【解決手段】絶縁被覆されたワイヤが巻回されたコイル15と、ワイヤを包埋する複合磁性体20と、を含むコイル部品100であって、複合磁性体が、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、を含み、金属磁性粉末の平均粒子径D
・・・(1)、ただし、Fmaxはコイル部品への印加周波数を増大させた場合にQ値が最大値を超えて低下を開始する使用上限周波数[MHz]であり、ρは金属磁性材料の電気抵抗率[μΩ・cm]である。
前記金属磁性材料が、Feと、Ni、Si、CrおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属材料と、の合金である請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
はじめに、本発明の金属磁性粉末を用いて作成される複合磁性体20を備えるコイル部品100について説明する。
【0017】
図1(a)は本発明の実施形態にかかるコイル部品100の一例を示す斜視図である。
図1(b)は
図1(a)のB−B線断面図である。
図1(a)においては、便宜上、複合磁性体20を破線で図示し、複合磁性体20に覆われているコイル組立体10を実線で図示する。
図1(b)では複合磁性体20の断面にのみハッチングを付し、コイル組立体10の断面のハッチングは省略している。
【0018】
コイル部品100はコイル15を有し、端子部16に給電することによりコイル15がインダクタンスを発生させる電子部品であり、磁心を備えた各種磁性素子が挙げられる。具体的にはコイル(チョークコイルを含む)、インダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、モータ、発電機、トランス、アンテナなどが挙げられる。特に本実施形態のコイル部品100は、直流−直流コンバータを構成するインダクタとして好適に用いられる。
【0019】
本実施形態では一本の平線のワイヤがエッジワイズ巻きされたコイル部品100を例示するが、ワイヤは丸線でもよく、また本数やターン数は特に限定されない。コイル部品100は、絶縁被覆されたワイヤが巻回されたコイル15と、このコイル15を包埋する複合磁性体20と、を含む。複合磁性体20がコイル15を包埋するとは、ワイヤの巻回された部分の少なくとも一部を複合磁性体20が覆っていることをいう。
【0020】
コイル15は磁性体コア12に装着されてコイル組立体10を構成している。複合磁性体20は、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末とバインダ樹脂とを含み、コイル組立体10を覆う磁性外装体である。複合磁性体20は、コイル15を構成する巻回されたワイヤのループ同士の隙間にも充填されていてよい。
【0021】
磁性体コア12は、板状部13と、この板状部13から起立する芯部14と、を備え、板状部13と芯部14とは一材により一体形成されている。磁性体コア12は、フェライトを焼成したフェライトコアや、磁性粉末を圧縮成形した圧粉コアである。圧粉コアの磁性粉末としては、鉄(Fe)を主成分とし、シリコン(Si)およびクロム(Cr)がそれぞれ1wt%以上かつ10wt%以下の割合で添加された磁性粉末を用いることができる。コア損失を低減する観点から、上記磁性粉末と非晶質金属とを混合した金属磁性粉末を用いてもよい。非晶質金属としては、鉄(Fe)を主成分とし、シリコン(Si)とクロム(Cr)をそれぞれ1wt%以上かつ10wt%以下、更に炭素(C)を0.1wt%以上かつ5wt%以下含有する炭素含有非晶質金属を用いることができる。
【0022】
図1(a)および(b)に例示するコイル部品100は、巻回されたコイル15から非巻回部19が引き出され、磁性体コア12の板状部13の下面に沿うように折り曲げられて端子部16を構成している。端子部16はコイル部品100の下面に沿って平坦に形成されており、表面実装端子として用いられる。コイル15を構成するワイヤは、端子部16を除く領域において絶縁被覆され、端子部16において絶縁被覆は除去されている。
【0023】
なお、
図1(a)および(b)に示したコイル部品100は本発明の一例であり、図示の形態に限定されるものではない。例えば非巻回部19や端子部16がコイル15と共通のワイヤで構成されていることを要するものではない。また磁性体コア12を省略し、コイル15のループの内側を複合磁性体20で充填して磁性体コアとしてもよい。
【0024】
<複合磁性体>
以下、コイル15を包埋する複合磁性体20について詳細に説明する。複合磁性体20は、少なくとも金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末とバインダ樹脂とを含む。本実施形態の複合磁性体20は略直方体状をなし、コイル15および磁性体コア12の芯部14の全体を包埋している。ただし、複合磁性体20の形状は任意であり略直方体状に限られるものではない。
【0025】
金属磁性粉末について説明する。
