【解決手段】鉄心製品の製造方法は、治具に取り付けられている鉄心製品を治具と共に加熱することと、治具及び鉄心製品が加熱されて第1の温度を示すときに、鉄心製品を治具から取り外すことと、鉄心製品を治具から取り外すことの後に、鉄心製品が第1の温度よりも低い第2の温度となり且つ治具が第1の温度よりも低い第3の温度となるように、鉄心製品と治具とを別々に冷却することとを含む。
前記治具が前記第1の温度から前記第3の温度に冷却される際の冷却速度は、前記鉄心本体が前記第1の温度から前記第2の温度に冷却される際の冷却速度よりも大きい、請求項1に記載の方法。
前記鉄心本体及び前記治具が前記第1の温度にあるとき、前記貫通孔内に位置している前記ポストは前記鉄心本体から離間しており、前記鉄心本体及び前記治具がそれぞれ前記第2の温度及び前記第3の温度にあるとき、前記ポストの外形が前記貫通孔内の空間よりも大きい、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0009】
[回転子積層鉄心の構成]
まず、
図1を参照して、回転子積層鉄心1(鉄心製品)の構成について説明する。回転子積層鉄心1は、回転子(ロータ)の一部である。回転子は、図示しない端面板及びシャフトが回転子積層鉄心1に取り付けられることにより構成される。回転子が固定子(ステータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。本実施形態における回転子積層鉄心1は、埋込磁石型(IPM)モータに用いられる。
【0010】
回転子積層鉄心1は、
図1に示されるように、積層体10(鉄心本体)と、複数の永久磁石12と、複数の固化樹脂14とを備える。
【0011】
積層体10は、
図1に示されるように、円筒状を呈している。積層体10の中央部には、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通する軸孔10a(貫通孔)が設けられている。すなわち、軸孔10aは、積層体10の積層方向に延びている。積層方向は、積層体10の高さ方向(以下、単に「高さ方向」という。)でもある。本実施形態において積層体10は中心軸Ax周りに回転するので、中心軸Axは回転軸でもある。軸孔10a内には、シャフト(図示せず)が挿通される。
【0012】
積層体10には、複数の磁石挿入孔16が形成されている。磁石挿入孔16は、積層体10の外周縁に沿って所定間隔で並んでいる。磁石挿入孔16は、中心軸Axに沿って延びるように積層体10を貫通している。すなわち、磁石挿入孔16は高さ方向に延びている。
【0013】
磁石挿入孔16の形状は、本実施形態では、上方から見て積層体10の外周縁に沿って延びる長孔である。磁石挿入孔16の数は、本実施形態では6個である。磁石挿入孔16は、上方から見て時計回りにこの順に並んでいる。磁石挿入孔16の位置、形状及び数は、モータの用途、要求される性能などに応じて変更してもよい。
【0014】
積層体10は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ESが所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。積層体10は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体10の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0015】
高さ方向において隣り合う打抜部材W同士は、カシメ部18によって締結されていてもよい。これらの打抜部材W同士は、カシメ部18に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。例えば、複数の打抜部材W同士は、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して積層体10を得た後、仮カシメを当該積層体から除去してもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(回転子積層鉄心1)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0016】
永久磁石12は、
図1及び
図2に示されるように、各磁石挿入孔16内に一つずつ挿入されている。永久磁石12の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体形状を呈している。永久磁石12の種類は、モータの用途、要求される性能などに応じて決定すればよく、例えば、焼結磁石であってもよいし、ボンド磁石であってもよい。
