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特開2019-183881ツースクラッチ及びこれを用いた車両用ステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-183881(P2019-183881A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】ツースクラッチ及びこれを用いた車両用ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20190927BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20190927BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
   F16D27/118
   F16D27/112 G
   B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-72030(P2018-72030)
(22)【出願日】2018年4月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕志
(72)【発明者】
【氏名】小塩 崇史
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB32
3D333CB46
3D333CC14
3D333CC18
3D333CC23
3D333CD05
3D333CD10
3D333CD16
3D333CD17
3D333CD20
3D333CD28
3D333CE04
(57)【要約】
【課題】ツースクラッチの小型化を図りつつ、歯同士の適切な噛み合い状態を確保する。
【解決手段】テーパ状空間部71と係合部材74と付勢部材75とピン77とを含むツースクラッチ50である。前記テーパ状空間部71は、第3回転体54の第2の盤面54bとロータ56のロータ面56aとの間に形成されてなる。前記係合部材74は、前記テーパ状空間部71の中に介在している。前記付勢部材75は、前記係合部材74を、前記テーパ状空間部71に位置している第1の傾斜面72に向かって付勢する。前記ピン77は、前記ロータ面56aへ向かって進出可能に前記第3回転体54に有しており、進出方向の先端面77aが第2の隙間Cr2を有して前記ロータ面56aを向いている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
盤面に第1の歯を有している盤状の第1回転体と、
前記第1回転体の回転中心線に位置し前記第1回転体に対して相対回転可能であって、前記第1の歯と同じ方向を向いた第2の歯を盤面に有している盤状の第2回転体と、
前記回転中心線に位置し且つ前記回転中心線に沿って軸方向変位可能であって、前記第1回転体及び前記第2回転体に対して相対回転可能な盤状の第3回転体と、
前記第1回転体と共に回転可能且つ前記第1回転体に対する軸方向移動を規制されて設けられる磁性体からなるロータと、
前記第3回転体に対し前記ロータを挟んで向かい合い、通電又は非通電させることで、前記第3回転体を軸方向変位させる電磁石と、を有し、
前記第3回転体は、
前記第1の歯に噛み合い可能な第3の歯と、前記第2の歯に噛み合い可能な第4の歯とが設けられた第1の盤面と、
前記第1の盤面とは反対側であり、前記ロータの前記第3回転体側のロータ面に対し、第1の隙間を有して向かい合う磁性体からなる面を有したアーマチュアが設けられた第2の盤面と、を有し、
前記第3回転体には、前記第1の盤面から前記第2の盤面へ連通する孔が形成され、
前記第2の盤面には、前記第2の盤面の中心から径方向外側に向かうにつれて前記ロータへ向かって傾斜する第1の傾斜面が形成され、
前記ロータ面と前記第2の盤面の間には、前記第1の傾斜面によって、前記第2の盤面と前記ロータ面との間隔が先細りとなるように形成されてなるテーパ状空間部に介在する係合部材と、
前記係合部材を前記第1の傾斜面に向かって付勢する付勢部材と、を有し、
前記第3回転体に形成された前記孔に挿入され、前記電磁石を通電させることで、前記ロータ面に吸着した際に、前記係合部材を前記入力軸における径方向内側へ押し出す第2の傾斜面を有した磁性体からなるピンを有し、
前記ピンの先端部は、前記ロータ面に対して第1の隙間よりも小さい第2の隙間を有して配置されている、ことを特徴とするツースクラッチ。
【請求項2】
前記第1の傾斜面は、前記第2の傾斜面よりも緩い傾斜に設定されていることを特徴とする請求項1記載のツースクラッチ。
【請求項3】
前記係合部材は、前記テーパ状空間部の中で転動可能な転動体によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のツースクラッチ。
【請求項4】
前記転動体は、ローラによって構成されていることを特徴とする請求項3記載のツースクラッチ。
【請求項5】
前記第3回転体の前記第2の盤面に有しており、前記係合部材を前記テーパ状空間部に沿って案内することが可能なガイド部を、更に含んでいる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のツースクラッチ。
【請求項6】
盤面に第1の歯を有している盤状の第1回転体と、
前記第1回転体の回転中心線に位置し前記第1回転体に対して相対回転可能であって、前記第1の歯と同じ方向を向いた第2の歯を盤面に有している盤状の第2回転体と、
前記回転中心線に位置し且つ前記回転中心線に沿って軸方向変位可能であって、前記第1回転体及び前記第2回転体に対して相対回転可能な盤状の第3回転体と、
前記第1回転体と共に回転可能且つ前記第1回転体に対する軸方向移動を規制されて設けられる磁性体からなるロータと、
前記第3回転体に対し前記ロータを挟んで向かい合い、通電又は非通電させることで、前記第3回転体を軸方向変位させる電磁石と、を有し、
