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特開2019-171246ゲル体の供給方法、触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-171246(P2019-171246A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】ゲル体の供給方法、触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 4/00 20060101AFI20190913BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20190913BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20190913BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20190913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190913BHJP
【FI】
   B01J4/00 105D
   H01M4/88 K
   B01J37/04 102
   B01J37/02 301D
   H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-60281(P2018-60281)
(22)【出願日】2018年3月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野木 淳志
(72)【発明者】
【氏名】野澤 孝行
(72)【発明者】
【氏名】羽片 豊
【テーマコード(参考)】
4G068
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G068AA02
4G068AB21
4G068AB30
4G068AC16
4G068AD39
4G068AD49
4G068AE05
4G068AF01
4G068AF36
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA22C
4G169BA36C
4G169BA38
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EA08
4G169FB05
4G169FB23
4G169FB79
4G169FC03
5H018AA06
5H018BB08
5H018BB12
5H126BB06
5H126EE03
(57)【要約】
【課題】ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給可能なゲル体の供給方法を提供する。
【解決手段】ゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に気体を圧送することで、分岐部においてゲル体を分断し、分岐部と吐出口との間のゲル体を気体とともに吐出口から吐出する、分断吐出工程S12を有するゲル体の供給方法S10。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体の供給方法であって、
前記ゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、前記供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して前記供給流路に気体を圧送することで、前記分岐部において前記ゲル体を分断し、前記分岐部と前記吐出口との間の前記ゲル体を前記気体とともに前記吐出口から吐出する、分断吐出工程を有することを特徴とするゲル体の供給方法。
【請求項2】
前記分断吐出工程の前に、前記ゲル体を圧送して前記吐出口から吐出させ、吐出された前記ゲル体の質量を計測しながら前記ゲル体を連続的に供給する連続供給工程を有し、
計測された前記ゲル体の質量が中間目標値に達したら前記連続供給工程を終了して前記分断吐出工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のゲル体の供給方法。
【請求項3】
前記分断吐出工程を繰り返して前記ゲル体を間欠的に供給する間欠供給工程を有し、
前記間欠供給工程において、吐出された前記ゲル体の質量を計測し、計測された前記ゲル体の質量があらかじめ規定された最終目標値に達したら、前記間欠供給工程を終了することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゲル体の供給方法。
【請求項4】
前記ゲル体の供給方向における上流側から前記分岐部に至る前記供給流路の前記ゲル体の供給方向に沿う中心線と、前記分岐部に接続された前記気体流路の端部の前記気体の供給方向に沿う中心線との間の角度を、90度以下にすることを特徴とする請求項1に記載のゲル体の供給方法。
【請求項5】
前記供給流路の内径を10[mm]以下とし、圧送される前記気体の圧力を0.3[MPa]以上とすることを特徴とする請求項1に記載のゲル体の供給方法。
【請求項6】
触媒電極の形成に用いられる触媒インクの製造方法であって、
触媒が担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒分散液を生成する工程と、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のゲル体の供給方法によって前記ゲル体を供給する工程と、
前記触媒分散液と前記ゲル体とを撹拌混合して触媒インクを作製する工程と、
を有することを特徴とする触媒インクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の触媒インクの製造方法によって製造された触媒インクを塗布して触媒電極を形成する工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル体の供給方法ならびにそれを用いた触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から触媒が担持された触媒電極およびそれを備える燃料電池に関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。燃料電池は、通常、電解質膜の両面に電極が配置された発電体である膜電極接合体を備える。膜電極接合体の電極は、燃料電池反応を促進するための触媒が担持された触媒電極として形成される。
