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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-173851(P2019-173851A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】摺動部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20190913BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20190913BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20190913BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20190913BHJP
   C22C 13/02 20060101ALN20190913BHJP
【FI】
   F16C33/12 A
   F16C33/10 Z
   F16C33/14 Z
   F16C33/24 Z
   C22C13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-62026(P2018-62026)
(22)【出願日】2018年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 健良
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011AA20
3J011CA10
3J011DA01
3J011DA02
3J011LA08
3J011MA02
3J011PA10
3J011QA03
3J011SB03
3J011SB05
3J011SB20
(57)【要約】
【課題】軸受合金層の強度だけでなく、耐摩耗性が向上するとともに、軸受合金層におけるクラックの発生を低減し、裏金層との接着強度も高い摺動部材を提供する。
【解決手段】本実施形態の摺動部材は、裏金層、軸受合金層及び金属間化合物を備える。軸受合金層は、裏金層に積層され、裏金層と反対側に摺動面を形成する。金属間化合物は、軸受合金層の組織中に含まれ、軸受合金層の全体における平均硬さよりも硬く、軸受合金層において裏金層に近い側よりも摺動面に近い側における粒子の平均径が大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金層と、
前記裏金層に積層され、前記裏金層と反対側に摺動面を形成する軸受合金層と、
前記軸受合金層の組織中に含まれ、前記軸受合金層の全体における平均硬さよりも硬く、前記軸受合金層において前記裏金層に近い側よりも前記摺動面に近い側における粒子の平均径が大きな金属間化合物と、
を備える摺動部材。
【請求項2】
前記金属間化合物は、前記摺動面側における粒子の平均径が80μm以上である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記金属間化合物は、前記裏金層側における粒子の平均径(A)に対する前記摺動面側における粒子の平均径(B)の比の値(B/A)が、
B/A≧1.3
である請求項2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記比の値(B/A)は、
B/A≧1.5
である請求項3記載の摺動部材。
【請求項5】
前記軸受合金層は、Snを主成分とするSn基である請求項1から4のいずれか一項記載の摺動部材。
【請求項6】
前記金属間化合物は、Sn−Sb合金である請求項5記載の摺動部材。
【請求項7】
前記裏金層は、鋼である請求項1から6のいずれか一項記載の摺動部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載の摺動部材の製造方法であって、