【0017】
固化樹脂14は、永久磁石12が挿入された後の磁石挿入孔16内に溶融状態の樹脂材料(溶融樹脂)が充填された後に当該溶融樹脂が固化したものである。固化樹脂14は、永久磁石12を磁石挿入孔16内に固定する機能と、高さ方向で隣り合う打抜部材W同士を接合する機能とを有する。固化樹脂14を構成する樹脂材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂と、硬化開始剤と、添加剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。添加剤としては、フィラー、難燃剤、応力低下剤などが挙げられる。
【0018】
[回転子積層鉄心の製造装置]
続いて、
図2〜
図6を参照して、回転子積層鉄心1の製造装置100について説明する。
【0019】
図2に示されるように、製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ES(被加工板)から回転子積層鉄心1を製造するための装置である。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、治具取付装置140と、樹脂注入装置150と、分離装置160と、冷却装置170,180と、積厚測定装置190と、コントローラCtr(制御部)とを備える。
【0020】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて間欠的に順次送り出す。
【0021】
打抜装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0022】
積層体10は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130と治具取付装置140との間を延びるように設けられたコンベアCv1に載置される。コンベアCv1は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、積層体10を治具取付装置140に送り出す。
【0023】
治具取付装置140は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。治具取付装置140は、積層体10を後述する治具Jに取り付ける機能を有する。治具取付装置140は、
図3に示されるように、載置台141と、取付機構142とを含む。
【0024】
載置台141は、コンベアCv1の下流端側で且つ後述のコンベアCv2の下流端側に位置している。載置台141には、コンベアCv2によって搬送された治具Jが載置される。取付機構142は、例えばロボットハンドであってもよい。取付機構142は、コンベアCv1の下流端まで搬送された積層体10を把持し、載置台141上の治具Jに取り付けるように構成されている。
【0025】
ここで、治具Jは、
図4に示されるように、ベースJaと、挿通ポストJb(ポスト)とを含む。ベースJaは、金属製の板状体であり、積層体10を載置可能に構成されている。挿通ポストJbは、金属製の円柱状体であり、ベースJaの上面から上方に向けて略鉛直に延びている。挿通ポストJbは、ベースJaに対して固定されている。挿通ポストJbの外径は軸孔10aと同程度であってもよい。
【0026】
樹脂注入装置150は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。樹脂注入装置150は、各磁石挿入孔16に永久磁石12を挿通する機能と、永久磁石12が挿通された磁石挿入孔16内に溶融樹脂を充填する機能とを有する。樹脂注入装置150は、
図5に詳しく示されるように、上型151と、内蔵熱源152(加熱源)と、複数のプランジャ153とを含む。
【0027】
上型151は、治具JのベースJaと共に積層体10を高さ方向において挟持可能に構成されている。上型151がベースJaと共に積層体10を挟持する際、積層体10には積層方向から所定の荷重が付与される。
【0028】
上型151は、矩形状を呈する板状部材である。上型151には、一つの貫通孔151aと、複数の収容孔151bとが設けられている。貫通孔151aは、上型151の略中央部に位置している。貫通孔151aは、挿通ポストJbに対応する形状(略円形状)を呈しており、挿通ポストJbが挿通可能である。
【0029】
複数の収容孔151bは、上型151を貫通しており、貫通孔151aの周囲に沿って所定間隔で並んでいる。各収容孔151bは、ベースJa及び上型151が積層体10を挟持した際に、積層体10の磁石挿入孔16に対応する箇所にそれぞれ位置している。各収容孔151bは、円柱形状を呈しており、少なくとも一つの樹脂ペレットPを収容する機能を有する。
