【解決手段】モータ1Aは、永久磁石111,112を有する界磁子11と、電機子巻線121を有する電機子12とを有する。電機子巻線121に交流の第1の電流が流れて交番磁界を発生させる。第2の電流が流れて変更磁界を発生させる。電機子12は、交番磁界によって界磁子11に対して相対的に回転する。変更磁界は永久磁石111の残留磁束密度を不可逆的に変更する磁界である。モータ駆動装置は、交流電源と、制御部とを備える。交流電源は、第1の電流、第2の電流を電機子巻線121に供給する。制御部は交流電源に対し、界磁磁束を示す磁束ベクトルと変更磁界を示す磁界ベクトルとの位相差が、変更磁界によって残留磁束密度を不可逆的に増加させる範囲にある第1状態で、第2の電流を電機子巻線に供給させる。その後、第1の電流を電機子巻線に供給させる。
前記制御部(4)は前記交流電源(2)に対して、前記第1状態が得られる第3の電流(I3)を流す期間(0〜t1)と前記第2の電流(I2)を流す期間(t2〜t3)との間に所定期間(t1〜t2)の無通電期間を設けさせる、請求項1記載のモータ駆動装置(10)。
前記制御部(4)は前記交流電源(2)に対して、前記第1状態が得られる第3の電流(I3)を流した直後に前記第2の電流(I2)を流させる、請求項1記載のモータ駆動装置(10)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1および
図2は、この実施の形態で説明される技術を適用できるモータ1Aの構造を示す断面図である。当該断面はモータ1Aの回転軸Jに垂直である。
【0013】
モータ1Aは界磁子11Aと電機子12とを有する。界磁子11Aはコア110と永久磁石111,112とを有する。
図1および
図2では永久磁石111,112がコア110に埋め込まれた構成が例示されており、モータ1Aはいわゆる埋め込み磁石型同期電動機として例示されるが、表面磁石型同期電動機であってもよい。
図1では極対数2の界磁子11Aが例示されており、4個の永久磁石112が配置されている。また回転軸Jを中心とする周方向において、1個の永久磁石112の両側にそれぞれ永久磁石111が配置されている。つまり
図1では界磁子11Aの一つの磁極において、1個の永久磁石111とこれを周方向で挟む2個の永久磁石112が設けられている。
【0014】
電機子121に与えられる界磁磁束φrは、永久磁石111,112がそれぞれ発生する界磁磁束の合成である。永久磁石111,112はそれぞれ残留磁束密度Br1,Br2(後に説明される
図18も参照)を有する。界磁子11Aの一つの磁極を構成する永久磁石111,112は、これらを纏めて、残留磁束密度Brを有する永久磁石として把握することができる。
【0015】
コア110には開孔113が回転軸Jに平行に開き、開孔113には不図示のシャフトが固定される。
【0016】
電機子12は電機子巻線121と、ティース122とを備え、電機子巻線121はティース122に巻回される。複数のティース122は界磁子11Aと反対側で不図示のバックヨークで連結されてもよい。ティース122は界磁子11Aの周囲に環状に配置されている。
図1および
図2ではティース122が6個設けられており、モータ1Aの構成としていわゆる4極6スロットの構成で例示される。
【0017】
図1および
図2では電機子巻線121は集中巻でティース122に設けられている構成が例示されるが、電機子巻線121として分布巻の構成が採用されてもよい。
図1および
図2ではモータ1Aがいわゆるインナーロータ型の構成を採っている場合が例示されるが、アウターロータ型の構成を採ってもよい。
【0018】
電機子巻線121に交流の電流I1(
図1および
図2では図示省略、後述する
図11、
図12、
図14、
図15参照)が流れて交番磁界(
図1および
図2では図示省略)が発生する。電機子12は交番磁界によって界磁子11Aに対して相対的に回転する。例えば電機子12は不図示の他の部材に固定され、界磁子11Aが回転軸Jを中心として回転する。
