【課題】本発明の目的は、ニードルに固定されるニードルケースの内部に、ロータ軸によるニードルの回転を抑制するワッシャを備える電動弁において、ニードルケースの加工時に生じる隅R部にワッシャが乗り上げたり、または、干渉したりすることを防止し、良好な作動性及び高い耐久性を達成できる電動弁を提供することである。
【解決手段】電動弁100は、ニードル121に固定されるニードルケース125の内部の、ニードルケース125の縮径部125aと、ロータ軸131のフランジ部131bとの間に、ロータ軸131によるニードル121の回転を抑制するワッシャ124を備え、ニードルケース125の縮径部125aの屈曲部に生じる隅R部と、ワッシャ124とが干渉することを防止する隅R逃げ構造125R1が形成される。
前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部の隅R部に対向する、前記ワッシャの角に形成された面取り部であることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部の隅R部に対向する、前記ワッシャの角に形成された段部であることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動弁では、ニードルと弁座が当接している状態での弁開閉動作において、ロータ軸1031の回転に合わせて、ニードルが回転すると、ニードルと着座部分が磨耗する可能性がある。電動弁1000では、これを防止するため、
図6(a)に示すように、ロータ軸1031のフランジ部1031bと、ニードルケース1025の縮径部1025aが、高滑性のワッシャ1024を介して接触するように、また、フランジ部1031bの下方の先端部が高滑性のばね受け1023を介して接触するように構成されている。
【0007】
ここで、ロータ(図示を省略する。)の回転運動によりロータ軸1031が下降すると、ばね受け1023、及び、弁ばね1022を介してニードルが着座部分に押し込まれ、弁閉状態に制御される。上述のように、
図6(b)に示す弁閉状態では、ニードルケース1025の縮径部1025aと、ワッシャ1024とが非接触となり、ニードルケース1025の回転が停止し、ニードルケース1025に固定されたニードルの回転も停止する。
【0008】
続いて、
図6(b)に示す電動弁1000の弁閉状態から再度弁開状態に戻す場合には、ロータ軸1031を逆回転させてニードルを引き抜く必要があるが、このときニードルが着座部分から離れるときに、
図6(b)に示す状態から
図6(c)に示す状態となり、ロータ軸1031のフランジ部1031bがワッシャ1024を介して、ニードルケース1025の縮径部1025aに再度接触し、回転しながらニードルケース1025を吊り上げることとなる。
【0009】
ここで、
図6(d)に示すように、ニードルケース1025の縮径部1025aの直角に屈曲された屈曲部の内側に、加工時に生じる可能性のある隅R部1025rが問題となる。つまり、ロータ軸の軸心が中心軸との間で径方向にずれた場合、隅R部1025rが生じると、
図6(c)及び
図6(d)に示すように、ニードルケース1025の縮径部1025aとワッシャ1024が接触するときに、ワッシャ1024がニードルケース1025の隅R部1025rに乗り上げたり、干渉したりする可能性がある。
【0010】
この場合、ワッシャ1024が水平に保たれなくなり、これに係合するニードルケース1025も傾斜することとなる。これにより、図示しないガイド部材(特許文献1の弁軸ホルダ6)のガイド室(特許文献1の貫通孔6h)の内周とロータ軸1031の回転に合わせて回転するニードルケース1025の外周が当たり、不要な摩擦力が生じて作動性を阻害するおそれがある。また、更に、ニードルケース1025が傾斜すると、これに固定されたニードルが傾斜することとなり、着座部分にかかる荷重が偏り、ニードルや弁座の着座部分が偏って磨耗する可能性もあり耐久性に問題が生じるおそれもある。
【0011】
従って、本発明の目的は、ニードルに固定されるニードルケースの内部に、ロータ軸によるニードルの回転を抑制するワッシャを備える電動弁において、ニードルケースの加工時に生じる隅R部にワッシャが乗り上げたり、または、干渉したりすることを防止し、良好な作動性及び高い耐久性を達成できる電動弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の電動弁は、第1の継手、及び、第2の継手に接続され、内部に弁室、及び、弁座が形成される弁本体と、電動機の駆動により回転するロータの中心に固定され、一部に雄ねじ部が形成されるロータ軸と、前記ロータ軸の前記雄ねじ部にねじ結合される、雌ねじ部が形