特開2019-168072(P2019-168072A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-168072(P2019-168072A)
(43)【公開日】2019年10月3日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20190906BHJP
【FI】
   F16J15/34 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-57620(P2018-57620)
(22)【出願日】2018年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】谷 公裕
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BA04
3J041BD06
3J041DA12
(57)【要約】
【課題】設置作業が簡便なメカニカルシールを提供する。
【解決手段】固定密封環6を有する固定側密封要素4と、回転密封環9を有する回転側密封要素5と、固定密封環6と回転密封環9のうちの一方を他方に向けて付勢する付勢部材8と、固定側密封要素4と回転側密封要素5とを仮止めするセットプレート13と、を備え軸封部に装着されるカートリッジ型のメカニカルシール1であって、セットプレート13は、メカニカルシール1を前記軸封部に設置後、固定側密封要素4と回転側密封要素5のうち一方の密封要素に取付けられており、かつ固定側密封要素4と回転側密封要素5のうち他方の密封要素とセットプレート13とは、相対的に回転摺動したときに前記他方の密封要素とセットプレート13との間に生じる摩擦力が0となるまたは低減されるように構成されている。また、セットプレート13は合成樹脂により形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定密封環を有する固定側密封要素と、回転密封環を有する回転側密封要素と、前記固定密封環と前記回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する付勢部材と、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素とを仮止めするセットプレートと、を備え軸封部に装着されるカートリッジ型のメカニカルシールであって、
前記セットプレートは、前記メカニカルシールを前記軸封部に設置後、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち一方の密封要素に取付けられており、かつ
前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち他方の密封要素と前記セットプレートとは、相対的に回転摺動したときに前記他方の密封要素と前記セットプレートとの間に生じる摩擦力が0となるまたは低減されるように構成されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
固定密封環を有する固定側密封要素と、回転密封環を有する回転側密封要素と、前記固定密封環と前記回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する付勢部材と、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素とを仮止めするセットプレートと、を備え軸封部に装着されるカートリッジ型のメカニカルシールであって、
前記セットプレートは、前記メカニカルシールを前記軸封部に設置後、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち一方の密封要素に取付けられており、かつ少なくとも表面は合成樹脂により構成されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項3】
前記セットプレートの表面は、前記他方の密封要素に比べ硬度が低いことを特徴とする請求項1または2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記セットプレートの表面は、前記他方の密封要素に比べ摩擦係数が小さいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記回転側密封要素に前記セットプレートが取付けられており、前記セットプレートと前記回転側密封要素との相対的な回動を規制する回動規制手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記回動規制手段は、前記セットプレートが嵌合設置される溝部であることを特徴とする請求項5に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記回転側密封要素に前記セットプレートが設けられており、前記回転側密封要素には、前記セットプレートが傾倒することを規制する傾倒規制部材が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと回転軸との間に形成した軸封部をシールするメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のメカニカルシールは、ハウジングに軸が挿通される機械において、ハウジングと軸との間に形成した軸封部に装着されるようになっている。軸には、回転密封環を有する回転側密封要素が供回りするように設けられ、ハウジングには、固定密封環を有する固定側密封要素が設けられており、前記回転密封環と前記固定密封環とを摺動させることで前記軸封部をシールしている。
