【解決手段】溶融加工性を有するフッ素樹脂を含有し、灰化法により測定される金属含有量が100ng/1g以下である成形材料であって、前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、1〜6g/10分である。
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位と、ヘキサフルオロプロピレン単位、フルオロアルキルエチレン単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位およびエチレン単位からなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位とを含有する共重合体である請求項1または2に記載の成形材料。
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体およびテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本開示の成形材料は、灰化法により測定される金属含有量が100ng/1g以下である。
【0016】
本開示では、成形材料の金属含有量を灰化法により測定する。本開示で用いる金属含有量の測定方法としては、成形材料を原子吸光分光光度計の原子化部にあるキュベット内で灰化させ、原子吸光分光光度計を用いて金属含有量を測定する方法、成形材料を白金るつぼに計りとり、ガスバーナまたは電気炉を用いて灰化させ、灰分を酸に溶解させた後、ICP発光分析装置またはフレームレス原子吸光分光光度計を用いて金属含有量を測定する方法などが使用できる。
したがって、本開示における金属含有量には、成形材料の表面に存在する金属成分の量に加えて、成形材料の内部に含有される金属成分の量も含まれる。
【0017】
一方、特許文献1では、ペレットの形態を有する成形材料を用い、この成形材料からの硝酸水溶液への金属溶出量を定量分析する金属溶出量分析法により、金属含有量を測定している。このような従来の金属含有量の測定方法は、ペレットの表面に存在する金属成分の量を測定しているにすぎない。したがって、ある成形材料について、金属溶出量分析法により金属成分の溶出を検出できなかったとしても、その成形材料の内部に含有される金属成分による悪影響を完全には排除できない。近年の半導体デバイスの線幅微細化に伴い、トランジスター素子の動作特性の不良の原因となる金属汚染について、原子レベルでの対策が必要であり、また、デバイス歩留り向上のために、薬液接液材料の純度についても、より高い純度が必要である。たとえば、半導体デバイスの製造工場などに設けられる薬液ラインの長さは、数百メートルから数千メートルにおよび、薬液と接する内表面積は極めて大きい。したがって、成形材料内部に含有される微量の金属成分であっても、薬液接液表面の深さ数ナノメートルから数ミクロンの近傍では、分子サイズで薬液分子が浸透できる微細な空隙が存在し、短期間の金属溶出量分析法では検出できなかった樹脂内部の含有金属が、長時間かけて溶出される可能性があり、その影響を無視できない。
【0018】
本開示の成形材料の金属含有量は、100ng/1g以下であり、より好ましくは60ng/1g以下であり、さらに好ましくは50ng/1g以下であり、特に好ましくは40ng/1g以下であり、最も好ましくは30ng/1g以下であり、下限は特に限定されないが、1ng/1g以上であってよい。金属含有量を上記範囲とすることにより、成形材料から得られる成形品を過酷な環境で用いた場合であっても、成形品から放出される金属成分による悪影響を排除できる。
【0019】
本開示における金属含有量は、Fe、Cr、Ni、Cu、Al、Na、MgおよびKの合計の金属含有量である。
【0020】
本開示の成形材料は、フッ素樹脂を含有する。
【0021】
本開示において、フッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フッ素ゴムではなく、フルオロプラスチックスである。上記フッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有する。
【0022】
また、本開示の成形材料が含有するフッ素樹脂は、溶融加工性を有する。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
【0023】
本開示の成形材料が含有するフッ素樹脂としては、フルオロモノマー単位を含有するフッ素樹脂、フルオロモノマー単位およびフッ素非含有モノマー単位を含有するフッ素樹脂が挙げられる。
【0024】
上記フルオロモノマーとしては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、フッ化ビニリデン〔VDF〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、CH
2=CZ
1(CF
2)
nZ
2(式中、Z
1はHまたはF、Z
2はH、FまたはCl、nは1〜10の整数である。)で表されるフルオロアルキルエチレン、CF
2=CF−ORf
6(式中、Rf
6は、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CF
2=CF−O−CH
2−Rf
7(式中、Rf
7は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール〔PDD〕、および、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン〔PMD〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
