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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-170935(P2019-170935A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】足踏みマット
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20190913BHJP
【FI】
   A61H1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-65793(P2018-65793)
(22)【出願日】2018年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】515015827
【氏名又は名称】佐伯 武士
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 武士
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA47
4C046BB07
4C046CC01
4C046CC04
4C046DD06
4C046DD47
(57)【要約】
【課題】収納が容易であって電力が不要な、下肢浮腫を改善するための足踏みマットを提供する。
【解決手段】足踏みマット本体11は、樹脂等であって高反発性を有する素材(高反発素材)をシート状に成形した高反発素材層111を複数層、重ねて構成される。足踏みマット1を構成する高反発素材層111は、一定の空隙を空けて2枚のシートを重ねて配置し、その2枚のシートを繊維により経編で編み込むことで互いに結束させる構成を取っている。シートを結束させる繊維には、合成繊維、化学繊維、天然繊維のいずれであってもよいが、ポリエステル繊維が特に好適に用いられる。ポリエステル繊維には、例えばポリエチレンテレフタレート等が用いられる。カバー10は、繊維を経編に編んで形成される表面素材で形成されている。この繊維には、合成繊維、化学繊維、天然繊維のいずれであってもよいが、ポリエステル繊維が特に好適に用いられる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を経編に編んで形成される表面素材と、前記表面素材の内側に収容され、ポリエステル繊維を経編に編んで形成される高反発樹脂素材とを有する足踏みマット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足踏みマットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の高齢化率は上昇することが見込まれており、世界に先駆けて超高齢社会に突入した我が国においては、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると見られている。この超高齢化社会の中で、幅広い年齢層に向けた新たなヘルスケア産業の創出が必要とされている。
【0003】
特に高齢者の虚弱(フレイル)対策は、要介護に陥る高齢者を減少させ、医療費・介護費を抑制するとして地域包括ケア実現のために重要である。
【0004】
高齢者の虚弱(フレイル)とは、加齢とともに心身の活力(筋力・認知機能等)が低下し、生活機能障害や要支援・要介護状態、そして死亡の危険性が高くなった状態である。このフレイルを経て要介護状態に陥る高齢者が増加していることから、総合的なフレイル対策が迫られている。
【0005】
フレイル対策として多くの高齢者入所施設や介護予防事業において身体・精神的諸機能を高めるために、生活機能改善への取組が積極的に行われている。しかし、多くの施設や地域では、医療従事者の人手不足や経済的理由で多くの高齢者が日中の大半を座位でほとんど動かずに過ごしているのが現状である。
【0006】
座位で不動のまま長時間過ごせば下肢の循環不全をきたすため、その結果生じた下肢浮腫がさらなる健康被害をおこすとして問題となっている。下肢浮腫は、足関節の可動性を制限して転倒の危険性を招くだけでなく、浮腫状態にある皮膚は脆弱化しており、わずかな外力が表皮剥離や褥瘡発生の原因となる。
