【解決手段】ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルムであって、60℃の水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下である、ポリビニルアルコールフィルム。
前記ポリビニルアルコールフィルムを染色する工程と、前記ポリビニルアルコールフィルムを延伸する工程と、染色した前記ポリビニルアルコールフィルムに対して固定処理を行う工程とを備える、請求項6に記載の偏光フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
[PVAフィルム]
本発明のPVAフィルムは、60℃の水に2時間浸漬した後のPVAフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定(以下、「特定条件下でのパルスNMR測定」ともいう)した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムである。
なお、0.10ミリ秒時点のNMR信号強度とは、パルスNMRの測定開始から、0.10ミリ秒経過した時点でのNMR信号強度を意味する。測定試料を作製するための水としては、重水を用いる。重水を用いると、測定試料を作製した後、そのままパルスNMR測定が可能であるため、測定時の操作性に優れる。
【0010】
一般的に、PVAフィルムは、パルスNMRにより測定すると、1Hのスピン−スピン緩和の自由誘導減衰曲線が得られる。該自由誘導減衰曲線は、
図1に示すように、縦軸をNMR信号強度、横軸を時間をとし、NMR信号強度が測定開始時の初期強度から時間と共に減衰していくことを示す曲線である。なお、横軸の時間は、測定開始からの時間の経過を表し、緩和時間ともいう。
一般に、パルスNMR測定において、NMR信号強度の減衰の度合いが大きいと、PVAフィルム中に、分子運動性が低く、硬い成分が多く存在することを意味する。一方、NMR信号強度の減衰の度合いが小さいと、PVAフィルム中に、分子運動性が高く、柔らかい成分が多く存在することを意味する。
【0011】
本発明のPVAフィルムは、特定条件下でのパルスNMR測定において、0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムである。すなわち、本発明のPVAフィルムは、高湿度下に置いた後であっても、NMR信号強度が一定時間内に大きく減衰するものであり、このことはPVAフィルム内に分子運動性が低く、硬い成分が比較的多く存在することを意味する。特定条件下のパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%を越える場合は、得られる偏光フィルムの高湿度下における偏光性能が低下しやすくなる。
【0012】
偏光性能を良好にしつつ、高湿度下における偏光性能がより良好な偏光フィルムを得る観点から、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の78%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。
また、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の50%以上であることが好ましい。50%以上であると、PVAフィルムが硬くなりすぎず、偏光フィルムを製造する際に延伸等する場合に破断し難くなる。
なお、本発明のPVAフィルムを用いることで、高湿度下においてより偏光性能が低下し難い偏光フィルムを得られる理由は定かではないが、結晶成分などの比較的硬い成分が一定量存在することにより、高湿度下でも構造が維持され、偏光フィルムを製造する際に用いるヨウ素などの染料がPVAフィルム内に保持されやすいためと推察される。
【0013】
なお、本発明では、パルスNMR測定において、含水率が変化することによる評価結果のずれを抑制するため、PVAフィルムを23℃、50%RHの恒温室で48時間養生した後、特定条件の下、パルスNMR測定する。
また、PVAフィルムは、単体で養生すると端部の湾曲が発生することがある。湾曲が発生すると、フィルムを短冊状にカットして測定用のNMR管に導入する際、サンプルの均一性が大きく損なわれ、磁場の不均一性による見かけの緩和時間の減少による誤差の発生や測定領域の導入量が少なくなるという問題がある。その問題を回避するため、PVAフィルムは、特定のUV剥離テープ(積水化学工業株式会社製、商品名「SELFA−SE」)で固定したうえで養生する。特定のUV剥離テープに固定したうえで養生することで、高い固定性と低糊残り性及び易剥離性が得られ、評価結果のバラつきを抑えることができる。
PVAフィルムとUV剥離テープの固定は、ラミネーターを用いて行うことができる。この際、ラミネーターロールへのPVAフィルム及びUV剥離テープの貼り付きや巻き込みによる破損を防止するため、PVAフィルム及びUV剥離テープを厚み1ミリ以下のSUS板、ボール紙などの硬い基板と、基材に挟みこんでラミネートするとよい。基材としては、PVAフィルム及びUV剥離テープに貼りつかない剥離フィルムなどを用いる。また、固定の際、皺および湾曲を低減する目的のため、UV剥離テープのロールの幅方向とPVAフィルムの長手方向とが垂直になるように貼り合わせる。なお、PVAフィルムの長手方向は、PVAフィルムをNMR管へ導入する際に短冊状にカットするときのカット方向(短冊状のフィルムの長手方向)と同じ方向である。
