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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-170246(P2019-170246A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 33/00 20060101AFI20190913BHJP
   C12P 19/44 20060101ALI20190913BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20190913BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20190913BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20190913BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20190913BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20190913BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20190913BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190913BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20190913BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190913BHJP
   A61K 125/00 20060101ALN20190913BHJP
   C12R 1/24 20060101ALN20190913BHJP
   C12R 1/245 20060101ALN20190913BHJP
【FI】
   C12P33/00
   C12P19/44
   C12P1/04 Z
   C12N1/20 A
   A23L33/105
   A61K36/258
   A61K35/747
   A61K31/704
   A61P3/10
   A61P25/22
   A61P35/00
   A61K125:00
   C12R1:24
   C12R1:245
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-62405(P2018-62405)
(22)【出願日】2018年3月28日
(11)【特許番号】特許第6450878号(P6450878)
(45)【特許公報発行日】2019年1月9日
(71)【出願人】
【識別番号】517298378
【氏名又は名称】株式会社ナガセビューティケァ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】野渕 翠
(72)【発明者】
【氏名】位上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】下条 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寿次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久富
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
4C086
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD43
4B018MD64
4B018ME02
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4B064AH07
4B064CA02
4B064CD22
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA30X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA22
4B065BA30
4B065BB26
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4C086AA01
4C086EA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB26
4C086ZC35
4C087AA01
4C087AA03
4C087BC56
4C087BC57
4C087CA10
4C087CA37
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZB26
4C087ZC35
4C088AB18
4C088AC11
4C088AD22
4C088BA07
4C088BA13
4C088BA32
4C088CA14
4C088CA25
4C088MA02
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZB26
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】新規な発酵物の製造方法及び該製造方法により得られる発酵物を含有する組成物を提供すること。
【解決手段】オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を2種以上組み合わせて発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を2種以上組み合わせて発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスから選ばれる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイの2種以上を含むか、又はラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスを含む、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ハセガワ菌株でないラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスから選択される少なくとも1種とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)及びラクトバチルス・カゼイ NBRC15883株を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
得られる発酵物が20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノサイド(M1)を含有してなる、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有してなる、組成物。
【請求項11】
