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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-17308(P2019-17308A)
(43)【公開日】2019年2月7日
(54)【発明の名称】ミネラル成分補給用食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/16 20160101AFI20190111BHJP
【FI】
   A23L33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-139384(P2017-139384)
(22)【出願日】2017年7月18日
(71)【出願人】
【識別番号】506308219
【氏名又は名称】株式会社ハヤセ
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 忠男
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 恵子
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD02
4B018MD03
4B018MD04
4B018MD05
4B018MD06
4B018MD53
4B018ME02
(57)【要約】
【課題】従来の栽培方法で栽培したタマネギ及びブロッコリに比べて、多量ミネラルのナトリウムを25倍、カリウムを23倍、カルシウムを39倍、マグネシウムを20倍及びリンを21倍以上に高めたミネラル成分補給用食品組成物の提供。
【解決手段】ヒトの必須ミネラル成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン及びモリブデンのそれぞれの化合物から選択される少なくとも2種類以上の粉状金属化合物を、減圧化で酸を添加した水に、加熱下に当該水を沸騰させながら溶解させ、対応する金属イオンを含有する液状複合肥料を生成し、タマネギ及びブロッコリに適用し、所定の方法で栽培、収穫した後、水分活性値を0.5以下にし、所定のサイズにし、所定の剤形にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギ及びブロッコリを含み、水分活性値が0.5以下であって、ヒトの必須ミネラル成分の多量ミネラル成分及び微量ミネラル成分を補給するためのミネラル成分補給用食品組成物。
【請求項2】
前記タマネギのブロッコリに対する質量比は、8:2〜9:1であることを特徴とする請求項1に記載したミネラル成分補給用食品組成物。
【請求項3】
前記多量ミネラル成分の含有量は、前記組成物の100g当たり、ナトリウムが50mg、カリウムが3000mg超、カルシウムが800mg超、マグネシウムが180mg、及びリンが700mg超であることであることを特徴とする請求項1又は2に記載したミネラル成分補給用食品組成物。
【請求項4】
前記微量ミネラル成分の含有量は、前記組成物の100g当たり、鉄が62mg超、亜鉛が3mg超、銅が0.9mg超、マンガンが2mg超、セレンが0.063mg及びモリブデンが0.47mgであることを特徴とする請求項1又は2に記載したミネラル成分補給用食品組成物。
【請求項5】
前記タマネギ及びブロッコリは、多量ミネラル成分及び微量ミネラル成分の発生源としてのナトリウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、リン化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銅化合物、マンガン化合物、セレン化合物、モリブデン化合物及びリン化合物を水及び/又は酸に溶解させ、前記化合物に対応する金属イオンを含む液状複合肥料を適用する以外は常法で栽培したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載したミネラル成分補給用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの必須成分としてのミネラル成分補給用食品組成物に関する。