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特開2019-175524光相関システム及び光相関用データの記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-175524(P2019-175524A)
(43)【公開日】2019年10月10日
(54)【発明の名称】光相関システム及び光相関用データの記録方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/0065 20060101AFI20190913BHJP
   G11B 7/135 20120101ALI20190913BHJP
   G11B 7/09 20060101ALI20190913BHJP
   G03H 1/26 20060101ALI20190913BHJP
【FI】
   G11B7/0065
   G11B7/135
   G11B7/09 B
   G03H1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-60719(P2018-60719)
(22)【出願日】2018年3月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)平成30年2月14日発行 電気通信大学 先進理工学科 光エレクトロニクスコース 2017年度 卒業論文発表会予稿集 (2)平成30年2月14日開催 電気通信大学 先進理工学科 光エレクトロニクスコース 2017年度 卒業論文発表会 (3)平成30年3月6日発行 一般社団法人日本光学会 情報フォトニクス研究グループ 2018年 第12回 関東学生研究論文講演会予稿集 (4)平成30年3月6日開催 一般社団法人日本光学会 情報フォトニクス研究グループ 2018年 第12回 関東学生研究論文講演会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「光相関デバイスを活用した超高速データ検索システム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 寿鴻
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳奈美
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 廉
【テーマコード(参考)】
2K008
5D090
5D118
5D789
【Fターム(参考)】
2K008BB00
5D090AA01
5D090CC01
5D090CC04
5D090FF11
5D090FF21
5D090KK12
5D090KK15
5D090LL04
5D118BA01
5D118BB02
5D118CD02
5D118CF01
5D118DA01
5D789AA22
5D789AA50
5D789BA01
5D789BB20
5D789DA01
5D789DA05
5D789FA08
5D789FA13
5D789GA10
5D789KA04
(57)【要約】
【課題】記録部に記録される光相関用データの高密度化と光相関演算の精度の確保とを両立する可能な光相関システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る光相関システムは、複数の光演算用データが光学的に記録された記録媒体を有する記録部と、前記光演算用データと入力データとの光相関演算を行い、前記光演算用データと前記入力データとの相関度に応じた光相関信号を生成する光相関演算部と、前記光相関信号を受光し、前記光演算用データと前記入力データとの相関度を算出する相関度算出部と、を備え、前記記録媒体において隣り合う前記光演算用データ同士の相関度は低く、例えば0%以上50%以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光演算用データが光学的に記録された記録媒体を有する記録部と、
前記光演算用データと入力データとの光相関演算を行い、前記光演算用データと前記入力データとの相関度に応じた光相関信号を生成する光相関演算部と、
前記光相関信号を受光し、前記光演算用データと前記入力データとの相関度を算出する相関度算出部と、
を備え、
前記記録媒体において隣り合う前記光演算用データ同士の相関度が低い、
光相関システム。
【請求項2】
前記記録部は、前記光演算用データの情報を含むデータ光と参照光とを集光させて前記記録媒体に照射するレンズをさらに有する、