【0003】
触媒電極は、一般に、導電性を有する粒子に触媒を担持させた触媒担持粒子とアイオノマーとを有機溶媒または無機溶媒に分散させたスラリーである触媒インクを塗布して乾燥させることにより形成される。特許文献1に記載された発明は、燃料電池の発電性能や耐久性を向上させるために、触媒電極の性能を向上させることができる触媒インクを提供することを目的としている。
【0004】
前記目的を達成するために、特許文献1は、触媒電極の形成に用いられる触媒インクの製造方法であって、次の(a)から(c)までの各工程を備える製造方法を開示している(同文献、請求項1等を参照)。(a)は、触媒が担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒分散液を生成する工程である。(b)は、アイオノマーと揮発性溶媒とを混合してゲル体を作製する工程である。(c)は、前記触媒分散液と、前記ゲル体とを撹拌混合して触媒インクを作製する工程である。
【0005】
この従来の触媒インクの製造方法によれば、触媒担持粒子の分散性が高く、適切な粘性を有する塗布性能の高い触媒インクを効率的に製造することができる。そのため、触媒インクの塗布性能が向上し、触媒電極の構造的均質化が促進されるとともに、その耐久性や発電性能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5880562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の触媒インクの製造方法は、前記(c)の工程のように、触媒分散液とゲル体とを撹拌混合して触媒インクを作製する工程を有している。この工程では、触媒分散液と、ゲル体とを極めて正確な質量比で混合する必要がある。すなわち、ゲル体は、定量を正確に供給する必要がある。
【0008】
しかし、ゲル体は、粘度や粘着性が高く、定量を正確に供給することが困難である。たとえば、ゲル体を供給流路に圧送して供給流路の末端の吐出口から吐出した後に、ゲル体の圧送を停止する。すると、供給流路の内部に残留した粘度や粘着性の高いゲル体が、重力によって吐出口から垂下および滴下して、ゲル体の供給量にばらつきが生じる。
【0009】
また、ゲル体の圧送を停止した後にゲル体が吐出口から垂下および滴下するのを防止するために、たとえば、吐出口の外側で、はさみ状のブレードによってゲル体を切断することが考えられる。しかし、ゲル体は、粘度や粘着性が高いため、ブレードにゲル体が付着し、ゲル体の供給量にばらつきが生じる。
【0010】
そこで、本発明は、ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給可能なゲル体の供給方法ならびにその供給方法を用いた触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体の供給方法であって、前記ゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、前記供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して前記供給流路に気体を圧送することで、前記分岐部において前記ゲル体を分断し、前記分岐部と前記吐出口との間の前記ゲル体を前記気体とともに前記吐出口から吐出する、分断吐出工程を有することを特徴とするゲル体の供給方法である。
【0012】
この態様のゲル体の供給方法では、たとえば、ゲル体を貯留するゲルタンクなどの供給元から配管などによって構成された供給流路に、ポンプなどの圧送装置によってゲル体を圧送する。そして、ゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、コンプレッサなどの圧縮装置によって圧縮された空気などの気体を、供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に圧送する。
【0013】
これにより、分岐部に勢いよく気体が流入して渦となり、乱流によって供給流路の内部のゲル体が分岐部の上流側の部分と分岐部の下流側の部分に分断される。ここで、気体によって分断されたゲル体の分岐部の下流側の部分、すなわち供給流路の分岐部と吐出口との間のゲル体の体積は、供給流路の分岐部と吐出口との間の部分の容積とおおむね等しい。なお、供給流路の上流側および下流側とは、ゲル体の供給方向の上流側と下流側である。
【0014】
分岐部に圧送された気体によって分断された供給流路の分岐部と吐出口との間のゲル体は、分岐部に圧送された気体によって吐出口へ向けて押され、その気体とともに吐出口から吐出される。このように、分断吐出工程では、供給流路の分岐部と吐出口との間のほぼ一定の体積および質量のゲル体、すなわち定量のゲル体を、供給流路の吐出口から吐出して供給することができる。
【0015】
また、供給流路の内部に残存する分岐部の上流側のゲル体は、分岐部に圧送された気体によって吐出口へ向けて押されることはない。また、ゲル体の分断後に分岐部の上流側に残留するゲル体は、供給流路に残留していた分断前のゲル体と比較して、分岐部の下流側のゲル体が分離されることで質量が減少し、ゲル体に作用する重力が減少している。
【0016】
そのため、供給流路の内部に残存する分岐部の上流側のゲル体は、重力によって吐出口から垂下および滴下することが防止され、ゲル体の高い粘度や粘着性によって供給流路の内部に留まる。すなわち、この態様のゲル体の供給方法によれば、供給流路の分岐部よりも上流側に残留したゲル体が、重力の影響によって吐出口から垂下して落下することが防止され、分岐部と吐出口との間の定量のゲル体を吐出口から吐出して供給することができる。
【0017】
また、この態様のゲル体の供給方法によれば、ゲル体の切断に気体を用いることで、ブレードを使用する必要がないため、ゲル体がブレードに付着することによる供給のばらつきが発生することもない。また、ゲル体の供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に気体を圧送することで、気体によってゲル体を確実に分断することができる。したがって、本発明の上記態様によれば、ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給可能なゲル体の供給方法を提供することができる。
【0018】
