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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-183763(P2019-183763A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】マルチパルスロケットモータ
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/28 20060101AFI20190927BHJP
   F02K 9/36 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
   F02K9/28
   F02K9/36
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-76706(P2018-76706)
(22)【出願日】2018年4月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、防衛省、試作研究請負契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】枝長 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】橋野 世紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(57)【要約】
【課題】ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能なマルチパルスロケットモータを提供する。
【解決手段】マルチパルスロケットモータは、圧力容器と、圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、圧力容器の内部において要求される推力の発生に応じた個数の推進薬の各々を点火する点火器と、圧力容器の内部において推進薬のうちの第1推進薬以外の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器と、
上記圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、
上記圧力容器の後端に設けられたノズルと、
要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、上記圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の上記推進薬の各々を点火する点火器と、
上記圧力容器の内部において上記推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えた
ことを特徴とするマルチパルスロケットモータ。
【請求項2】
圧力容器と、
上記圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、
上記圧力容器の後端に設けられたノズルと、
要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、上記圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の上記推進薬の各々を点火する点火器と、
上記圧力容器の内部において上記全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えた
ことを特徴とするマルチパルスロケットモータ。
【請求項3】
上記隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項4】
上記隔膜部材が、該隔膜部材の全体に亘って配設された上記脆弱部で細かく分割されることを特徴とする請求項3に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項5】
上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて上記ノズルのスロート径より短い長辺を有する隔膜部材片となることを特徴とする請求項3に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項6】
上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて先端部が少なくとも上記ノズルのスロートに到達するまで後端部が上記隔膜部材の残部に保持される隔膜部材片となることを特徴とする請求項3に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項7】
上記点火器が、少なくとも1つの上記タイミングで、上記要求される推力の発生に応じた複数の個数の上記推進薬を点火することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のマルチパルスロケットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパルスロケットモータに関する。更に詳細には、本発明は、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能なマルチパルス固体ロケットモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡易な構成で、第1パルス時における第2推進薬への火炎の侵入を確実に防ぎ、確実に第2パルスを実行することのできるパルスロケットモータが提案されている。このパルスロケットモータは、圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、第1推進薬を点火する第1イグナイタと、圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、第2推進薬を点火する第2イグナイタと、圧力容器内にて第2推進薬を覆う隔膜部材とを備え、隔膜部材は、第2推進薬の少なくとも内周面に沿って形成されており、一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部が形成されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−29100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたパルスロケットモータにおいては、第1推進薬及び第2推進薬の形状は予め設定されたものであるため、発生する推力及び推力が発生している時間は常に同じであり、ミッションに応じた適切な推力を発生できず、改良の余地があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能なマルチパルスロケットモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。