請求項1に記載の光相関システム。
【請求項3】
前記相関度算出部は、前記記録媒体において隣り合う前記光演算用データの中心位置同士の離間距離に応じた前記光相関信号の変化量を予め算出し、前記変化量に基づいて前記相関度を補正する相関度補正部をさらに有する、
請求項1又は請求項2に記載の光相関システム。
【請求項4】
前記複数の光演算用データが前記記録部へ読み出される順に並べられたデータベース部をさらに備え、
前記データベース部において、順次並べられた複数の前記光演算用データの前後の前記光演算用データ同士のデジタル照合による相関度に応じて複数の前記光演算用データが逐次並べ替えられる、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の光相関システム。
【請求項5】
光相関システムにおける記録媒体に光相関用データを記録する光相関用データの記録方法であって、
前記記録媒体に複数の前記光相関用データを光学的に順次記録する際に、記録順の前後の前記光演算用データ同士の相関度を0%以上50%以下とするステップを備える、光相関用データの記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光相関システム及び光相関用データの記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、違法動画の検出、個人認証・パターン識別をはじめとするあらゆる分野において、膨大なデータの高速相関演算の需要が高まっている。既存の高速相関演算技術では、大容量データと相関演算する場合、ハードディスクドライブ(HDD)等を備えた記録部からデータを読み出して演算部に転送する際の転送速度がボトルネックになっていた。
【0003】
上述のボトルネックを解消するために、記録部へのデータの書き込み及び読み出しと、入力されたデータと記録メモリから読み出されたデータとの相関演算とを光で行う光相関システムが検討されている。例えば、特許文献1には、超大規模データを光相関演算に適した学習モデルとし、超大規模データからの任意の多次元パターンに関する識別を超高速に行うパターン識別装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/141997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているパターン識別装置では、記録部として、ホログラムで光相関用データを記録可能なホログラフィック光ディスクが用いられている。このホログラフィック光ディスクには、所定の前処理が施された参照データの情報を含む光(以下、参照データ光という)がレンズによって集光しつつ、照射される。ホログラフィック光ディスクには、参照データ光と参照光が重なった部分に干渉縞が形成され、レンズによって集光とともにフーリエ変換された干渉縞が空間周波数フィルターとして書き込まれる。ホログラフィック光ディスクが周方向に回転駆動されると、ホログラフィック光ディスクの記録領域には、周方向に沿って、フーリエ変換されたスポット状の干渉縞(光演算用データ)が複数記録される。
【0006】
特許文献1に開示されているパターン識別装置のように、記録部に光演算用データを光学的に複数記録する方式において、さらなる大容量化を図るためには、スポット状の光演算用データ同士の周方向の間隔を短くすればよい。しかしながら、特許文献1に開示されているパターン識別装置では、光演算用データ同士の間隔を短くして記録密度を高くすると、参照データと入力データとの相関信号が周方向において隣り合う参照データと入力データとの相関信号に影響を受け、相関信号の劣化が発生し、相関演算の精度が低下するという問題があった。すなわち、特許文献1に開示されているパターン識別装置では、記録部に記録される光演算用データの高密度化と光相関演算の精度の確保とを両立することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであって、記録部に記録される光相関用データの高密度化と光相関演算の精度の確保とを両立する可能な光相関システム及び光相関用データの記録方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光相関システムは、複数の光演算用データが光学的に記録された記録媒体を有する記録部と、前記光演算用データと入力データとの光相関演算を行い、前記光演算用データと前記入力データとの相関度に応じた光相関信号を生成する光相関演算部と、前記光相関信号を受光し、前記光演算用データと前記入力データとの相関度を算出する相関度算出部と、を備え、前記記録媒体において隣り合う前記光演算用データ同士の相関度が低いことを特徴とする。