上記態様のゲル体の供給方法は、前記分断吐出工程の前に、前記ゲル体を圧送して前記吐出口から吐出させ、吐出された前記ゲル体の質量を計測しながら前記ゲル体を連続的に供給する連続供給工程を有し、計測された前記ゲル体の質量が中間目標値に達したら前記連続供給工程を終了して前記分断吐出工程を行うようにしてもよい。
【0019】
この態様によれば、ゲル体の質量を中間目標値よりも大きい最終目標値まで供給する場合に、ゲル体の質量が最終目標値よりも小さい中間目標値に達するまで、ゲル体を供給流路に連続的に圧送して、吐出口から連続的に吐出して供給することができる。したがって、この態様によれば、分断吐出工程のみを繰り返してゲル体を供給する場合と比較して、ゲル体を最終目標値の近傍の中間目標値まで迅速に供給することができ、ゲル体の供給に要する時間を短縮することができる。さらに、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達した後は、分断吐出工程によって定量のゲル体を吐出し、吐出されたゲル体の質量をより正確に最終目標値に近づけることができる。
【0020】
上記いずれかの態様のゲル体の供給方法は、前記分断吐出工程を繰り返して前記ゲル体を間欠的に供給する間欠供給工程を有し、前記間欠供給工程において、吐出された前記ゲル体の質量を計測し、計測された前記ゲル体の質量があらかじめ規定された最終目標値に達したら、前記間欠供給工程を終了するようにしてもよい。
【0021】
この態様によれば、間欠供給工程において、定量のゲル体を間欠的に吐出することができるので、計測されたゲル体の質量をあらかじめ規定された最終目標値により正確に近づけることができる。また、間欠供給工程における分断吐出工程の前に、前述の連続供給工程を有する場合には、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達するまで、ゲル体を連続的に吐出して、ゲル体の供給に要する時間を短縮することができる。そして、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達したら、間欠供給工程を行ってゲル体の質量をより正確に最終目標値に近づけることができる。
【0022】
また、上記いずれかの態様のゲル体の供給方法において、前記ゲル体の供給方向における上流側から前記分岐部に至る前記供給流路の前記ゲル体の供給方向に沿う中心線と、前記分岐部に接続された前記気体流路の端部の前記気体の供給方向に沿う中心線との間の角度を、90度以下にしてもよい。これにより、分断吐出工程で分断され、供給流路の分岐部と吐出口との間に残留するゲル体を、分岐部に圧送された気体によって吐出口に向けて押し出しやすくすることができる。
【0023】
また、上記いずれかの態様のゲル体の供給方法において、前記供給流路の内径を10[mm]以下とし、圧送される前記気体の圧力を0.3[MPa]以上としてもよい。これにより、分断吐出工程において、分岐部においてゲル体をより確実に分断し、分岐部と吐出口との間のゲル体を気体とともに吐出口から吐出することができる。なお、供給流路の内径と気体の圧力は、分岐部においてゲル体を分断し、分岐部と吐出口との間のゲル体を気体とともに吐出口から吐出することができる値であれば、特に限定されない。
【0024】
本発明の一態様は、触媒電極の形成に用いられる触媒インクの製造方法であって、触媒が担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒分散液を生成する工程と、上記いずれかの態様のゲル体の供給方法によって前記ゲル体を供給する工程と、前記触媒分散液と前記ゲル体とを撹拌混合して触媒インクを作製する工程と、を有することを特徴とする触媒インクの製造方法である。
【0025】
この態様の触媒インクの製造方法によれば、ゲル体を供給する工程においてゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給することができ、ゲル体を供給する工程に要する時間を短縮することができる。よって、触媒インクの品質向上と生産性向上を実現することができる。
【0026】
本発明の一態様は、上記態様の触媒インクの製造方法によって製造された触媒インクを塗布して触媒電極を形成する工程を有することを特徴とする燃料電池の製造方法である。この燃料電池の製造方法によれば、触媒インクの品質向上と生産性向上により、燃料電池の触媒電極の性能向上と生産性向上を実現することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の上記態様によれば、ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給可能なゲル体の供給方法ならびにその供給方法を用いた触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態の燃料電池の製造方法に係る燃料電池の模式的な断面図。
図2】本実施形態の触媒インクの製造方法のフロー図。
図3図2に示す触媒分散液生成工程の一部を説明する模式図。
図4図2に示す触媒分散液生成工程の一部を説明する模式図。
図5図4に示すゲル体の供給流路の途中の分岐部の一例を示す拡大図。
図6】本実施形態のゲル体の供給方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明のゲル体の供給方法、触媒インクの製造方法および燃料電池の製造方法の実施形態を説明する。
【0030】
(燃料電池)
図1は、本実施形態の燃料電池の製造方法によって製造される燃料電池の模式的な断面図である。この燃料電池100は、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池100は、複数の単セル10が積層されたスタック構造を有する。
【0031】
単セル10は、膜電極接合体5と、膜電極接合体5を狭持する第1と第2のセパレータ7,8とを備える。なお、各単セル10には、流体の漏洩を防止するシール部や、膜電極接合体5に反応ガスを供給するためのマニホールドなどが設けられるが、その図示および説明は省略する。
【0032】
膜電極接合体5は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜1の両面にそれぞれ、第1と第2の電極2,3が配置された発電体である。電解質膜1は、イオン伝導性を有するポリマー(以下、「アイオノマー」と呼ぶ)の薄膜によって構成することができ、たとえば、フッ素樹脂系のイオン交換膜によって構成することができる。より具体的には、電解質膜1は、ナフィオン(Nafion:登録商標)など、側鎖末端に−SO3H基を有するパーフルオロスルホン酸ポリマーを用いることができる。