前記第3回転体は、
前記第1の歯に噛み合い可能な第3の歯と、前記第2の歯に噛み合い可能な第4の歯とが設けられた第1の盤面と、
前記第1の盤面とは反対側であり、前記ロータの前記第3回転体側のロータ面に対し、第1の隙間を有して向かい合う磁性体からなる面を有したアーマチュアが設けられた第2の盤面と、を有し、
前記第3回転体には、前記第1の盤面から前記第2の盤面へ連通する孔が形成され、
前記第2の盤面には、前記第2の盤面の中心から径方向外側に向かうにつれて前記ロータへ向かって傾斜する第1の傾斜面が形成され、
前記ロータ面と前記第2の盤面の間には、前記第1の傾斜面によって、前記第2の盤面と前記ロータ面との間隔が先細りとなるように形成されてなるテーパ状空間部に介在するローラと、
前記ローラを前記第1の傾斜面に向かって付勢する圧縮コイルばねと、
前記第3回転体の前記第2の盤面に形成されてなり、前記ローラを前記テーパ状空間部に沿って案内することが可能なガイド部と、を有し、
前記第3回転体に形成された前記孔に挿入され、前記電磁石を通電させることで、前記ロータ面に吸着した際に、前記ローラを前記入力軸における径方向内側へ押し出す第2の傾斜面を有した磁性体からなるピンを有し、
前記ピンの先端部は、前記ロータ面に対して第1の隙間よりも小さい第2の隙間を有して配置されている、ことを特徴とするツースクラッチ。
【請求項7】
ステアリングホイールの操舵入力が生じる操舵部と、
転舵車輪を転舵する転舵部と、
前記操舵部と前記転舵部との間の操舵力伝達経路に組み込まれた請求項1〜6のいずれか1項記載のツースクラッチと、
を有していることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツースクラッチ及びこれを用いた車両用ステアリング装置の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置のなかには、ステアリングホイールの操舵入力が生じる操舵部と、転舵車輪を転舵する転舵部と、の間の操舵力伝達経路にツースクラッチを組み込んでいる、いわゆるステアバイワイヤ式(steer-by-wire)のステアリング装置がある。このツースクラッチを用いた車両用ステアリング装置は、例えば許文献1によって知られている。
【0003】
特許文献1で知られている車両用ステアリング装置は、通常時にはツースクラッチが開放状態であって、操舵部と転舵部との間を機械的に分離している。ツースクラッチが係合状態のときにのみ、操舵部から転舵部へ操舵力を伝達することができる。
【0004】
このツースクラッチは、ロータの端面に形成されている歯と、アーマチュアの端面に形成されている歯とが噛み合い可能な構成である。それぞれの歯は、環状に連続している多数の山形の歯部によって構成されている。電磁石が励磁状態のときに、アーマチュアはコイルばねの付勢力に抗してロータに接近する。この結果、両方の歯同士が噛み合うことにより、ツースクラッチが係合状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−096559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で知られているツースクラッチでは、大きいトルクが作用したときに、両方の歯同士の噛み合い面に作用する軸方向の分力も大きくなる。この大きい分力は、歯同士の噛み合いを解除する方向に働く。大きい分力に対して、歯同士の適切な噛み合い状態を確保するには、電磁石の磁力を大きく設定する必要がある。このままでは、ツースクラッチが大型化するので、改良の余地がある。
【0007】
本発明は、ツースクラッチ及びこれを用いた車両用ステアリング装置の小型化を図りつつ、歯同士の適切な噛み合い状態を確保することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ツースクラッチは、
盤面に第1の歯を有している盤状の第1回転体と、
前記第1回転体の回転中心線に位置し前記第1回転体に対して相対回転可能であって、前記第1の歯と同じ方向を向いた第2の歯を盤面に有している盤状の第2回転体と、
前記回転中心線に位置し且つ前記回転中心線に沿って軸方向変位可能であって、前記第1回転体及び前記第2回転体に対して相対回転可能な盤状の第3回転体と、
前記第1回転体と共に回転可能且つ前記第1回転体に対する軸方向移動を規制されて設けられる磁性体からなるロータと、
前記第3回転体に対し前記ロータを挟んで向かい合い、通電又は非通電させることで、前記第3回転体を軸方向変位させる電磁石と、を有し、
前記第3回転体は、
前記第1の歯に噛み合い可能な第3の歯と、前記第2の歯に噛み合い可能な第4の歯とが設けられた第1の盤面と、
前記第1の盤面とは反対側であり、前記ロータの前記第3回転体側のロータ面に対し、第1の隙間を有して向かい合う磁性体からなる面を有したアーマチュアが設けられた第2の盤面と、を有し、
前記第3回転体には、前記第1の盤面から前記第2の盤面へ連通する孔が形成され、
前記第2の盤面には、前記第2の盤面の中心から径方向外側に向かうにつれて前記ロータへ向かって傾斜する第1の傾斜面が形成され、
前記ロータ面と前記第2の盤面の間には、前記第1の傾斜面によって、前記第2の盤面と前記ロータ面との間隔が先細りとなるように形成されてなるテーパ状空間部に介在する係合部材と、
前記係合部材を前記第1の傾斜面に向かって付勢する付勢部材と、を有し、
前記第3回転体に形成された前記孔に挿入され、前記電磁石を通電させることで、前記ロータ面に吸着した際に、前記係合部材を前記入力軸における径方向内側へ押し出す第2の傾斜面を有した磁性体からなるピンを有し、