養生後に皺が発生した場合はUV剥離テープを照射工程を経てはがした後、一度ラミネーターでPVAフィルムの皺を伸ばし、再度新しいSELFA−SEを用いて貼りあわせて固定し、上記の養生工程を行い、皺がなくなるまでこの操作を繰り返すことで本評価を実施することができる。
パルスNMRの測定方法の詳細は、実施例で説明する。
【0014】
(PVA系重合体)
本発明のPVAフィルムは、ビニルアルコール系重合体(「PVA系重合体」ともいう)を含む。PVA系重合体は、ビニルエステルを重合し、得られたポリマーをけん化、すなわち加水分解することにより得られる。本発明に用いるPVA系重合体のけん化度は、99モル%以上であることが好ましい。
けん化度を99モル%以上とすると、PVAフィルムの強度が高くなり、また、偏光フィルムを製造する工程において使用される染色溶液、固定処理液などにPVAフィルムが溶けにくくなり、偏光性能の高い偏光フィルムを得やすくなる。
これら観点からけん化度は、99.2モル%以上が好ましく、99.4モル%以上が好ましい。また、けん化度は、100モル%以下であればよいが、PVAフィルムの取り扱い性の観点から99.9モル%以下がより好ましく、99.7モル%以下がさらに好ましい。
けん化度の調整方法は特に限定されないが、けん化、すなわち加水分解条件により適宜調整することができる。なお、けん化度とは、JIS K 6726に準拠して測定することにより得られた値である。なお、PVAフィルムは、例えばメタノールでのソックスレー抽出を複数サイクル(例えば、100サイクル)行うことで、可塑剤等を洗浄することでPVA系重合体のけん化度を測定できる。
【0015】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ絡酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを用いることができる。これらの中では酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
PVA系重合体は、未変性PVAであってもよいし、変性PVAであってもよいが、未変性PVAが好ましい。変性PVAでは、上記したビニルエステルを重合して得られるポリマーを、ビニルエステルと他のモノマーとの共重合体とするとよい。ここで使用する他のモノマー、すなわち共重合されるコモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテンなどのオレフィン類、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩などの(メタ)アクリルアミド誘導体、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルアミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類、酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物、マレイン酸及びその塩またはそのエステル、イタコン酸及びその塩またはそのエステル、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロピニルなどが挙げられる。これらコモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらコモノマーを共重合し、変性PVAとする場合、変性量は15モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下である。
【0017】
本発明において、PVA系重合体の重合度は、好ましくは1500以上4000以下である。重合度が上記範囲内であると、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の75%以下となるPVAフィルムを得やすくなる。また、下限値以上とすることで、偏光フィルムを製造する工程において使用される染色溶液、固定処理液などにPVAフィルムが溶けにくくなり、偏光性能の高い偏光フィルムを得やすくなる。また、上限値以下とすることで、PVAの溶媒に対する溶解性が高くなり、成膜しやすくなる。
PVA系重合体の重合度は、上記した観点から、より好ましくは2300以上、さらに好ましくは2500以上であり、また、より好ましくは3500以下、さらに好ましくは3000以下である。なお、PVA系重合体の重合度は、JIS K 6726に準拠して測定できる。なお、PVAフィルムは、例えばメタノールでのソックスレー抽出を複数サイクル(例えば、100サイクル)行うことで、可塑剤等を洗浄することでPVA系重合体の重合度を測定できる。
【0018】
