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特開2019-185494ICタグの取り付け方法及びICタグ内蔵金属体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-185494(P2019-185494A)
(43)【公開日】2019年10月24日
(54)【発明の名称】ICタグの取り付け方法及びICタグ内蔵金属体
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20190927BHJP
   A61B 90/98 20160101ALI20190927BHJP
   A61B 17/28 20060101ALI20190927BHJP
【FI】
   G06K19/077 248
   A61B90/98
   A61B17/28
   G06K19/077 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-77187(P2018-77187)
(22)【出願日】2018年4月12日
(71)【出願人】
【識別番号】517387993
【氏名又は名称】株式会社トータルITシステムジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】000206141
【氏名又は名称】大成プラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 光信
(72)【発明者】
【氏名】成富 正徳
(72)【発明者】
【氏名】外門 功
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160GG05
4C160GG28
4C160GG40
4C160MM32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ICタグとリーダーとの通信が向上したICタグの取り付け方法、及びリーダーがICタグに記憶されている情報を好適に読み込み/書き込むことが出来るICタグ内蔵金属体を提供する。
【解決手段】個体識別管理対象である鉗子1に対しICタグ2を収納するための凹部4を形成し、凹部4の底部及び側部の内周面にレーザー光を照射して粗面を形成する。その粗面に接着剤を塗布し接着剤の下地を形成し、ICタグ2をその下地に載置してICタグ2全体を接着剤によって被覆・封止する。凹部4はその上部と1乃至3つの側部が開口しており、その開口側部は、ICタグ2を接着剤によって被覆・封止するとき、接着剤で充填される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体識別管理対象である金属体に凹部が形成され、前記凹部にICタグが接着剤によって全体を被覆されて、前記凹部に埋め込まれ又は封止されているICタグ内蔵金属体において、
前記凹部(4)は、底部及び少なくとも1つの側部が前記金属体の金属面からなり、
前記ICタグ(2)が後記開口から電磁波を送受信するために、前記凹部(4)は、前記ICタグ(2)が貼付された前記凹部(4)の第1面に対向する第1方向、並びに、前記第1面と直交する第2方向、第3方向、第4方向及び第5方向の中から選択される前記金属面以外の1乃至3方向が開口されている
ことを特徴とするICタグ内蔵金属体。
【請求項2】
請求項1に記載のICタグ内蔵金属体において、
前記金属面の前記底部及び/又は前記金属体の前記側部の内周面はレーザー照射痕である粗面が形成されている
ことを特徴とするICタグ内蔵金属体。
【請求項3】
個体識別管理対象である金属体に対しICタグ(2)を収納するためのもので、埋め込まれ又は封止されている前記ICタグ(2)が後記開口から電磁波を送受信するために、(a)前記金属体の金属面からなる底部及び少なくとも1つの側部とからなる凹部(4)で、かつ、(b)前記ICタグ(2)が貼付されるための第1面に対向する第1方向、並びに、前記第1面と直交する第2方向、第3方向、第4方向及び第5方向の中から選択される前記金属面以外の1乃至3方向が開口されて形成された前記凹部(4)を形成する第一工程と、
前記底部、及び、前記金属面からなる前記側部の内周面の内少なくとも1内周面に、切削手段で粗面を形成する第二工程と、
前記粗面に接着剤を塗布し接着剤の下地を形成する第三工程と、及び、
前記ICタグを前記接着剤の前記下地に載置して前記ICタグ全体を接着剤によって被覆・封止する第四工程と
から成ることを特徴とするICタグの取り付け方法。
【請求項4】
請求項3に記載のICタグ取り付け方法において、
前記切削手段はレーザー光を照射して前記粗面を形成する