ストレス、がん及び糖尿病から選ばれる少なくとも1種の疾患又は症状の予防、改善及び/又は治療用である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵物の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、発酵物の製造方法及び該製造方法により得られる発酵物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オタネニンジン(Panax ginseng C.A. Meyer)をはじめとする薬用人参は、中国、朝鮮半島、日本を中心に古来より生薬として利用されてきた。その有用成分は、ジンセノシドと呼ばれるダラマン骨格を有したサポニン類(ニンジンサポニン)と言われ、抗酸化、抗糖尿病、抗肥満、抗高血圧、抗がん等の様々な生理作用が研究により見出されている(非特許文献1)。
【0003】
ニンジンサポニンには種々のジンセノシドが存在することが知られている。なかでも、ジンセノシドRb1、Rb2、Rc、Rdのようなプロトパナキサジオールが、腸内細菌によって20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノシド(M1、compound K)に代謝変換された後に、腸管壁を通過して血中へ移行し、上記に示したような生理作用を発揮すると考えられている。本発明者らは、このM1について、乳酸菌でオタネニンジンを発酵することにより得られた発酵オタネニンジンが、マウスやヒトでの試験にて、発酵前よりもストレスが低減されること(特許文献1)、睡眠改善効果が増加することを報告している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5204771号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Ginseng Research 37, 261-268(2013)
【非特許文献2】SLEEP 32, 413-421(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発酵オタネニンジンは、オタネニンジンを微生物により発酵させて得られるが、特許文献1には、当該微生物としては、β−グルコシダーゼ、α−アラビノシダーゼ及びα−ラムノシダーゼからなる群より選択される少なくとも1種の酵素を生産する微生物であって、好ましくは食品に添加することができる微生物であればよいとされており、具体的には、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)を用いる製造方法が開示されている。しかしながら、M1をより効率良く製造しうる方法については、未だ検討の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、新規な発酵物の製造方法及び該製造方法により得られる発酵物を含有する組成物等に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、M1を効率良く製造する方法を鋭意検討した結果、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を2種以上組み合わせてオタネニンジンを発酵することにより、M1を予想外に高含有する発酵物を製造することができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔12〕に関する。
〔1〕 オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を2種以上組み合わせて発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
〔2〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスから選ばれる、前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイの2種以上を含むか、又はラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスを含む、前記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)を含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ハセガワ菌株でないラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスから選択される少なくとも1種とを含む、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)及びラクトバチルス・カゼイ NBRC15883株を含む、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
〔7〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)を含む、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
〔8〕 乳酸菌が、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)を含む、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕 得られる発酵物が20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノサイド(M1)を含有してなる、前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の製造方法。
〔10〕 前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の製造方法により得られる発酵物を含有してなる、組成物。
〔11〕 ストレス、がん及び糖尿病から選ばれる少なくとも1種の疾患又は症状の予防、改善及び/又は治療用である、前記〔10〕記載の組成物。
〔12〕 ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規な発酵物の製造方法が提供される。このような本発明の製造方法によれば、M1を効率良く製造しうる。特に、本発明によれば、M1を高含有する発酵物を製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ラクトバチルス属乳酸菌を2種組み合わせて共培養した時の薄層クロマトグラフィーによる発酵培地の分析結果を示す図である。
図2図2は、NBRC15883株単独で培養した時の薄層クロマトグラフィーによる発酵培地の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発酵物の製造方法は、ウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を2種以上組み合わせて発酵させることを特徴とする。
【0013】
ウコギ科薬用ニンジンは、発酵によりM1を生成可能なニンジンであってもよい。
ウコギ科薬用ニンジンとしては、例えば、オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種などが挙げられる。本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、その他の薬用ニンジンが含まれていてもよい。
【0014】