PVAフィルムにおけるPVA系重合体の含有量は、PVAフィルム全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上である。PVA系重合体の含有量をこれら下限値以上とすることで、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムを得やすくなる。
また、PVAフィルムにおけるPVA系重合体の含有量は、100質量%以下であればよいが、一定量以上の可塑剤を含有させるために、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0019】
PVAフィルムは、上記PVA系重合体以外の成分を含有してもよく、可塑剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤などの添加剤を含有してもよく、好ましくは可塑剤を含有する。
【0020】
(可塑剤)
可塑剤としては、多価アルコールが好適に用いられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。ここで、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールとしては、平均分子量200以上600以下、好ましくは平均分子量250以上500以下のものを使用できる。
【0021】
可塑剤として使用される多価アルコールは1種のみが添加されてもよく、2種以上が添加されてもよい。上記した中では、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールが好ましく、グリセリン、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパンがより好ましく、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0022】
PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して1質量部以上25質量部以下が好ましい。下限値以上とすることで、染色性や延伸性が良好となる。一方で、上限値以下とすることで、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムを得やすくなり、また、PVAフィルムが柔軟になりすぎることを防止し、例えば、染色や延伸時の取扱い性が低下することを防止する。
可塑剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは6質量部以上であり、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは16質量部以下である。
【0023】
また、界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。PVAフィルムにおける界面活性剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して、例えば0.1質量部以上1質量部以下である。
防腐剤としては、イソチアゾロン化合物、グルタルアルデヒド及び第四級アンモニウム化合物等が挙げられる。PVAフィルムにおける防腐剤の配合量は、PVA系重合体100質量部に対して、例えば0.1質量部以上1質量部以下である。
【0024】
PVAフィルムの厚さは、特に限定されないが、延伸した後において、偏光フィルムとして適切な厚さとなるように、例えば、5μm以上200μm以下、好ましくは10μm以上40μm以下である。厚みの測定は、特に限定されないが、ミツトヨ社製マイクロメーター「MDH-25M」で測定範囲の平均値を取ることで測定できる。
本発明のPVAフィルムは、様々な用途に使用可能であるが、後述するように、偏光フィルム用であることが好ましい。
【0025】
[PVAフィルムの製造方法]
本発明のPVAフィルムは、上記PVA系重合体を、又は上記PVA系重合体に可塑剤などの添加剤を加えたPVA組成物を、成膜することで得ることができる。PVAフィルムは、より具体的には、PVA系重合体又はPVA組成物を溶媒により希釈して得たPVA溶液を、支持体上に塗布などして、乾燥することで得ることができる。
【0026】
ここで使用する溶媒としては、PVA系重合体を溶解し得る限り特に限定されない。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げられる。また、上記した可塑剤として使用される多価アルコールを溶媒として使用してもよい。これら溶媒は、1種単独で用いてもよいし、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記PVA溶液におけるPVA系重合体の濃度は、特に限定されないが、3質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、7質量%以上20質量%以下である。また、下限値以上とすることで、乾燥時間が必要以上に長くなることを防止できる。さらに、上記濃度を上限値以下とすることで、溶液を塗布、流延などしやすくなる。
【0028】
また、溶媒としては、上記した中では、水を使用することが好ましい。水の使用量は、PVA系重合体に対して、質量基準で、好ましくは1.1倍以上30倍以下、より好ましくは、4倍以上15倍以下である。
