【解決手段】本発明に係るホイールローダ(1)に備えられる制御装置(50)は、加速度センサ(31)で検出された加速度から演算される車体の第1車体加速度(av1)と、回転数センサ(32)によって検出された車輪(4,8)の回転数から演算される車体の第2車体加速度(av2)と、推力センサ(33,34)により検出された油圧シリンダ(11)の推力(ph)とに基づき走行駆動力の低減値(Δf´)を決定し、低減値により走行駆動力を低減させて出力する、ことを特徴とする。
前後にそれぞれ車輪が取り付けられた車体と、前記車体の前部に設けられた作業機と、前記作業機を駆動する油圧シリンダと、前記車体の走行駆動力及び前記油圧シリンダの推力を発生させる動力源となるエンジンと、前記車体の加速度を検出する加速度センサと、前記車輪の回転数を検出する回転数センサと、前記油圧シリンダの推力を検出する推力センサと、前記車体の走行駆動力を制御する制御装置と、を備えたホイールローダにおいて、
前記制御装置は、前記加速度センサで検出された加速度から演算される前記車体の第1車体加速度と、前記回転数センサによって検出された前記車輪の回転数から演算される前記車体の第2車体加速度と、前記推力センサにより検出された前記油圧シリンダの推力とに基づき前記走行駆動力の低減値を決定し、前記低減値により前記走行駆動力を低減させて出力する、ことを特徴とするホイールローダ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るホイールローダの実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は本発明の実施形態に係るホイールローダ1の側面図である。
図1に示すように、ホイールローダ1は、一対のリフトアーム2、バケット3、一対の前輪4等を有する前フレーム(車体)5と、運転室6、エンジン室7、一対の後輪8等を有する後フレーム(車体)9とで構成されている。エンジン室7にはエンジン25が搭載されており、後フレーム9の後方にはカウンタウェイト10が取り付けられている。エンジン25の動作はエンジンコントロールユニット(以下、ECUという)70により制御されている。
【0011】
一対のリフトアーム2は一対のリフトアームシリンダ11の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット3はバケットシリンダ12の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。バケットシリンダ12とバケット3の間にはベルクランク13を含むリンク機構が介設されており、このリンク機構を介してバケットシリンダ12はバケット3を回動させる。なお、これら一対のリフトアーム2、バケット3、一対のリフトアームシリンダ11、バケットシリンダ12、ベルクランク13等によって作業機14が構成されている。
【0012】
リフトアーム2と前フレーム5の連結部分にはリフトアーム角度センサ(不図示)が取り付けられており、このリフトアーム角度センサによってリフトアーム2の回動角度が検出される。また、リフトアームシリンダ11には、ボトム側の圧力を検出するためのボトム側圧力センサ(推力センサ)33とロッド側の圧力を検出するためのロッド側圧力センサ(推力センサ)34とが設けられており(
図3参照)、これら圧力センサ33,34によって作業機14にかかる作業機圧(荷役負荷)が検出される。バケットシリンダ12は近接スイッチ(不図示)を備えており、バケットシリンダ12のロッドが所定量だけ短縮されると、この近接スイッチがオン動作するようになっている。これにより、バケット3の姿勢を検出することができる。
【0013】
また、前輪4及び後輪8の回転数を検出するための回転数センサ32が設けられている。なお、本実施形態において、回転数センサ32は、エンジン25の出力軸にトルクコンバータ(不図示)を介して接続されたトランスミッション(不図示)の出力軸の回転数を検出し、検出したトランスミッションの出力軸の回転数から前輪4及び後輪8の回転数に換算しているが、回転数センサ32により前輪4及び後輪8の回転数を直接検出しても良い。
【0014】
前フレーム5と後フレーム9とはセンタピン15により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後フレーム9に対し前フレーム5が左右に屈折する。後フレーム9の前部に搭載された運転室6には、オペレータが座る運転席、ホイールローダ1の操舵角を制御するステアリングホイールと、ホイールローダ1を始動・停止させるキースイッチ、オペレータへの情報を提示する表示装置(いずれも図示せず)等が設置されている。また、運転室6には、ホイールローダ1の動作全体の制御を行うコントローラ(制御装置)50や、車体加速度及び車体角速度を検出するIMU(Inertial Measurement Unit/慣性計測装置)31等も設けられている。
