前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、および、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体である請求項1または2に記載のフッ素樹脂材料。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示のフッ素樹脂材料は、溶融加工性のフッ素樹脂を含有する。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01〜500g/10分であることが通常である。
【0015】
特許文献1に記載されているように、溶融加工可能なテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体や、テトラフルオロエチレン/(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体などは、ヘキサフルオロプロピレンや(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)が共重合されているため双極子モーメントが大きくなり、その分、周波数の高いマイクロ波領域では電気特性の低下が顕著に現れてしまう。
【0016】
しかしながら、溶融加工性のフッ素樹脂に対して、適切な照射条件で放射線を照射すると、特異な比誘電率および誘電正接を有するフッ素樹脂材料が得られること、あわせて、このような比誘電率および誘電正接を有するフッ素樹脂材料を用いると、従来の溶融加工性のフッ素樹脂に比べて、高周波信号の減衰率が大きく低減することが、見出された。本開示のフッ素樹脂材料は、この知見に基づき完成された。
【0017】
本開示のフッ素樹脂材料は、12GHzにおける比誘電率が2.1以下であり、誘電正接が0.00030以下である。
【0018】
本開示のフッ素樹脂材料の比誘電率は、2.1以下であり、好ましくは2.10以下であり、より好ましくは2.08以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは1.80以上である。
【0019】
本開示のフッ素樹脂材料の誘電正接は、0.00030以下であり、好ましくは0.00020以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは0.00001以上である。
【0020】
上記比誘電率および誘電正接は、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、共振周波数および電界強度の変化を20〜25℃の温度下で測定して得られる値である。
【0021】
本開示のフッ素樹脂材料に含有される上記フッ素樹脂の主鎖炭素数10
6個当たりの官能基数は、さらに優れた高周波電気特性が得られることから、好ましくは6個以下であり、より好ましくは4個以下であり、さらに好ましくは2個以下であり、特に好ましくは0個である。上記フッ素樹脂の官能基数は、放射線照射前のフッ素樹脂に放射線を照射することによりフッ素樹脂材料を製造する場合には、放射線照射後のフッ素樹脂の官能基数である。また、放射線照射前のフッ素樹脂の官能基数も上記範囲内にあることが好ましい。放射線照射により官能基が新たに生成することがあるが、この場合であっても、放射線照射により生成した官能基の数を含め、上記の官能基数の範囲内に調整することによって、さらに優れた高周波電気特性を得ることができる。また、放射線照射前のフッ素樹脂の官能基数が上記範囲内にあると、フッ素樹脂に放射線を照射した際に、官能基同士が架橋する反応が抑制され、高周波電気特性が向上するものと推測される。また、官能基数が上記範囲内にあると、上記フッ素樹脂を成形した際に、発泡などの成形不良が生じにくいという利点もある。
【0022】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0023】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記フッ素樹脂を330〜340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.25〜0.3mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記フッ素樹脂の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記フッ素樹脂における炭素原子1×10
6個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0024】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT−IR測定データから決定したものである。
【0026】
なお、−CH
2CF
2H、−CH
2COF、−CH
2COOH、−CH
2COOCH
3、−CH
2CONH
2の吸収周波数は、それぞれ表中に示す、−CF
2H、−COF、−COOH freeと−COOH bonded、−COOCH
3、−CONH
2の吸収周波数から数十カイザー(cm
−1)低くなる。
従って、たとえば、−COFの官能基数とは、−CF
2COFに起因する吸収周波数1883cm
−1の吸収ピークから求めた官能基数と、−CH
2COFに起因する吸収周波数1840cm
−1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0027】
上記官能基は、フッ素樹脂の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。上記官能基数は、−CF=CF
2、−CF
2H、−COF、−COOH、−COOCH
3、−CONH
2およびCH
2OHの合計数であってよい。
【0028】
上記官能基は、たとえば、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として−CH
2OHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、フッ素樹脂の主鎖末端に−CH
2OHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基がフッ素樹脂の側鎖末端に導入される。
【0029】
このような官能基を有するフッ素樹脂を、フッ素化処理することによって、上記範囲内の官能基数を有する上記フッ素樹脂を得ることができる。すなわち、本開示のフッ素樹脂材料に含有される上記フッ素樹脂は、フッ素化処理されたものであることが好ましい。また、本開示のフッ素樹脂材料に含有される上記フッ素樹脂は、−CF
3末端基を有することも好ましい。
【0030】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
【0031】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、F
2ガス、CoF
3、AgF
2、UF
6、OF
2、N
2F
2、CF
3OF、フッ化ハロゲン(例えばIF
5、ClF
3)等が挙げられる。
【0032】
上記F
2ガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5〜50質量%に希釈して使用することが好ましく、15〜30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0033】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20〜220℃、より好ましくは100〜200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1〜30時間、好ましくは5〜25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(F
2ガス)と接触させるものが好ましい。
【0034】
上記フッ素樹脂は、融点が190〜322℃であることが好ましい。上記融点としては、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは280℃以上であり、より好ましくは315℃以下である。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0035】
上記フッ素樹脂としては、溶融加工性のフッ素樹脂であれば特に限定されないが、さらに優れた高周波電気特性が得られることから、テトラフルオロエチレン単位(TFE単位)と(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位(PAVE単位)とを含有する共重合体(以下、TFE/PAVE共重合体(または、PFA)という)、および、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位(HFP単位)とを含有する共重合体(以下、TFE/HFP共重合体(または、FEP)という)からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がより好ましく、TFE/PAVE共重合体およびTFE/HFP/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、TFE/PAVE共重合体が特に好ましい。特に、上記フッ素樹脂がPAVE単位を含有する共重合体であると、優れた高周波電気特性を有すると同時に、比較的高い破断強度を有するフッ素樹脂材料が得られることから、好ましい。
【0036】
(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)は、フルオロアルキルビニルエーテルであっても、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)であってもよい。本開示において、「パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)」とは、C−H結合を含まないアルキルビニルエーテルである。
上記PAVE単位を構成するPAVEとしては、一般式(1):
CF
2=CFO(CF
2CFY
1O)
p−(CF
2CF
2CF
2O)
q−R
f (1)
(式中、Y
1はFまたはCF
3を表し、R
fは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0〜5の整数を表し、qは0〜5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCF
2OR
1 (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCF
3を表し、R
1は、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含んでいてもよい炭素数が1〜6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0037】
なかでも、上記PAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PPVEがさらに好ましい。
【0038】
上記TFE/PAVE共重合体におけるPAVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは1.0〜10質量%であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.5質量%以上であり、特に好ましくは4.0質量%以上であり、最も好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以下であり、さらに好ましくは7.0質量%以下であり、特に好ましくは6.5質量%以下であり、最も好ましくは6.0質量%以下である。なお、上記PAVE単位の量は、
19F−NMR法により測定する。上記TFE/PAVE共重合体は、TFE単位およびPAVE単位のみからなる共重合体であってよい。
【0039】