なお、隣り合う光演算用データ同士の相関度が低いとは、隣り合う光演算用データのそれぞれに対する光相関演算を行ったときに光相関信号が良好に識別できる状態を表し、例えば隣り合う光演算用データ同士の相関度が0%以上50%以下であることが好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【0009】
本発明に係る光相関システムでは、前記記録部は、前記光演算用データの情報を含むデータ光と参照光とを集光させて前記記録媒体に照射するレンズをさらに有してもよい。
【0010】
本発明に係る光相関システムでは、前記相関度算出部は、前記記録媒体において隣り合う前記光演算用データの中心位置同士の離間距離に応じた前記光相関信号の変化量を予め算出し、前記変化量に基づいて前記相関度を補正する相関度補正部をさらに有してもよい。
【0011】
本発明に係る光相関システムでは、前記複数の光演算用データが前記記録部へ読み出される順に並べられたデータベース部をさらに備え、前記データベース部において、順次並べられた複数の前記光演算用データの前後の前記光演算用データ同士のデジタル照合による相関度に応じて複数の前記光演算用データが逐次並べ替えられてもよい。
【0012】
本発明に係る光相関用データの記録方法は、光相関システムにおける記録媒体に光相関用データを記録する光相関用データの記録方法であって、前記記録媒体に複数の前記光相関用データを光学的に順次記録する際に、記録順の前後の前記光演算用データ同士の相関度を低くするステップを備えることを特徴とする。
なお、記録順の前後の光演算用データ同士の相関度が低いとは、前後の光演算用データのそれぞれに対する光相関演算を行ったときに光相関信号が良好に識別できる状態を表し、例えば前後の光演算用データ同士の相関度が0%以上50%以下であることが好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、記録部に記録される光相関用データの高密度化と光相関演算の精度の確保とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る一実施形態の光相関システムの概略図である。
図2図1に示す光相関システムにおける参照データの記録の様子を説明する概略図である。
図3図1に示す光相関システムにおける照合の様子を説明する概略図である。
図4】本発明に係る一実施形態の光相関用データの記録方法を説明するための模式図である。
図5】本発明に係る一実施形態の光相関用データの記録方法について数値シミュレーションを行った結果を示すグラフであり、ホログラフィック光ディスクで隣り合う参照データ同士の離間距離と相関度による光相関信号の光強度の変化を示すグラフである。
図6】本発明に係る一実施形態の光相関システムを適用可能なパターン識別装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光相関システム及び光相関用データの記録方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
[光相関システムの構成]
図1に示すように、本発明に係る一実施形態の光相関システム340は、少なくとも複数の光演算用データが光学的に記録されたホログラフィック光ディスク(記録媒体)356を有する記録照合部(記録部)501と、ホログラフィック光ディスク356から読み出された光演算用データと入力データとの光相関演算を行い、光演算用データと入力データとの相関度に応じた光相関信号を生成する光相関演算部502と、光相関信号を受光し、光演算用データと入力データとの相関度を算出する相関度算出部503と、を備える。本実施形態では、記録照合部501が光相関演算部502としても機能する。
【0017】
光相関システム340において、記録用光源341は、高速に回転するホログラフィック光ディスク356に対して後述するホログラムを精密に記録するためにパルスレーザーであることが好ましく、本実施形態では中心波長532nmの緑色光GL1を発するQスイッチレーザーである。照合用光源357は、連続して照合を行うことを可能とするために連続発振レーザー(CWレーザー)であることが好ましく、本実施形態では記録用光源341と同じ中心波長532nmの緑色光GL2を発するCWレーザーである。
【0018】