【0033】
第1と第2の電極2,3は、たとえば白金(Pt)などの燃料電池反応を促進するための触媒が担持された触媒電極であり、ガス透過性およびガス拡散性を有する。第1と第2の電極2,3はそれぞれ、燃料電池100の運転時には、酸素および水素の供給を受けて、カソードおよびアノードとして機能する。
【0034】
なお、単セル10は、第1と第2の電極2,3の外側にそれぞれ、反応ガスを電極面に行き渡らせるためのガス拡散層を有してもよい。ガス拡散層としては、炭素繊維や黒鉛繊維などの導電性、ガス透過性およびガス拡散性を有する多孔質の繊維基材や、発泡金属、エキスパンドメタルなどの多孔質に加工された金属板などを用いることができる。
【0035】
第1と第2のセパレータ7,8は、たとえば金属板など、導電性を有するガス不透過性の板状部材によって構成することができる。第1のセパレータ7は、膜電極接合体5の第1の電極2に対向して配置され、第2のセパレータ8は、第2の電極3に対向して配置される。各セパレータ7,8の膜電極接合体5と対向する面には、反応ガスのための流路溝9が発電領域全体に渡って形成されている。なお、流路溝9は省略してもよい。
【0036】
(燃料電池の製造方法)
本実施形態の燃料電池の製造方法は、以下に説明する触媒インクの製造方法によって製造された触媒インクを塗布して触媒電極を形成する触媒電極形成工程を有することを最大の特徴としている。触媒電極形成工程は、たとえば、電解質膜の表面にダイコート法によって触媒インクを塗布して触媒電極を形成する工程である。本実施形態の本実施形態の燃料電池の製造方法におけるその他の工程は、公知の燃料電池の製造方法と同様の工程を採用することができるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
(触媒インクの製造方法)
図2は、本実施形態の触媒インクの製造方法S100のフロー図である。本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、前述の燃料電池の製造方法において触媒電極形成工程に用いられる触媒インクを製造するための方法である。本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、たとえば、触媒分散液生成工程S101と、ゲル体供給工程S102と、撹拌混合工程S103と、を有している。本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、ゲル体供給工程S102において、後述するゲル体の供給方法S10(図6を参照。)によってゲル体を供給することを特徴としている。
【0038】
図3および図4は、それぞれ、触媒分散液生成工程S101の一部を説明する模式図である。触媒分散液生成工程S101は、触媒が担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒分散液を生成する工程である。
【0039】
具体的には、まず、図3に示すように、電子天秤ESに載置されて粉塵ブースB1内に配置された容器Cに、たとえば白金担持カーボンなどの触媒担持粒子(CSP)が貯蔵されたタンクT1から、コンプレッサなどによって圧縮された圧縮空気により、流路FC1を介して触媒担持粒子を圧送して供給する。このとき、容器Cに投入された触媒担持粒子の質量を電子天秤ESによって計測しながら触媒担持粒子を供給し、予め設定された目標質量の触媒粒子が供給されるように、触媒粒子の供給量(質量)をフィードバック制御する。
【0040】
容器Cに目標質量の触媒担持粒子が供給されたら、たとえば、水(HO)が貯留されたタンクT2からポンプなどにより、流路FC2を介して水を圧送して容器Cに供給する。このとき、容器Cに投入された水の質量を電子天秤ESによって計測しながら水を供給し、予め設定された目標質量の水が供給されるように、水の供給量(質量)をフィードバック制御する。
【0041】
容器に目標質量の水が供給されたら、容器を図3に示す粉塵ブースB1から、たとえば、図4に示す調合ブースB2に移動させて電子天秤ESに載置する。そして、触媒分散液を生成するための材料であるエタノール(CO)、アイオノマー溶液(IO)、および蒸留水(HO)が貯留されたそれぞれのタンクT3,T4,T5から、各材料を、順次、容器Cに圧送して供給する。アイオノマー溶液は、たとえば、ゲル体に用いられるアイオノマーと同種のアイオノマーを含む溶液である。
【0042】
このとき、これら各材料の質量を、それぞれ電子天秤ESによって計測しながら、各材料を容器Cに圧送して供給する。なお、エタノール、アイオノマー溶液、および蒸留水を容器Cに供給するための各流路FC3,FC4,FC5にそれぞれピンチバルブを設け、各ピンチバルブの開閉によって各材料の供給と供給停止を制御することができる。
【0043】
エタノール、アイオノマー溶液、および蒸留水の各材料の供給量は、たとえば、以下のように制御することができる。まず、各材料の最終目標値の質量よりも小さい中間目標値の質量に達するまで、ピンチバルブを開いて各材料を連続的に圧送する。各材料の質量の測定値が中間目標値に達したら、ピンチバルブを閉じて各材料の供給を停止し、供給された各材料の質量を確認する。
【0044】
次に、各材料の各材料の質量の測定値が最終目標値に達するまで、各材料の流路に設けられたピンチバルブを所定の周期で間欠的に開閉させる。次に、この触媒担持粒子と、エタノールと、アイオノマー溶液と、蒸留水とが混合された混合溶液を、超音波分散機などを用いて撹拌する。以上により、触媒分散液が生成され、図2に示す触媒分散液生成工程S101が終了する。
【0045】
次に、図2に示すゲル体供給工程S102を行う。ゲル体供給工程S102は、図4に示すように、たとえば、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体(IO Gel)が貯留されたタンクT6から、ゲル体を容器Cに圧送して供給する工程である。ゲル体としては、たとえば、1[Hz]の周波数の振動を印加し、歪み量が1[%]のときに、40[Pa]以上、140[Pa]以下の貯蔵弾性率を有するものを用いることができる。
【0046】