【0019】
電機子巻線121に電流I2(
図1および
図2では図示省略、後述する
図11、
図12、
図14、
図15参照)が流れて変更磁界H2(
図2参照)が発生する。変更磁界H2は残留磁束密度Brを不可逆的に変更する磁界である。例えば残留磁束密度Br1は変更磁界H2によって不可逆的に増加され、残留磁束密度Br2は変更磁界H2によって不可逆的に増加しない。例えば永久磁石112の保磁力Hc2は永久磁石111の保磁力Hc1よりも大きい(後に説明される
図18も参照)。
【0020】
モータ1Aが高い回転速度で駆動される場合、残留磁束密度Br1を、ひいては残留磁束密度Brを不可逆的に変更(具体的には不可逆的な減少;以下「減磁処理」と称す)し、逆起電力が低減される。例えば高い回転速度でモータ1Aが駆動された後、低い回転速度でモータ1Aを駆動する必要がなければ、減磁処理を受けて減少した残留磁束密度Brが維持されてモータ1Aが停止する場合がある。
【0021】
モータ1Aを起動させる前に、モータ1Aの起動時のトルクを高めるために、変更磁界H2によって残留磁束密度Brを増大することが望ましい。具体的には残留磁束密度Br1を不可逆的に増大(具体的には不可逆的な増大;以下「増磁処理」と称す)することが望ましい。
【0022】
図1および
図2はいずれも、モータ1Aを起動させる前であって、増磁処理を行う前の状態の界磁子11Aと電機子12との位置関係を示す。但し
図1では説明の都合上、増磁処理に採用される変更磁界H2も併記した。
【0023】
図1および
図2で示された構造では、一つの磁極において永久磁石112と一対の永久磁石111とが線対称となっている場合が例示されている。具体的には回転軸Jを中心とする径方向の直線であって周方向における永久磁石112の中心を通る直線に対して線対称である構造が例示されている。一対の永久磁石111の残留磁束密度Br1同士が等しければ、界磁磁束φrは当該直線に沿って発生する。
【0024】
図1において方向Mは増磁処理前の界磁磁束φrの位相(電気角での位相;以下同様)を幾何学的な角度として模式的に示す。方向Dはその方向に磁界をかけると、永久磁石の磁化方向がそろう方向が最も大きくなる方向と同じ方向の磁界を発生する方向として模式的に示す。上述の対称性から方向M,Dは一致して示される。
【0025】
一般に増磁処理前の界磁子11Aと電機子12との位置関係は不明である。よってこの位置関係によっては、変更磁界H2を印加することにより、残留磁束密度Br1を減少させてしまう可能性がある。
【0026】
そこで、界磁子11Aと電機子12との位置関係が、変更磁界H2によって残留磁束密度Br(より具体的には残留磁束密度Br1)を不可逆的に増加させる範囲にある状態(以下「第1状態」と称す)で、変更磁界H2を印加する技術を説明する。以下、第1状態を得るための処理を「前処理」と称す。
【0027】
図1では界磁子11Aと電機子12との位置関係を上述の所定範囲に収めるための磁界(以下「前処理磁界」と称す)H3を、その印加前の界磁子11Aと電機子12との位置関係と共に示す。
図1において、界磁磁束φrの位相と前処理磁界H3の位相との差である位相差δを幾何学的な角度として模式的に示した。但し、
図1では角度が機械角として現れるので、位相差δ/Pn(Pn:極対数(ここでは2))が示される。
【0028】
前処理磁界H3の大きさは、増磁処理を適切に行える観点から、変更磁界H2の大きさよりも小さいことが望ましい。
【0029】
このような位相差δが存在する位置関係にある界磁子11Aを、前処理磁界H3を印加することによって移動させる。前処理磁界H3は、電機子巻線121に電流I3(
図1および
図2において不図示、後述する
図11、
図12、
図14、
図15参照)が流れることによって発生する。
【0030】
図2は前処理磁界H3が引加された後の第1状態を示す。前処理によって位相差δは0となる。