金属磁性粉末は鉄を主成分とする磁性粉末であれば特に限定されず、例えば、鉄を主成分として含み、副成分として、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、クロム(Cr)およびアルミ(Al)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属材料を添加した合金を用いることができる。また、アモルファス金属粉末を用いてもよい。具体的には、Fe−Si系、Fe−Al系、センダスト(Fe−Si−Al系)、パーマロイ(Ni−Fe系)などの合金や、アモルファス金属のような非結晶性金属や、カルボニル鉄粉などの結晶性鉄粉などが挙げられる。
【0026】
金属磁性粉末における鉄の含有率は90wt%以上であることが好ましく、92wt%以上であることがより好ましい。また、98wt%以下であることが好ましく、97wt%以下であることがより好ましい。
金属磁性粉末は、上記のような副成分の少なくとも1つを含み、残部が鉄および不可避的不純物であることが好ましい。
【0027】
金属磁性粉末は、Niを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。Niは大気中の酸素と結合して化学的に安定な酸化物を生成する。Niの酸化物は耐食性に優れるほか比抵抗が大きいため、複合磁性体20を構成する粒子の表面付近にNiの酸化物層が形成されることにより粒子間をより確実に絶縁し、粒子間渦電流損失を抑制することができる。したがって、Niの含有率を上記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに渦電流損失のより小さいコイル部品を製造可能な金属磁性複合材料が得られる。
【0028】
同様の理由により、金属磁性粉末は、Crを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。また金属磁性粉末は、Alを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。
【0029】
金属磁性粉末は、Siを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。Siは金属磁性粉末を用いて得られる電子部品の透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末がSiを含むと比抵抗が高くなるため、粒子間渦電流損失を抑制し得る成分でもある。したがって、Siの含有率を上記範囲内とすることにより、透磁率を高めつつ、渦電流損失のより小さいコイル部品を製造可能な金属磁性複合材料が得られる。
【0030】
金属磁性粉末は、上記のような主成分および副成分の他に、副成分より含有率の小さい成分として、B(ホウ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)等のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
また、金属磁性粉末は、製造過程で不可避的に混入するP(リン)、S(硫黄)等の成分を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
【0031】
金属磁性粉末の好ましい粒子径については後記にて詳述する。
金属磁性粉末は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法により製造されたものを用いることが好ましい。
水アトマイズ法は、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。水アトマイズ法で製造された金属磁性粉末は、その製造過程で表面が酸化し、酸化鉄を含む酸化物層が自然に形成される。ガスアトマイズ法は、溶湯の流れに周囲から不活性ガスや空気などのジェット気流を吹き付けて溶湯の流れを粉化し、擬固させて金属粉末とする方法である。水アトマイズ法やガスアトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が球形に近くなるため、複合磁性体20における金属磁性粉末の充填率を高めることができる。
【0032】
粒子内渦電流損失を抑制するため、金属磁性粉末の表面に絶縁コートを施してもよい。絶縁コートとしては、シリカコートやアルミナコートなどのパウダーコーティングを好適に用いることができる。
【0033】
複合磁性体20において金属磁性粉末の含有率は90〜99wt%であることが好ましく、92〜98wt%であることがより好ましい。
【0034】
バインダ樹脂について説明する。
バインダ樹脂はバインダとしての役割を果たすものであれば特に限定されず、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の熱硬化性樹脂のほか、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。特に、シリコーン系樹脂またはエポキシ系熱硬化性樹脂が好ましい。バインダ樹脂は固体粉末でもよく、液体のものでもよい。
【0035】
本発明の材料におけるバインダ樹脂の含有量は、バインダ樹脂の含有量(重量)/(バインダ樹脂の含有量(重量)+金属磁性粉末の含有量(重量))×100の計算値が1〜10wt%となる量であることが好ましく、2〜8wt%となる量であることがより好ましく、4.0wt%程度となる量であることがさらに好ましい。
本発明の材料におけるバインダ樹脂の含有量がこのような範囲であると、金属磁性粉末が極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れるコイル部品を得ることが可能な複合磁性体20が得られる。
