【課題】半自動式の溶接において、溶接作業者の熟練度に頼ることなく、溶接トーチの移動速度、移動方向に対する溶接トーチの姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチのノズルの角度等の変化に適応した最適な溶接電流、溶接電圧等の溶接情報を算出することができる溶接情報算出装置を提供する。
【解決手段】溶接情報算出装置は、溶接を行う溶接トーチ3の速度を示す速度情報、移動方向に対する前記溶接トーチ3の姿勢を示す姿勢情報、及び鉛直方向に対する前記溶接トーチ3の角度を示す角度情報の少なくとも一つを取得する取得部と、該取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つに基づいて、前記溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接を行うための溶接電流又は溶接電圧を含む溶接情報を算出する学習済みの溶接情報算出部とを備える。
溶接を行う溶接トーチの速度を示す速度情報、移動方向に対する前記溶接トーチの姿勢を示す姿勢情報、及び鉛直方向に対する前記溶接トーチの角度を示す角度情報の少なくとも一つを取得する取得部と、
該取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つに基づいて、前記溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接を行うための溶接電流又は溶接電圧を含む溶接情報を算出する学習済みの溶接情報算出部と
を備える溶接情報算出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現実には溶接トーチの移動速度、移動方向に対する溶接トーチの姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチのノズルの角度等のあらゆる変化に応じた溶接電流等の補正値を予めテーブルとして記憶させることは困難である。テーブルに登録する溶接トーチの姿勢及び補正値の組み合わせを一定量に制限した場合、溶接電流等を十分に補正することができず、最適な溶接電流等を得ることができないという問題がある。
【0007】
また、レーザ溶接、電子ビーム溶接、ガス溶接等の他方式の溶接においても、上記と同様の問題がある。
【0008】
本発明の目的は、半自動式の溶接において溶接作業者の熟練度に頼ることなく、溶接トーチの移動速度、移動方向に対する溶接トーチの姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチのノズルの角度等の変化に適応した最適な溶接電流、溶接電圧等の溶接情報を算出することができる溶接情報算出装置、溶接トーチ、溶接電源及び溶接システム、並びに当該溶接情報算出装置を学習させるためのコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本態様に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、溶接を行う溶接トーチの速度を示す速度情報、移動方向に対する前記溶接トーチの姿勢を示す姿勢情報、及び鉛直方向に対する前記溶接トーチの角度を示す角度情報の少なくとも一つを取得し、取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つに基づいて、前記溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接を行うための溶接電流又は溶接電圧を含む溶接情報を算出する溶接情報算出部を機械学習させるべく、溶接情報算出部が算出した溶接情報に基づいて行われた溶接結果の良否を判定するための情報又は該情報に基づく溶接結果の良否を示す判定結果を取得し、取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つと、溶接結果の良否を判定するための情報又は良否の判定結果とを対応付けて記憶部に記憶させる処理を実行させるためのプログラムである。
【0010】
溶接情報算出部は、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出する回路又は機能部である。溶接情報は、溶接電源を制御するための情報であり、例えば、溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等の情報である。溶接情報は、溶接トーチの所定の移動速度、所定の姿勢及び角度における標準の溶接情報を基準とした補正量を示す情報であっても良い。
本態様に係るコンピュータプログラムは、溶接情報算出部を機械学習させるために必要な学習用の情報を収集及び蓄積する処理をコンピュータに実行させる。具体的には、コンピュータは、溶接トーチの速度情報、姿勢情報及び角度情報と、当該情報に基づいて溶接情報算出部が算出した溶接情報を用いた溶接結果の良否を示す判定結果とを収集する。そして、コンピュータは、収集した速度情報、姿勢情報及び角度情報及び良否の判定結果を、溶接情報算出部の学習用の情報として記憶部に記憶させる。
また、溶接結果の良否を示す判定結果に代えて、溶接結果の良否を判定するための情報を収集し、記憶部に記憶させても良い。溶接結果の良否を判定するための情報は、例えば、溶接中に検出した溶接電流、溶接電圧、溶接音等の情報である。
以上の通り、本態様によれば、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出でき、更に溶接結果を改善させることを可能とする情報を収集及び蓄積することができる。
【0011】
本態様に係るコンピュータプログラムは、前記コンピュータに、前記記憶部に記憶させた情報に基づいて、溶接結果が改善されるように前記溶接情報算出部を機械学習させる処理を実行させるためのプログラムである。
【0012】
本態様に係るコンピュータプログラムは、収集及び蓄積した情報を用いて溶接情報算出部を機械学習させる処理をコンピュータに実行させる。溶接情報算出部を機械学習させることにより、溶接結果を改善することができる。つまり、特定の速度情報、姿勢情報及び角度情報が溶接情報算出部に入力された場合に算出される溶接情報の内容が徐々に修正され、より良い溶接結果が得られる溶接情報を算出できるようになる。
【0013】
本態様に係るコンピュータプログラムは、溶接結果の良否を判定するための情報は、溶接中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接中に集音された溶接音、並びに溶接後に撮像された溶接部位の画像の少なくとも一つを示す情報を含み、前記コンピュータに、取得した情報に基づいて、溶接結果の良否を判定する処理を実行させるためのプログラムである。
【0014】
本態様によれば、溶接結果の良否を自動で判定し、溶接情報算出部を機械学習させることができる。例えば、コンピュータは、溶接中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接中に集音された溶接音、並びに溶接後に撮像された溶接部位の画像等の情報を用いて、溶接結果の良否を判定し、溶接情報算出部を機械学習させる。
【0015】
本態様に係る溶接情報算出装置は、溶接を行う溶接トーチの速度を示す速度情報、移動方向に対する前記溶接トーチの姿勢を示す姿勢情報、及び鉛直方向に対する前記溶接トーチの角度を示す角度情報の少なくとも一つを取得する取得部と、該取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つに基づいて、前記溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接を行うための溶接電流又は溶接電圧を含む溶接情報を算出する学習済みの溶接情報算出部とを備える。
【0016】
本態様の溶接情報算出装置は、溶接トーチの速度情報、姿勢情報及び角度情報を取得し、溶接情報算出部は溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出する。溶接情報算出部は、上記溶接情報を算出することができる学習済みの回路又は機能部である。溶接情報の内容は上記の通りである。
本態様に係る溶接情報算出装置を備えた溶接システムは、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を用いて溶接制御を行うことができ、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度の変化に拘わらず、溶接品質を維持することができる。
