特開2019-182671(P2019-182671A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-182671(P2019-182671A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】人工石材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/06 20060101AFI20190927BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20190927BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20190927BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
   C04B5/06ZAB
   C21C7/00 J
   F27D15/00 B
   B09B3/00 301Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-70840(P2018-70840)
(22)【出願日】2018年4月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000170484
【氏名又は名称】合同製鐵株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500239096
【氏名又は名称】株式会社トーカイ
(71)【出願人】
【識別番号】000135003
【氏名又は名称】株式会社ニッコー
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】森満 隆
(72)【発明者】
【氏名】有働 英司
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
4K013
4K063
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004BA02
4D004CA45
4D004CB03
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA10
4G112JL03
4G112JM04
4K013CF01
4K063HA01
4K063HA15
(57)【要約】
【課題】還元スラグから人工石材を短時間で製造することができる人工石材の製造方法を提供する。
【解決手段】人工石材の製造方法は、還元精錬にて副生する還元スラグを原料とする。人工石材の製造は、還元スラグの重量に対して0.4%以上1.8%以下の廃石膏を、還元精錬後の流動可能な還元スラグに加え、その後に還元スラグの温度を低下させて固化させることにより行われる。「廃石膏」として、廃石膏ボードを破砕し壁紙等の異物が除去された粒状物が使用される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元精錬にて副生する還元スラグから人工石材を製造する方法であって、
前記還元スラグの重量に対して0.4%以上1.8%以下の廃石膏を前記還元精錬後の流動可能な前記還元スラグに加え、
その後に前記還元スラグの温度を低下させて固化させる
ことを特徴とする人工石材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼過程で副生する還元スラグの有効利用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄くずを主原料とし加熱溶解して精錬する電気炉製鋼法では、溶鋼中に酸素を供給して不要成分を酸化、除去する酸化精錬、および還元剤、石灰等を加えて溶鋼中の酸素を除去する還元精錬が行われる。
ここで、酸化精錬で生ずる酸化スラグは、その冷却固化物が安定した鉱物相を多く含み、天然砂、天然砂利、砕砂や砕石の代替として、例えばコンクリート骨材に利用される。
【0003】
これに対し、還元精錬で生成する還元スラグは、その冷却固化物が大気環境下における吸湿および乾燥の繰り返しに起因する膨張、崩壊により粉化するために、その活用が大きく制限されていた。
この固化した還元スラグにおける崩壊、粉化等の問題に対して、還元スラグの組成を調整し固化時の冷却を管理(制御)することにより、還元スラグを人工石材として利用可能とする技術が提案された(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−36350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に提案された技術では、還元スラグを所定時間高温に維持し(例えば1380℃以上で1410℃以下の温度に2時間から4時間保持)、その後に除冷(例えば10℃/h〜20℃/hの冷却速度で400℃まで冷却)することで天然素材と同等の強度を有する人工石を得るとされる。特許文献1に提案された技術によれば、還元スラグの冷却速度が制限されるために、還元スラグの冷却固化に50時間前後またはそれ以上の時間を要する。
【0006】
一方で、電気炉製鋼法における還元精錬のタイムサイクル(還元精錬の開始から終了までの所要時間)は、特許文献1に提案された技術による還元スラグの冷却固化時間に比べて大幅に短い。したがって、特許文献1に提案された還元スラグの冷却法では、還元精錬を行う炉外精錬炉(取鍋)を効率的に(連続して)稼働させようとすると、炉外精錬炉から取り出された副生還元スラグを人工石化する冷却設備(例えば排滓鍋等)を数多く備える必要がある。また、冷却設備を数多く備えるには、広い設置場所も必要となる。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、還元スラグから人工石材を短時間で製造することができる人工石材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る人工石材の製造方法は、還元精錬にて副生する還元スラグを原料とする。
人工石材の製造は、還元スラグの重量に対して0.4%以上1.8%以下の廃石膏を還元精錬後の流動可能な還元スラグに加え、その後に還元スラグの温度を低下させて固化させることにより行われる。
「廃石膏」として、廃石膏ボードを破砕し壁紙等の異物が除去された粉または粒状物が使用される。また還元スラグの温度の低下は、強制冷却、自然放冷のいずれの手段でもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、還元スラグから人工石材を短時間で製造することができる人工石材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は還元スラグを収容して固化させる排滓鍋の概要を示す図である。
図2図2は廃石膏添加量と人工石材の機械的強度との関係を示す図である。