CH
2=CZ
1(CF
2)
nZ
2で表されるフルオロアルキルエチレンとしては、CH
2=CFCF
3、CH
2=CH−C
4F
9、CH
2=CH−C
6F
13、CH
2=CF−C
3F
6H等が挙げられる。
【0026】
CF
2=CF−ORf
6で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、CF
2=CF−OCF
3、CF
2=CF−OCF
2CF
3およびCF
2=CF−OCF
2CF
2CF
3が挙げられる。
【0027】
上記フッ素非含有モノマーとしては、上記フルオロモノマーと反応性を有する炭化水素系モノマー等が挙げられる。上記炭化水素系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0028】
上記フッ素非含有モノマーとしては、また、官能基含有炭化水素系モノマーであってもよい。上記官能基含有炭化水素系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のグリシジル基を有するフッ素非含有モノマー;アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテル等のアミノ基を有するフッ素非含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド等のアミド基を有するフッ素非含有モノマー;臭素含有オレフィン、ヨウ素含有オレフィン、臭素含有ビニルエーテル、ヨウ素含有ビニルエーテル;ニトリル基を有するフッ素非含有モノマー等が挙げられる。
【0029】
フルオロモノマー単位およびフッ素非含有モノマー単位の好適な組み合わせとしては、テトラフルオロエチレン単位と、ヘキサフルオロプロピレン単位、フルオロアルキルエチレン単位、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位およびエチレン単位からなる群より選択される少なくとも1種の単量体単位との組み合わせが挙げられる。
【0030】
上記フッ素樹脂として、より具体的には、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、エチレン〔Et〕/TFE共重合体〔ETFE〕、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、PVDF、VDF/TFE共重合体、および、PVFからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であることが好ましい。また、PFA、FEP、ETFEおよびEt/TFE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PFAおよびFEPからなる群より選択される少なくとも1種のパーフルオロ樹脂であることがさらに好ましい。
【0031】
上記フッ素樹脂は、溶融加工性を有していることから、後述する測定方法によって、メルトフローレート(MFR)を測定可能である。上記フッ素樹脂のMFRとしては、好ましくは1〜6g/10分であり、より好ましくは1〜5g/10分であり、特に好ましくは2〜5g/10分である。MFRが上記範囲内にあることにより、本開示の成形材料を用いて得られる成形品は、フッ素樹脂に特有の優れた効果を示すとともに、機械物性にも優れる。たとえば、本開示の成形材料を用いて押出成形によりチューブを作製する場合、MFRが上記範囲内にあることにより、チューブ口径が大きくなったとしても、ダイから押出された溶融物の粘度が高く、溶融物がサイジングダイに入るまでのエアーギャップの間で、垂れることなく肉厚が均一のままに、サイジングダイへ入り冷却することができる。つまり、口径が1インチを超えるチューブサイズを有するチューブを作製する場合であっても、本開示の成形材料は成形安定性が良い。また、成形されたチューブをフレアー状に広げたり、メカニカル継手と接続する際に、内部にスリーブを打ち込み広げて、ナットで押さえつけたりして使用する場合があるが、このとき、チューブフレアー部に応力が集中するため、ネックにストレスクラックが入るなどの問題がある。MFRが上記範囲内にあることにより、本開示の成形材料は、耐ストレスクラック性に優れており、したがって、本開示の成形材料からなるチューブは、ストレスクラックが入りにくい。
【0032】
本開示において、MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEPおよびETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0033】
上記フッ素樹脂の融点は、好ましくは190〜324℃であり、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは280℃以上であり、より好ましくは322℃以下である。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0034】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、さらに好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFEおよびPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位およびPAVE単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFEおよびPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ
3Z
4=CZ
5(CF
2)
nZ
6(式中、Z
3、Z
4およびZ
5は、同一または異なって、HまたはFを表し、Z
6は、H、FまたはClを表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF
2=CF−OCH
2−Rf
7(式中、Rf
7は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0035】
上記PFAの融点は、好ましくは180〜324℃であり、より好ましくは230〜320℃であり、さらに好ましくは280〜320℃である。
【0036】
上記PFAは、372℃で測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは1〜6g/10分であり、より好ましくは1〜5g/10分であり、特に好ましくは2〜5g/10分である。
【0037】
上記PFAは、熱分解開始温度が380℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、400℃以上であることがより好ましく、410℃以上であることがさらに好ましい。
【0038】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、さらに好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位およびHFP単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFEおよびHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0039】
上記FEPの融点は、好ましくは150〜324℃であり、より好ましくは200〜320℃であり、さらに好ましくは240〜320℃である。
【0040】
上記FEPは、372℃で測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは1〜6g/10分であり、より好ましくは1〜5g/10分であり、特に好ましくは2〜5g/10分である。
【0041】
上記FEPは、熱分解開始温度が360℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることがさらに好ましい。
【0042】
上記ETFEとしては、TFE単位とエチレン単位とのモル比(TFE単位/エチレン単位)が20/80以上90/10以下である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は37/63以上85/15以下であり、さらに好ましいモル比は38/62以上80/20以下である。上記ETFEは、TFE、エチレン、並びに、TFEおよびエチレンと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH
2=CX
5Rf
3、CF
2=CFRf
3、CF
2=CFORf
3、CH
2=C(Rf
3)
2
(式中、X
5はHまたはF、Rf
3はエーテル結合を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す。)で表される単量体が挙げられ、なかでも、CF
2=CFRf
3、CF
2=CFORf
3およびCH
2=CX
5Rf
3で表される含フッ素ビニルモノマーが好ましく、HFP、CF
2=CF−ORf
4(式中、Rf
4は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)およびRf
3が炭素数1〜8のフルオロアルキル基であるCH
2=CX
5Rf
3で表される含フッ素ビニルモノマーがより好ましい。また、TFEおよびエチレンと共重合可能な単量体としては、イタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。上記ETFEは、TFEおよびエチレンと共重合可能な単量体単位が、0.1〜10モル%であることが好ましく、0.1〜5モル%であることがより好ましく、0.2〜4モル%であることが特に好ましい。
【0043】
上記ETFEの融点は、好ましくは140〜324℃未満であり、より好ましくは160〜320℃であり、さらに好ましくは195〜320℃である。
【0044】
上記ETFEは、297℃で測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは1〜6g/10分であり、より好ましくは1〜5g/10分であり、特に好ましくは2〜5g/10分である。
【0045】
上記ETFEは、熱分解開始温度が330℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、340℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることがさらに好ましい。
【0046】
上記フッ素樹脂は、ポリマー主鎖およびポリマー側鎖の少なくとも一方の部位に、−CF
3、−CF
2H等の末端基を有しているものであってよく、特に制限されるものではないが、フッ素化処理されているフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素化処理されていないフッ素樹脂は、−COOH、−COOCH
3、−CH
2OH、−COF、−CONH
2等の熱的および電気特性的に不安定な末端基(以下、このような末端基を「不安定末端基」ともいう。)を有する場合がある。このような不安定末端基は、上記フッ素化処理により低減することができる。
【0047】
