(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-178214(P2019-178214A)
(43)【公開日】2019年10月17日
(54)【発明の名称】塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20190920BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20190920BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20190920BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20190920BHJP
C08J 7/04 20060101ALI20190920BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20190920BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20190920BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D175/04
C08G18/44
C08G18/40 018
C08G18/40 063
C08J7/04 ACFD
C09D175/06
C09D175/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-67613(P2018-67613)
(22)【出願日】2018年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴公
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳也
【テーマコード(参考)】
4F006
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB37
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4F006BA09
4F006CA04
4F006CA08
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4J038CG141
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4J038NA04
4J038PB02
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐擦り傷性と耐薬品性が共に良好な塗膜を有する塗装体を提供する。
【解決手段】プラスチック基材と前記プラスチック基材の表面に形成された塗膜とを有する塗装体であって、前記塗膜が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする塗装体。
(1)塗膜のガラス転移温度が30℃以上である、
(2)塗膜のヤング率が1000N/mm
2以下であり、塗膜の伸び率が80%以上である。この塗装体は、塗膜のガラス転移温度と、塗膜のヤング率が、所定の数値条件を充足するように、塗料組成を調整したので、塗装体に形成される塗膜が、耐擦り傷性と、耐薬品性が両立されたものとなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と前記プラスチック基材の表面に形成された塗膜とを有する塗装体であって、前記塗膜が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする塗装体。
(1)塗膜のガラス転移温度が30℃以上である、
(2)塗膜のヤング率が1000N/mm2以下であり、塗膜の伸び率が80%以上である。
【請求項2】
前記塗膜が複数のガラス転移温度を有し、その平均値が30℃以上60℃以下であることを特徴とする請求項1記載の塗装体。
【請求項3】
前記塗膜の架橋間分子量が700以上1200以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装体。
【請求項4】
前記塗膜が、少なくとも下記(A)、(B)を水酸基含有成分として含有する主剤と、下記(C)を含む自己修復型塗料より形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の塗装体。
(A)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であるポリカーボネートジオール、及び
(B)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(A)成分以外の樹脂成分、
(C)イソシアネート系硬化剤。
【請求項5】
前記(A)成分の水酸基価と(B)成分の水酸基価の比(B)/(A)が、0.5以上1.5以下であることを特徴とする請求項4に記載の塗装体。
【請求項6】
前記(B)成分が、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の塗装体。
【請求項7】
(A)成分の質量平均分子量が、500以上2000以下であり、(B)成分の質量平均分子量が、5000以上100000以下であることを特徴とする、請求項4から6のいずれかに記載の塗装体。
【請求項8】