円環状の前記裏金層の一方の面側を冷却しながら、前記裏金層の他方の面側に、遠心鋳造により前記軸受合金層を形成して、前記軸受合金層に含まれる前記金属間化合物の粒子径を制御する摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受装置に用いられる摺動部材は、相手部材と摺動する面側に軸受合金層を備えている。軸受合金層は、例えば鋼などの裏金層と積層されることにより、摺動部材として用いられる。この軸受合金層は、環境への負荷の軽減を図るため、例えばCd、Pbなどを含まない材料の利用が求められている。従来、SnやCuを主成分とする軸受合金層においても、環境への負荷となる物質を含むことなく、高い強度への要求に応える材料が提案されている(引用文献1、2参照)。
【0003】
引用文献1の場合、軸受合金層の成分となるSn−Sb−Cuに、Co、Mn、Sc、Ge等を添加することにより、軸受合金層に析出する金属間化合物を微細化している。これにより、引用文献1の摺動部材は、強度の向上を図っている。また、引用文献2の場合、主成分となるSnにZnを添加することにより、母相の強度を高めるとともに、金属間化合物を微細化している。これにより、引用文献2の摺動部材は、強度の向上を図っている。
【0004】
しかしながら、いずれの従来技術も、摺動部材の軸受合金層の強度は高まるものの、耐摩耗性は十分に確保できない。つまり、引用文献1の場合、軸受合金層に含まれる金属間化合物は、微細化することにより、摺動面の摩耗にともなって軸受合金層から脱落しやすくなる。そのため、軸受合金層の摩耗が進みやすく、耐摩耗性が低下するという問題がある。同様に、引用文献2の場合、軸受合金層の母相の強度を高めても、微細化された金属間化合物は軸受合金層から脱落しやすく、耐摩耗性が低下する。一方、軸受合金層の耐摩耗性を向上するために金属間化合物の粒子径を大きくすると、母相と金属間化合物との界面からクラックが発生し易くなる。発生したクラックが裏金層との界面に伸展すると、軸受合金層と裏金層との界面では剥離を生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−513592号公報
【特許文献2】特表2016−520715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性が向上するとともに、軸受合金層と裏金層との接着強度も高い摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本実施形態の摺動部材は、裏金層と、軸受合金層と、金属間化合物とを備える。軸受合金層は、前記裏金層に積層され、前記裏金層と反対側に摺動面を形成する。金属間化合物は、前記軸受合金層の組織中に含まれ、前記軸受合金層の全体における平均硬さよりも硬く、前記軸受合金層において前記裏金層に近い側よりも前記摺動面に近い側における粒子の平均径が大きく設定されている。
【0008】
このように、金属間化合物は、摺動面に近い側で粒子の平均径が大きく、摺動面から遠い裏金層に近い側で粒子の平均径が小さくなる。
金属間化合物は、軸受合金層の母相よりも硬度が高い。そのため、軸受合金層は、摺動面に近い側に、粒子の平均径が大きな金属間化合物が存在することにより、摩耗の進行が抑えられる。その結果、軸受合金層は、耐摩耗性が向上する。摺動面側における粒子の平均径は、70μmよりも大きいことが望ましい。一方、金属間化合物は、裏金層側における粒子の平均径が、摺動面側に近い側におけるそれよりも小さい。これにより、軸受合金層は、母相と金属間化合物との界面からクラックが発生しにくくなり、軸受合金層と裏金層との接着力が十分に確保される。裏金層側における粒子の平均径は、70μm以下であることが望ましい。さらに、金属間化合物の粒子の平均径が小さくなることにより、全体として軸受合金層の強度そのものも向上する。従って、軸受合金層の強度を高めることができるだけでなく、耐摩耗性も向上することができるとともに、軸受合金層におけるクラックの発生を低減し、裏金層との接着強度も高めることができる。本実施形態の場合、軸受合金層における金属間化合物の粒子の平均径は、摺動面側から裏金層側に向けて比例的に小さくなる領域を有するのが望ましい。軸受合金層は、金属間化合物の平均径が比例的に変化することにより、温度の変化にともなう応力の発生が低減され、靱性の確保を容易にすることができる。
【0009】
本実施形態の摺動部材では、前記金属間化合物は、前記摺動面側における粒子の平均径が80μm以上であることが好ましい。