上記フッ素樹脂は、上記不安定末端基が少ないかまたは含まないことが好ましく、不安定末端基の合計数が炭素数1×10
6個あたり120個以下であることが好ましい。本開示によれば、上記不安定末端基の合計数が上記範囲内になるまでフッ素化処理して得られたフッ素樹脂を含有する成形材料であっても、金属含有量を上記範囲内とすることができる。
【0048】
上記フッ素樹脂は、成形時の発泡に起因する成形不良を抑制できることから、上記5種の不安定末端基と−CF
2H末端基とを合計した数、すなわち、−COOH、−COOCH
3、−CH
2OH、−COF、−CONH
2、および、−CF
2Hの合計数が、炭素数1×10
6個あたり120個以下であることがより好ましい。120個を超えると、成形不良が生じるおそれがある。上記不安定末端基は、50個以下であることがより好ましく、20個以下であることがさらに好ましく、10個以下であることが最も好ましい。本開示において、上記不安定末端基数は赤外吸収スペクトル測定から得られる値である。上記不安定末端基および−CF
2H末端基が存在せず全て−CF
3末端基であってもよい。
【0049】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
【0050】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、F
2ガス、CoF
3、AgF
2、UF
6、OF
2、N
2F
2、CF
3OF、フッ化ハロゲン(例えばIF
5、ClF
3)等が挙げられる。
【0051】
上記F
2ガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5〜50質量%に希釈して使用することが好ましく、15〜30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0052】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20〜220℃、より好ましくは100〜200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1〜30時間、好ましくは5〜25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(F
2ガス)と接触させるものが好ましい。
【0053】
上記成形材料は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤等の添加剤等を挙げることができる。これらの他の成分を添加した場合であっても、成形材料の金属含有量を上記の範囲内とすべきことは、本開示の目的に照らして当然である。
【0054】
本開示の成形材料の形状は、特に限定されず、パウダーまたはペレットであってよい。
【0055】
上記成形材料の水分含有量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下である。本開示によれば、上記水分含有量が上記範囲内になるまで乾燥して得られた成形材料であっても、金属含有量を上記範囲内とすることができる。
【0056】
本開示の成形材料を製造するためには、重合工程、造粒工程、洗浄工程、乾燥工程、移送工程、貯蔵工程、ペレット化工程、フッ素化工程、製品充填工程などの成形材料を製造するための各工程において、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が、各設備および配管の金属表面に可能な限り接しないようにするとともに、製造に用いる材料として、低金属含有量の材料を用いることが必要である。
【0057】
本開示の成形材料は、これらの製造条件に加えて、フッ素樹脂を乾燥させるために用いる空気、および、フッ素樹脂の各設備間の移送に用いる空気として、清浄で、かつ、乾燥した空気を用いることによって、製造することができる。すなわち、本開示は、上記の成形材料を製造するための製造方法であって、清浄で、かつ、乾燥した空気を用いる製造方法にも関する。
【0058】
特許文献1には、特定金属成分含有量の少ない原材料を用いて重合を行い、生成する含フッ素共重合体を製造設備の金属表面にできるだけ接しないようにして成形材料に加工することにより、金属成分含有量が少ない成形材料を得る方法が記載されている。しかしながら、このような従来の方法を使用するだけでは、本開示の成形材料の金属含有量は達成することができない。本開示の成形材料を製造するためには、低金属含有量の成形材料を製造するための従来の方法を使用することに加えて、フッ素樹脂の乾燥および移送に用いる空気の品質を管理することが必要である。
【0059】
フッ素樹脂の成形材料の製造においては、重合後に、湿った重合生成物が得られる。得られた重合生成物は、たとえば、複数の工程を経てペレットに加工できる。この場合、洗浄工程、乾燥工程、移送工程、貯蔵工程、ペレット化工程、フッ素化工程、製品充填工程などのペレットを製造するための各工程において、大量の空気を吹き付けられる工程が多くある。特に、パウダーやペレットは、生産性の観点から、圧縮空気を用いて各設備間を移送されることが多い。このように、フッ素樹脂の成形材料の製造プロセスにおいては、大量の空気が使用されている。
【0060】