より詳細に述べれば、本発明は、多量ミネラル成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びリンを通常の栽培スケジュールで栽培したタマネギ及びブロッコリに比べて全体で少なくとも20倍以上含有するミネラル成分補給用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、カリウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、セレン、モリブデン、及びヨウ素の16元素がヒトにとっての必須ミネラル成分とされている。我が国では、厚生労働省が、硫黄、塩素及びコバルトを除いたナトリウム、マグネシウム、リン、カリウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、モリブデン及びヨウ素の13元素に対して摂取基準を定めている(健康増進法施行規則(平成15年4月30日厚生労働省令第86号)第11条第1項第5号)。以下、摂取基準を抜粋して下記に記載する。尚、実際のデータは、男性及び女性の年齢を、それぞれ1〜2歳、3〜5歳、6〜7歳、8〜9歳、10〜11歳、12〜14歳、15〜17歳、18〜29歳、30〜49歳、50〜69歳、及び70歳以上に区分けしているが、本発明品の服用対象者の年齢構成を18〜70以上の男女として、前記摂取基準から、18〜70以上の男女のデータだけを抜粋した。
1.ナトリウム(mg/日)、食塩相当量(g/日)の推定平均必要量及び目標量を、男性、それぞれ、600(食塩相当量1.5)及び女性600(同前7.5)。
2.カリウム(mg/日)の目安量及び目標量を男性が、それぞれ、2,500及び2、800〜3、000、女性が、それぞれ、2,000及び2,700〜3,000。
3.カルシウム(mg/日)の推定平均必要量、推奨量及び耐容上限量を男性が、それぞれ、600〜650、650〜800、及び2,300、女性が、それぞれ、500〜550、600〜650、及び2,300。
4.マグネシウム(mg/日)の推定平均必要量及び推奨量を男性が、270〜310及び320〜370、女性が、220〜240及び260〜290。
5.リン(mg/日)の目安量及び耐容上限量を男性が、それぞれ、1、000及び3,000、女性が、それぞれ、900及び3,000。
6.鉄(mg/日)の推定平均必要量、推奨量及び耐容上限量を男性が、それぞれ、6.0〜6.5、7.0及び50〜55、女性(月経なし)が、それぞれ、5.0〜5.5、6.0〜6.5、及び40〜45;女性(月経あり)が、それぞれ、8.5〜9.0、10.5〜11.0、及び40〜45。
7.銅(mg/日)の推定平均必要量、推奨量及び耐容上限量を男性が、それぞれ、0.7、0.8〜0.9及び10、女性が、それぞれ、0.6、0.7、及び10。
8.マンガン(mg/日)の目安量及び耐容上限量を男性が、それぞれ、4.0、11、及び女性が、それぞれ、3.5及び11。
9.ヨウ素(μg/日)の推定平均必要量、推奨量及び耐容上限量を、男性が、それぞれ、95、130、及び2,200、及び女性が、それぞれ、95、130、及び2,200。
10.クロム(μg/日)の推定平均必要量及び推奨量を、男性が、それぞれ、30〜35及び40、及び女性が、それぞれ、20〜25、及び25〜30。
11.モリブデン(μg/日)の推定平均必要量、推奨量及び耐容上限量を、男性が、それぞれ、20〜25、25〜30、550〜600、及び女性が、それぞれ、20、20〜25、及び450〜500。
【0003】
ミネラル成分は生合成が不可能である。従って、毎日の食事から摂取しなければならない。主要なミネラル成分を多く含む食材を表1に例示する。嘗ての日本人の食生活は、表1に示した米を中心とした穀類、ミネラル成分が豊富な魚介類、海藻類、根菜類等をバランスよく摂取していた。然しながら、ここ20〜30年間で日本人の食文化が激変し、栄養のバランスが崩れ,特にミネラル成分不足が顕著になってきている。ミネラル成分の中でも、多量ミネラル成分であるカルシウム及びマグネシウム,或いは微量ミネラル成分である鉄、亜鉛、等が目標値を下回る現象が起きている。