記録用光源341及び照合用光源357から出射された緑色光GL1,GL2は、ビームエキスパンダー342,358を通って拡大され、λ/4板343,359を通り、緑色光GL1のみミラー344で折り返され、偏光ビームスプリッター345で合わせられる。偏光ビームスプリッター345から出射した緑色光GL1,GL2は、λ/4板346を通り、偏光ビームスプリッター347によって反射され、空間光変調器348に入射する。λ/4板346と偏光ビームスプリッター345との間にシャッター369が設けられ、記録時にはシャッター369によって緑色光GL1が遮断され、照合時にはシャッター369によって緑色光GL2が遮断される。
【0019】
空間光変調器348は、光相関用データを表示可能である。記録時には、空間光変調器348に参照データ(光相関用データ)が表示され、照合時には、空間光変調器348に照合データ(入力データ、光相関用データ)が表示される。参照データの前処理等については、後述する。空間光変調器348には、光相関システム340で照合される複数の参照データが収容されたコンピュータ等からなるデータベース部800と、照合対象である照合データを空間光変調器348に送信する照合データ入力部805が接続されている。すなわち、前述のように記録時に空間光変調器348に表示される参照データは、データベース部800から読み出される。照合時に空間光変調器348に表示される照合データは、照合データ入力部805から送信される。
【0020】
空間光変調器348から反射された緑色光GL1,GL2は、光相関用データに関する情報を有し、偏光ビームスプリッター347、レンズ349、偏光ビームスプリッター350、λ/4板352、レンズ353、回折ビームスプリッター354を順に通り、記録照合部501に入射する。
【0021】
記録照合部501は、入射する緑色光GL1,GL2をの光照射側の表面356aからホログラフィック光ディスク356に照射するためのアクチュエーター355を有する。アクチュエーター355は、ミラー371とレンズ372とを備える。前述のように記録照合部501に入射した緑色光GL1,GL2は、ミラー371で反射され、レンズ372によってホログラフィック光ディスク356の厚み方向の所定の位置に集光する。
【0022】
光相関システム340では、レンズ372に対するホログラフィック光ディスク356に対するフォーカシングが赤色レーザー光を用いて行われる。具体的には、サーボ用光源364は、中心波長650nmの赤色光RLを発するCWレーザーである。サーボ用光源364から出射された赤色光RLは、偏光ビームスプリッター365を通り、ミラー366で折り返され、λ/2板367を通り、回折ビームスプリッター354で反射され、アクチュエーター355に入射する。アクチュエーター355に入射した赤色光RLは、レンズ372によって集光する前後で拡散し、前述のように緑色光GL1,GL2にとってレンズ372に対してホログラフィック光ディスク356が所定の離間距離に配置されていれば、ホログラフィック光ディスク356からは殆ど反射されない。一方、レンズ372に対するホログラフィック光ディスク356の離間距離が所定値からずれると、赤色光RLがホログラフィック光ディスク356から反射され、反射された赤色光RLがサーボ用光源364から出射され、ホログラフィック光ディスク356に照射された赤色光RLと同じ進路を偏光ビームスプリッター365まで逆向きに進む。その後、赤色光RLは偏光ビームスプリッター365によって反射され、フォトディテクタ368で受光される。フォトディテクタ368で受光された赤色光RLの光強度に応じて、不図示のサーボ機構によってレンズ372に対するホログラフィック光ディスク356の離間距離が調整される。
【0023】
照合時に、ホログラフィック光ディスク356から参照データと照合データとの光相関信号として出射される緑色光GL3は、ホログラフィック光ディスク356から偏光ビームスプリッター350まで、緑色光GL2と同じ進路を緑色光GL2とは逆向きに進む。緑色光GL3は、偏光ビームスプリッター350によって反射され、レンズ360を通り、ミラー361で折り返され、レンズ362を通って光電子増倍管やフォトディテクタ等の受光素子(相関度算出部)363で受光される。受光素子363には、受光した緑色光GL3の光強度に基づいて参照データと照合データとの相関度を算出するコンピュータ810が接続される。本実施形態において、受光素子363とコンピュータ810は、相関度算出部503として機能する。
【0024】
コンピュータ(相関度補正部)810は、図2に示すようにホログラフィック光ディスク356の周方向R1において隣り合う参照用データの中心位置同士の離間距離dに応じた光相関信号の変化量を予め算出し、この変化量に基づいて参照データと照合データとの相関度を補正可能とすることが好ましい。