成され、前記ロータの回転運動を前記ロータ軸の直線運動に変換するガイド部材と、前記弁室内部において、前記ロータ軸の直線運動に従い、中心軸方向に移動され、前記弁座に開閉可能に接離するニードルとを備える電動弁において、前記ロータ軸の前記ニードル側の端部に形成されたフランジ部と互いに対向して係合するように、内側に直角に屈曲された縮径部が形成され、もう一方の端部に前記ニードルが固定される、円筒形状のニードルケースと、前記ニードルケースの内部であって、前記ロータ軸の前記フランジ部と、前記ニードルとの間に圧縮して配置される弁ばねと、前記ロータ軸の前記フランジ部と、前記ニードルケースの前記縮径部の間に配置されたワッシャとをさらに備え、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部に生じる隅R部と、前記ワッシャとが干渉することを防止する隅R逃げ構造が更に形成されることを特徴とする。
【0013】
また、前記ニードルケースの内部であって、前記ロータ軸と前記ニードルとの間にばね受けがさらに設けられ、前記ばね受けは、前記ロータ軸側の端部に外径方向に突出した円板形状のばね係合部が設けられた円筒形状を有し、前記弁ばねは、前記ばね受けの周囲であって、前記ばね受けの前記ばね係合部と、前記ニードルとの間に圧縮して配置されるものとしてもよい。
【0014】
また、前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部に形成された、中心軸方向の逃がし溝であるものとしてもよい。
【0015】
また、前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部に形成された、外径方向の逃がし溝であるものとしてもよい。
【0016】
また、前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部の隅R部に対向する、前記ワッシャの角に形成された面取り部であるものとしてもよい。
【0017】
また、前記隅R逃げ構造は、前記ニードルケースの前記縮径部の屈曲部の隅R部に対向する、前記ワッシャの角に形成された段部であるものとしてもよい。
【0018】
また、前記隅R逃げ構造の深さは、前記隅R部の半径rより大きいものとしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電動弁によれば、ニードルに固定されるニードルケースの内部に、ロータ軸によるニードルの回転を抑制するワッシャを備える電動弁において、ニードルケースの加工時に生じる隅R部にワッシャが乗り上げたり、または、干渉したりすることを防止することにより、ニードルケース及びニードルの傾斜を抑制し、ニードルケースの回転時の作動性を高く保ち、また、ニードルと弁座の着座部分との偏った磨耗を抑制し、耐久性を高く保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
尚、以下の説明における上下の概念は、例えば
図1における上下に対応しており、各部材の相対的な位置関係を示すものであって、絶対的な位置関係を示すものではない。
【0023】
図1は、本発明に係る電動弁の一実施形態100の概略の構成を示す縦断面図であり、
図2(a)は、
図1に示す電動弁100の要部の構成を示す部分断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すIIb部分を拡大して示す部分断面図である。
【0024】
図1乃至
図2(b)において、本発明の電動弁100は、主に、ヒートポンプ式の冷暖房システムや冷凍システムにおいて、電動式膨張弁等として使用される電動弁である。電動弁100は、内部に弁室111Aが形成される弁本体部110と、弁室111Aの内部に収容されるニードル部120と、ニードル部120に接続されるロータ軸回転部130と、ロータ軸回転部130を駆動するロータ駆動部140と、弁本体部110に接続され、内部にロータ軸回転部130及びロータ駆動部140を収容する外装部150とを備える。
【0025】
弁本体部110は、弁本体111と、弁座112とを備える。
【0026】
弁本体111は、例えばステンレス鋼板等の金属材料をプレス加工等により加工して形成される。弁本体111には、内部に後述するニードル121を収容する弁室111Aが形成される。この弁室111Aの側壁には、第1の継手11が接続される第1のポート111bが形成され、弁室111Aの底面には、第2の継手12が接続される第2のポート111cが形成される。
【0027】