その結果、圧力容器と、該圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えた構成とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載のマルチパルスロケットモータは、圧力容器と、該圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
そして、請求項2に記載のマルチパルスロケットモータは、圧力容器と、該圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1又は2において、上記隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項4に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項3において、上記隔膜部材が、該隔膜部材の全体に亘って配設された上記脆弱部で細かく分割されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項3において、上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて上記ノズルのスロート面積より小さい面積を有する隔膜部材片となることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項6に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項3において、上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて先端部が少なくとも上記ノズルのスロートに到達するまで後端部が上記隔膜部材の残部に保持される隔膜部材片となることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1〜6のいずれかにおいて、上記点火器が、少なくとも1つの上記タイミングで、上記要求される推力の発生に応じた複数の個数の上記推進薬を点火することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、圧力容器と、該圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えた構成とした。そのため、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、圧力容器と、該圧力容器の内部に配列された3個以上の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備えた構成とした。そのため、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。また、隔膜部材によって第1推進薬をさらに隔離する構成とすることにより、第1推進薬が点火されることなく、マルチパルスロケットモータのミッションが終了した場合に、第1推進薬を再使用することができるという利点がある。
【0016】
また、上記隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有する構成とすることにより、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。さらに、上記隔膜部材が、該隔膜部材の全体に亘って配設された上記脆弱部で細かく分割される構成とすることにより、ノズルへのダメージを防止すると共に、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。また、上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて上記ノズルのスロート径より短い長辺を有する隔膜部材片となる構成とすることにより、ノズルへのダメージを防止すると共に、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。さらに、上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて先端部が少なくとも上記ノズルのスロートに到達するまで後端部が上記隔膜部材の残部に保持される隔膜部材片となる構成とすることにより、ノズルへのダメージを防止すると共に、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。また、上記点火器が、少なくとも1つの上記タイミングで、上記要求される推力の発生に応じた複数の個数の上記推進薬を点火する構成とすることにより、比較的大きな推力が要求される場合にも、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るマルチパルスロケットモータを模式的に示す構成図である。
図2図2は、図1に示すマルチパルスロケットモータにおけるミッションに応じた推力発生パターンを示す説明図である。
図3図3は、ゴム積層体が3層の場合の脆弱部の詳細構成図である。