前記ピンの先端部は、前記ロータ面に対して第1の隙間よりも小さい第2の隙間を有して配置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、電磁石の磁力によってピンを進出させる力は、ロータ面と第1の傾斜面との間に係合している(挟まっている)係合部材を、入力軸における径方向内側へ押し出す、いわゆる規制解除(ロック解除)のためだけの、小さい力ですむ。一方、電磁石の磁力によってアーマチュアを吸着する力は、単に歯同士の噛み合いを解除するだけの、比較的小さい力ですむ。このように規制解除と、歯同士の噛み合い解除と、の2つに分離したので、電磁石の磁力は比較的小さくてすむ。このため、電磁石の小型化を図ることができる。この結果、ツースクラッチ及びこれを用いた車両用ステアリング装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1によるツースクラッチを用いた車両用ステアリング装置の模式図である。
図2図1に示されたツースクラッチの断面図である。
図3図2の3−3線に沿った断面図である。
図4図2の4部を拡大した図である。
図5図4の5部を拡大した構成及びテーパ状空間部周りの図である。
図6図4に示されるツースクラッチのピンが吸引された状態の作用図である。
図7図6に示されるツースクラッチのアーマチュアが吸引された状態の作用図である。
図8】本発明の実施例2によるツースクラッチの断面図である。
図9】本発明の実施例3によるツースクラッチの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0012】
<実施例1>
実施例1に係るツースクラッチについて図1図7に基づき説明する。図1に示されるように、車両用ステアリング装置10は、車両のステアリングホイール11の操舵入力が生じる操舵部12と、左右の転舵車輪13,13を転舵する転舵部14と、操舵部12と転舵部14との間の操舵力伝達経路15に組み込まれたツースクラッチ50と、制御部16とを含む。
【0013】
より詳しく述べると、車両用ステアリング装置10は、操舵部12と転舵部14との間の操舵力伝達経路15にツースクラッチ50を組み込んでいる、いわゆるステアバイワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)を採用している。車両用ステアリング装置10は、通常時にはツースクラッチ50が開放状態であって、操舵部12と転舵部14との間を機械的に分離している。このため、通常時には、ステアリングホイール11の操舵量に応じて転舵用アクチュエータ39を作動させることにより、左右の転舵車輪13,13を転舵することができる。また、ツースクラッチ50が係合状態のときにのみ、操舵部12から転舵部14へ操舵力を伝達することができる。
【0014】
操舵部12は、運転手が操作するステアリングホイール11と、このステアリングホイール11に連結されているステアリング軸21と、ステアリングホイール11に対して操舵反力(反力トルク)を付加する反力付加アクチュエータ22と、を含む。この反力付加アクチュエータ22は、運転者がステアリングホイール11の操舵力に抵抗する操舵反力を発生することによって、運転者に操舵感を与える。この反力付加アクチュエータ22のことを、適宜「第1アクチュエータ22」と言い換える。
【0015】
反力付加アクチュエータ22は、操舵反力を発生する反力モータ23(第1モータ23)と、操舵反力をステアリング軸21に伝達する反力伝達機構24と、を含む。反力モータ23は、例えば電動モータによって構成される。反力伝達機構24は、例えばウォームギヤ機構によって構成される。このウォームギヤ機構24(反力伝達機構24)は、反力モータ23のモータ軸23aに設けられたウォームギヤ24aと、ステアリング軸21に設けられたウォームホイール24bとからなる。反力モータ23が発生した操舵反力は、反力伝達機構24を介して、ステアリング軸21に付加される。
【0016】
操舵力伝達経路15は、操舵部12のステアリング軸21と、転舵部14の操作力伝達機構35と、の間の経路である。例えば、操舵力伝達経路15は、ステアリング軸21に自在軸継手31,31及び連結軸32とによって連結されている第1軸33(入力軸33)と、この第1軸33からトルクを伝達される第2軸34(出力軸34)と、を含む。ツースクラッチ50は、第1軸33と第2軸34との間に介在している。
【0017】
転舵部14は、第2軸34に操作力伝達機構35によって連結されている転舵軸36と、この転舵軸36の両端にタイロッド37,37及びナックル38,38を介して連結されている左右の転舵車輪13,13と、転舵軸36に転舵用動力を付加する転舵用アクチュエータ39と、を含む。この転舵用アクチュエータ39のことを、適宜「第2アクチュエータ39」と言い換える。
【0018】
操作力伝達機構35は、例えばラックアンドピニオン機構によって構成される。このラックアンドピニオン機構35(操作力伝達機構35)は、第2軸34に設けられたピニオン35aと、転舵軸36に設けられたラック35bとからなる。転舵軸36は、軸方向(車幅方向)へ移動可能である。
【0019】
転舵用アクチュエータ39は、転舵用動力を発生する転舵動力モータ41(第2モータ41)と、転舵用動力を転舵軸36に伝達する転舵動力伝達機構42とからなる。転舵動力モータ41が発生した転舵用動力は、転舵動力伝達機構42によって転舵軸36に伝達される。この結果、転舵軸36は車幅方向にスライドする。転舵動力モータ41は、例えば電動モータによって構成される。
【0020】
転舵動力伝達機構42は、例えばベルト伝動機構43とボールねじ44とからなる。ベルト伝動機構43は、転舵動力モータ41のモータ軸41aに設けられた駆動プーリ45と、ボールねじ44のナットに設けられた従動プーリ46と、駆動プーリ45と従動プーリ46とに掛けられたベルト47とからなる。ボールねじ44は、回転運動を直線運動に変換する変換機構の一種であって、転舵動力モータ41が発生した駆動力を前記転舵軸36に伝達する。なお、転舵動力伝達機構42は、ベルト伝動機構43とボールねじ44の構成に限定されるものではなく、例えばウォームギヤ機構やラックアンドピニオン機構であってもよい。