(A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が、40質量部以上150質量部以下であることを特徴とする、請求項4から7のいずれかに記載の塗装体。
【請求項9】
水酸基含有成分の総量に対する(A)成分及び(B)成分の合計量が、70質量%以上であることを特徴とする、請求項4から8のいずれかに記載の塗装体。
【請求項10】
前記プラスチック基材の表面に形成された塗膜が、着色材以外に、粒径1nmから300nmの無機微粒子を含まないことを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材とその表面に形成された塗膜とを有する塗装体に関し、特に、自己修復型の自動車内装用の塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品は、可塑性を持つ高分子物質の成形体であり、携帯電話、家電製品、OA機器、自動車内装部品等に利用されており、これらのプラスチック成形品の表面は、装飾を施したり、機能を付与したりするために塗装されている場合がある。プラスチック成型品を塗装するための塗料(プラスチック用塗料)は、装飾を施す目的の他、プラスチック成形品の用途に応じて、塗膜に耐擦り傷性、耐磨耗性、耐変退色性、耐皮脂性、高光沢性、高耐候性、電気絶縁性等の機能を付与することが求められる場合がある。
【0003】
耐擦り傷性を有し、主として自動車内装用に用いられる塗装体を形成するための塗料組成物としては、例えば、特許文献1に、ポリイソシアネート、アクリルポリオール、及びポリカーボネートポリオールを反応させて得られる自己修復型塗料組成物が開示されている。特許文献1に記載の自己修復型塗料組成物は、塗膜の傷に対する自己修復性に優れるとともに、塗膜の透明性や平滑性、修復限界強度が良好であるものとされている。
【0004】
また、特許文献2には、粒径1nmから300nmの微粒子を含む軟質塗膜用塗料が開示されている。特許文献2に記載の微粒子含有軟質塗膜用塗料は、優れた耐擦傷性を有し、且つクラック等が発生しにくいという軟質塗料の本来の特性は維持しつつ、優れた耐汚染性及び耐薬品性をも有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−108347号公報
【特許文献2】特開2010−189477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、人の肌・手が長時間接触するようなプラスチック成形品(例えば、携帯電話の外装部材や自動車内装部材)については、耐汗性、耐乳酸性、耐ハンドクリーム性、耐日焼け止めクリーム性等の耐薬品性に優れることが、近年求められている。しかしながら、自己修復性に優れる塗膜については、このような耐薬品性が低下する傾向にあった。また、特許文献2の微粒子含有軟質塗膜用塗料は、微粒子と樹脂の界面に汗や薬品が徐々に浸透し、経時的に塗膜成分を劣化させる懸念がある。
【0007】
したがって、本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、耐擦り傷性と耐薬品性が共に良好な塗膜を有する塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、塗膜のガラス転移温度と、塗膜のヤング率が、所定の数値条件を充足するように、塗料組成を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
[1]プラスチック基材と前記プラスチック基材の表面に形成された塗膜とを有する塗装体であって、前記塗膜が下記(1)及び(2)を満たすことを特徴とする塗装体。
(1)塗膜のガラス転移温度が30℃以上である、
(2)塗膜のヤング率が1000N/mm
2以下であり、塗膜の伸び率が80%以上である。
【0010】
[2]前記塗膜が複数のガラス転移温度を有し、その平均値が30℃以上60℃以下であることを特徴とする[1]記載の塗装体。
【0011】
[3]前記塗膜の架橋間分子量が700以上1200以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の塗装体。
【0012】
[4]前記塗膜が、少なくとも下記(A)、(B)を水酸基含有成分として含有する主剤と、下記(C)を含む自己修復型塗料より形成されることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の塗装体。
(A)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であるポリカーボネートジオール、及び
(B)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(A)成分以外の樹脂成分、
(C)イソシアネート系硬化剤。
【0013】
[5]前記(A)成分の水酸基価と(B)成分の水酸基価の比(B)/(A)が、0.5以上1.5以下であることを特徴とする[4]に記載の塗装体。
【0014】
[6]前記(B)成分が、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、[4]又は[5]に記載の塗装体。
【0015】
[7](A)成分の質量平均分子量が、500以上2000以下であり、(B)成分の質量平均分子量が、5000以上100000以下であることを特徴とする、[4]から[6]のいずれかに記載の塗装体。
【0016】