図4図4は、隔膜部材における脆弱部の強度設定の他の例の概要を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係るマルチパルスロケットモータについて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るマルチパルスロケットモータを模式的に示す構成図である。図1に示すように、本実施形態のマルチパルスロケットモータ1は、圧力容器10と、圧力容器10の内部の後段側から前段側に配列された第1推進薬21、第2推進薬22、第3推進薬23及び第4推進薬24からなる4個の推進薬20(以下、これらを単に推進薬20ということがある。)と、圧力容器10の後端に設けられたノズル30と、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、圧力容器10の内部において後段側の少なくとも1個を含み、要求される推力の発生に応じた個数の第1推進薬21、第2推進薬22、第3推進薬23及び第4推進薬24からなる推進薬20の各々を点火する第1点火器41、第2点火器42、第3点火器43及び第4点火器44からなる点火器40(以下、これらを単に点火器40ということがある。)と、圧力容器10の内部において推進薬20のうちの第2推進薬22、第3推進薬23及び第4推進薬24の各々を隔離する第1隔膜部材51、第2隔膜部材52及び第3隔膜部材53からなる隔膜部材50(以下、これらを単に隔膜部材50ということがある。)と、を備えたものである。
【0020】
そして、このような構成を有することにより、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。以下、各ミッションの場合について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図2は、図1に示すマルチパルスロケットモータにおけるミッションに応じた推力発生パターンを示す説明図である。なお、図2は、推進薬20が各々同じ推力を発生する場合を例示したものであり、図2中、aは第1推進薬により発生される推力、bは第2推進薬により発生される推力、cは第3推進薬により発生される推力、dは第4推進薬により発生される推力を示す。
【0022】
まず、図2(A)に示すように、2回のタイミングで推力が要求され、要求される推力が、第1推力:第2推力=1:1の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬及び第2推進薬をそれぞれ第1点火器及び第2点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第3推進薬及び第4推進薬をそれぞれ第3点火器及び第4点火器で着火すればよい。
【0023】
そして、図2(B)に示すように、2回のタイミングで推力が要求され、要求される推力が、第1推力:第2推力=3:1の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬〜第3推進薬をそれぞれ第1点火器〜第3点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第4推進薬を第4点火器で着火すればよい。
【0024】
また、図2(C)に示すように、2回のタイミングで推力が要求され、要求される推力が、第1推力:第2推力=1:3の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬を第1点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第2推進薬〜第4推進薬をそれぞれ第2点火器〜第4点火器で着火すればよい。
【0025】
さらに、図2(D)に示すように、3回のタイミングで推力が要求され、要求される推力が、第1推力:第2推力:第3推力=1:2:1の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬を第1点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第2推進薬及び第3推進薬をそれぞれ第2点火器及び第3点火器で着火し、第3推力を発生させるために、第4推進薬を第4点火器で着火すればよい。
【0026】
また、図2(E)に示すように、3回のタイミングで推力が要求され、要求される推力が、第1推力:第2推力:第3推力=2:1:1の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬及び第2推進薬をそれぞれ第1点火器及び第2点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第3推進薬を第3点火器で着火し、第3推力を発生させるために、第4推進薬を第4点火器で着火すればよい。
【0027】
さらに、図2(F)に示すように、4回のタイミングで推力が要求され、第1推力:第2推力:第3推力:第4推力=1:1:1:1の割合であるミッションの場合には、例えば、第1推力を発生させるために、第1推進薬を第1点火器で着火し、第2推力を発生させるために、第2推進薬を第2点火器で着火し、第3推力を発生させるために、第3推進薬を第3点火器で着火し、第4推力を発生させるために、第4推進薬を第4点火器で着火すればよい。
【0028】
上述のように、ミッションに応じて推力を任意に変更することができるため、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。
【0029】
ここで、各構成についてさらに詳細に説明する。
【0030】
上記圧力容器10としては、特に限定されるものではないが、例えば、フィラメント・ワインディング法により得られる炭素繊維・エポキシ樹脂組成物などの炭素繊維強化プラスチックからなるものや、分割型又は一体型の金属からなるものを適用することができる。
【0031】
上記推進薬20としては、特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の固体ロケットに適用される内面燃焼方式の種々の固体推進薬を適用することができる。そして、第1推進薬21、第2推進薬22、第3推進薬23及び第4推進薬24などの各推進薬の組成は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各推進薬の大きさは同一であってもよく、異なっていてもよい。さらに、特に限定されることではないが、炭素繊維強化プラスチックからなる圧力容器の内部に推進薬を配設するに当たっては、例えば、ブロック状の推進薬と隔膜部材と図示しない従来公知のインシュレータとを予めセットして配設することが好ましい。なお、図示しないが、隔膜部材によって第1推進薬をさらに隔離する構成とすることにより、例えば、何らかの理由により海中に没した場合など、第1推進薬が点火されることなく、マルチパルスロケットモータのミッションが終了した場合であっても、第1推進薬を再使用することができるという利点がある。また、第1推進薬の経年変化やゴミ付着を防止することができるという利点もある。