図2では変更磁界H2も併記した。ここでは一つの磁極における一対の永久磁石111の残留磁束密度Br1が、減磁処理において均等に減少し、増磁処理において均等に増大して、上記の対称性から、増磁処理の前後でも方向D,Mの一致が維持される場合が例示される。
【0031】
このように一つの磁極において永久磁石111,112の対称性があれば、増磁処理の前後でも方向D,Mが一致するので、前処理磁界H3によって第1状態を一つに決定することができる。
【0032】
次にかかる対称性がない場合について説明する。
図3および
図4は、この実施の形態で説明される技術を適用できる他のモータ1Bの構造を示す断面図である。当該断面はモータ1Bの回転軸Jに垂直である。
【0033】
モータ1Bは界磁子11Bと電機子12とを有する。モータ1Bとモータ1Aとの相違は界磁子11Bと界磁子11Aとの相違である。界磁子11Bと界磁子11Aとの相違は一つの磁極において設けられる永久磁石111,112の個数および配置の相違である。
【0034】
界磁子11Bでは周方向に永久磁石111,112が交互に配置される。よって一つの磁極においては、永久磁石111,112が隣接してそれぞれ1個ずつ設けられる。よって永久磁石111が減磁処理を受けた後に増磁処理を受けていなければ、界磁磁束φrの位相と方向Dとは位相差θで相違する。
図3および
図4において位相差θを方向M,Dの間の角度として幾何学的な角度として模式的に示す。但し、
図3及び
図4では角度が機械角として現れるので、位相差δ/Pn,θ/Pn(Pn:極対数(ここでは2))が示される。
【0035】
図1と同様に
図3では前処理磁界H3を、その印加前の界磁子11Bと電機子12との位置関係と共に示す。
図4は前処理の後、増磁処理前の界磁子11Bと電機子12との位置関係を、変更磁界H2と共に示す。
【0036】
前処理によって位相差δは0となるが、増磁処理前は位相差θは維持されたままである。これは
図1および
図2においても同様であるものの、位相差θが0である特別な場合であったので、明確には現れなかった。
【0037】
このように、一つの磁極において永久磁石111,112の対称性がなければ、増磁処理の前後で方向D,Mが不一致のまま維持されるので、前処理磁界H3によって第1状態を一つに決定することはできない。換言すれば第1状態は増磁処理の前の残留磁束密度Br1,Br2に依存する。
【0038】
しかし第1状態ではこの位相差θが所定の範囲に収まるので、変更磁界H2を用いても残留磁束密度Br1を減少させない。また位相差θは永久磁石111,112の磁気特性(残留磁束密度Br1,Br2を含む磁化曲線など)を含めた界磁子11Bの構造からその最大値を求めることが可能である。よって増磁処理に必要な変更磁界H2の大きさも当該最大値と永久磁石111の磁気特性とから求めることができる。
【0039】
図5は増磁処理の前後の界磁磁束を示すベクトル図である。但し方向M,Dは幾何学的位置ではなく位相として示した(他のベクトル図でも同様)。残留磁束密度Brが不可逆的に減少された界磁磁束φmと、残留磁束密度Brが不可逆的に増加された界磁磁束φMとが示される。界磁磁束φmの大きさは界磁磁束φMの大きさよりも小さい。
【0040】
図5では界磁磁束φmとして最も残留磁束密度Brが減少したものを、界磁磁束φMとして最も残留磁束密度Brが増加したものを、それぞれ想定している。方向Dと界磁磁束φMの位相とが一致する場合には、界磁磁束φm,φMの位相差θoは上述の位相差θの最大値である。
【0041】
図5では、モータ1(これはモータ1A,1Bを総称する:以下同様)の起動前の状態での界磁磁束φrが界磁磁束φmであるとして、界磁磁束φmの位相を方向Mで表した。上述のように方向Dと界磁磁束φMの位相とが一致することを、界磁磁束φMの位相を方向Dに採用して表した。
【0042】
図6および
図7は変更磁界H2を示すベクトル図である。残留磁束密度Br1の増大に必要な磁界の大きさは永久磁石111の磁化特性から予め設定できる。この磁界の大きさに、変更磁界H2の方向Dの成分H2Mの大きさが設定される。