【0030】
内蔵熱源152は、例えば、上型151に内蔵されたヒータである。内蔵熱源152が動作すると、上型151を介して積層体10及び治具Jが加熱されると共に、各収容孔151bに収容された樹脂ペレットPが加熱される。これにより、樹脂ペレットPが溶融して溶融樹脂に変化する。
【0031】
複数のプランジャ153は、上型151の上方に位置している。各プランジャ153は、図示しない駆動源によって、対応する収容孔151bに対して挿抜可能となるように構成されている。
【0032】
分離装置160は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。分離装置160は、治具Jに取り付けられている回転子積層鉄心1を治具Jから取り外す機能を有する。分離装置160は、
図3に示されるように、載置台161と、取外機構162とを含む。
【0033】
載置台161には、治具Jに取り付けられている回転子積層鉄心1が樹脂注入装置150から搬送されて載置される。取外機構162は、例えばロボットハンドであってもよい。取外機構162は、載置台161上の積層体10を把持し、回転子積層鉄心1を治具Jから取り外すと共に、分離された治具J及び回転子積層鉄心1をそれぞれコンベアCv2,Cv3の上流端側に移載するように構成されている。
【0034】
冷却装置170(第2の冷却装置)は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。冷却装置170は、治具Jを冷却する機能を有する。冷却装置170は、
図3に示されるように、コンベアCv2と、冷却室171とを含む。
【0035】
コンベアCv2は、治具Jを分離装置160から治具取付装置140に搬送するように構成されている。そのため、コンベアCv2の上流端側は分離装置160に向けて延びており、コンベアCv2の下流端側は治具取付装置140に向けて延びている。
【0036】
冷却室171は、コンベアCv2の中間部分に配置されている。冷却室171内には、
図6に詳しく示されるように、冷却板172が配置されている。冷却板172は、上下方向に移動可能に構成されていると共に、内部を冷媒が流通可能に構成されている。一方、冷却室171内においては、コンベアCv2も、内部を冷媒が流通可能に構成されている。そのため、コンベアCv2により治具Jを間欠的に移動しつつ、コンベアCv2の停止時に、冷却室171内において、治具JをコンベアCv2と冷却板172とで挟持することを繰り返すことにより、治具JとコンベアCv2及び冷却板172との間で熱交換が行われ、治具Jが冷却される。
【0037】
コンベアCv2内及び冷却板172内を流れる冷媒の温度は、例えば、室温よりも低くてもよいし、10℃程度以下であってもよい。なお、本明細書において、「室温」とは、15℃〜35℃の範囲の温度をいうものとする。
【0038】
冷却装置180(第1の冷却装置)は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。冷却装置180は、回転子積層鉄心1を冷却する機能を有する。冷却装置180は、
図3に示されるように、コンベアCv3と、冷却室181と、ブロア182とを含む。
【0039】
コンベアCv3は、回転子積層鉄心1を分離装置160から積厚測定装置190に搬送するように構成されている。そのため、コンベアCv3の上流端側は分離装置160に向けて延びており、コンベアCv3の下流端側は積厚測定装置190に向けて延びている。
【0040】
冷却室181は、コンベアCv3の中間部分に配置されている。ブロア182は、冷却室181に接続されており、冷却室181内に室温の空気を送り込むように構成されている。そのため、コンベアCv3によって冷却室181内を搬送される回転子積層鉄心1は、室温の空気との間で熱交換が行われ、冷却される。そのため、本実施形態では、冷却室171による治具Jの冷却速度が、冷却室181による回転子積層鉄心1の冷却速度よりも大きく設定されている。
【0041】
積厚測定装置190は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作する。積厚測定装置190は、積層体10の積厚(回転子積層鉄心1の高さ)を測定する機能を有する。積厚測定装置190は、積層方向から所定の荷重を積層体10に付与した状態で積層体10の積厚を測定し、その測定結果をコントローラCtrに送信するように構成されている。
