【解決手段】本発明のディーゼル酸化触媒粉末は、セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料を含む母材粒子と前記母材粒子上に担持された触媒活性成分とを含有する複合粒子を備え、前記触媒活性成分は、酸化数1〜6のパラジウムを含み、前記複合粒子は、再酸化剤で表面修飾されていることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100の複合粒子構造を示す模式図である。このディーゼル酸化触媒粉末100は、セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料を含む母材粒子11と、この母材粒子11の表面11aに担持された触媒活性成分21とを含有する複合粒子31を備え、触媒活性成分21が酸化数1〜6のパラジウム(以降において、単に「パラジウム」と称する場合がある。)を含み、複合粒子31が、再酸化剤41で表面修飾されていることを特徴とするものである。以下、各構成要素について詳述する。
【0020】
母材粒子11は、触媒活性成分21を表面11a上に担持するための担体粒子である。本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100においては、母材粒子11として、優れた酸素吸放出能(Oxygen Storage Capacity)を有するのみならず比較的に耐熱性にも優れるセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料を用いることで、CO浄化性能及び耐熱性を高めている。
【0021】
ここで、本明細書において、「セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料」とは、酸化物換算でセリア(CeO
2)及びジルコニア(ZrO
2)を含有する複合酸化物を意味する。具体的には、セリアジルコニア又はこれに他元素がドープされた複合酸化物或いは固溶体を包含する概念として用いている。より具体的には、セリア(CeO
2)及びジルコニア(ZrO
2)を含有する複合酸化物或いは固溶体、又はこれにセリウム及びジルコニウム以外の他元素がドープされた複合酸化物或いは固溶体を意味する。セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、酸素吸放出能及び耐熱性のバランスに優れるセリアジルコニアが好ましく、また、セリウム及びジルコニウム以外の他の希土類元素がさらに固溶したセリアジルコニア系複合酸化物も好ましく用いられる。なお、セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、Ce及びZrの質量割合が、酸化物(CeO
2及びZrO
2)換算で、合計50質量%以上95質量%以下のものが好ましく用いられる。
【0022】
ここで、セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウム等の、セリウム及びジルコニウム以外の希土類元素(以降において、「他の希土類元素」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。これらの中でも、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジムが好ましい。他の希土類元素は、1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。他の希土類元素が含まれる場合、その含有割合は、特に限定されないが、母材粒子11の総量に対して、上述した他の希土類元素の酸化物換算の総量(例えばLa
2O
3、Nd
2O
3、Pr
5O
11等の総和)で、0.1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
また、セリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、チタン、マンガン及び銅等の遷移元素を含んでいてもよい。遷移元素は、1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。遷移元素が含まれる場合、その含有割合は、特に限定されないが、母材粒子11の総量に対して、上述した遷移元素の酸化物換算の総量(例えばFe
2O
3、TiO
2等の総和)で、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
なお、上記のセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料において、セリウムやジルコニウムの一部が、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素や、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素等で置換されていてもよい。また、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素は、それぞれ1種を単独で、又は2種以上の任意の組み合わせ及び割合で用いることができる。また、上記のセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、ジルコニア鉱石中に通常1〜2質量%程度含まれているハフニウム(Hf)を不可避不純物として含有していても構わない。
【0025】
母材粒子11の平均粒子径D
50は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。大きな比表面積を保持させるとともに耐熱性を高めて自身の触媒活性サイトの数を増大させる等の観点から、母材粒子11の平均粒子径D
50は、0.5〜100μmが好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜50μmがさらに好ましい。なお、本明細書において、母材粒子11の平均粒子径D
50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100等)で測定されるメディアン径を意味する。ここで本明細書において、母材粒子11の平均粒子径D
50は、複合粒子形成時や表面修飾時やパラジウム形成時に変動し得るが、測定対象となるディーゼル酸化触媒粉末100にエージング処理(耐久処理)を施したサンプルを用いて測定される値を意味する。なお、この耐久処理は、触媒粉末のランニング性能の安定化を図る目的で行うものである。