【0029】
上記PVA溶液は、PVA系重合体、及び必要に応じて使用される可塑剤などの添加剤を溶媒に配合して加熱させ、その加熱環境下で、一定時間保持することで作製する。作製されたPVA溶液中には、PVA系重合体、及び適宜配合された可塑剤などの添加剤が溶解する。
ここで、加熱された溶液の温度は、溶媒の沸点未満の温度であればよく、例えば、80℃以上100℃未満が好ましく、90℃以上97℃以下が好ましい。また、これら温度にPVA溶液が保持される時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは1時間30分以上であり、また、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間30分以下である。
【0030】
PVA溶液は、上記のように所定温度で一定時間保持した後冷却される。冷却する際の降温速度は、好ましくは1.5℃/分以上5℃/分以下、より好ましくは2.5℃/分以上3.5℃/分以下である。PVA溶液は、例えば、20℃以上50℃以下まで、好ましくは30℃以上40℃以下まで冷却する。
本発明においては、所定の温度でPVA溶液を一定時間保持することで、PVA系重合体、又はPVA系重合体及び可塑剤が溶媒中に適切に溶解される。そして、その溶液を上記のように比較的速い降温速度で冷却する。このような降温速度条件とし、かつ後述する乾燥条件を採用すると、PVA系重合体が、高湿度下でも構造を維持しやすい特異な結晶構造を形成しやすいと推定される。その結果、高湿度下であっても偏光性能が低下し難い偏光フィルムが得られると考えられる。また、上記した結晶の生成に基づき、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下になると考えられる。
【0031】
上記の温度まで冷却されたPVA溶液は、支持体上に塗布する。PVA溶液の支持体への塗布は、公知の塗布方法で行えばよく、流延などで行ってもよい。支持体としては、塗布されたPVA溶液を表面に維持し、かつ成膜により得られたPVAフィルムを支持し得る限り特に限定されない。このような支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂などの樹脂フィルムでもよいし、ガラス板、金属板などの樹脂フィルム以外の支持体でもよい。
【0032】
支持体の上に塗布されたPVA溶液は、加熱乾燥されることで成膜され、PVAフィルムが得られる。加熱乾燥は、例えば、80℃以上100℃以下の温度で、1時間以上3時間以下行い、好ましくは85℃以上95℃以下の温度で1時間30分以上2時間30分間以下行うとよい。このような乾燥条件でPVAフィルムを成膜することで、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムを得やすくなる。支持体上に成膜されたPVAフィルムは、適宜支持体から剥離されるとよい。
【0033】
PVAフィルムにおいては、PVAフィルムの原料を調整することで、具体的には、PVA系重合体のけん化度、重合度、可塑剤の配合の有無、可塑剤の配合量、可塑剤の種類などを調整することで、本発明のPVAフィルムが得やすくなる。本製造方法は、これらPVAフィルムの原料に加えて、製造条件も調整することで、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムを得やすくするものである。具体的には、PVA溶液を、上記したように比較的高い温度で一定時間保持した後、比較的速い降温速度で冷却して塗布し、さらに、塗布後に、比較的高温かつ長時間の乾燥条件で乾燥させて、PVAフィルムを得ることで、特定条件下でのパルスNMR測定値を所定のものとすることができる。
【0034】
[偏光フィルムの製造]
本発明の偏光フィルムの製造方法は、上記したPVAフィルムを用いて偏光フィルムを製造する方法である。具体的には、上記PVAフィルムを染色する染色工程と、PVAフィルムを延伸する延伸工程と、染色したPVAフィルムに対して固定処理を行う固定処理工程とを備える。
本製造方法では、PVAフィルムの延伸は、PVAフィルムを染色した後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよいし、染色する前に行ってもよいが、染色しながら行うことが好ましい。また、固定処理は、染色後に行う処理であるが、延伸と同時に行ってもよいし、延伸した後に行ってもよいが、延伸した後に行うことが好ましい。
【0035】
(染色工程)
PVAフィルムの染色は、染料を用いて行うとよい。染料としては、ヨウ素とヨウカリウムの混合物、ダイレクトブラック17,19,154、ダイレクトブラウン44,106,195,210,223、ダイレクトレッド2,23,28,31,37,39,79,81,210,242,247、ダイレクトブルー1,15,22,78,90,08,151,158,202,236,249,270、ダイレクトバイオレット9,12,51,98、ダイレクトグリーン1,85、ダイレクトイエロー8,12,44,86,87、ダイレクトオレンジ26,39,106,107などの二色性染料を用いることができる。上記染料は1種のみを用いてもよく、2種以上の染料を併用してもよい。