【0042】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130、治具取付装置140、樹脂注入装置150、分離装置160、冷却装置170,180及び積厚測定装置190をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、これらに当該指示信号をそれぞれ送信する。
【0043】
コントローラCtrは、積厚測定装置190によって測定された積厚のデータが基準内であるか否かを判断する機能を有する。積厚が基準内にある場合、コントローラCtrは当該回転子積層鉄心1が良品であると判断する。これにより、所定の基準に適合した回転子積層鉄心1が得られる。一方、積厚が基準外にある場合、コントローラCtrは当該回転子積層鉄心1が不良品であると判断する。不良品と判断された回転子積層鉄心1は製造ラインから除外される。
【0044】
[回転子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図2〜
図6を参照して、回転子積層鉄心1の製造方法について説明する。まず、コントローラCtrが打抜装置130に指示して、電磁鋼板ESを順次打ち抜きつつ打抜部材Wを積層して、積層体10を形成する。
【0045】
次に、コントローラCtrがコンベアCv1に指示して、積層体10を治具取付装置140に向けて搬送する。次に、治具Jが載置台141に載置されている状態において、コントローラCtrが取付機構142に指示して、コンベアCv1の下流端側に位置する積層体10を治具Jに取り付ける。具体的には、挿通ポストJbを軸孔10aに嵌入して、積層体10をベースJaに載置する。積層体10の治具Jへの取付に際して、積層体10及び治具Jは、予熱されていなくてもよいし、予熱されていてもよい。
【0046】
次に、治具Jに取り付けられている積層体10を樹脂注入装置150に搬送して、
図4に示されるように、各磁石挿入孔16内に永久磁石12を挿入する。各磁石挿入孔16内への永久磁石12の挿入は、人手で行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて、樹脂注入装置150が備えるロボットハンド(図示せず)等により行われてもよい。
【0047】
次に、
図5に示されるように、上型151を積層体10上に載置する。その後、積層体10は、ベースJaと上型151とで高さ方向から挟持され、積層体10が所定の荷重にて加圧される。次に、各収容孔151bに樹脂ペレットPを投入する。内蔵熱源152が作動して樹脂ペレットPが溶融状態となると、溶融樹脂をプランジャ153によって各磁石挿入孔16内に注入する。このとき、積層体10は、内蔵熱源152により、例えば60℃〜220℃程度に加熱される。その後、溶融樹脂が固化すると、磁石挿入孔16内に固化樹脂14が形成される。こうして、積層体10に永久磁石12が固化樹脂14と共に取り付けられる。上型151が積層体10から取り外されると、回転子積層鉄心1が完成する。
【0048】
次に、治具Jに取り付けられている回転子積層鉄心1を分離装置160に搬送して、載置台161に載置する。次に、コントローラCtrが取外機構162に指示して、治具Jから回転子積層鉄心1を取り外す。具体的には、治具Jが載置台161に固定された状態で、取外機構162が回転子積層鉄心1を把持し、挿通ポストJbの高さ方向(略鉛直方向)に回転子積層鉄心1を引き上げる。前の工程で内蔵熱源152により積層体10及び治具Jが加熱されているので、分離時の回転子積層鉄心1及び治具Jの温度T1(第1の温度)は、例えば60℃〜200℃程度であってもよい。
【0049】
取外機構162は、挿通ポストJbから回転子積層鉄心1を引き抜くと、回転子積層鉄心1をコンベアCv3の上流端側に載置する。一方、回転子積層鉄心1が引き抜かれた後の治具Jは、コンベアCv2の上流端側に載置される。
【0050】
次に、治具Jは、コンベアCv2により搬送されて、冷却装置170に投入される。冷却装置170内では、治具JがコンベアCv2及び冷却板172によって冷却される。冷却装置170から出た後の治具Jの温度T2(第3の温度)は、温度T1よりも低く、例えば室温以下であってもよい。冷却された治具Jは、コンベアCv2により治具取付装置140へと搬送される。すなわち、治具Jは、治具取付装置140、樹脂注入装置150、分離装置160及び冷却装置170の順に循環している。
【0051】
一方、回転子積層鉄心1は、コンベアCv3により搬送されて、冷却装置180に投入される。冷却装置180内では、ブロア182からの送風により回転子積層鉄心1が冷却される。冷却装置180から出た後の回転子積層鉄心1の温度T3(第2の温度)は、温度T1よりも低く、例えば室温以下であってもよい。冷却された回転子積層鉄心1は、コンベアCv3により積厚測定装置190へと搬送される。