【0036】
複合磁性体20は、その他の成分として、バインダ樹脂が熱硬化樹脂である場合には有機金属石鹸を含んでもよい。有機金属石鹸は、その融点がバインダ樹脂の熱硬化温度以下のものが好ましく、かつNa(ナトリウム)またはK(カリウム)を含まないものが好ましい。
【0037】
複合磁性体20を調製するにあたり、バインダ樹脂を溶解する溶媒を必要により用いる。溶媒としては、アルコール、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒が例示される。
【0038】
複合磁性体20は造粒されたものであってもよい。造粒の方法としては、混練造粒、ペレタイジングなどの従来公知の方法を適用することができる。また、複合磁性体20は分級を施したものであってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0039】
<金属磁性粉末の粒子径>
本発明者らは、粒子内渦電流損失を抑制して高いQ値を実現するため、インダクタ(コイル部品)のQ−F特性(印加周波数とQ値との関係)を分析した。
図2はインダクタのQ−F特性の一例を示す図である。一般的なインダクタは、
図2に示すように印加周波数を低い値から増大させていくとQ値が増大し、そして最大値(Qmax)を示した後に、更に印加周波数を増大させるとQ値は漸減した後に急激に低下していく。そこで、Qmaxと実用的に大きな差が無く、かつQ値の急激な低下が開始する手前の印加周波数として、Qmaxよりも高周波側であってQ値がQmaxから6%だけ低下する周波数を、使用上限周波数(Fmax)と定義する。この使用上限周波数(Fmax)は、そのインダクタを低損失で使用可能な最大周波数である。
【0040】
つぎに、インダクタのコイルを包埋する複合磁性体に用いられる金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]と使用上限周波数(Fmax[MHz])との関係を調査した。具体的には、金属磁性材料を6通りに異ならせることにより電気抵抗率(ρ)[μΩ・cm]を6通りに変化させ、各金属磁性材料を水アトマイズ法で粉末化した。そして各電気抵抗率の金属磁性粉末を更に風力分級法によって平均粒子径D
50が1〜30μmの異なる10以上の粉体にそれぞれ調整した。
なお、本明細書において平均粒子径D
50とは、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)による粒子径分布測定装置を用いて求めた粒度分布における積算値50%での粉末直径を意味する。具体的な測定機器としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布) LA−960(HORIBA製作所社製)を挙げることができる。また、金属磁性粉末の電気抵抗率とは、粉末化する前のバルクの金属磁性材料を試料として測定した抵抗値から算出したものを意味する。すなわち本明細書において金属磁性材料の電気抵抗率と金属磁性粉末の電気抵抗率とは同義である。
【0041】
下記の表1に示す電気抵抗率(ρ)=10[μΩ・cm]の金属磁性粉末はFe単体を用いたものである。そして電気抵抗率(ρ)=40,67,85,104,123[μΩ・cm]の金属磁性粉末は、それぞれFe50Ni合金,Fe4Cr3Si合金,Fe10Si5Al合金,Fe10Cr3Al合金,Fe19Cr3Al合金を用いたものである。
【0042】
そして、分級された上記の各粉体に、バインダ樹脂として熱硬化型エポキシ樹脂を4.0wt%の含有量となるように混合し、さらに溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)を添加して混合し、自公転型混合器で十分に撹拌した。その後、撹拌しながら溶媒を除去し、300μm以下の粒径の顆粒状に造粒して複合磁性体を得た。作製された複合磁性体の造粒粉を用いて、以下の要領で6mm四方かつ3mm高さの直方体状のインダクタ素子(コイル部品)を作製した。
すなわち、線径0.5mmの絶縁被覆銅線(丸線)で2.5turnのコイルを作製し、これを下パンチが挿入された金型内にセットした。このとき、コイルを構成する銅線の両端(コイル端部)は巻回部から引き出して金型の外部に露出させた。その後、約0.5gの上記造粒粉を金型に投入し、上パンチをセットした後、3〜8ton/cm
2の圧力でコイルと共に複合磁性体をプレス成形してコイル成形体とした。成形条件は、いずれの粉末も、コイル成形体の全体積のうち金属磁性粉末の占積率が70vol%となるように調製して作製した。
プレス成形後、金型からコイル成形体を取り出し、これを150℃で2時間熱処理し、バインダ樹脂である熱硬化型エポキシ樹脂の熱硬化処理を行った。その後、メッキした一対の銅電極をコイル部品に接着し、更にこの銅電極に複合磁性体から露出するコイルの両端部をそれぞれ半田付けして、インダクタ素子(コイル部品)とした。
【0043】
作製したインダクタ素子について、HP4294A(キーサイト・テクノロジーズ社製:インピーダンスアナライザー)を用いて印加周波数ごとのQ値の観測を行った。そしてQ値が最大値(Qmax)を示す周波数を測定し、当該周波数よりも高周波側でQ値がQmaxから6%だけ低下する使用上限周波数(Fmax)を測定した。この結果、電気抵抗率(ρ)がいずれの場合も、金属磁性粉末の平均粒子径D