上記TFE/PAVE共重合体の融点は、好ましくは280〜322℃であり、より好ましくは290℃以上であり、より好ましくは315℃以下である。
【0040】
上記TFE/PAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70〜110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定して得られる値である。
【0041】
上記TFE/PAVE共重合体は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0042】
上記TFE/HFP共重合体は、TFE単位およびHFP単位を含有する。上記TFE/HFP共重合体にけるTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、好ましくは99.8質量%以下であり、より好ましくは99質量%以下であり、さらに好ましくは98質量%以下である。
【0043】
上記TFE/HFP共重合体は、TFE単位とHFP単位との質量比(TFE/HFP)が70〜99/1〜30(質量%)であることが好ましい。上記質量比(TFE/HFP)は、85〜95/5〜15(質量%)がより好ましい。
【0044】
上記TFE/HFP共重合体は、さらに、(パー)フルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)単位を含有することができる。上記TFE/HFP共重合体に含まれるPAVE単位としては、上述したPAVE単位と同様のものを挙げることができる。上述したTFE/PAVE共重合体は、HFP単位を含まないので、その点で、TFE/HFP/PAVE共重合体とは異なる。
【0045】
上記TFE/HFP共重合体が、TFE単位、HFP単位、および、PAVE単位を含む共重合体である場合(以下、「TFE/HFP/PAVE共重合体」ともいう)、質量比(TFE/HFP/PAVE)が70〜99.8/0.1〜25/0.1〜25(質量%)であることが好ましい。上記質量比(TFE/HFP/PAVE)は、75〜98/1.0〜15/1.0〜10(質量%)であることがより好ましい。上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、HFP単位およびPAVE単位を合計で1質量%以上含むことが好ましい。
【0046】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、HFP単位が全単量体単位の25質量%以下であることが好ましい。HFP単位の含有量は、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは18質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下である。また、HFP単位の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、特に好ましくは2質量%以上である。なお、HFP単位の含有量は、
19F−NMR法により測定することができる。
【0047】
PAVE単位の含有量は、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり。特に好ましくは3質量%以下である。また、PAVE単位の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。なお、PAVE単位の含有量は、
19F−NMR法により測定することができる。
【0048】
上記TFE/HFP共重合体は、さらに、他のエチレン性単量体(α)単位を含んでいてもよい。他のエチレン性単量体(α)単位としては、TFE、HFPおよびPAVEと共重合可能な単量体単位であれば特に限定されず、例えば、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、エチレン(ETFE)等の含フッ素エチレン性単量体や、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル等の非フッ素化エチレン性単量体等が挙げられる。他のエチレン性単量体(α)単位の含有量は、好ましくは0〜25質量%であり、より好ましくは0.1〜25質量%である。
【0049】
上記共重合体がTFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α)共重合体である場合、質量比(TFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α))は、70〜98/0.1〜25/0.1〜25/0.1〜25(質量%)であることが好ましい。上記TFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α)共重合体は、TFE単位以外の単量体単位を合計で1質量%以上含むことが好ましい。
【0050】
上記TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200〜322℃であり、より好ましくは200℃超であり、さらに好ましくは220℃以上であり、より好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは280℃以下である。
【0051】
上記TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60〜110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定して得られる値である。
【0052】
上記TFE/HFP共重合体は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、溶液重合や懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0053】