【0026】
母材粒子11のBET比表面積は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、大きな比表面積を保持させるとともに触媒活性を高める等の観点から、BET一点法によるBET比表面積が10〜250m
2/gが好ましく、より好ましくは20〜150m
2/g、さらに好ましくは30〜120m
2/gである。ここで本明細書において、ディーゼル酸化触媒粉末100のBET比表面積は、複合粒子形成時や表面修飾時やパラジウム形成時に変動し得るが、耐久処理後のディーゼル酸化触媒粉末100をサンプルとして用いて測定される値を意味する。
【0027】
なお、母材粒子11としては、上述したセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料を含む母材粒子以外に、他の母材粒子、例えばアルミナやセリアやジルコニア等の金属酸化物粒子、これに他の希土類元素及び/又は遷移元素がドープされた金属複合酸化物粒子、ペロブスカイト型酸化物粒子等を含んでいてもよい。
【0028】
上述したセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、各種グレードのものが国内外のメーカから数多く市販されており、要求性能に応じて各種グレードの市販品を本実施形態の母材粒子11として用いることができる。また、上述した組成を有するセリアジルコニア系酸素吸蔵放出材料は、当業界で公知の方法で製造することもできる。製造方法としては、特に限定されないが、粉末混合法、水熱法、共沈法、アルコキシド法等が挙げられ、これらの中でも共沈法やアルコキシド法が好ましい。
【0029】
共沈法としては、例えば、セリウム塩及びジルコニウム塩と、必要に応じて配合する他の希土類金属元素や遷移元素等とを所定の化学量論比で混合した水溶液に、アルカリ物質を添加して加水分解させ或いは前駆体を共沈させ、その加水分解生成物或いは共沈物を焼成する製法が好ましい。ここで用いる各種塩の種類は、特に限定されない。一般的には、塩酸塩、オキシ塩酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等が好ましい。また、アルカリ性物質の種類も、特に限定されない。一般的には、アンモニア水溶液が好ましい。アルコキシド法としては、例えば、セリウムアルコキシド及びジルコニウムアルコキシドと、必要に応じて配合する他の希土類金属元素や遷移元素等とを所定の化学量論比で混合した混合物を加水分解し、その後に焼成する製法が好ましい。ここで用いるアルコキシドの種類は、特に限定されない。一般的には、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシドや、これらのエチレンオキサイド付加物等が好ましい。また、希土類金属元素は、金属アルコキシドとして配合しても、上述した各種塩として配合してもよい。
【0030】
焼成条件は、常法にしたがえばよく、特に限定されない。焼成雰囲気は、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、大気雰囲気のいずれの雰囲気でもよい。焼成温度及び処理時間は、所望する組成及びその化学量論比によって変動するが、生産性等の観点からは、一般的には、150℃以上1300℃以下で1〜12時間が好ましく、より好ましくは350℃以上800℃以下で2〜4時間である。なお、高温焼成に先立って、真空乾燥機等を用いて減圧乾燥を行い、50℃以上200℃以下で約1〜48時間程度の乾燥処理を行うことが好ましい。
【0031】
母材粒子11上には、触媒活性成分21としてパラジウムが高分散に担持されている。ここで用いるパラジウムは、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に対する優れた酸化触媒性能の観点から、触媒活性成分として必要不可欠である。なお、パラジウムの酸化数は、現在のところ0価、1価、2価、4価、6価が知られているが、その酸化数は特に制限されない。これらの中でも、1価のパラジウムPd(I)(Pd
2O)及び2価のパラジウムPd(II)(PdO)が、比較的に安定して使用可能であるため好適である。
【0032】
また、必要に応じて、触媒活性成分21としてパラジウム以外の白金族元素(以降において、単に「他の白金族元素」と称する場合がある。)又はその酸化物等の化合物が母材粒子11の表面11a上に担持されていてもよい。すなわち、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、及びOsよりなる群から選択される少なくとも1以上が母材粒子11の表面11a上に担持されていてもよい。これらの中でも、他の白金族元素としては、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に対する優れた酸化触媒性能の観点から、PtやRhが好ましく、コストの観点をさらに考慮するとPtがより好ましい。さらに、必要に応じて、上述した白金族元素以外の貴金属元素(PM)、すなわち金(Au)や銀(Ag)を含有していてもよい。但し、経済性や安定供給、高温条件での使用等を考慮すると、上述した白金族元素以外の貴金属元素を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、上述した金及び銀の総量が、ディーゼル酸化触媒粉末100の総量に対して、0質量%以上1.0質量%未満の範囲内にあることを意味し、より好ましくは0質量%以上0.5質量%未満、さらに好ましくは0質量%以上0.3質量%未満である。
【0033】
母材粒子11上のパラジウムの担持量(含有量)は、母材粒子11の素材や平均粒子径D
50等を考慮して所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、触媒活性とコストのバランス等の観点から、ディーゼル酸化触媒粉末100の粉末総量に対するPd金属量換算で、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、0.8〜3質量%がさらに好ましい。
【0034】
また、他の白金族元素が含まれる場合、他の白金族元素とパラジウムの含有割合(他の白金族元素:パラジウム)は、所望性能に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