【0052】
次に、コントローラCtrが積厚測定装置190に指示して、積層体10の積厚(回転子積層鉄心1の高さ)を測定する。積厚測定装置190は、測定されたデータをコントローラCtrに送信する。コントローラCtrは、積厚測定装置190から送信されたデータが所定の基準内であるか否かを判断する。基準外であるとコントローラCtrが判断すると、不良品として、当該回転子積層鉄心1を製造ラインから除外する。一方、基準内であるとコントローラCtrが判断すると、基準に適合した回転子積層鉄心1が得られる。
【0053】
[作用]
以上の実施形態では、回転子積層鉄心1(積層体10)及び治具Jが冷却される前の高い温度T1の状態で回転子積層鉄心1(積層体10)と治具Jとを分離し、その後、これらをそれぞれ別々に冷却している。そのため、回転子積層鉄心1が治具Jに取り付けられている状態の組物と比較して、それぞれの熱容量が小さくなると共に、外部に露出する表面積が増加する。従って、回転子積層鉄心1及び治具Jがより効率的に冷却されるので、急冷でなくとも、回転子積層鉄心1における寸法への影響や錆の発生を抑制しつつ、回転子積層鉄心1及び治具Jの冷却が短時間で完了する。従って、回転子積層鉄心1を極めて効率的に製造することが可能となる。
【0054】
以上の実施形態では、治具Jが温度T1から温度T2に冷却される際の冷却速度は、回転子積層鉄心1が温度T1から温度T3に冷却される際の冷却速度よりも大きい。治具Jについては、回転子積層鉄心1と比較して、寸法への影響や錆の発生をあまり考慮しなくてもよいので、治具Jの冷却がより短時間で完了する。そのため、より少ない数の治具Jで回転子積層鉄心1を製造することができる。その結果、回転子積層鉄心1の製造コストを低減することが可能となる。
【0055】
以上の実施形態では、樹脂注入装置150の内蔵熱源152により積層体10を治具Jと共に加熱しつつ、永久磁石12が挿入された状態の磁石挿入孔16に溶融樹脂を注入している。そのため、磁石挿入孔16に溶融樹脂を注入する過程で鉄心本体に付与される熱が、積層体10の加熱に利用される。従って、回転子積層鉄心1を加熱するための熱源を別個用意する必要がなくなる。その結果、回転子積層鉄心1の製造コストを低減することが可能となる。
【0056】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0057】
(1)例えば、上記の実施形態では、複数の打抜部材Wが積層されてなる積層体10が鉄心本体として機能していたが、鉄心本体が積層体10以外で構成されていてもよい。具体的には、鉄心本体は、例えば、強磁性体粉末が圧縮成形されたものであってもよいし、強磁性体粉末を含有する樹脂材料が射出成形されたものであってもよい。
【0058】
(2)上記の実施形態では、積層体10は、複数の打抜部材Wが積層されて構成されていたが、複数の打抜部材Wが積層されたブロック体が複数積み重ねられて構成されていてもよい。このときも、複数のブロック体が転積によって積層されてもよい。
【0059】
(3)2つ以上の永久磁石12が組み合わされた一組の磁石組が、一つの磁石挿入孔16内にそれぞれ挿入されていてもよい。この場合、一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の長手方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が磁石挿入孔16の延在方向において並んでいてもよい。一つの磁石挿入孔16内において、複数の永久磁石12が当該長手方向に並ぶと共に複数の永久磁石12が当該延在方向において並んでいてもよい。
【0060】
(4)上記の実施形態では、上型151の収容孔151b内に収容されている樹脂ペレットPを内蔵熱源152により溶融し、永久磁石12が挿入されている磁石挿入孔16内に溶融樹脂を注入していたが、他の種々の方法によって永久磁石12を磁石挿入孔16内に保持させてもよい。例えば、磁石挿入孔16内に永久磁石12及び樹脂ペレットPが投入された状態で積層体10を加熱し、樹脂ペレットPを溶融させることにより、磁石挿入孔16内に樹脂を充填してもよい。また例えば、磁石挿入孔16内に樹脂ペレットPが投入された状態で、加熱された永久磁石12を磁石挿入孔16に挿入して、永久磁石12の熱で樹脂ペレットPを溶融させることにより、磁石挿入孔16内に樹脂を充填してもよい。
【0061】