【0036】
染色は、上記染料を含有する染料溶液中にPVAフィルムを浸漬する方法、PVAフィルムに染料溶液を塗工する方法などにより行うとよいが、染料溶液に浸漬させる方法が好ましい。また、染料溶液において、染料を希釈させる溶媒は、染料を溶解できればよいが、水であることが好ましい。染料溶液における染料の濃度は、例えば0.5質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
染色は、上記PVAの製造方法において支持体上に形成されたPVAフィルムを、支持体から剥離してから行うことが好ましいが、支持体上に形成されたPVAフィルムに対して、剥離せずにそのまま行ってもよい。
【0037】
(延伸工程)
PVAフィルムの延伸は、PVAフィルムを一軸延伸することにより行う。一軸延伸の方法は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれあってもよいが、湿式延伸法が好ましい。
湿式延伸法は、温水中で延伸を行う方法であり、上記した染料溶液中で染色しながら行ってもよいし、後述する固定処理液中で固定処理しながら行ってもよいが、染色溶液中で行うことが好ましい。乾熱延伸法は、空気中で輻射加熱、熱風加熱、熱板加熱、ロール加熱などにより加熱しなら延伸する方法である。
本発明のPVAフィルムは、湿式延伸法を適用しても、皺及び合着が生じ難く、生産性が良好となる。
【0038】
PVAフィルムの延伸は、染色と同様に、上記PVAの製造方法において支持体上に形成されたPVAフィルムを、支持体から剥離してPVAフィルム単体に対して行うことが好ましい。ただし、延伸は、支持体が樹脂フィルムである場合には、PVAフィルムを支持体から剥離せずに、支持体とPVAの積層体に対して行ってもよい。
延伸するときのPVAフィルムの温度(延伸温度)は、延伸方式などにより異なるが、例えば20℃以上180℃以下で行うとよい。
中でも、PVAフィルム単体を、湿式延伸する場合には、例えば20℃以上80℃以下の温度で行うことが好ましい。また、PVAフィルム単体を乾熱延伸する場合は、例えば50℃以上180℃以下の範囲の温度で行うとよい。一方で、樹脂フィルムからなる支持体に支持された状態で(すなわち、支持体とPVAフィルムの積層体を)延伸する場合、樹脂フィルムが延伸される温度以上であり、かつ、支持体の劣化や分解が起こらない温度以下で行うとよい。
【0039】
PVAフィルムの延伸倍率は、4倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。延伸倍率を高めることにより、偏光フィルムの偏光性能を高めることができる。
PVAフィルムの延伸倍率は、8倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましい。これら上限値以下とすることで、PVAフィルムを破断することなく、均一に延伸することができる。
【0040】
(固定処理工程)
偏光フィルムの製造においては、PVAフィルムを染色した後に、染料をPVAフィルムに確実に固定化するための固定処理を行う。固定処理は、公知の方法で行うとよく、例えば、ホウ酸及びホウ素化合物の少なくとも1種を含有する固定処理液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うとよい。固定処理液は、ホウ酸及びホウ素化合物の少なくとも1種を水に溶解した溶液などが挙げられる。固定処理液において、ホウ酸及びホウ素化合物の合計量の濃度は、例えば、0.5質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
固定処理における固定処理液の温度は、特に限定されず、例えば、20〜90℃である。固定処理は、染色後に延伸と同時に行ってもよいし、延伸後に行ってもよいが、延伸後に行うことが好ましい。
【0041】
本製造方法では、上記のように染色、延伸、及び固定処理を行うことで偏光フィルムが得られるが、染色、延伸、及び固定処理後、PVAフィルムを乾燥するとよい。また、乾燥する前にPVAフィルムは、必要に応じて水洗するとよい。乾燥は、自然乾燥により行ってもよいが、乾燥速度を高めるには、加熱乾燥してもよい。
【0042】
本発明の偏光フィルムは、例えば、偏光フィルムの両面または片面に保護膜を積層し偏光板として使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TEC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CEB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを用いることができる。保護膜を偏光フィルムに貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを用いることができるが、PVA系接着剤が好ましい。また、偏光フィルムは、各種用途に使用でき、例えば液晶表示装置用途などに使用可能である。
【0043】
本発明のPVAフィルムは、特定条件下でのパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下であることで、得られる偏光フィルムの偏光性能が良好で、かつ高湿度下での偏光性能の低下が少ない。