【0021】
制御部16は、図示せぬ各種センサから信号を受けて、反力モータ23、転舵動力モータ41及びツースクラッチ50に電流を流す。
【0022】
以下、ツースクラッチ50について詳しく説明する。図2に示されるように、ツースクラッチ50は、ケース51と、このケース51にそれぞれ収納されている、第1回転体52と第2回転体53と第3回転体54とアーマチュア55とロータ56と電磁石57とを、基本的な構成要素としている。これらの各回転体52〜54とアーマチュア55とロータ56と電磁石57と、前記第1軸33及び第2軸34は、第1回転体52の回転中心線CLに位置している。
【0023】
前記第1回転体52は、ケース51の外方へ延びている第1軸33と共に回転可能な、円盤状の部材である。例えば、第1回転体52は第1軸33に一体に構成されている。
【0024】
第1回転体52のなかの、第1軸33側の端面52aのことを「第1の盤面52a」といい、この第1の盤面52aとは反対側の端面52bのことを「第2の盤面52b」という。第1の盤面52aには、第1の歯61(入力歯61)が設けられている。この第1の歯61は、第1回転体52の回転中心線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されている。
【0025】
前記第2回転体53は、ケース51の外方へ延びている第2軸34と共に回転可能な円盤状の部材である。例えば、第2回転体53は第2軸34に一体に構成されている。第2軸34は、ケース51に対して第1軸33とは反対側へ位置している。第2回転体53は、第2軸34側から第1回転体52の外周面を囲んでいる、有底環状の部材である。
【0026】
第2回転体53のなかの、第2軸34側の端面53aのことを「第1の盤面53a」といい、この第1の盤面53aとは反対側の端面53b(開放された環状の端面53b)のことを「第2の盤面53b」という。この第2回転体53の第2の盤面53bには、第2の歯62(入力歯62)が設けられている。この第2の歯62は、第1回転体52の回転中心線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されており、第1の歯61と同じ方向を向いている。
【0027】
前記第3回転体54は、第1回転体52の回転中心線CLに沿って変位可能な、円盤状の非磁性体である。例えば第3回転体54は、第1軸33に相対回転可能且つ軸方向への相対移動可能に嵌合されている。以下、第3回転体54のなかの、第1の歯61に対向する端面54aのことを「第1の盤面54a」といい、この第1の盤面54aとは反対側の端面54bのことを「第2の盤面54b」という。第3回転体54の第1の盤面54aには、第3の歯63と第4の歯64が設けられている。これらの第3の歯63と第4の歯64は、第1回転体52の回転中心線CLを基準として環状に配列された多数の山形(三角形や台形を含む)の歯部によって構成されている。第3の歯63は、第1の歯61に噛み合い可能である。第4の歯64は、第2の歯62に噛み合い可能である。
【0028】
前記アーマチュア55は、第3回転体54の第2の盤面54bに一体に有しており、第1回転体52の回転中心線CLを基準とする環状の磁性体からなる。例えば、第3回転体54の第2の盤面54bの外縁には、回転中心線CLを中心とした環状の切り欠き部54cが形成されてなる。この切り欠き部54cは、第2の盤面54b方向に開放されている。アーマチュア55は、この切り欠き部54cに嵌合し且つ固定されている。アーマチュア55のなかの、第3回転体54の第2の盤面54b側の平坦な面55aのことを「アーマチュア面55a」という。このアーマチュア面55aは、第3回転体54の第2の盤面54bから突出している。
【0029】
前記ロータ56は、第1軸33に相対回転と軸方向への相対移動の両方を規制されて、取り付けられた、磁性体からなる。第1回転体52は、第1軸33に一体に構成されている。従って、ロータ56は、第1回転体52と共に回転可能且つこの第1回転体52に対する軸方向移動を規制されている。このロータ56のロータ面56aは、アーマチュア面55aに向かい合う平坦面である。
【0030】
前記電磁石57は、ロータ56に対し、アーマチュア55とは反対側に位置するとともに、ロータ56に対する変位を規制されており、第1回転体52の回転中心線CLを基準とする環状の部材である。詳しく述べると、この電磁石57は、ケース51に固定されたフィールドコア57aと、このフィールドコア57aに巻かれた電磁用コイル57bとからなる。
【0031】
電磁用コイル57bに通電していない状態(ツースクラッチ50の係合状態)では、第3の歯63は第1の歯61と噛み合い状態にあり、第4の歯64も第2の歯62と噛み合い状態にある。電磁用コイル57bに通電すると、フィールドコア57aとロータ56とアーマチュア55とを通る磁路が形成される。この結果、電磁石57の磁力によって、アーマチュア55はロータ56に吸着される。アーマチュア55と一体の第3回転体54はロータ56へ向かって変位する。第3回転体54に設けられている第3の歯63は、第1の歯61との噛み合い状態が解除される。同様に第4の歯64も、第2の歯62との噛み合い状態が解除される。つまり、ツースクラッチ50の開放状態となる。
【0032】
第1軸33は、軸受65によってケース51に回転可能に支持されている。第2軸34は、軸受66によってケース51に回転可能に支持されている。第1回転体52の外周面と第2回転体53の内周面とは、軸受67によって互いに相対回転が可能に支持している。
【0033】
図2に示されるように、ツースクラッチ50は、噛み合い状態保持解除部70を有していることを特徴とする。この噛み合い状態保持解除部70は、第1の歯61に対する第3の歯63の噛み合い状態と、第2の歯62に対する第4の歯64の噛み合い状態とを、安定的に維持するとともに、これらの各噛み合い状態を強制的に解除することが可能である。