【0043】
実際の位相差θは検出されず、予め計算される位相差θoが既知であるので、変更磁界H2の位相を界磁磁束φm,φMの位相の中間に設定すれば、必要な変更磁界H2の大きさは最小となる。そしてこのときに必要な変更磁界H2の大きさ|H2|は成分H2Mの大きさ|H2M|を用いて、|H2M|/tan(θo/2)で表される。
【0044】
図7は実際の位相差θが0の場合であり、方向D,Mは一致する。これは
図1および
図2で示されたような、一つの磁極における永久磁石111,112が線対称性に配置されている場合に相当する。この場合においても、|H2M|/tan(θo/2)の大きさの変更磁界H2で、残留磁束密度Br1の増大に必要な増磁処理を行えることは明白である。
【0045】
図8は変更磁界H2の向きを変動させる態様を示すベクトル図である。位相差θが0〜θoのいずれであっても、増磁処理の後の界磁磁束φrの位相は、界磁磁束φMの位相(方向D2で示す)と界磁磁束φmの位相(方向D1で示す)との間にある。よって変更磁界H2は、その大きさを|H2M|/tan(θo/2)として、方向D1で示された位相を有する磁界H21と方向D2で示された位相を有する磁界H22との間の範囲R4に亘って変動すれば、増磁処理が行える。
【0046】
但し、界磁子11の位置を移動させない観点から、変更磁界H2が交番する周波数は、モータ1が回転できない程度に高く設定することが望ましい。
【0047】
なお、
図1から
図4においては、変更磁界H2の位相を幾何学的に示す方向は図示されていない。
図4においても方向M,Dはそれぞれ増磁処理前の界磁磁束φrの位相と、上述の方向Dとを示すが、
図4で変更磁界H2を模式的に示す矢印と方向Mとの間の幾何学的関係は、必ずしも変更磁界H2の位相と、増磁処理前の界磁磁束φrの位相との関係を幾何学的に示すものではない。変更磁界H2を模式的に示す矢印と方向Dとの間の幾何学的関係についても同様である。
【0048】
本実施の形態では、界磁子11の位置が予め決められた範囲に収められる。よって界磁子11の位置が予め決められた範囲にあるか否かの判断を行う必要がなく、永久磁石111,112の残留磁束密度Brの不可逆的増加を容易にする。
【0049】
図1から
図4では、前処理磁界H3によって位相差δが0となる場合を例示した。この場合、増磁処理前の界磁磁束φrの位相を示す方向Mによって増磁処理を行う直前の界磁子11の位置が一意に定まる。
【0050】
しかし第1状態としては、必ずしも界磁子11の位置にそのような一意性は必要ない。変更磁界H2によって残留磁束密度Brの不可逆的増加が得られれば足りる。
【0051】
図9は第1状態として望ましい範囲を示すベクトル図である。方向Dと、最も残留磁束密度Brが減少したときの界磁磁束φmとの位相を示す方向M1と、最も残留磁束密度Brが増加したときの界磁磁束φMとの位相を示す方向M2とを示す。
【0052】
変更磁界H2によって増磁可能な位相の範囲の大きさは位相差に換算してπである。領域R1は、増磁処理前の残留磁束密度Brが既に最も増加していた値であるときを想定した、前処理後の界磁磁束φrの位相の望ましい範囲である。領域R2は、増磁処理前の残留磁束密度Brが最も減少した値であるときを想定した、前処理後の界磁磁束φrの位相の望ましい範囲である。
【0053】
増磁処理前は、残留磁束密度Brがどの程度の値を有しているか不明である。よって前処理後の界磁磁束φrの位相は方向M1,M2で表される位相の区間に存在する。よって前処理によって得られる第1状態として望ましい界磁磁束φrの位相は、領域R1,R2が重複する領域R0の範囲にある。
【0054】
ここでは方向M1が方向M2に対して進相している場合が例示されており、この場合の領域R0は方向Dに対して(π/2−θo)で遅相している位相から、方向Dに対してπ/2進相している位相までの、(π−θo)の範囲である。
【0055】
なお、