【0003】
このようなメカニカルシールとしては、回転密封環と固定密封環との適正な摺動状態を維持させるために固定密封環を回転密封環側に向けて付勢する付勢部材が設けられている。固定密封環と回転密封環とを軸方向位置に適正な位置に保持して、固定密封環と回転密封環との間に付勢手段による適正な付勢力を維持したままメカニカルシールを軸封部に設置するために固定側密封要素と回転側密封要素とを仮固定するセットプレートを備えた所謂カートリッジ型のメカニカルシールが利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−138965号公報(第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなメカニカルシールにあっては、メカニカルシールを軸封部に設置する際に、回転側密封要素をハウジングに固定するとともに回転側密封要素を軸に固定した後、セットプレートを取り外すことで、メカニカルシールは使用可能となっていた。このように、セットプレートを取り外し忘れた状態で軸が回転するとメカニカルシールが故障する虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、設置作業が簡便なメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
固定密封環を有する固定側密封要素と、回転密封環を有する回転側密封要素と、前記固定密封環と前記回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する付勢部材と、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素とを仮止めするセットプレートと、を備え軸封部に装着されるカートリッジ型のメカニカルシールであって、
前記セットプレートは、前記メカニカルシールを前記軸封部に設置後、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち一方の密封要素に取付けられており、かつ
前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち他方の密封要素と前記セットプレートとは、相対的に回転摺動したときに前記他方の密封要素と前記セットプレートとの間に生じる摩擦力が0となるまたは低減されるように構成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、メカニカルシールを軸封部に設置後、回転側密封要素の回転に伴い他方の密封要素とセットプレートとが摺動したときに、他方の密封要素とセットプレートとの間に生じる摩擦力が0となるまたは低減されるため、回転側密封要素の回転に影響を与えにくく、メカニカルシールを軸封部に設置後にセットプレートを一方の密封要素から撤去する作業を省くことができる。
【0008】
また、本発明のメカニカルシールは、
固定密封環を有する固定側密封要素と、回転密封環を有する回転側密封要素と、前記固定密封環と前記回転密封環のうちの一方を他方に向けて付勢する付勢部材と、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素とを仮止めするセットプレートと、を備え軸封部に装着されるカートリッジ型のメカニカルシールであって、
前記セットプレートは、前記メカニカルシールを前記軸封部に設置後、前記固定側密封要素と前記回転側密封要素のうち一方の密封要素に取付けられており、かつ少なくとも表面は合成樹脂により構成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、セットプレートの表面が合成樹脂により構成されていることから、回転側密封要素の回転に伴い他方の密封要素とセットプレートとが摺動した際に、セットプレートが摩耗により削れ、他方の密封要素とセットプレートとの間に生じる摩擦力が0となるまたは低減されるため、回転側密封要素の回転に影響を与えにくく、メカニカルシールを軸封部に設置後にセットプレートを一方の密封要素から撤去する作業を省くことができる。
【0009】
前記セットプレートの表面は、前記他方の密封要素に比べ硬度が低いことを特徴としている。
この特徴によれば、セットプレートが他方の密封要素との摺動により削れやすい。
【0010】
前記セットプレートの表面は、前記他方の密封要素に比べ摩擦係数が小さいことを特徴としている。
この特徴によれば、セットプレートが他方の密封要素に対して滑りやすいので、回転側密封要素の回転に影響を与えにくい。
【0011】