ゲル体供給工程S102において供給される所定の粘弾性を有するゲル体は、たとえば、アイオノマー溶液と溶媒とを混合した混合溶液に増粘処理を施して増粘させることによって調製することができる。溶媒としては、たとえばアルコール溶液を用いることができ、増粘処理としては、たとえば加熱処理を実施することができる。加熱処理は、たとえば、エバポレータや、オートクレーブによって行うことができる。ゲル体は強酸性であり、ゲル体に鉄(Fe)イオンが混入すると、単セル10の膜電極接合体5を構成する電解質膜1が劣化するフェントン反応が起きる。
【0047】
これを防止するために、ゲル体およびアイオノマーを貯留するタンクT6、配管などの供給流路FC6、その供給流路FC6に設けられたバルブなどの部品を含むゲル体の供給系は、ゲル体およびアイオノマーに鉄(Fe)が接触しないように、非鉄系の材料によって構成とすることが望ましい。これにより、ゲル体およびアイオノマーを含む触媒インクの品質を向上させ、単セル10の膜電極接合体5に含まれる触媒電極である第1と第2の電極2,3の耐久性を向上させることができる。
【0048】
より具体的には、たとえば、ゲル体の供給系をすべてテフロン(商標)などのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を材料とする部品によって構成することができる。また、ゲル体の供給系を構成する部品として、ゲル体に接する内表面がPTFEなどの樹脂材料によってコーティングされた金属製の部品を使用したり、PTFEなどの樹脂製の内容器と金属製の外容器とによって構成された部品を使用したりすることができる。
【0049】
ゲル体供給工程S102では、触媒インクに要求される性能を満足するために、たとえば中心値に対して±5[%]程度の非常に高い精度でゲル体の供給量を制御する必要がある。本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、ゲル体供給工程S102において、このような高い精度でゲル体を供給するために、以下に説明するゲル体の供給方法S10によってゲル体を供給することを特徴としている。
【0050】
(ゲル体の供給方法)
図5は、図4に示すゲル体の供給流路FC6の途中に設けられた分岐部BPの一例を示す拡大図である。図6は、本実施形態のゲル体の供給方法S10のフロー図である。なお、図4において、分岐部BPの図示は省略している。
【0051】
詳細については後述するが、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給する方法であり、分断吐出工程S12を有することを特徴としている。分断吐出工程S12では、ゲル体を供給流路FC6の末端の吐出口D6まで圧送し、供給流路FC6の途中の分岐部BPに接続された気体流路GFを介して供給流路FC6に気体を圧送する。これにより、分岐部BPにおいてゲル体を分断し、分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体を気体とともに吐出口D6から吐出する。以下、本実施形態のゲル体の供給方法S10をより詳細に説明する。
【0052】
本実施形態のゲル体の供給方法S10は、分断吐出工程S12の前に、ゲル体を圧送して吐出口D6から吐出させ、吐出されたゲル体の質量を計測しながらゲル体を連続的に供給する連続供給工程S11を有している。具体的には、図4に示すように、電子天秤ESに載置された容器Cにタンクからゲル体を圧送し、ゲル体の質量を計測しながらゲル体を連続的に供給する。
【0053】
この連続供給工程S11では、図6に示すように、計測されたゲル体の質量が中間目標値未満(No)の場合、繰り返し連続供給工程S11を行ってゲル体の連続的な供給を継続する。そして、計測されたゲル体の質量が中間目標値に達したら、すなわち、ゲル体の質量の計測値が中間目標値以上(Yes)の場合、連続供給工程S11を終了して分断吐出工程S12を行う。
【0054】
ここで、ゲル体の質量の中間目標値は、最終的に供給されるべきゲル体の質量の最終目標値よりも小さい値である。ゲル体の質量の中間目標値は、たとえば、ゲル体の質量の最終目標値から、一回の分断吐出工程S12において吐出される定量のゲル体の質量の整数倍を減算した値に設定することができる。
【0055】
なお、連続供給工程S11では、たとえば、容器C内に供給されたゲル体の質量の計測値が中間目標値に達するまで、分断吐出工程S12におけるゲル体の供給圧力よりも高い供給圧力でゲル体を圧送してもよい。これにより、中間目標値の質量のゲル体を供給するために要する時間を短縮することが可能である。
【0056】
分断吐出工程S12は、前述のように、ゲル体を供給流路FC6の末端の吐出口D6まで圧送し、供給流路FC6の途中の分岐部BPに接続された気体流路GFを介して供給流路FC6に気体を圧送する工程である。このように、供給流路FC6の途中の分岐部BPに気体を圧送することで、分岐部BPにおいてゲル体を分断し、分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体を、気体とともに吐出口D6から吐出する。なお、気体は、ゲル体に悪影響を与えない気体であれば特に限定されないが、たとえば空気を用いることができる。
【0057】
より具体的には、たとえば連続供給工程S11と分断吐出工程S12とを連続して行う場合、分断吐出工程S12の開始時に、ゲル体の供給流路FC6は、タンクT6から吐出口D6までゲル体によって満たされている。この状態で、供給流路FC6の途中の分岐部BPに、ゲル体を分断可能な圧力の気体を圧送することで、分岐部BPに勢いよく気体が流入して渦となり、気体の乱流によって供給流路FC6の内部のゲル体が分岐部BPの上流側の部分と分岐部BPの下流側の部分に分断される。
【0058】
より詳細には、たとえば、供給流路FC6の内径を10[mm]以下とし、圧送される気体の圧力を0.3[MPa]以上とすることで、供給流路FC6の内部のゲル体を、分岐部BPの上流側の部分と分岐部BPの下流側の部分に分断することができる。分岐部BPに圧送された気体によって分断された供給流路FC6の分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体は、分岐部BPに圧送された気体によって吐出口D6へ向けて押され、その気体とともに吐出口D6から吐出される。
【0059】