上記フッ素樹脂は、上記TFE/PAVE共重合体および上記TFE/HFP共重合体であることも好ましい。すなわち、上記TFE/PAVE共重合体と上記TFE/HFP共重合体とを混合して使用することも可能である。上記TFE/PAVE共重合体と上記TFE/HFP共重合体との質量比((A)/(B))は、好ましくは1/9〜7/3であり、より好ましくは5/5〜2/8である。
【0054】
上記混合物は、上記フッ素樹脂を2種以上混合して溶融混合(溶融混練)したり、乳化重合後の樹脂分散液を混合し、硝酸などの酸で凝析して樹脂を回収したりする等の公知の方法により調製するとよい。
【0055】
上記フッ素樹脂の372℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1〜100g/10分であり、より好ましくは0.5g/10分以上であり、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下である。MFRが上記範囲内にあると、さらに優れた高周波電気特性が得られるとともに、より一層優れた溶融加工性が得られる。MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0056】
本開示のフッ素樹脂材料の破断強度は、好ましくは13MPa以上であり、より好ましくは15MPa以上であり、上限は特に限定されないが、30MPa以下であってよく、25MPa以下であってよい。本開示のフッ素樹脂材料は、溶融加工により製造することが可能であると同時に、このような高い破断強度を有し得るものである。本開示のフッ素樹脂材料の破断強度が上記範囲内にあると、本開示のフッ素樹脂材料の破断強度を、高い機械的強度が要求される用途にも適用することができる。
【0057】
本開示のフッ素樹脂材料は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0058】
本開示のフッ素樹脂材料は、たとえば、放射線未照射のフッ素樹脂に対して、80〜240℃で、20〜100kGyの放射線を照射する工程を含む製造方法により製造できる。
【0059】
放射線の照射温度は、優れた高周波電気特性と高い破断強度とを両立させる観点から、80〜240℃であり、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは140℃以上であり、好ましくは220℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、さらに好ましくは180℃以下である。上記照射温度は、上記数値範囲内であって、かつ、放射線を照射する前のフッ素樹脂の融点未満であることが好ましい。
【0060】
上記照射温度の調整は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。具体的には、上記フッ素樹脂を所定の温度に維持した加熱炉内で保持する方法や、ホットプレート上に載せて、ホットプレートに内蔵した加熱ヒータに通電するか、外部の加熱手段によってホットプレートを加熱する等の方法が挙げられる。
【0061】
放射線の照射線量は、優れた高周波電気特性と高い破断強度とを両立させる観点から、20〜100kGyであり、好ましくは95kGy以下であり、より好ましくは80kGy以下であり、好ましくは30kGy以上であり、より好ましくは40kGy以上である。
【0062】
放射線としては、電子線、紫外線、ガンマ線、X線、中性子線、あるいは高エネルギーイオン等が挙げられる。なかでも、透過力が優れており、線量率が高く、工業的生産に好適である点で電子線が好ましい。
【0063】
放射線を照射する方法としては、特に限定されず、従来公知の放射線照射装置を用いて行う方法等が挙げられる。
【0064】
放射線の照射環境としては、特に制限されないが、酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましく、酸素不存在下であることがより好ましく、真空中、または、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気中であることが更に好ましい。
【0065】
上記のフッ素樹脂材料の製造方法は、放射線未照射のフッ素樹脂を成形する工程、または、放射線照射後のフッ素樹脂を成形する工程を、さらに含むことが好ましい。また、成形が容易であることから、放射線を照射する前にフッ素樹脂を成形しておくことが好ましい。すなわち、上記のフッ素樹脂材料の製造方法は、放射線未照射のフッ素樹脂を成形する工程をさらに含むことがより好ましい。上記のフッ素樹脂材料の製造方法が、これらの工程を含むことによって、所望の形状を有するフッ素樹脂材料を製造することができる。
【0066】
上記フッ素樹脂を成形する方法としては、上記フッ素樹脂を、融点以上に加熱して溶融させ、成形する方法が使用できる。上記フッ素樹脂を成形する方法としては、特に限定されず、押出成形、射出成形、トランスファー成形、インフレーション成形、圧縮成形等の公知の方法が挙げられる。これらの成形方法は、得られるフッ素樹脂材料の形状に応じて適宜選択すればよい。
【0067】
本開示のフッ素樹脂材料の形状は、特に限定されず、例えば、ペレット、フィルム、シート、板、ロッド、ブロック、円筒、容器、電線、チューブ等が挙げられる。また、炊飯器の内釜、ホットプレート、フライパンなどの調理具の被覆層や電子写真方式または静電記録方式の複写機、レーザープリンタなどの画像形成装置用の定着ローラのトップコート層などを形成するフッ素樹脂製塗膜であってもかまわない。フッ素樹脂製塗膜は、フッ素樹脂塗料を基材に塗布することにより形成できる。
【0068】
本開示のフッ素樹脂材料は、比誘電率および誘電正接が低いものであることから、高周波伝送用フッ素樹脂材料として、特に好適に利用することができる。
【0069】
高周波信号の誘電損失αは、次式で計算することができる。
【数1】
【0070】
上記式において、kは定数、ε
rは比誘電率、tanδは誘電正接、fは信号周波数、Aは誘電損失寄与である。本開示のフッ素樹脂材料を用いることによって、高周波信号の誘電損失αの誘電損失寄与Aを低下させることができるので、高周波の伝送損失が極めて小さい高周波伝送用製品の実現が期待できる。
