【解決手段】モータ140と、ラック軸130と、動力伝達機構1と、を備えるパワーステアリング装置100であって、動力伝達機構1は、外周面に第1ねじ溝12が形成されたねじ棒11と、内周面に第2ねじ溝31が形成されたナット20と、転動路15を転動する複数のボール58と、受動プーリ70と、を備え、ナット20は、内部に循環路32の形成されたナット本体30と、左端側のナット左端部40と、を備え、受動プーリ70は、モータ140からの動力が入力されるプーリ本体71と、左端側のプーリ左端部80と、を備え、ナット左端部40の外周面には凸条41が形成され、プーリ左端部80の内周面には凸条41に係合する凹溝81が形成され、中心軸線O1から凸条41の頂点までの第1長さL1は、中心軸線O1から循環路32までの第2長さL2よりも短い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について
図1〜
図3を参照して説明する。
【0011】
≪パワーステアリング装置の構成≫
本実施形態に係るパワーステアリング装置100は、電動式のモータ140の発生するアシスト力(動力)が、ラック軸130に入力されるラックアシスト型である。
【0012】
パワーステアリング装置100は、ステアリングホイール110と、ステアリング軸120と、ラック軸130と、モータ140と、モータ140のアシスト力をラック軸130に伝達する動力伝達機構1と、角度センサ191等と、ECU200(Electronic Control Unit)と、を備えている。
【0013】
ステアリングホイール110は、運転者が操作する操作部材である。
【0014】
ステアリング軸120は、細長の円筒状部材であり、軸受(図示しない)を介して車体に回転自在に支持されている。ステアリング軸120の上端は、ステアリングホイール110に連結されており、ステアリング軸120とステアリングホイール110は一体で回転する。
【0015】
ステアリング軸120の下端にはピニオンギヤ121が形成されており、ピニオンギヤ121は後記するラック132に噛合している。ステアリング軸120の中間には周方向に捩れるトーションバー(図示しない)が設けられており、トーションバーは操作トルクに対応して捩れるようになっている。
【0016】
ラック軸130は、車幅方向に延びる細長の棒状部材であって、スライドすることで前輪302を操舵する部材である。ラック軸130は、ブッシュ(図示しない)を介して円筒状のハウジング131(
図2参照)にスライド自在で収容されている。ラック軸130には、ラック132が形成されている。
【0017】
ラック軸130の両端には、ラックエンド133がそれぞれ固定されている。各ラックエンド133は、タイロッド301を介して、前輪302(操舵輪)に連結されている。そして、ラック軸130が車幅方向にスライドすると前輪302、302が操舵されるようになっている。
【0018】
モータ140は、ECU200からの指令に従って、アシスト力を発生する電動式のモータである。ただし、油圧式のモータでもよい。
【0019】
角度センサ191は、ステアリング軸120の操作角度を検出し、ECU200に出力するようになっている。トルクセンサ192は、運転者からステアリング軸120に入力された操作トルクを検出し、ECU200に出力するようになっている。車速センサ193は、車速を検出し、ECU200に出力するようになっている。
【0020】
ECU200は、パワーステアリング装置100を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されており、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機器を制御し、各種処理を実行するようになっている。
【0021】
具体的には、ECU200は、操作角度、操作トルク及び車速に基づいて、モータ140を駆動させるようになっている。例えば、操作トルクが大きくなるにつれて、モータ140の駆動トルクが大きくなる関係となっている。
【0022】
≪動力伝達機構≫
動力伝達機構1は、モータ140のアシスト力をラック軸130に伝達する機構である。動力伝達機構1は、ベルト機構60と、ボールねじ10と、を備えている。
【0023】
<ベルト機構>