図6のベクトル図で例示された変更磁界H2の方向Dの成分は大きさ|H2M|を有する。よってこの成分を、変更磁界を示す磁界ベクトルH2Mと見ることができる。このことと、上述の領域R0の範囲が方向Dを基準として示すことができることとを合わせて考えれば、界磁磁束φrを示すベクトルを用いて、第1状態を以下のように説明することができる:
界磁磁束φrを示す磁束ベクトルと、変更磁界を示す磁界ベクトルH2Mとの位相差が、変更磁界によって残留磁束密度Brを不可逆的に増加させる範囲にある状態。
【0056】
そしてこのような第1状態において増磁処理を行う。増磁処理を行ってから、モータ1を駆動させる交番磁界を発生させる。
【0057】
磁界ベクトルH2Mによって示される磁界によって残留磁束密度Brを不可逆的に減少させない観点からは、磁界ベクトルH2Mの位相が、方向Dに対してπ/2で遅相している位相から、方向Dに対してπ/2で進相している位相までの間にあることが望ましい。
【0058】
界磁磁束φrは、永久磁石111,112の配置や、それらの磁化状態のばらつきに起因して、方向Dに対して位相θo1で進むことがあり得る。この場合、磁界ベクトルH2Mの位相は、界磁磁束φrを示す磁束ベクトルに対してπ/2で遅相している位相から、界磁磁束φrを示す磁束ベクトルに対して(π/2−θo1)で進相している位相までの間にあることが望ましい。
【0059】
図10はモータ駆動装置10の構成を、その周辺と共に例示するブロック図である。モータ駆動装置10はモータ1を駆動する。モータ駆動装置10は、モータ1に、より正確には電機子巻線121に電流iaを供給する。電流iaは上述の電流I1,I2,I3を含む。
【0060】
モータ駆動装置10は、交流電源2、整流回路3、制御部4を有する。制御部4は交流電源2に対して後述するやり方で電流iaを電機子巻線121に供給させる。整流回路3は交流電圧Viを直流電圧Vdcへ変換する。
図10では交流電圧Viはモータ駆動装置10の外部にある交流電源8から供給される場合が例示される。
【0061】
図10では、交流電源2が、直流電圧Vdcを交流電圧Vacに変換するインバータである場合が例示される。交流電圧Vacはモータ1に印加される。例えばモータ1が三相モータであれば、交流電圧Vacは三相の交流電圧であり、電流I1は三相の交流電流である。
【0062】
交流電源2の動作は制御信号Gによって制御される。制御信号Gは制御部4によって生成され、交流電源2へ出力される。制御部4は,モータ1の回転速度ωの指令値ω*と、直流電圧Vdcおよび電流iaの測定結果とを用いて制御信号Gを生成する。一般にこのような制御信号Gの生成および制御信号Gによってインバータの動作を制御することは周知の技術であるので、詳細は省略する。
【0063】
モータ1は負荷91を駆動する。例えば負荷91は冷媒を圧縮する圧縮機である。当該圧縮機にモータ1を含めて捉えることもできる。
【0064】
図11および
図12は、それぞれ電流iaおよびその振幅|ia|の波形を示すグラフであり、横軸には時間tを採った。振幅|ia|は、電流iaの波形の包絡線の値として捉えることができる。
【0065】
図11では電流iaの内訳としての電流I1,I2,I3およびそれぞれの振幅|I1|,|I2|,|I3|を示した。振幅|I1|,|I2|,|I3|は、電流I1,I2,I3のそれぞれの波形の包絡線の値として捉えることができる。
図11では電流iaを相毎の電流として波形を示した。
図12では振幅|ia|の内訳としての振幅|I1|,|I2|,|I3|を示した。
【0066】
電流I3はモータ1に対して直流励磁を行わせる電流として例示される。時間tは電流I3が流れ始める時刻を基準(時刻0)とする。電流I3は時刻t1で流れ終わる。電流I3が流れることにより、前処理磁界H3が発生し、上述の第1状態が得られる。
【0067】
ここでは前処理磁界H3は交番磁界ではないので、時刻t1において電流I3が流れ終わっても、第1状態は維持される。但し、前処理磁界H3によって界磁子11は移動するので、この移動に起因した慣性によるモータ1の回転があれば、第1状態が維持されない可能性もある。よって慣性によるモータ1の回転を考慮すれば電流I3を流す時間は長い方が望ましい。