【0032】
上記ノズル30としては、特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の固体ロケットに適用されるものを適用することができる。
【0033】
上記点火器40としては、特に限定されるものではないが、例えば、第1点火器41としては、従来公知のペレット型点火器やモータ型点火器を適用することが好ましく、第2点火器42、第3点火器43及び第4点火器44としては、従来公知のトロイダル型点火器を適用することが好ましい。なお、図示しないが、第1点火器として、トロイダル型点火器を適用してもよく、このような場合が本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0034】
上記隔膜部材50としては、特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の固体ロケットに適用されるものを適用することができる。具体的には、繊維が混入されたゴム板を厚さ方向に積層したゴム積層体などを挙げることができる。
【0035】
また、本実施形態においては、隔膜部材が、隔膜部材の一部に隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有することが好ましい。このような構成とすることにより、例えば、各推進薬を着火させ隔膜部材が燃焼圧で破断する際に、予め設定した圧力範囲で予め設定した脆弱部において破断させることができるので、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。なお、隔膜部材の一部に設ける脆弱部の構成は、詳しくは後述する隔膜部材の全体に亘って設ける脆弱部の構成と同じでもよく、異なってもよい。
【0036】
さらに、本実施形態においては、隔膜部材が、隔膜部材の全体に亘って配設された脆弱部で細かく分割されることが好ましい。このような構成とすることにより、ノズルへのダメージを防止すると共に、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。なお、特に限定されるものではないが、例えば、脆弱部が、隔膜部材の全体に亘って配設されており、脆弱部の最大離間距離が、ノズルのスロート径より小さい構成とすればよい。
【0037】
ここで、脆弱部についてさらに詳細に説明する。
【0038】
図3は、脆弱部54の詳細構成図である。脆弱部54は、例えば、第1推進薬21の燃焼圧による第1引張力F1より高く、第2推進薬22の燃焼圧による第2引張力F2よりも低い引張強度(又は破断強度)を有する。以下、特に必要な場合を除き、引張強度又は破断強度を単に「強度」という。
【0039】
図3において、隔膜部材50は、繊維が混入された複数のゴム層55を厚さ方向に積層したゴム積層体である。ゴム層55は、例えば、混入された繊維の配向方向(これを「列理方向」という。)が隔膜部材50の前後方向(圧力容器10の前後方向)である列理方向層55a、混入された繊維の配向方向が隔膜部材50の周方向(圧力容器10の周方向)である列理直交層55b、又は混入された繊維の配向方向が前後方向及び周方向と相違する傾斜方向層(図示せず。)を含む。すなわち、複数のゴム層55は、列理方向層55a、列理直交層55b、若しくは傾斜方向層のいずれか、又はそれらの組み合わせである。
【0040】
脆弱部54の強度は、列理方向が隔膜部材50の前後方向である列理方向層55a、列理方向が隔膜部材の周方向である列理直交層55b、若しくは列理方向が前後方向及び周方向と相違する傾斜方向層(図示せず。)のいずれか、又はそれらの組み合わせ、及び、突合せ部の数で設定される。なお、図4は、隔膜部材における脆弱部の強度設定の他の例の概要を示す分解斜視図である。図4に示すように、隔膜部材における脆着部54は、ゴム層である列理方向層55a及び列理直交層55bと、それらの突合せ部56との組み合わせにより設定される。図4中の符号Fは混入された繊維を示す。
【0041】
図3によりさらに説明する。なお、以下、特に必要な場合を除き、列理方向層を「第1層」、列理直交層を「第2層」、傾斜方向層を「第3層」という。
【0042】
複数のゴム層55は、厚さ方向に積層し、加硫接着することで一体化し、隔膜部材50が、第2引張力F2よりも高い引張強度を有するように構成されている。
【0043】
脆弱部54は、隔膜部材50に交差する同一の破断面S1において、1又は複数のゴム層55が突合せ部56を有する。破断面S1は、隔膜部材50に直交することが好ましいが斜めに交差してもよい。
【0044】
ゴム層55の引張強度は、第1層55a(列理方向層)の方が第2層55b(列理直交層)より高く、突合せ部56は非常に低いことが知られている。第3層(傾斜方向層)の強度は、第1層55aと第2層55bの中間である。また、第1層55aの引張強度は、第2層55bの引張強度のおおむね4倍である。
【0045】
以下、説明の都合上、第1層55aの強度指数nを4、第2層55bの強度指数nを1、突合せ部56の強度指数nを0とする。なお、強度指数nは、強度に比例する無次元数である。
【0046】
図3は、ゴム層55が3層の場合を示している。図3(A)に示すように、3層すべてが第1層55aである場合の脆弱部以外の強度指数nは12(=4×3)である。また、隔膜部材50に交差する破断面S1において、1つのゴム層55が突合せ部56を有する場合、脆弱部54の強度指数nは8(=4×2)である。さらに、2つのゴム層55が突合せ部56を有する場合、その強度指数nは4であり、3層すべてが突合せ部56を有する場合、その強度指数nは0となる。従って、3層すべてが第1層55aでありその強度指数n(=12)が、第2引張力F2よりも高い場合、脆弱部54の強度指数nを1又は複数の突合せ部56により、8、4、0に設定することができる。図3(A)の下に示す数字(12,8,4,0)は、この場合の、隔膜部材50と脆弱部54の強度指数nを示している。各図の下に示す数字も同様である。
【0047】
図3(B)に示すように、3層のうち1層のみ第2層55bである場合の脆弱部以外の強度指数nは9(=4+4+1)である。また、破断面S1において、1つのゴム層55が突合せ部56を有する場合、脆弱部54の強度指数nは8又は5である。さらに、2つのゴム層55が突合せ部56を有する場合、その強度指数nは4又は1、3層すべてが突合せ部56を有する場合、その強度指数nは0となる。従って、3層のうち1層のみ第2層55bでありその強度指数n(=9)が、第2引張力F2よりも高い場合、脆弱部54の強度指数nを1又は複数の突合せ部56により、8、5、4、1、0に設定することができる。