このように、摺動面側における金属間化合物の粒子の平均径を80μm以上に設定することにより、金属間化合物は摩耗の進行を抑えやすくなる。従って、耐摩耗性を確実に向上することができる。
【0010】
また、本実施形態の摺動部材では、前記金属間化合物は、前記裏金層側における粒子の平均径(A)に対する前記摺動面側における粒子の平均径(B)の比の値(B/A)が、B/A≧1.3であることが好ましい。そして、本実施形態の摺動部材では、前記比の値(B/A)は、B/A≧1.5であることがさらに好ましい。
このように、粒子の平均径の比の値を設定することにより、耐摩耗性の向上と接着強度の向上とが両立される。つまり、裏金層に近い側と摺動面に近い側との間で金属間化合物の粒子の平均径に十分な差を生じさせることにより、本実施形態の摺動部材は、大きな金属間化合物の粒子による耐摩耗性の向上と、小さな金属間化合物による接着強度の向上とが両立される。従って、耐摩耗性をより向上することができるとともに、裏金層との接着強度もより高めることができる。
【0011】
本実施形態の摺動部材では、前記軸受合金層は、Snを主成分とするSn基である。また、本実施形態の摺動部材は、前記金属間化合物は、Sn−Sb合金である。本実施形態の摺動部材では、前記裏金層は、鋼である。
このように、軸受合金層と裏金層とを異なる材料で形成する場合でも、金属間化合物の粒子の平均径を裏金層に近い側で小さくする。これにより、軸受合金層におけるクラックの発生を低減することができ、裏金層との接着強度も高めることができる。
【0012】
本実施形態の摺動部材の製造方法では、円環状の前記裏金層の一方の面側を冷却しながら、前記裏金層の他方の面側に、遠心鋳造により前記軸受合金層を形成して、前記軸受合金層に含まれる前記金属間化合物の粒子径を制御する。
いわゆる遠心鋳造を用いることにより、軸受合金層は裏金層の内周側に均一に積層される。この軸受合金層となる合金を裏金層に鋳造するとき、裏金層の軸受合金層と反対側の面である一方の面側は冷却される。このとき、裏金層の一方の面側の冷却を制御することにより、結晶化する金属間化合物の粒子径が変化する。これにより、軸受合金層の裏金層に近い側と摺動面に近い側における金属間化合物の粒子は、平均径が精度よく制御される。従って、軸受合金層における金属間化合物の粒子径を確実に異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態による摺動部材を示す模式図であって、図2のI部分を拡大した図
図2】一実施形態による摺動部材を示す模式的な斜視図
図3】一実施例による摺動部材の評価を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、摺動部材の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように摺動部材10は、裏金層11及び軸受合金層12を備えている。裏金層11は、例えばFeや低炭素鋼をはじめとする鋼、あるいは銅合金等で形成されている。軸受合金層12は、裏金層11の一方の端面側に積層されている。例えば図2に示すように裏金層11を円筒状に形成する場合、軸受合金層12は裏金層11の内周面側に設けられている。軸受合金層12は、裏金層11と反対側の端面に摺動面13を形成している。摺動面13は、図示しない相手部材と摺動する。
【0015】
軸受合金層12は、Snを主成分とするSn合金からなる。軸受合金層12は、図1に示すように組織中に金属間化合物14を含んでいる。金属間化合物14の主成分は、軸受合金層12の主成分であるSnである。この金属間化合物14は、軸受合金層12の平均硬さよりも硬い。本実施形態の場合、軸受合金層12は、Snを主成分とし、少なくともSbが添加されている。この場合、軸受合金層12は、金属間化合物14として、Sn−Sb化合物を含んでいる。また、軸受合金層12は、CuやAgを添加してもよい。この場合、軸受合金層12は、金属間化合物14として、Sn−Cu、Sn−Ag化合物を含むことができる。軸受合金層12は、例えばSn−Sb−Cu、Sn−Sb−Ag、Sn−Sb−Cu−Ag化合物のように、添加元素Xを有するSn−X化合物を含むこともできる。さらに、軸受合金層12は、金属間化合物14となる元素に限らず、組織中に固溶するBi、Cd、In等を含んでいてもよい。