空気には、通常、金属成分を含有する微粒子状汚染物質が含まれている。従来は、微粒子状汚染物質を除去するためにフィルターを用いる場合であっても、目開きが大きいフィルターが用いられてきた。本開示の製造方法においては、清浄な空気を用いる。これによって、金属成分の汚染を防止することができ、低金属含有量の成形材料が得られる。フッ素樹脂の製造プロセスで用いる空気の品質が特に重要である理由は明確ではないが、次のように推測される。フッ素樹脂のパウダーやペレットは、含フッ素エラストマーのクラムやコンパウンドに比べて、表面積が非常に大きい。さらには、フッ素樹脂の製造プロセスでは、通常、生産する半製品および製品の重量が数トンに及び、含フッ素エラストマーの製造プロセスに比べて、その製造工程で使用される空気の量も比較にならないほどに多量である。したがって、パウダーやペレットの単位表面積当たりに接触する空気量が格段に多くなることから、空気の品質が、最終的に得られるフッ素樹脂の成形材料の金属含有量に大きな影響を与えるものと考えられる。
【0061】
本開示の製造方法においては、300nmの粒子に対する捕集率が99.97%以上であるHEPAフィルターを通過させた空気を用いることが好ましい。空気を通過させるフィルターとしては、150nmの粒子に対する捕集率が99.999%以上であるULPAフィルターが好ましく、100nmの粒子に対する捕集効果のある静電気捕集式などのULPAフィルターがより好ましい。さらに、微細なフィルターであれば、より捕集効果はあるが、省電力とランニングコストの関係から、10nm以上の粒子に対する捕集率が99.97%以上であるフィルターを用いることが好ましい。
【0062】
空気には、水分がさらに含まれている。従来は、空気中の水分は管理されていなかった。本発明者らは、従来は管理されていなかった空気中の水分含有量に着目し、水分含有量が成形材料中の金属含有量に影響を与えることを見出した。この理由は明確ではないが、次のように推測される。
【0063】
特許文献1に記載されているとおり、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が、各設備および配管の金属表面に可能な限り接しないように、各設備および配管の金属表面を、フッ素樹脂で被覆する方法は公知である。しかしながら、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が接しない部分には、フッ素樹脂による被覆がなされておらず、金属表面が露出している。また、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が接しない部分であっても、フッ素樹脂による被覆が技術的に困難である部分も存在する。これらの理由により、各設備および配管には、金属表面が露出した部分が少なからず存在する。たとえば、フランジ、マンホール蓋部、覗き窓、槽の天板、槽から空気を抜くための小口径配管などの枝配管、フランジ、ボルトなどである。
【0064】
製造プロセスでは、フッ素樹脂などから、微量のフッ化水素が放出される。放出されたフッ化水素は、空気中の水分と反応して、フッ酸を生成させる。フッ酸を含有する空気は、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が入り込まない箇所にも容易に入り込み、金属表面を腐食させ、金属成分の発生源を形成する。そして、発生源から発生した金属成分が、製造に用いる材料やフッ素樹脂を汚染すると推測される。
【0065】
しかしながら、すべての金属表面を、ガラスやフッ素樹脂で被覆することは、経済的な理由だけでなく、技術的な理由によっても、極めて困難である。本開示の製造方法においては、乾燥した空気を用いる。このように、乾燥した空気を用いることにより、フッ酸の生成が抑制され、成形材料の製造プロセスに用いる設備および配管に、金属成分の発生源が形成されるのを防止することができ、低金属含有量の成形材料が得られる。
【0066】
本開示の製造方法において用いる空気の露点は、好ましくは−10℃以下であり、より好ましくは−20℃以下であり、さらに好ましくは−50℃以下であり、特に好ましくは−70℃以下である。上記露点は、低い方が好ましいが、コストを考慮して、−100℃以上であってよい。上記露点は、大気圧で、測定可能温度範囲が−100〜+20℃の静電容量式露点計など、通常の露点計により測定することができる。
【0067】
特に、乾燥した空気を用いることによって、成形材料がフッ素ガスによりフッ素化処理されたものであっても、フッ素化工程、および、フッ素化工程後の工程に用いる設備や配管などに、腐食が生じることが防止され、低金属含有量の成形材料が得られる。
【0068】
乾燥した空気の製造方法は、従来公知の方法でよく、たとえば、圧縮機を用いて空気を圧縮および冷却することにより乾燥させる方法、シリカゲルなどの吸着材を用いて乾燥させる方法、これらの方法を組み合わせて用いる方法などが挙げられる。また、乾燥した空気を製造する際に、オイルミストフィルター、HEPAフィルターなどを用いて、空気中に含まれるオイルや固体微粒子を除去することが好ましい。
【0069】
本開示の成形材料の製造方法においては、上述したとおり、製造に用いる材料として、低金属含有量の材料を用いることができる。製造に用いる材料としては、モノマー、重合溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤、界面活性剤などの重合に通常用いる材料、ポリマーの洗浄に用いる溶媒などを挙げることができる。これらの材料の金属含有量としては、Fe、Cr、Ni、Cu、Al、Na、MgおよびKの合計の金属含有量として、好ましくは10ppb以下、より好ましくは5ppb以下である。
【0070】
本開示の成形材料の製造方法においては、上述したとおり、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が、各設備および配管の金属表面に可能な限り接しないようにする方法を用いることができる。具体的には、PFA、FEP、ETFEなどのフッ素樹脂、ガラス、琺瑯(ほうろう)などにより、各設備および配管の金属表面をライニングする方法を用いることができる。特に、高純度PFA、高純度PTFEなどの高純度フッ素樹脂により、金属表面をライニングする方法が好ましい。また、ライニングにより形成した表面を、酸性薬液で洗浄することも、低金属含有量の成形材料を得る観点から有効である。