【0025】
[光相関システムにおける記録と照合(光相関演算)の原理]
図2は、ホログラフィック光ディスク356に光演算用データが記録される様子を図1とは上下方向を逆にして示している。図2に示すように、ホログラフィック光ディスク356は、ガラス基板等からなる円盤状の基板601と、基板601の光照射側の表面601aに積層された記録層602と、記録層602の光照射側の表面602aに積層されたカバー層603と、を備える。ホログラフィック光ディスク356は、モーター等の不図示の回転機構によって、平面視の中心を回転軸Oとして周方向R1に沿って回転駆動される。
【0026】
光演算用データの種類やサイズは特に限定されないが、光相関システム340に適用でき、ホログラフィック光ディスク356の大きさと特性に好適な大きさにする必要がある。本実施形態では、参照データ及び照合データとして、例えば240×180pixel2のサイズにリサイズされた画像を用いることができる。複数の参照データの画像のそれぞれは、元のサイズから240×180pixel2のサイズにリサイズされ、ホログラフィック光ディスク356への記録の前処理として、所定の特徴抽出を施される。
【0027】
所定の特徴抽出では、前述のようにリサイズされた参照データがグレースケール化された後、エッジ抽出が行われる。この際、画像内の白の画素(すなわち、空間光変調器348で反射されてホログラフィック光ディスク356に記録される画素)が参照データの全画素数に対して約20%になるように、ホワイトレートが調整される。
【0028】
ホワイトレートの調整がなされたエッジ抽出後の参照データは、バイナリ化される。バイナリ化された参照データの各画素は、乱数を用いて作成されたアドレス情報に基づいて、全体として円形をなすように、新たに配置される。円形に配置された参照データは、物体光の情報として配置されていることになる。円形に配置された参照データの径方向外側には、周方向全周にわたり参照光の情報が配置される。したがって、空間光変調器348に前述の参照データ及び参照光が表示されると、空間光変調器348で反射される緑色光(データ光)GL1に対して、物体光と参照光の各情報が同時に付与される。
【0029】
図2に示すように、ホログラフィック光ディスク356の記録層602において、レンズの集光作用によって緑色光GL1の物体光と参照光とが重なる部分が生じ、干渉縞Fが形成される。つまり、フーリエ変換された緑色光GL1の干渉縞Fをホログラフィック光ディスク356に記録することによって、光演算用データが空間周波数フィルターとしてホログラフィック光ディスク356に記録される。
【0030】
ホログラフィック光ディスク356が回転軸Oを中心として周方向R1に回転駆動しつつ、複数の参照データの情報が付与された緑色光GL1が記録用光源341から出射される光パルスに合わせて時系列に順次、ホログラフィック光ディスク356の記録層602に照射される。したがって、ホログラフィック光ディスク356の記録層602には、周方向R1に沿って干渉縞Fが複数形成されている。記録層602において周方向R1で隣り合う光演算用データ同士の相関度は、0%以上50%以下が好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%未満であることがさらに好ましい。
【0031】
また、データベース部800において、記録時における空間光変調器348への読み出し順に並べられる複数の参照データは、読み出し順前後の参照データ同士のデジタル照合による相関度に応じて、逐次並べ替えられることが好ましい。この際、上述のように、読み出し順前後の参照データ同士の相関度は、少なくとも0%以上50%以下が好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%未満であることがさらに好ましい。
【0032】
照合時は、図1に示す照合データ入力部805を介して入力された照合データに、前述の参照データと同様の前処理を施される。前処理された照合データは、前述の参照データと同様に、乱数を用いて作成されたアドレス情報に基づいて、全体として円形をなすように、新たに配置される。参照データとは異なり、円形に配置された照合データの径方向外側には、参照光の情報は配置されない。空間光変調器348に、前述の照合データが表示されると、空間光変調器348で反射される緑色光GL2に対して、物体光の情報が付与される。
【0033】