【0048】
同様に、図3(C)に示すように、3層のうち2層が第2層53bである場合、隔膜部材50と脆弱部54の強度指数nを6、5、4、2、1、0に設定することができる。また、図3(D)に示すように、3層すべてが第2層55bである場合、隔膜部材50と脆弱部54の強度指数nを3、2、1、0に設定することができる。
【0049】
図3において、第1層55aと第2層55bの積層順位は任意である。また、突合せ部56は脆弱部以外には設けないことが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されず、脆弱部54より強度指数nが高くなる限りで、脆弱部54以外に突合せ部55を設けてもよい。
【0050】
また、ゴム層55の積層数は、上述した例に限定されず、2層でも、4層以上であってもよい。さらに、上記の例では、第1層55aと第2層55bのみが適用されているが、ゴム層55は第3層(傾斜方向層)であってもよい。
【0051】
さらに、脆弱部54の強度の設定は、例えば、ゴム層55の厚さ変更で実施することができる。なお、隔膜部材50は燃焼ガスによってその表面を焼失するため、焼失分の厚さを予め加算しておくことが好ましい。
【0052】
従って、脆弱部54が、第1推進薬21の燃焼圧による第1引張力F1より高い引張強度を有するように設定できるので、第1推進薬21の燃焼圧力や製造時の気密性確認時の圧力等による破断を防止できる。また、脆弱部54は、第2推進薬22の燃焼圧による第2引張力F2よりも低い引張強度を有するように設定できるので、第2推進薬22を第1推進薬21と異なるタイミングで着火させ、この燃焼圧により、予め設定した脆弱部54で破断させることができる。また、第2推進薬の第1隔膜部材51における脆弱部54だけでなく、第3推進薬23の第2隔膜部材52における脆弱部54においては、例えば、第2推進薬22の燃焼圧による第2引張力F2より高く、第3推進薬23の燃焼圧による第3引張力F3よりも低い引張強度(又は破断強度)を有し、第4推進薬の第3隔膜部材53における脆弱部54においては、例えば、第3推進薬23の燃焼圧による第3引張力F3より高く、第4推進薬24の燃焼圧による第4引張力F4よりも低い引張強度(又は破断強度)を有するように設定することができる。
【0053】
また、図示しないが、本実施形態においては、隔膜部材が、脆弱部で分割されてノズルのスロート径より短い長辺を有する隔膜部材片となることが好ましい。なお、スロート径と比較する隔膜部材片の長辺としては、隔膜部材片を任意の方向から観察したときの最大長さを考慮すればよい。このような構成とするためには、例えば、格子状に溝を設け、溝で囲まれる領域の長辺をスロート径より短くすればよい。このような構成とすることにより、スロートのサイズと比較して、サイズが小さい隔膜部材片となるため、ノズルから放出されやすく、ノズルにダメージを与えにくくなる。
【0054】
さらに、図示しないが、本実施形態においては、隔膜部材が、脆弱部で分割されて先端部が少なくともノズルのスロートに到達するまで後端部が隔膜部材の残部に保持される隔膜部材片となることが好ましい。このような構成とするためには、例えば、螺旋状に溝(この場合、溝の深さを前段側から後段側に移行するにしたがって深くすることが好適である。)を設け、少なくとも先端部がノズルのスロートに到達するまで後端部が隔膜部材の残部に保持されるように溝の間隔を調整して、所定の幅を有する隔膜部材片とすればよい。なお、かかる幅は、ノズルの径より小さいことが好ましい。このような構成とすることにより、スロートに到達するまで放出速度が規制された隔膜部材片となるため、ノズルにダメージを与えにくくなる。
【0055】
そして、本実施形態においては、点火器が、少なくとも1つのタイミングで、要求される推力の発生に応じた複数の個数の推進薬を点火することもできる。これにより、比較的大きな推力が要求される場合(例えば、図2(A)〜(E)に示される場合)にも、ミッションに応じた適切な推力をより確実に発生させることが可能となる。
【0056】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、上述した実施形態において説明した圧力容器、推進薬、点火器、隔膜部材の細部については適宜変更が可能である。
【0058】
また、例えば、上述した実施形態においては、突合せ部により脆弱部を形成した例を示したが、これに限定されるものではなく、凹部により脆弱部を形成してもよい。この場合、隔膜部材の推進薬側の面に凹部を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
1 マルチパルスロケットモータ
10 圧力容器
20 推進薬
21 第1推進薬
22 第2推進薬
23 第3推進薬
24 第4推進薬
30 ノズル
31 スロート
40 点火器
41 第1点火器
42 第2点火器
43 第3点火器
44 第4点火器
50 隔膜部材
51 第1隔膜部材
52 第2隔膜部材
53 第3隔膜部材
54 脆弱部
55 ゴム層
55a 列理方向層
55b 列理直交層
56 突合せ部
S1 破断面
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2019年5月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器と、
上記圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、
上記圧力容器の後端に設けられたノズルと、
要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、上記圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の上記推進薬の各々を点火する点火器と、
上記圧力容器の内部において上記推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え
上記隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、
上記脆弱部が、上記隔膜部材の全体に亘って配設されている