[8](A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が、40質量部以上150質量部以下であることを特徴とする、[4]から[7]のいずれかに記載の塗装体。
【0017】
[9]水酸基含有成分に対する(A)成分及び(B)成分の合計量が、70質量%以上であることを特徴とする、[4]から[8]のいずれかに記載の塗装体。
【0018】
[10]前記プラスチック基材の表面に形成された塗膜が、着色材以外に、粒径1nmから300nmの無機微粒子を含まないことを特徴とする、[1]から[9]のいずれかに記載の塗装体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の塗装体は、塗膜のガラス転移温度と、塗膜のヤング率が、所定の数値条件を充足するように、塗料組成を調整したので、塗装体に形成される塗膜が、耐擦り傷性と、耐薬品性が両立されたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0021】
<塗装体>
本発明の塗装体は、プラスチック基材と、その表面に形成された塗膜を有するものである。ここで、この塗膜は、以下の(1)及び(2)の条件を充足する。
【0022】
(1)塗膜のガラス転移温度が30℃以上である、
(2)塗膜のヤング率が1000N/mm
2以下であり、塗膜の伸び率が80%以上である。
【0023】
[ガラス転移温度]
上述のとおり、本発明の塗装体は、塗膜のガラス転移温度が30℃以上のものである。塗膜のガラス転移温度が30℃以上であることにより、塗膜の耐薬品性が良好なものとなる。なお、塗膜のガラス転移温度は、複数観測される場合もあるが、そのような場合には、複数のガラス転移温度の加算平均を塗膜のガラス転移温度とすればよい。本発明においては、塗膜は、複数のガラス転移温度を有していることが好ましい。塗膜のガラス転移温度は、30℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。塗膜のガラス転移温度が上記の範囲内であることにより、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0024】
[ヤング率]
本発明の塗装体の塗膜のヤング率は、1000N/mm
2以下である。塗膜のヤング率が、この条件を充足することにより、塗膜が柔軟性に優れたものとなり、塗膜上の擦り傷の自己修復性が良好となり、塗膜の耐擦り傷性が良好なものとなる。なお、塗膜のヤング率については、JIS Z 2280の静的ヤング率の測定方法に準拠して、23℃において測定したものである。塗膜のヤング率は、50N/mm
2以上500N/mm
2以下であることが好ましく、85N/mm
2以上255N/mm
2以下であることがより好ましい。塗膜のヤング率が上記の範囲内であることにより、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0025】
[伸び率]
本発明の塗装体の塗膜の伸び率は、80%以上である。塗膜の伸び率が、この条件を充足することにより、塗膜が柔軟性に優れたものとなり、塗膜上の擦り傷の自己修復性が良好となり、塗膜の耐擦り傷性が良好なものとなる。なお、塗膜の伸び率については、JIS K 6251の切断時伸びの測定方法に準拠して、23℃において測定したものである。塗膜の伸び率は、85%以上150%以下であることが好ましく、95%以上125%以下であることがより好ましい。塗膜の伸び率が上記の範囲内であることにより、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0026】
[架橋間分子量]
本発明の塗装体の塗膜は、架橋間分子量が700以上1200以下であることが好ましく、750以上1000以下であることがより好ましい。なお、架橋間分子量とは、塗膜を構成する重合体の数平均分子量を、架橋性官能基数で除算したものである。架橋間分子量を、上記の範囲内のものとすることにより、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0027】
また、本発明の塗装体に形成される塗膜の乾燥膜厚は、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立できる限り、特に限定されるものではないが、基材との付着性、塗装性を良好に両立させる点から、10μm以上50μm以下であることが好ましく、20μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0028】
<自己修復型塗料>
本発明の塗装体が有する塗膜は、所定のガラス転移温度、ヤング率、伸び率を有するものであるが、このような塗膜は、一般には、塗膜を形成する際に用いられる樹脂成分のガラス転移温度や、架橋密度を調整することにより得ることができる。本発明の塗膜を形成するための自己修復型塗料としては、ウレタン系塗料を用いることが好ましいが、例示的には、水酸基含有成分として少なくとも以下に示す(A)及び(B)を含む主剤と、(C)を含む自己修復型塗料を使用することができる。
【0029】
(A)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であるポリカーボネートジオール
(B)水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(A)成分以外の樹脂成分、
(C)イソシアネート系硬化剤。
【0030】
[(A)成分]