【0007】
また、下肢浮腫になると、深部静脈血栓症(エコノミー症候群)を引き起こす可能性が高まる。深部静脈血栓症は、肺塞栓等の重篤な病態を誘発し、ひいては死亡の危険もあるため、日中の不動と下肢浮腫の予防・改善は非常に重要な課題となっている。
【0008】
浮腫は、血管外液が皮下組織で異常に増加した状態であり、心疾患や腎疾患などの疾患、薬剤、栄養障害などによって生じる。また、これら以外にも、健康な成人であっても立位姿勢や座位姿勢を継続した場合、下肢骨格筋の収縮によるポンプ作用が十分に機能せず、重力による還流も減少するため、下肢浮腫が生じるといわれている。
【0009】
下肢浮腫の実態については、健康な成人女性や褥婦を対象とした報告があり、女子大学生を対象とした調査では、下肢周径は朝と比較して夕方には有意に増加することが報告されている。特に、女性では、骨格筋量が男性より少ないという身体的特徴から下肢浮腫が出現しやすいといわれているが、高齢者の場合は加齢による循環器系など臓器の機能低下、皮膚等の組織の変化などが加わるため、成人よりもより一層、浮腫を起こしやすいと考えられる。
【0010】
介護老人保健施設などの高齢者施設では、寝たきり状態や昼夜逆転を防止することを目的に、積極的に離床が進められてきた。そのため、移動・移乗動作で援助を要する高齢者では、1日の多くの時間を車いす等での座位で過ごす者も少なくない。このような高齢者は下肢を下垂したままの座位姿勢を継続することになり、下肢骨格筋によるポンプ作用が働かず、重力により静脈・リンパ還流も期待できないため、下肢浮腫が起こることは容易に推測できる。
【0011】
高齢者は健康や生活上の様々なリスクを負っているが、下肢浮腫によって足関節の可動域制限とそれによる転倒の危険性、浮腫により脆弱化した皮膚の損傷や褥瘡発生の危険性なども指摘されている。さらに、浮腫はその部位に倦怠感、重い感じ、腫れた感じなどの自覚症状を伴うとされており、勤労女性を対象とした研究でも下肢浮腫に伴うこれらの自覚症状が報告されている。倦怠感などの不快な症状は高齢者の心身の活動性を低下させる要因にもなり得ることから、自覚症状にも留意すべきと考えられる。
【0012】
下肢浮腫を軽減するケアについては、女性勤労者を対象とした弾力性ストッキングの効果、妊婦や褥婦を対象にした足浴の効果などがある。しかし、高齢者を対象とした研究は、臥床休養、足浴、タッピングなどの事例報告は数例あるが、高齢者の下肢浮腫ケアの検討・効果を検証した研究は十分に行われているとは言い難い。
【0013】
特許文献1には、下肢浮腫や深部静脈血栓症の予防のために、車椅子に座った状態やベッドに寝た状態でも下肢の運動ができる電動足踏み運動器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−110892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
下肢浮腫及び不動化(生活活動量の減少)双方を効率的に改善するために、浮腫軽減機能を伴った運動プログラム及び運動補助具を開発する必要がある。従来の下肢浮腫予防は、弾力性ストッキングや足浴、薬物療法等の対処療法であり、多くの高齢者の下腿浮腫原因である不動化による運動機能低下の改善にフォーカスしていないため根本的な改善とはいえない。高齢者や下腿浮腫症状をもつ対象者が簡易に自発的に実施できる予防対策の必要性が高い。また、浮腫を改善する器具としては、収納が容易であって電力が不要なものが望ましい。
【0016】
本発明の目的は、収納が容易であって電力が不要な、下肢浮腫を改善するための足踏みマットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の請求項1に係る足踏みマットは、ポリエステル繊維を経編に編んで形成される表面素材と、前記表面素材の内側に収容され、ポリエステル繊維を経編に編んで形成される高反発樹脂素材とを有する足踏みマットである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、収納のための場所を取らず、かつ、電力を必要とせずに、下肢浮腫を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】足踏みマット1の上面を示す図。