50が大きいインダクタ素子ほど使用上限周波数(Fmax)が減少することが分かった。言い換えると電気抵抗率(ρ)が一定の場合、インダクタ素子の使用上限周波数(Fmax)は、複合磁性体の金属磁性粉末の平均粒子径D
50の増大に伴って単調に減少することが分かった。
【0044】
次に、上記の平均粒子径D
50と使用上限周波数(Fmax)との関係式に基づき、インダクタ素子の使用上限周波数(Fmax)が10MHz,7MHz,5MHz,3MHz,1MHzとなるような金属磁性粉末の平均粒子径D
50を、電気抵抗率(ρ)ごとに求めた。結果を表1に示す。
【0046】
表1は、例えば電気抵抗率(ρ)が10[μΩ・cm]の金属磁性粉末を複合磁性体に用いたインダクタ素子の場合、使用上限周波数(Fmax)が10MHzとなるのは金属磁性粉末の平均粒子径D
50が2μmであったことを意味する。同様に、電気抵抗率(ρ)が10[μΩ・cm]の金属磁性粉末の場合、使用上限周波数(Fmax)が7MHz、5MHz、3MHz、1MHzとなる平均粒子径D
50は、それぞれ3μm、4μm、6μm、8μmであった。
そして金属磁性粉末の材料を上述のように異ならせて電気抵抗率(ρ)を40、67、85、104、123[μΩ・cm]とした場合、インダクタ素子の使用上限周波数(Fmax)が10MHz、7MHz、5MHz、3MHz、1MHzとなる平均粒子径D
50[μm]はそれぞれ表1に示す数値となった。
【0047】
図3は、使用上限周波数(Fmax)を1MHzから10MHzまで変化させた場合の電気抵抗率(ρ)と平均粒子径(D
50)との関係を示す図であり、電気抵抗率(ρ)を横軸、平均粒子径(D
50)を縦軸として表1の結果をプロットしたものである。
図3には使用上限周波数(Fmax)ごとの近似曲線を重ねて表示してある。この近似曲線は、いずれも以下の共通の式(1a)で表される。
D
50=2.192×(Fmax)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(1a)
すなわち驚くべきことに、1MHzから10MHzにわたる幅広い高周波領域において、共通の式(1a)によって、使用上限周波数(Fmax)をちょうど実現する金属磁性粉末の平均粒子径(D
50)を規定できることが分かった。
そしてこの現象は、表1に示したように金属磁性粉末の電気抵抗率(ρ)が少なくとも10[μΩ・cm]以上140[μΩ・cm]以下という幅広いレンジにおいて確認および実証されているといえる。上の式(1a)の右辺の係数および指数は、バインダ樹脂の材料、金属磁性粉末の上記占積率、Q値がQmaxから何%低下した周波数を使用上限周波数(Fmax)にするかの設定、コイルの線径およびターン数などの各種パラメータにより僅かに変動する場合があるが、その変動幅は小さく、実用的には上記の平均粒子径D
50は使用上限周波数(Fmax)および電気抵抗率(ρ)の2つを変数とする上の式(1a)で表現することができる。
【0048】
ここで、
図4は金属磁性粉末の平均粒子径(D
50)と、かかる金属磁性粉末を複合磁性体に用いてコイルを埋設してなるインダクタ素子のQ値の最大値との関係を示す図である。
図4は、印加周波数を10MHzとし、金属磁性粉末の電気抵抗率(ρ)を40[μΩ・cm]または85[μΩ・cm]で一定とした場合の、金属磁性粉末の平均粒子径(D
50:横軸)とQ値の最大値(Qmax:縦軸)との関係を示している。
図4に示すように、金属磁性粉末の平均粒子径(D
50)を小さくするほどインダクタ素子のQ値の最大値は単調に増大し、この全体的な傾向は金属磁性粉末の電気抵抗率(ρ)の値によらず共通することが分かる。また、金属磁性粉末の平均粒子径(D
50)を大きな値から減少させていくと、Q値の最大値は線形的に増大していくが、所定の平均粒子径(D
50)を境界としてこの傾向は急激に減衰し、それ以下の平均粒子径(D
50)ではQ値の最大値がほぼ一定になることが分かる。なお、金属磁性粉末の電気抵抗率(ρ)が40[μΩ・cm]の場合の上記境界となる平均粒子径(D
50)は約5μmであり、電気抵抗率(ρ)が85[μΩ・cm]の場合の上記境界となる平均粒子径(D
50)は約8μmである。これらの数値は、
図3における10MHzのグラフにおいて、電気抵抗率(ρ)=40[μΩ・cm]の結果および85[μΩ・cm]の結果に概略対応する。
【0049】
図4の結果および上記の式(1a)から、式(1a)で算出される平均粒子径(D
50)以下の粒子サイズであれば、高いQ値、すなわちQmaxの6%減の値と同等以上のQ値(以下、「Qmax同等値」という)を実現できるといえる。以上より、上記の式(1a)と右辺を同じくする以下の式(1)が導かれる。
D
50≦2.192×(Fmax)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(1)
ただし、Fmaxはコイル部品への印加周波数を増大させた場合にQ値が最大値を超えて低下を開始する使用上限周波数[MHz]であり、ρは金属磁性材料の電気抵抗率[μΩ・cm]である。そして金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]が上記の式(1)を満たすことで、コイル部品(インダクタ素子)はQmax同等値を実現することができる。
【0050】