前記回転側密封要素に前記セットプレートが取付けられており、前記セットプレートと前記回転側密封要素との相対的な回動を規制する回動規制手段を備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、回動規制手段によりセットプレートと回転側密封要素とを一体化できるため、セットプレートと固定側密封要素とを好適に回転摺動させることができる。
【0012】
前記回動規制手段は、前記セットプレートが嵌合設置される溝部であることを特徴としている。
この特徴によれば、簡素な構造でセットプレートと回転側密封要素とが相対的に回転することを防止できる。
【0013】
前記回転側密封要素に前記セットプレートが設けられており、前記回転側密封要素には、前記セットプレートが傾倒することを規制する傾倒規制部材が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、傾倒規制部材によりセットプレートの傾倒が規制されるため、セットプレートを固定側密封要素に対して略均等に接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における軸封部に取付けられた後のメカニカルシールの構造を示す正面断面図である。
図2】実施例1における軸封部に取付けられる前のメカニカルシールの構造を示す正面断面図である。
図3】(a)はメカニカルシールを取付けた直後のセットプレートとケースが摺動する前の状態を示す要部拡大図、(b)はセットプレートとケースが摺動した後の状態を示す要部拡大図である。
図4】(a)は実施例2におけるメカニカルシールを取付けた直後のセットプレートとケースが摺動する前の状態を示す要部拡大図、(b)はセットプレートとケースが摺動した後の状態を示す要部拡大図である。
図5】(a)は実施例3におけるメカニカルシールを取付けた直後のセットプレートとケースが摺動する前の状態を示す要部拡大図、(b)はセットプレートとケースが摺動した後の状態を示す要部拡大図である。
図6】(a)は実施例4におけるメカニカルシールを取付けた直後のセットプレートとケースが摺動する前の状態を示す要部拡大図、(b)はセットプレートとケースが摺動した後の状態を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、図1から図5を参照して説明する。以下、図2の紙面左側をメカニカルシールの左側とし、図2の紙面右側をメカニカルシールの右側として説明する。
【0017】
図1に示されるように、本実施例に係るメカニカルシール1は、自動車、一般産業機械等の軸封分野で用いられ、ハウジング2と、該ハウジング2に設けられる軸孔20に挿通される回転軸3との間(軸封部)をシールするために取付けられる。ハウジング2には段付きの軸孔20が設けられており、機外側の小径孔の内周面に雌ネジ部21が形成されている。尚、回転軸3は、一般にステンレス鋼製等の金属製であり、軸封する機器がポンプの場合には、機内側に図示しない羽根車が取付けられている。
【0018】
図2に示されるように、メカニカルシール1は、ケース4と、固定密封環6と、スリーブ5と、カラープレート7と、スプリング8と、回転密封環9と、から主に構成されており、使用前においてはこれらケース4と、固定密封環6と、スリーブ5と、カラープレート7と、スプリング8と、回転密封環9とがセットプレート13により一体とされたカートリッジ型に構成されるものである。メカニカルシール1は、使用前に締結バンド14がスリーブ5に取付けられていてもよい。
【0019】
ケース4は環状を成しており、その内部にスリーブ5が挿通される軸孔40が設けられ、軸孔40の内周面にはダストシール30が配設されスリーブ5との間に異物が進入することを規制している。また、ケース4には、左側の外周面に雄ネジ部41が形成されている。これによれば、ケース4の雄ネジ部41を前述したハウジング2の雌ネジ部21にねじ込むことにより、ケース4をハウジング2に固定することができる(図1参照)。そのため、ボルト等の固定手段を別途に用いることなく、ケース4をハウジング2に容易に固定することができるばかりか、周方向に亘り均一な保持力でメカニカルシール1をハウジング2に取付けることができる。また、ケース4の雄ネジ部41をハウジング2の雌ネジ部21にねじ込むことによりケース4をハウジング2に固定した後、さらにボルト等でこれらを固定してもよい。尚、このケース4は、ステンレス鋼材やアルミ合金等の金属で構成されている。
【0020】
また、ケース4には、右側端縁の外周に延出するフランジ42が形成されている。これによれば、ケース4をハウジング2に固定するとき、ケース4のフランジ42のハウジング2側の端面45をハウジング2の右側の端面22に当接させることができる(図1参照)。この当接により、ケース4をハウジング2に固定するとき、ケース4とハウジング2の位置合わせが行われ、雌ネジ部21及び雄ネジ部41に過剰な力が働くことがなくなり、雌ネジ部21及び雄ネジ部41の変形や破損等を防ぐことができる。
【0021】