【0071】
本開示の成形材料がペレットである場合には、重合により得られたフッ素樹脂をペレットに成形する。成形には押出機が用いられることが通常であり、押出機のスクリュー、シリンダーなどには、高ニッケル耐食性合金が使用されている。スクリュー、シリンダーなどに、ライニングを施すことは技術的に困難であり、高ニッケル耐食性合金の代替材料の使用も現実的ではない。しかしながら、本開示によれば、このような押出機を用いたとしても、上記範囲の金属含有量を有する成形材料を製造することができる。すなわち、本開示の成形材料がペレットであることも、好ましい態様の一つである。
【0072】
本開示の成形材料に含まれるフッ素樹脂は、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などにより製造することができるが、重合に用いる材料として、界面活性剤、凝析剤などを必ずしも使用する必要がなく、金属含有量の制御が容易であることから、懸濁重合が好ましい。
【0073】
本開示の成形材料の製造方法の一実施形態としては、純水中でフルオロモノマーを懸濁重合することにより、フッ素樹脂を含有する懸濁液を得る工程、懸濁液から湿潤パウダーを回収する工程、回収した湿潤パウダーを純水により洗浄する工程、および、洗浄した湿潤パウダーを乾燥させて、乾燥したパウダーを得る工程を含む製造方法、を挙げることができる。この一実施形態の製造方法は、回収した湿潤パウダーを造粒する工程をさらに含むものであってもよいし、乾燥したパウダーを成形してペレットを得る工程をさらに含むものであってもよいし、乾燥したパウダーまたはペレットをフッ素化処理する工程を含むものであってもよい。最終的に得られたパウダーまたはペレットは、充填工程において、所望の袋や容器に充填することができる。
【0074】
上記の懸濁重合では、モノマー、重合溶媒、重合開始剤などの材料を用いるが、いずれも低金属含有量のものを用いる。さらに、重合槽として、製造に用いる材料およびフッ素樹脂が、重合槽の金属表面に接しないように、フッ素樹脂、ガラスなどによってライニングされたものを用いる。ライニングされた重合槽の内面を酸性薬液で洗浄してもよい。
【0075】
そして、この一実施形態の製造方法では、湿潤パウダーを乾燥させる際に、清浄で、かつ、乾燥した空気を用いる。さらに、この一実施形態の製造方法では、乾燥したパウダーやペレットの各設備間の移送のために、清浄で、かつ、乾燥した空気を用いる。このように、清浄で、かつ、乾燥した空気を用いることによって、上記範囲内の金属含有量を有する成形材料が、パウダーまたはペレットとして得られる。
【0076】
上記の成形材料を成形することにより成形品を得ることができる。上記成形材料を成形する方法としては、特に限定されず、溶融成形を挙げることができ、押出成形、射出成形、トランスファー成形、インフレーション成形、圧縮成形等の公知の方法が挙げられる。これらの成形方法は、得られる成形品の形状に応じて適宜選択すればよい。
【0077】
上記成形材料を成形する方法としては、押出成形、圧縮成形または射出成形であることが好ましく、押出成形であることがより好ましい。これらの成形方法を使用すると、チューブ、フィルム、ボトル等の成形品を容易に製造することができる。
【0078】
上記成形品の形状は、特に限定されず、例えば、ペレット、フィルム、シート、板、ロッド、ブロック、円筒、容器、電線、チューブ等が挙げられる。また、炊飯器の内釜、ホットプレート、フライパンなどの調理具の被覆層や電子写真方式または静電記録方式の複写機、レーザープリンタなどの画像形成装置用の定着ローラのトップコート層などを形成するフッ素樹脂製塗膜であってもかまわない。フッ素樹脂製塗膜は、フッ素樹脂塗料を基材に塗布することにより形成できる。
【0079】
上記成形品は、チューブ、フィルムまたはボトルであることが好ましい。チューブ、フィルムおよびボトルは、押出成形、圧縮成形または射出成形で製造されることが通常であり、なかでも、押出成形により製造されることが多い。押出成形に用いる押出機では、成形材料と接する部分が金属材料により形成されており、これを金属材料以外の材料に置き換える技術は現状知られていないが、本開示の成形材料は極めて金属含有量が少ないことから、押出機による成形時の金属汚染の影響は無視し得る程度であり、得られる成形品の金属含有量を、100ng/1g以下とすることが可能である。また、本開示の成形材料はMFRが小さいことから、優れた機械物性を有するチューブ、フィルムおよびボトルを得ることも可能である。また、本開示の成形材料からなるチューブは、後述する溶出法により測定される鉄成分の溶出量が、5ng/cm
2以下であってよい。
【0080】
上記成形品は、特に限定されないが、例えば、以下の用途に適用することができる:
ダイヤフラムポンプの隔膜部、ベローズ成形品、電線被覆品、半導体用部品、パッキン・シール、コピーロール用薄肉チューブ、モノフィラメント、ベルト、ガスケット、光学レンズ部品、石油発掘用チューブ、地熱発電用チューブ、石油発掘用電線、サテライト用電線、原子力発電用電線、航空機用電線、太陽電池パネルフィルム、二次電池や電気二重層コンデンサーなどのガスケット、OAロール等。
【0081】
上記成形品は、ガスや薬品を流通させるためのチューブ、薬品を保管するためのボトル、ガスバック、薬液バッグ、薬液容器、冷凍保存用バック等として特に好適に利用できる。
【0082】