上記薬用ニンジンとしては、天然品もその加工品も使用することができる。加工品としては、例えば、薬用ニンジンの乾燥物、裁断物、粉砕物、抽出物、ペースト等が挙げられる。前記乾燥方法、裁断方法、粉砕方法、抽出方法、ペースト状化方法は、従来公知の方法を使用することができる。その大きさは、特に限定されないが、例えば、平均長径が0.2mm以下に裁断、粉砕、抽出、ペースト状化されることが好ましい。薬用ニンジンとしては、前記した処理を行って調製したものであっても、市販品であってもよい。
【0015】
本発明において使用される薬用ニンジンの部位は、特に限定されず、どの部位でも使用することができる。例えば、根、茎、葉、花蕾、果実、全草等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは根等であり、より好ましくは、側根、主根等である。
【0016】
薬用ニンジンの発酵物は、前記ニンジンを、微生物を用いて発酵させることにより得られる生産物である。発酵方法は、従来十分に確立されており(例えば、特許3678362号公報に記載の方法)、本発明もそれに従ってよい。前記発酵は、例えば、薬用ニンジンを含有する培地を常法により減菌処理した後、該培地に微生物を接種し、発酵する方法が好ましく挙げられる。
【0017】
本発明において使用される培地は、特に限定されないが、例えば、微生物の培養に通常使用される炭素源、窒素源、ミネラル源等を含むもの等を使用することができ、天然培地又は合成培地等を用いることができる。好ましくは、液体培地を用いる。
【0018】
培地に添加する窒素源としては、特に限定されないが、無機態窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩等が挙げられ、有機態窒素源としては、例えば、ペプトン、ポリペプトン、尿素、アミノ酸、タンパク質、大豆ペプチド等のペプチド類等が挙げられる。窒素源は、好ましくは、ペプトン、ポリペプトン、ペプチド等である。また、ミネラル源としては、特に限定されないが、酵母エキスや肉エキスの他、K、P、Mg、S等を含む、例えば、リン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの窒素源、ミネラル源は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。培地中の窒素源の濃度は、微生物が生育できる通常の濃度であればよく、特に限定されない。培養開始時の窒素源の濃度は、通常は、約0.05〜10重量%が好ましく、約0.1〜5重量%がより好ましい。
【0019】
前記培地は、前記の窒素源、ミネラル源に加えて、さらに、炭素源、無機質、pH緩衝剤等を添加しても良い。無機質としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン、各種ビタミン類等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。pH緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム等が好ましく挙げられる。
【0020】
薬用ニンジンの使用量は、特に限定されず、その種類、形状、乾燥状態、及び培養条件等に応じて適宜選択され得る。薬用ニンジンと培地全量の重量比(薬用ニンジン/培地全量)としては、好ましくは1/100〜50/100であり、より好ましくは5/100〜20/100であり、更に好ましくは10/100〜15/100である。本発明において、薬用ニンジンの重量は、内温約100〜180℃で約1〜6時間乾燥させた薬用人参に換算したものであることが好ましい。前記培地は、上述した薬用ニンジン以外の成分や添加剤を含んでも良い。
【0021】
前記培地のpHは、例えば約3〜7とすることが好ましく、約5〜6.5とすることがより好ましい。pHを制御してもよく、酸又はアルカリを用いてpHの調整を行うことができる。
【0022】
前記培地に前記薬用ニンジンを添加することにより薬用ニンジン含有培地が得られる。該培地を常法により滅菌した後、該培地に微生物を接種して発酵することにより、薬用ニンジンの発酵物が得られる。滅菌方法としては、例えば、加熱滅菌、高圧蒸気滅菌、ろ過滅菌等が挙げられ、これらに限定されることなく従来公知の方法を使用することができる。
【0023】
本発明で用いられる微生物は、ラクトバチルス属に属する乳酸菌である。
【0024】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)、ラクトバチルス・マリ(L.mali)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ブヒネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)、ラクトバチルス・ガリナラム(L.gallinarum)、ラクトバチルス・アミロボラス(L.amylovorus)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・ラムノーザス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・ケフィア(L.kefir)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・クリスパタス(L.crispatus)などが挙げられ、本発明ではラクトバチルス属菌を2種以上組み合わせて用いる。
【0025】
2種以上のラクトバチルス属菌を組み合わせる方法としては、同一の種から組み合わせても異なる種から組み合わせてもよい。なかでも、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスから選ばれるラクトバチルス属菌を2種以上組み合わせて用いることが好ましい。代表的には、ラクトバチルス・カゼイの2種以上を含むか、又はラクトバチルス・カゼイ(の1種以上)とラクトバチルス・ブレビス(の1種以上)とを組み合わせてもよい。
【0026】
ラクトバチルス・カゼイとしては、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)、ラクトバチルス・カゼイ ATCC393株、ラクトバチルス・カゼイ NBRC15883株等を用いることができる。
ラクトバチルス・ブレビスとしては、ラクトバチルス・ブレビス ATCC14869株、ラクトバチルス・ブレビス JCM1559株、ラクトバチルス・ブレビス NBRC12005株、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1867株、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1868株、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1869株、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1870株、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)等を用いることができる。
これらのラクトバチルス属菌は、どのように組み合わせて用いてもよく、例えば、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)を少なくとも含む組み合わせであってもよい。