【0004】
一口に食文化と言っても、食材の選択、調理法の選択、調理をする人、いわゆる作り手と食べ手との人間関係、幼児からの食事作法、食器の選択、食事をする場所、地域文化との関係、環境等諸条件が複雑に絡み合った生活形成の様式と内容を含むもので、その定義は極めて難しい(以上、国立民族学博物館名誉館長石毛直道氏の複数の著書からの一部引用)。従って、食材の選択は、必ずしも自律的に決定したり、簡単に変更できるものではない。例えば、多量ミネラル成分であるカルシウム等が不足しているからとの理由で、カルシウムを多量に含む食材である牛乳、乳製品、小魚、海藻類、大豆製品、緑黄色野菜(表1)を急に多量に摂食することは不可能である。そのために、安直にサプリメントに頼る傾向がある。然しながら、サプリメントには、各種の添加剤,例えば合成着色剤、香料、凝固剤、pH調整剤、防腐剤、甘味料、充填剤、合成澱粉/スターチ等を含んでいる場合がある。従って、ミネラル成分の不足を、安直にサプリメントに頼ることは推奨できない。
【0005】
【表1】
【0006】
海藻類、キノコ類、ほうれん草、納豆、魚介類、雑穀類がミネラル成分を多量に含む5大食品(食材)と言われている。これらの中で、納豆以外は、いずれも調理を必要とする食材である。然しながら、前述したように我が国の食文化の変化により、料理をする家庭が減少してきているのが現況である。たとえば、海藻類の料理として、わかめ、キュウリ及び穴子の3種の食材から成る酢の物、或いはわかめ、青菜、豆腐或いは油揚げから成る味噌汁があるが、いずれも、下ごしらえを含め面倒な手順と熟練度を必要とし、簡単な作業ではない。これは、キノコ類、ほうれん草、魚介類、及び雑穀類に関しても言えることである。
このような状況下において、例えば、野菜類から簡単にミネラル成分を摂取できることができれば理想的である。
【0007】
ところで、日本人が好む野菜ランキング20のデータがある。それによれば、高い順に、キャベツ、タマネギ、大根、ネギ、白菜、じゃがいも、ほうれん草、トマト、なす、枝豆、きゅうり、レタス、生しいたけ、さつまいも、もやし、とうもろこし、山芋、かぼちゃ、ブロッコリ、及び竹の子、の順である(NHK放送文化研究所世論調査部「日本人の好きなもの、2008年」から抜粋)。当然、これらの野菜の生産量も消費量も大きい。このなかで、タマネギは、和食、中華料理、フランス料理、イタリヤ料理等広範な料理の重宝な食材として使用されている。また、ブロッコリは、我が国では2〜3分間ゆでて、海外では生食で、いずれもサラダとして使用されている。タマネギ及びブロッコリ、いずれも重宝な食材である。タマネギ及びブロッコリを、それぞれ100グラム当たりに含まれているミネラル成分を計算して表2に示す。尚、これらのタマネギ及びブロッコリは、特殊な肥料や栽培法を使用しないで、通常の路地栽培法で栽培したものである。この点に関しては後述する。
【0008】
【表2】
【0009】
表2から明らかなように、タマネギとブロッコリを比較すると、多量ミネラル成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン、並びに微量ミネラル成分である鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム及びモリブデンの殆どにおいて、それらの含有量は、ブロッコリの方が多い。他方、ビタミンに関しては、タマネギは、ビタミンB6が比較的多く含まれている。ビタミンB6は、タンパク質と一緒に喫食するとタンパク質を吸収しやすくする。従って、タマネギとブロッコリを同時に使用すると双方の欠点が補えると言える。
【0010】