ことを特徴とするマルチパルスロケットモータ。
【請求項2】
圧力容器と、
上記圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、
上記圧力容器の後端に設けられたノズルと、
要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、上記圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の上記推進薬の各々を点火する点火器と、
上記圧力容器の内部において上記全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え
上記隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、
上記脆弱部が、上記隔膜部材の全体に亘って配設されている
ことを特徴とするマルチパルスロケットモータ。
【請求項3】
上記隔膜部材が、突合せ部を有するゴム積層体からなり、
上記脆弱部が、上記突合せ部で形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項4】
上記隔膜部材が、上記脆弱部で分割されて上記ノズルのスロート径より短い長辺を有する隔膜部材片となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項5】
上記脆弱部が、螺旋状の溝で形成されており、
上記螺旋状の溝の間隔が、上記ノズルの径より小さく、
上記螺旋状の溝の深さが、前段側から後段側に移行するにしたがって深くなっている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のマルチパルスロケットモータ。
【請求項6】
上記点火器が、少なくとも1つの上記タイミングで、上記要求される推力の発生に応じた複数の個数の上記推進薬を点火することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のマルチパルスロケットモータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、請求項1に記載のマルチパルスロケットモータは、圧力容器と、該圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え、該隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、該脆弱部が、該隔膜部材の全体に亘って配設されていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
そして、請求項2に記載のマルチパルスロケットモータは、圧力容器と、該圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え、該隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、該脆弱部が、該隔膜部材の全体に亘って配設されていることを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
また、請求項3に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1又は2において、上記隔膜部材が、突合せ部を有するゴム積層体からなり、上記脆弱部が、上記突合せ部で形成されていることを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
また、請求項4に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1〜3のいずれかにおいて、上記脆弱部で分割されて上記ノズルのスロート径より短い長辺を有する隔膜部材片となることを特徴とする。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
さらに、請求項5に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1〜3のいずれかにおいて、上記脆弱部が、螺旋状の溝で形成されており、上記螺旋状の溝の間隔が、上記ノズルの径より小さく、上記螺旋状の溝の深さが、前段側から後段側に移行するにしたがって深くなっていることを特徴とする。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また、請求項6に記載のマルチパルスロケットモータは、請求項1〜5のいずれかにおいて、上記点火器が、少なくとも1つの上記タイミングで、上記要求される推力の発生に応じた複数の個数の上記推進薬を点火することを特徴とする。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、圧力容器と、該圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該推進薬のうちの第1推進薬以外の該推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え、該隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、該脆弱部が、該隔膜部材の全体に亘って配設されている構成とした。そのため、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
請求項2に係る発明によれば、圧力容器と、該圧力容器の内部に該圧力容器の長手方向に沿って配列された3個以上の中空筒形状の推進薬と、該圧力容器の後端に設けられたノズルと、要求される複数回のタイミングで、要求される推力を発生させるために、該圧力容器の内部において該要求される推力の発生に応じた個数の該推進薬の各々を点火する点火器と、該圧力容器の内部において該全部の推進薬の各々を隔離する隔膜部材と、を備え、該隔膜部材が、該隔膜部材の一部に該隔膜部材の他部よりも脆弱な脆弱部を有しており、該脆弱部が、該隔膜部材の全体に亘って配設されている構成とした。そのため、ミッションに応じた適切な推力を発生させることが可能となる。また、隔膜部材によって第1推進薬をさらに隔離する構成とすることにより、第1推進薬が点火されることなく、マルチパルスロケットモータのミッションが終了した場合に、第1推進薬を再使用することができるという利点がある。