【0071】
上記高周波信号伝送用製品としては、高周波信号の伝送に用いる製品であれば特に限定されず、(1)高周波回路の絶縁板、接続部品の絶縁物、プリント配線基板等の成形板、(2)高周波用真空管のベース、アンテナカバー等の成形品、(3)同軸ケーブル、LANケーブル等の被覆電線等が挙げられる。
【0072】
上記高周波信号伝送用製品において、本開示のフッ素樹脂材料は、比誘電率と誘電正接が低い点で、絶縁体として好適に用いることができる。
【0073】
上記(1)成形板としては、良好な電気特性が得られる点で、プリント配線基板が好ましい。上記プリント配線基板としては特に限定されないが、例えば、携帯電話、各種コンピューター、通信機器等の電子回路のプリント配線基板が挙げられる。上記(2)成形品としては、誘電損失が低い点で、アンテナカバーが好ましい。
【0074】
上記(1)成形板および(2)成形品を製造するための製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、放射線未照射のフッ素樹脂を成形する工程、および、成形したフッ素樹脂に、上記の照射条件で放射線を照射する工程を含む製造方法が挙げられる。この場合の成形方法としては、圧縮成形、押出圧延成形等が挙げられる。
【0075】
上記(3)被覆電線としては、良好な電気特性が得られる点で、絶縁被覆層として、本開示のフッ素樹脂材料を備える高周波伝送用被覆電線が好ましい。高周波伝送用被覆電線が、上記フッ素樹脂材料から形成される絶縁被覆層を備えるものであると、極めて小さい高周波伝送損失が得られる。上記高周波伝送用被覆電線は、高周波伝送ケーブルであってよく、上記高周波伝送ケーブルとしては、同軸ケーブルが好ましい。上記同軸ケーブルは、一般に、内部導体、絶縁被覆層、外部導体層および保護被覆層が芯部より外周部に順に積層することからなる構造を有する。上記構造における各層の厚さは特に限定されないが、通常、内部導体は直径約0.1〜3mmであり、絶縁被覆層は、厚さ約0.3〜3mm、外部導体層は、厚さ約0.5〜10mm、保護被覆層は、厚さ約0.5〜2mmである。
【0076】
上記の絶縁被覆層は、発泡絶縁被覆層であってもよい。しかしながら、本開示のフッ素樹脂材料の比誘電率および誘電正接が低いものであって、発泡させなくても伝送損失が小さい被覆電線が得られることから、上記高周波伝送用被覆電線は、上記フッ素樹脂材料から形成される絶縁被覆層が、中実の絶縁被覆層であってよい。上記高周波伝送用被覆電線が、上記フッ素樹脂材料から形成され、なおかつ、空隙のない中実の絶縁被覆層を備えるものであると、上記高周波伝送用被覆電線の機械的強度が優れる上に、上記高周波伝送用被覆電線を屈曲させても比誘電率の安定性が損なわれにくい。本開示において、中実とは、内部がフッ素樹脂材料で埋められていて、実質的に空隙が存在しないことをいう。なお、成形不良等に起因する意図せずに形成された空隙は含んでもよい。一方、発泡絶縁被覆層には、多くの空隙が存在する。以上のことから、本開示のフッ素樹脂材料は、中実のフッ素樹脂材料であってよい。
【0077】
上記(3)被覆電線は、たとえば、内部導体上に、放射線未照射のフッ素樹脂を押出成形により被覆して、内部導体上に被覆層を形成する工程、および、上記被覆層に、上記の照射条件で放射線を照射して、上記フッ素樹脂材料を形成することによって、絶縁被覆層として、上記フッ素樹脂材料を備える被覆電線を得る工程を含む製造方法により、製造することができる。
【0078】
上記高周波信号伝送用製品は、衛星通信機器、携帯電話基地局などのマイクロ波、特に3〜30MHzのマイクロ波を利用する機器に、好適に使用することができる。
【0079】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0080】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0082】
(単量体単位の含有量)
各単量体単位の含有量は、
19F−NMR法により測定した。
【0083】
(MFR)
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を求めた。
(融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0084】
(官能基数)
試料を330〜340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.25〜0.3mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT−IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って試料における炭素原子1×10
6個あたりの官能基数Nを算出する。
【0085】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0086】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT−IR測定データから決定したものである。
【0087】
【表2】
【0088】
(破断強度および強度保持率)
実施例または比較例において得られた試験片(圧縮成形)から、ASTM V型ダンベルを用いてダンベル状試験片を切り抜き、得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS−J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、25℃で破断強度を測定した。
強度保持率は次式で求めた。
強度保持率(%)=(電子線照射後の破断強度/基準とする破断強度)×100
基準とする破断強度は、フッ素化処理後であって、電子線照射前の試験片の破断強度である。実施例1〜5については、比較例2の破断強度を、基準とする破断強度とした。実施例6〜7については、比較例4の破断強度を、基準とする破断強度とした。実施例8については、比較例6の破断強度を、基準とする破断強度とした。
【0089】
(誘電正接、比誘電率および誘電損失寄与)