ベルト機構60は、モータ140のアシスト力(回転力)を後記するナット20に伝達する機構である。ベルト機構60は、モータ140の出力軸に固定された駆動プーリ61と、ナット20に固定された受動プーリ70(スリーブ)と、駆動プーリ61及び受動プーリ70に掛け渡されたベルト62と、を備えている。受動プーリ70については後で詳細に説明する。
【0024】
<ボールねじ>
ボールねじ10は、モータ140からの回転力を車幅方向の直線運動に変換する変換機構である。ボールねじ10は、ねじ棒11と、ナット20と、複数のボール58(転動子)と、を備えている。
【0025】
<ねじ棒>
ねじ棒11は、ラック軸130と一体である棒状部分であり、中心軸線O1を中心としている。ねじ棒11は、本実施形態では、ラック軸130の一部が加工されることで構成されていが、別部材であるねじ棒11がラック軸130に連結された構成でもよい。ねじ棒11の外周面には、断面が半円状である第1ねじ溝12が螺設されている。
【0026】
<ナット>
ナット20は、ねじ棒11を中心として、ねじ11を囲むよう配置された円筒状の部材である。ナット20は、ナット本体30と、ナット本体30の左端側(一端側)に形成されたナット左端部40(ナット一端部)と、ナット本体30の右端側(他端側)に形成されたナット右端部50と、を備えている。
【0027】
ナット本体30の内周面には、断面が半円状である第2ねじ溝31が螺設されている。第2ねじ溝31は、第1ねじ溝12とでボール58の転動する断面が円形の転動路15を構成している。
【0028】
ナット本体30の内部、詳細には、外周面に開口すると共に軸方向に延びる循環路32が形成されている。循環路32は、転動路15の両端を連通させ、転動路15を経由するようにボール58を循環させる通路である。なお、循環路32の径方向外側の開口は、受動プーリ70で閉じられている。
【0029】
循環路32の左側、右側には、デフレクタ22がそれぞれ設けられている。各デフレクタ22は、循環路32と転動路15との間でボール58を授受し案内する部材である。すなわち、デフレクタ22は、転動路15からボール58を掬い上げて循環路32に案内したり、循環路32からのボール58を転動路15に案内したりする。
【0030】
ナット左端部40及びナット右端部50は、ナット本体30よりも薄肉で形成されており、ナット20の外周面は、ナット本体30とナット左端部40又はナット右端部50との境界部分において段違いとなっている。
【0031】
ナット左端部40の外周面には、径方向外向きに突出すると共に軸方向に延びる1本の凸条41(凸部)が形成されている(
図3参照)。本実施形態では、周方向において、凸条41と循環路32とは同一位置に形成されている。すなわち、凸条41と循環路32とは同一位相となっている。
【0032】
凸条41は後記する凹溝81(凹部)に圧入嵌合し、凸条41と凹溝81とは、周方向において係合すると共に、軸方向においてずれ難くなっている。これにより、ナット20は受動プーリ70と一体で回転するようになっている。なお、ナット左端部40も、後記するプーリ左端部80内に圧入されており、ナット20及び受動プーリ70は、軸方向においてずれ難くなっている。そして、ナット左端部40には、プーリ左端部80の脱落を防止するC字形のクリップ49が取り付けられている。
【0033】
ナット右端部50は、自動調心式であってシールド付きの玉軸受51で回転自在に支持されている。玉軸受51の内輪51aには、ナット右端部50に螺合したロックナット52が当接しており、玉軸受51は位置決めされている。玉軸受51の外輪51bは、ハウジング131に内嵌している。
【0034】
<ボール>
ボール58は、ねじ棒11とナット20との間に形成された転動路15を転動することで、ねじ棒11とナット20との相対回転を容易としている。なお、
図2において、ボール58は循環路32に1個のみ記載し、その他を省略している。
【0035】
<受動プーリ>
ベルト機構60の受動プーリ70について説明する。受動プーリ70は、ナット20を中心として、ナット20を囲むよう配置された円筒状の部材である。受動プーリ70は、
プーリ本体71(スリーブ本体)と、プーリ本体71の左端側(一端側)に形成されたプーリ左端部80(スリーブ一端部)と、を備えている。
【0036】