ところで、近年、日本人の食事が欧米化、高カロリーになってきていて、生活習慣病が増えていると言われている。従って、できることなら、ミネラル成分も野菜から摂取することが望ましい。然しながら、通常の栽培法で栽培したタマネギ100gに含まれる多量ミネラル成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びリンは、それぞれ、2.0mg、149.9mg、21.00mg、9.00mg及び33.00mgである(表2)。同じくブロッコリは、それぞれ、20mg、360mg、38mg、26mg及び89mgである(表2)。また、男性(18〜70歳以上)の、それぞれの1日当たりのナトリウムの推定平均必要量は600mg、カリウムの目安量は2,500mg、カルシウムの推定平均必要量は600〜650mg、マグネシウムの推定平均必要量は280〜310mg、及びリンの目安量は1,000mgである(参照:前記健康増進法施行規則(平成15年4月30日厚生労働省令第86号)第11条第1項第5号)。従って、通常の栽培法で栽培したタマネギ及びブロッコリだけで、ミネラル成分の摂食基準を満たすことは、当然不可能である。無論、野菜だけで、1日当たりに必要な基準量のミネラル成分を完全に充足することは不可能であるが、野菜からできるだけ多くのミネラル成分を摂取することができれば、各種の添加剤,例えば合成着色剤、香料、凝固剤、pH調整剤、防腐剤、甘味料、充填剤、合成澱粉/スターチ等を含んでいるサプリメントに頼るよりは体にとってもよいことである。さらに、時間、場所等を選ばず、何時でも、どこでも摂食することができる形態であれば、一層望望ましい。
然しながら、従来技術では、例えば、タマネギのカリウムを20倍以上、カルシウムを40倍以上、マグネシウムを20倍、リンを230倍に増量することは不可能である。
【0011】
特許文献1は、本願出願人自体の所有する特許である。その請求項1には「カルシウム化合物、マグネシウム化合物、カリウム化合物、亜鉛化合物、鉄化合物、銅化合物及びクロム化合物から選択される2種以上の粉状金属化合物を、減圧化で酸を添加した水に、加熱により当該水を沸騰させながら溶解し、対応する金属イオンを含有する液状複合肥料を製造することを特徴とする方法。」が記載されている。そして、実施例として、野菜として玉葱、キャベツ、ブロッコリ、白菜、ピーマン、ナス、パプリカ及びサツマイモを、果実としてイチゴ、梨及び白桃を、前記の請求項1に記載されている液状複合肥料を使用して栽培した例を記載している。そしてその効果として、野菜に関しては、生育が促進されて収穫時期が早まったこと、或いは収穫量が増えたこと、果実に関しては糖度が高くなることを記載している。然しながら、前記野菜の多量ミネラル成分及び微量ミネラル成分含量に関しては何ら記載も示唆もない。
尚、特許文献1に記載されている液状複合肥料は、平成27年5月8日農林水産大臣望月義夫により登録が認定されている(登録番号:生87129号、登録年月日:平成18年5月10日、登録の有効期限:平成30年5月9日、肥料の種類:液状複合肥料、肥料の名称:ミネラルエイト)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第454535号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明が解決しようとする主たる課題は、従来の栽培方法で栽培した野菜に比べて、全体で多量ミネラル成分のナトリウムを25倍、カリウムを23倍、カルシウムを39倍、マグネシウムを20倍及びリンを21倍、及び微量ミネラル成分の鉄を310倍、亜鉛を17倍、銅を93倍及びマンガンを14倍以上に高めたミネラル成分補給用食品組成物を提供することである。
【0014】
発明が解決しようとする他の課題は、従来の栽培方法で栽培したタマネギ及びブロッコリに比べて、全体で多量ミネラル成分のナトリウムを25倍、カリウムを23倍、カルシウムを39倍、マグネシウムを20倍及びリンを21倍、及び微量ミネラル成分の鉄を310倍、亜鉛を17倍、銅を93倍及びマンガンを14倍以上に高めたタマネギ及びブロッコリを含み、時、場所等を選ばず、何時でも、何処でも、簡便に摂食することができる形態のミネラル成分補給用食品組成物を提供することである。
その他本発明が解決しようとする課題は以下逐次明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
明細書、特許請求の範囲、及び要約書で使用する用語「従来の野菜の栽培方法」とは、例えばタマネギ及びブロッコリの植物生理学上の性質に応じて、堆肥、土壌改良材、石灰資材、pH調整剤、その他必要に応じてリン酸肥料、窒素肥料等市販の有機肥料、化学肥料を適用して栽培したものを言う。具体的には、特許文献1に記載された肥料を適用しないで栽培した野菜である。