上記成形品は、特に、使用時に摩擦による摩耗粉等のパーティクルの発生が懸念される開閉バルブのボディーや部品類、継手とチューブを接続する際に使用されるスリーブ類、薬液ボトルや容器のスクリューキャップ類、またギア類、ネジ類、フライパン、鍋、炊飯ジャー、金属など基盤上にフッ素樹脂を被覆された製品類、離形フィルム等に好適に利用できる。
【0083】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0084】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
<金属含有量>
成形材料の灰化分析は、国際公開第94/28394号に記載されている灰化法を用いて行った。すなわち、実施例および比較例で得られたペレットから、試料を2〜6mgの範囲で精秤し、グラファイト製のキュベット内にて、1100℃で180秒間加熱することにより灰化させて、原子吸光分光光度計(偏光ゼーマン原子吸光分光光度計(Z−8100)、日立製作所社製)にて分析した。
【0086】
実施例では、上記の灰化分析方法を用いたが、必要があれば、これとは異なる灰化分析方法を用いてもよい。たとえば、次の方法を用いることができる。すなわち、試料1gを精秤し、白金るつぼ(白金純度99.9%)に入れ、ガスバーナで試料を灰化させるか、あるいは、電気炉により試料を500℃にて30分間灰化させた後に、白金るつぼ内に残存する灰分を35%塩酸に溶解させて溶液を得る。得られる溶液について、ICP発光分析装置(SPS300、セイコーインストルメンツ社製)、または、フレームレス原子吸光分光光度計を用いて、金属含有量を測定する。
【0087】
実施例1
重合槽として、ガラスライニングされたオートクレーブを準備した。また、洗浄槽として、ガラスライニングされた洗浄槽を用いた。さらに、貯槽、配管などの、原料およびフッ素樹脂と接するその他の設備についても、PFAでライニングされた設備を用いた。
【0088】
重合に用いる材料として、いずれも、低金属含有量の材料を用いた。重合や洗浄に用いる純水として、Feが2ppb以下、その他の金属が1ppb以下である純水を用いた。
【0089】
174L容積のオートクレーブに純水34Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン30.4kg、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3)[PPVE]0.95kg、メタノール0.6kgを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。次いで、テトラフルオロエチレン[TFE]を0.6MPaGまで圧入した後、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート[SBP]0.060kgを投入して重合を開始した。重合の進行とともに系内圧力が低下するので、TFEを連続供給して圧力を一定にし、PPVEは一時間毎に0.065kg追加して、17時間重合を継続した。未反応のモノマーを放出してオートクレーブ内を大気圧に戻した後、TFE/PPVE共重合体[PFA]を含有する反応生成物を回収した。
【0090】
得られた反応生成物を、オートクレーブから洗浄槽に、配管を通じて移送した。反応生成物が投入された洗浄槽中で、純水35Lを用いて、反応生成物を5回洗浄した。次いで、洗浄した反応生成物を脱水して、湿潤パウダーを得た。
【0091】
得られた湿潤パウダーを、PFA製シートにてライニングされた容器に入れ、150℃に加熱したオーブン内に静置した。エアドライヤーおよびHEPAフィルター(捕集率:300nmの粒子に対して99.97%以上)を通過させた空気(露点が−10℃の乾燥空気)を送り込み、排気しながら乾燥した。空気流量を0.01m
3/分とし、180分間、乾燥させることにより、乾燥パウダーを得た。
【0092】
得られた乾燥パウダーを用いてPFAの物性を測定した。すなわち、得られたPFAのメルトフローレート(MFR)を、メルトインデクサー(東洋精機社製)を用いて、ASTM D1238(ASTM D3307)に準拠して測定したところ、3g/10分であった。また、得られたPFAの融点を、示差走査熱量計〔DSC〕(商品名:RDC220、セイコー電子社製)を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値から求めたところ、300℃であった。得られたPFAの各単量体の含有率(モル比)は、TFE/PPVE=98.4/1.6であった。
【0093】
得られた乾燥パウダーを、クリーンルーム内で、押出機を用いてペレットに成形した。得られたペレットについて、上記した方法により金属含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
実施例2
ガラスライニングされた重合槽および洗浄槽に代えて、PFAライニングされた重合槽および洗浄槽を用いた以外は、実施例1と同様にして、乾燥パウダーを得た。得られた乾燥パウダーを用いて、PFAの物性を測定したところ、実施例1と同様の物性を有するPFAであることが確認された。
【0095】
得られた乾燥パウダーを、エアドライヤーおよびHEPAフィルター(捕集率:300nmの粒子に対して99.97%以上)を通過させた空気(露点が−10℃の乾燥空気)を用いて、熱風乾燥炉から、PFAライニングされたパウダー貯槽に、PFAライニング配管を通じて移送した。次いで、乾燥パウダーを、クリーンルーム内で、パウダー貯槽から、押出機のPFAライニングされたホッパーに落下させ、押出機のシリンダー内に順次投入して、ペレットに成形した。得られたペレットについて、上記した方法により金属含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