母材粒子11上の触媒活性粒子の平均粒子径は、母材粒子11の素材や細孔径等を考慮して所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。触媒活性をより高めるとともにシンタリング及び粒成長を抑制する等の観点から、パラジウムの平均粒子径は、20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。なお、パラジウムの平均粒子径の下限は、特に限定されず、例えば1nm以上が好ましい。このような微粒子サイズの触媒活性成分21を母材粒子11の表面11aに高分散状態で存在させることにより、高い触媒活性が得られ易い傾向にある。なお、本明細書において、触媒活性成分21の平均粒子径は、倍率1万倍のSTEM画像において、無作為に抽出した200点の平均値とする。また、パラジウムの平均粒子径は、複合粒子形成時や表面修飾時やパラジウム形成時に変動し得るが、このとき用いるサンプルは、耐久処理後のディーゼル酸化触媒粉末100とする。
【0036】
本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100においては、上述したとおり、母材粒子11の表面11aに触媒活性成分21として酸化数1〜6のパラジウムが高分散に担持されているという複合粒子31の構造を有するとともに、この複合粒子31が金属パラジウムを酸化する再酸化剤41で表面修飾されている点に1つの特徴がある。かかる再酸化剤41の表面修飾により、パラジウムによるCOの酸化触媒性能が向上する理由は定かではないが、以下のとおり推察される。
【0037】
母材粒子11上に担持されたパラジウム上におけるCOの酸化反応は、
図2に示すとおり、(a)Pd
2OやPdO等のパラジウムの表面へのCOの吸着、(b)パラジウム上でのCOの酸化(CO
2の生成)、及びこれにともなうパラジウムの還元(金属パラジウムPd
0の生成)、(c)外部からの酸素供給による金属パラジウムPd
0への酸素吸着、及びこれにともなう金属パラジウムPd
0の酸化(酸化数1〜6のパラジウムの生成)、の3段階の反応機構があり、これら(a)〜(c)の段階が繰り返し行われていると考えられている。
【0038】
ところが、本発明者らの知見によれば、上記(c)の反応機構において、金属パラジウムPd
0へのCO吸着が酸素吸着と競争的に生じ、しかもCO吸着が速度論的に優位に進行していることが判明した。また、金属パラジウムPdへのCO吸着は、例えばPd
+またはPd
2+−COのLinear型吸着と、比較的に安定な(Pd
0)
2−COのBridge型吸着があることが判明している。そして、金属パラジウムPd
0への酸素吸着よりもCO吸着が優位に進行し、ひとたび金属パラジウムPd上でCOのBridge型吸着が生じると金属パラジウムPd
0への酸素供給が阻害されるため、上記(c)段階から上記(a)段階への回帰が、パラジウム上におけるCOの酸化反応における律速段階となっていると考えられる。
【0039】
これに対し、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100においては、上述した複合粒子構造を有するのみならず再酸化剤41で表面修飾されているため、上記(c)の反応機構において、再酸化剤41による酸化によって金属パラジウムPd
0の酸化を優位に進行させることができる。すなわち、
図3に示すように、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100においては、金属パラジウムPd
0が速やかに酸化され、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着の発生が抑制され、その結果、CO酸化性能の低下が抑制されているものと推察される。但し、作用はこれらに特に限定されない。
【0040】
なお、上記のCOの吸着は、拡散反射赤外フーリエ変換分光法(Diffuse Reflectance Infrared Fourier Transform Spectroscopy、以降において、DRIFTSと記載)に基づいて検出可能である。COのLinear型吸着(Pd
0−CO、Pd
+−CO、Pd
2+−CO)は2080〜2160cm
-1のピークとして、COのBridge型吸着((Pd
0)
2−CO)は1960〜2000cm
-1のピークとして、それぞれ同定することができる。具体的には、Pd
2+−COのLinear型吸着は2140cm
-1のピークとして、Pd
+−COのLinear型吸着は2100cm
-1のピークとして、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着は1980cm
-1のピークとして、それぞれ観察される。
【0041】
上述した再酸化剤41は、金属パラジウムを酸化可能なものである限り、その種類は特に限定されない。再酸化剤41としては、金属パラジウムに対して固体酸として機能する各種の無機化合物を好適に用いることができる。具体的には、カオリナイト、モンモリロナイト、サポナイト等の粘土鉱物;例えばFAU、BEA、MOR、MFI、MEL,CHA、FER、AEI、AFL、AFX、LEV、KFI、USY等の構造を有する構造体;活性炭;ZnO、Al
2O
3、FeO、Fe
2O
3、CoO、Co
3O
4、Cr
2O
3、CuO、ZrO
2、TiO
2等の金属酸化物;CdS、ZnS等の金属硫化物;MgSO
4、FeSO
4、AlPO
4、AlCl
3等の金属塩、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−TiO
2、SiO
2−MgO、TiO
2−ZrO
2等の金属複合酸化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、ゼオライト、活性炭、金属酸化物、金属硫化物、金属塩、及び金属複合酸化物が好ましく、ゼオライト、金属酸化物、金属塩、及び金属複合酸化物がより好ましい。これらは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上の任意の組み合わせ及び割合で用いることができる。
【0042】
ここで用いる再酸化剤41は、上述したように、複合粒子31に対して高分散に表面修飾可能な形態のもの、具体的には、常温(25℃)で固体の微粒子が好ましく用いられる。複合粒子31上に高分散に担持可能な再酸化剤41を用いることで、複合粒子31の母材粒子11上で、触媒活性成分21の間に再酸化剤41を介在させることができ、これにより、触媒活性成分21同士のシンタリングによる粒成長が抑制され、その結果、触媒性能の劣化も抑制することができる。再酸化剤41が常温で固体の微粒子である場合、その平均粒子径D