図3に示すように、照合データに基づく物体光の情報が付与された緑色光GL2は、前述の記録時の緑色光GL1と同様に、レンズ372によって集光しつつ、ホログラフィック光ディスク356の記録層602の干渉縞Fに照射される。ホログラフィーの原理に基づくと、照合データが参照データと同一であれば、自己相関となり、干渉縞Fから参照光が再生される。また、参照データに対する照合データの相関度が高くなる程、強い参照光が再生される。ホログラフィック光ディスク356の干渉縞Fから再生される参照光は、前述した参照データと照合データとの光相関信号として出射される緑色光GL3である。
【0034】
[光相関用データの記録方法]
本発明に係る一実施形態のホログラフィック光ディスク356への参照データの記録方法(光相関用データの記録方法)は、少なくともホログラフィック光ディスク356に複数の参照データ(光相関用データ)を光学的に順次記録する際に、記録前後の参照データ同士の相関度を低くする第1ステップ(ステップ)を備える。
【0035】
ところで、上述の光相関システム340の照合速度は、参照データの転送速度Vによって決まり、次に示す(1)式によって表される。
【0036】
【数1】
【0037】
なお、(1)式におけるPは記録する参照データのデータサイズ[pixel]であり、Rは照合時のホログラフィック光ディスク356の回転速度[rpm]であり、dは図2に示したようにホログラフィック光ディスク356の周方向R1において隣り合う参照用データの干渉縞Fの中心位置同士の離間距離であり、rはホログラフィック光ディスク356の半径[mm]である。
【0038】
光相関システム340の照合速度の高速化を図る方法として、(1)式からわかるよう参照データの記録密度を高くする、すなわち干渉縞Fの中心位置同士の離間距離dを短くすることが挙げられる。ただし、離間間隔dを短くすると、光相関信号間のクロストークによる影響が大きくなり、ホログラフィック光ディスク356の周方向R1において隣り合う参照用データの光相関信号のbottom to peak値(以下、b−p値と記載する)が低下することがある。
【0039】
そこで、図4に示すように、本実施形態の参照データの記録方法では、第1ステップのようにデータベース部800から空間光変調器348に読み出す順番の前後の参照データ同士の相関度を少なくとも0%以上50%以下とし、前述の順番に従って順次読み出された参照データの情報を付与されたデータ光によってホログラフィック光ディスク356の周方向R1に干渉縞Fを形成し、光演算用データを前述の相関度に合った離間距離dでホログラフィック光ディスク356の記録層602に記録する第2ステップとを備える。
【0040】
第1ステップでは、図4に示すように、例えばデータベース化の対象の動画を所定の時間フレームごとに切り出した参照データ(または参照データ群)を用意する。
【0041】
一般に、時間フレームごとに切り出したままの順番では、並び順前後で互いに相関の高い参照データが配置される。つまり、参照データAと参照データAとの相関度は50%より高くなっていることが多い。このような順番のまま空間光変調器348に読み出して参照データA,A,…,B,Bをホログラフィック光ディスク356の記録層602に記録し、照合すると、互いに相関の高いデータが続く部分では高い光強度の光相関信号同士が時間軸上で近寄ることでb−p値が低下する。
【0042】
上述のことをふまえ、第1ステップでは、隣り合う参照データ同士の相関度が少なくとも低く、例えば50%以下になるように複数の参照データを並び替える。なお、b−p値の低下を抑える点から、隣り合う参照データ同士の相関度は0%以上50%以下が好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%未満であることがさらに好ましい。このように相関度をふまえた参照データを並び替えを行うために、データベース部800において、読み出し順前後の参照データ同士のデジタル照合による相関度に応じて、複数の参照データを逐次並べ替えてもよい。
【0043】
具体例として、以下の条件により光相関システム340にて取得した光相関信号の光強度分布を用いて、光相関信号をモデル化し、コンピュータ上でのb−p値についてシミュレーションを行った。
<条件>
*記録レーザーパワー:4.39μJ
*ホログラフィック光ディスク356の半径:42.5mm
*記録間隔(離間間隔d):41.2μm
*記録時波長:532nm
*参照画像サイズ:180×240pixel
なお、本シミュレーションでは、図3に示すように再生された参照光の進路上に、直線で図示した折り返し用のミラーを配置し、再生された参照光のみを受光すると想定した。