【0016】
課題を解決するための手段は、 ナトリウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、リン化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銅化合物、マンガン化合物、セレン化合物及びモリブデン化合物から選択される少なくとも2種類以上の粉状金属化合物を、減圧化で酸を添加した水に、加熱下に当該水を沸騰させながら溶解させ、対応する金属イオンを含有する液状複合肥料を生成し、任意の野菜に適用し、前記任意の野菜に応じた栽培方法で栽培、収穫した後、乾燥して、所定のサイズにし、少なくとも2種類以上を混合し、所定の剤形にする。
【0017】
本発明の実施の態様において、ナトリウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、リン化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銅化合物、マンガン化合物、セレン化合物及びモリブデン化合物の全てを使用する必要はない。これらの金属化合物の使用量は、本発明の最終製品の使用者の個体差に応じて決定されるべきである。たとえば、何らかの疾病の治療を受けていて、いずれかのミネラル成分の増減が必要なヒト、又は健康体であっても出産直後の女性又は月経中又は閉経後で、鉄分の量の増減が必要な女性に対しては、しかるべき考慮して、使用する金属化合物及びその使用量を決定することが望ましい。
【0018】
特許文献1には、リン化合物への論究がないが、本発明では、ヒトにとって多量ミネラル成分の一つであるリンの発生源としてのリン化合物を積極的に使用する。特に、タマネギはリン酸を使用すると玉が充実し、ブロッコリは、リン酸が不足すると、茎葉が茂り過ぎ、花蕾みが形成できなくなるのでリン酸化合物は、タマネギ及びブロッコリの肥料としても重要である。本発明で使用されるリン酸化合物は、過リン酸石灰[Ca(H2PO4)2+CaSO4]、重カリン酸石灰[CaH4(PO4)2]、溶成リン肥[CaO-MgO-P2O5-SiO2]、焼成リン肥[Ca3(PO4)2-CaNaPO4]、沈殿リン酸石灰[CaHPO4]、硫リン安[(NH4)2SO4+NH4H2PO4+K2SO4]、化成肥料[CaHPO4, Ca3(PO4)2等]が例示される。これらのリン酸化合物には、水に溶解する水溶性、2%のクエン酸に溶解するものがある。特許文献1記載された発明では、肥料を溶解させる溶媒として、実施例1、実施例2、実施例5、及び実施例6では水道水及びクエン酸を、実施例3では水道水及び乳酸を、実施例4では水道水及び塩酸を、それぞれ、使用している。従って、本発明では、前記例示したリン酸化合物の全てを使用することができる。尚、2%のクエン酸に溶解するものを、リン酸肥料が水溶性か、非水溶性かの判断基準となった理由は、植物の根圏(*)土壌抽出液中の有機酸を分析した結果、ギ酸、プロピオン酸、乳酸、フマル酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸フタル酸等が発見され、その結果、根圏に生息する土壌細菌は、前記有機酸を分泌していること、及び前記有機酸がリン酸化合物を、植物の根が吸収し易い形に変換していることが解明され、その代表として2%のクエン酸に溶解するか否かが、リン酸肥料が水溶性か、非水溶性かの判断基準なったものである。
*用語「根圏」は、1904年Lorenz Hiltnerの定義「植物の根から影響を受ける土壌領域」による。
【0019】
本発明で原料となるタマネギ及びブロッコリの栽培は、特許文献1に記載されている肥料の前記リン酸化合物を加えた液状複合肥料を使用することを除いて、従来から行なわれているタマネギ及びブロッコリの栽培方法と同じである。従って、その詳細な説明は割愛する。
【0020】