ここで、気体によって分断されたゲル体の分岐部BPの下流側の部分、すなわち供給流路FC6の分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体の体積は、供給流路FC6の分岐部BPと吐出口D6との間の部分の容積とおおむね等しい。そのため、たとえば連続供給工程S11の終了時に分断吐出工程S12を行うことで、容器C内に連続供給工程S11によって供給された中間目標値の質量のゲル体に、分断吐出工程S12によって定量のゲル体を供給することができる。
【0060】
図5に示す分岐部BPとしては、たとえばT字継手(ティーズ、T管)やY字継手(Y管)などの配管継手や配管部品を使用することができる。ゲル体の供給方向における上流側から分岐部BPに至る供給流路FC6のゲル体の供給方向に沿う中心線L1と、分岐部BPに接続された気体流路GFの端部の気体の供給方向に沿う中心線L2との間の角度は、たとえば90度以下にすることができる。図示の例において、供給流路FC6の中心線L1と気体流路GFの中心線L2との間の角度は、約45[°]である。これにより、供給流路FC6の内部で分断され、分岐部BPと吐出口D6との間に残留するゲル体を、気体とともに吐出口D6から吐出しやすくなる。
【0061】
また、供給流路FC6は、たとえば、ゲル体の供給方向における分岐部BPの上流側に、ゲル体の供給と供給停止を制御するための図示を省略するピンチバルブなどの開閉弁を有している。この場合、たとえば連続供給工程S11の終了時に開閉弁を閉じて分断吐出工程S12を行うことで、容器C内に連続供給工程S11によって供給された中間目標値の質量のゲル体に、分断吐出工程S12によって定量のゲル体を供給してゲル体の供給を停止することができる。
【0062】
分断吐出工程S12の終了後は、たとえば、供給流路FC6の分岐部BPよりも上流側で開閉弁が閉じられ、分岐部BPよりも下流側で供給流路FC6の内部のゲル体が排出された状態となっている。また、供給流路FC6の分岐部BPよりも上流側に残留するゲル体は、分岐部BPの下流側のゲル体が分離されて質量が減少し、ゲル体に作用する重力が減少している。そのため、供給流路FC6の内部に残存する分岐部BPの上流側のゲル体は、その高い粘度や粘着性によって供給流路FC6の内部に留まり、重力によって吐出口D6から垂下および滴下することが防止される。
【0063】
すなわち、本実施形態のゲル体の供給方法S10によれば、分岐部BPと吐出口D6との間の定量のゲル体を吐出口D6から吐出して供給することができ、かつ、供給流路FC6の分岐部BPよりも上流側に残留したゲル体が重力の影響によって吐出口D6から垂下して落下することが防止される。したがって、本実施形態によれば、ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給可能なゲル体の供給方法S10を提供することができる。
【0064】
なお、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、分断吐出工程S12の前に連続供給工程S11を有しているが、連続供給工程S11は省略することも可能である。この場合、分断吐出工程S12を一回以上行うことで、ゲル体の質量の最終目標値まで、定量のゲル体を正確に供給することができる。
【0065】
また、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、連続供給工程S11と分断吐出工程S12の少なくとも一方の工程において、工程の開始から終了まで、分岐部BPに接続された気体流路GFを介して供給流路FC6に低圧の気体を連続的に供給してもよい。このように連続的に供給される気体の圧力は、供給流路FC6の内部でゲル体が分断されず、かつ、気体流路GFにゲル体が流入するのを防止することができる圧力に設定することができる。
【0066】
たとえば、供給流路FC6の内径を10[mm]以下とし、0.3[MPa]未満の低圧の気体を、分岐部BPに接続された気体流路GFを介して供給流路FC6に連続的に供給する。これにより、供給流路FC6の内部のゲル体を分断することなく、気体流路GFにゲル体が流入するのを防止することができる。また、供給流路FC6の内径を10[mm]以下とすることで、ゲル体を少量ずつ供給して、たとえば中心値に対して±5[%]程度の非常に高い精度で供給量を制御することができる。なお、気体流路GFを介して供給流路FC6に低圧の気体を連続的に供給する方法に代えて、気体流路GFに開閉弁を設けて気体流路GFに対するゲル体の流入を防止してもよい。
【0067】
本実施形態のゲル体の供給方法S10は、たとえば図6に示すように、分断吐出工程S12を繰り返してゲル体を間欠的に供給する間欠供給工程S13を有してもよい。本実施形態のゲル体の供給方法S10は、間欠供給工程S13において、一回の分断吐出工程S12を行う都度、吐出されたゲル体の質量を計測する。そして、計測されたゲル体の質量とあらかじめ規定された最終目標値とを比較し、ゲル体の質量の計測値が最終目標値未満(No)であれば、再度、分断吐出工程S12を行う。そして、分断吐出工程S12後に計測されたゲル体の質量があらかじめ規定された最終目標値に達して最終目標値以上(Yes)になったら、間欠供給工程S13を終了する。
【0068】
このように、分断吐出工程S12を繰り返してゲル体を間欠的に供給する間欠供給工程S13を有することで、一回の分断吐出工程S12で吐出されるゲル体の質量を小さくすることができ、ゲル体の供給量を高精度かつ可及的に最終目標値に近づけることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体の供給方法S10であり、前述の分断吐出工程S12を有している。分断吐出工程S12は、ゲル体を供給流路FC6の末端の吐出口D6まで圧送し、供給流路FC6の途中の分岐部BPに接続された気体流路GFを介して供給流路FC6に気体を圧送することで、分岐部BPにおいてゲル体を分断し、分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体を気体とともに吐出口D6から吐出する工程である。
【0070】
このような構成のゲル体の供給方法S10により、前述のように、ゲル体を切断する手段にゲル体が付着することがなく、供給流路FC6の吐出口D6からゲル体が垂下および滴下することが防止され、供給流路FC6の分岐部BPと吐出口D6との間の定量のゲル体を吐出して供給することができる。
【0071】