【0017】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接トーチの所定の速度、姿勢及び角度における溶接情報の基準となる溶接条件を示す溶接条件情報を取得する溶接条件情報取得部を備え、前記溶接情報算出部は、前記取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つと、前記溶接条件情報取得部にて取得した溶接条件情報とに基づいて、前記溶接トーチの状態及び溶接条件に適応した溶接情報を算出する。
【0018】
本態様によれば、溶接情報算出部は、溶接トーチの所定の速度、姿勢及び角度における溶接情報の基準となる溶接条件情報と、速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つとに基づいて、溶接トーチの状態及び溶接条件に適応した溶接情報を算出する。
溶接条件情報は、ワークの材質、厚み、開先の形状、継手の種類、ワークの姿勢等、所定の溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度等において推奨される溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等を定める基準となる情報である。また、溶接条件情報は、標準又は基準値としての溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等を示す情報であっても良い。
【0019】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接情報算出部は、速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つが入力された場合、前記溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度に適応した溶接情報を出力するように学習させたニューラルネットワークを備える。
【0020】
本態様によれば、溶接情報算出部は、学習済みのニューラルネットワークは、溶接トーチの速度情報、姿勢情報及び角度情報が入力された場合、当該溶接トーチの移動速度及び姿勢に適応した溶接情報を出力することができる。
【0021】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接情報算出部は、溶接条件に応じた異なる複数のニューラルネットワークを備える。
【0022】
本態様によれば、溶接情報算出部は、複数の溶接条件に特化した学習済みの複数のニューラルネットワークを備える。各ニューラルネットワークを特定の溶接条件に特化させて学習させることによって、機械学習に必要な情報を抑制し、効率的に学習させることができる。
【0023】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接情報算出部は、速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つと、溶接条件情報とが入力された場合、前記溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度に適応した溶接情報を出力するように学習させたニューラルネットワークを備える。
【0024】
本態様によれば、溶接情報算出部は、学習済みのニューラルネットワークは、溶接条件と、溶接トーチの速度情報、姿勢情報及び角度情報が入力された場合、当該溶接トーチに移動速度及び姿勢に適応した溶接情報を出力することができる。
【0025】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接情報算出部が算出した溶接情報に基づいて行われた溶接結果の良否を判定するための情報を取得する溶接状態情報取得部と、前記溶接状態情報取得部にて取得した溶接結果情報に基づいて、溶接結果の良否を判定する良否判定部とを備え、前記取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つと、前記良否判定部の判定結果とに基づいて、溶接結果が改善されるように前記溶接情報算出部を機械学習させる学習処理部とを備える。
【0026】
本態様によれば、溶接情報算出装置は、溶接結果の良否を判定するための情報又は当該情報を取得し、良否判定部は溶接結果の良否を判定する。溶接結果の良否を判定するための情報は、溶接中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接中に集音された溶接音、並びに溶接後に撮像された溶接部位の画像等の情報である。そして、学習処理部は、溶接トーチの速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくともいずれか一つと、溶接結果の良否の判定結果とに基づいて、溶接情報算出部を機械学習させる。
従って、溶接結果が改善されるように溶接情報算出部を自動で機械学習させることができる。
【0027】
本態様に係る溶接情報算出装置は、溶接結果の良否を判定するための情報は、溶接中に検出された溶接電流及び溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接中に集音された溶接音、並びに溶接後に撮像された溶接部位の画像の少なくとも一つを示す情報を含む。
【0028】
本態様によれば、溶接中の溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度、短絡状況、溶接音、溶接画像等に基づいて、溶接結果の良否を判定し,溶接結果が改善されるよう、補正量算出部を機械学習させることができる。
【0029】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記溶接情報算出部は、前記取得部にて取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つの時間変化に基づいて、前記溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度を予測する予測部を有し、該予測部にて予測された移動速度、姿勢及び角度を示す速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つに基づいて、前記溶接トーチの状態に適応した溶接情報を算出する。
【0030】
本態様によれば、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度の時間変化を予測し、予測結果に適応した溶接情報を算出することによって、より効果的に溶接品質を向上させることができる。
【0031】
本態様に係る溶接情報算出装置は、前記予測部は、速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つが時系列的に入力された場合、予測される前記溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度を示した速度情報、姿勢情報又は角度情報を出力する複数のニューラルネットワークと、前記ニューラルネットワークの選択を受け付ける受付部とを備え、前記予測部は、前記受付部にて受け付けた前記ニューラルネットワークを用いて、前記溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度を予測する。
【0032】
本態様によれば、予測部は、溶接トーチの移動速度、姿勢又は角度を予測するための複数のニューラルネットワークを備える。溶接作業者は使用するニューラルネットワークを選択することができる。つまり、溶接作業者それぞれの癖を学習したニューラルネットワークを選択することができる。溶接情報算出装置は、ニューラルネットワークの選択を受付部にて受け付け、溶接作業者毎に異なる溶接トーチの動かし方を予測し、予測される溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に基づいて、溶接情報を算出する。
【0033】
本態様に係る溶接トーチは、上述のいずれか一つの溶接情報算出装置を備え、溶接電源から電力が供給されて溶接を行う溶接トーチであって、前記溶接情報算出装置は、前記溶接トーチに設けられており、前記溶接情報算出部にて算出した溶接情報を前記溶接電源へ送信する送信部を備える。
【0034】
本態様によれば、溶接トーチが溶接情報算出装置を備える。溶接トーチに設けられた溶接情報算出装置は、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出し、算出された溶接情報を溶接電源へ出力する。当該溶接情報を与えることにより、溶接トーチの状態に適応した溶接電流、溶接電圧等を溶接電源から溶接トーチへ供給させることができる。