【0068】
時刻t1の後、時刻t2から時刻t3において電流I2が流れ、増磁処理が行われる。振幅|I2|は閾値ia0に達する。閾値ia0は変更磁界H2の大きさを増磁処理に必要な大きさにするために必要な、振幅|I2|の値である。
図11では電流I2は直流励磁と類似して、三相の電流は交番しない場合が例示される。但し、
図8に例示されるように変更磁界H2が変動する場合には、三相の電流が交番してもよい。
【0069】
時刻t3の後、時刻t4以降において電流I1が流れ、交番磁界が発生する。ここでは振幅|I1|が増大する区間が示されており、この区間において交番磁界の大きさも増大する。
【0070】
図11および
図12では、時刻t1から時刻t2までの間、時刻t3から時刻t4までの間で振幅|ia|が零となる場合が例示される。このような無通電期間を設けることは、交流電源2やモータ1の発熱を抑制する観点で望ましい。
【0071】
図13は本実施の形態の処理を例示するフローチャートである。当該フローチャートのステップは制御部4によって交流電源2に行わせる。まずステップS1が実行される(
図11および
図12の時刻t0〜t1の期間参照)。ステップS1は上述の前処理であり、これによって上述の第1状態が得られる。ステップS1の実行後、ステップS2において無通電期間(
図11および
図12の時刻t1〜t2の期間に相当)が設けられた後、ステップS3において増磁処理が行われる(
図11および
図12の時刻t2〜t3の期間に相当)。
【0072】
ステップS3の実行後、ステップS4において無通電期間(
図11および
図12の時刻t3〜t4の期間に相当)が設けられた後、ステップS5において交番磁界を発生させる処理(「交番磁界発生処理」と仮称)が行われる(
図11および
図12の時刻t4以降参照)。
【0073】
但し、ステップS2,S4を省略し、無通電期間を設けなくてもよい。これは前処理後の慣性によるモータ1の回転を考慮しなくてもよい観点で望ましい。
【0074】
図14および
図15は、それぞれ電流iaおよびその振幅|ia|の波形を示すグラフであり、横軸には時間tを採った。
図14および
図15では、
図11および
図12で示された場合とは異なり、増磁処理の前後で無通電期間を設けない場合が示される。
【0075】
時間tは電流I3が流れ始める時刻を基準(時刻0)とする。電流I3は時刻t5まで上昇し、その後時刻t4で流れ終わるまで振幅|I3|が維持される。電流I3が流れることにより前処理磁界H3が発生し、上述の第1状態が得られる。
【0076】
ここでは電流I2が流れて増磁処理が行われる時刻t2から時刻t3は、時刻5から時刻t4の間に設けられる。そして時刻t4以降において電流I1が流れ、交番磁界が発生する。ここでは振幅|I1|が増大する区間が示されており、この区間において交番磁界の大きさも増大する。
【0077】
時刻t2以前に流れていた電流I3は前処理のための電流として理解されるが、時刻t3以降に流れる電流I3は前処理のための電流と理解しなくてもよい。時刻t3においては既に増磁処理が行われて界磁磁束φMが得られているからである。
【0078】
他方、上述のように、前処理よりも前において既に界磁磁束φMが得られている場合もあり、この場合における前処理磁界H3は増磁処理を妨げるものではない。よって時刻t3以降に流れる電流I3も同様に、増磁処理の後の界磁磁束φMを妨げるものではない。
【0079】
上述の様にモータ1A,1Bを直流励磁する電流I3を流して前処理磁界H3を得ることができる。この直流励磁は一つの相の方向に前処理磁界H3を発生するように行ってもよいし、方向を切り替えて行ってもよい。例えばモータ1A,1BがU相、V相、W相の三相の交流モータであって、変更磁界H2の位相をW相の位相に一致させる場合を想定する。この場合、直流励磁をW相のみで行ってもよいし、直流励磁をU相、V相、W相の順序で行ってもよい。いずれの場合も界磁磁束φrの位相がW相の直流励磁で定まる位相と一致するので、第1の状態を得やすい。