タマネギは秋に種を播き、翌年の初夏に収穫するので、栽培時間及び手間が掛かる野菜であるが、適切に乾燥して保存すれば、年中使用することができる。他方、ブロッコリは、生のものも、茹でたものも長期間の保存はできない。従って、ブロッコリの収穫時期に併せて、迅速にタマネギ及びブロッコリを乾燥させる。乾燥は、通常の温風乾燥機で、例えば50〜60℃で3〜4時間乾燥させる。ミネラル成分は熱に強いので、50〜60℃では破壊されない。また、一般に熱に弱いと言われているビタミンA、ビタミンB1、ビタミンC、パントテン酸、ビオチン等も、50〜60℃範囲の温度では破壊され難い。但し、この温度範囲では、タマネギ及びブロッコリに含まれている水分が10質量%程度残留していて、細菌等が発生する原因になる。従って、30〜50℃の熱変性を起こさない低温真空除湿乾燥して、水分活性値を0.5以下にする。水分活性値は、食品中の自由水の割合を示す数値で食品保存性の指標である。一般的に、水分活性値が0.900以上で食中毒菌が発生し、0.800以上で乾燥や塩分に耐性をもつ細菌が発生すると言われている。尚、自由水とは、食品中のタンパク質、炭水化物、脂肪等各種化合物と結合していないで、容易に遊離する水分で、微生物が発生する要因である。
【0021】
本発明のミネラル成分補給用食品組成物の用法としては、携帯可能で、時、ところを選ばず経口摂取することが可能なカプセルとしての用法、又は仕上がった料理又はヨーグルト等嗜好品に振りかける、振り掛けとしての用法、又は料理中の適当なときに添加する料理添加剤としての用法が考えられる。いずれにしても、前記の工程で真空除湿乾燥して、水分活性値を0.5以下にしたタマネギ及びブロッコリは、別々に粉粒体にする必要がある。粉粒体とは、粉体と粒体が混合した系の総称で、粉(コナ)状の物質や粒(ツブ)が集まった集合体である。本発明の組成物は、真空除湿乾燥工程が終了した時点では、水分活性値が0.5以下、即ち自由水が殆どゼロの状態の薄片(タマネギ)又は粒体(ブロッコリ)なので、堆積中或いは移動中に互いに接触して自由粉化する率(粉化率)が大きく、最終製品の粒径(最大長辺長)の範囲を決めることはあまり意味が無いが、一つの指標としては以下の通りである。即ち、料理中に食材に添加する添加剤として使用する場合は、最大辺の長さが1mm以上のフレーク、即ち粉粒体の分類では粒体でよい。但し、喫食して違和感が無い状態に主要食材中に迅速に溶解させるには、最大辺の長さが1mm〜10μmの粗粉体にしてもよいが、いずれにしてもコストとの兼ね合いで決定されるべきである。カプセル剤の場合は、粒度が1μm〜1mm未満の粉体でよい。カプセルは、通常、そのままの形状で嚥下するので、内容物の粒度分布、メディアン径等粉体化に際して、細かな点を考慮する必要はないが、高齢者或いは嚥下力が弱化しているヒトが服用する際、カプセルが口中で壊れた場合の違和感等が発生するのを忌避するために、0.01μm〜10μm未満の微粉体にするのが好ましい。また、仕上がった料理又はヨーグルト等嗜好品に、振りかけて使用する場合は、各種市販の振りかけと同じように、1μm〜1mm未満の粉粒体が好ましい。上記で数値限定した最小値以下の場合は、それぞれの用法において、歩留まりが悪くコスト高になるので好ましくなく、また最大値以上の場合は、それぞれの用法において、口中での違和感が発生したり、或いは調理中に、主要食材への溶解速度が遅くなる等の理由で好ましくない。
【0022】
低温真空除湿乾燥して、水分活性値を0.5以下にしたタマネギ又はブロッコリは、それぞれ単品で使用することもできる。然しながら、前述したように、タマネギ及びブロッコリを混合して使用することにより、両者の欠点が解消されるので、タマネギ及びブロッコリを所定比率混合して組成物として使用するのが好ましい。タマネギ及びブロッコリの組成比率は、質量比で8:2〜9:1が好ましい。この組成比率を超えると、前述したタマネギ及びブロッコリのそれぞれの欠点が解消されないので好ましくない。
【0023】