図2】足踏みマット1の側面を示す図。
図3】足踏みマット1を構成する足踏みマット本体11を示す図。
図4】足踏みマット1を構成するカバー10と足踏みマット本体11を示す図。
図5】足踏みマット本体11を構成する高反発素材層111を示す図。
図6】高反発素材層111の構造を示す概念図。
図7】下腿の浮腫を説明するための図。
図8】カバー10に足踏みマット本体11を収容した様子を示す図。
図9】左下腿周径を示す図。
図10】身体用インピーダンス計測器を示す図。
図11】Functional Reachテストの概要を示す図。
図12】2Stepテストの概要を示す図。
図13】2Stepテストの実施状態を示す図。
図14】足踏みマット1を用いた運動の実施状態を正面から見た図。
図15】足踏みマット1を用いた運動の実施状態を側面から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
<概要>
本願の出願人らは、浮腫軽減機能を伴った運動プログラム及び運動補助具について寝具等に活用されている高反発素材足踏みマットに着目した。高反発素材の特徴は、形状変化が早く、反発性が高い事が特徴で、足踏み動作による荷重に対して足底部への反発刺激が高まり足部周辺の筋活動を促進し易いと考えた。また足踏み毎に足底部にかかる重心の位置を変化させることができ、バランストレーニング及び足部全体を使用する運動としても適していることを見出した。
【0021】
以前に、本願の出願人らは、経編技術の特性を応用した布製・帯状の運動補助器具を開発し、さらにこの運動補助器具を使用した運動プログラムを開発し、効果実証実験により虚弱高齢者の日常生活動作改善に効果があることを証明した。この経編技術を応用することで、立体構造を持つ高反発素材を開発する可能性を見出し、下肢浮腫の改善用の足踏みマットの開発の可能性があると考えた。
【0022】
本事業では、高齢者が立っていても座っていても行える足踏み動作に着目し、下肢浮腫の原因となっている下腿・足部筋群の不動化に対して、足底部への反発刺激と足部の柔軟性運動を行える運動補助具「浮腫軽減足踏みマット」の開発を目的とする。運動補助具「浮腫軽減足踏みマット」には、足底部への反発刺激を考慮して、前述した「布製・帯状の運動補助器具」の経編技術を応用した高反発素材に着目し、浮腫軽減のために適切な足底部の反発刺激量や柔軟性運動となりえる反発性素材の開発に取り組む。さらに、運動前後の浮腫変化及び生活動作への効果検証を実施する。
【0023】
<足踏みマットの構成>
図1は、足踏みマット1の上面を示す図である。図2は、足踏みマット1の側面を示す図である。
【0024】
足踏みマット1は、カバー10、足踏みマット本体11を含む。図3は、足踏みマット1を構成する足踏みマット本体11を示す図である。図4は、足踏みマット1を構成するカバー10と足踏みマット本体11を示す図である。図4の左側に示すものがカバー10であり、図4の右側に示すものが足踏みマット本体11である。
【0025】
足踏みマット本体11は、樹脂等であって高反発性を有する素材(高反発素材)をシート状に成形した高反発素材層111を複数層、重ねて構成される。図3に示す例では、高反発素材層111が4枚、重ねられている。
【0026】
図5は、足踏みマット本体11を構成する高反発素材層111を示す図である。重ねられた高反発素材層111は、図5に示す通り、それぞれ接着されなくてもよい。
【0027】
図6は、高反発素材層111の構造を示す概念図である。足踏みマット1は図6に示す通り床に配置され、利用者が足で踏むことにより、その足の浮腫を改善する。
【0028】
足踏みマット1を構成する高反発素材層111は、図6に示す通り、一定の空隙を空けて2枚のシートを重ねて配置し、その2枚のシートを繊維により経編で編み込むことで互いに結束させる構成を取っている。シートを結束させる繊維には、合成繊維、化学繊維、天然繊維のいずれであってもよいが、ポリエステル繊維が特に好適に用いられる。すなわち、高反発素材層111は、ポリエステル繊維を経編に編んで形成される高反発樹脂素材である。ポリエステル繊維には、例えばポリエチレンテレフタレート等が用いられる。
【0029】