【0035】
本態様に係る溶接電源は、上述のいずれか一つの溶接情報算出装置を備え、溶接トーチへ電力を供給する溶接電源であって、前記取得部は、前記溶接トーチから送信される速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つを取得するようにしてあり、前記溶接電源は、前記溶接情報算出部にて算出された溶接情報に基づいて電力を供給する。
【0036】
本態様によれば、溶接電源が溶接情報算出装置を備える。溶接電源に設けられた溶接情報算出装置は、溶接トーチの移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出し、算出された溶接情報に基づいて、溶接トーチの状態に適応した溶接電流、溶接電圧等を溶接トーチへ供給することができる。
【0037】
本態様に係る溶接システムは、上述のいずれか一つの溶接情報算出装置と、溶接トーチへ電力を供給する溶接電源と、該溶接電源から電力が供給されて溶接を行う溶接トーチとを備える溶接システムであって、前記取得部は、前記溶接トーチから送信される速度情報、姿勢情報及び角度情報の少なくとも一つを取得するようにしてあり、前記溶接電源は、前記溶接情報算出部にて算出された溶接情報に基づいて電力を供給する。
【0038】
本態様によれば、溶接電源及び溶接トーチを備えた溶接システムにおける任意の位置に溶接情報算出装置を備える。溶接電源は、溶接情報算出装置にて算出された溶接情報に基づいて、溶接トーチの状態に適応した溶接電流、溶接電圧等を溶接トーチへ供給することができる。
【発明の効果】
【0039】
本態様によれば、半自動式の溶接において溶接作業者の熟練度に頼ることなく、溶接トーチの移動速度、移動方向に対する溶接トーチの姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチのノズルの角度等の変化に適応した最適な溶接電流、溶接電圧等の溶接情報を算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
(実施形態1)
図1は実施形態1に係るアーク溶接システムを示す模式図である。消耗電極式のアーク溶接システム(溶接システム)は、溶接電源1、ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3を備える。当該アーク溶接システムは半自動式である。
【0042】
<溶接電源>
溶接電源1は、溶接トーチ3に電力を供給するための第1出力端子及び第2出力端子と、信号を送受信するため信号端子とを備える。溶接電源1の第1出力端子には、第1パワーケーブル41の一端が接続され、第1パワーケーブル41の他端はワイヤ送給装置2を介して溶接トーチ3に接続される。溶接電源1の第2出力端子は、第2パワーケーブル42によってワークWに接続される。ワークWは接地されている。溶接電源1は、電力系統Pの三相交流を所要の溶接電流及び溶接電圧に変換し、第1及び第2パワーケーブル41,42を通じて、アーク溶接に必要な電力を溶接トーチ3に供給する。
【0043】
溶接電源1及びワイヤ送給装置2は駆動制御用の電力伝送線5にて接続されている。また、ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3も電力伝送線5にて接続されている。溶接電源1は、ワイヤ送給装置2の送給モータ、溶接トーチ3の制御部36(
図2参照)等を駆動させるための電力を、電力伝送線5を通じてワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3に供給する。
【0044】
アーク溶接システムは、アーク溶接時における溶融金属の酸化を防ぐためのシールドガスを供給するガスボンベ6を備える。ガスボンベ6には、ガス配管7の一端が接続され、ガス配管7の他端は溶接電源1、ワイヤ送給装置2を介して溶接トーチ3に接続されている。ガスボンベ6のシールドガスは、ガス配管7を通じて溶接トーチ3に供給される。
【0045】
溶接電源1の信号端子には、信号線8の一端が接続され、信号線8の他端はワイヤ送給装置2に接続されている。またワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3も信号線8にて接続されている。溶接電源1は、信号線8を通じてワイヤ送給装置2へ制御信号を出力し、溶接ワイヤの送給速度等を制御する。また溶接電源1及び溶接トーチ3は、溶接トーチ3の移動速度、移動方向に対する当該溶接トーチ3の姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチ3のノズル371(
図4参照)の角度等、溶接トーチ3の状態に適応した溶接制御に必要な各種情報を送受信する。
【0046】
<ワイヤ送給装置>
ワイヤ送給装置2は、消耗電極として機能する溶接ワイヤを溶接トーチ3へ送給する装置である。溶接ワイヤは、例えばソリッドワイヤである。ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3間はトーチケーブル39によって接続されており、溶接ワイヤは、トーチケーブル39及び溶接トーチ3の内部に設けられているライナの内部を通って溶接トーチ3の先端部に導かれる。ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤを送給するための送給ローラ及び送給用モータ等を備え、溶接電源1から供給される電力にて駆動する。
また、トーチケーブル39の内部には、第1パワーケーブル41、ガス配管7、ライナ、電力伝送線5及び信号線8が配されている。溶接電源1からワイヤ送給装置2に供給された駆動制御用の電力は、トーチケーブル39の内部に配された電力伝送線5を通じて溶接トーチ3にも供給される。ワイヤ送給装置2は信号線8を通じて、溶接電源1及び溶接トーチ3と通信を行うことができる。同様に、溶接電源1及び溶接トーチ3は、ワイヤ送給装置2を介して、通信を行うことができる。
【0047】
<溶接トーチ>
溶接トーチ3は、銅合金等の導電性材料からなり、溶接対象のワークWへ溶接ワイヤを案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流を供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。ワイヤ送給装置2から送給された溶接ワイヤは、コンタクトチップの先端部から突出するように送り出される。第1パワーケーブル41はコンタクトチップと電気的に接続されている。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤに接触し、溶接電流が溶接ワイヤに供給される。
また、溶接トーチ3は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、先端の開口からワークWへシールドガスを噴射するノズル371を有する。シールドガスは、アークによって溶融したワークW及び溶接ワイヤの酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0048】
図2は、実施形態1に係る溶接トーチ3の構成例を示すブロック図である。溶接トーチ3は、トーチ側通信部31、表示部32、操作部33、記憶部34、トーチ状態検出部35及び制御部36を備える。
【0049】
トーチ側通信部31は、ワイヤ送給装置2又は溶接電源1との間で通信を行う回路である。トーチ側通信部31は、制御部36から与えられた信号を、所定の通信プロトコルに従って変調し、信号線8を通じてワイヤ送給装置2又は溶接電源1へ送信する。通信プロトコルは、例えばCAN(Controller Area Network)である。また、溶接電源1及びワイヤ送給装置2から送信された信号を受信し、復調し、復調された信号を制御部36に与える。なお、溶接トーチ3及び溶接電源1間の通信は、有線通信に限定されるものでは無く、無線通信であっても良い。
【0050】
表示部32は、溶接に係る各種情報を表示するディスプレイ321(
図4参照)を有する。ディスプレイ321は、例えば液晶表示パネルである。例えば、ワークWの材質、厚み、開先の形状、継手の種類、ワークWの姿勢等の溶接条件、推奨される溶接電流、溶接電圧、溶接トーチ3の移動速度、姿勢、鉛直方向に対する角度等を表示する。
【0051】
操作部33は、溶接作業者による操作を受け付けるための各種スイッチ、ボタンである。操作部33が操作された場合、操作信号が制御部36に入力され、制御部36は操作部33の操作状態を認識することができる。