また、ケース4には、フランジ42よりも左側の外周面に環状溝43が形成されており、この環状溝43には、Oリング101が装着されている。これによれば、ケース4をハウジング2に固定するとき、Oリング101をハウジング2の内周面に圧着させることができる(図1参照)。そのため、ハウジング2の内周面とケース4の外周面との間の隙間をOリング101によってシールすることができる。
【0022】
また、環状溝43をハウジング2の内周面に対向して配置しているため、フランジ42の径寸法を短くしてケース4を小型・軽量化することができる。さらに、ケース4をその外周に設けた雄ネジ部41によりハウジング2に固定しているため、フランジ42の径寸法を短くすることができる。
【0023】
また、ケース4には、左側側の内周に固定密封環6がOリング102を介して取付けられている。固定密封環6には、スリーブ5が挿通される軸孔60が設けられ、環状を成している。また、固定密封環6には、左側の外周に延出するフランジ61が形成されている。
【0024】
また、固定密封環6には、フランジ61よりも右側の縮径部分の外周にOリング102が装着されている。これによれば、固定密封環6をケース4に固定するとき、Oリング102をケース4の内周面に圧着させることができる。そのため、ケース4の内周面と固定密封環6の外周面との間の隙間をOリング102によってシールすることができる。これらケース4及び固定密封環6は、ハウジング2に固定される固定側密封要素を構成している(図1参照)。
【0025】
尚、固定密封環6は、特殊転換法(カーボン表面を部分的にSiC化し、表面強度を補強し、SiCの耐摩耗性とカーボンの自己潤滑性の両方を兼ね備えるようにすること)によるSiCから製作されている。また、ダイヤモンドコーティングしたSiCにより製作されてもよい。
【0026】
スリーブ5には、回転軸3が挿通される軸孔50が設けられ、管状を成している。また、スリーブ5に設けられる軸孔50の左側の内周面には、環状溝57が形成されており、この環状溝57には、Oリング103が装着されている。これによれば、スリーブ5の軸孔50に回転軸3が挿通されるとき、Oリング103を回転軸3の外周面に圧着させることができる(図1参照)。そのため、スリーブ5の内周面と回転軸3の外周面との間の隙間をOリング103によってシールすることができる。
【0027】
尚、スリーブ5は、一般にステンレス鋼製等の金属製であり、回転軸3に締結バンド14によって固定されることにより、回転軸3と共に回転する(図1参照)。
【0028】
スリーブ5の左側の外周面には、環状溝51aが形成されている。この環状溝51aには、カラープレート7が装着されている。尚、カラープレート7は、スリーブ5に対して軸方向及び周方向に相対移動しないように固定されている。
【0029】
また、周知のように、カラープレート7と回転密封環9との間には、圧縮された状態でスプリング8が配置されている。スプリング8は、スリーブ5の軸径よりも大きいスプリングを1本使用する形式、すなわちワンコイルスプリング型で配置されている。尚、スプリング8は、コイルスプリングの他に、ウェーブコイルスプリング等を使用してもよいし、マルチコイルスプリングを使用してもよい。
【0030】
また、スリーブ5の外周面における環状溝51aの右側には、ガイド部材10が装着されている。ガイド部材10は、スリーブ5の外周面に対して溶接されることにより、周方向に回動不能に固定されている。また、ガイド部材10は、リング状の取付部10aと、該取付部10aから周方向に複数設けられたL字状のガイド片11と、から構成されている。尚、スリーブ5の外周面に対するガイド部材10の固定方法は、溶接に限らず、凹凸嵌合を利用して固定されてもよい。
【0031】
また、ガイド部材10のガイド片11は、自由端部が回転密封環9の左側の内周面に形成される複数のガイド用凹部91にそれぞれ挿入されている。ガイド用凹部91は、軸方向へ延び左側に開放するように形成されている。これによれば、ガイド片11は、ガイド用凹部91に挿入されることにより、回転密封環9をスリーブ5に対して軸方向へのみ相対移動させるとともに、回転密封環9をスリーブ5に対して周方向へ相対移動させないように係止する。そのため、回転密封環9には、ガイド片11によりスリーブ5の回転力が伝達され、スリーブ5と共に回転する。これらスリーブ5及び回転密封環9は、回転軸3に固定される回転側密封要素を構成している(図1参照)。
【0032】
回転密封環9は環状を成しており、その内部にスリーブ5が挿通される軸孔90が設けられている。また、回転密封環9は、右側の側端面を固定密封環6の左側の側端面に当接させた状態で、スリーブ5と共に回転する。尚、回転密封環9の側端面と固定密封環6の側端面とが当接することにより摺動面Sが形成される。また、回転密封環9の側端面は、スプリング8から軸方向の付勢力が負荷されることにより、右側に付勢され、固定密封環6の側端面に対して密着している。これによれば、固定密封環6の側端面に対する回転密封環9の側端面の追従性を高めることができる。そのため、メカニカルシール1の摺動面Sにおけるシール性を高めることができる。
【0033】
また、回転密封環9には、左側の内周面にOリング104が装着されている。これによれば、回転密封環9をスリーブ5に挿通するとき、Oリング104をスリーブ5の外周面に圧着させることができる。そのため、回転密封環9の内周面とスリーブ5の外周面との間の隙間をOリング104によってシールすることができる。