プーリ本体71は、ナット本体30の外側に配置された部分である。プーリ本体71にはベルト62が掛け渡されており、プーリ本体71にモータ140からの動力が入力されるようになっている。プーリ本体71の外周面には、ベルト62を軸方向において規制する断面L字形を呈する環状の規制部材72、72が固定されている。
【0037】
プーリ左端部80はプーリ本体71よりも厚肉で形成されており、プーリ左端部80の内周面はプーリ本体71の内周面よりも径方向内側(中心軸線O1側)に突出している。すなわち、受動プーリ70の内周面は、プーリ本体71とプーリ左端部80との境界部分において段違いとなっている。
【0038】
プーリ左端部80の内周面には、軸方向に延びる1本の凹溝81(凹部)が形成されている(
図3参照)。凹溝81には前記したように凸条41が嵌合しており、凹溝81は凸条41と係合している。
【0039】
中心軸線O1から凸条41の頂点までの第1長さL1は、中心軸線O1から循環路32の天壁面(径方向外側端)までの第2長さL2よりも短く構成されている。すなわち、径方向において、凸条41と凹溝81との係合位置は、循環路32よりも径方向内側となっている。
【0040】
≪パワーステアリング装置の作用効果≫
パワーステアリング装置100の作用効果を説明する。
ナット20の凸条41と受動プーリ70の凹溝81とが、軸方向において、循環路32とずれた位置で係合しているので、ナット本体30において循環路32の径方向外側に受動プーリ70との被係合部は不要となる。これにより、ナット20と受動プーリ70の外径は、特許文献1よりも小径となる。
【0041】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0042】
前記した実施形態では、動力伝達機構1がモータ140の回転力をナット20に伝達する機構としてベルト機構60を備える構成を例示したが、その他に例えば、チェーンを介して動力を伝達するチェーン機構を備える構成でもよい。チェーン機構は、モータ140の出力軸に固定された駆動スプロケットと、ナット20に固定された受動スプロケット(スリーブ)と、駆動スプロケット及び受動スプロケットに掛け渡されたチェーンと、を備えて構成される。
【0043】
その他に例えば、動力伝達機構1がギヤ機構を備える構成としてもよい。ギヤ機構は、モータ140の出力軸に固定された駆動ギヤと、駆動ギヤに噛合するとともにナット20に固定された受動ギヤ(スリーブ)と、を備えて構成される。
【0044】
前記した実施形態では、周方向において、凸条41及び凹溝81と、循環路32とは同一位置(同一位相)である構成を例示したが、凸条41及び凹溝81の位置は変更自由である。例えば、凸条41及び凹溝81が、循環路32の180°反対側に形成された構成でもよい。
【0045】
前記した実施形態では、1本の凸条41と1本の凹溝81とが係合する構成を例示したが、凸条41及び凹溝81の本数は変更自由である。すなわち、パワーステアリング装置100は、少なくとも1つ以上の凸条41(凸部)と、少なくとも1つ以上の凹溝81(凹部)と、を備え、これらがそれぞれ嵌合し、周方向において係合する構成であればよい。
【0046】
具体的に例えば、
図4に示すように、4つの凸条41及び凹溝81を周方向において等間隔(90°)で備える構成としてもよい。また、
図5に示すように、ナット左端部40の外周面にセレーション軸部42が形成され、プーリ左端部80の内周面にセレーション孔部82が形成され、ナット左端部40とプーリ左端部80とがセレーション結合した構成でもよい。この場合、セレーション軸部42は複数の凸部を備え、セレーション孔部82が複数の凹部を備え、複数の凸部と複数の凹部とは嵌合し、周方向において係合している。
【0047】
前記した実施形態では、
図3に示すように、周方向における凸条41の幅は狭めで、中心軸線O1を中心とした場合における凸条41の中心角が10°程度である構成を例示したが、凸条41の幅は変更自由である。例えば、凸条41の幅が半円弧以上である構成、つまり、凸条41の中心角が180°以上である構成でもよい。凹溝81についても同様である。
【0048】
前記した実施形態では、パワーステアリング装置100が、ステアリングホイール110とラック軸130とが機械的に連結された構成を例示したが、その他に例えば、機械的に連結されていないSBW(Steer By Wire、ステアバイワイヤ)方式である構成でもよい。