ことを特徴とするICタグの取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はICタグの取り付け方法及びICタグ内蔵金属体に関し、より詳細には、ICタグが金属体に掲載された凹部に埋め込まれ又は封止された状態でリーダーがICタグに記憶されている情報を読み込み/書き込むことを向上させたICタグ内蔵金属体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近距離無線通信技術は、一般的に、数cmから1m程度の近距離で無線通信する技術であり、磁気カードからICタグ等の認証、情報の送受信をはじめ広範囲に利用されている。例えば、RFID(Radio-Frequency Identification)が例示でき、これは小型の薄板(タグ)に識別情報を埋め込んで、近距離でこの識別情報を送受信している技術である。RFID技術を利用したRFIDタグは、無線タグ、IC(Integrated Circuit)タグ等と呼ばれている(以下、「ICタグ」と称する。)。
【0003】
ICタグは、超小型の集積回路(ICチップ)がプラスチック等の非金属製の薄板中に、無線通信用アンテナ又はコイルと共に埋め込まれた構造を成しているパッシブ素子である。パッシブのICタグは、通常電源を内蔵せず、かつ、電源に接続されない素子であり、アンテナを介してICチップに電力供給し、リーダーとのデータ送受信はアンテナを介して誘導起電方式で行っている。電力供給は、ICタグのコイルと、リーダーのアンテナを磁束結合して行う電磁誘導方式と、ICタグのアンテナとリーダーのアンテナとの電波で行う電波方式がある。電磁誘導方式は電波方式と比べエネルギー伝達効率が大きくなり利点がある。電波方式の場合は、通信距離が長くできる利点がある。
【0004】
パッシブのICタグは、小型でかつ微弱電力を利用するので、通信距離は短距離に限られる。上述のリーダーは、ICタグと通信し、ICタグの電子データを読み込む電子データ読み取り機能、若しくは、ICタグに書き込む電子データをICタグに送信する電子データ書き込み機能を備え、又は両方の機能を備えた機器である。リーダーは、正確に、電子データ読み取り及び/又は電子データ書き込み装置(以下、単にリーダーと称する。)である。
【0005】
リーダーは、ホストコンピュータ(サーバー)等の電子計算機との間でデータのやり取りを行うように構成されている。ICチップは、情報(データ)の読み出し/書き換えが可能な情報記憶媒体(RAM)と、データ(デジタル形式)を搬送波に変調する変調器(エンコーダー)と、その逆に受信した搬送波をデータ(デジタル形式)に変換する復調器(デコーダー)と、搬送波を送受信するアンテナと、電力を一時的に保存する蓄電器等が集積化されている。また、必要な電力は搬送波を受信する際に発生する誘導起電力を利用し、電池(バッテリー)は特に内蔵していない。
【0006】
ICタグはクレジットカード、定期券、電子マネーとして単体で使用される以外に、個別識別対象の製品又は商品に取り付けられる形態でも使用されている。例えば、ICタグは、再使用される医療器具であるメス、鉗子等に取り付けられ、それらの医療器具の使用形態・使用年数・使用履歴等に係る情報(使用情報)を管理するための手段として使用されている。その一例として、ICタグをメス、鉗子、剪刀、ガーゼ等、内視鏡の手術器具や超音波診断装置等に取り付けて、これら手術器具等の使用情報を管理するICタグを利用した管理技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
また、一回限りのみ使用される医療器具、例えばディスポーザブルタイプ医療器具の再使用禁止システムにおいてもICタグは利用されている。その一例として、予め再使用禁止である旨の所定のコードが記載されたICタグを医療器具に取り付け、滅菌装置のチャンバにそのコード読み取り機を格納して、再使用禁止の医療器具が殺菌処理されて再使用されることを防止するようにした再使用禁止医療器具の管理システムが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。この管理システムにおいて、ICタグは器具のフランジ部に貼り付けられ、或いは埋め込む形態で取り付けられている。
【0008】
更に、ICタグを備えた単独の医療器具として、例えばICタグをシリンジ(注射筒)に設ける技術が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。このシリンジにおいて、ICタグは耐熱性のポリプロピレン、環状ポリオレフィンの樹脂で構成される外筒に埋め込まれ、又は貼り付けられる形態で使用されている。ICタグの使用については、他にマニピュレータシステムに使用されている例、医療行為の手順を容易にさせるシステムに使用される例等が知られている。
【0009】