【0034】
また、回転密封環9には、左側の内周面において、Oリング104の装着位置よりも左側の位置に保持プレート12が圧入により取付けられている。保持プレート12は、回転密封環9の内周面に装着されたOリング104の左側への移動を規制している。
【0035】
尚、回転密封環9は、特殊転換法(カーボン表面を部分的にSiC化し、表面強度を補強し、SiCの耐摩耗性とカーボンの自己潤滑性の両方を兼ね備えるようにすること)によるSiCから製作されている。また、ダイヤモンドコーティングしたSiCにより製作されてもよい。
【0036】
スリーブ5の右側の外周面には、内径側に凹む断面略矩形の環状溝53aが形成されている。この環状溝53aには、断面矩形の環状のセットプレート13が嵌合されている。セットプレート13は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(合成樹脂)により構成されており、環状溝53aに装着されることにより、ケース4の軸孔40の右側の周縁に形成され軸方向に凹む環状凹部44に当接する。これによれば、スリーブ5に挿通された各部材を、スプリング8による適正な付勢力を維持した状態で左側のカラープレート7と右側のセットプレート13との間に一体保持することができる。そのため、メカニカルシール1をカートリッジ型に構成することができる。また、スリーブ5の外周面には、セットプレート13におけるケース4との反対側にステンレス等の金属からなるCリング状のワッシャ15が取付けられている。
【0037】
また、スリーブ5の右の端部には、軸方向に延びるスリット58,58,58,58(1つのみ図示)が周方向に対して90度毎に等配されて形成されている。また、スリーブ5における環状溝53aよりも右側の端部には、環状溝53bが形成されており、環状溝53bに締結バンド14(締締部材)が装着及び緊締されることにより、スリーブ5を回転軸3に固定することができる(図1参照)。
【0038】
尚、スリーブ5は、セットプレート13の内径よりも大径に形成され、かつ右側にスリット58,58,58,58が形成されている。セットプレート13を取付ける際には、スリーブ5の右側を縮径させた状態でセットプレート13の中央孔をスリーブ5に挿通し、その後スリーブ5の縮径状態を解除することで該スリーブ5の環状溝53aにセットプレート13を嵌合させることができる。セットプレート13が環状溝53aに嵌合された状態にあっては、セットプレート13は、スリーブ5に対して軸方向及び周方向に相対移動不能になる。
【0039】
尚、本実施例におけるOリング101,102,103,104の材質は、フッ素ゴム、ニトリルゴム、H−NBR、EPDM、パーフロロエラストマ等である。
【0040】
また、固定密封環6及び回転密封環9の材質は、シリコンカーバイド、タングステンカーバイト、カーボン、その他のセラミックス等の超硬質材料であってもよい。
【0041】
カートリッジ型に構成されたメカニカルシール1を軸封部に取付けるには、ハウジング2の軸孔20に対して右側から該メカニカルシール1のカラープレート7側を挿通し、ケース4の雄ネジ部41をハウジング2の雌ネジ部21にねじ込むとともに、締結バンド14によりスリーブ5を回転軸3に固定すれば図1図3(a)に示される取り付け状態となる。
【0042】
図3(a)に示されるように、メカニカルシール1をハウジング2に取付けた直後の状態にあっては、セットプレート13のケース4側の端面13aがケース4の右側の端面46(環状凹部44の底面)に面接触しているとともに、セットプレート13のハウジング2と反対側の端面13bがワッシャ15に接触している。
【0043】
図3(b)に示されるように、回転軸3を回転駆動させると、スリーブ5により回転軸3とともにセットプレート13が回転し、セットプレート13の端面13aとケース4の端面46とが摺動するようになる。セットプレート13は、合成樹脂であるPTFEにより構成されていることから、セットプレート13の端面13aがケース4の端面46との摩擦により削れ、セットプレート13の端面13aとケース4の端面46とが離間する。これにより、ケース4とセットプレート13との間に生じる摩擦力が0となる。つまり、メカニカルシール1を軸封部に設置後にセットプレート13をスリーブ5から撤去する作業を省くことができるので、メカニカルシール1の設置作業が極めて簡便となる。尚、図3(b)では、説明の便宜上、セットプレート13の端面13aとケース4の端面46との離間寸法は、実際よりも大きな寸法で図示している。
【0044】
また、セットプレート13は、合成樹脂であるPTFEにより構成され、ケース4は、ステンレス鋼材やアルミ合金等の金属で構成されている。すなわち、セットプレート13は、ケース4に比べ硬度が低いため、セットプレート13がケース4との摺動により削れやすく、ケース4とセットプレート13との間に生じる摩擦力が0になるまで(セットプレート13の端面13aとケース4の端面46とが離間するまで)にかかる時間を短くすることができる。
【0045】