このような組み合わせとしては、例えば、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ハセガワ菌株でないラクトバチルス・カゼイ(特に、ラクトバチルス・カゼイ NBRC15883株を含むラクトバチルス・カゼイ)及びラクトバチルス・ブレビスから選択された少なくとも1種との組み合わせなどが挙げられる。
また、組み合わせの一例としては、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)とラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)との組み合わせを挙げることができる。
なお、上記ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:郵便番号305−8566 日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成15年(2003年)8月11日(受託日)に、受託番号FERM BP−10123として寄託されており、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に、平成30年(2018年)3月6日(受託日)に、受託番号NITE P−02661として寄託されている。
【0027】
ラクトバチルス属菌の使用量は、2種以上用いて発酵させるのであれば特に限定はなく、当業者によって適宜設定され得る。また、ラクトバチルス・カゼイ及びラクトバチルス・ブレビスを用いる場合、その使用量比(ラクトバチルス・カゼイ/ラクトバチルス・ブレビス、細胞量比)としては、例えば、1000/1〜1/1000、100/1〜1/1000、10/1〜1/1000などが例示される。
【0028】
かかるラクトバチルス属菌を2種以上用いて薬用ニンジンを発酵させる。
【0029】
具体的には、例えば、前記した薬用ニンジン含有培地に、2種以上のラクトバチルス属菌を別々の培地に単独で又は同一の培地に組み合わせて添加し、好ましくは25〜37℃、より好ましくは28〜33℃で発酵させる。発酵時間は、仕込み液の組成、植菌量、発酵温度などに応じて適切に設定することが可能であり、例えば、2〜21日、7〜14日などが例示される。
【0030】
以上のようにして得られた発酵物には、通常、20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノシド(M1、compound K)が含まれる。このような発酵物では、2種以上のラクトバチルス属菌の使用により効率良くM1が生成されている場合が多く、例えば、ラクトバチルス属菌を1種単独で使用した場合〔例えば、ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)を単独で使用した場合〕と比べて、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上、更に好ましくは1.5倍以上多いものである。
【0031】
また、本発明においては、前記した2種以上のラクトバチルス属菌を組み合わせることによって、ジンセノシドF2からM1への代謝が促進されることから、得られる発酵物にはM1の含有量が多くなる。よって、得られる発酵物中、ジンセノシドF2とM1の含有量比(F2/M1)は、好ましくは50/50以下、より好ましくは40/60以下、更に好ましくは30/70以下、更に好ましくは20/80以下、更に好ましくは10/90以下である。また、実質的にジンセノシドF2が含有されない程度に代謝が促進されていてもよい。なお、本明細書において、「実質的に含有されない」とは、例えば、後述の実施例に示す測定方法において検出限界以下となる量であればよい。
【0032】
得られた発酵物に対しては、所望により、ろ過、遠心分離、濃縮、限外ろ過、凍結乾燥、粉末化、分画等の処理を公知の方法に従って行ってもよく、目的物(例えば、M1を含む画分)そのものを単離して又は培地を含むものをそのまま製剤化したり、飲食品(健康食品)等の原材料に用いることが可能な形態に調製したりしてもよい。よって、本発明の発酵物の一態様として前記処理物が含まれる。
【0033】
本発明はまた、前記製造方法により得られる発酵物、及び当該発酵物を含有してなる、組成物を提供する。かかる発酵物又は組成物は、例えば、ストレス、がん及び糖尿病から選ばれる少なくとも1種の疾患又は症状の予防、改善及び/又は治療するために使用することができる。
【0034】
本発明の発酵物又は組成物は、M1やジンセノシドF2以外に、ジンセノシドRb1、ジンセノシドRb2、ジンセノシドRc、ジンセノシドRd、ジンセノシドRe、ジンセノシドRg1、ジぺノシドXVIIなどを含有してもよい。それらの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に限定されない。
【0035】
本発明の発酵物又は組成物は、本発明の発酵物を体内に摂取できるのであれば、その形態は限定されない。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の経口製剤又は非経口製剤として製剤化することができる。
【0036】
本発明の発酵物又は組成物の投与条件は、その形態や投与目的、当該組成物の投与対象の種類、年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。例えば、M1の有効ヒト投与量として、一日当たり、好ましくは0.01〜100mg/kg程度、より好ましくは1〜50mg/kg程度となるよう設定することができる。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。
【0037】
本発明の発酵物又は組成物の投与対象としては、好ましくはストレス、がん及び糖尿病から選ばれる少なくとも1種の疾患又は症状の治療を必要とするヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。
【0038】
上記形態を有する本発明の組成物は、本発明の発酵物を含有するものであれば、常法に従って、製剤分野等において通常使用される担体、基剤、及び/又は添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。具体的には、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、及び必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤、抗酸化剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を、本発明の効果を損なわない範囲内で適量配合して常法により製剤化される。本発明の発酵物の含有量は、剤型、投与方法、担体等により異なるが、本発明の組成物中、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜95重量%である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
試験例1
(1) ラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(受託番号:FERM BP−10123、A221株)とLactobacillus casei NBRC15883(別名:JCM1134、以下、NBRC15883株)をそれぞれ一般乳酸菌接種用培地(日水製薬社製)5mLに接種し、30℃で一晩、前培養した。