【0016】
本実施形態の場合、軸受合金層12に含まれる金属間化合物14は、裏金層11に近い側よりも摺動面13に近い側における粒子の平均径が大きく設定されている。ここで、粒子の平均径とは、軸受合金層12を観察した任意の視野において、粒子径の大きなものから3つの粒子を抽出し、抽出した3つの粒子の粒子径の平均値である。裏金層11に近い側における粒子の平均径は、平均径(A)とする。一方、摺動面13に近い側における粒子の平均径は、平均径(B)とする。
【0017】
本実施形態の場合、軸受合金層12の裏金層11に近い側では、裏金層11と軸受合金層12との界面15を0μmとしたとき、界面15から摺動面13側へ向かう厚さ方向へ10μmの位置から510μmの位置までと当該厚さ方向に垂直な方向へ500μm四方の範囲で軸受合金層12を観察して画像解析を実施する。そして、任意の観察視野において、観察視野に含まれる金属間化合物14の粒子のうち粒子径の大きなものから3つを抽出する。粒子の平均径(A)は、これら抽出した3つの粒子径を平均して算出する。
【0018】
また、軸受合金層12の摺動面13に近い側では、摺動面13を0μmとしたとき、摺動面13の位置から界面15へ向かう厚さ方向へ500μmの位置までと当該厚さ方向に垂直な方向へ500μm四方の範囲で軸受合金層12を観察して画像解析を実施する。そして、任意の観察視野において、観察視野に含まれる金属間化合物14の粒子のうち粒子径の大きなものから3つを抽出する。粒子の平均径(B)は、抽出した3つの粒子径を平均して算出する。
【0019】
粒子径の測定方法は、例えば外接円の径を用いる方法、対象となる粒子の重心を通りかつ外郭の2点を結ぶ直線のうち最大となる直線の長さを用いる方法等、任意の方法で測定することができる。軸受合金層12に含まれる金属間化合物14の粒子は、必ずしも球形や直方体などの定型的ではなく、針状の部分が突出したいびつな形状を呈することがある。そのため、画像解析によって、任意の方法を採用すればよい。本実施形態では、後者である、対象となる粒子の重心を通りかつ外郭の2点を結ぶ直線のうち最大となる直線の長さを粒子径として採用している。
【0020】
本実施形態の摺動部材10では、金属間化合物14は、摺動面13側における粒子の平均径(B)が80μm以上である。金属間化合物14は、軸受合金層12のSn母相よりも硬度が高い。このように、軸受合金層12は、摺動面13に近い側に、粒子の平均径が平均径(B)となる比較的大きな金属間化合物14が存在する。これにより、軸受合金層12は、粒子の平均径(B)が大きく、硬度の高い金属間化合物14によって摩耗の進行が抑えられる。つまり、軸受合金層12に、Sn母相よりも硬度が高く、比較的大きな金属間化合物14が存在することにより、軸受合金層12における摩耗の進行は硬度の高い金属間化合物14によって抑えられる。その結果、軸受合金層12は、耐摩耗性が向上する。
【0021】
これに対し、軸受合金層12に含まれる金属間化合物14のすべてを平均径(B)に設定すると、次のような問題が生じる。つまり、裏金層11と軸受合金層12とは、線膨張係数が異なる。そのため、摺動部材10に温度の変化が生じたとき、裏金層11と軸受合金層12との界面15では、膨張量の違いに起因して、軸受合金層12の裏金層11に近い側に応力が生じる。その結果、金属間化合物14の粒子が大きくなると、母相と二次相である金属間化合物14との界面に生じる応力が集中して大きくなりやすく、クラックが生じるおそれがある。そこで、本実施形態では、裏金層11側における金属間化合物14の粒子の平均径(A)を、摺動面13側に近い側における粒子の平均径(B)よりも小さく設定している。平均径(A)を平均径(B)よりも小さく設定することにより、母相と金属間化合物14との界面に生じる応力を小さくすることができる。つまり、軸受合金層12は、これに含まれる金属間化合物14の平均径(A)が小さいことから、クラックの発生が抑えられる。その結果、軸受合金層12は、裏金層11に近い側においてクラックが軸受合金層12と裏金層11との界面に伸展しにくくなり、接着強度が向上する。これにより、軸受合金層12は裏金層11から剥がれにくくなる。さらに、金属間化合物14の粒子の平均径(B)が小さくなることにより、軸受合金層12の強度そのものも全体として向上する。従って、軸受合金層12の強度を高めることができるだけでなく、耐摩耗性も向上することができるとともに、軸受合金層12におけるクラックの発生を低減し、裏金層11と軸受合金層12との接着強度も高めることができる。