50は、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、複合粒子31上に高分散に担持させてより高い触媒活性を得る観点から、1〜200nmが好ましく、5〜180nmがより好ましく、7〜150nmがさらに好ましく、10〜70nmが特に好ましい。なお、本明細書において、ディーゼル酸化触媒粉末100の複合粒子31の再酸化剤41の平均粒子径D
50は、動的光散乱・光子相関法装置(例えば、HORIBA社製、SZ-100等)で測定されるメディアン径を意味する。なお、再酸化剤41の平均粒子径D
50は、複合粒子形成時や表面修飾時やパラジウム形成時に変動し得るが、ここで用いるサンプルは、耐久処理後のディーゼル酸化触媒粉末100とする。
【0043】
また、再酸化剤41による複合粒子31の表面修飾を均一に行う観点からは、母材粒子11の平均粒子径D
50と再酸化剤41の平均粒子径D
50との比は、1:0.00001〜0.4が好ましく、1:0.0005〜0.035がより好ましく、1:0.001〜0.030がさらに好ましい。このように、母材粒子11に対して極めて微細な再酸化剤41を用いることで、表面修飾を均一に且つ一様に行うことが容易になる傾向にある。なお、母材粒子11や再酸化剤41の平均粒子径D
50は、複合粒子形成時や表面修飾時やパラジウム形成時に変動し得るが、ここで用いるサンプルは、耐久処理後のディーゼル酸化触媒粉末100とする。
【0044】
再酸化剤41の担持量(含有量)は、母材粒子11の素材や平均粒子径D
50や比表面積、さらにはパラジウム担持量等を考慮して所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、触媒活性等の観点から、ディーゼル酸化触媒粉末100の粉末総量に対して、合計で0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、0.8〜12質量%がさらに好ましい。
【0045】
ここで、上述したパラジウムと再酸化剤41との含有割合は、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、パラジウム近傍に再酸化剤41を高分散に担持させて再酸化剤41による酸化反応を促進する観点から、パラジウム(金属量換算):再酸化剤が1:0.1〜15が好ましく、1:0.3〜13がより好ましく、1:0.5〜10がさらに好ましい。
【0046】
本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100の製造方法は、上述したとおり母材粒子11上にパラジウムが担持され且つ再酸化剤41で表面修飾された複合粒子31が得られる限り、各種公知の粉体作製法を適用することができ、その種類は特に限定されない。上述した複合粒子構成のディーゼル酸化触媒粉末100を再現性よく簡易且つ低コストで製造する観点からは、蒸発乾固法(含浸法)等が好ましい。
【0047】
以下、蒸発乾固法の典型的を具体的に説明する。この例では、まず、上述した母材粒子11に、パラジウムイオンを少なくとも含有する水溶液を含浸させて、母材粒子11の表面11aにパラジウムを担持させる(複合粒子形成工程S1)。この第1の含浸処理により、パラジウムが、母材粒子11の表面11aに高分散状態で吸着(付着)される。このとき、原料として使用する母材粒子11の平均粒子径D
50は、特に限定されないが、1〜80μmが好ましく、1〜70μmがより好ましく、1〜60μmがさらに好ましい。ここで、パラジウムイオンは、各種塩として水溶液に配合することができる。ここで用いる各種塩の種類は、特に限定されない。一般的には、硫酸塩、塩酸塩、オキシ塩酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、塩化物、酸化物、複合酸化物、錯塩等が好ましい。また、水溶液中のパラジウムイオンの含有割合は、得られるディーゼル酸化触媒粉末100において所望の含有割合となるように適宜調整することができ、特に限定されない。
【0048】
含浸処理後、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50℃以上200℃以下程度の温度で約1〜48時間程度、水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行うことができる。乾燥処理は、自然乾燥でもよいし、ドラム式乾燥機、減圧乾燥機、スプレードライ等の乾燥装置を使用してもよい。また、乾燥処理の際の雰囲気は、大気中、真空中、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中のいずれでもよい。なお、乾燥の前後に、さらに必要に応じて粉砕処理や分級処理等を行ってもよい。
【0049】
次に、上記の複合粒子形成工程S1の後、得られたパラジウム担持母材粒子(複合粒子31)に、再酸化剤41又はその前駆体を少なくとも含有する水溶液を含浸させて、当該複合粒子を再酸化剤41又はその前駆体で表面修飾する(表面修飾工程S2)。この第2の含浸処理により、再酸化剤41が複合粒子31の表面(母材粒子11の表面、触媒活性成分21であるパラジウムの表面)に高分散状態で吸着(付着)される。このとき、原料として再酸化剤41そのものを用いる場合、その平均粒子径D
50は、特に限定されないが、1〜150nmが好ましく、1〜120nmがより好ましく、1〜90mnがさらに好ましい。また、原料として再酸化剤41の前駆体を用いる場合には、上述した各種塩として水溶液に配合することができる。ここで用いる各種塩の種類は、特に限定されない。一般的には、硫酸塩、塩酸塩、オキシ塩酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、塩化物、酸化物、複合酸化物、錯塩等が好ましい。また、水溶液中の再酸化剤41又はその前駆体の含有割合は、得られるディーゼル酸化触媒粉末100において所望の含有割合となるように適宜調整することができ、特に限定されない。
【0050】