【0034】
この噛み合い状態保持解除部70は、アーマチュア55よりも径方向内側に位置した少なくとも1つ(1組)からなり、好ましくは複数(複数組)、この実施例では図3に示されるように3つ(3組)からなる。この3つの噛み合い状態保持解除部70は、第1回転体52の回転中心線CLを基準として放射状に、且つ等ピッチに配列されている。
【0035】
図2及び図3に示されるように、各噛み合い状態保持解除部70は、それぞれ1つずつの、テーパ状空間部71と傾斜面72と係合部材74と付勢部材75とピン77とガイド部78とを含む。
【0036】
ここで、1つの噛み合い状態保持解除部70を代表し、図4及び図5を参照しつつ詳しく説明する。図5(a)は、図4の5部を拡大した図であって、第1及び第2の歯61,62に対して第3及び第4の歯63,64が噛み合っている状態(ツースクラッチ50の係合状態)を示している。図5(b)は、図5(a)に示されるテーパ状空間部71を表している。
【0037】
前記テーパ状空間部71は、第3回転体54の第2の盤面54bとロータ56のロータ面56aとの間隔が先細り状となるように形成されてなる。例えば、テーパ状空間部71は、回転中心線CLを基準として、第3回転体54の径外方へ向かって先細りとなる。
【0038】
より具体的に説明すると、第2の盤面54bに対してロータ面56aは平行である。しかし、第2の盤面54bとロータ面56aとの、少なくとも一方の面から他方の面へ向かって傾斜した傾斜面72を有している。以下、この傾斜面72のことを「第1の傾斜面72」と言い換える。この第1の傾斜面72によって、第2の盤面54bとロータ面56aとの間隔が先細りとなるように形成されてなるテーパ状空間部71を構成することができる。例えば、第2の盤面54bには、この第2の盤面54bからロータ面56aへ向かう上り勾配の第1の傾斜面72が形成されてなる。言い換えると、この第1の傾斜面72は、第2の盤面54bの中心(第1回転体52の回転中心線CL)から径方向外側に向かうにつれてロータ56へ向かって傾斜している。この第1の傾斜面72は、テーパ状空間部71を形成する一部である。
【0039】
この第1の傾斜面72は、例えば第2の盤面54bに有した凹部73に構成される。この凹部73は、第2の盤面54bから第1の盤面54aへ向かって窪んでいる。この凹部73の最も深い底面73a(第1の盤面54a側の面73a)は、回転中心線CLの近傍に位置しており、ロータ面56aに平行な面(略平行な面を含む)である。
【0040】
より詳しく述べると、前記第1の傾斜面72は、凹部73の底面73aからロータ面56aへ向かって上り勾配に構成されている。第3回転体54を第2の盤面54b側から見て、底面73aと第1の傾斜面72とは、回転中心線CLを基準として、第3回転体54の径外方へ一直線状に延びている(図3も参照)。この第1の傾斜面72は2段階に傾斜している。つまり、第1の傾斜面72は、底面73aから上り勾配に傾斜した急傾斜の傾斜面72a(第1段の傾斜面72a)と、この急傾斜の傾斜面72aの上端から更に上り勾配に傾斜した緩い傾斜の傾斜面72b(第2段の傾斜面72b)と、からなる。
【0041】
以下、ロータ面56aと第1段の傾斜面72aとによって形成されてなる空間部71aのことを、適宜「テーパ状空間部71の後半部分71a」という。また、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとによって形成されてなる空間部71bのことを、適宜「テーパ状空間部71の先端部分71b」という。
【0042】
前記係合部材74は、テーパ状空間部71に介在しており、好ましくはこのテーパ状空間部71の中で転動可能な転動体によって構成されている。この転動体は、より好ましくは外周面が第1の傾斜面72に接する直径Drの丸棒状のローラによって構成されている。以下、係合部材74のことを、適宜「転動体74」または「ローラ74」と言い換えることにする。このローラ74は、第1の傾斜面72の傾斜に沿って転がり変位をすることが可能である。
【0043】
前記付勢部材75は、ローラ74を第1の傾斜面72に向かって付勢、つまり、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとに接するように、付勢している。この付勢部材75は、例えば圧縮コイルばねによって構成されている。第3回転体54の径方向の中央部には、環状のばね受け部76が設けられている。圧縮コイルばね75(付勢部材75)は、ローラ74とばね受け部76との間に介在している。
【0044】
付勢部材75に付勢されたローラ74は、テーパ状空間部71の先端部分71bに位置して、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとに対して「くさび」の役割を果たすことができる。このときの、ロータ面56aとローラ74との接触点P1のことを「第1接触点P1」といい、第2段の傾斜面72bとローラ74との接触点P2のことを「第2接触点P2」という。
【0045】
前記ピン77は、テーパ状空間部71の先端部分71bに位置しているローラ74を後半部分71a(非接触側)、つまり第1軸33における径方向内側へ押し出しつつ、ロータ56のロータ面56aへ向かって進出可能に第3回転体54に有している。このピン77は、丸棒状の磁性体からなる。
【0046】
アーマチュア55のアーマチュア面55aは、第1の隙間Cr1を有してロータ面56aを向いている。一方、ピン77のなかの、進出方向の先端面77aは、第2の隙間Cr2を有してロータ面56aを向いている。第1の隙間Cr1の大きさδ1と第2の隙間Cr2の大きさδ2は、電磁石57の磁力により、ロータ56に対してアーマチュア55よりも先にピン77が吸着されるように、設定されている。つまり、第2の隙間Cr2の大きさδ2は、第1の隙間Cr1の大きさδ1よりも小さく設定されている(δ2<δ1)。このように、第2の隙間Cr2の大きさδ2は、第1の隙間Cr1の大きさδ1よりも小さければよい。第2の隙間Cr2が小さいことにより、電磁石57の磁力によって、先にピン77がロータ面56aに吸着され、その後にアーマチュア55がロータ面56aに吸着される。