より具体的には、ゲル体を切断する手段として気体を用いることで、ゲル体を切断するためのブレードを使用する必要がなく、ゲル体がブレードに付着することによる供給のばらつきの発生を防止できる。また、供給流路FC6の分岐部BPと吐出口D6との間のゲル体が気体によって押し出され、供給流路FC6の吐出口D6近傍にゲル体が残留しない。したがって、ゲル体が吐出口D6から重力の影響によって垂下して落下することが防止され、定量のゲル体を正確に供給することが可能になる。
【0072】
また、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、前述のように、分断吐出工程S12の前に、ゲル体を圧送して吐出口D6から吐出させ、吐出されたゲル体の質量を計測しながらゲル体を連続的に供給する連続供給工程S11を有している。そして、計測されたゲル体の質量が中間目標値に達したら連続供給工程S11を終了して分断吐出工程S12を行うようにしている。
【0073】
このように、ゲル体の供給方法S10が連続供給工程S11を有することで、ゲル体の質量の計測値が最終目標値よりも小さい中間目標値に達するまで、ゲル体を供給流路FC6に連続的に圧送して、吐出口D6から連続的に吐出して供給することができる。したがって、分断吐出工程S12のみを繰り返してゲル体を供給する場合と比較して、ゲル体を最終目標値の近傍の中間目標値まで迅速に供給することができ、ゲル体の供給に要する時間を短縮することができる。さらに、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達した後は、分断吐出工程S12によって定量のゲル体を吐出し、吐出されたゲル体の質量をより正確に最終目標値に近づけることができる。
【0074】
また、本実施形態のゲル体の供給方法S10は、前述のように、分断吐出工程S12を繰り返してゲル体を間欠的に供給する間欠供給工程S13を有している。そして、間欠供給工程S13において、吐出されたゲル体の質量を計測し、計測されたゲル体の質量があらかじめ規定された最終目標値に達したら、間欠供給工程S13を終了するようにしている。
【0075】
これにより、間欠供給工程S13において、定量のゲル体を間欠的に吐出することができるので、計測されたゲル体の質量をあらかじめ規定された最終目標値により正確に近づけることができる。また、間欠供給工程S13における分断吐出工程S12の前に、前述の連続供給工程S11を有することで、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達するまで、ゲル体を連続的に吐出して、ゲル体の供給に要する時間を短縮することができる。そして、吐出されたゲル体の質量が中間目標値に達したら、間欠供給工程S13を行ってゲル体の質量をより正確に最終目標値に近づけることができる。
【0076】
また、本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、触媒電極の形成に用いられる触媒インクの製造方法S100であって、図2に示すように触媒分散液生成工程S101と、ゲル体供給工程S102と、撹拌混合工程S103を有している。触媒分散液生成工程S101は、触媒が担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒分散液を生成する工程である。ゲル体供給工程S102は、前述のゲル体の供給方法S10によってゲル体を供給する工程である。撹拌混合工程S103は、触媒分散液とゲル体とを撹拌混合して触媒インクを作成する工程である。
【0077】
このように、本実施形態の触媒インクの製造方法S100は、ゲル体供給工程S102において前述のゲル体の供給方法S10によってゲル体を供給している。そのため、ゲル体供給工程S102において、ゲル体の供給量のばらつきを抑制して定量のゲル体を供給することができ、ゲル体供給工程S102に要する時間を短縮することができる。したがって、本実施形態の触媒インクの製造方法S100によれば、触媒インクの品質向上と生産性向上を実現することができる。
【0078】
また、本実施形態の燃料電池の製造方法は、前述の触媒インクの製造方法S100によって製造された触媒インクを塗布して触媒電極を形成する工程を有することを特徴としている。この態様の触媒インクの製造方法S100によれば、前述の触媒インクの製造方法S100によって触媒インクの品質向上と生産性向上が実現できるので、燃料電池100の性能向上と生産性向上を実現することができる。
【0079】
以上、図面を用いて本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0080】
たとえば、ゲル体の供給方法S10が連続供給工程S11と分断吐出工程S12を有する場合、各工程においてゲル体の供給流路FC6を切り替えてもよい。このように、多量のゲル体を可及的速やかに供給する供給流路と、ゲル体を精密な供給量で供給する供給流路とを切り替えることで、中間目標値の質量のゲル体を供給する時間を短縮し、生産性を向上させることができ、大量生産に適している。また、ゲル体の供給量と公差によって、供給流路FC6の外部でゲル体を分断する外部分断方式と、供給流路FC6の内部でゲル体を分断する内部分断方式とを選択できるようにしてもよい。
【0081】
以下、本発明に係るゲル体の供給方法の実施例と、その比較対象としての比較例について説明する。
【0082】
[実施例]
まず、前述の実施形態において説明した図4および図5に示すような実施例1および実施例2のゲル体の供給系を用意した。実施例1の供給系は、ゲル体の供給流路の内径を9[mm]とし、実施例2の供給系は、ゲル体の供給流路の内径を6[mm]とした。また、各供給系における供給流路の分岐部として、供給流路に対する気体流路の角度が45[°]のY型ティーズを用いた。
【0083】
次に、実施例1の供給系と実施例2の供給系を用いて、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に空気を圧送する分断吐出工程を行った。
【0084】
各実施例の供給系において、1[Hz]の周波数の振動を印加し、歪み量が1[%]のときの貯蔵弾性率が、40[Pa]のゲル体と、90[Pa]のゲル体と、140[Pa]のゲル体の3種のゲル体を、それぞれを圧送した。
【0085】