(5)治具取付装置140から樹脂注入装置150への、治具J及び積層体10の組物の搬送は、人手で行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて取付機構142により行われてもよいし、コントローラCtrの指示に基づいて、製造装置100が備える他の搬送機構(例えば、ロボットハンド)により行われてもよい。コンベアCv1から治具取付装置140への積層体10の搬送、樹脂注入装置150から分離装置160への、治具J及び回転子積層鉄心1の組物の搬送、分離装置160からコンベアCv2への治具Jの搬送、分離装置160からコンベアCv3への回転子積層鉄心1の搬送、及び、コンベアCv3から積厚測定装置190への回転子積層鉄心1の搬送についても、同様に、人手で行われてもよいし、製造装置100が備える搬送機構により行われてもよい。
【0062】
(6)上記の実施形態では、樹脂注入装置150の内蔵熱源152により積層体10及び治具Jを加熱していたが、他の加熱源を用いて、積層体10(回転子積層鉄心1)及び治具Jを加熱してもよい。例えば、樹脂注入装置150の内蔵熱源152による加熱後、一定期間が経過して、積層体10及び治具Jの温度が低下した場合、他の加熱源により積層体10(回転子積層鉄心1)及び治具Jを再加熱してもよい。
【0063】
(7)回転子積層鉄心1及び治具Jが温度T1であるときには、回転子積層鉄心1の軸孔10aの内径が挿通ポストJbの外径よりも大きく、挿通ポストJbが軸孔10aから離間していてもよい。この場合、冷却に伴い挿通ポストJbが軸孔10aと嵌合し、挿通ポストJbから回転子積層鉄心1を抜き出すことが困難となる前の温度T1において、回転子積層鉄心1及び治具Jの分離が行われる。そのため、回転子積層鉄心1をより容易に治具から取り外すことが可能となる。
【0064】
(8)回転子積層鉄心1の熱膨張率は治具Jの熱膨張率よりも大きくてもよい。この場合、温度T1にある回転子積層鉄心1及び治具Jにおいて、挿通ポストJbと回転子積層鉄心1との間に隙間が生じやすくなる。そのため、加熱状態での回転子積層鉄心1と治具Jとの分離を容易に行うことが可能となる。
【0065】
(9)上記の実施形態では、回転子積層鉄心1について説明したが、特許請求の範囲及びその要旨を固定子積層鉄心(鉄心製品)に適用してもよい。この場合、複数の鉄心片が組み合わされてなる分割型の固定子積層鉄心であってもよいし、非分割型の固定子積層鉄心であってもよい。
【0066】
ここで、
図7及び
図8を参照して、固定子積層鉄心2の一例を説明する。固定子積層鉄心2は、固定子(ステータ)の一部である。固定子は、固定子積層鉄心2に巻線が取り付けられたものである。固定子が回転子(ロータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。
【0067】
固定子積層鉄心2は、積層体20(鉄心本体)と、複数の樹脂部21とを備える。積層体20は、円筒形状を呈している。すなわち、積層体20の中央部分には、中心軸Axに沿って延びる貫通孔20aが設けられている。貫通孔20a内には、回転子が配置可能である。
【0068】
積層体20は、複数の打抜部材Wが積み重ねられて構成されている。積層体20は、ヨーク部22と、複数のティース部23とを有する。ヨーク部22は、円環状を呈しており、中心軸Axを囲むように延びている。ヨーク部22の径方向(以下、単に「径方向」という。)における幅、内径、外径及び厚さはそれぞれ、モータの用途及び性能に応じて種々の大きさに設定しうる。
【0069】
各ティース部23は、ヨーク部22の内縁から中心軸Ax側に向かうように径方向(ヨーク部22に対して交差する方向)に沿って延びている。すなわち、各ティース部23は、ヨーク部22の内縁から中心軸Ax側に向けて突出している。各ティース部23は、周方向において、略等間隔で並んでいる。隣り合うティース部23の間には、巻線(図示せず)を配置するための空間であるスロット24が画定されている。周方向において隣り合うティース部23の先端部同士の間には、高さ方向に延びるスリット状の開口(スロット開口)25が画定されている。開口25は、スロット24と連通している。
【0070】
複数の樹脂部21はそれぞれ、スロット24内に一つずつ設けられている。具体的には、樹脂部21は、
図8に示されるように、主部21aと、端部21bとを含む。主部21aは、スロット24の先端部よりも内側(ヨーク部22側)に位置するスロット24の内壁面を覆うように配置されている。
【0071】
端部21bは、高さ方向において主部21aの上端及び下端にそれぞれ一体的に設けられており、スロット24の内壁面から積層体20の上端面及び下端面に回り込んでいる。端部21bは、高さ方向において上端面及び下端面よりも外方に突出していると共に、各端面を部分的に覆っている。
【0072】