(A)成分は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であるポリカーボネートジオールであり、ガラス転移温度が−100℃以上0℃以下であることが好ましい。このようなポリカーボネートジオールを使用した塗膜は、弾性に優れ、これを使用することにより、自己修復性に優れた塗膜を形成することができる。
【0031】
本発明において使用されるポリカーボネートジオールとしては、通常、公知のジオールとカルボニル化剤とを重縮合反応させることにより得られる化合物を挙げることができる。具体的には、例えば、ダイセル化学工業株式会社製の「プラクセルCD205PL」、「プラクセルCD210」、「プラクセルCD220」、「プラクセルCD220PL」、宇部興産株式会社製の「ETERNACOLL UH−50」、「ETERNACOLL UH−100」、「ETERNACOLL UH−200」、「ETERNACOLL UH−300」、「ETERNACOLL UHC50−200」、「ETERNACOLL UHC50−100」、「ETERNACOLL UC−100」、「ETERNACOLL UM−90」、旭化成株式会社製の「デュラノール T5652」、「デュラノール T5651」、「デュラノール T5650J」、「デュラノール 5650E」、「デュラノール G4672」、「デュラノール T4671」、「デュラノール T4692」、「デュラノール T4691」、「デュラノール G3450J」等を挙げることができる。これらのポリカーボネートジオールは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
ポリカーボネートジオールの質量平均分子量は、500以上2000以下であることが好ましい。ポリカーボネートジオールの質量平均分子量を上記の範囲内のものとすることにより、塗膜形成性を良好なものとすることができるとともに、自己修復型塗料の作業性を良好なものにすることができる。
【0033】
また、ポリカーボネートジオールの水酸基価は、90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下であることがより好ましい。樹脂成分の水酸基価を調整することにより、塗膜中の架橋密度を調整することができ、耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0034】
[(B)成分]
(B)成分は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である樹脂成分(ポリオール)であり、ガラス転移温度が50℃以上120℃以下であることが好ましい。この樹脂成分は、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物であり、(A)成分と同様、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応することでウレタン結合を形成するものであるが、ガラス転移温度が50℃以上120℃以下であるため、塗膜全体のガラス転移温度の向上に寄与し、結果的に、耐薬品性の向上に寄与する。本発明において用いられる樹脂成分としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂、及び水酸基含有ふっ素樹脂等を挙げることができるが、これらの中でも、特に、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましい。これら樹脂成分は、市販品を好適に使用できるが、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、又はふっ素樹脂の合成の際に、水酸基を有するモノマーを用いることで容易に得ることができる。なお、(B)成分は、ポリカーボネートジオール以外の樹脂成分である。
【0035】
(B)成分の樹脂成分の、質量平均分子量は、5000以上100000以下であることが好ましい。樹脂成分の質量平均分子量を上記の範囲内のものとすることにより、塗膜形成性を良好なものとすることができるとともに、自己修復型塗料の作業性を良好なものにすることができる。
【0036】
また、(B)成分の樹脂成分の水酸基価は、85mgKOH/g以上160mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることがより好ましい。樹脂成分の水酸基価を調整することにより、塗膜中の架橋密度を調整することができ、耐薬品性と耐擦り傷性を両立させることができる。なお、同様の理由により、(A)成分の水酸基価と(B)成分の水酸基価の比(B)/(A)は、0.5以上1.5以下であることが好ましく、0.5以上1.2以下であることがより好ましい。
【0037】
自己修復型塗料組成物における(B)成分の樹脂成分の配合量は、(A)成分100質量部あたり、40質量部以上150質量部以下であることが好ましく、50質量部以上120質量部以下であることがより好ましい。(B)成分の樹脂成分の配合量を上記の範囲内のものとすることにより、塗膜の耐薬品性と耐擦り傷性を良好に両立させることができる。
【0038】
また、水酸基含有成分としては、(A)成分及び(B)成分以外の水酸基含有樹脂((G)成分)を含んでいてもよいが、水酸基含有成分の総量に対する(A)成分及び(B)成分の合計量が、70質量%以上であることが好ましい。
【0039】
[(C)成分]
