抑制するために、バケットの内面側の篩い孔の周縁部の表面の粗さを相対的に大きくすることを必須の要件とした。これにより、(6)の移送方法の奏する上記の有利な効果を、実施容易な加工処理により、より安定的に発現させることができる。
【0024】
(8) 前記篩い面がエキスパンドメタルで構成されている、(6)又は(7)に記載の粉粒体の移送方法。
【0025】
(8)の発明によれば、(6)又は(7)に記載の粉粒体の移送方法において、バケットの篩い面を、両面において表面の粗さに差異がある網状部材であって、市場において安定的に入手可能なエキスパンドメタルで構成するものとした。これにより、(6)又は(7)に記載の粉粒体の移送方法の実施時における上記効果の発現の安定性を、実施容易な手段によって更に高めることができる。
【0026】
(9) 前記バケットが、パワーショベルの回旋可能なアームの先端に取り付けられている、(6)から(8)のいずれかに記載の粉粒体の移送方法。
【0027】
(9)の発明によれば、積み上げ高さ数mから数10m程度の様々なスケールで屋外に積み上げられている粉粒体の堆積体からの上述の出荷作業を、(6)から(8)のいずれかに記載の粉粒体の移送方法の上記作用効果を享受しつつ、効率良く行なうことができる。
【0028】
(10) 前記粉粒体がフェロニッケルスラグである、(6)から(9)のいずれかに記載の粉粒体の移送方法。
【0029】
(10)の発明によれば、フェロニッケル製錬プロセスにおいてスラグ熔体を水砕することにより製造される粉粒体であって、堆積中に固結して塊状体となりやすいFe−Niスラグの出荷作業の効率を有意に向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、堆積された粉粒体の山から粉粒体を出荷する際の粉粒体からの不要物の除去と、当該粉粒体の所定の粉粒体集積位置までの初期移送を、従来よりも効率よく行なうことができる篩別及び移送手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の粉粒体移用のバケットの斜視図である。
【
図2】本発明の粉粒体移用のバケットの正面図である。
【
図3】本発明の粉粒体移用のバケットの背面図である。
【
図4】本発明の粉粒体移用のバケットの平面図である。
【
図5】本発明の粉粒体移用のバケットの底面図である。
【
図6】本発明の粉粒体移用のバケットの側面図である。
【
図7】本発明の粉粒体移用のバケットの
図1におけるA−A線断面図である。
【
図8】本発明の粉粒体移用のバケットの
図1におけるB−B線断面図である。
【
図9A】本発明の粉粒体の移送方法における、掬い取り工程の実施態様を模式的に示す図面である。
【
図9B】本発明の粉粒体の移送方法における、落下工程の実施態様を模式的に示す図面である。
【
図10A】本発明の粉粒体の移送方法における移送工程の実施中のバケット内の粉粒体の状態を模式的に示す図である。
【
図10B】本発明の粉粒体の移送方法における落下工程の実施中のバケットから落下する粉粒体の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の粉粒体移送用のバケット、及び、これを用いて行なうことができる粉粒体の移送方法について説明する。
【0033】
<粉粒体移送用のバケット>
以下、本発明の粉粒体移送用のバケット(以下、単に「バケット」とも言う)について、
図1〜8に示すバケット1を、本発明の好ましい実施形態の一例として、その詳細を説明する。
【0034】
[バケットの構造]
図1〜8に示す通り、バケット1は、底板11、対向する2つの側板12(12A、12B)、背板13、及び、必要に応じて更に設置される天板14とで構成され、背板13に対向する正面側が土を掬い込む開口面となる箱体からなる。そして、この箱体の底板11と、底板11の奥側に連接する背板13の少なくともいずれか一方、或いは、それらの両方の一部又は全部が、所定の態様で多数の篩い孔152が形成されている篩い面15(15A、15B)とされている。
【0035】
底板11は、正面側の開口面から粉粒体を掬い込んで、それらを載積する面となる。底板11により構成されるバケット1の底面の一部又は全部は、上述の通り、篩い面15Aとされている。尚、篩い面15は、バケット1を接地する重機の構造によっては、背板13のみに設けることもできる。又、底板11の先端には、粉粒体の堆積物に喰い込み易く掬い込んだ粉粒体のバケット内への導入を容易にする掘削部16が更に設置されていることが好ましい。
【0036】
側板12は、その手前側が上部から底板11の手前側に向けて傾斜していることが好ましい。これにより、粉粒体の堆積物の中にバケット1がより喰い込みやすくなる。
【0037】
背板13により構成されるバケット1の背面の一部又は全部は、上述の通り、篩い面15Bとされている。尚、篩い面15は、バケット1を接地する重機の構造によっては、底板11のみに設けることもできる。