(2) 発酵培地として、蒸留水100mLに対してオタネニンジン末5g、酵母エキス1g、大豆ペプトン0.5g、酢酸ナトリウム・三水和物1g、硫酸マグネシウム・七水和物20mg、硫酸マンガン・四水和物1mg、硫酸鉄・七水和物1mg、塩化ナトリウム1mgを添加して混合し、121℃で15分間加熱滅菌した。
(3) 発酵培地に乳酸菌前培養液をそれぞれ別々に、あるいは同時に0.1mLずつ添加し、28℃で静置培養させた。
(4) 2週間後、発酵培地を各5mL採取し、遠心分離(3000rpm、15分間)して上清を得た。この上清をSep−Pak C18カートリッジ(Waters社製)に添加して吸着させ、蒸留水及び40%メタノール水溶液で洗浄した後、メタノールによる溶出を行った。
(5) 溶出したメタノール溶液を薄層クロマトグラフィー(TLC)に供してM1の生成を確認した。TLCにはSilicagel60 F254アルミニウムシート(Merck社製)を使用し、クロロホルム:メタノール:蒸留水=65:35:10(v/v/v、下層)の溶媒にて展開した。バニリン3gをエタノール30mLに溶解したものに3mol/Lの硫酸を100mL添加したものを発色液として噴霧した。
(6) 精製M1との比較で発酵培地中のM1を示すバンドを特定し、バンド強度を画像解析(Image J)に供してA221株のM1生成量に対する相対値を数値化し、画像解析結果を表1に示す判定基準にて判定した。
【0041】
【表1】
【0042】
図1に示すように、A221株のみよりもA221株+NBRC15883株でオタネニンジンを発酵した方がM1の生成量が飛躍的に増加した。画像解析でM1に相当するバンド強度を算出すると、A221株のみと比較してA221株+NBRC15883株では1.8倍以上増加していた(表2)。一方、図2に示すようにNBRC15883株単独ではM1生成能は認められなかった。したがって、NBRC15883株にはM1生成能がないものの、A221株と共培養することによってA221株によるM1生成を補助する相乗的な効果を示した。
【0043】
【表2】
【0044】
試験例2
(1) オタネニンジン末50gに蒸留水500mLを添加して混合し、90℃の水浴で4時間加熱して抽出した後、No.2ろ紙(アドバンテック社)にてろ過したろ液をオタネニンジン抽出物とした。
(2) オタネニンジン抽出物50%、大豆ペプトン0.5%、酵母エキス1%、硫酸マグネシウム・七水和物0.04%となるように蒸留水と混合し、121℃で15分間加熱滅菌を行ったものを発酵培地とした。
(3) 発酵培地0.5mLに、表3に示す市販の乳酸菌株及びキムチより単離した乳酸菌株をそれぞれ接種し、さらにA221株を追加接種した。なお、DNBL1871株は、受託番号NITE P−02661で寄託されたものを用いた。
(4) 30℃で7日間培養した後、エタノールを培地と等量の0.5mL添加し、遠心分離(13,000rpm、15分間)した上清を分析用サンプルとした。
(5) 分析用サンプルはTLCに供してM1の生成量を確認した。TLCの方法として展開溶媒に酢酸エチル:メタノール:水=14:5:4(v/v/v)を使用したこと以外は、試験例1と同様の方法で行った。また、M1生成促進能の判定方法は試験例1と同様に行った。
【0045】
表3に示したように、ラクトバチルス属乳酸菌は、それ自体にはM1生成能がないものの、A221株と共に培養することでM1生成量を高める効果を現した。
【0046】
【表3】
【0047】
試験例3
培養日数を6日間に変更して表4に示す乳酸菌を使用する以外は、試験例2と同様に行った。
【0048】
表4に示したように、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属の乳酸菌をA221株と共に培養してもM1生成量はA221株単独での発酵時よりも増加せず、M1生成促進能の判定はすべて「−」であった。
【0049】
【表4】
【0050】
試験例4
試験例2で高いM1生成促進能を発揮したDNBL1871株について、発酵開始時のA221株との接種割合比での違いを試験した。
【0051】
(1) 一般乳酸菌接種用培地にA221株及びDNBL1871株をそれぞれ接種し、3日間30℃で培養した。
(2) 遠心分離により乳酸菌体を回収し、PBS(−)で2回菌体を洗浄した。
(3) PBS(−)に乳酸菌体を懸濁し、O.D.値(600nm)を分光光度計で測定した。
(4) さらに遠心分離して集菌後、菌体を発酵培地(試験例2と同様)に再懸濁した。
(5) 最終菌体濃度がO.D.値が0.001〜1となるように各乳酸菌株を発酵培地に添加した。菌体濃度(初期値O.D.)は表5に示した通りである。
(6) 30℃で7日間培養後、発酵培地と等量のエタノールを添加し、遠心分離(13,000rpm、15分間)した上清を分析用サンプルとした。
(7) 分析用サンプルはTLCに供してM1の生成量を確認した。TLCの方法とM1生成促進能の判定方法は試験例1や試験例2を参照にして行った。
【0052】
表5に示したようにA221株の単独培養のNo.1と比較して、A221株とDNBL1871株を共培養させたNo.2〜No.8でM1生成促進が確認された。その中でも初期値O.D.がA221株よりDNBL1871株の方が等しい又は大きいNo.5〜No.8でさらに良好なM1生成が見られた。特にDNBL1871株の初期値O.D.がA221株より100倍及び1000倍の時に飛躍的なM1生成促進が確認された。
【0053】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法により、20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノシド(M1、compound K)を含む発酵物を得ることができる。このような発酵物や当該発酵物を含む組成物は、例えば、ストレス、がん及び糖尿病から選ばれる少なくとも1種の疾患又は症状の予防、改善及び/又は治療に好適に用いることができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2018年11月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)及びラクトバチルス・カゼイ NBRC15883株を含む乳酸菌により発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
【請求項2】
オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo−ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス・カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP−10123)と、ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)を含む乳酸菌により発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
【請求項3】
得られる発酵物が20(S)−プロトパナキサジオール 20−O−β−d−グルコピラノサイド(M1)を含有してなる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ラクトバチルス・ブレビス DNBL1871株(受託番号NITE P−02661)。