【0047】
第3回転体54には案内用の孔54dが形成されてなる。このピン案内用の孔54dは、第1回転体52の回転中心線CLに沿うとともに、ロータ面56aに向かって開口している。つまり、このピン案内用の孔54dは、第3回転体54を貫通した丸孔である。
【0048】
このピン案内用の孔54dの縁は、第2段の傾斜面72bの上端に隣接している。丸棒状のピン77は、ピン案内用の孔54dにスライド可能に位置しており、先端部77bが第3回転体54の第2の盤面54bから突出し、第2の隙間Cr2を有してロータ面56aに向かい合っている。
【0049】
ピン77のなかの、先端面77aとは反対側の面77c(後端面77c)が、第1回転体52の第2の盤面52bに接している。盤面52bからロータ面56aまでの間隔は一定である。このため、ピン77の長さを設定することによって、第2の隙間Cr2の大きさδ2が決まる。
【0050】
ピン77の先端部77bのなかの、少なくとも一部には押し出し面77dが形成されてなる。この押し出し面77dは、第2段の傾斜面72bの勾配と同方向に上り勾配の傾斜面である。ピン77がロータ面56aへ向かって進出したときに、テーパ状空間部71の先端部分71bに位置しているローラ74を、押し出し面77dによってテーパ状空間部71の後半部分71a(非接触側)へ押し出すことができる。以下、押し出し面77dのことを、適宜「第2の傾斜面77d」と言い換える。
【0051】
図3も参照すると、前記ガイド部78は、第3回転体54の第2の盤面54bに有しており、ローラ74をテーパ状空間部71に沿って案内することが可能である。例えば、ガイド部78は、凹部73の両側の側面73b,73bによって形成されてなる。従って、ローラ74は、凹部73の両側の側面73b,73bにより、第3回転体54の径方向へ案内されて、第1の傾斜面72上を転がることが可能である。
【0052】
次に、テーパ状空間部71とローラ74とピン77との関係について、図5を参照しつつ説明する。
【0053】
ロータ面56aに対して平行な直線Lhを想定し、この直線Lhを「平行線Lh」という。この平行線Lh及びロータ面56aに対する、第1段の傾斜面72aの傾斜角α1のことを、「第1段傾斜角α1」という。第1段傾斜角α1は鋭角である。また、平行線Lh及びロータ面56aに対する、第2段の傾斜面72bの傾斜角α2のことを、「第2段傾斜角α2」という。第2段傾斜角α2は鋭角であり、第1段傾斜角α1よりも小さく設定されている(α2<α1)。
【0054】
ツースクラッチ50にトルクが作用したときに、第1の歯61と第3の歯63との噛み合い面に作用する軸方向の分力や、第2の歯62と第4の歯64との噛み合い面に作用する軸方向の分力が働く。これらの分力は、歯同士の噛み合いを解除する方向に働き、さらに、第2段の傾斜面72bとローラ74との第2接触点P2に作用する。この第2接触点P2には、ローラ74を入力軸33における径方向内側へ押し出す水平分力(回転中心線CLへ向かって押し出す水平分力)が働く。この水平分力を、付勢部材75によって打ち消している。
【0055】
第2段の傾斜面72bとローラ74との間にローラ74が嵌り込んだ、いわゆるロック状態において、このローラ74の一部74aは、ピン案内用の孔54dの真上に位置、つまり孔54dの延長上に位置する。以下、このローラ74の一部74aのことを、「はみ出し部分74a」という。
【0056】
平行線Lh及びロータ面56aに対する、押し出し面77dの傾斜角βのことを、「押し出し傾斜角β」という。この押し出し傾斜角βは鋭角である。この押し出し傾斜角βが鋭角であれば、ローラ74を押し出す分力が小さいので、ピン77を吸着するための磁力が小さくてすむ。
【0057】
第1段傾斜角α1と第2段傾斜角α2は、押し出し傾斜角βよりも小さい(α2<α1<β)。つまり、第1の傾斜面72は、第2の傾斜面77dよりも緩い傾斜に設定されている。このため、付勢部材75によって付勢されているローラ74を、ピン77によって押し出す力が小さくてすむ。
【0058】
次に、上記構成の噛み合い状態保持解除部70の作用について説明する。電磁石57(図2参照)が非励磁状態のときには、図4に示されるように、アーマチュア55とピン77がロータ面56aから離れている。付勢部材75に付勢されているローラ74は、テーパ状空間部71の先端部分71bに介在して、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとの間に係合(ロック)している。このときのツースクラッチ50は、第3の歯63が第1の歯61と噛み合い状態にあり、第4の歯64も第2の歯62と噛み合い状態にある、いわゆるツースクラッチ50の係合状態にある。
【0059】
ツースクラッチ50にトルクが作用することによって、両方の歯61,63同士と歯62,64同士の噛み合い面には、軸方向の分力が作用する。この軸方向の分力は、第2段の傾斜面72bによってローラ74を第1段の傾斜面72a側へ押し出す力の一部(水平分力)となる。しかし、第2段の傾斜面72bが第1段の傾斜面72aよりも緩い傾斜なので、ローラ74を第1段の傾斜面72a側へ押し出す力は、極めて小さい。しかも、この小さい押し出す力を、付勢部材75によって打ち消している。つまり、ローラ74はロータ面56aと、緩い傾斜の第2段の傾斜面72bと、の間に介在することによって、第3回転体54が軸方向へ変位しないように規制している。ツースクラッチ50に大きいトルクが作用した場合であっても、歯61,63同士と歯62,64同士の適切な噛み合い状態を確保することができる。従って、大きいトルクを伝達することが可能なツースクラッチ50を提供することができる。
【0060】