【実施例】
【0044】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0045】
本実施例における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)パルスNMR
実施例、比較例で得られたPVAフィルムのフィルムサンプルは、ラミネーター(ラミーコーポレーション製のラミネーターHOTDOG Leon13DX)を用いて、設定温度を60℃、速度5に設定して、UV剥離テープ(積水化学工業株式会社製、商品名「SELFA−SE」)に貼りあわせて固定した。該固定したPVAフィルムを23℃、50%RHの恒温室で48時間養生した。ラミネーターによるPVAフィルムとUV剥離テープとの固定は、両者を厚み1ミリ以下のSUS板と厚み50μmの離形処理PETフィルムで挟んで実施した。
なお、固定の際、UV剥離テープのロールの幅方向とPVAフィルムの長手方向とが垂直になるように貼り合わせた。なお、PVAフィルムの長手方向は、PVAフィルムをNMR管へ導入する際に短冊状にカットするときのカット方向(短冊状のフィルムの長手方向)と同じ方向である。
固定したフィルムサンプルをUV照射装置「株式会社オーク製作所製、装置型式:JL−4300−3、ランプ型式:IML−4000」を用いて照射面でのエネルギーが1000mJ/cm
2になるように波長365nmの紫外線を照射することで、UV剥離テープをフィルムサンプルから剥離させた。
なお、含水量の低いフィルムサンプルは、UV剥離テープで固定して養生すると、皺が寄ることがある。養生後に皺が発生した場合は一度UV剥離テープを照射工程を経てはがした後、一度ラミネーターでPVAフィルムの皺を伸ばし、再度新しいSELFA−SEを用いて貼りあわせて固定し、上記の養生工程を行い、皺がなくなるまでこの操作を繰り返せばよい。
【0046】
UV剥離テープから剥離した養生後のPVAフィルムを長さ15mmの短冊状にカットした。そのフィルムサンプルを直径10mmのガラス製のサンプル管(BRUKER製、品番1824511、10mm径長さ180mm、フラットボトム)に垂直に充填した。測定は以下のとおり行った。サンプル約300mgに60℃に加温した重水(Deuteerium oxide 99.9 atom %D)を2mL加え、60℃に設定したテンパリングユニット(BRUKER製「サンプルオートメーション」に付随した恒温槽)内で2時間加温した。その後、サンプル管をパルスNMR装置(BRUKER製、「the minispec mq20」)に設置した。測定は60℃でSolid Echo法で行った。
得られた自由誘導減衰曲線の0.10ミリ秒時点のNMR信号強度の初期強度に対する比率を評価した。
<Solid Echo法>
Scans:128times
Recycle Deray:1sec
Acquisition scale:1ms
【0047】
(2)偏光度の測定
各実施例、比較例で得られた偏光フィルムの偏光度Pを、株式会社島津製作所製の分光光度計「UV−3101PC」を用いて下記式にて評価した。YP(パラレル透過率)及びYC(クロス透過率)は、フィルムの伸長方向に平行及び垂直に互いに重ね合わせたフィルムの透過率である。
偏光度P(%)={(YP−YC)/(YP+YC)}
1/2×100
[偏光度の判定基準]
A:偏光度が99以上
B:偏光度が90以上、99未満
C:偏光度が90未満
【0048】
(3)偏光度の耐久性
各実施例、比較例で得られた偏光フィルムを温度50℃、湿度80RH%のチャンバ内に72時間置いた後に、該フィルムの偏光度P’を上記偏光度Pと同様の方法で求めた。下記の偏光度の変化率に基づいて偏光度の耐久性を評価した。
[偏光度の耐久性]
A(耐久性良い):100×(偏光度P−偏光度P’)/偏光度Pが0%以上50%未満
B(耐久性悪い):100×(偏光度P−偏光度P’)/偏光度Pが50%以上
【0049】
(合成例1)
[PVA1(けん化度99.5モル%、重合度2700)]
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー2000質量部及びメタノール200質量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4質量部を添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、重合率は29%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50質量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.08mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。得られた固形分を粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することによりPVA1を得た。得られたPVA1をJIS K6726に準拠してけん化度及び重合度を測定したところ、99.5モル%および2700であった。