また、各実施例の供給系で、分断吐出工程において気体流路を介して供給流路に圧送する気体の圧力を0.1[MPa]、0.2[MPa]、0.3[MPa]、および0.35[MPa]に変化させた。以下の表1に、実施例1および実施例2の分断吐出工程におけるゲル体の切断可否を示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例1および実施例2の供給系を用いた場合、分断吐出工程において気体流路を介して供給流路に圧送する気体の圧力を0.3[MPa]以上とすることで、ゲル体の貯蔵弾性率によらず、分岐部においてゲル体を分断し、分岐部と吐出口との間のゲル体を気体とともに吐出口から吐出することができた。
【0088】
次に、実施例2と同様の実施例3のゲル体の供給系を用意した。実施例3の供給系は、分岐部における気体流路の下流側端部から吐出口までの距離を30[mm]とした。また、実施例3の供給系における供給流路の分岐部として、供給流路に対する気体流路の角度が45[°]のY型ティーズを用いた。
【0089】
次に、実施例3の供給系を用いて、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に0.35[MPa]の空気を圧送する分断吐出工程を行った。
【0090】
実施例3の供給系においても、1[Hz]の周波数の振動を印加し、歪み量が1[%]のときの貯蔵弾性率が、40[Pa]のゲル体と、90[Pa]のゲル体と、140[Pa]のゲル体の3種のゲル体を、それぞれを圧送した。以下の表2に、実施例3の分断吐出工程において、ゲル体の貯蔵弾性率とゲル体の分断に要した時間との関係を示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示すように、ゲル体の貯蔵弾性率が高くなると、ゲル体の分断に要した時間は長くなった。さらに、実施例3の供給系において、分岐部における気体流路の下流側端部から吐出口までの距離を20[mm]と40[mm]に変化させて、同様に分断吐出工程を行った。
【0093】
その結果、貯蔵弾性率が140[Pa]のゲル体において、分断に要した時間は、上記の距離が20[mm]の場合に2.1[秒]、上記の距離が40[mm]の場合に2.7[秒]に変化した。貯蔵弾性率が40[Pa]のゲル体と、90[Pa]のゲル体では、ほとんど差が見られなかった。すなわち、貯蔵弾性率が高くなると、図4に示す分岐部における気体流路の下流側端部から吐出口までの距離が長いほど、ゲル体の分断により多くの時間を要することが分かった。
【0094】
また、実施例1から実施例3のゲル体の供給方法では、1[g]以下の公差の高い精度でゲル体を供給することができた。具体的には、供給流路の内径が6[mm]の実施例2の供給系を用いたゲル体の供給方法において、ゲル体の供給量の変動は、0.6[g]以下であった。
【0095】
[比較例]
比較例1および比較例2の供給系として、実施例1から実施例3の供給系と同様の供給系を用意した。比較例1の供給系は、供給流路の内径を22[mm]とし、比較例2の供給系は、供給流路の内径を16[mm]とした。
【0096】
また、比較例1および比較例2の供給系と同様の構成の供給系を用意し、供給流路の吐出口の外側にエアカッターを設置して、比較例3および比較例4の供給系とした。なお、エアカッターとして、空気を吐出するスリットの幅が0.5[mm]でスリットの長さが100[mm]のものを用意した。
【0097】
また、比較例1および比較例2の供給系と同様の構成の供給系を用意し、供給流路の吐出口の外側に、はさみ状のPTFE製ブレードを設置して比較例5および比較例6の供給系とした。ブレードは、PTFE製の2枚の板状のブレードを開閉することで、吐出口から吐出されたゲル体を両側から挟んで切断する構成とした。
【0098】
次に、比較例1および比較例2の供給系を用いて、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、供給流路の途中の分岐部に接続された気体流路を介して供給流路に空気を圧送する分断吐出工程を行った。
【0099】
比較例1および比較例2の供給系において、1[Hz]の周波数の振動を印加し、歪み量が1[%]のときの貯蔵弾性率が、40[Pa]のゲル体と、90[Pa]のゲル体と、140[Pa]のゲル体の3種のゲル体を、それぞれを圧送した。その結果、以下の表3に示すように、比較例1および比較例2の供給系では、圧送する空気の圧力を上昇させても、ゲル体を分断することができなかった。
【0100】
【表3】
【0101】
次に、比較例3および比較例4の供給系を用いて、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、気体流路に空気を圧送することなく、吐出口の外側に設置されたエアカッターのスリットから空気を吐出してゲル体の切断を試みた。その結果、供給流路の内径が22mmの比較例3の供給系において、ゲル体を切断することができた。この場合、切断後に供給されるゲル体の質量は15[g]以上であり、1[g]以下の公差の高い精度でゲル体を供給するのは困難であった。
【0102】
また、供給流路の内径が16mmの比較例4の供給系においては、エアカッターに圧送される空気の圧力を上昇させても、吐出口から吐出されたゲル体が揺れ動くだけで、ゲル体を切断することができなかった。
【0103】
次に、比較例5および比較例6の供給系を用いて、アイオノマーと溶媒とを混合したゲル体を供給流路の末端の吐出口まで圧送し、気体流路に空気を圧送することなく、吐出口の外側に設置されたブレードを開閉させてゲル体を挟むことで、ゲル体の切断を試みた。その結果、供給流路の内径が22mmの比較例5の供給系において、ゲル体を切断することができた。この場合、切断後に供給されるゲル体の質量は15[g]以上であり、1[g]以下の公差の高い精度でゲル体を供給するのは困難であった。
【0104】
また、供給流路の内径が16mmの比較例6の供給系においては、ゲル体は動いたり、伸びたり、ブレードに付着したりするだけで、ゲル体を切断することができなかった。比較例3から比較例6のゲル体の供給方法によるゲル体の切断可否を表4に示す。
【0105】
【表4】
【符号の説明】
【0106】
BP 分岐部
D6 吐出口
FC6 供給流路
GF 気体流路
L1 供給流路の中心線
L2 気体流路の中心線
S10 ゲル体の供給方法
S11 連続供給工程
S12 分断吐出工程
S13 間欠供給工程
S100 触媒インクの製造方法
S101 触媒分散液生成工程(触媒分散液を生成する工程)
S102 ゲル体供給工程(ゲル体を供給する工程)
S103 撹拌混合工程(触媒インクを作成する工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6