実施例または比較例において得られた試験片(押出成形)の誘電正接および比誘電率を、空洞共振器法により、測定した。ネットワークアナライザー(ヒューレットパッカード社製、HP8510C)を用いて、共振周波数およびQ値(電界強度)の変化を20〜25℃の温度で測定し、12GHzにおける誘電正接(tanδ)および比誘電率(ε
r)を測定した。また、誘電正接および比誘電率から、次式により誘電損失寄与Aを求めた。
【数2】
【0090】
比較例1
TFE/PPVE共重合体のペレットを用いた。
組成:TFE/PPVE=94.5/5.5(質量%)
MFR:26.0(g/10min)
融点:303℃
官能基数:321個(OH/COF/COOH=150/17/154(個))
【0091】
(試験片(押出成形)の作成)
上記ペレットを、押出成形機を用いて、押出成形した。6gの上記ペレットを、直径10mmのシリンダーに投入し、372℃で5分間加熱溶融した後、5kgの荷重で、口径2mmφ、長さ8mmのダイスから押し出して、長さ100mmのバー状に成形し、試験片(押出成形)を得た。上記の方法により、得られた試験片(押出成形)の誘電正接、比誘電率および誘電損失寄与を測定した。結果を表3に示す。
【0092】
(試験片(圧縮成形)の作成)
上記ペレットを、ヒートプレス成形機を用いて、直径120mm、1.5mm厚の円盤状に成形し、試験片(圧縮成形)を得た。上記の方法により、得られた試験片(圧縮成形)の破断強度および強度保持率を測定した。結果を表3に示す。
【0093】
比較例2
比較例1で用いたペレットを容器に入れ、窒素ガスで20質量%に希釈したフッ素ガスを200℃にて常圧で10時間通して、フッ素ガス処理をした。フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いて、官能基数を測定したところ、官能基は検出されなかった。また、フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いる以外は、比較例1と同様にして、試験片(押出成形)および試験片(圧縮成形)を得て、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0094】
実施例1
比較例2で得られた試験片(押出成形)および試験片(圧縮成形)を、電子線照射装置(NHVコーポレーション社製)の電子線照射容器に収容し、その後窒素ガスを加えて、容器内を窒素雰囲気にした。容器内の温度が表3に記載の照射温度で安定したことを確認した後、電子線加速電圧が3000kV、照射線量の強度が20kGy/5minの条件で、各試験片に、表3に記載の照射線量の電子線を照射した。電子線を照射した試験片を用いる以外は、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0095】
実施例2〜5
表3に記載の条件で電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。得られた試験片を用いて、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0096】
比較例3
TFE/PPVE/HFP共重合体のペレットを用いた以外は、比較例1と同様にして、試験片を得た。得られた試験片を用いて、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
組成:TFE/PPVE/HFP=87.9/1.0/11.1(質量%)
MFR:24.0(g/10min)
融点:257℃
官能基数:517個(COF/COOH/CF
2H=22/12/483(個))
【0097】
比較例4
比較例3で用いたペレットを使用した以外は、比較例2と同様にして、フッ素ガス処理をした。フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いて、官能基数を測定したところ、官能基は検出されなかった。また、フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いる以外は、比較例1と同様にして、試験片(押出成形)および試験片(圧縮成形)を得て、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0098】
実施例6〜7
比較例4で得られたペレットを用い、表3に記載の条件で電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。得られた試験片を用いて、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0099】
比較例5
TFE/HFP共重合体のペレットを用いた以外は、比較例1と同様にして、試験片を得た。得られた試験片を用いて、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
組成:TFE/HFP=88.9/11.1(質量%)
MFR:27.0(g/10min)
融点:266℃
官能基数:404個(COF/COOH/CF
2H=2/28/374(個))
【0100】
比較例6
比較例5で用いたペレットを使用した以外は、比較例2と同様にして、フッ素ガス処理をした。フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いて、官能基数を測定したところ、官能基は検出されなかった。また、フッ素ガス処理をして得られたペレットを用いる以外は、比較例1と同様にして、試験片(押出成形)および試験片(圧縮成形)を得て、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0101】
実施例8
比較例6で得られたペレットを用い、表3に記載の条件で電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。得られた試験片を用いて、比較例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0102】
【表3】