含浸処理後、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50℃以上200℃以下程度の温度で約1〜48時間程度、水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行うことができる。乾燥処理は、自然乾燥でもよいし、ドラム式乾燥機、減圧乾燥機、スプレードライ等の乾燥装置を使用してもよい。また、乾燥処理の際の雰囲気は、大気中、真空中、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中のいずれでもよい。なお、乾燥の前後に、さらに必要に応じて粉砕処理や分級処理等を行ってもよい。
【0051】
次いで、熱処理又は化学処理し、母材粒子11の表面11aに高分散状態で吸着(付着)されたパラジウムを酸化数1〜6のパラジウムとすることで、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100を得ることができる(パラジウム形成工程S3)。このとき、通常は、比較的に安定な酸化パラジウム(Pd
2O、PdO)とすることが好ましい。また、原料として再酸化剤41の前駆体を用いた場合には、このパラジウム形成工程S3において、再酸化剤41の前駆体から再酸化剤41を形成することが好ましい。
【0052】
熱処理条件は、常法にしたがえばよく、特に限定されない。加熱手段は、特に限定されず、例えば電気炉やガス炉等の公知の機器を用いることができる。焼成雰囲気は、酸化性雰囲気、大気雰囲気、還元性雰囲気のいずれでもよく、酸化性雰囲気、大気雰囲気が好ましい。焼成温度及び処理時間は、所望性能によって変動するが、白金族元素の触媒活性成分21の生成及び生産性等の観点からは、一般的には、500℃以上1100℃以下で0.1〜12時間が好ましく、より好ましくは550℃以上800℃以下で0.5〜6時間である。
【0053】
また、上記熱処理に代えて、或いは上記熱処理とともに化学処理を行うこともできる。例えば、上記蒸発乾固法における含浸処理の後に、塩基性成分を用いてパラジウムイオンを母材粒子11の表面11aで加水分解させてもよい。ここで用いる塩基性成分は、アンモニア、エタノールアミン等のアミン類、苛性ソーダ、水酸化ストロンチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物が好ましい。これらの熱処理や化学処理により、ナノオーダーサイズに高分散したパラジウムが、母材粒子11の表面11aに生成される。
【0054】
なお、上記の典型例では、複合粒子形成工程S1、表面修飾工程S2、及びパラジウム形成工程S3をこの順に行ったが、各工程の順序はこれに限定されるものではない。例えば、複合粒子形成工程S1、パラジウム形成工程S3、及び表面修飾工程S2の順に行うこともできる。また、表面修飾工程S2、複合粒子形成工程S1、及びパラジウム形成工程S3の順に行うこともできる。さらには、複合粒子形成工程S1を行った後、表面修飾工程S2及びパラジウム形成工程S3を同時に行うこともできる。
【0055】
かくして得られるディーゼル酸化触媒粉末100は、触媒粒子の集合体である粉末のまま使用することができ、また、当業界で公知の触媒や助触媒や触媒担体、当業界で公知の添加剤と混合して使用することができる。このとき、他の触媒(主触媒)とともに助触媒としてディーゼル酸化触媒粉末100を用いたり、ディーゼル酸化触媒粉末100に他の触媒(助触媒)を併用したりすることができる。すなわち、ディーゼル酸化触媒粉末100の使用態様は、特に限定されず、当業界で公知の態様で使用可能である。さらに、ディーゼル酸化触媒粉末100は、これを含む組成物を予め調製し、これを任意の所定形状に成形して、例えば粒状やペレット状の成形体(成形触媒)として使用することもできる。なお、成形体の作製時には、各種公知の分散装置、混練装置、成形装置を用いることができる。ここで成形体として用いる場合、成形体中のディーゼル酸化触媒粉末100の含有量は、特に限定されないが、総量に対して10質量%以上99質量%以下が好ましく、より好ましく20質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上99質量%以下である。
【0056】
さらに、ディーゼル酸化触媒粉末100を触媒担体に保持(担持)させて、一体構造型排ガス浄化用触媒として使用することもできる。ここで用いる触媒担体としては、当業界で公知のものを適宜選択することができる。代表的には、コージェライト、シリコンカーバイド、窒化珪素等のセラミックモノリス担体、ステンレス製等のメタルハニカム担体、ステンレス製等のワイヤメッシュ担体、スチールウール状のニットワイヤ担体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、その形状も、特に限定されず、例えば角柱状、円筒状、球状、ハニカム状、シート状等の任意の形状を選択可能である。これらは、1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0057】
併用可能な公知の触媒や助触媒や触媒担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化プラセオジム等の金属酸化物乃至は金属複合酸化物;ペロブスカイト型酸化物;シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−ボリア等のアルミナを含む複合酸化物;バリウム化合物、ゼオライト等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、併用する触媒や助触媒や触媒担体の使用割合は、要求性能などに応じて適宜設定でき、特に限定されないが、総量に対して合計で0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、合計で0.05質量%以上10質量%以下がより好ましく、合計で0.1質量%以上8質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
また、併用可能な添加剤としては、各種バインダー、非イオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤等の分散安定化剤、pH調整剤、粘度調整剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。バインダーとしては、アルミナゾル、チタニアゾル、シリカゾル、ジルコニアゾル等の種々のゾルが挙げられるが、これらに特に限定されない。また、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸チタン、酢酸チタン、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等の可溶性の塩もバインダーとして使用することができる。その他、酢酸、硝酸、塩酸、硫酸等の酸も、バインダーとして使用することができる。なお、バインダーの使用量は、特に限定されず、成形体の維持に必要な程度の量であれば構わない。なお、上述した添加剤の使用割合は、要求性能などに応じて適宜設定でき、特に限定されないが、総量に対して合計で0.01〜20質量%が好ましく、合計で0.05〜10質量%がより好ましく、合計で0.1〜8質量%がさらに好ましい。