本発明に用いられる(C)成分であるイソシアネート系硬化剤としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート等の脂肪族ジイソシアネート;1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等のシクロアルキレン系ジイソシアネート;m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート若しくはその混合物、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート若しくはその混合物、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−又は1,4−ビス(α,α−ジメチルイソシアナトメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネート;4,4’−ジフェニルジメチルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等のテトライソシアネート;更には、トリレンジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート及びポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
本発明においては、(A)成分及び(B)成分由来の水酸基の濃度(OHモル%)とイソシアネート基の濃度(NCOモル%)の比(NCOモル%/OHモル%)が、0.9以上1.3以下となるように、(C)成分の配合量を調整することが好ましい。この範囲に調整した場合、未反応の水酸基やイソシアネート基が少なくなるため、良好な耐水性、膜硬度の塗膜を得ることができる。
【0041】
[有機溶剤]
有機溶剤は、主に、水酸基含有成分を溶解するために使用される。有機溶剤としては、塗料分野に汎用されるものを使用することができる。より具体的には、トルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類や、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類や、アルコール類、グリコール類、アセテート類、及びミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤を挙げることができる。これらは、溶解性、蒸発速度、及び安全性等を考慮して、適宜選択される。上述した有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
[その他の成分]
本発明の塗装体の形成に用いられる自己修復型塗料組成物には、上記の各成分の他にも、架橋触媒、着色料、各種顔料、スリップ剤、表面調整剤、紫外線吸収剤等、従来公知の各種添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜設定される。ただし、本発明の塗装体に形成される塗膜には、着色剤以外に、粒径1nmから300nmの無機微粒子を含まないことが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
自己修復型塗料組成物の調製には、以下の各材料を用いた。
【0045】
[(A)成分]
(A1)「デュラノール G3450J」(旭化成株式会社製、樹脂成分100%、水酸基価140mgKOH/g)
(A2)「Desmophen(登録商標)C1100」(コベストロ社製、樹脂成分100%、水酸基価110mgKOH/g)
【0046】
[(B)成分]
(B1)「アクリディックA859B」(DIC社製、アクリルポリオール、樹脂成分70重量%、樹脂の水酸基価 143mgKOH/g)
(B2)「アクリディックWFU−580」(DIC社製、アクリルポリオール、樹脂成分62重量%、樹脂の水酸基価 87mgKOH/g)
(B3)「ダイヤナールJR−6642」(三菱ケミカル社製、アクリルポリオール、樹脂成分57重量%、樹脂の水酸基価 144mgKOH/g)
【0047】
[(G)成分;(A)成分及び(B)成分以外の水酸基含有樹脂成分]
(G1)「アクリディックWXU−880」(DIC社製、アクリルポリオール、樹脂成分50重量%、樹脂の水酸基価 20mgKOH/g)
【0048】
[(C)成分]
(C1)「デスモジュールN3300」(住化コベストロウレタン社製、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート、NCO濃度21.8重量%、不揮発分100重量%)
(C2)「デュラネートMHG−80B」(旭化成社製、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート、NCO濃度15.1重量%、不揮発分100重量%)
(C3)「デスモジュールN3580」(住化コベストロウレタン社製、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネートの酢酸ブチル溶液、NCO濃度15.4重量%、不揮発分80重量%)
【0049】
[溶剤]
(D1)酢酸ブチル
(D2)酢酸エチル
【0050】
[顔料分散液]
(E1)カーボンブラック分散液(日弘ビックス社製、有効成分23重量%)
[その他の添加剤]
(F1)「BYK306」(シリコン系表面調整剤、ビッグケミー社製)
(F2)「TINUVIN400」(紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン(HPT)系紫外線吸収剤、BASF社製)