カバー10は、繊維を経編に編んで形成される表面素材で形成されている。この繊維には、合成繊維、化学繊維、天然繊維のいずれであってもよいが、ポリエステル繊維が特に好適に用いられる。すなわち、カバー10は、ポリエステル繊維を経編に編んで形成される表面素材である。
【0030】
図7は、下腿の浮腫を説明するための図である。通常、下腿では毛細血管からしみ出した水分に応じた適量の水分が吸収(回収)されるが、この水分を回収する能力が落ちると、しみ出した水分に比較して毛細血管が回収する水分が不足するため、しみ出した水分が、細胞の間隙に過剰な間質液として蓄積される。
【0031】
図8は、カバー10に足踏みマット本体11を収容した様子を示す図である。足踏みマット1は、図8に示す通り、カバー10に足踏みマット本体11を収容して製作される。
【0032】
<実験例>
<実験用の足踏みマットの構成>
本願の出願人らは、高反発素材寝具を使用した足踏み運動による下腿浮腫に及ぼす影響について効果検証を行った。足踏み運動の実験の際に使用する(
実験用の)足踏みマット1は、以下の構成で試作した。
【0033】
・表面:ポリエチレンテレフタレート(合繊、化繊、天然繊維等)
・連結:ポリエチレンテレフタレート・ナイロン等
・裏面:ポリエチレンテレフタレート
・寸法:縦幅=50センチメートル、横幅=50センチメートル、厚み=4〜8センチメートル
・圧縮弾性率:100、150、200[N/mm](ニュートン毎ミリメートル)
・通気性:50[cm3/cm2/sec](立法センチメートル毎平方センチメートル毎秒)
【0034】
<一般成人女性に対する足踏みマットを用いた足踏み運動実験>
実験者は、一般成人女性に対する足踏みマットを用いた足踏み運動の実験を行った。実験の評価は下腿周径の測定と、インピーダンス計測により行った。図9は、左下腿周径を示す図である。実験者は、図9に示す通り、運動前後の下腿にメジャーを巻き付けて下腿の周径を測定した。図10は、身体用インピーダンス計測器を示す図である。身体用インピーダンス計測器には、In Body470(インボディ・ジャパン社製)を用いた。
【0035】
(対象)
対象は健常女子学生24名、身長157.2±5.2cm、体重51.4±7.0kg、年齢20.5±1.2歳である。除外基準としては、過去に下肢の運動器障害の既往があるもの、循環器に障害があった者とした。
【0036】
(足踏みマットを用いた運動の実施方法)
運動課題は、足踏みマット上立位で足踏み運動を1分間と立位での踵上げを1分間してもらった。各運動間の休憩は30秒とした。足踏み運動では膝関節を90度になるように指導した。
【0037】
(効果判定の方法)
測定項目としては、左下腿周径(最大)、で体内インピーダンスは左下腿を対象に上述した身体用インピーダンス計測器を使用し運動前後で測定した。左下腿周径測定は、理学療法士歴10年の理学療法士一名が下腿の最大周径を測定した。
【0038】
(結果)
左下腿周径は、運動前35.54±2.17cm、運動後35.37±2.20cmとなり有意差を認めた(p<0.05)。左下腿インピーダンスは、運動前288.6±28.6Ω、運動後285.2±28.4Ωとなり有意差を認めた(p<0.01)。寝具を使用しない足踏み後に比較して高反発寝具上での足踏み運動が30%有意に浮腫を軽減することを確認した。
【0039】
<下腿浮腫を伴う後期高齢者に対する足踏みマットを用いた足踏み運動実験>
実験者は、病院に入院中で下腿浮腫を伴う後期高齢者に対する足踏みマットを用いた足踏み運動の実験を行った。実験の評価は、上述の実験と同様に、下腿周径の測定と、インピーダンス計測により行った。
【0040】
(対象)
A病院入院中で下肢に浮腫を認める内科・運動器疾患患者10名(男性4名、女性6名身長148.8±1.1cm、体重51.8±14.1kg、年齢83.3±5.6歳)であった。患者の疾患は、脳血管疾患3例、肺炎2例、腰部疾患2例、上肢骨折1例、腹部外科術後1例であった。
【0041】
(足踏みマットを用いた運動の実施方法)
足踏みマット状立位で足踏み運動と立位での踵上げとした(図6)。運動実施時間は合計3分間であった。
【0042】
(効果判定の方法)
測定項目としては、両側の下腿周径(最大)、Functional Reachテスト(FR)を運動前後で測定した。下腿周径測定は理学療法士歴7年以上の理学療法士が下腿の最大周径を測定した。