【0022】
本実施形態の摺動部材10では、金属間化合物14は、摺動面13側における粒子の平均径(B)が80μm以上である。このように、摺動面13側における金属間化合物14の粒子の平均径(B)が80μm以上であることにより、金属間化合物14は十分に大きな粒子径を有することとなる。その結果、金属間化合物14は、軸受合金層12における摩耗の進行を抑えやすくなる。従って、耐摩耗性を確実に向上することができる。
【0023】
本実施形態の摺動部材10では、金属間化合物14は、裏金層11側における粒子の平均径(A)に対する摺動面13側における粒子の平均径(B)の比の値を次のように設定している。つまり、比の値(B/A)は、B/A≧1.3に設定している。そして、この比の値(B/A)は、B/A≧1.5に設定することにより、軸受合金層12のより高い耐摩耗性の向上とクラックの低減とを両立することができる。つまり、金属間化合物14は、裏金層11に近い側の平均径(A)と摺動面13に近い側の平均径(B)との間に十分な差が生じることにより、大きな金属間化合物14の粒子による耐摩耗性の向上と、小さな金属間化合物14による接着強度の向上とが確実に両立される。
【0024】
次に、本実施形態による摺動部材10の製造方法について説明する。
摺動部材10は、遠心鋳造によって製造される。具体的には、裏金層11として図2に示すような円筒状の筒部材が用意される。そして、軸受合金層12となる溶融した合金は、回転する裏金層11の内周側に供給される。裏金層11に供給された合金を冷却することにより、軸受合金層12は裏金層11の内周側に形成される。ここで、裏金層11は、軸受合金層12が鋳造される面とは反対側の外周面が冷却される。裏金層11の外周面の冷却は、例えば吹き付ける液体の種類や供給量によって変化する。この裏金層11の冷却を調整することにより、裏金層11の内周側に鋳造される軸受合金層12の冷却速度が変化する。このように鋳造される軸受合金層12の冷却速度を変化させることにより、軸受合金層12に含まれる金属間化合物14の粒子の平均径(A)及び平均径(B)は制御される。つまり、冷却速度を大きくすると小さな平均径(A)の金属間化合物14が生成し、冷却速度を小さくすると大きな平均径(B)の金属間化合物14が生成する。これにより、軸受合金層12に含まれる金属間化合物14は、裏金層11に近い側で小さな平均径(A)に、摺動面13に近い側で大きな平均径(B)に制御される。比の値(B/A)を大きくしたい場合、吹き付ける液体として水を用い、単位時間当たりの供給量を多くすることが望ましい。一例として本実施形態の場合、摺動部材10は、軸受合金層12をSn合金とし、裏金層11を低炭素鋼としている。また、摺動部材10は、外径を600mm、軸方向の長さを200mm、裏金層11の厚さを12mmに設定している。この場合、冷却時に供給する水量は2400〜2800L/min、冷却時間は13秒である。
【0025】
以下、本実施形態の摺動部材10の実施例を図3に基づいて説明する。
実施例では、軸受合金層12に含まれる金属間化合物14の粒子の平均径(A)及び平均径(B)が摺動部材10の性能に与える影響を評価している。具体的には、摺動部材10の評価は、摺動部材10の摩耗量、及び裏金層11と軸受合金層12との接着強度に基づいている。耐摩耗性の評価では、上記の製造方法で製造した摺動部材10から厚さが2mmの平板状の試験片を削り出し、この試験片に対して往復摺動試験を実施した。往復摺動試験の条件は、往復摺動距離を20mm、摺動速度を1.0mm/s、往復回数を50回、荷重を10Nに設定した。接着強度の評価では、上記の製造方法で製造した摺動部材10からISO4386に則って軸受合金層12の厚さを3mmとし、裏金層11の厚さを12mmとしたチャルマー試験片を作製した。そして、この試験片に対して接着強度試験を実施した。接着強度試験の条件は、10MPa/sに設定した。そして、試験片は、摩耗量及び接着強度を評価した。摺動部材10の摩耗量は、4μm以下であれば優良品「◎」、4μmより大きく6μm以下であれば合格品「○」、6μmより大きければ本実施形態に該当しない不合格品「×」とした。また、摺動部材10の接着強度は、80MPa以上を優良品「◎」、70MPa以上であって80MPa未満を合格品「○」、70MPa未満を本実施形態に該当しない不合格品「×」とした。