【0015】
図2はコントローラ50のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。
図2に示すように、コントローラ50は、車体の動作全体を制御するための各種演算を行うCPU(Central Processing Unit)50Aと、CPU50Aによる演算を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)50Bや等の記憶装置と、CPU50Aがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)50Cと、外部の装置との間で各種の情報や信号の入出力を行う入出力インターフェース50Dとを含むハードウェアから構成されている。
【0016】
このようなハードウェア構成において、ROM50Bに格納されたプログラムがRAM50Cに読み出され、CPU50Aの制御に従って動作することによりプログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働して、コントローラ50の機能を実現する機能ブロックが構成される。
【0017】
図3はコントローラ50の機能構成を示すブロック図である。
図3に示すように、コントローラ50は、車体の勾配角度θを演算する勾配角度演算部51と、車体の第1車体加速度を演算する車体加速度演算部52と、車体の第2車体加速度を推定する車体加速度推定部53と、車体加速度演算部52にて演算された第1車体加速度と車体加速度推定部53にて推定された第2車体加速度との加速度差を比較判定する加速度差比較判定部54と、エンジン25が出力する駆動力(出力トルク)の低減値を仮決定する駆動力低減値決定部55と、リフトアームシリンダ11の推力を演算するリフトアームシリンダ推力演算部56と、駆動力低減値決定部55にて仮決定された駆動力の低減値を補正する駆動力低減値補正部57と、エンジン25の目標駆動力(目標出力トルク)を出力する目標駆動力出力部58と、低減値データテーブル59と、低減値補正データテーブル60と、を含む。
【0018】
以下、主に
図3を参照しながらコントローラ50の機能構成の詳細について説明するが、適宜、
図4〜
図6も参照して説明する。なお、
図4〜
図6は、各種演算を行うための解析モデルであり、
図4は勾配角度θと第1車体加速度av1を演算するための解析モデル図、
図5及び
図6はエンジン25の駆動力の低減値を補正するための解析モデル図である。
【0019】
勾配角度演算部51は、IMU31にて検出されたy方向成分の加速度ay、及び角速度ωの各データをカルマンフィルタに入力して、勾配角度θを演算する(
図4参照)。なお、カルマンフィルタによる処理は公知であるため、ここでの説明は省略する。
【0020】
車体加速度演算部52は、IMU31にて検出されたy方向成分の加速度ayと、勾配角度演算部51にて演算された勾配角度θとを、以下の数式1に代入して第1車体加速度av1を演算する。
【数1】
【0021】
車体加速度推定部53は、回転数センサ32にて検出された前輪4及び後輪8の回転数N(rpm)を以下の数式2に代入して第2車体加速度av2を演算(推定)する。なお、第2車体加速度av2は回転数センサ32の検出データに基づく推定値である。
【数2】
ここで、αは車体速度換算係数である。
【0022】
加速度差比較判定部54は、車体加速度推定部53にて推定された第2車体加速度av2から車体加速度演算部52にて算出された第1車体加速度av1を減算して、第1車体加速度av1と第2車体加速度av2との加速度差(差分)Δaを演算すると共に、その加速度差Δaが所定値以上であるか否かを比較判定する。
【0023】
駆動力低減値決定部55は、加速度差比較判定部54にて演算された加速度差Δaから、
図7に示す低減値データテーブル59を参照して、目標とする駆動力低減値Δfを仮決定する。ここで、
図7に示す低減値データテーブル59は、加速度差Δaに比例して駆動力低減値Δfが大きくなる特性である。即ち、本実施形態では、加速度差Δaが大きくなるほど、スリップが発生しているとみなして駆動力を低減するようになっている。この低減値データテーブル59は、ROM50Bに予め記憶されている。なお、駆動力低減値決定部55は、加速度差Δaを以下の数式3に代入すれば、低減値データテーブル59を参照することなく駆動力低減値Δfを演算できる。