なお、第1の継手11、及び、第2の継手12は、ここではいずれも銅製またはステンレス製であって、ろう付けや溶接等により弁本体111に固定されるものとするが、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、第1のポート111bを入力側とし、第2のポート111cを出力側として、冷媒が流れるものとして説明するが、これには限定されず、本実施形態の電動弁100は、第1のポート111bを出力側とし、第2のポート111cを入力側としても使用できる双方向対応型の電動弁である。
【0028】
弁座112は、例えばステンレス鋼あるいは銅合金等の金属材料で形成され、弁本体111の第2の継手12が接続される第2のポート111cの周囲に溶接やろう付けなどにより固定される。弁座112には、中央に貫通する貫通孔であって、第2のポート111cを介して第2の継手12に接続される弁ポート112aが形成される。弁ポート112aは、後述するニードル121と接離され、弁の開閉が制御される。なお、ここでは、弁座112は、弁本体111と別部材であるものとしたが、耐久性や作動性に問題がなければ、弁本体111と一体に成形されるものとしてもよい。
【0029】
ニードル部120は、ニードル121と、弁ばね122と、ばね受け123と、ワッシャ124と、ニードルケース125とを備える。
【0030】
ニードル121は、弁体とも呼ばれ、例えばステンレス鋼等の金属材料で形成され、後述するロータ軸131等により中心軸CL方向に駆動され、弁の開閉が制御される。ニードル121の弁ポート112aに接触される側には、なだらかに中央が突出する形状が形成され、上述の弁ポート112aとの開閉制御により実効開口面積が定量的に増減するように形成されている。またニードル121のロータ軸131側には、後述する略円筒形状のニードルケース125が溶接により固定され、その内側に弁ばね122が保持される。
【0031】
弁ばね122は、略円筒形状のニードルケース125の内部に配置され、ニードル121と、後述するばね受け123のばね係合部123aとの間に圧縮して配置される。なお、弁ばね122を設けることにより、後述するロータ軸131等によるねじ推力をニードル121及び弁ポート112aなどに直接与えることを防止する作用があり、電動弁100の耐久性を高める効果がある。
【0032】
ばね受け123は、例えば樹脂等により略円柱形状に形成され、略円筒形状のニードルケース125の内部の後述するロータ軸131とニードル121との間であって、弁ばね122の内部に中心軸CLに沿って配置される。ばね受け123のロータ軸131に接触される側の端部には、外径方向に向かって突出した円板形状のばね係合部123aが形成される。
【0033】
なお、ばね受け123を設け、弁ばね122の内部に中心軸CLに沿って配置することにより、弁ばね122の同心性を高め、作動性を向上させる効果があるが、この構成に限定されるものではない。ばね受け123を設けない場合には、弁ばね122は、後述するロータ軸131のフランジ部131bとニードル121との間に圧縮して配置されることとなる。
【0034】
ワッシャ124は、例えば高滑性樹脂等で円環形状に形成され、後述するロータ軸131のフランジ部131bと、後述するニードルケース125の縮径部125aとの間に配置される。なお、ワッシャ124を設けることにより、ロータ軸131の回転を直接ニードル121に伝達することを抑制することができる。これによりニードル121の回転が抑制され、ニードル121と弁座112の弁ポート112aの磨耗を防止する作用を有することとなる。
【0035】
ニードルケース125は、例えばステンレス鋼などの金属材料により、プレス加工等により略円筒形状に形成される。ニードルケース125のロータ軸131側の端部には、内側に直角に屈曲された縮径部125aが形成される。ニードルケース125は、後述するロータ軸131等のねじ駆動力をニードル121に伝達する作用を有している。ニードルケース125の縮径部125aは、後述するロータ軸131のフランジ部131bと互いに対向して係合するように配置される。またニードルケース125の縮径部125aと反対側の端部には、ニードル121が溶接等により固定される。
【0036】
ロータ軸回転部130は、ロータ軸131と、ガイド部材132と、鍔状部材133とを備える。
【0037】
ロータ軸131は、例えば金属材料で形成され、概ね断面円形の棒状に形成され、電動弁100の中心軸CLに沿って上下に延在して配置される。ロータ軸131は、後述するステッピングモータ等の電動機により回転されるロータ141の中心に、後述するロータ固定部材142により固定され、ロータ141の回転に合わせて中心軸CLの周りを回転する。
【0038】