【0059】
上記のようにして得られるディーゼル酸化触媒粉末100に、必要に応じて、貴金属元素や白金族元素をさらに担持させてもよい。貴金属元素や白金族元素の担持方法は、公知の手法を適用でき、特に限定されない。例えば、貴金属元素や白金族元素を含む塩の溶液を調製し、ディーゼル酸化触媒粉末100にこの含塩溶液を含浸させ、必要に応じて乾燥処理を行った後、焼成することにより、貴金属元素や白金族元素の担持を行うことができる。含塩溶液としては、特に限定されないが、硝酸塩水溶液、ジニトロジアンミン硝酸塩溶液、塩化物水溶液等が好ましい。また、焼成処理も、特に限定されないが、500℃以上1100℃以下で0.1〜12時間が好ましく、より好ましくは550℃以上800℃以下で0.5〜6時間である。350℃以上1000℃以下で約1〜12時間が好ましい。
【0060】
本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100は、一体構造型排ガス浄化用触媒の触媒層に配合して用いることができる。この一体構造型排ガス浄化用触媒は、触媒担体とこの触媒担体の少なくとも一方の面側に設けられた触媒層とを少なくとも備える積層構造の触媒部材である。このような構成を採用することで、装置への組み込みが容易となる等、種々の用途への適用可能性が増大する。例えば排ガス浄化用途においては、触媒担体としてハニカム構造担体等を用い、ガス流が通過する流路内にこの一体構造型積層触媒部材を設置し、ハニカム構造担体のセル内にガス流を通過させることで、高効率に排ガス浄化を行うことができる。
【0061】
ここで、本明細書において、「触媒担体の少なくとも一方の面側に設けられた」とは、触媒担体の一方の面と触媒層との間に任意の他の層(例えばプライマー層、接着層等)が介在した態様を包含する意味である。すなわち、本明細書において、「一方の面側に設ける」とは、触媒担体と触媒層とが直接載置された態様、触媒担体と触媒層とが任意の他の層を介して離間して配置された態様の双方を含む意味で用いている。また、触媒層は、触媒担体の一面のみに設けられていても、複数の面(例えば、一方の主面及び他方の主面等)に設けられていてもよい。
【0062】
このような一体構造型排ガス浄化用触媒は、例えば、上述したセラミックモノリス担体等の触媒担体に、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100を含有する触媒層を設けることで実施可能である。また、一体構造型排ガス浄化用触媒の触媒エリアは、触媒層が1つのみの単層であっても、2以上の触媒層からなる積層体であっても、1以上の触媒層と当業界で公知の1以上の他の層とを組み合わせた積層体のいずれでもよい。例えば、一体構造型排ガス浄化用触媒が触媒担体上に酸素貯蔵層及び触媒層を少なくとも有する多層構成の場合には、少なくとも、その触媒層に本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100を含有させることで、浄化性能に優れる一体構造型排ガス浄化用触媒とすることができる。ここで、排気ガス規制の強化の趨勢を考慮すると、層構成は、2層以上が好ましい。
【0063】
上述した層構成を有する一体構造型排ガス浄化用触媒は、常法にしたがい製造することができる。例えば、上述したディーゼル酸化触媒粉末100を触媒担体の表面に被覆(担持)させることで得ることができる。触媒担体へのスラリー状混合物の付与方法は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。各種公知のコーティング法、ウォッシュコート法、ゾーンコート法を適用することができる。そして、スラリー状混合物の付与後においては、常法にしたがい乾燥や焼成を行うことにより、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末を含有する触媒層を備える一体構造型排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0064】
具体例としては、例えば、上述したディーゼル酸化触媒粉末100と水系媒体と必要に応じて当業界で公知のバインダー、他の触媒、助触媒、OSC材、各種母材粒子、添加剤等とを所望の配合割合で混合してスラリー状混合物を調製し、得られたスラリー状混合物をハニカム構造担体等の触媒担体の表面に付与し、乾燥及び焼成することで、上述した層構成を有する一体構造型排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0065】
スラリー状混合物の調製時に用いる水系媒体は、スラリー中で排ガス浄化用触媒が均一に分散できる量を用いればよい。このとき、必要に応じてpH調整のための酸や塩基を配合したり、粘性の調整やスラリー分散性向上のための界面活性剤や分散用樹脂等を配合したりすることができる。上述したディーゼル酸化触媒粉末を支持体に強固に付着させ或いは結合させる観点からは、上述したバインダー等を用いることが好ましい。また、スラリーの混合方法としては、ボールミル等による粉砕混合等、公知の粉砕方法又は混合方法を適用することができる。
【0066】
触媒担体上にスラリー状混合物を付与した後においては、常法にしたがい乾燥や焼成を行うことができる。なお、乾燥温度は、特に限定されないが、例えば70〜200℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。また、焼成温度は、特に限定されないが、例えば300〜650℃が好ましく、400〜600℃がより好ましい。このとき用いる加熱手段については、例えば電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行うことができる。
【0067】
なお、上述した一体型構造型触媒において、触媒層の層構成は、単層、複層のいずれでもよいが、自動車排ガス用途の場合には、排気ガス規制の強化の趨勢等を考慮し触媒性能を高める観点からは、二層以上の積層構造が好ましい。このとき、上述したディーゼル酸化触媒粉末100の総被覆量は、特に限定されないが、触媒性能や圧損のバランス等の観点から、20〜350g/Lが好ましく、50〜300g/Lがより好ましい。