【0044】
上述の条件をふまえ、シミュレーション時には光相関信号の光強度分布をガウス二項近似を用いたモデル化し、離間間隔d及びホログラフィック光ディスク356への記録時に隣り合う参照データ同士の相関度に応じた光相関信号の平均値を算出し、評価した。図5に示すように、記録時に隣り合う参照データ同士の相関度が20%以下である場合、隣り合う参照データ同士の離間距離dに対する光相関信号の強度平均の変化は略同様の傾向になった。このように記録時に隣り合う参照データ同士の相関度が20%以下というように低い場合、図4(右下)の模式的なグラフに示すように、時間軸上で隣り合う光相関信号の低下の影響が少なく、光相関信号の平均値が高くなり、とても高いb−p値及び照合時の精度が達成されると考えられる。記録時に隣り合う参照データ同士の相関度が30%以上50%以下である場合についても、離間距離dが約0.5μm以上1.5μm以下において光相関信号の平均値が記録時に隣り合う参照データ同士の相関度が30%以上である場合に比べて比較的高くなり、高いb−p値及び照合時の精度が達成されると考えられる。また、図5に示すように、離間間隔dが3μm以上になると、参照データ同士の離間距離が光相関信号の低下に影響しない程度に大きくなり、光相関信号の平均値も殆ど変化しない。すなわち、上述の条件では、隣り合う参照データ同士の相関度は0%以上50%以下が好ましく、0%より大きく40%以下であることがより好ましく、10%以上30%未満であることがさらに好ましいといえる。また、離間距離dは、0.8μm以上3.0μm以下であって、(離間距離d[μm]/記録時波長[μm])の係数では訳1.50以上5.64以下であることが好ましい。前述の離間距離dの範囲において、良好なb−p値及び照合時の精度が達成されると考えられる。
【0045】
また、上述のように光相関システム340のパラメータと参照データ及び照合データがあらかじめわかれば、光相関信号の数値シミュレーションが可能である。そのため、コンピュータ810において、ホログラフィック光ディスク356の周方向R1において隣り合う参照用データの干渉縞Fの中心位置同士の離間距離dに応じた光相関信号の変化量を予め算出し、この変化量に基づいて参照データと照合データとの相関度を補正可能とすることが好ましい。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の光相関システム340は、上述の複数の参照データが光学的に記録されたホログラフィック光ディスク356を有する記録照合部501と、参照データと照合データとの光相関演算を行い、参照データと照合データとの相関度に応じた光相関信号を生成する光相関演算部502と、光相関信号を受光し、参照データと照合データとの相関度を算出する相関度算出部503と、を備える。本実施形態の光相関システム340は、ホログラフィック光ディスク356において隣り合う参照データ同士の相関度が低いことを特徴とする。
光相関システム340によれば、隣り合う参照データ同士の相関度が低いので、離間距離dを短くしても、隣り合う参照データ同士のうち一方の参照データの高い光相関信号が他方の参照データの高い光相関信号を低下させるのを抑えることができる。すなわち、離間距離dを短くし、(1)式に基づいて記録照合部501に記録される参照データの高密度化及び光相関システム340の照合速度の高速化を図ることができる。同時に、光相関信号のb−p値を高く保持し、参照データの高密度化及び光相関システム340の照合速度の高速化と光相関演算の精度の確保とを両立できる。
【0047】
光相関システム340において、記録照合部501は、参照データの情報を含むデータ光と参照光とを集光させてホログラフィック光ディスク356に照射するレンズ372を有する。
レンズ372を有することによって、データ光と参照光とを含む緑色光GL1がホログラフィック光ディスク356の記録層602に集光しつつフーリエ変換され、複数の参照データを高密度かつホログラフィックに記録できる。
【0048】
光相関システム340において、相関度算出部503は、ホログラフィック光ディスク356において隣り合う参照データの干渉縞Fの中心位置同士の離間距離dに応じた光相関信号の変化量を予め算出し、光相関信号の変化量に基づいて参照データと照合データとの相関度を補正するコンピュータ810をさらに有する。