【0026】
図3に示すように実施例に該当する「試験片1」〜「試験片11」は、いずれも裏金層11に近い側における金属間化合物14の粒子の平均径(A)よりも、摺動面13に近い側における金属間化合物14の粒子の平均径(B)が大きい。そのため、「試験片1」〜「試験片11」は、いずれも摩耗量が小さく、かつ接着強度が高い。これに対し、比較例に該当する「試験片13」は、平均径(A)よりも平均径(B)の方が小さい。そのため、「試験片13」は、摩耗量が大きくなっている。
【0027】
実施例に該当する「試験片1」〜「試験片7」、「試験片9」及び「試験片10」は、摺動面13に近い側における金属間化合物14の粒子の平均径(B)が80μmよりも大きい。そのため、「試験片1」〜「試験片7」、「試験片9」及び「試験片10」は、いずれも摩耗量が小さい。一方、比較例に該当する「試験片12」〜「試験片14」及び「試験片16」は、いずれも平均径(B)が80μmよりも小さい。また、実施例に相当する「試験片8」及び「試験片11」は、平均径(B)が79μmと80μmに近いことから、実施例に該当する他の試験片よりもやや耐摩耗性が低い。これらにより、軸受合金層12において摺動面13に近い側に含まれる金属間化合物14の粒子は、その平均径(B)を80μmより大きく設定することにより、軸受合金層12の摩耗の低減に大きく寄与していることがわかる。
【0028】
実施例に該当する「試験片1」〜「試験片10」は、金属間化合物14の平均径(A)と平均径(B)との比である(B/A)がいずれも1.3以上である。そのため、「試験片1」〜「試験片10」は、いずれも裏金層11と軸受合金層12との間の接着強度が十分に確保されている。特に、「試験片1」〜「試験片5」、「試験片9」は、いずれも(B/A)が1.5以上である。そのため、これら「試験片1」〜「試験片5」、「試験片9」は、耐摩耗性に優れるだけでなく、いずれも裏金層11と軸受合金層12との間の接着強度がより大きくなっている。「比較例15」は、(B/A)が1.5よりも大きいものの、平均径(B)が50μmと小さい。そのため、「比較例15」は、接着強度が確保されるものの、耐摩耗性が低い。このことから、金属間化合物14の平均径(A)と平均径(B)との比の値(B/A)は、裏金層11と軸受合金層12との間の接着強度に影響を与え、これを1.3以上にすることにより、耐摩耗性のみならず接着強度が向上することがわかる。そして、比の値(B/A)を1.5以上にすることにより、耐摩耗性及び接着強度はさらに向上することがわかる。
【0029】
その他に、比較例に該当する「試験片12」〜「試験片14」は、軸受合金層12における添加元素としてSbを含んでいない。そのため、これら「試験片12」〜「試験片14」は、金属間化合物14の粒径の制御が困難であり、平均径(B)及び比の値(B/A)が所望の範囲に含まれない。その結果、軸受合金層12の摩耗が進行することがわかる。また、「比較例15」は、平均径(B)が80μmよりも大きいものの、比の値(B/A)が1.3より小さく、接着強度が小さい。これは、「比較例15」は、軸受合金層12に添加されるSbが20質量%と過剰であることが原因と考えられる。つまり、Sbが過剰な「比較例15」は、金属間化合物14の粒子の平均径(A)及び平均径(B)が大きくなりやすく、裏金層11と軸受合金層12との間の接着強度に影響を与えていると考えられる。同様に、「比較例17」は、金属間化合物14の粒子の平均径(B)が80μmより大きく耐摩耗性が高いものの、比の値(B/A)が1.3より小さく、接着強度が小さい。このことからも、金属間化合物14の粒子の平均径(A)と平均径(B)との比の値(B/A)は、裏金層11と軸受合金層12との間の接着強度に影響を与えることがわかる。
【0030】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
図面中、10は摺動部材、11は裏金層、12は軸受合金層、13は摺動面、14は金属間化合物を示す。
図1
図2
図3