【0068】
上述したディーゼル酸化触媒粉末100は、例えばディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、ジェットエンジン、ボイラー、ガスタービン等の排ガスを浄化するための触媒として用いることができ、内燃機関の排ガス浄化用触媒、とりわけ自動車のディーゼル酸化触媒粉末として有用である。
【0069】
また、上述した一体構造型排ガス浄化用触媒は、各種エンジンの排気系に配置することができる。一体構造型排ガス浄化用触媒の設置個数及び設置箇所は、排ガスの規制に応じて適宜設計できる。例えば、排ガスの規制が厳しい場合には、設置箇所を2以上とし、設置箇所は排気系の直下触媒の後方の床下位置に配置することができる。そして、本実施形態のディーゼル酸化触媒粉末100を含有する触媒組成物や一体構造型排ガス浄化用触媒によれば、低温での始動時のみならず、高温での高速走行時を含む種々の走行仕様において、CO、HC、NOxの浄化反応に優れた効果を発揮することができる。
【実施例】
【0070】
以下に試験例、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0071】
[母材粒子の平均粒子径D
50]
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100)を用いて、母材粒子の粒度分布を測定し、そのメディアン径を母材粒子の平均粒子径D
50とした。
【0072】
[再酸化剤の平均粒子径D
50]
動的光散乱・光子相関法装置(HORIBA社製、SZ-100)を用いて、再酸化剤の粒度分布を測定し、そのメディアン径を再酸化剤の平均粒子径D
50とした。
【0073】
[パラジウムの平均粒子径]
透過型電子顕微鏡(STEM; HD-2000、Hitachi High-Technologies)を用い、耐久処理後のディーゼル酸化触媒粉末の倍率1万倍のSTEM画像において、無作為に抽出した200点の平均値を算出し、パラジウムの平均粒子径とした。
【0074】
[BET比表面積の測定]
BET比表面積は、比表面積/細孔分布測定装置(商品名:BELSORP-mini II、マイクロトラック・ベル株式会社製)及び解析用ソフトウェア(商品名:BEL_Master、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、BET一点法により、母材粒子のBET比表面積を求めた。
【0075】
(実施例1)
母材粒子として、セリアジルコニア複合酸化物(CZ母材粒子と記載、CeO
2:30質量%、ZrO
2:55質量%、残部不可避不純物、D
50=2μm、BET比表面積:80m
2/g)を用いた。
次に、硝酸パラジウム(II)溶液(Pd換算で25質量%含有)を調製し、上記CZ母材粒子にこの硝酸パラジウム(II)溶液を含浸させ、その後に乾燥処理を十分に行って、Pd担持複合粒子を得た。
別途、再酸化剤(アナターゼ型チタニゾル、平均粒子径D
50:50nm)を希釈した再酸化剤含有液(TiO
2換算の固形分濃度:20質量%)を調製し、得られたPd担持複合粒子4.95gにこの再酸化剤含有液0.25gを含浸させ、その後に乾燥処理を十分に行って、表面修飾Pd担持複合粒子を得た。
その後、得られた表面修飾Pd担持複合粒子に、600℃で30分間の熱処理を施すことで、実施例1のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%、再酸化剤の担持量:1.0質量%)を得た。
しかる後、得られたパウダー触媒を炉内で静置し、大気雰囲気下で800℃20時間の耐久処理を行うことにより、耐久処理後の実施例1のディーゼル酸化触媒粉末を得た。
【0076】
(実施例2)
再酸化剤含有液中の配合量を5倍量に変更する以外は、実施例1と同様に行って、実施例2のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%、再酸化剤の担持量:5.0質量%)を得た。
その後、実施例1と同様に耐久処理を行うことにより、耐久処理後の実施例2のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%、再酸化剤の担持量:5.0質量%)を得た。
【0077】
(実施例3)
再酸化剤含有液中の配合量を10倍量に変更する以外は、実施例1と同様に行って、実施例3のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%、再酸化剤の担持量:10.0質量%)を得た。
その後、実施例1と同様に耐久処理を行うことにより、耐久処理後の実施例3のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%、再酸化剤の担持量:10.0質量%)を得た。
【0078】
(比較例1)
再酸化剤含有液による表面修飾処理を省略する以外は、実施例1と同様に行って、比較例1のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%)を得た。
その後、実施例1と同様に耐久処理を行うことにより、耐久処理後の比較例1のディーゼル酸化触媒粉末(Pd換算の担持量:1.0質量%)を得た。
【0079】
<DRIFTS分析>
耐久処理後の実施例1及び比較例1のディーゼル酸化触媒粉末を用いてFR−IR測定を行い、パラジウム上のCO吸着状態を観察した。ここでは、Agilent Technologies社製のCary 600 Series FTIR Spectrometerを用いて測定した。
図4にDRIFTS分析手順を示すとともに、使用ガスを以下に示す。
<使用ガス>
COガス:0.2%
O
2 ガス:5%
Heガス:バランス
【0080】
図5に、比較例1のDRIFTS測定結果を示す。
図5に示すとおり、CO吸着処理20分後には、Pd
2+−COのLinear型吸着に起因する2140cm
-1のピーク及びPd
+−COのLinear型吸着に起因する2100cm
-1のピークが支配的であったが、CO吸着処理30分後には、これらのLinear型吸着ピークは減少し、それに代わり(Pd
0)
2−COのBridge型吸着に起因する1980cm
-1のピークが出現している。これは、COからCO
2への酸化反応が顕著に進行し始め、これにともないPd
2+及びPd
+がPd