コンピュータ810で参照データと照合データとの相関度を補正することによって、離間距離dをさらに短くしたときに高い光相関信号同士が時間軸上で近づいて光相関信号のb−p値が低下しても、予め算出した光相関信号の変化量(低下量)を用いて光相関信号を補正し、参照データと照合データとの相関度を補正できる。このことによって、コンピュータ810(すなわち、相関度補正部)を有さない場合に比べて、離間距離dをより一層短くし、参照データの高密度化及び光相関システム340の照合速度の高速化を促進できる。
【0049】
光相関システム340において、複数の参照データが記録照合部501へ読み出される順に並べられたデータベース部800をさらに備え、データベース部800において、順次並べられた複数の参照データの前後の(すなわち、並べ順において隣り合った)参照データ同士のデジタル照合による相関度に応じて、複数の参照データが逐次並べ替えられる。
データベース部800が設けられると共に、データベース部800における参照データの並べ替えがなされることによって、空間光変調器348に表示される複数の参照データの表示順で隣り合う参照データ同士の相関度を適宜低くし、参照データの高密度化及び光相関システム340の照合速度の高速化と光相関演算の精度の確保とを効率よく両立できる。
【0050】
なお、光相関システム340では、ホログラフィック光ディスク356において隣り合う参照データ(すなわち、データベース部800において空間光変調器348に表示する順に配列され、配列順において隣り合う参照データ)は、互いに異なるコンテンツ由来のデータとしてもよい。このような構成によれば、隣り合う参照データ同士の相関度を低くし、複数の参照データの高密度化を実現し、光相関システム340の照合速度の高速化と光相関演算の精度の確保とを両立できる。
【0051】
また、光相関システム340では、ホログラフィック光ディスク356において隣り合う参照データ(すなわち、データベース部800において空間光変調器348に表示する順に配列され、配列順において隣り合う参照データ)は、互いに異なる特徴量抽出器を用いて抽出されたデータとしてもよい。このような構成においても、隣り合う参照データ同士の相関度を低くし、複数の参照データの高密度化を実現し、光相関システム340の照合速度の高速化と光相関演算の精度の確保とを両立できる。
【0052】
また、本実施形態の参照データの記録方法は、ホログラフィック光ディスク356に複数の参照データを光学的に順次記録する際に、記録順の前後の参照データ同士の相関度を低くする第1ステップを備える。
本実施形態の参照データの記録方法によれば、光相関システム340において、記録順の前後の参照データ同士の相関度を低くするので、離間距離dを短くしても、隣り合う参照データ同士のうち一方の参照データの高い光相関信号が他方の参照データの高い光相関信号を低下させるのを抑えることができる。すなわち、参照データの高密度化及び光相関システム340の照合速度の高速化と光相関演算の精度の確保とを両立できる。
【0053】
なお、上述の光相関システム340を光相関器としてパターン識別装置や各種認証装置に適用できる。例えば、特許文献1には、学習処理を行う学習手段100、光記憶部に特徴抽出部、光演算用データ生成部を介してデータ登録処理を行う登録手段200、光演算用データ変換部310、光演算用特徴ベクトル光記憶部320を保持し、相関度計算330を行う光演算手段300、および識別対象データから特徴量を抽出する特徴抽出部220、光演算用データ変換部310を介して相関度計算330を行う識別処理を行う識別手段400から構成されたパターン識別装置1が開示されている。パターン識別装置1に対し、光相関器(光相関システム)340Sとして上述の光相関システム340を活用できる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0055】
例えば、上述の実施形態では、光相関システム340の記録媒体として回転駆動される円盤状のホログラフィック光ディスク356である説明したが、本発明に係る光相関システムの記録媒体は、複数の光演算用データが所定の方向に沿って異なる位置に記録可能であれば、その種類や構成は限定されない。例えば、立方形状を有する記録媒体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0056】
340・・・光相関システム
340S・・・光相関器(光相関システム)
356・・・ホログラフィック光ディスク
372・・・レンズ
501・・・記憶部
502・・・光相関演算部
503・・・相関度算出部
800・・・データベース部
810・・・コンピュータ(相関度補正部)
d・・・離間距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6