実施例3
熱風乾燥および移送に用いる空気として、エアドライヤーおよびULPAフィルター(捕集率:150nmの粒子に対して99.999%以上)を通過させた空気(露点が−15℃の乾燥空気)を用いた以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0097】
実施例4
熱風乾燥および移送に用いる空気として、エアドライヤーおよびULPAフィルター(捕集率:100nmの粒子に対して99.999%以上)を通過させた空気(露点が−15℃の乾燥空気)を用いた以外は、実施例2と同様にして、ペレットを得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0098】
比較例1
重合槽および洗浄槽として、SUS317製の重合槽および洗浄槽を用い、また、貯槽、配管などの、原料およびフッ素樹脂と接するその他の設備についても、SUS317製の設備を用いた以外は、実施例1と同様にして、湿潤パウダーを得た。得られた湿潤パウダーを、実施例1と同様の方法により乾燥させて、乾燥パウダーを得た。
【0099】
得られた乾燥パウダーを用いて、PFAの物性を測定したところ、実施例1と同様の物性を有するPFAであることが確認された。
【0100】
得られた乾燥パウダーを、クリーンルーム内で、押出機を用いてペレットに成形した。得られたペレットについて、上記した方法により金属含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
比較例2
SUSの材質を、SUS317からSUS316に変更した以外は、比較例1と同様にして、乾燥パウダーおよびペレットを得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
参考例
実施例1、比較例1および2で得られたペレットを、PFA製容器に入れた50質量%フッ酸に、25℃で24時間浸漬させた。
また、比較例3として、金属成分を比較的多く含有するが、その他の構成は比較例1および2で得られたペレットと同様であるペレットを準備して、フッ酸に同様に浸漬させた。
同時に、ペレットを浸漬させていないフッ酸も、25℃で24時間放置して、参照水溶液を調製した。
【0104】
得られた各溶液について、ICP発光分析装置(SPS300、セイコーインストルメンツ社製)を用いて、各溶液中の鉄濃度を測定し、次の算出式により、金属溶出量として、鉄成分の溶出量を算出した。
【数1】
【0105】
また、実施例1および比較例1〜3のペレットを、チューブ押出成形機を用いて、市販品チューブが成形される成形条件に準じて成形し、外径12mm、1.0mm厚のチューブを得た後、40cmの長さにカットした。成形環境である空気中からの汚染物の影響を排除して、チューブからの溶出金属量を正確に比較するために、クリーンブース内で5分間、純水を用いて、チューブを流水で洗浄した。水を切ったあと、得られたチューブの片末端を熱により溶封し、チューブ内に50質量%フッ酸を入れ、もう一方のチューブ末端も溶封した。フッ酸の入ったチューブを25℃で24時間放置した後、フッ酸を含む溶液を回収した。得られた溶液を用いる以外は、上記の金属溶出量の測定方法と同様にして、チューブから溶出した鉄成分の溶出量を測定した。
【0106】
そして、溶出法により測定したチューブの鉄成分の溶出量(ng/cm
2)、溶出法により測定したペレットの鉄成分の溶出量(ng/1g)、および、灰化法により測定したペレットの鉄成分の含有量(ng/1g)を対比した。結果を
図1に示す。(
図1において、縦軸は溶出量または含有量を示している。)
【0107】
図1が示すとおり、実施例1で得られたペレットを用いて作製されたチューブは、鉄成分の溶出量が極めて少なかった。実施例1および比較例1〜3の結果から、本開示の成形材料を用いることによって、従来の成形品よりも金属溶出量が少ないチューブ等の成形品を、溶融成形により容易に作製できることが分かった。また、本開示の成形材料からなるチューブは、従来のチューブよりも金属溶出量が少ないことが分かった。
【0108】
また、
図1が示すとおり、チューブからの鉄成分の溶出量は、実施例1の値が最も小さく、比較例1〜3の順に値が大きくなっている。一方、ペレットからの鉄成分の溶出量は、比較例2の値が最も大きく、比較例3の値は比較例2の値よりも小さい。すなわち、溶出法によって、成形材料の金属成分の溶出量を測定しても、成形材料から得られる成形品(たとえば、半導体製造プロセスで用いられる薬液チューブ)からの金属成分の溶出量を適切に予測できないことが分かる。
【0109】
この理由は、成形材料を溶融加工することによってチューブなどの成形品を製造する際に、成形材料の内部に存在していた金属成分が、表面および表面近傍に現れるからであると考えられる。上述のとおり、フッ素樹脂の成形材料の製造プロセスは、複数の工程を含むことが通常であるので、成形材料の内部にも金属成分が存在し得る。
【0110】
これに対して、
図1が示すとおり、灰化法によって測定されたペレット中の鉄成分の含有量は、比較例1〜3の順に値が大きくなっており、チューブからの鉄成分の溶出量と同じ傾向を示している。すなわち、灰化法によって、成形材料中の金属成分の含有量を測定すれば、成形材料から得られる成形品からの金属成分の溶出量を適切に把握できることが分かる。
【0111】
したがって、灰化法によって測定された金属含有量により特定された本開示の成形材料を用いることにより、金属成分の溶出量が極めて小さいチューブ等の成形品を得ることが可能である。