ロータ軸131のロータ固定部材142よりニードル121側の部分には、雄ねじ部131aが形成され、後述するガイド部材132の雌ねじ部132bとねじ結合される。ロータ軸131のニードル121側の端部には、外径方向に円板形状に突出したフランジ部131bが形成される。フランジ部131bは、ニードルケース125の内部の縮径部125aよりもニードル121側に配置され、縮径部125aより直径が大きくなっており、抜け止めとなっている。
【0039】
ガイド部材132は、例えば樹脂で概ね円柱形状に形成され、電動弁100の中心軸CLに沿った断面円形の貫通孔には、その上部に雌ねじ部132bが形成され、ロータ軸131の雄ねじ部131aとねじ結合される。ガイド部材132は、このねじ結合により、後述するロータ141の回転運動をロータ軸131の直線運動に変換する作用を有している。
【0040】
ガイド部材132のニードル121側の中央部には、ニードル121の移動に合わせてニードルケース125を摺動可能に収容できるガイド室132Aが形成される。また、ガイド室132Aの一部には均圧孔132cが設けられる。これにより、ガイド室132Aと後述するロータ室141Aが連通することとなり、ロータ軸131及びニードルケース125の移動が容易となる。また、ガイド部材132の外周の中段付近には、鍔状部材133が固定される。
【0041】
鍔状部材133は、金属製の円板形状の部材であり、ガイド部材132に固定される。鍔状部材133は、弁本体111に溶接等により固定される。これにより、ガイド部材132は、鍔状部材133を介して弁本体111に回転不能に固定されることとなる。
【0042】
ロータ駆動部140は、ロータ141と、ロータ固定部材142と、回転ストッパばね143と、可動ストッパ部材144とを備える。
【0043】
ロータ141は、後述するケース151の内部のロータ室141Aに収容され、フェライト焼結体等により構成されたN極S極交互に配置された多極の永久磁石により構成されている。本実施形態では、ロータ141は、後述するケース151の外周に配置され、図示が省略されるヨーク、ボビン、およびコイルなどからなるステータと共にステッピングモータを構成している。なお、ここではステッピングモータとしたが、これには限定されず、ロータ141を回転駆動できるその他の電動機を使用しても同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
ロータ固定部材142は、ロータ141の中心に設けられ、ロータ141とロータ軸131とを圧入などにより固定している。
【0045】
回転ストッパばね143は、コイルばね形状を有し、後述するロータ支持部材152の円柱部分152bの周囲に配置される。回転ストッパばね143の上端部は、ロータ支持部材152の円柱部分152bの上部に固定され、下端部は可動ストッパ部材144に係合して固定される。
【0046】
可動ストッパ部材144は、1巻のコイルばね形状を有し、ロータ支持部材152の円柱部分152bの周囲に回転可能に配置される。可動ストッパ部材144の一方の端部は、多極を有するロータ141の所定の一極に一体として形成された係合突起部141bに係合され、もう一方の端部は回転ストッパばね143の下端部に係合される。このような構成とすることにより、回転ストッパばね143は、電動弁100の中心軸CLに対して、がたつきなく配置され、回転ストッパばね143のばねの弾性力により、回転駆動されたロータ141が可動ストッパ部材144を介して所定の位置まで滑らかに戻されることとなる。
【0047】
外装部150は、ケース151と、ロータ支持部材152と、筒状部材153とを備える。
【0048】
ケース151は、例えばステンレス鋼板などの非磁性体の金属を、プレス加工等によりカップ形状に加工して形成される。ケース151の円形状の下端部は、弁本体111の円形状の上端部と、TIG溶接、プラズマ溶接あるいはレーザ溶接等により全周を突合わせ溶接することにより気密固定される。また、ケース151には、後述するロータ支持部材152の傘状部分152aに形成された係合凹部152cに係合するための、ディンプル151aが形成される。
【0049】
ロータ支持部材152は、ステンレス鋼板などにより、プレス加工等により形成され、ケース151に接触して固定される傘状部分152aと、傘状部分152aの中央から下側に延びる円筒部分152bとから構成される。傘状部分152aには、係合凹部152cが形成され、この係合凹部152cとケース151のディンプル151aとの係合により、ロータ支持部材152は、ケース151の所定の取付位置に回転不能に固定される。
【0050】
筒状部材153は、金属あるいは合成樹脂であって、潤滑性の高い素材により形成され、ロータ支持部材152の円筒部分152bの内部に配置され、ロータ軸131の上端部を回転可能に保持している。