続いて、固定子積層鉄心2の製造装置100について説明する。固定子積層鉄心2の製造装置100は、治具J及び樹脂注入装置150を除いて回転子積層鉄心1の製造装置100と同等であるので、以下では、主として治具J及び樹脂注入装置150について説明する。
【0073】
治具Jは、
図9に示されるように、ベースJaと、挿通ポストJbと、複数の中子30(ポスト)とを含む。複数の中子30は、スロット24に対応する外形を有している。中子30の外形は、スロット24よりも一回り小さい。複数の中子30は、ベースJaに対して着脱自在に取り付けられている。複数の中子30は、挿通ポストJbを囲むように略等間隔で円状に並んでおり、積層体20が治具Jに取り付けられる際に、対応するスロット24と重なり合うように位置している。
【0074】
樹脂注入装置150は、充填空間Vに溶融状態の樹脂を充填し、積層体20を構成する打抜部材W同士を接続する機能を有する。樹脂注入装置150は、
図9に示されるように、一対のオーバーフロープレート40と、上型151とを備える。
【0075】
オーバーフロープレート40(以下では、単に「プレート40」と表記する。)は、円環状を呈する薄板である。プレート40には、治具Jの挿通ポストJbに対応する外径を有する一つの貫通孔と、各中子30に対応する外径を有する複数の貫通孔とが設けられている。
【0076】
続いて、
図9を参照して、固定子積層鉄心2の製造方法について説明する。まず、コントローラCtrが打抜装置130に指示して、積層体20を形成する。
【0077】
次に、コントローラCtrがコンベアCv1に指示して、積層体20を治具取付装置140に向けて搬送する。次に、治具Jが載置台141に載置されている状態において、コントローラCtrが取付機構142に指示して、一対のプレート40と、コンベアCv1の下流端側に位置する積層体20とを、治具Jに取り付ける。具体的には、プレート40と、積層体20と、プレート40とをこの順に、治具Jに取り付ける。積層体20を治具Jに取り付ける際には、ベースJaに複数の中子30が取り付けられた状態で、挿通ポストJbを貫通孔20aに嵌入しつつ、複数の中子30を対応するスロット24に挿入して、積層体20をベースJaに載置する。
【0078】
次に、治具Jに取り付けられている積層体20を樹脂注入装置150に搬送して、
図9に示されるように、上型151を積層体20上に載置する。その後、積層体20は、ベースJaと上型151とで高さ方向から挟持され、積層体20が所定の荷重にて加圧される。次に、各収容孔151bに樹脂ペレットPを投入する。内蔵熱源152が作動して樹脂ペレットPが溶融状態となると、溶融樹脂をプランジャ153によって充填空間V内に注入する。その後、溶融樹脂が固化すると、充填空間V内に樹脂部21が形成される。こうして、積層体20に樹脂部21が設けられる。上型151及び一対のプレート40が積層体20から取り外されると、固定子積層鉄心2が完成する。その後は、回転子積層鉄心1の製造装置100と同様に、固定子積層鉄心2及び中子30を含む治具Jをそれぞれ別々に冷却し、冷却後の固定子積層鉄心2の積厚を測定することにより、基準に適合した固定子積層鉄心2が得られる。
【0079】
このように、積層体20の加熱に、スロット24の内周面に樹脂部21を設ける過程で積層体20に付与される熱が利用される。そのため、積層体20を加熱するための熱源を別個用意する必要がなくなる。従って、固定子積層鉄心2の製造コストを低減することが可能となる。
【0080】
[例示]
例1.本開示の一つの例に係る鉄心製品(1)の製造方法は、治具(J)に取り付けられている鉄心本体(10)を治具(J)と共に加熱することと、加熱により治具(J)及び鉄心本体(10)が第1の温度(T1)を示すときに、鉄心本体(10)を治具(J)から取り外すことと、鉄心本体(10)を治具(J)から取り外すことの後に、鉄心本体(10)が第1の温度(T1)よりも低い第2の温度(T3)となり且つ治具(J)が第1の温度(T1)よりも低い第3の温度(T2)となるように、鉄心本体(10)と治具(J)とを別々に冷却することとを含む。
【0081】
ところで、特許文献1によれば、鉄心本体を搬送トレイと共に冷却した後に、鉄心本体を搬送トレイから分離している。そのため、鉄心本体及び搬送トレイの全体としての熱容量が大きくなり、冷却に時間を要していた。鉄心本体及び搬送トレイを急冷して冷却時間の短縮を図ることも考えられる。しかしながら、急冷に伴い鉄心本体に歪みが発生し、鉄心本体の寸法に影響を与える懸念がある。加えて、急冷に伴い鉄心本体の表面に結露が生じ、錆の発生に繋がる懸念もある。急冷による冷却時間の短縮化が困難であった。