そして本発明の金属磁性粉末は、上記のコイル部品においてコイルを包埋する複合磁性体に用いられる、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末であり、そして上記の式(1)を満たすことを特徴とする。
【0051】
本発明により提供されるコイル部品は、直流−直流コンバータを構成するインダクタ素子として好適に用いられる。そしてこのインダクタ素子は高周波帯域においても粒子内渦電流損失を抑制して高いQ値(Qmax同等値)を実現するものであることから、特に印加周波数が高周波帯域である態様で好適に用いられる。ここで、高周波帯域とは1MHz以上を意味する。すなわち本発明により提供されるコイル部品は、使用上限周波数[MHz]を1MHz以上とすることができる。また、使用上限周波数[MHz]を10MHz以上としてもよい。
【0052】
本実施形態のコイル部品であるインダクタ素子は電子機器に用いることができる。すなわち本発明により提供される電子機器は、上記の式(1)を満たす平均粒子径D
50の金属磁性粉末とバインダ樹脂を含む複合磁性体でコイルを包埋したコイル部品と、スイッチング周波数が1MHz以上であるスイッチング素子と、これらコイル部品およびスイッチング素子が搭載されたスイッチング回路を有する回路基板と、を備える。かかる構成により、電子機器に入力された直流電流をスイッチング素子によりパルス電流に細分し、そしてコイル部品(インダクタ素子)により所望に電圧変換した後に整流器で整流するなどして再び直流電流として取り出すことができる。そしてスイッチング周波数が1MHz以上と高周波でもインダクタ素子における粒子内渦電流損失を抑制し、高いQ値にて直流−直流電圧変換を行うことが可能である。
【0053】
スイッチング素子としては、トランジスタやMOSFETなどの公知の素子を用いることができる。スイッチング素子で行われるスイッチング周波数は、上記のように1MHz以上とすることができ、10MHz以上とすることもできる。
【0054】
ここで、スイッチング素子におけるスイッチング周波数が高いほど、コイルを包埋する複合磁性体の金属磁性粉末の平均粒子径D
50を小さくすることが好ましい。これにより、当該スイッチング周波数に細分されたパルス電流をコイル部品(インダクタ素子)に通電した場合に発生する粒子内渦電流損失を十分に抑制することができる。
【0055】
したがって、本発明により提供される電子機器に搭載されたコイル部品においては、複合磁性体の金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]が、スイッチング素子によるスイッチング周波数を変数とする以下の式(2)で定義される上限粒子径D
MAX[μm]よりも小さいことが好ましい。この式(2)は、上記の式(1a)の右辺における使用上限周波数(Fmax)をスイッチング素子のスイッチング周波数に置き換えたものであり、すなわち、
D
MAX=2.192×(スイッチング周波数)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(2)
で表される。
【0056】
上記の式(2)で表される上限粒子径D
MAXは、あるスイッチング周波数の交番電圧が印加されるインダクタ素子がQmax同等値を示すための、金属磁性粉末(ただし、電気抵抗率=ρ)の平均粒子径D
50の上限値である。
例えば、
図3に示した例で言えば、電気抵抗率(ρ)が85[μΩ・cm]の金属磁性粉末で複合磁性体を作製する場合、かつ電子機器のスイッチング周波数が5MHzである場合、上限粒子径D
MAXは12.5[μm]となる。したがって複合磁性体に採用される金属磁性粉末の平均粒子径D
50が12.5[μm]以下(例えば10[μm])であれば、インダクタ素子はQmax同等値を実現することができる。
【0057】
以上から、本発明によれば、所定の電気抵抗率(ρ)[μΩ・cm]を有しコイルを包埋する複合磁性体に用いられる金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]の許容上限値(D
MAX)を教示する支援装置が提供される。
この支援装置は、コイル部品がQmax同等値を実現するための金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]を教示してコイル部品の作製を支援する装置である。そしてこの支援装置は、記憶部と入力部と参照部と出力部とを有している。
記憶部には上記の式(2)の右辺のスイッチング周波数を、コイル部品に印加される交番電圧の印加周波数に置き換えた以下の式(3);
D
MAX=2.192×(印加周波数)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(3)
を示す情報が記憶されている。
入力部は、電気抵抗率(ρ)および印加周波数を示す情報の入力をユーザーから受け付けるインタフェースである。
参照部は、上記の記憶部を参照し、入力部に入力された電気抵抗率および印加周波数を上記の式(3)に代入して金属磁性粉末の平均粒子径D
50の許容上限値(D
MAX)を読み出す手段である。
そして出力部は、参照部により読み出された許容上限値(D
MAX)を出力する手段である。
【0058】