【0051】
このように構成された本発明の電動弁100の動作について説明する。
【0052】
図3(a)は、
図1に示す電動弁100の弁閉状態の要部の構成を示す部分断面図であり、
図3(b)は、
図1に示す電動弁100のニードルが弁座から離座する際の要部の構成を示す部分断面図であり、
図3(c)は、
図3(b)に示すIIIc部分を拡大して示す部分断面図である。
【0053】
本発明の電動弁100を駆動する場合には、まずステータに駆動パルス信号を与え、これにより、パルス数に応じてロータ141が回転し、これに伴いロータ軸131が回転し、ロータ軸131の雄ねじ部131aと、ガイド部材132の雌ねじ部132bとのねじ係合により、ロータ軸131が回転しつつ中心軸CLに沿って移動する。
【0054】
電動弁100を弁閉状態にする場合には、ロータ軸131を下側に移動させる必要がある。ニードル121が弁座112に当接した後、さらにロータ軸131が下側に移動すると、
図3(a)に示すようにばね受け123を介して、弁ばね122が縮み、ニードル121が、弁ばね122の反力による荷重で弁座112に押圧され、電動弁100は、確実な弁閉状態に制御される。
【0055】
このとき、ニードル121は、ばね受け123、弁ばね122を介して、弁座112に押圧されるため着座面の摩擦抵抗が、ロータ軸121と高滑性のばね受け123間の摩擦抵抗より大きくなり、回転するロータ軸131はばね受け112との間で滑り摺動するため、ニードルケース125及びニードル121への回転の伝達は抑制される。これにより、ニードル121と弁ポート112aとの磨耗が抑制される。また、ロータ軸131が押し込まれるため、ロータ軸131のフランジ部131bと共にワッシャ124が下降するので、ワッシャ124の上面がニードルケース125の縮径部125aの下端面と非接触となり、ニードルケース125の回転も停止する。
【0056】
続いて、電動弁100を上記の
図3(a)の弁閉状態から、弁開状態に戻す場合には、ロータ軸131を逆回転させて上側に移動させる。
図3(a)から
図3(b)の状態になるまでは、ロータ軸131の上昇に伴い弁ばね122はばね受け123を介して伸長する。このとき、ニードル弁121が弁座112に当接状態を保持している。更にロータ軸131が上側に移動すると、
図3(b)のようにロータ軸131のフランジ部131bがワッシャ124を介して、ニードルケース125の縮径部125a内平面に接触し、回転しながらニードルケース125を吊り上げる。ニードルケース125が吊り上げられると、これに固定されたニードル121も上側に移動し、ニードル121と弁座112の弁ポート112aが非接触となり、電動弁100は、弁開状態に制御される。
【0057】
このとき、ニードルケース125及びニードル121は、高滑性のワッシャ124を介して、ロータ軸131に駆動されるため、ロータ軸131の回転がニードルケース125及びニードル121に伝達することは抑制される。これにより、ニードル121と弁ポート112aとの磨耗が抑制される。
【0058】
また、ニードルケース125とロータ軸131のフランジ部131bとの間、ニードルケース125の縮径部125aとロータ軸131との間は、回転可能となり、作動性が高まるように、隙間を有して形成されている。このため、
図3(b)に示すように、ニードルケース125が吊り上げられるときに、ロータ軸131のフランジ部131b、及び、ワッシャ124が偏ってニードルケース125の縮径部125aに接触する可能性がある。
【0059】
一方で、ニードルケース125の縮径部125aは、プレス加工や切削加工等で形成されるが、縮径部125aの直角に屈曲された屈曲部の内側に加工時の公差などにより0.1mm〜0.3mm程度の隅R部が生じる可能性があり、これを完全に取り除くには、放電加工を行う等、別の手段が必要となり、コストの面からも困難となっている。
【0060】
図6(d)に示すように、従来の電動弁1000では、このように隅R部1025rが生じた場合、ワッシャ1024が乗り上げたり、干渉したりする可能性があり、ワッシャ1024が水平に保たれなくなることとなっていた。これにより、これに係合するニードルケース1025が傾斜し、ニードルケース1025の外周と図示を省略したガイド部材のガイド室の内周とが当たり、不要な摩擦力が生じたり、ロータ軸1031の回転に合わせて回転するニードルケース1025及びニードルが傾斜して、作動性を阻害するおそれがあった。また、更に、ニードルケース1025が傾斜すると、これに固定されたニードルが傾斜することとなり、着座部分にかかる荷重が偏り、ニードルや着座部分が偏って磨耗する可能性も生じていた。
【0061】