【0043】
図11は、Functional Reachテストの概要を示す図である。
【0044】
(結果)
下腿周径は、右側が運動前31.5±6.48cm、運動後31.3±6.36cm(p<0.05)で、左側が31.9±6.48cm、運動後31.7±6.41cm(p<0.05)となりそれぞれ統計学的に有意な下腿周径の改善を認めた。バランス能力を測定する指標であるFunctionalRreachテスト(図4)はテストを実施可能な対象者7名に実施した結果、運動前21.6±6.03cm、運動後24.2±4.98cmとなり統計学的に有意差を認めた(p<0.05)(表1)。よって超高反発足踏みマット上での運動は、バランス能力の向上にも寄与することが示唆された。
【0045】
【表1】
【0046】
<健常高齢者に対する足踏みマットを用いた足踏み運動実験>
実験者は、地域在住の健常高齢者に対する足踏みマットを用いた足踏み運動の実験を行った。実験の評価は、上述の実験と同様に、下腿周径の測定と、インピーダンス計測により行った。
【0047】
(対象)
吹田市に在住する65歳以上の高齢者51名とした。対象者の内訳としては、男性16名、女性35名、平均年齢77.9±5.5歳、平均身長155.5±8.3cm、体重55.0±9.3kgである。除外基準は、65歳未満の対象者および運動器障害、循環器障害、高次脳機能障害を有する者とした。
【0048】
(足踏みマットを用いた運動の実施方法)
運動課題は、足踏みマット上立位で足踏み運動を1分間と立位での踵上げを1分間実施し、各運動間の休憩は30秒とした。足踏み運動では膝関節を90度になるように指導した。
【0049】
(効果判定の方法)
測定項目は、左右における足部近位部周径(楔状骨から立方骨上の周囲)、足部遠位部周径(第1中足骨頭から第5中足骨頭の周囲:MP関節)、最大2歩幅、Functional Reach Test(FRT)、開眼での左右片脚立位時間とし運動前後で測定した。最大2歩幅に関しては、最大2歩幅を身長で除した値を2ステップ値とした。測定は、2年以上の理学療法士が下腿周径を測定した。
【0050】
図12は、2Stepテストの概要を示す図である。
図13は、2Stepテストの実施状態を示す図である。
図14は、足踏みマット1を用いた運動の実施状態を正面から見た図である。
図15は、足踏みマット1を用いた運動の実施状態を側面から見た図である。
【0051】
(結果)
足踏みマット上での足踏み運動前後の比較では、下腿周径は、足部近位部、足部遠位部周径で統計学的に有意な周径の改善を認めた。またFunctional Reachテストも統計学的に有意な改善を認めた。さらに、歩行機能を反映する2 step testも統計学的に有意な改善を認めた(表2)。開眼での左右片脚立位に関しては有意な差が認められなかった。
【0052】
【表2】
【0053】
以上の実験の結果、足踏みマット上での運動で、若年者また浮腫を認める入院中の高齢者の周径は有意に減少した。これは足踏みマットを使用した運動で下腿の水分が減少した結果と考えられる。足踏みマットの性質は高反発であるため、足踏みマット上での運動に伴い通常よりも大きな筋活動が必要とされたことから、静脈還流が改善し浮腫が改善したと推察された。また若年者への足踏みマット上での運動により体内インピーダンスは有意に低下した。これは、足踏みマット上運動により血流が改善されたために低下したと考えられる。入院中の高齢者ならびに地域在住高齢者のFunctional Reachテストや2 step testの結果が改善したため、高反発足踏みマット上での運動は浮腫の改善に加えてバランスや歩行機能の改善にも寄与する可能性がある。しかし一方で、片脚立位時間に改善は認められなかった。片脚立位という動作課題には筋力や視力、感覚機能など多くの要因が含まれている課題であるため、足踏みマット上での運動のみでは改善が得られなかったことが要因として考えられた。
【符号の説明】
【0054】
1…足踏みマット、10…カバー、11…足踏みマット本体、111…高反発素材層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15