【数3】
ここで、mは車体質量、αは補正係数である。
【0024】
リフトアームシリンダ推力演算部56は、ボトム側圧力センサ33にて検出されたリフトアームシリンダ11のボトム側の圧力phbと、ロッド側圧力センサ34にて検出されたリフトアームシリンダ11のロッド側の圧力phrとを以下の数式4に代入して、リフトアームシリンダ推力(油圧負荷)phを演算する。
なお、phは、リフトアームシリンダ11のボトム側、ロッド側の受圧面積を考慮し、係数等を乗じて演算される。
【数4】
【0025】
駆動力低減値補正部57は、駆動力低減値決定部55によって仮決定された駆動力低減値Δfをリフトアームシリンダ推力演算部56にて演算されたリフトアームシリンダ推力phに基づいて補正し、補正後駆動力低減値Δf´を目標駆動力出力部58に出力する。掘削等の荷役作業の負荷(掘削反力)が車体に作用することで、特に前輪4の地面に対する接地力が増大し、スリップが起こり難くなる。よって、荷役作業の負荷が車体に掛かっている場合には、荷役作業の負荷が車体に掛かっていない場合に比べて、走行駆動力を増加させることができる。別言すれば、荷役作業中は仮決定した駆動力低減値Δfを小さくできる。そのために、駆動力低減値補正部57は、リフトアームシリンダ11に作用している油圧負荷(荷役負荷)に応じて、駆動力の低減値を小さくするよう補正している。具体的な演算方法について、
図5及び
図6を適宜参照して、以下説明する。
【0026】
荷役作業により前輪4に負荷Wfが掛かると、スリップが起こり難くなるため、駆動力を増加することができる。この負荷Wfによる駆動力の増加分は数式5により演算できる。
【数5】
ここで、ΔWfは前輪4に掛かる負荷の増加分、μは摩擦係数である。
【0027】
数式5から、Δf´は数式6で表すことができる。
【数6】
【0028】
図5を参照して、モーメントの釣り合いから、ΔWfは以下の数式7で表すことができる。
【数7】
ここで、Lは荷役負荷ポイント長、WBはホイールベース長、Wは荷役負荷である。
【0029】
数式7を数式6に代入すると、補正後駆動力低減値Δf´は以下の数式8で表すことができる。
【数8】
【0030】
図6を参照して、機構計算により、荷役負荷Wは以下の数式9で表すことができる。
【数9】
ここで、phはリフトアームシリンダ推力(油圧負荷)、l1,l2,Ma1〜Ma5は荷役姿勢で決まる機構パラメータである。
【0031】
数式9を数式8に代入すると、補正後駆動力低減値Δf´は以下の数式10で表すことができる。
【数10】
【0032】
このように、駆動力低減値補正部57は、数式10を用いて駆動力低減値Δfを補正した値、即ち、補正後駆動力低減値Δf´を演算することができる。なお、本実施形態では、
図8に示す低減値補正データテーブル60を用いて、駆動力低減値Δfを補正する演算を簡略化している。具体的に説明すると、
図8に示す低減値補正データテーブル60は、リフトアームシリンダ推力phに反比例して補正係数(Δf´/Δf)が大きくなる特性である。即ち、本実施形態では、荷役負荷(掘削反力)が大きいほど、スリップが起こり難くなるため、補正係数が小さくなり、その結果、補正後駆動力低減値Δf´が小さくなる。補正後駆動力低減値Δf´が小さいと、出力される目標駆動力の値は大きくなるから、荷役負荷が小さい場合と比べて大きな駆動力にてホイールローダ1を走行させることができる。なお、この低減値補正データテーブル60は、ROM50Bに予め記憶されている。
【0033】
目標駆動力出力部58は、駆動力低減値補正部57により補正された補正後駆動力低減値Δf´だけ駆動力を低減するようECU70に目標トルク指令T
*あるいは目標回転数指令N
*を出力する。そして、ECU70は、この指令に従ってエンジン25の駆動力を制御する。
【0034】
次に、コントローラ50の制御処理の手順について説明する。
図9はコントローラ50によるエンジン駆動力の制御処理の手順を示すフローチャートである。ホイールローダ1のキースイッチがONされると、コントローラ50は
図9に示す処理を開始する。
【0035】
まず、ステップS1において、勾配角度演算部51は、入力されたIMU31からの加速度ay,と角速度ωの各データに基づいて車体の勾配角度θを演算し、車体加速度演算部52は、勾配角度θ、加速度ay,に基づいて第1車体加速度av1を演算する。