【0052】
記憶部34は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部34は、操作部33の操作によって設定された溶接条件、総溶接時間等の情報を記憶する。溶接条件は、例えば、ワークWの材質、厚み、開先の形状、継手の種類、ワークWの姿勢、所定の溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度等において推奨される溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等の設定値の情報である。溶接トーチ3側で設定される溶接条件は、溶接トーチ3が、特定の移動速度、姿勢及び角度で溶接が行われる場合における、推奨される溶接電流、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度等を設定するための基準となる情報であれば、特にその内容は限定されるものでは無い。また、溶接条件の設定は、溶接電源1側で行っても良い。
【0053】
トーチ状態検出部35は、溶接トーチ3の移動速度、移動方向に対する溶接トーチ3の姿勢、鉛直方向に対する溶接トーチ3の角度等を検出するためのセンサを備える。例えば、トーチ状態検出部35は、後述の加速度センサ351及びジャイロセンサ352(
図6参照)を備える。トーチの移動速度、姿勢及び角度の検出については後述する。
【0054】
制御部36は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)又はマルチコアCPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース等を有するコンピュータである。制御部36は、操作部33の操作に応じて溶接条件を設定する等の所定処理を実行する。制御部36は、設定された溶接条件を示す溶接条件情報をトーチ側通信部31にて溶接電源1へ送信する。また、制御部36は、トーチ状態検出部35にて検出された検出値に基づいて、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度等を演算する処理を実行する。制御部36は、演算して得られた速度情報、姿勢情報及び角度情報をトーチ側通信部31にて溶接電源1へ送信する。溶接トーチ3の状態に係る情報は、溶接中、継続的に溶接電源1へ送信する。更に、制御部36は溶接条件、溶接トーチ3の状態、記憶部34から読み出した情報等を、適宜、表示部32に表示させる制御を行うこともできる。
【0055】
図3は、実施形態1に係る溶接電源1の構成例を示すブロック図である。溶接電源1は、主制御部11、電源部12、電源側通信部13、第1記憶部14、第2記憶部15、学習部17、及び溶接状態検出部16を備える。
【0056】
主制御部11は、CPUを有するマイコンであり、溶接電源1を構成する各構成部の動作を制御する。
【0057】
電源部12は、アーク溶接を行うための電力を溶接トーチ3に供給する回路である。電源部12は、電力系統Pから入力される三相交流電力をアーク溶接に適した電力に変換して出力する。具体的には、電源部12は、学習部17から主制御部11を介して与えられる溶接情報に基づいて、所要の溶接電流及び溶接電圧を出力する。溶接情報は、特定の溶接条件、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度に適応して、良好な溶接結果を得ることが可能な溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度等を示した情報である。また、電源部12は、三相交流電力を、ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3の駆動制御に適した電力に変換し、ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3へ供給する。
【0058】
電源側通信部13は、ワイヤ送給装置2及び溶接トーチ3と通信を行う回路である。電源側通信部13は、制御部36から与えられた信号を、所定の通信プロトコルに従って変調し、信号線8を通じてワイヤ送給装置2及び溶接電源1へ送信する。例えば、電源側通信部13は、学習部17から主制御部11を介して与えられる溶接情報に基づいて、所要の送給速度で溶接ワイヤを送給することを指示する制御信号をワイヤ送給装置2へ送信する。また、溶接トーチ3及びワイヤ送給装置2から送信された信号を受信し、復調し、復調された信号を主制御部11、学習部17、溶接状態検出部16等に与える。
【0059】
第1記憶部14は、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、主制御部11の動作に必要なプログラムを記憶する。
【0060】
第2記憶部15は、第1記憶部14と同様の不揮発性メモリである。第2記憶部15は、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出する処理、溶接情報を算出するニューラルネットワークを学習させるための学習用情報15bを蓄積する処理、当該ニューラルネットワークを機械学習させる処理等をコンピュータである学習部17に実行させるためのコンピュータプログラム15aを記憶する。
【0061】
溶接状態検出部16は、溶接工程中、アークを流れる溶接電流を検出する電流センサ、溶接トーチ3及びワークWに印加される電圧を検出する電圧センサ等を含む。溶接状態検出部16は、検出された溶接電流、溶接電圧等の溶接状態を示す溶接状態情報を学習部17へ出力する。
【0062】
学習部17は、CPU、GPU又はマルチコアCPU等のプロセッサ、ROM、RAM、入出力インタフェース等を有するコンピュータである。学習部17は、設定された溶接条件、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度に適応した溶接情報を算出し、算出された溶接情報を主制御部11へ出力する。学習部17は、後述するようにニューラルネットワークを用いて溶接情報を算出する。主制御部11は、学習部17にて算出された溶接情報を電源部12に与え、溶接電流及び溶接電圧の供給を制御する。
【0063】
また、学習部17は、トーチ情報取得部17a、溶接状態情報取得部17b及び蓄積処理部17c等の機能部を有し、自身の学習に必要な学習用情報15bを収集して蓄積する処理を実行する。電源側通信部13は、トーチ側通信部31と通信を行い、溶接条件情報、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、溶接条件情報等を受信している。トーチ情報取得部17aは、電源側通信部13が受信した溶接条件情報、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報を電源側通信部13から取得する。溶接状態情報取得部17bは、溶接結果の良否を判定するための情報として、溶接電圧、溶接電流等を示す溶接状態情報を溶接状態検出部16から取得する。蓄積処理部17cは、溶接に使用した溶接情報、トーチ情報取得部17a及び溶接状態情報取得部17bにて取得した各情報を対応付け、学習用情報15bとして第2記憶部15に記憶させる。
【0064】
また、第2記憶部15は、溶接施工要領書に係る情報を学習用情報15bとして記憶している。溶接施工要領書に係る情報は、例えば溶接対象であるワークWの材質、厚み、開先の形状、継手の種類、ワークWの姿勢、推奨される溶接トーチ3の移動速度、姿勢、角度、溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等の情報であり、当該情報を学習用情報15bとして記憶している。
学習部17は、第2記憶部15に蓄積された学習用情報15bに基づいて自身を機械学習させる処理を実行することができる。機械学習により、学習部17はより良い溶接結果が得られる溶接情報を出力できるようになる。学習部17による溶接情報の算出及び学習に係る構成の詳細は後述する。
【0065】
図4は、溶接トーチ3の構成例を示す外観図である。
図4Aは、溶接トーチ3の正面図、
図4Bは溶接トーチ3の平面図である。溶接トーチ3は、トーチボディ37、ノズル371、ハンドル38、制御基板381、トーチスイッチ331、操作ボタン332、ディスプレイ321、加速度センサ351、ジャイロセンサ352及びトーチケーブル39を備える。
【0066】
トーチボディ37は、金属製の筒状の部材であり、内部に溶接ワイヤが挿通するライナ、第1パワーケーブル41、及びガス配管7が配されている。トーチボディ37の先端には、ノズル371が設けられている。トーチボディ37は、溶接作業者がワークWに対してノズル371を向けやすいように、湾曲部分を有している。