本発明の電動弁では、このような従来の課題を解決するために、隅R逃げ構造が形成される。本実施形態の電動弁100では、
図2(b)及び
図3(c)に示すように、隅R逃げ構造として、ニードルケース125の縮径部125aの屈曲部に形成された、中心軸CL方向の逃がし溝125R1が形成されたものとする。なお、中心軸CL方向の逃がし溝125R1は、プレス加工、または、切削加工などにより形成可能である。
【0062】
ここで
図5(a)を使用して、
図2(b)に示した電動弁100の隅R逃げ構造の効果を説明する。
図5(a)は、
図2(b)に示す電動弁100の隅R逃げ構造の効果を説明する説明図である。
【0063】
上述したように、縮径部125aの直角に屈曲された屈曲部の内側に生じる隅R部は、加工時の公差などにより生じ、その半径rは0.1mm〜0.3mm程度となる。一方、
図5(a)に示す電動弁100には、中心軸CL方向の逃がし溝125R1が形成されており、その縮径部125aの内平面からの深さはH1となっている。ここで、
図5(a)から明らかなように、隅R部の半径rより溝の深さH1が深ければ、ワッシャ124と隅R部との干渉や、乗り上げがなくなることがわかる。
【0064】
このように、中心軸CL方向の逃がし溝125R1を形成することにより、隅R部が生じた場合でもワッシャ124を水平に保つことができ、これにより、これに係合するニードルケース125、及び、ニードル121の傾斜を抑制し、ニードルケース125の回転時の作動性を高く保ち、また、ニードル121と弁ポート112aと偏った磨耗を抑制し、耐久性を高く保つことができる。
【0065】
次に本発明の電動弁100の変形例を説明する。
【0066】
図4(a)は、本発明の隅R逃げ構造の別の例200を示す部分断面図であり、
図4(b)は、本発明の隅R逃げ構造のさらに別の例300を示す部分断面図であり、
図4(c)は、本発明の隅R逃げ構造のさらに別の例400を示す部分断面図である。
【0067】
本発明の隅R逃げ構造として、
図4(a)に示すように、ニードルケース225の縮径部225aの屈曲部に形成された、外径方向の逃がし溝225R2が形成されるものとしてもよい。なお、外径方向の逃がし溝225R2は、プレス加工、または、切削加工などにより形成可能である。
【0068】
ここで
図5(b)を使用して、
図4(a)に示した電動弁200の隅R逃げ構造の効果を説明する。
図5(b)は、
図4(a)に示す電動弁200の隅R逃げ構造の効果を説明する説明図である。
【0069】
図5(b)に示す電動弁200には、外径方向の逃がし溝225R2が形成されており、そのニードルケース225の円筒内周面からの深さはH2となっている。ここで、
図5(b)から明らかなように、隅R部の半径rより溝の深さH2が深ければ、ワッシャ224と隅Rとの干渉や、乗り上げがなくなることがわかる。このように、隅R逃げ構造の深さが、隅R部の半径rより大きければ、本発明の作用効果が得られることがわかる。
【0070】
このように、隅R逃げ構造として、外径方向の逃がし溝225R2が形成されるものとしても、
図1乃至
図3(c)に示す中心軸CL方向の逃がし溝125R1と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
また、本発明の隅R逃げ構造として、
図4(b)に示すように、ニードルケース325の縮径部325aの屈曲部の隅R部に対向する、ワッシャ324の角に形成された面取り部324R3が形成されるものとしてもよい。なお、面取り部324R3は、切削加工などにより形成可能である。
【0072】
また、本発明の隅R逃げ構造として、
図4(c)に示すように、ニードルケース425の縮径部425aの屈曲部の隅R部に対向する、ワッシャ424の角に形成された段部424R4が形成されるものとしてもよい。なお、段部424R4は、切削加工などにより形成可能である。
【0073】
このように、隅R逃げ構造として、
図4(b)、及び、
図4(c)に示すように、ワッシャの角に、面取り部324R3、または、段部424R4が形成されるものとしても、
図1乃至
図3(c)に示す中心軸CL方向の逃がし溝125R1と同様の作用効果を得ることができる。
【0074】
以上説明したように、本発明の電動弁によれば、ニードルに固定されるニードルケースの内部に、ロータ軸によるニードルの回転を抑制するワッシャを備える電動弁において、ニードルケースの加工時に生じる隅R部にワッシャが乗り上げたり、または、干渉したりすることを防止することにより、ニードルケース及びニードルの傾斜を抑制し、ニードルケースの回転時の作動性を高く保ち、また、ニードルと着座部分との偏った磨耗を抑制し、耐久性を高く保つことができる。