その後、電磁石57(図2参照)が励磁状態に切り替わると、この電磁石57の磁力によって、図6に示されるようにピン77が先にロータ面56aに吸着する。ピン77は、ロータ面56aへ向かって進出しつつ、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとの間に係合(ロック)しているローラ74を、付勢部材75の付勢力に抗して、テーパ状空間部71の後半部分71aへ押し出す。これで、ロータ面56aと第2段の傾斜面72bとの間に係合しているローラ74の、ロック状態が解除される。
【0061】
その直後に、電磁石57の磁力によって、アーマチュア55がロータ面56aに接近する。第3回転体54は、アーマチュア55と共にロータ面56aに接近しつつ、ローラ74を付勢部材75の付勢力に抗して凹部73の底面73a側へ押し出す。
【0062】
この結果、図7に示されるように、ローラ74は第1段の傾斜面72aと凹部73の底面73aとの間まで押し出される。電磁石57(図2参照)の磁力によって、アーマチュア55がロータ面56aに吸着した状態では、歯61,63同士と歯62,64同士の噛み合いは解除される。この結果、ツースクラッチ50は、歯61,63同士と歯62,64同士の噛み合いを解除された、開放状態に切り替わる。
【0063】
図3及び図4に示されるように、3つのローラ74は、第1回転体52の回転中心線CLを基準として放射状に、且つ等ピッチに配列されている。このため、3つのテーパ状空間部71において、ロータ面56aと各第2段の傾斜面72bとに対し、各ローラ74がより安定して係合することができる。
【0064】
以上の説明をまとめると、次の通りである。
図2図4及び図5に示されるように、ツースクラッチ50は、
盤面52a(第1の盤面52a)に第1の歯61を有している盤状の第1回転体52と、
前記第1回転体52の回転中心線CLに位置し前記第1回転体52に対して相対回転可能であって、前記第1の歯61と同じ方向を向いた第2の歯62を盤面53b(第2の盤面53b)に有している盤状の第2回転体53と、
前記回転中心線CLに位置し且つ前記回転中心線CLに沿って軸方向変位可能であって、前記第1回転体52及び前記第2回転体53に対して相対回転可能な盤状の第3回転体54と、
前記第1回転体52と共に回転可能且つ前記第1回転体52に対する軸方向移動を規制されて設けられる磁性体からなるロータ56と、
前記第3回転体54に対し前記ロータ56を挟んで向かい合い、通電又は非通電させることで、前記第3回転体54を軸方向変位させる電磁石57と、を有し、
前記第3回転体54は、
前記第1の歯61に噛み合い可能な第3の歯63と、前記第2の歯62に噛み合い可能な第4の歯64とが設けられた第1の盤面54aと、
前記第1の盤面54aとは反対側であり、前記ロータ56の前記第3回転体54側のロータ面56aに対し、第1の隙間Cr1を有して向かい合う磁性体からなる面55a(アーマチュア面55a)を有したアーマチュア55が設けられた第2の盤面54bと、を有し、
前記第3回転体54には、前記第1の盤面54aから前記第2の盤面54bへ連通する孔54d(ピン案内用の孔54d)が形成され、
前記第2の盤面54bには、前記第2の盤面54bの中心(第1回転体52の回転中心線CL)から径方向外側に向かうにつれて前記ロータ56へ向かって傾斜する第1の傾斜面72が形成され、
前記ロータ面56aと前記第2の盤面54bの間には、前記第1の傾斜面72によって、前記第2の盤面54bと前記ロータ面56aとの間隔が先細りとなるように形成されてなるテーパ状空間部71に介在する係合部材74と、
前記係合部材74を前記第1の傾斜面72に向かって付勢する付勢部材75と、を有し、
前記第3回転体54に形成された前記孔54d(ピン案内用の孔54d)に挿入され、前記電磁石57を通電させることで、前記ロータ面56aに吸着した際に、前記係合部材74を前記入力軸33における径方向内側へ押し出す第2の傾斜面77d(押し出し面77d)を有した磁性体からなるピン77を有し、
前記ピン77の先端部77bは、前記ロータ面56aに対して第1の隙間Cr1よりも小さい第2の隙間Cr2を有して配置されている。
【0065】
電磁石57の磁力によってピン77を進出させる力は、ロータ面56aと第1の傾斜面72(特に、第2段の傾斜面72b)との間に係合(ロック)している係合部材74を、入力軸33における径方向内側へ押し出す、いわゆる規制解除(ロック解除)のためだけの、小さい力ですむ。一方、電磁石57の磁力によってアーマチュア55を吸着する力は、単に歯同士61,62,63,64の噛み合いを解除するだけの、比較的小さい力ですむ。このように規制解除と、歯同士の噛み合い解除と、の2つに分離したので、電磁石57の磁力は比較的小さくてすむ。このため、電磁石57の小型化を図ることができる。この結果、ツースクラッチ50及びこれを用いた車両用ステアリング装置10の小型化を図ることができる。
【0066】
さらには、図2及び図5に示されるように、前記電磁石57の磁力により、前記ロータ56に対して前記アーマチュア55よりも先に前記ピン77が吸着されるように、前記第1の隙間Cr1と前記第2の隙間Cr2の各大きさδ1,δ2が設定されている。つまり、上述のように、第2の隙間Cr2の大きさδ2は、第1の隙間Cr1の大きさδ1よりも小さく設定されている(δ2<δ1)。
【0067】
このため、先に、ピン77によって、ロータ面56aと第1の傾斜面72(特に、第2段の傾斜面72b)との間に係合(ロック)している係合部材74を、入力軸33における径方向内側へ押し出す、いわゆる規制解除(ロック解除)をすることができる。その後に、アーマチュア55が軸方向へ変位することによって、歯同士61,62,63,64の噛み合いを解除することができる。このように、2段階の動作によって、確実に規制解除と、歯同士の噛み合い解除を行うことができる。
【0068】