本実施形態の支援装置は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるように、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット、等の汎用デバイスで構築されたハードウェア、所定の処理動作を実行するように構築された専用の論理回路、これらの組み合わせ、等として実施することができる。
具体的には、記憶部はRAMなどの記憶装置であり、上記の式(3)の関数形式および各係数を示す情報が記憶されている。このほか記憶部は、式(3)を印加周波数と電気抵抗率(ρ)の二変数のテーブル形式で記憶してもよい。入力部はキーボードなどの入力用I/Fユニットであり、出力部はディスプレイなどの出力用I/Fユニットである。参照部はCPUの機能として実現される。
【0059】
ただし支援装置の各種の構成要素は、その機能を実現するように形成されていればよく、たとえば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたデータ処理装置、コンピュータプログラムによりデータ処理装置に実現された所定の機能、これらの任意の組み合わせ、等として実現することができる。そして、支援装置の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、一つの構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0060】
本実施形態の支援装置によれば、作製されるコイル部品100の印加周波数および使用する金属磁性粉末の電気抵抗率から、当該金属磁性粉末の平均粒子径D
50の許容上限値(D
MAX)を算出ことができる。一方、金属磁性粉末の平均粒子径D
50を過小とすることは水アトマイズ法などで金属粉末を微粒子化する工程が煩雑となり、また複合磁性体の流動性が低下して成形性が劣るなどの問題がある。そこで、金属磁性粉末の平均粒子径D
50は、許容上限値(D
MAX)以下であって、かつ当該許容上限値(D
MAX)の50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。かかる数値範囲の平均粒子径D
50とすることで、インダクタ素子に高いQ値が得られるとともに、かかるインダクタ素子を容易かつ安定して製造することができる。そして金属磁性粉末の平均粒子径D
50が許容上限値(D
MAX)の70%以上100%以下であることで、当該範囲内のいずれの数値を選択する場合も、共通の分級プロセスによって金属磁性粉末の平均粒子径D
50を調整することができる。
【0061】
<コイル部品の製造方法>
本実施形態のコイル部品100の製造方法は特に限定されず多種の製造方法を採用することができる。以下、製造方法の複数の態様を説明する。
【0062】
(態様1)圧縮成形による製造方法
(1−1)準備工程
この方法では、まず平角線や丸線からなる巻線のコイルを用意する。コイルは、ワイヤを巻回した巻回部(コイル15:
図1(a)参照)と、この巻回部から引き出された巻線の両端部(非巻回部19:
図1(a)参照)とで構成されたものを用いることができる。ただし、
図1(a)、(b)に示したコイル組立体10のように、磁性体コア12や端子部16を有するものでもよい。
一方で、水アトマイズ法やガスアトマイズなどの造粒方法で金属磁性材料を微細化して作られた略球形の金属磁性粉末を用意する。このとき、上記の式(3)を参照して、金属磁性材料の電気抵抗率(ρ)およびコイル部品の印加周波数に基づいて決定される許容上限値(D
MAX)を予め算出しておく。そして微細化された金属磁性粉末を分級し、その平均粒子径D
50が上記の許容上限値(D
MAX)以下となるように金属磁性粉末を調製する。つぎに、この金属磁性粉末にバインダ材料および必要により溶媒を添加して混合し、乾燥した複合磁性体またはペースト状の複合磁性体を調製する。なお、金属磁性粉末、バインダ樹脂および溶媒の添加の順番は特に限定されない。上記の混合は、混錬造粒であってよい。また、混合した後、分級を施してもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
(1−2)圧縮成形工程
コイルを常温のプレス機械の金型内に置き、金型の開口からコイルの巻回部を埋設するように複合磁性体を金型内に投入する。ただし、巻線の両端部は複合磁性体から露出させる。
次に、金型の上下両方またはどちらか一方から、可動のパンチ(プレスヘッド)により金型内の複合磁性体とコイルに対して、例えば1〜5[ton/cm
2]の圧力をかける。これにより複合磁性体を圧縮し、複合磁性体とコイル部を一体化する。
(1−3)取出工程
その後、金型から上記一体のコイル部を取り出し、必要に応じて熱硬化工程を経ってバインダ樹脂を硬化させる。その後、更に必要に応じて、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0063】
(態様2)温間成形による製造方法(ホットプレス方法)
(2−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程と共通とすることができる。
(2−2)温間成形工程
当該工程においては、上記(1−2)の工程と同じくコイルと金属磁性材料とを一体にする。具体的には以下の(A)または(B)の工程を採ることができる。
(A)プレス機械の加熱されている金型にコイルを入れ、その上から(2−1)で準備された乾燥した粉体状またはペースト状の複合磁性体を入れる。次に、金型の上下両方またはどちらか一方から、可動のプレスヘッドにより金型内の複合磁性体とコイルに対して、10[kg/cm