【0067】
ハンドル38は、溶接作業者が把持するための部位であり、トーチボディ37の基端部を保持している。溶接作業者は、ハンドル38を把持し、溶接作業を行う。ハンドル38には、トーチスイッチ331、操作ボタン332、及びディスプレイ321が設けられている。また、ハンドル38の内部には制御基板381が配されている。制御基板381には、トーチ側通信部31、表示部32、操作部33、記憶部34、トーチ状態検出部35、及び制御部36を構成する回路が配されている。
【0068】
トーチスイッチ331は、溶接の開始及び停止の操作を受け付ける操作手段であり、ハンドル38を把持した溶接作業者が、人差し指で押動操作しやすい位置に設けられている。トーチスイッチ331のオン操作(押下)により、操作信号が制御部36に出力され、当該操作信号が溶接電源1に入力されることにより、溶接電源1は溶接電力の出力を行う。オン操作が解除されることで、溶接電源1は溶接電力の出力を停止する。即ち、トーチスイッチ331を押下している間だけ、溶接が行われる。
【0069】
ディスプレイ321は、各種表表示を行うパネルであり、溶接作業者が画面を見やすいように、ハンドル38におけるトーチスイッチ331の反対側に設けられている。
【0070】
操作ボタン332は、画面の切り替え、各種設定、設定の変更の操作を行うための操作手段であり、ハンドル38のディスプレイ321と同じ側の、ハンドル38の把持部分とディスプレイ321との間に配されている。操作ボタン332は、上ボタン332a、下ボタン332b、左ボタン332c及び右ボタン332dからなる。各ボタンが押下されると、対応する操作信号が制御部36に出力され、制御部36は、対応する処理を行う。
【0071】
加速度センサ351は、3軸の加速度センサ351であり、各軸方向の加速度を検出して、検出値を制御部36に出力する。ジャイロセンサ352は、3軸のジャイロセンサ352であり、各軸周りの角速度を検出して、検出値を制御部36に出力する。制御部36は、トーチ状態検出部35の加速度センサ351及びジャイロセンサ352より入力される検出値に基づいて、溶接トーチ3の速度を示す速度情報を演算する。また、制御部36は、加速度センサ351及びジャイロセンサ352より入力される検出値に基づいて、溶接トーチ3の移動方向に対する溶接トーチ3の姿勢を示す姿勢情報、鉛直方向に対する溶接トーチ3の角度を示す角度情報を演算する。
【0072】
なお、制御部36による溶接トーチ3の移動速度の演算方法は特に限定されるものでは無い。例えば、加速度センサ351を利用せず、ジャイロセンサ352による検出値のみから演算するようにしても良い。また、ジャイロセンサ352を利用せず、加速度センサ351による検出値のみから演算するようにしても良い。
【0073】
<溶接トーチの移動速度>
半自動式のアーク溶接における溶接トーチ3の移動速度は、ワークWの材質、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて、推奨される速度が決まっている。溶接作業者は、推奨速を保つように溶接トーチ3を移動させながら溶接を行う。しかし、推奨速度を保って溶接トーチ3を移動させ続けることは困難であり、実際には溶接トーチ3の移動速度は、推奨速度より速くなったり、遅くなったりする。
【0074】
図5は、溶接トーチ3の移動速度及び溶接電圧と、溶接状態の関係を示す模式図であり、溶接トーチ3の先端から突出した溶接ワイヤDの先端と、ワークWとの間でアークAを発生させて溶接を行っている状態を示している。
【0075】
図5Aは、推奨速度で溶接トーチ3を移動させている状態を示している。この場合、ワークWに形成されるビードBの厚さは適切な厚さになっており、溶接ワイヤDの先端とビードBの表面との間のアークAの長さLaも適切な長さになっている。
【0076】
図5Bは、推奨速度よりも速い速度で溶接トーチ3を移動させている状態を示している。この場合、推奨速度で移動させた場合に比べて、ワークWに形成されるビードBの厚さが薄くなる。これにより、溶接ワイヤDと、ビードBの表面との間のアークAの長さLaが長くなり、スパッタが発生し易くなる。
【0077】
図5Cは、
図5Bと同様に推奨速度よりも速い速度で溶接トーチ3を移動させており、溶接電圧を規定の設定電圧より低くした状態を示している。この場合、ビードBの厚さは、
図5Bと同様に薄くなっている。しかし、溶接電圧を低く設定したことにより、溶接ワイヤDが溶けにくくなり、溶接トーチ3の先端から突出した溶接ワイヤDの長さLが、
図5A及び
図5Bに比べて長くなっている。これにおり、溶接ワイヤDの先端とビードBの表面との間のアークAの長さLaは適切な長さとなり、スパッタの発生が抑制される。
【0078】
逆に、推奨速度より遅い速度で溶接トーチ3を移動させた場合、ビードBの厚さが厚くなるため、溶接ワイヤDの先端とビードBの表面との間のアークAの長さLaが短くなる。この場合は、溶接電圧を規定の設定電圧より高くすることにより、溶接ワイヤDの溶融が促され、溶接トーチ3の先端から突出した溶接ワイヤDの長さLが
図5Aの場合より短くなる。これにより、アークAの長さLaは適切な長さとなる。
【0079】
このように、溶接トーチ3の移動速度に応じて、溶接電圧を調整することにより、アークAの長さLaを調整し、溶接トーチ3の移動速度の変化による溶接品質の低下を抑制することができる。
【0080】
<溶接トーチの移動方向に対する角度>
図6は、移動方向に対する溶接トーチ3の姿勢を示す模式図である。図中、太線矢印は溶接トーチ3の移動方向を示している。
半自動式のアーク溶接においては、溶接トーチ3の移動方向に対する姿勢によって、溶接状態が変化する。右図に示すように、移動方向に向けて溶接トーチ3を傾けて行う溶接方法は後退法と呼ばれる。後退法の場合、溶け込みが深く、余盛が高く、幅が狭いビードが形成される。左図に示すように、移動方向と逆方向に溶接トーチ3を傾けて行う溶接方法は前進法と呼ばれる。前進法の場合、溶け込みが浅く、余盛が低く、幅が広いビードが形成される。
【0081】
半自動式のアーク溶接においては、溶接トーチ3の姿勢も、移動速度と同様、ワークWの材質、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて、推奨される溶接トーチ3の姿勢が決まっている。溶接作業者は、溶接トーチ3の姿勢を保ちながら溶接トーチ3を移動させて溶接を行う。しかし、溶接トーチ3の姿勢を一定に保ち続けることは困難である。溶接トーチ3の姿勢が変化すると、溶接状態が変化し、溶接品質が悪化する虞がある。特に、前進法で溶接トーチ3の傾きが大きくなり過ぎると、スパッタの発生が多くなることが知られている。
【0082】
中央の図に示す「所定範囲内」は溶接トーチ3の姿勢として推奨される範囲を示している。溶接トーチ3の姿勢が当該範囲内にある場合、溶接電圧として規定の基準電圧値を用いて溶接を行うと、良好な溶接結果が得られる。
ところが、左図に示すように溶接トーチ3が移動方向反対側に傾き過ぎている場合(前進角オーバー)、規定の溶接電圧の設定値に所定値αを加算した値を設定すると、溶接結果が改善される傾向にある。また、右図に示すように溶接トーチ3が移動方向に傾き過ぎている場合(後退角オーバー)、規定の溶接電圧の設定値から所定値βを減算した値を設定すると、溶接結果が改善される傾向にある。
【0083】
<溶接トーチの角度>
図7は、鉛直方向に対する溶接トーチ3の角度を示す模式図である。半自動式のアーク溶接においては、通常、溶接トーチ3の先端を下方に向けて溶接を行うが、
図7に示すように、溶接箇所に応じて先端を横方向(90°)又は上方(180°)に向けて溶接を行う場合もある。この場合、溶接トーチ3の先端を横方向又は上方向に向けて溶接を行う場合、先端を下方に向けて溶接を行う場合に比べて、溶接電流を低く設定した方が良い傾向にある。
例えば、溶接トーチ3の先端が横方向を向いている場合、規定の溶接電流の設定値から所定値αを減算した値を設定すると、溶接結果が改善される傾向にある。また、溶接トーチ3の先端が上方を向いている場合、規定の溶接電流の設定値から、より大きな所定値βを減算した値を設定すると、溶接結果が改善される傾向にある。
【0084】
<学習部>
図8は、学習部17の構成例を示すブロック図である。学習部17は、取得部171と、溶接情報算出部172と、学習用情報読出部173と、良否判定部174と、学習処理部176とを備える。
【0085】
取得部171は、トーチ速度情報取得部171a、トーチ姿勢情報取得部171b、トーチ角度情報取得部171c、及び溶接条件情報取得部171dを有する。