図5に示されるように、前記係合部材74は、前記テーパ状空間部71の中で転動可能な転動体74によって構成されている。転動体74であればテーパ状空間部71の中、つまりロータ面56aと第1の傾斜面72との間を容易に転動することができる。
【0069】
図3及び図4に示されるように、例え、ツースクラッチ50に衝撃荷重が作用した場合であっても、テーパ状空間部71(ロータ面56aや第1の傾斜面72)に対する転動体74の位置ズレを、発生しないことが求められる。転動体74が位置ズレをすると、第3回転体54が第1回転体52の回転中心線CLに沿って変位するからである。
【0070】
前記転動体74はローラ74によって構成されている。このローラ74は、ロータ面56aと第1の傾斜面72とに対して線接触することになる。線接触であるから、衝撃荷重が作用しても位置ズレを発生しにくい。つまりローラ74は、第1回転体52の回転中心線CLに沿う方向への位置ズレの発生を抑制し易い。
【0071】
さらに、図3及び図5に示されるように、前記ツースクラッチ50は、前記第3回転体54の前記第2の盤面54bに有しており、前記係合部材74を前記テーパ状空間部71に沿って案内することが可能なガイド部78を、更に含んでいる。このため、係合部材74をテーパ状空間部71に沿って、より円滑に移動させることができる。
【0072】
図1に示されるように、車両用ステアリング装置10は、ステアリングホイール11の操舵入力が生じる操舵部12と、転舵車輪13,13を転舵する転舵部14と、前記操舵部12と前記転舵部14との間の操舵力伝達経路15に組み込まれたツースクラッチ50と、を有していることを特徴とする。
【0073】
<実施例2>
実施例2に係るツースクラッチについて図8に基づき説明する。実施例2のツースクラッチ50Aは、上記図1図7に示される実施例1のツースクラッチ50に対して、4つ(4組)の噛み合い状態保持解除部70を有していることを特徴とし、他の構成については実施例1と同じなので、説明を省略する。
【0074】
図8は、4つ(4組)の噛み合い状態保持解除部70を有しているツースクラッチ50Aを示しており、図3に対応して表している。この4つの噛み合い状態保持解除部70は、回転中心線CLを基準として放射状に且つ等ピッチに配列されている。従って、4つの係合部材74は、回転中心線CLを基準として放射状に且つ等ピッチに配列される。このため、図5及び図8に示されるように、4つのテーパ状空間部71の先端部分71bに位置している各係合部材74は、ロータ面56aと第1の傾斜面72とに対し、より安定して係合することができる。他の効果については、上記実施例1の効果と同じである。
【0075】
<実施例3>
実施例3に係るツースクラッチについて図9に基づき説明する。実施例3のツースクラッチ50Bは、上記図1図7に示される実施例1のツースクラッチ50と、上記図8に示される実施例2のツースクラッチ50Aとに対して、転動体74を転動体74B(図9参照)に変更したことを特徴とし、他の構成については実施例1と同じなので、説明を省略する。
【0076】
図9は、転動体74Bをボールによって構成したことを示しており、図4に対応して表している。転動体74Bとしてボールを採用したので、このボールはロータ面56aと第1の傾斜面72とに対して点接触することになる。点接触であるから、第1の傾斜面72に対する摩擦抵抗を抑制することができる。他の効果については、上記実施例1〜2の効果と同じである。
【0077】
なお、本発明によるツースクラッチ50,50A,50B及びこれを用いた車両用ステアリング装置10は、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、実施例に限定されるものではない。
【0078】
また、案内用の孔54dは丸孔に限定されるものではなく、ピン77は丸棒状に限定されるものではない。例えば、図5に示されるように、押し出し面77dがピン77の先端部77bの外周面の一部のみに形成されてなる場合には、このピン77は、ピン案内用の孔54dに対する回転を規制されることが、より好ましい。そのためには、例えば、ピン案内用の孔54dとピン77とを断面角形状にすればよい。
【0079】
また、図2及び図4に示されるように、電磁用コイル57bに通電していない状態(ツースクラッチ50の係合状態)において、ピン77の後端面77cが、第1回転体52の第2の盤面52bに対して、より安定した接触状態を維持するためには、第2の盤面52bに対して後端面77cを付勢する何らかの付勢部材を有することがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の車両用ステアリング装置10は、自動車に搭載するのに好適である。
【符号の説明】
【0081】
10 車両用ステアリング装置
11 ステアリングホイール
12 操舵部
13 転舵車輪
14 転舵部
15 操舵力伝達経路
33 入力軸(第1軸)
34 出力軸(第2軸)
50 ツースクラッチ
50A ツースクラッチ
50B ツースクラッチ
52 第1回転体(回転体)
52a 第1の盤面
52b 第2の盤面(盤面)
53 第2回転体
53a 第1の盤面
53b 第2の盤面(盤面)
54 第3回転体
54a 第1の盤面
54b 第2の盤面
55 アーマチュア
55a アーマチュア面
56 ロータ
56a ロータ面
57 電磁石
61 第1の歯
62 第2の歯
63 第3の歯
64 第4の歯
71 テーパ状空間部
72 第1の傾斜面
72a 第1段の傾斜面
72b 第2段の傾斜面
74 係合部材(転動体、ローラ)
74B 係合部材(ボール)
75 付勢部材
77 ピン
77a 先端面
77b 先端部
77d 第2の傾斜面(押し出し面)
78 ガイド部
CL 第1回転体の回転中心線
Cr1 第1の隙間
Cr2 第2の隙間
δ1 第1の隙間の大きさ
δ2 第2の隙間の大きさ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9