【0038】
天板14には、バケット1が取り着けられるパワーショベル10(
図9A、9B参照)のアーム21との連結部となるブラケット17が設置される。天板14が存在しない場合は、ブラケット17は背板13に設置することもできる。
【0039】
篩い面15は、多数の篩い孔152が千鳥状又はマトリクス状に配列されていることにより粉粒体等を粒径の差異により適切に篩い分ける機能を発揮する部材により構成する。尚、
図1等に示される篩い面15は、ひし形の篩い孔152が千鳥状に配列されている例である。バケット1においては、この篩い面15を、バケット1で移送後に篩い孔152から落下させることを想定する粉粒体が固結してなる塊状物が、所定態様での移送中においては、篩い孔152の周囲でアーチを形成し、棚吊り現象によって篩い孔152を閉塞させた状態を保持することができる形状とされていることを特徴とする(
図10A及び
図10B参照)。
【0040】
上述のように、所定態様での移送中において、粉粒体が篩い孔152を閉塞させた状態を保持することができるような篩い面の形状とは、特定の形状には限定されない。例えば、篩い孔152の開口径や開口形状が異なる複数の篩い面構成材料試料を用いて、移送試験を行ない、その試験結果に応じて、移送時の粉粒体の落下割合が、所定割合以下、例えば、5重量%未満となるものを選択することによって篩い面の形状を決定することにより、本発明のバケット1を構成することができる篩い面構成材料を適切に選択することができる。
【0041】
又、所定態様での移送中において、粉粒体が篩い孔152を閉塞させた状態を保持することができるような篩い面を形成するためには、当該篩い面の篩い孔の周縁部における表面の粗さが、より大きい方の面を、バケット1を構成する箱体の内部側に向ける面(篩い面表面151)とした構成とすることが好ましい。篩い面15を、このような態様とすることにより、移送対象とする粉粒体の移送時における篩い孔152の周囲での粉粒体によるアーチ形成の安定性を有意に高めることができる。
【0042】
上述のように、篩い面15において、表面の粗さがより大きい方の面が、箱体の内部側に向けられているものとするためには、篩い面15をエキスパンドメタルで構成することが好ましい。ここで、エキスパンドメタルは、特開2001−47153号公報にも説明されている通り、その製法に起因して、一方の面の篩い孔の周辺に微細な「バリ(不規則な突出部)」が必然的に形成される部材である。このような微細なバリの存在するエキスパンドメタルは、表面と裏面とで表面の粗さの異なる材料の一つである。よって、このようなエキスパンドメタルを、篩い面15を構成する材料として選択し、このバリが存在する側の面、即ち、篩い孔152の周縁部の表面の粗さが、相対的に大きい方の面を、バケット1を構成する箱体の内側に向けて、篩い面表面151を構成するように配置することにより、移送中に粉粒体により形成されたアーチがより崩れにくくなり、移送中にこのアーチを維持しやすくなる。
【0043】
尚、表面と裏面とで表面の粗さの異なる材料であれば、上記のエキスパンドメタル以外にも打抜き加工によって適切な態様で多数の篩い孔が形成されたものであって篩い孔の周辺に、エキスパンドメタルと同様のバリが残存するパンチングメタル等も、篩い面15の材料として選択することができる。
【0044】
以上、説明した通り、バケット1の篩い面15は、その篩い孔152の開口の形状、大きさ、配置について、移送対象とする粉粒体が、移送中に篩い面15の篩い孔152の周囲で粉粒体の固結物からなるアーチを形成して、篩い孔152を閉塞させたまま移送することが可能な形状、大きさ、配置とされている。よって、堆積物から粉粒体を掬い取った時には、棚吊り現状を起こして篩い孔152から落下せず、塊状物を含めてバケット1内に貯留される。棚吊り現状が発生すれば、バケット1を回転移動させる程度の、略一様な速度での移動(搖動等、相反する方向に変化する移動ではないこと)であれば、容易に棚吊り現象を破壊することはできないことは、本願発明分野にかかる当業者にとっては自明と言える。例えば、粉粒体の移送配管で棚吊り現象が発生すると、配管外壁からハンマーで何度も打撃して瞬間的で強い振動を繰り返し与える、或いは、配管内部に空気を吹き込む等の方法により、粉粒体によって配管内壁に形成されたアーチを壊さなければ配管の閉塞を解消することは難しいことが知られている。このことからも、粉粒体の性状に応じて篩い面の設計を適宜最適化することによって、移送対象とする粉粒体が、移送時に、篩い孔152を閉塞させた態様のままで移送することが可能であることは明らかである。
【0045】
[バケットの製造方法]
バケット1の製造方法は、本発明独自の「篩い面設計工程」を経ることを必須とする。この他の工程については、従来方法と同様にしてバケットの製造を行なうことができる。「篩い面設計工程」は、バケットが静止している時及び水平方向に所定速度以下で移動している時には、バケットで移送後に篩い孔から落下させることを想定する粉粒体が固結してなる塊状物が、篩い孔を閉塞させた状態を保持することができるように、篩い面の形状を決定する工程である。