0に還元されて、時間の経過とともに(Pd
0)
2−COのBridge型吸着が増加しているためと考えられる。
【0081】
図6に、実施例1及び比較例1のDRIFTS測定結果を示す。
図6に示すとおり、再酸化剤で表面修飾した実施例1においては、そうでない比較例1に比して、Pd
2+−COのLinear型吸着に起因する2140cm
-1のピーク及びPd
+−COのLinear型吸着に起因する2100cm
-1のピークが大きいことが確認された。また、再酸化剤で表面修飾した実施例1においては、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着に起因する1980cm
-1のピークは観察されなかった。これらのことから、再酸化剤による表面修飾により、COの酸化反応にともなって生成したPd
0においては、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着が生じるよりも、Pd
2+及びPd
+への酸化が速度論的に優位に行われ、その結果、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着がほとんど生じなかったと考えられる。
【0082】
また、
図7に、50℃30分のCO吸着処理後、昇温速度5℃/分で200℃まで昇温した際のDRIFTS測定結果を示す。
図7から明らかなように、Pd
2+−COのLinear型吸着に起因する2140cm
-1のピーク及びPd
+−COのLinear型吸着に起因する2100cm
-1のピークは、温度上昇とともに小さくなることが確認された。また、温度上昇させても、(Pd
0)
2−COのBridge型吸着に起因する1980cm
-1のピークは観察されなかった。
【0083】
<パウダー触媒のライトオフ試験>
実施例1〜3及び比較例1のパウダー触媒を用いて、CO浄化率のライトオフ性能を確認した。ここでは、得られた各パウダー触媒を炉内で静置して大気雰囲気下で800℃20時間の耐久処理を行うことにより得られた、耐久処理後の実施例1〜3及び比較例1のディーゼル酸化触媒粉末50mgをサンプルとして用いた。そして、各サンプルを500℃のHe流中に10分間静置した後、下記のモデルガスを供給し、80℃まで冷却した後、昇温速度15度/分で500℃まで昇温しながら、モデルガスリアクター(TPD Type-R, Rigaku)を用いてCO及びHCの濃度を測定した。測定結果を、
図8に示す。また、実施例1のパウダー触媒を、750℃20時間、850℃20時間、900℃20時間でそれぞれ耐久処理したサンプルを作製し、同様にライトオフ試験を行い、このときのCOライトオフ性能(浄化率が50%に達する温度)を測定した。ここで、COT50とは、COの50%が浄化された時の触媒床温度を意味する。測定結果を、
図9に示す。
【0084】
[モデルガス]
COガス :1000ppm
C
5H
12ガス: 300ppm
NO
ガス : 200ppm
O
2ガス :5%
H
2O :2%
Heガス :バランス
モデルガス流量:300 ml/min
【0085】
[モデルガス評価装置]
モデルガス評価装置:Rigaku社製TPD Type-R
分析計 :ANELVA社製QUADRUPOLE MASS SPECTROMETER M-200QA
【0086】
<実機試験>
実施例1及び比較例1のパウダー触媒を用いて、CO浄化率を測定した。ここでは、得られた各パウダー触媒を炉内で静置して大気雰囲気下で700℃40時間の耐久処理を行うことにより得られた、耐久処理後の実施例1及び比較例1のディーゼル酸化触媒粉末をサンプルとして用い、以下の手順で、ハニカム担体上に、第1触媒層及び第2触媒層をこの順に備える、実施例1及び比較例1のフロースルー型の一体構造型触媒をそれぞれ作製した。
【0087】
まず、白金アンミン塩水溶液と硝酸パラジウム水溶液とをPt及びPd質量換算で75質量部及び25質量部量り取り、白金とパラジウムの質量比が3:1となるよう、平均粒子径(D
50)が30μmのγ−アルミナ粉末(BET比表面積130m
2/g、細孔径20nm、)4000質量部に、白金及びパラジウムを含浸させ、第1触媒層を形成するための1.8質量%Pt及び0.6質量%Pd担持アルミナ粉末を得た。得られたPt及びPd担持アルミナ粉末1000質量部、界面活性剤3質量部、及びpH調整剤60質量部をボールミルに投入し、純水で希釈して、Pt及びPd担持アルミナ粉末の平均粒子径D
50が7μmになるまでミリングして、第1触媒層を形成するためのスラリーA(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0088】
次に、上記の各パウダー触媒1000質量部、HCトラップ用のベータ型ゼオライト400質量部、及びpH調整剤20質量部をボールミルに投入し、純水で希釈して、各パウダー触媒の平均粒子径D
50が6μmになるまでミリングして、第2触媒層を形成するためのスラリーB(固形分濃度:30質量%)を得た。
【0089】
次いで、コージェライト製のフロースルー型ハニカム構造体を用意した。上記触媒Aをウォッシュコート法によりハニカム構造体上に塗布し、150℃1時間で乾燥させた後、大気雰囲気下450℃で焼成して、第1触媒層を形成した。次に、スラリーBをウォッシュコート法によりハニカム構造体の第1触媒層上に塗布し、第1触媒層と同様の条件で乾燥及び焼成して、第2触媒層を形成した。その後、得られた積層体を耐久炉内に静置し、高温曝露処理(耐久処理)を行い、ハニカム担体上に第1触媒層及び第2触媒層をこの順に備える、実施例1及び比較例1の一体構造型触媒をそれぞれ得た。なお、高温曝露処理としては、大気雰囲気下で700℃40時間の熱処理を行った。
〔ハニカム担体〕
ハニカム担体:コージェライト製のフロースルー型ハニカム基材
2.0 L, 62 cells/cm
2, 壁厚:0.1 mm
触媒担持量 :ハニカム担体に対し、PGMの金属換算で4.8 g/unit
【0090】
得られたそれぞれ一体構造型触媒の浄化性能を、HORIBA社製のガス分析装置及びデュアルアナライザセットを取り付けたターボチャージディーゼルエンジン(2.2L)を備えるエンジンダイナモメータを用いて、新型欧州運転サイクル(NEDC)モードにより測定した。測定結果を
図10に示す。
【0091】
図8〜
図10から明らかなとおり、再酸化剤で表面修飾された実施例1のディーゼル酸化触媒粉末及び一体構造型触媒は、そうでない比較例1に比して、CO浄化性能が向上していること及び低温浄化性能に優れていることが確認された。