【0036】
次に、ステップS2において、車体加速度推定部53は、入力された回転数センサ32からの回転数Nのデータに基づいて第2車体加速度av2を演算(推定)する。
【0037】
次に、ステップS3において、加速度差比較判定部54は、第2車体加速度av2から第1車体加速度av1を減算して加速度差Δaを求め、加速度差Δaが所定値以上であるか否かを判定する。ここで、所定値とは、ホイールローダ1がスリップを起こしているか否かを判断するための閾値として設定されるものであり、例えば、ホイールローダ1の重量、サイズ等の仕様を考慮して計算または経験により予め定められる。なお、所定値はROM50Bに予め記憶されている。
【0038】
加速度差Δaが所定値以上である場合(ステップS3/Yes)、ホイールローダ1がスリップを起こしていると判断して、走行駆動力を低減するための処理が行われる。具体的には、ステップS4において、駆動力低減値決定部55が低減値データテーブル59を参照して駆動力低減値Δfを決定する。次に、ステップS5において、リフトアームシリンダ推力演算部56が、圧力センサ33,34にて検出されたリフトアームシリンダ11のボトム側圧力データ及びロッド側圧力データに基づき、リフトアームシリンダ推力phを演算する。
【0039】
次に、ステップS6において、駆動力低減値補正部57が、駆動力低減値Δfとリフトアームシリンダ推力phとに基づき、低減値補正データテーブル60を参照して、補正後駆動力低減値Δf´を演算する。なお、リフトアームシリンダ推力phがゼロの場合には、ステップS6において演算される補正後駆動力低減値Δf´は駆動力低減値Δfと同じ値となるため、出力される目標駆動力は、荷役作業を考慮しない場合のスリップ抑制に必要な走行駆動力となる。
【0040】
次に、ステップS7において、目標駆動力出力部58は、補正後駆動力低減値Δf´だけ走行駆動力が低減するようECU70に目標駆動力信号を出力し、ステップS8において一定時間が経過するまでステップS5〜S8までの手順を繰り返し行う。
【0041】
ここで、一定時間は、ホイールローダ1による1回の掘削作業に要する時間に設定することができる。例えば、V字掘削作業において、ホイールローダ1を前進させて土砂等の山にバケット3を突っ込み、バケット3で土砂等をすくい、バケット3を持ち上げた後、ホイールローダ1を後進に切り換えるまでの時間(例えば5秒〜10秒程度)に設定してと、1回の掘削作業が終了するまでの間、確実にスリップを防止しつつ、荷役作業も効率良く行うことができる。
【0042】
そして、一定時間が経過した場合(ステップS8/Yes)、リターンとなってスタートに戻る。また、ステップS3でNoの場合には、加速度差比較判定部54はスリップが起こっていないと判定してリターンに進み、スタートに戻る。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、ホイールローダ1がスリップを起こした場合であっても、荷役負荷(掘削反力)に応じて走行駆動力が増加するように補正するようにしたので、掘削時におけるスリップを抑制しながら、十分な掘削性能を発揮することができる。また、ホイールローダ1に通常設けられている、リフトアームシリンダ11のボトム側とロッド側の圧力センサ33,34によりリフトアームシリンダ11の推力を演算して走行駆動力を補正しているため、荷役負荷を演算するために別途センサを設ける必要がなく、コストを抑えることができる。また、低減値データテーブル59及び低減値補正データテーブル60を用いて演算することで、コントローラ50の演算処理の負担が軽減できるといった利点もある。
【0044】
なお、上記した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0045】
例えば、低減値データテーブル59及び低減値補正データテーブル60を複数用意し、オペレータが荷役作業の環境(路面状態など)に応じて選択できるようにしておけば、より高精度にスリップを抑制しつつ荷役作業を効率良く行うことができる。また、IMU31の代わりに、車体の加速度ayを検出する加速度センサ、車体の勾配角度θを検出する傾斜センサ等をそれぞれ別個に設けても良い。また、回転数センサ32の代わりに車速センサを設け、車速センサで検出される車速から車輪の回転数を演算することもできる。
また、走行駆動力の低減を一定時間経過するまで行うようにしたが、前進状態から後進へ切り替えられたことを検出して、これによって走行駆動力の低減を終了させることもできる。