【0080】
もちろん、変更磁界H2の位相として、U相、V相、W相のいずれか一つと一致させる必要は無い。よって電流I3の位相もU相、V相、W相のいずれか一つと一致させる必要は無い。よって電流I3を交流とし、前処理磁界H3を交番磁界としてもよい。この場合、前処理の最後における前処理磁界H3によって得られる界磁磁束φrの位相が、上述の領域R0の範囲にあるような変更磁界H2を採用する。
【0081】
この場合、モータ1A,1Bが回転するように前処理磁界H3が交番する周波数を低く設定することが望ましい。
【0082】
次に、前処理磁界H3を用いずに第1状態を得るための技術を説明する。例えば負荷91が圧縮機である場合、界磁子11の位置は圧縮機の機械的な状況に依存する。圧縮機がピストン式である場合を例に取れば、圧縮機の機械的な状況としてピストンが停止する位置を挙げることができる。
【0083】
界磁子11の位置はピストンが停止する位置で決定される。よってピストンが停止する位置を決定することで、第1状態が得られる。ピストンが停止する位置は、圧縮機から吐出される冷媒の圧力と圧縮機に吸入される冷媒の圧力との差である圧力差の制御によって決定することができる。つまり上述の圧力差の制御によって第1状態が得られる。
【0084】
図16は冷凍回路9の構成を例示するブロック図である。冷凍回路9は負荷91としての圧縮機、凝縮器92、膨張弁93、蒸発器94を備え、冷媒Fがこれらをこの順に循環する。圧縮機は冷媒Fを吸入口911から吸入し、これを圧縮して吐出口912から吐出する。凝縮器92、蒸発器94はいずれも熱交換器によって実現できる。
【0085】
膨張弁93は冷媒Fを膨張させる程度を調整する膨張機構として機能する。よって膨張弁93の開度を調整することによって上述の圧力差を制御し、以て第1状態を得ることができる。
【0086】
膨張弁93は、制御信号K1によってその開度が調整される。制御信号K1は冷凍回路9の制御に通常用いられる技術で生成できる。ここでは制御信号K1は圧力調整回路5aによって生成される場合を例示した。圧力調整回路5aは、モータ駆動装置10に備えられる場合が例示される。
【0087】
制御部4はステップS1によって圧力調整回路5aに制御信号K1を生成させ、膨張弁93に与えさせる。制御部4は、その後、ステップS3における増磁処理のために、交流電源2に電機子巻線121へ電流I2を流させる。
【0088】
凝縮器92や蒸発器94で上述の圧力差を制御してもよい。冷媒Fが凝縮する程度や蒸発する程度は、上述の圧力差を左右するからである。
【0089】
図17は凝縮器92の内部構成をその周辺とともに示すブロック図である。凝縮器92は熱交換器921とファン922とを有する。ファン922は、制御信号K2によってその風量が調整される。制御信号K2は冷凍回路9の制御に通常用いられる技術で生成できる。ここでは制御信号K2は圧力調整回路5bによって生成される場合を例示した。圧力調整回路5bは、モータ駆動装置10に備えられる場合が例示される。
【0090】
制御部4はステップS1によって圧力調整回路5bに制御信号K2を生成させ、ファン922に与えさせる。制御部4は、その後、ステップS3における増磁処理のために、交流電源2に電機子巻線121へ電流I2を流させる。
【0091】
上述の圧力差を圧縮機それ自体で制御してもよい。つまり、蒸発器94、凝縮器92、膨張弁93、圧縮機のうちのいずれか一つによって上述の圧力差を制御し、これによって第1状態が得られる。このようにして電流I3を流すことなく第1状態が得られる。
【0092】