低温真空除湿乾燥して、水分活性値を0.5以下にしたタマネギ及びブロッコリを質量比で8:2〜9:1に調整した組成物の用法で最も汎用性があるのはカプセルに埋封することである。本発明で使用に適したカプセルは、天然材料のカプセル、例えば、豚由来ゼラチンを100%使用したゼンラチンカプセル、HPMC(ヒドロキシメチルセルロース)カプセル、プルラン(タピオカ起源多糖類)が例示される。なかでも、ゼラチンカプセルが使用実績も豊富で、物性も安定していて、安価でもあるので好ましい。カプセルサイズは、日本薬局方規定で000〜5までの範囲で任意に選択することができる。然しながら、カプセル番号2、3、4及び5は、充填量がそれぞれ、0.22〜0.44g、0.18〜0.36g、0.13〜0.25g、及び0.05〜01gで微量なので、場合によって、複数個のカプセルを服用する必要が発生し、煩わしい。従って、カプセル番号000(充填量約0.82〜1.64g)、00(同前0.57〜1.14g)、0(同前0.41〜0.82g)及び1(同前0.30〜0.60g)のサイズのカプセルが好ましい。
【0024】
本発明のミネラル成分補給用食品組成物には、服用者の要望等に応じて、厚生労働大臣が食品衛生法第11条第1項の規定により作成する食品添加物公定書に収載されている食品添加物を添加することを妨げない。
【発明の効果】
【0025】
本発明のミネラル成分補給用食品組成物は、従来の栽培方法で栽培したタマネギ及びブロッコリに比べて、全体で多量ミネラル成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリンを少なくとも20倍、及び微量ミネラル成分の鉄を300倍、亜鉛を17倍、銅を90倍及びマンガンを14倍以上含有し、しかも用法に応じて簡単に摂取可能な形態にすることができ、かつ全て天然物で構成されているので、不足しがちなミネラル成分を簡単に、かつ安直補給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態として実施例を記載して、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0027】
特許文献1に記載されている液状複合肥料の製造
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、クエン酸鉄、酸化亜鉛、塩化マンガン四水和物、酵母セレン、及びモリブデン酸ナトリウムの所定量をミネラル成分発生源として使用した。特許文献1には、リン化合物が記載されていないが、過リン酸石灰[Ca(H2PO4)2+CaSO4]、重カリン酸石灰[CaH4(PO4)2]、溶成リン肥[CaO-MgO-P2O5-SiO2]、焼成リン肥[Ca3(PO4)2-CaNaPO4]、沈殿リン酸石灰[CaHPO4]、硫リン安[(NH4)2SO4+NH4H2PO4+K2SO4]、化成肥料[CaHPO4, Ca3(PO4)2等]及びこれらの混合物から成る混合物から選択された1種を多量ミネラル成分であるリンの発生源として使用した。特許文献1に記載されている手順に従って、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、セレンイオン、モリブデンイオン、及びリンイオンを含む液状複合肥料を製造した。
【0028】
タマネギ及びブロッコリの栽培及び収穫
特許文献1にも記載した通り本発明者はタマネギ及びブロッコリの栽培に習熟している。タマネギ及びブロッコリの栽培には、前記液状複合肥料のみを適用し、収穫した。
【0029】
タマネギ及びブロッコリの予備乾燥
収穫したタマネギは、約5mm厚にスライスした。ブッロコリは、花蕾みを残し。茎を切り落とした。ブロッコリは、茹でるとビタミンC等が溶出するので、タマネギと一緒に予備乾燥した。予備乾燥は、通常の温風乾燥機で、50〜60℃の低温で、3〜4時間乾燥させた。ミネラル成分は熱に強いので、50〜60℃では破壊されない。また、一般に熱に弱いと言われているビタミンA、ビタミンB1、ビタミンC、パントテン酸、ビオチン等も、50〜60℃範囲の温度では破壊され難い。但し、この温度範囲では、タマネギ及びブロッコリに含まれている水分が10質量%程度残留していて、細菌等が発生する原因になる。
【0030】
タマネギ及びブロッコリの最終乾燥
予備乾燥したタマネギ及びブロッコリを、株式会社アルバック(旧商号:日本真空技術株式会社)に委託して、30〜50℃の熱変性を起こさない低温真空除湿乾燥して、水分活性値を0.5以下にした。
【0031】
水分活性値を0.5以下にしたタマネギ及びブロッコリを、それぞれ、粒度が1μm〜1mm未満の粉体にして、タマネギ及びブロッコリを質量比で9:1の混合物とした。