また、セットプレート13は、摩擦係数の小さい合成樹脂であるPTFEにより構成されているため、セットプレート13がケース4に対して滑りやすい。これによれば、ケース4とセットプレート13との間に生じる摩擦力が0となるまでの間に生じる摩擦力を低減させることができる。また、ケース4とセットプレート13との間に生じる摩擦力が0となった後、セットプレート13がケース4側に傾倒したり、熱膨張することによってセットプレート13とケース4とが接触したときにも、セットプレート13がケース4上を滑ることで大きな摩擦抵抗を逃がすことができるため、回転軸3の回転に影響を与えにくい。
【0046】
また、セットプレート13は、スリーブ5の環状溝53aに対して軸方向及び周方向に相対移動不能に取付けられている。これによれば、セットプレート13とスリーブ5とが一体化されているため、セットプレート13とスリーブ5とが相対的に回転することを防止できる。具体的には、セットプレート13がケース4との摩擦により回転が停止した状態でスリーブ5のみが回転するといった現象を防止でき、セットプレート13とケース4とを好適に回転摺動させることができる。すなわち、環状溝53aは、セットプレート13とスリーブ5との相対的な回動を規制する回動規制手段として機能している。
【0047】
また、セットプレート13におけるケース4との反対側(端面13b側)には、ステンレス等の金属からなるCリング状のワッシャ15が配設されている。これによれば、セットプレート13がケース4との摺動によりケース4との反対側に傾倒しようとしても、ワッシャ15により該傾倒が規制されるため、セットプレート13の端面13aをケース4の端面46に対して略均等に接触させることができる。つまり、ワッシャ15は、セットプレート13が傾倒することを規制する傾倒規制部材として機能している。
【0048】
また、ケース4とスリーブ5との間には、ダストシール30が配設されているため、セットプレート13が削れた摩耗粉が機内に入り込むことを防止できるとともに、ケース4とスリーブ5との間に前記摩耗粉が入り込むことによって回転軸3の回動を阻害することを抑制できる。
【0049】
尚、本実施例では、セットプレート13がPTFEにより構成されていたが、セットプレート13は、PTFEに限られず、ケース4との摺動により削れるものであれば自由に変更してもよい。例えば、セットプレートを摩擦係数が高く、且つ摩耗しやすい部材で構成し、短時間で削れるようにしてもよい。
【0050】
また、例えば、ケース4の端面46をブラスト処理などにより表面粗さを粗く構成し、セットプレート13が短時間で削れるようにしてもよい。
【0051】
また、本実施例では、セットプレート13全体が合成樹脂(PTFE)により構成されていたが、セットプレート13は、ケース4との摺動する端面13aが合成樹脂であればよく、例えば、金属がインサート成形された成形体であってもよい。
【0052】
また、セットプレート13の端面13aは、ケース4の端面46に対して面接触することに限られず、例えば、セットプレートの端面にケースの端面に対して接触する複数の突起などを設けてもよい。これによれば、セットプレートの端面とケースの端面との接触面積が小さくなる(点接触になる)ので、セットプレートとケースとの間に生じる摩擦力を小さくできるとともに、セットプレートとケースとの間に生じる摩擦力が0または低減されるまでにかかる時間を短縮できる。
【0053】
また、セットプレート13は、環状溝53aに対して圧入設置されることでスリーブ5に対して相対的な回動を規制された状態で取付けられていてもよい。また、セットプレートと回転側密封要素との相対的な回動を規制する回動規制手段は、環状溝53aに限られず、例えば、セットプレート13とワッシャ15とを接着材や凹凸嵌合などにより接続することで、セットプレート13とスリーブ5とが相対的に回動することを防止するようにしてもよい。この場合、ワッシャ15によりセットプレート13の傾倒とスリーブ5との相対的な回動とを規制できる。さらに、セットプレート13がケース4側に傾倒することも防止できる。
【0054】
また、セットプレート13は、環状をなしていたが、これに限られず、例えば、スリーブ5の周方向に複数点在する片であってもよいし、Cリング状等の形状であってもよい。
【実施例2】
【0055】
次に、実施例2に係るメカニカルシールにつき、図4を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、図4(b)では、説明の便宜上、セットプレート131の端面13aとプレート31の端面31aとの離間寸法は、実際よりも大きな寸法で図示している。
【0056】
図4(a)に示されるように、ケース4は、軸孔40の右側の周縁に形成される環状凹部44’が実施例1の環状凹部44よりも軸方向に大きく形成されており、環状凹部44’には、所定の厚みを有する環状のプレート31が固定的に設けられている。プレート31は、PTFEにより構成されている。言い換えれば、プレート31は、合成樹脂により構成される摺動部材である。また、セットプレート131は、ステンレス鋼板等の金属から形成されている。
【0057】