制御部4は、例えばマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)などの各種記憶装置の一つまたは複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部4はこれに限らず、制御部4によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段または各種機能の一部または全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0093】
図18は永久磁石111,112の磁化曲線を示すグラフである。横軸には磁界Hを、縦軸には磁束密度Bを採用した。曲線L11,L12は永久磁石111,112の磁化曲線であり、曲線L11,L12は永久磁石111,112の磁化曲線である。
【0094】
曲線L11は増磁処理の後の磁化曲線を示し、曲線L12は減磁処理の後の磁化曲線を示す。永久磁石111が有する残留磁束密度Br1は、曲線L11,L12に対応してそれぞれ残留磁束密度Br1M,Br1m(<Br1)として示されている。永久磁石112が有する残留磁束密度Br2も併記した。
【0095】
なお、永久磁石112は本実施の形態において必須ではない。残留磁束密度Brの不可逆的な増加は、不可逆的に増加されない残留磁束密度Br2を有する永久磁石112の存在を前提としないからである。
【0096】
上記に説明したように、モータ駆動装置10は、モータ1A,1Bを駆動する装置である。モータ1A,1Bは界磁子11と、電機子12とを有する。界磁子11は永久磁石111,112を有する。永久磁石111,112を纏めて考える永久磁石は残留磁束密度Brを有する。
【0097】
電機子12は電機子巻線121を有する。電機子巻線121に交流の電流I1が流れて交番磁界を発生させる。電流I2が流れて変更磁界H2を発生させる。電機子12は、交番磁界によって界磁子11に対して相対的に回転する。変更磁界H2は残留磁束密度Brを不可逆的に変更する磁界である。
【0098】
モータ駆動装置10は、交流電源2と、制御部4とを備える。交流電源2は、電流I1,I2を電機子巻線121に供給する。制御部4は交流電源2に対し、第1状態で電流I2を電機子巻線121に供給させてから電流I1を電機子巻線121に供給させる。
【0099】
このようにして、界磁子11の位置が予め決められた範囲にあるか否かの判断を行う必要がなく、永久磁石111,112の残留磁束密度Brの不可逆的増加を容易にする。更に、残留磁束密度Brの不可逆的減少が防止される。
【0100】
第1状態は、電流I3によって発生する前処理磁界H3によって実現してもよい。例えば制御部4は交流電源2に対して、電流I3を流す期間(
図11、
図12の時刻0〜t1に相当)と電流I2を流す期間(
図11、
図12の時刻t2〜t3に相当)との間に所定期間(
図11、
図12の時刻1〜t2に相当)の無通電期間を設けさせる。このような無通電期間は、交流電源2やモータ1の発熱を抑制する観点で望ましい。
【0101】
あるいは制御部4は交流電源2に対して、電流I3を流した直後(時刻t2)に電流I2を流させてもよい。このような電流I3,I2の連続的な供給は、前処理後の慣性によるモータ1の回転を考慮しなくてもよい観点で望ましい。圧縮機の駆動に採用される場合においても、圧縮機の吐出口912での冷媒Fの圧力と、吸入口911での冷媒Fの圧力との差である圧力差によるモータ1の回転を考慮しなくてもよい観点でも望ましい。もちろん、
図14、
図15に示されるように、電流I2の供給後、時刻t3から電流I3を再度供給してもよい。
【0102】
モータ1は、冷凍回路9に設けられて冷媒Fを圧縮する圧縮機の駆動に採用されてもよい。冷凍回路9は冷媒Fが循環する蒸発器94、凝縮器92、膨張弁93を備える。第1状態は蒸発器94、凝縮器92、膨張弁93、圧縮機のうちのいずれか一つによる上述の圧力差の制御によって得てもよい。このようにして電流I3を流すことなく第1状態が得られる。
【0103】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。上述の各種の実施形態および変形例は相互に組み合わせることができる。