【0050】
(合成例2)
[PVA2(けん化度98.5モル%、重合度1200)]
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー2000質量部及びメタノール200質量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.65質量部を添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、重合率は35%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50質量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.07mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。得られた固形分を粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することによりPVA2を得た。得られたPVA2をJIS K6726に準拠してけん化度及び重合度を測定したところ、99.5モル%および1700であった。
【0051】
(実施例1)
(PVAフィルムの製造)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に25℃で水1000質量部投入し攪拌しながらPVA1を100質量部、分子量400のポリプロピレングリコール10質量部を投入し、混合液を95℃まで昇温し、95℃で2時間維持して、PVA1とポリプロピレングリコールを水に溶解させた。その後、3℃/分の降温速度で混合液(PVA溶液)を、35℃まで冷却した。35℃に冷却したPVA溶液を厚み7mmのガラス板上に塗布し、90℃で2時間乾燥させた後、ガラス板から剥離し厚さが30μmのPVAフィルムを得た。得られたフィルムを10g切り出し、メタノールでのソックスレー抽出を100サイクル行った後、得られた樹脂をJIS K6726に準拠してけん化度及び重合度を測定したところ、99.5モル%および2700であった。
【0052】
(偏光フィルムの製造)
次に、得られたPVAフィルムを、25℃にて60秒間、ヨウ素(I
2)及びヨウ化カリウム(KI)を溶解した水溶液中に浸漬しつつ延伸倍率5倍で延伸した。水溶液においてヨウ素、ヨウ化カリウム及び水はそれぞれ、0.4質量部、40質量部及び1000質量部であった。その後、PVAフィルムを、25℃で5分間、濃度4.0質量%のホウ酸水溶液に浸漬し、水溶液から引き上げた後、水洗をし、次いで、70℃設定のオーブンで乾燥を行い、偏光フィルムを得た。
【0053】
(実施例2)
(PVAフィルムの製造)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に25℃で水1000質量部投入し攪拌しながらPVA1を100質量部、グリセリン8質量部を投入し、混合液を95℃まで昇温し、95℃で2時間維持して、PVA1とグリセリンを水に溶解させた。その後、3℃/分の降温速度で混合液(PVA溶液)を35℃まで冷却した。35℃に冷却したPVA溶液を厚みに7mmのガラス板上に塗布し、90℃で2時間乾燥させた後、ガラス板から剥離し厚さが30μmのPVAフィルムを得た。
(偏光フィルムの製造)
次に、得られたフィルムを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを製造した。
【0054】
(比較例1)
(PVAフィルムの製造)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に25℃で水1000質量部投入し攪拌しながらPVA2を100質量部、分子量400のポリプロピレングリコール30質量部を投入し、混合液を95℃まで昇温し、95℃で2時間維持して、PVA2を水に溶解させた。その後、1℃/分の降温速度で混合液(PVA溶液)を、35℃まで冷却した。35℃に冷却したPVA溶液を厚み7mmのガラス板上に塗布し、80℃で1時間乾燥させた後、ガラス板から剥離し厚さが30μmのPVAフィルムを得た。 得られたフィルムを10g切り出し、メタノールでのソックスレー抽出を100サイクル行った後、得られた樹脂をJIS K6726に準拠してけん化度及び重合度を測定したところ、99.5モル%および1700であった。
(偏光フィルムの製造)
次に、得られたフィルムを用いて実施例1と同様に偏光フィルムを製造した。
【0055】
【表1】
【0056】
以上の実施例に示すように、本発明の要件を満足するPVAフィルムを用いて製造した偏光フィルムは偏光性能及び偏光耐久性が優れたものとなった。
前記ポリビニルアルコールフィルムを染色する工程と、前記ポリビニルアルコールフィルムを延伸する工程と、染色した前記ポリビニルアルコールフィルムに対して固定処理を行う工程とを備える、請求項6に記載の偏光フィルムの製造方法。
前記ポリビニルアルコールフィルムを染色する工程と、前記ポリビニルアルコールフィルムを延伸する工程と、染色した前記ポリビニルアルコールフィルムに対して固定処理を行う工程とを備える、請求項5に記載の偏光フィルムの製造方法。