2]〜1[ton/cm
2]の圧力を加えてこれらを一体化させる。複合磁性体に含まれるバインダ樹脂に熱硬化性樹脂を使う場合は、まず熱硬化性樹脂を熱硬化温度以下かつ軟化温度以上に加熱して軟化させた状態でプレス一体化成形を行い、成形後に複合磁性体およびコイルを熱硬化温度以上に加熱するとよい。
(B)プレス機械の加熱されている金型に(2−1)で準備された乾燥した粉体状またはペースト状の複合磁性体を入れ、次に、その複合磁性体の上に載せるようにコイルを金型内に投入する。以降は上記(A)と共通である。
(2−2)の工程によれば、必要とされるプレスの力が(態様1)の圧縮成形における圧力負荷よりも遥かに低くてすみコイルへのダメージが少ないというメリットがある。
(2−3)取出工程
複合磁性体に含まれるバインダ樹脂に熱可塑性樹脂を用いた場合、またはバインダ樹脂に熱硬化性樹脂を用いて熱硬化前に金型から取り出す場合には、バインダ樹脂の軟化温度以下まで金型を冷却する。その後、金型から複合磁性体とコイルが一体化されたコイル部品を取り出す。バインダ樹脂に熱硬化性樹脂を用いて金型内で熱硬化させた場合には冷却せずに金型からコイル部品を取り出すことが可能である。その後、更に必要に応じて、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0064】
(態様3)射出成形による製造方法
(3−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程と共通とすることができる。
(3−2)射出成形工程
調製された乾燥した複合磁性体またはペースト状の複合磁性体を射出成形機械のスクリュー機に入れ、加熱状態で攪拌して粘液状にする。次に、上記のコイルを射出成形機械の金型(キャビティ)内に配置して金型を締める。次に、金型のゲート(開口)を通して、高い射出圧にて流動性の良い粘液状の上記複合磁性体を金型内に射出して暫く保持し、複合磁性体を硬化させる。
(3−3)取出工程
その後、コイルと複合磁性体とが一体化されたコイル部品を金型から取り出す。その後、更に必要に応じて、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0065】
(態様4)トランスファー成形による製造方法
(4−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程と共通とすることができる。但し、複合磁性体を定量化するため、複合磁性体をペレット状に成形してもよい。
(4−2)トランスファー成形工程
まず、上記のコイルを金型(キャビティ)内に配置して金型を締める。次に、プランジャー内でいったん加熱軟化させた複合磁性体を、ゲートなどの流路を通して、加熱されたキャビティの中に押し込んで成形および硬化させる。
(4−3)取出工程
上記(3−3)で説明した工程と共通とすることができる。
【0066】
(態様5)可塑性(粘土状)材料の室温成形方法
(5−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程とほぼ共通する。但し、複合磁性体は、可塑性が強く圧力に応じて変形するように粘土状に調製するため、可塑剤としてフタル酸ジエチル等の有機溶剤を添加する。調製された粘土状の複合磁性体は、ブロック状やシート状に成形する。粘土状の複合磁性体は、流動性が殆どないことが特徴である。バインダ樹脂には熱硬化樹脂を用いるとよい。
(5−2)成形工程
まず、コイルを金型に入れて、その上からブロック状またはシート状の複合磁性体を当該金型に入れる。次に、金型の上下両方またはどちらか一方から、可動のパンチ(プレスヘッド)により金型内の複合磁性体とコイルに対して、例えば0.1[kg/cm
2]〜50[kg/cm
2]の圧力をかける。これにより複合磁性体を圧縮し、複合磁性体とコイル部を一体化する。
他の製造方法に比べて、この成形工程は小さい圧力で複合磁性体を変形させることが特徴である。また、この成形工程は常温下で行うことができる。
(5−3)取出工程
その後、コイルと複合磁性体とが一体化されたコイル部品を金型から取り出す。その後、熱硬化工程を施してバインダ樹脂を熱硬化させる。その後、更に必要に応じて、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0067】
(態様6)湿式成形による製造方法
(6−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程とほぼ共通する。複合磁性体には溶媒を添加し、常温でペースト状に調製するとよい。
(6−2)成形工程
まず、コイルを金型に入れ、その上からペースト状の複合磁性体を金型に入れる。次に、ブレードやカッターなどの道具で、金型からあふれ出した複合磁性体を取り除く。更に溶媒の乾燥を行う。この時、コイルや複合磁性体に負荷される圧力は無視できる程度に低い。この成形工程においては、コイルへの負荷が少なく、また室温で施されるため製造設備を単純化することができるというメリットがある。
(6−3)取出工程
その後、コイルと複合磁性体とが一体化されたコイル部品を金型から取り出す。その後、バインダ樹脂が熱硬化樹脂である場合は熱硬化工程を施してバインダ樹脂を硬化させる。その後、更に必要に応じて、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0068】