【0046】
この「篩い面設計工程」は、上述の通り、篩い面の篩い孔の開口径や開口形状が異なる複数の篩い面構成材料試料を用いて移送試験を行ない、その試験結果に応じて、移送時の粉粒体の落下割合が、所定割合以下となるものを適宜選択することによって篩い面の形状を決定することにより行なうことができる。
【0047】
[バケットを備えてなるパワーショベル]
本発明の好ましい実施形態として、バケット1が、回旋可能なアームの先端に取り付けられている、パワーショベル10(
図9A、9B)を挙げることができる。このパワーショベル10は、バケット1の天板14の上面に設置されているハット形状のブラケット17に、パワーショベル10の本体2から延設されるアーム21が回転可能に取付けられることにより構成されている。
【0048】
<粉粒体の移送方法>
本発明の粉粒体の移送方法(以下、単に「粉粒体の移送方法」とも言う)は、バケット1を備えるパワーショベル10により、好ましく行なうことができる。又、その処理対象となる粉粒体は特定のものに限定はされないが、フェロニッケル製錬プロセスから排出されるFe−Niスラグ等の粉粒体が堆積されてなる堆積物から粉粒体を取り出して、所定の搬出位置にまで移送する手段として特に好ましく実施することができる。
【0049】
[処理対象]
粉粒体の移送方法の好ましい処理対象の一つであるFe−Niスラグは、フェロニッケル製錬プロセスにおいてスラグ熔体を水砕することにより製造され、MgO、SiO
2を利用した鉄鋼・合金鉄製造の溶剤や肥料原料として、又、ケーソン中詰め等の港湾土木用材や地盤改良材、更には、路盤用アスファルト細骨材、コンクリート細骨材としても利用されている。Fe−Niスラグの具体例として下記表1及び2に記載する3種の品種(品種1〜3)を挙げることができる。これらのFe−Niスラグは、表1〜3の性状であるため、通常、風で飛散しないように遮蔽された屋外で、10m程度或いはより高い斜面を形成させるように堆積保管されている。
【0053】
[掬い取り工程]
上記のFe−Niスラグ等の粉粒体を、堆積物から掬い取って所定の粉粒体集積位置にまで本発明の粉粒体の移送方法によって移送する場合、先ず、
図9Aに示されるように、バケット1を備えるパワーショベル10を粉粒体の堆積物からなる山の中腹3付近に配置する。そして、同堆積物から、適量の粉粒体を掬い取る。
【0054】
[移送工程]
次に、パワーショベル10のアーム21を所定速度以下で回旋することによりバケット1を、堆積物からなる山の裾野4付近の粉粒体集積位置5に向けて水平移動させる。この移動にかかる所定速度は、予め、粉粒体がバケット内の篩い孔の周辺で形成したアーチを維持できる速度として、例えば、上記の篩い面設計工程における試験等により予め検証されていて所定の速度とする。バケット1は篩い面がアーチを維持しやすいように設計されているので、この速度を従来とは異なり、十分に大きな速度とすることができる。
【0055】
[落下工程]
最後に、粉粒体集積位置の上方域にまで移動させたバケットについて、その移動速度を上記の所定速度を超える速度とするか、或いは、バケットに振動を加えることにより、上記の粉粒体のアーチを破砕して、篩い孔から粉粒体6を、所定の粉粒体集積位置に落下させる。尚、この工程の後、バケット内に残存した不要物は、そのまま、パワーショベル10を不要物の堆積場所に移送して排出することができる。
【0056】
実際に、市販のエキスパンドメタル(JIS呼称:XS43、メッシュ短目方向の中心間距離:22mm、メッシュ長目方向の中心間距離50.8mm)を篩い面15として
図1等に示す態様で底板11及び背板13に配置したバケット1を備えるパワーショベルで、上記表1及び2に記載のFe−Niスラグ(品種2)を、本発明の粉粒体の移送方法により、試験的に水平移送したところ、水平移送中に落下した粉粒体は、重量割合で全体の5%未満であり、粉粒体集積位置の上方域においてバケットに振動を加えたところ、ほぼ全量の粉粒体を、速やかに粉粒体集積位置落下させることができた。
【0057】
以上説明した通り、粉粒体の棚吊り現象を逆手に取った本発明のバケット及び移送方法を用いることにより、別途の篩別装置を必要とせず、篩別後の粉粒体を改めて移送する手間を省いて、粉粒体から不要物を除去して目的の集積位置まで速やかに移送することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 バケット
11 底板
12(12A、12B) 側板
13 背板
14 天板
15(15A、15B) 篩い面
151 篩い面表面
152 篩い孔
16 掘削部
17 ブラケット
2 パワーショベルの本体
21 アーム
10 パワーショベル
3 堆積物からなる山の中腹
4 堆積物からなる山の裾野
5 粉粒体集積位置
6 粉粒体