図3に示す電源側通信部13は、トーチ側通信部31と通信を行い、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、並びに溶接条件情報等を受信しており、学習部17のトーチ速度情報取得部171aは、電源側通信部13にて受信した速度情報を取得する。同様にして、トーチ姿勢情報取得部171b及びトーチ角度情報取得部171cは、電源側通信部13にて受信した姿勢情報及び角度情報を取得する。また、溶接条件情報取得部171dは、電源側通信部13にて受信した溶接条件情報を取得する。取得部171は、取得した速度情報、姿勢情報及び角度情報、並びに溶接条件情報を溶接情報算出部172へ出力する。
【0086】
溶接情報算出部172は、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、並びに溶接条件情報が入力された場合、当該トーチの状態及び溶接条件に適応した溶接情報、つまり、良好な溶接結果が得られる溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度等を示す情報を出力する溶接情報算出ニューラルネットワーク(Neural Network) 172aを備える。以下、溶接情報算出ニューラルネットワーク172aを、溶接情報算出NN172aと呼ぶ。溶接情報算出NN172aは、入力層、中間層及び出力層を有する学習済みのニューラルネットワークである。中間層は複数層である。入力層は、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報並びに溶接条件が入力される複数のニューロンを備える。出力層は、例えば溶接電流、溶接電圧及び溶接ワイヤの送給速度等の大きさに対応した複数のニューロンを備える。例えば、溶接電流=γに対応したニューロン、溶接電流=2γ,3γ…に対応した複数のニューロンを有する。溶接電圧及び送給速度についても同様である。各ニューロンは、当該溶接電流、溶接電圧及び送給速度が望ましい確率を示した情報を出力する。溶接情報算出部172は、溶接情報算出NN172aの出力層から出力される情報に基づいて、最も望ましい、つまり、出力が最も大きいニューロンに対応する溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等の溶接情報を決定し、決定された溶接情報を主制御部11及び電源部12に与える。電源部12は、学習部17から出力された溶接情報を用いて、溶接電流及び溶接電圧を制御する。主制御部11は、学習部17から出力された溶接情報を用いて、溶接ワイヤの送給速度等を指示する制御信号をワイヤ送給装置2へ送信する。
なお、溶接情報算出NN172aの中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されるものでは無い。
【0087】
学習用情報読出部173は、第2記憶部15に蓄積された学習用情報15bを読み出し、読み出した学習用情報15bを良否判定部174及び学習処理部176へ出力する。学習用情報15bは、例えば溶接に使用した溶接情報、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報と、溶接結果の良否を判定するための情報とを含む。溶接結果の良否を判定するための情報は、例えば、溶接中に検出された溶接電圧、溶接電流等である。以下、当該溶接電圧及び溶接電流を溶接モニタ情報と呼ぶ。学習用情報読出部173は、溶接モニタ情報を良否判定部174へ出力する。また学習用情報読出部173は、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、並びに溶接情報を学習部17へ出力する。
【0088】
良否判定部174は、溶接モニタ情報が入力された場合、当該溶接モニタ情報が得られるときの溶接工程に係る溶接結果の良否を示す情報を出力する良否判定ニューラルネットワーク175を備える。以下、良否判定ニューラルネットワーク175を、良否判定NN175と呼ぶ。良否判定NN175は、例えば、学習済みの再帰型ニューラルネットワーク(RNN: Recurrent Neural Network)であり、入力層、中間層及び出力層を有する。
良否判定NN175は、例えば、時系列データである溶接モニタ情報が入力されるニューロンを入力層に備え、溶接結果が良好である確率を示した情報を出力する第1ニューロンと、溶接結果が不良である確率を示した情報を出力する第2ニューロンとを出力層に備える。この場合、上記良否を示す情報は、第1及び第2ニューロンから出力された情報である。
また、良否判定NN175は、溶接結果の良否を2値で出力するニューロンを出力層に備えても良い。この場合、上記良否を示す情報は、当該ニューロンから出力された2値の情報である。
更に、良否判定NN175は、溶接結果の良否の程度を示すアナログ値を出力するニューロンを出力層に備えても良い。
良否判定NN175は、溶接モニタ情報(入力データ)と、当該溶接モニタ情報に対応する溶接結果の良否を示す情報(教師データ)を良否判定NN175の学習用の情報として、学習前の再帰型深層ニューラルネットワークに与えることにより学習させれば良い。
なお、良否判定NN175の中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されるものでは無い。また、良否判定NN175は必ずしも再帰型ニューラルネットワークである必要は無く、その他の種類のニューラルネットワークで構成しても良い。また、良否判定部174は、必ずしもニューラルネットワークである必要は無く、溶接電流又は溶接電圧の波形から特徴量を抽出し、溶接結果の良否を判定するように構成しても良い。また、溶接モニタ情報に基づいて、短絡時間、アーク切れの頻度等を演算し、溶接結果の良否を判定するように構成しても良い。
【0089】
学習処理部176は、学習用情報読出部173から出力された溶接条件、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、並びに溶接情報等を取得する。また、学習処理部176は、良否判定部174から出力された溶接結果の良否を示す情報を取得する。
【0090】
溶接情報算出NN172aの学習方法を説明する。
(1)初期学習
まず、溶接情報算出NN172aの初期学習について説明する。初期学習は現場でアーク溶接システムを使用する前段階の機械学習である。初期学習においては、特定の溶接条件において推奨される溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度で、熟練者が溶接を行い、学習用情報15bを蓄積する。また、推奨される溶接トーチ3の移動速度よりも早い速度、遅い速度で溶接が行われたことを想定し、当該条件で良好な溶接結果が得られるように、溶接電圧及び溶接電流等を調整して、溶接を行い、学習用情報15bを蓄積する。同様に、溶接トーチ3の姿勢及び角度が、推奨される姿勢及び角度から外れたことを想定し、当該条件で良好な溶接結果が得られるように、溶接電圧及び溶接電流等を調整して、溶接を行い、学習用情報15bを蓄積する。
なお、溶接電流及び溶接電圧を推奨値から外れた値に設定し、当該溶接条件の下、良好な溶接結果が得られるように熟練者が溶接を試み、当該溶接にて得られた情報を学習用情報15bとして蓄積しても良い。
更に、標準的な溶接条件、溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報をそのまま学習用情報15bとして第2記憶部15に記憶させ、実際に熟練者が溶接を行って得られた学習用情報15bの不足を補うと良い。
学習処理部176は、蓄積された学習用情報15bのから良好な溶接結果が得られた学習用情報15bを選択する。つまり、特定の溶接条件において良好な溶接結果が得られる溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度を表した学習用情報15bを選択する。そして、学習処理部176は、選択された学習用情報15bを用いて、溶接情報算出NN172aを学習させる。学習処理部176は、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報、角度情報、溶接条件情報を溶接情報算出NN172aに入力し、当該溶接情報算出NN172aから出力された溶接情報を取得する。そして、当該出力された溶接情報と、良好な溶接結果が得られたときの溶接情報との誤差を算出し、当該誤差が小さくなるように溶接情報算出NN172aを特徴付ける重み係数を誤差逆伝播法にて修正を行う。重み係数の修正により、溶接情報算出NN172aは、より良好な溶接結果が得られるような溶接電流、溶接電圧等の溶接情報を出力できるようになる。