図3図3は冷却途中で排滓鍋から取り出した還元スラグの図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は還元スラグを収容して固化させるための排滓鍋1の概要を示す図である。図1において(a)は正面図、(b)は平面図である。
図1を参照して、排滓鍋1は、円錐台の形状を有する鉄製の本体11と、本体11の内面を覆う耐火層12とからなる。耐火層12は耐火煉瓦で形成されている。排滓鍋1は、還元スラグから人工石材を製造するための装置である。排滓鍋1として耐火層12を有しないものも使用可能である。
【0012】
初めに、還元スラグが副生物として得られる電気炉製鋼法について説明する。電気炉製鋼法は、酸化精錬、還元精錬および連続鋳造で構成される。酸化精錬では、鉄スクラップが電気炉にて熔解され、コークス等の存在下で酸素が供給されて不純物が取り除かれた溶鋼を得る。
還元精錬は、酸化精錬で得られた溶鋼が取鍋によって還元精錬炉に移されて行われる。還元精錬炉では、溶鋼に合金鉄、石灰等が加えられて成分が整えられ、例えばアーク放電により加熱されて温度調整される。還元精錬は、酸化精錬後の溶鋼を受けた取鍋内で行うのも一般的である。還元精錬が終了すると、製鋼カス(還元スラグ)が分離される。連続鋳造では、還元精錬で成分調整が行われた溶鋼が還元精錬炉から取り出され、連続的に冷却されて鋳片が鋳造される。
【0013】
さて、本件における人工石材の製造方法では、還元精錬は取鍋の中で行われる。酸化精錬で得られた溶鋼が収容された取鍋内に合金鉄、石灰を加えることにより成分が調整され、アーク加熱装置により還元精錬の温度が調整される。還元精錬が終了した後、溶鋼および還元スラグを収容する取鍋内にアルゴンが吹き込まれて取鍋内が攪拌され、この中に廃石膏が所定量投入される。
【0014】
ここで使用された廃石膏ボードは、建物の内壁、天井等に使用された石膏ボードが建物の解体等により回収されて破砕され、破砕物から壁紙等の異物が除去された粒状を呈するものである。以下「廃石膏ボード」を「廃石膏」と称する。
投入された廃石膏が還元スラグに適度に混合された後、溶鋼が連続鋳造のために取鍋から徐々に取り出される。
【0015】
人工石材は、溶鋼が取り出された後の取鍋内に残る副生物である還元スラグを、図1の排滓鍋1に移して固化させることにより得られる。
上記方法では、鋳造のための溶鋼の取り出し中に還元スラグの温度が低下して還元スラグの流動性が悪くなることから、溶鋼および還元スラグを収容する取鍋内に廃石膏を投入した。流動性を維持した還元スラグ単体に所定量の廃石膏を加え、その後放冷等して還元スラグを固化させても、人工石材を製造することができる。
【0016】
表1は、前述した人工石材の製造方法において還元精錬後の取鍋への廃石膏の投入量を種々変えて得た人工石材の機械的強度の測定結果である。
表1の各実施例および比較例4を除く各比較例は、還元スラグを収容する排滓鍋1が、特段の冷却手段および保温手段を用いることなくそのまま屋内に放置されたものである。なお、排滓鍋1に移された直後の還元スラグの温度は、1400℃前後である。
【0017】
機械的強度測定のための試料は、還元スラグを排滓鍋1に収容してから24時間経過後に、排滓鍋1を転倒させて固化した還元スラグを取り出し、これを所定の大きさに調整して得た。
表1における「モース硬度」は、硬度の異なる10種の標準鉱物のうちのいずれが測定対象物にひっかき傷をつけることができるかを調べたものである。例えばモース硬度が6.5とは、モース硬度6の標準鉱物である正長石ではひっかき傷ができず、モース硬度7の標準鉱物である石英でひっかき傷ができたことを示す。
【0018】
表1の「圧縮強度」は、50mm×50mm×100mmの試料片を用いて「JIS A 5003(石材)」に準じて測定した。「曲げ強度」は、載荷時のスパンを200mmとして「JASS 9T 101(石材の曲げ試験)」に準じて測定した。
【0019】
【表1】
【0020】
表1から、各実施例における機械的強度は、天然素材である花崗岩の機械的強度と遜色無いことが解る。
表2は、取鍋への廃石膏の投入量を種々変えたときの還元スラグ固化物の主な成分の割合である。
【0021】
【表2】
【0022】
表2の各成分の測定は、溶融状態の還元スラグを排滓鍋1から採取し、これが固化した
後に蛍光X線分析法により行った。
表2から、これに示された廃石膏の添加量の範囲では、還元スラグ固化物の各成分量に大差ないことが解る。
表3は、取鍋において溶鋼と廃石膏とが一定時間共存することから、廃石膏の投入が鋳造品(SD345鋼)に与える影響を調べた結果である。
【0023】
【表3】
【0024】
表3から、今回行った人工石材の製造条件内においては、いずれも鋳造品(SD345
)のJIS規格を満たしており、廃石膏が主生成品である鋳造品の構成成分に悪影響を与えないことが解る。
図2は表1における廃石膏添加量と生成した人工石材の機械的強度との関係を示す図、図3は冷却途中で排滓鍋1から取り出した還元スラグの図である。
【0025】
表1〜3および図2から、廃石膏の還元スラグへの添加量は、排滓鍋1での冷却によって石化が観察された範囲、すなわち還元スラグ重量に対して0.4%以上が適切である。廃石膏の還元スラグへの添加量の上限は、表1および図2からは規定できない。しかし、比較例3おいて還元スラグを取鍋から排滓鍋1に移すとき硫化臭(硫化水素臭)がしたことから、廃石膏の還元スラグへの添加量の上限は、還元スラグ重量に対して1.8%が好ましい。硫化臭を感じさせる化合物は人体に有害であるからである。
【0026】
排滓鍋1に移し替えた還元スラグの冷却は、自然放冷で行われる。自然放冷では、排滓鍋1が置かれた環境の温度および排滓鍋1の容量により冷却時間(冷却速度)が左右される。表1の各実施例では冷却時間がおおよそ24時間であったが、それ以上の冷却時間およびそれ以下の冷却時間であっても、廃石膏を用いれば表1の実施例と同等の人工石材を得ることができる。
【0027】
また、還元スラグを排滓鍋1に移してから8時間後、排滓鍋1を転倒させて還元スラグを取り出しても、表1の実施例と同等の人工石材を得ることができる。この場合、還元スラグは、外面が固化しても内部は固化途中で強度が低く衝撃等により塊状に割れるが(図3)、その後の自然放冷により強固な人工石材となる。
上述の実施形態において、還元精錬を取鍋ではなく固定された還元精錬炉で行ってもよい。廃石膏が投入された後の還元スラグの温度低下は、自然放冷の他に強制冷却手段を用いてもよい。
【0028】
その他、還元精錬を行う方法および還元精錬を行う装置の各構成等は、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、還元スラグから強固な人工石材を短時間で製造する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 取鍋(還元精錬装置)
図1
図2
図3