図4(b)に示されるように、回転軸3を回転駆動させると、回転軸3とともにセットプレート131が回転し、セットプレート131の端面131aとプレート31の端面31aとが摺動するようになる。これによれば、プレート31の端面31aがセットプレート13の端面13aとの摩擦により削れ、セットプレート13の端面13aとプレート31の端面31aとが離間し、ケース4とセットプレート13との間に生じる摩擦力を0にできる。
【0058】
また、PTFEにより構成されるプレート31は、ステンレス鋼板等の金属から形成されるセットプレート131よりも硬度が低いため、プレート31がセットプレート13との摺動により削れやすくできる。このように、一方の密封要素(スリーブ5)に固定されるセットプレートが削れることに限られず、他方の密封要素を構成する部材が削られるようになっていてもよい。
【0059】
次に、実施例3に係るメカニカルシールにつき、図5を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、図5(b)では、説明の便宜上、セットプレート13の端面13a,13b及び内周端面13cと環状溝53aとの離間寸法は、実際よりも大きな寸法で図示している。
【0060】
図5(a)に示されるように、セットプレート13は、ボルト16によりケース4の環状凹部44に固定されており、セットプレート13の内周側端縁は、環状溝53a内に挿嵌されている。
【0061】
図5(b)に示されるように、回転軸3を回転駆動させると、回転軸3とともにスリーブ5が回転し、セットプレート13の端面13a,13b及び内周端面13cと環状溝53aとが摺動するようになる。これによれば、セットプレート13の端面13a,13b及び内周端面13cが環状溝53aとの摩擦により削れ、セットプレート13の端面13a,13b及び内周端面13cと環状溝53aとが離間し、セットプレート13と環状溝53aとの間に生じる摩擦力を0にできる。このように、セットプレート13は、スリーブ5(回転側密封要素)に固定されることに限られず、ケース4(固定側密封要素)に固定されていてもよい。
【0062】
次に、実施例4に係るメカニカルシールにつき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、図6(b)では、説明の便宜上、セットプレート132の端面132a,132b及び内周端面132cとプレート32の凹部32aとの離間寸法は、実際よりも大きな寸法で図示している。
【0063】
図6(a)に示されるように、セットプレート132は、ボルト16によりケース4の環状凹部44に固定されている。このセットプレート132は、ステンレス鋼板等の金属から形成されている。また、環状溝53a’は、実施例1〜3の環状溝53aよりも大きく形成されており、環状溝53a’内には、セットプレート13の内周側端縁を挿嵌可能な凹部32aを有する環状のプレート32が固着されている。このプレート32は、PTFEにより構成されている。言い換えれば、プレート32は、合成樹脂により構成される摺動部材である。
【0064】
図6(b)に示されるように、回転軸3を回転駆動させると、回転軸3とともにスリーブ5が回転し、セットプレート132の端面132a,132b及び内周端面132cとプレート32の凹部32aとが摺動するようになる。これによれば、プレート32の凹部32aがセットプレート132の端面132a,132b及び内周端面132cとの摩擦により削れ、セットプレート132の端面132a,132b及び内周端面132cとプレート32の凹部32aとが離間し、セットプレート132とプレート32との間に生じる摩擦力を0にできる。
【0065】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0066】
例えば、前記実施例では、一方の密封要素に取付けられるセットプレートまたはセットプレートと接触する他方の密封要素(回転側密封要素または固定側密封要素)の一部が摺動により削れることでセットプレートと他方の密封要素との間に生じる摩擦力が0となる形態を例示したが、これに限られず、使用前よりもセットプレートが削られ使用前よりもセットプレートと他方の密封要素との間に生じる摩擦力が低減されるものであってもよい。例えば、セットプレートが削られる量が少なく使用時にセットプレートと他の密封要素が僅かに接触する態様であってもよい。
【0067】
また、前記実施例では、スプリング8により回転密封環9の側端面が固定密封環6の側端面に対して付勢されることで密着する形態を例示したが、スプリング8により固定密封環6の側端面が回転密封環9の側端面に対して付勢されることで密着するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 メカニカルシール
2 ハウジング
3 回転軸
4 ケース(固定側密封要素)
5 スリーブ(回転側密封要素)
6 固定密封環
8 スプリング(付勢手段)
9 回転密封環
13 セットプレート
15 ワッシャ(傾倒規制部材)
30 ダストシール
31,32 プレート(摺動部材)
44,44’ 環状凹部
53a 環状溝(回動規制手段)
131,132 セットプレート
S 摺動面
図1
図2
図3
図4
図5
図6