【0032】
ミネラル成分の分析
粒度を1μm〜1mm未満の粉体にした、タマネギ及びブロッコリの9:1(質量比)の混合物の全体のミネラル成分の100g当たりの含有量を分析した。尚、分析は、株式会社 日本食品機能分析研究所(福岡県福岡市博多区店屋町3−20)に委託した。その結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
[考察]
【0034】
表2は、特許文献1に記載されている液状合肥料を全く使用せずに、市販の化成肥料、堆肥等を適用して栽培したタマネギ及びブロッコリのミネラル成分含量を示している。表2のタマネギ及びブロッコリのそれぞれの多量ミネラル成分含有量を単純に合算すると、
ナトリウム:2.0mg+20mg=22mg、
カリウム:149.9mg+360mg=509.9mg、
カルシウム:21.0mg+38mg=59.0mg、
マグネシウム:9.0mg+26mg=35mg、 及び
リン:33.0mg+89mg=122.0mgとなる。
これらを表3の対応する多量ミネラル成分の量と比較すると、
ナトリウム:50mg/22mg=25倍、
カリウム:3557mg/509.9mg=6.97倍、
カルシウム:839mg/59.0mg=14.2倍、
マグネシウム:180mg/35mg=5.14倍、及び
リン:701mg/122.0mg=5.74倍となる。
即ち、本発明のタマネギ及びブロッコリを含むミネラル成分補強用食品組成物の多量ミネラル成分の含有量は、従来のタマネギ及びブロッコリが、それぞれ単品で含有する多量ミネラル成分のそれぞれの合算量を遙かに超えていることが実証された。
また、表2のタマネギ及びブロッコリのそれぞれの微量ミネラル成分含有量を単純に合算すると、
鉄:0.2mg+0.92mg=1.12mg、
亜鉛:0.2mg+0.70mg=0.90mg、
銅:0.0mg+0.08mg=0.08mg、
マンガン:0.15mg+0.22mg=0.37mg、
セレン:1.00μg+2.0μg=3.0μg、
モリブデン:1.00μg+12.0μg=13.0μgとなる。
これらを表3の対応する微量ミネラル成分の量と比較すると、
鉄:62.9mg/1.12mg=56.2倍、
亜鉛:3.5mg/0.90mg=3.88倍、
銅:0.93mg/0.08mg=11.63倍、
マンガン:2.16mg/0.37mg=5.83倍、
セレン:0.063mg/3.0μg=21倍、
モリブデン:0.47mg/13.0μg=36.2倍となる。
即ち、本発明のタマネギ及びブロッコリを含むミネラル成分補強用食品組成物の微量ミネラル成分の含有量は、従来のタマネギ及びブロッコリが、それぞれ単品で含有する多量ミネラル成分のそれぞれの合算量を遙かに超えていることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のミネラル成分補強用食品組成物は、多量ミネラル成分及び微量ミネラル成分の発生源としてのナトリウム化合物、カリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、リン化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銅化合物、マンガン化合物、セレン化合物、モリブデン化合物及びリン化合物を水及び/又は酸に溶解させ、前記化合物に対応する金属イオンを含む液状複合肥料を適用する以外は常法で栽培したタマネギ及びブロッコリを主要成分とし、多量ミネラル成分の含有量が、前記組成物の100g当たり、ナトリウムが50mg、カリウムが3000mg超、カルシウムが800mg超、マグネシウムが180mg、及びリンが700mg超で、微量ミネラル成分の含有量が、前記組成物の100g当たり、鉄が62mg超、亜鉛が3mg超、銅が0.9mg超、マンガンが2mg超、セレンが0.063mg及びモリブデンが0.47mgという驚異的な含有量であり、しかも時及び場所を選ばす簡単に摂食できる剤形にすることができるので、日常の食事では不足しがちな必須ミネラル成分を簡単に摂取することが可能である。従って、健康食品産業、農業等の産業上の利用可能性がある。