【0091】
(2)追加学習
次に、溶接情報算出NN172aの追加学習について説明する。追加学習は、現場でアーク溶接システムを使用して得られた学習用情報15bに基づいて行われる機械学習である。言い換えると、追加学習は、初期学習で想定されていなかった溶接条件、溶接トーチ3の状態にも対応できるように、溶接情報算出NN172aの重み係数を修正する処理である。
溶接電源1は、溶接作業者が現場で溶接を行う都度、溶接に係る情報を学習用情報15bとして蓄積している。溶接情報算出NN172aは、溶接作業者により、追加学習の操作が行われた場合、追加学習処理を実行する。
学習処理部176は、初期学習同様、良好な溶接結果が得られた学習用情報15bを選択して、溶接情報算出NN172aを学習させると良い。つまり、初期学習では想定されていなかった溶接条件、溶接トーチ3の状態における最適な溶接情報に基づいて、当該溶接情報を算出できるように、溶接情報算出NN172aを追加学習させる。この場合、初期学習で用いた学習用情報15bと、現場で蓄積した学習用情報15bとを混合させて追加学習を実行すると良い。
【0092】
また、溶接電源1は、良好な溶接結果が得られるように溶接情報を自動調整し、溶接情報算出NN172aの追加学習に必要な学習用情報15bの蓄積を支援する追加学習モードを有する。溶接作業者が溶接トーチ3の操作部33を操作することによって、溶接電源1は追加学習モードへ移行する。追加学習モードにおいては、溶接中の溶接電圧及び溶接電流をモニタし、良好な溶接結果が得られるように、リアルタイムで溶接電流、溶接電圧等の調整を行う。以下、パルス溶接を例にして説明する。
学習部17は、溶接状態情報取得部17bにて取得した溶接電圧及び溶接電流に基づいて、溶接時間に対する短絡時間の比率、アークの安定性、短絡時間のバラツキ、溶接中のアーク切れを検出することができる。アークの安定性を示す指標は、電圧変動の累積目標値から検出された溶接電圧の変動累積値を減算することによって得られる。
【0093】
学習部17は、短絡時間の比率が基準値より小さい場合、溶接電流、溶接電圧、パルスピーク電流、パルスベース電流、パルス周波数がいずれも大きくなるように溶接情報を補正して、電源部12へ出力する。逆に、短絡時間の比率が基準値より大きい場合、溶接電流、溶接電圧、パルスピーク電流、パルスベース電流、パルス周波数がいずれも小さくなるように溶接情報を補正して、電源部12へ出力する。学習部17は、例えば溶接電流、溶接電圧、パルスピーク電流等を順に変更し、溶接状態が改善された場合、変更後の値を保持する。
なお、学習部17は、短絡時間の比率が基準値から外れている場合、短絡電流、パルスの立ち上がり、立ち下がり時間が大きく又は小さくなるように、試行錯誤的に溶接情報を補正し、補正後の溶接情報を電源部12へ出力する。溶接結果が改善されなかった場合、学習部17は、短絡電流、パルスの立ち上がり、立ち下がり時間が元の設定値になるように溶接情報を補正する。
【0094】
また、学習部17は、アークが不安定である場合、短絡時間のばらつきが大きい場合、溶接中にアーク切れが発生している場合、より小さな溶接電流が出力され、より大きな溶接電圧及び短絡電流が出力されるように溶接情報を補正し、補正後の溶接情報を電源部12へ出力する。
なお、学習部17は、アークが不安定である場合、短絡時間のばらつきが大きい場合、溶接中にアーク切れが発生している場合、パルスピーク電流、パルスベース電流、パルス周波数、パルスの立ち上がり、立ち下がり時間が大きく又は小さくなるように、試行錯誤的に溶接情報を補正し、補正後の溶接情報を電源部12へ出力する。溶接結果が改善されなかった場合、学習部17は、元の設定値になるように溶接情報を補正する。
【0095】
上記追加学習モードにおいては、学習部17は、補正後の溶接情報、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報、溶接条件情報等を、学習用情報15bとして第2記憶部15に記憶させる。
【0096】
追加学習モードで溶接を実行することにより、初期学習では想定されていなかった溶接条件、溶接トーチ3の状態における最適な溶接情報を蓄積することができる。そして、学習部17は、初期学習と同様の手順で、溶接情報算出NN172aを追加学習させる。
【0097】
本実施形態1に係るアーク溶接システムにおいては、溶接作業者の熟練度に頼ることなく、溶接トーチ3の移動速度、姿勢、角度等の変化に適応した最適な溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの送給速度等を示す溶接情報を算出することができる。
【0098】
また、溶接作業者は、溶接トーチ3の操作部33を操作し、溶接条件を選択するのみで、溶接電源1の学習部17は、選択された溶接条件において、実際の溶接トーチ3の移動速度、姿勢、角度等の変化に適応した最適な溶接電流等の溶接情報を算出することができる。
【0099】
更に、溶接電源1は、溶接情報算出部172を機械学習させるための学習用情報15bを収集及び蓄積することができ、蓄積した学習用情報15bを用いて溶接情報算出NN172aを追加学習させることができる。また、溶接電源1は、溶接結果の良否を自動で判別し、良好な溶接結果が得られる溶接情報を出力するように、溶接情報算出NN172aを追加学習させることができる。
【0100】
なお、実施形態1においては、溶接情報算出部172が溶接トーチ3の状態及び溶接条件に基づいて、溶接情報を出力する例を説明したが、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度に基づいて、溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度等を補正する補正量を算出して出力するように構成しても良い。また、補正量が溶接条件に大きく依存しない場合、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度のみに基づいて、補正量を算出するように溶接情報算出部172を構成しても良い。
【0101】
また、第2記憶部15及び学習部17を溶接電源1に備える例を説明したが、外部のサーバ装置に第2記憶部15及び学習部17を備えても良い。溶接電源1は、学習用情報15bをサーバ装置へ送信する。サーバ装置側で溶接情報算出部172を機械学習させ、学習後の溶接情報算出部172を規定するパラメータを溶接電源1へ送信する。サーバ装置は、複数の溶接電源1から学習用情報15bを収集及び蓄積するように構成しても良い。溶接電源1は、サーバ装置から送信されたパラメータを受信し、受信したパラメータを用いて溶接情報算出部172を再構成する。
【0102】
更に、本実施形態1では、アーク溶接を行う装置及び溶接システムを例に挙げて説明したが、レーザ溶接、電子ビーム溶接、ガス溶接等の他方式の溶接にも本実施形態1を適用することができる。後述の他の実施形態においても同様である。
【0103】
(実施形態2)
図9は、実施形態2に係る溶接トーチ203の構成例を示すブロック図である。実施形態2に係るアーク溶接システムは、溶接情報算出NN234aが溶接トーチ203に設けられている点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0104】
実施形態2に係る溶接トーチ203は、学習済みの溶接情報算出NN234aを備えた溶接情報算出部234を備える。溶接情報算出NN234aの構成は実施形態1の溶接電源1に設けられた溶接情報算出NN172aと同様である。
【0105】
ただし、溶接情報算出NN234aの追加学習処理は溶接電源1、又は実施形態1の学習部17と同様の機能を有するサーバ装置にて実行すると良い。溶接トーチ203は、追加学習の結果得られたニューラルネットワークのパラメータを取得し、記憶する。
【0106】
実施形態2に係る溶接トーチ203は、溶接条件、溶接トーチ203の状態に適応した溶接情報を溶接情報算出NN234aにて算出し、算出した溶接情報を溶接電源1へ出力する。溶接情報算出部234にて算出された溶接情報を溶接電源1に与えることにより、溶接トーチ203の移動速度、姿勢及び角度の変化に拘わらず、良好な溶接結果を得ることができる。
【0107】
溶接トーチ203側で、溶接情報を算出し、算出結果の溶接情報を溶接電源1へ送信する構成であるため、溶接トーチ203から溶接電源1へ送信する情報量を削減することができる。従って、溶接電源1は、溶接トーチ203の状態変化に遅れなく、最適な溶接電圧、溶接電流を溶接トーチ203に供給することができる。