(態様7)液圧成形による製造方法
(7−1)準備工程
上記(1−1)で説明した工程と共通とすることができる。
(7−2)液圧成形工程
大きな凹型のトレーに複数のコイルを設置し、これらのコイルを埋設するように、複合磁性材料を投入する。次に、ゴム製の先端部を有する金属製の加圧パーツを上記のトレーに載せ、複合磁性体が漏れないように密封の空間を形成する。次に、上記のトレーと加圧パーツとを一緒に、水または油が貯留された液層に浸漬し、更に加圧パーツに加重を負荷して複合磁性体を加圧する。
(7−3)取出工程
その後、コイルと複合磁性体とが一体化されたコイル部品を金型から取り出す。その後、バインダ樹脂が熱硬化樹脂である場合は熱硬化工程を施してバインダ樹脂を硬化させる。その後、更に必要に応じて、個々コイルの切断、複合磁性体の表面の研磨やコーティング、巻線の両端部の端子加工など様々の工程を選択的に施す。
【0069】
本発明のコイル部品の製造方法は、上記のような態様1〜7に代表される方法であって、絶縁被覆されたワイヤが巻回されたコイルと、このコイルを包埋する複合磁性体と、を含むコイル部品の製造方法である。そして複合磁性体に包含される金属磁性粉末は、コイル部品への印加周波数および電気抵抗率を変数とする上記の式(1)を満たす平均粒子径D
50を有するものである。上記の態様1〜7の製造方法によれば、金属磁性粉末とバインダ樹脂とを混合した複合磁性体をコイルに対して隙間なく密接させた状態でブロック状などに成形することができる。
【0070】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0071】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
<1>絶縁被覆されたワイヤが巻回されたコイルと、前記コイルを包埋する複合磁性体と、を含むコイル部品であって、前記複合磁性体が、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、を含み、前記金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]が以下の式(1)を満たすことを特徴とするコイル部品;
D
50≦2.192×(Fmax)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(1)
ただし、Fmaxは前記コイル部品への印加周波数を増大させた場合にQ値が最大値を超えて低下を開始する使用上限周波数[MHz]であり、ρは前記金属磁性材料の電気抵抗率[μΩ・cm]である。
<2>前記Fmaxが1MHz以上である上記<1>に記載のコイル部品。
<3>前記電気抵抗率が10[μΩ・cm]以上140[μΩ・cm]以下である上記<1>または<2>に記載のコイル部品。
<4>前記金属磁性材料が、Feと、Ni、Si、CrおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属材料と、の合金である上記<1>から<3>のいずれか一項に記載のコイル部品。
<5>前記金属磁性粉末が結晶性鉄粉である上記<1>から<3>のいずれか一項に記載のコイル部品。
<6>上記<1>から<5>のいずれか一項に記載のコイル部品と、スイッチング周波数が1MHz以上であるスイッチング素子と、前記コイル部品および前記スイッチング素子が搭載されたスイッチング回路を有する回路基板と、を備える電子機器。
<7>前記スイッチング周波数を前記式(1)の右辺のFmaxに代入した以下の式(2)で定義される上限粒子径D
MAX[μm];
D
MAX=2.192×(スイッチング周波数)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(2)
よりも前記平均粒子径D
50[μm]が小さいことを特徴とする上記<6>に記載の電子機器。
<8>上記<1>から<5>のいずれか一項に記載のコイル部品に用いられる、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末であって、平均粒子径D
50[μm]が以下の式(1)を満たすことを特徴とする金属磁性粉末;
D
50≦2.192×(Fmax)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(1)
ただし、Fmaxは前記コイル部品への印加周波数を増大させた場合にQ値が最大値を超えて低下を開始する使用上限周波数[MHz]であり、ρは前記金属磁性材料の電気抵抗率[μΩ・cm]である。
<9>所定の電気抵抗率(ρ)[μΩ・cm]を有しコイルを包埋する複合磁性体に用いられる金属磁性粉末の平均粒子径D
50[μm]の許容上限値(D
MAX)を教示する支援装置であって、以下の式(3);
D
MAX=2.192×(印加周波数)
-0.518×ρ
0.577 ・・・(3)
を示す情報が記憶された記憶部と、電気抵抗率(ρ)および印加周波数の入力を受け付ける入力部と、前記記憶部を参照し、入力された前記電気抵抗率および前記印加周波数を前記式(3)に代入して前記金属磁性粉末の前記平均粒子径D
50の許容上限値(D
MAX)を読み出す参照部と、読み出された前記許容上限値(D
MAX)を出力する出力部と、を有する支援装置。