【0082】
これに対し、例1の方法によれば、鉄心本体(10)及び治具(J)が冷却される前の高い温度(第1の温度)(T1)の状態で鉄心本体(10)と治具(J)とを分離し、その後、これらをそれぞれ別々に冷却している。そのため、鉄心本体(10)が治具(J)に取り付けられている状態の組物と比較して、それぞれの熱容量が小さくなると共に、外部に露出する表面積が増加する。従って、鉄心本体(10)及び治具(J)がより効率的に冷却されるので、急冷でなくとも、鉄心製品(1)における寸法への影響や錆の発生を抑制しつつ、鉄心本体(10)及び治具(J)の冷却が短時間で完了する。その結果、鉄心製品(1)を極めて効率的に製造することが可能となる。
【0083】
例2.例1の方法において、治具(J)が第1の温度(T1)から第3の温度(T2)に冷却される際の冷却速度は、鉄心本体(10)が第1の温度(T1)から第2の温度(T3)に冷却される際の冷却速度よりも大きくてもよい。鉄心本体(10)と比較して、治具(J)については、寸法への影響や錆の発生をあまり考慮しなくてもよい。そのため、例2の方法によれば、治具(J)の冷却がより短時間で完了する。従って、より少ない数の治具(J)で鉄心製品(1)を製造することができる。その結果、鉄心製品(1)の製造コストを低減することが可能となる。
【0084】
例3.例1又は例2の方法において、第1の温度(T1)は60℃〜200℃であり、第2及び第3の温度(T2,T3)は室温以下であってもよい。
【0085】
例4.例1〜例3のいずれかの方法において、鉄心本体(10)には高さ方向に貫通する貫通孔(10a)が設けられており、治具(J)は、ベース(Ja)と、ベース(Ja)から上方に向けて延びるポスト(Jb)とを含み、鉄心本体を加熱することは、ポスト(Jb)が貫通孔(10a)に挿通された状態で鉄心本体(10)がベース(Ja)に載置されていることを含んでいてもよい。
【0086】
例5.例4の方法において、鉄心本体(10)には、高さ方向に貫通する磁石挿入孔(16)が設けられており、鉄心本体(10)を治具(J)と共に加熱することは、加熱源(152)により鉄心本体(10)を治具(J)と共に加熱しつつ、永久磁石(12)が挿入された状態の磁石挿入孔(16)に溶融樹脂を注入することを含んでいてもよい。この場合、磁石挿入孔(16)に溶融樹脂を注入する過程で鉄心本体(10)に付与される熱が、鉄心本体(10)の加熱に利用される。そのため、鉄心本体(10)を加熱するための熱源を別個用意する必要がなくなる。従って、鉄心製品(回転子鉄心)(1)の製造コストを低減することが可能となる。
【0087】
例6.例4の方法において、鉄心本体(20)は、環状のヨーク部(22)と、ヨーク部(22)に交差するようにヨーク部(22)から延びる複数のティース部(23)とを含み、鉄心本体(20)を治具(J)と共に加熱することは、複数のティース部(23)のうちヨーク部(22)の周方向において隣り合う2つのティース部(23)の間の空間であるスロット(24)内にポスト(30)が挿通された状態で、加熱源(152)により鉄心本体(20)を治具(J)と共に加熱しつつ、スロット(24)とポスト(30)との間の注入空間(V)に溶融状態の樹脂を注入することを含んでもよい。この場合、スロット(24)の内周面に樹脂を設ける過程で鉄心本体(20)に付与される熱が、鉄心本体(20)の加熱に利用される。そのため、鉄心本体(20)を加熱するための熱源を別個用意する必要がなくなる。従って、鉄心製品(固定子鉄心)(2)の製造コストを低減することが可能となる。
【0088】
例7.例4〜例6のいずれかの方法において、鉄心本体(10)及び治具(J)が第1の温度(T1)にあるとき、貫通孔(10a)内に位置しているポスト(Jb)は鉄心本体(10)から離間しており、鉄心本体(10)及び治具(J)がそれぞれ第2の温度(T3)及び第3の温度(T2)にあるとき、ポスト(Jb)の外形が貫通孔(10a)内の空間よりも大きくてもよい。この場合、冷却に伴いポスト(Jb)が貫通孔(10a)と嵌合し、ポスト(Jb)から鉄心本体(10)を抜き出すことが困難となる前の第1の温度(T1)において、鉄心本体(10)及び治具(J)の分離が行われる。そのため、鉄心本体(10)をより容易に治具(J)から取り外すことが可能となる。
【0089】
例8.例1〜例7のいずれかの方法において、鉄心本体(10)の熱膨張率は治具(J)の熱膨張率よりも大きくてもよい。この場合、第1の温度(T1)にある鉄心本体(10)及び治具(J)において、ポスト(Jb)と鉄心本体(10)との間に隙間が生じやすくなる。そのため、加熱状態での鉄心本体(10)と治具(J)との分離を容易に行うことが可能となる。