(F3)「TINUVIN123」(光安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤、BASF社製)
【0051】
<塗膜形成>
エアースプレーを用い、乾燥膜厚が25μmから30μmになるような塗布量にて調製した塗料をポリカーボネート樹脂板に塗装し、室温で10分間放置させ、その後、80℃にて30分間乾燥させ、実施例1から4及び比較例1から3の塗装体を得た。塗膜のガラス転移温度、架橋間分子量、ヤング率及び伸び率を下記の方法で測定・評価した。また、耐油脂汚染性、耐擦り傷性を下記の方法で測定・評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(1)塗膜のガラス転移温度(Tg(m))
実施例1から4及び比較例1から3の塗装体の塗膜を、ポリプロピレン樹脂板より剥離した後、試料長50mm、幅8mmに切断し、測定用試料を作製した。試料を動的粘弾性測定装置RSA G2(TA Instruments社製)を用いて、測定長さ24mm、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにおいて測定される動的粘弾性測定において、tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大値を示す温度として測定される動的ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0053】
(2)架橋密度
架橋間の樹脂の分子量を架橋間分子量といい、架橋密度の逆数で表され、架橋密度が大きくなるほどこの値は小さくなる。
本発明の硬化塗膜の架橋間分子量は、上記硬化塗膜のガラス転移温度測定の際に得られた貯蔵弾性率の極小値を下記ゴム粘弾性理論式にあてはめて求めた理論計算値である。
【0054】
式1:n=E’/3RT
ここで、
n :架橋密度(mol/cc)
1/n :架橋間分子量(cc/mol)
R :気体定数(8.314J/K/mol)
T :貯蔵弾性率がE’の時の絶対温度(K)
E’ :貯蔵弾性率の極小値(Pa)
【0055】
(3)ヤング率
ヤング率は以下の方法で測定した。まず、実施例1から4及び比較例1から3の塗装体の塗膜をポリプロピレン板から剥離し、長さ50mm、幅10mmの短冊状に裁断して測定用試料を得た。次いで、精密万能試験機オートグラフAG−1 100kN(株式会社島津製作所製)を使用し、ロードセル:100N、測定温度:23℃、引っ張り速度:20mm/min、チャック間距離:30mmの条件で、測定用試料が破断するまで長手方向に引っ張り、応力ひずみ曲線を得た。次いで、得られた応力ひずみ曲線の立ち上がり部の接線からヤング率を算出した。
【0056】
(4)伸び率
実施例1から4及び比較例1から3の塗装体の塗膜をポリプロピレン板から剥離し、縦50mm×横10mmにカットして測定用試料を得た。
測定用試料について、23℃にて島津製作所社製精密万能試験機オートグラフAG−1 100kNを用い、ロードセル:100N、測定温度:23℃、引っ張り速度:20mm/minの速度で引っ張り試験を行って、以下の算出式で塗膜の伸び率を算出した。ここで、引っ張り試験における測定用試料長さは30mmになるようにした。
{(引っ張り試験での破断時の測定用試料長さ−試験前の測定用試料長さ)/(試験前の測定用試料長さ)}×100=塗膜の伸び率(%)
【0057】
(5)耐油脂汚染性
JIS K 5600−5−4:1999(ISO/DIS 15184:1996)に準拠して、薬品処理前の塗膜の鉛筆硬度を引っかき硬度試験用鉛筆(Uni MITSUBISHI、三菱鉛筆社株式会社製)で判定した。次いで、塗装体の塗膜表面に、日焼け止め剤[商品名:ウルトラシアードライタッチ・サンブロックSPF45,ニュートロジーナ社製,紫外線吸収剤:サリチル酸エステル誘導体(10質量%)及びベンゾフェノン誘導体(5質量%)]を0.5g/100cm
2の割合で塗布し、その後、強制対流のない乾燥機に55±2℃の温度にて5時間放置し、薬品処理を行った。その後、水洗して日焼け止め剤を除去し、最後に、薬品処理後の塗膜の鉛筆硬度を同一の手法で判定した。
○:塗膜の膨潤なし
×:塗膜の膨潤が認められた
【0058】
(6)耐擦り傷性
往復トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用いて、JIS L 0803:2011に準拠した染色堅ろう度試験用添付白布を用い、塗装体の塗膜表面に900gの荷重をかけて、5000回往復させた。5000回往復後、6日静置した後の塗膜外観を目視で評価した。
○:顕著な傷は認められなかった
×:顕著な傷が認められた
【0059】
以上の結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1から4に示されるように、塗膜のガラス転移温度と、塗膜のヤング率が、本願所定の範囲内に調整された本発明の塗装体においては、耐擦り傷性及び耐薬品性の両者が両立されたものとなった。一方、比較例1及び2の塗装体においては、塗膜のガラス転移温度が、30℃以下であったことに対応して、耐薬品性が劣ったものとなり、比較例3の塗装体においては、塗膜のヤング率が、1000N/mm
2を超えたことに対応して、耐擦り傷性が劣ったものとなった。以上より、塗膜のガラス転移温度及びヤング率が共に調整された本願発明においては、互いにトレードオフの関係に立つ、塗膜の耐擦り傷性と耐薬品性が両立されたものとなることが判明した。