【0108】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係る溶接トーチ303の構成例を示すブロック図である。実施形態3に係るアーク溶接システムは、溶接中に検出した溶接電圧、溶接電流に加え、溶接痕を撮像して得た画像情報、溶接中に集音して得られた溶接音情報を用いて、溶接結果の良否を判定し、溶接情報算出部172を機械学習させる点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点について説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0109】
実施形態3に係る溶接トーチ303は、撮像部337及びマイク338を更に備える。撮像部337は、溶接痕を撮像するカメラである。マイク338は、溶接中の溶接音を集音する。撮像して得られた画像情報、及び集音して得られた音声情報は、溶接状態情報として溶接電源1へ送信される。溶接電源1は、電源側通信部13にて、溶接モニタ情報、音声情報及び画像情報を受信し、受信した各情報を学習部17に与える。
【0110】
図11は、実施形態3に係る良否判定部174の構成例を示すブロック図である。良否判定部174は、第1良否判定部174a、第2良否判定部174b、第3良否判定部174c及び総合評価部175dを備える。
第1良否判定部174aは、入力される時系列の溶接モニタ情報に基づいて、溶接結果の良否を判定するための情報を出力する良否判定RNN(Recurrent Neural Network)175aを有する。
第2良否判定部174bは、入力される時系列の音声情報に基づいて、溶接結果の良否を判定するための情報を出力する良否判定RNN175bを有する。
第3良否判定部174cは、入力される画像情報に基づいて、溶接結果の良否を判定するための情報を出力する良否判定CNN(Convolutional Neural Network)175cを有する。
第1良否判定部174a、第2良否判定部174b及び第3良否判定部174cから出力される情報は、例えば、溶接結果が良好である確率を示す情報である。
【0111】
総合評価部175dは、第1良否判定部174a、第2良否判定部174b及び第3良否判定部174cから出力された各情報に基づいて、溶接結果の良否を判定し、良否の判定結果を学習処理部176へ出力する。総合評価部175dは、例えば、各判定部から出力された情報のいずれもが閾値以上である場合、溶接結果が良好であると判定すると良い。良否の判定方法は一例であり、各情報に基づいて平均値等の統計量を算出し、統計量を閾値と比較することによって、良否を判定しても良い。
【0112】
実施形態2に係るアーク溶接システムによれば、溶接中に検出された溶接電流、溶接電圧の溶接モニタ情報に加え、溶接音、溶接痕を撮像して得られる画像等を加味して、より正確に溶接結果の良否を判定し、溶接結果が向上させる溶接情報を出力することができる。
【0113】
なお、実施形態1における追加学習モードにおいては、短絡時間の比率、短絡時間のバラツキ等に基づいて溶接電流及び溶接電圧を調整し、溶接情報算出部172を追加学習させる例を説明したが、音声情報及び画像情報に基づいて、溶接電流及び溶接電圧を調整することもできる。学習部17は、画像情報に基づいて、溶け込みの程度、ビード幅、ビード幅の均一性、スパッタ等を特定することができる。
【0114】
例えば、学習部17は、溶け込みが少ない場合、又はビード幅が狭い場合、溶接電流、溶接電圧、パルスピーク電流、パルスベース電流、パルス周波数がいずれも大きくなるように溶接情報を補正して、電源部12へ出力する。逆に溶け落ちが生じている場合、又はビード幅が広い場合、溶接電流、溶接電圧、パルスピーク電流、パルスベース電流、パルス周波数がいずれも小さくなるように溶接情報を補正して、電源部12へ出力する。
また、学習部17は、スパッタが多い場合、ビード幅が均一で無い場合、より小さな溶接電流及び短絡電流が出力され、より大きな溶接電圧が出力されるように溶接情報を補正し、補正後の溶接情報を電源部12へ出力する。
【0115】
また、学習部17は、溶込みの過不足量と、ビード幅の目標値及び実際のビード幅の差分と、スパッタ量と、アーク安定性の指標とを重み付け加算することによって、溶接電流又は溶接電圧の補正量を算出するように構成しても良い。
【0116】
(実施形態4)
図12は、実施形態4に係る学習部17の構成例を示すブロック図である。実施形態4に係るアーク溶接システムは、溶接条件毎に異なる複数の溶接情報算出NN172aを備える点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点について説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0117】
実施形態2に係る溶接情報算出部172は、溶接条件毎に異なる複数の溶接情報算出NN172aを備える。例えば、ワークWの材質、厚み、開先の形状、継手の種類、ワークWの姿勢毎に異なる複数の溶接情報算出NN172aを備える。学習部17は、複数の溶接情報算出NN172aと、複数の溶接条件との対応関係を記憶している。
【0118】
溶接作業者は、溶接トーチ3の操作部33を操作することによって、溶接条件を選択する。選択された溶接条件情報は溶接電源1へ送信され、溶接電源1は、溶接条件情報を受信する。学習部17は、溶接電源1が受信した溶接条件情報に対応する溶接情報算出NN172aを選択し、選択された溶接条件算出NNを用いて溶接情報を算出する。
【0119】
実施形態4に係るアーク溶接システムによれば、溶接条件毎に異なる溶接情報算出NN172aを備えるため、効率的に溶接情報算出部172を機械学習させることができる。
【0120】
(実施形態5)
図13は、実施形態5に係る学習部17の構成例を示すブロック図である。実施形態4に係るアーク溶接システムは、動作予測部172bを備える点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点について説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0121】
実施形態5に係る溶接情報算出部172は、溶接トーチ3の動作を予測する動作予測部172bを備える。動作予測部172bは、例えば、溶接トーチ3の移動速度、姿勢及び角度の時間的変化に基づいて、溶接トーチ3の動作を予測する再帰型ニューラルネットワークである。当該ニューラルネットワークは、溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報が入力されるニューロンを有する入力層と、中間層と、予測される速度情報、姿勢情報及び角度情報を出力するニューロンを有する出力層とを有する。学習処理部176は、動作予測部172bから出力された溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報と、溶接トーチ3の実際の速度情報、姿勢情報及び角度情報との差分が小さくなるように、継続的に動作予測部172bを機械学習させる。溶接情報算出部172は、動作予測部172bにて予測された溶接トーチ3の速度情報、姿勢情報及び角度情報に基づいて、溶接情報を算出する。
【0122】
実施形態5に係るアーク溶接システムによれば、溶接トーチ3の動作を予測し、予測される溶接トーチ3の動作に適応した溶接情報を算出することができるため、より良好な溶接結果が得られる溶接情報を出力することができる。
【0123】
(実施形態6)
図14は、実施形態6に係る学習部17の構成例を示すブロック図である。実施形態6に係るアーク溶接システムは、複数の動作予測部172bを備える点が実施形態5と異なる、以下では主に上記相違点について説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0124】
実施形態6に係る溶接情報算出部172は、複数の動作予測部172bを備える。各動作予測部172bは、例えば複数の溶接作業者の癖を学習した実施形態5と同様の再帰型ニューラルネットワークを有する。溶接作業者は溶接トーチ3の操作部33を操作することによって、自身の癖を学習した動作予測部172bを選択する。溶接情報算出部172は選択された動作予測部172bを用いて、溶接情報を算出する。
【0125】
実施形態6に係るアーク溶接システムによれば、溶接作業者は、自身の癖を学習したニューラルネットワークである動作予測部172bを選択することができる。学習部17は、選択された動作予測部172bを用いて溶接作業者毎に異なる溶接トーチ3の動きを予測し、良好な溶接結果が得られる溶接情報を出力することができる。
【0126】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。