他方、金属合金と炭素繊維強化プラスチック(CFRP)との更なる結合力向上を図るべく、エポキシ接着剤にカーボンナノチューブを添加することにより、カーボンナノチューブが金属合金表面に形成されたミクロンオーダーの凹凸に侵入し、これにより金属合金とCFRPとが強固に接着した部材を得ることができる、という耐食性・耐候性・耐熱性に優れた金属部材と樹脂部材との接着方法に係る発明が開示されている(例えば、特許文献4を参照)。
【0010】
又、表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、射出成形で得られたエポキシ樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、がエポキシ系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体に係る発明が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−86756号公報
【特許文献2】特開2003−126251号公報
【特許文献3】特開2006−271461号公報
【特許文献4】特開2011−42030号公報
【特許文献5】特開2012−66383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上説明したように、ICタグを利用した医療器具等の管理を行うシステムは、種々の形態で構築されている。また、上記医療器具等に対するICタグの取り付け方法としては、その多くがICタグを接着剤によって医療器具等の外表面に貼り付け、又は外表面に凹部を形成しその凹部に収納した上で接着剤によって埋め込む取り付け方法である。ICタグを取り付けた医療器具は、その管理において、リーダーでICタグと確実にデータ送受信することが求められる。
【0013】
上述のように、金属製の医療器具の凹部に埋め込まれているICタグは、リーダーと通信できず、医療器具の管理に障害になることがある。つまり、凹部の上面表面だけが開口していると、開口がリーダーへ向いている場合、ICタグがリーダーと通信することができるが、リーダーが凹部の側面になると、ICタグとリーダー間の通信の誤差が多くなり、又は、通信できない。医療器具は、メス、鉗子、ピンセット等のように金属製が多く、金属は無線通信にとっては電波の障害になる。
【0014】
これを改善するために、医療器具の周囲からICタグに電波が届くように、医療器具の表面に接着することが考えられるが、医療器具の繰り返し消毒、剥がれやすくなる欠点、医療従事者の使い慣れ等の観点からは、好ましくない。また、再使用されるメス、鉗子、ピンセット等の医療器具については、所定の薬品消毒及び煮沸消毒または高温スチーム消毒が繰り返し行われるため、医療器具に取り付けられたICタグがその医療器具から容易に分離しないことが求められる。
【0015】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、次の目的を達成する。
本発明の目的は、ICタグとリーダーとの通信が向上したICタグの取り付け方法、及びリーダーがICタグに記憶されている情報を好適に読み込み/書き込むことが出来るICタグ内蔵金属体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明のICタグ内蔵金属体は、
個体識別管理対象である金属体に凹部が形成され、前記凹部にICタグが接着剤によって全体を被覆されて、前記凹部に埋め込まれ又は封止されているICタグ内蔵金属体において、
前記凹部(4)は、底部及び少なくとも1つの側部が前記金属体の金属面からなり、
前記ICタグ(2)が後記開口から電磁波を送受信するために、前記凹部(4)は、前記ICタグ(2)が貼付された前記凹部(4)の第1面に対向する第1方向、並びに、前記第1面と直交する第2方向、第3方向、第4方向及び第5方向の中から選択される前記金属面以外の1乃至3方向が開口されている
ことを特徴とする。
【0017】
前記金属面の前記底部及び/又は前記金属体の前記側部の内周面はレーザー照射痕である粗面が形成されていると良い。
【0018】
本発明のICタグの取り付け方法は、
個体識別管理対象である金属体に対しICタグ(2)を収納するためのもので、埋め込まれ又は封止されている前記ICタグ(2)が後記開口から電磁波を送受信するために、(a)前記金属体の金属面からなる底部及び少なくとも1つの側部とからなる凹部(4)で、かつ、(b)前記ICタグ(2)が貼付されるための第1面に対向する第1方向、並びに、前記第1面と直交する第2方向、第3方向、第4方向及び第5方向の中から選択される前記金属面以外の1乃至3方向が開口されて形成された前記凹部(4)を形成する第一工程と、
前記底部、及び、前記金属面からなる前記側部の内周面の内少なくとも1内周面に、切削手段で粗面を形成する第二工程と、
前記粗面に接着剤を塗布し接着剤の下地を形成する第三工程と、及び、
前記ICタグを前記接着剤の前記下地に載置して前記ICタグ全体を接着剤によって被覆・封止する第四工程と
から成ることを特徴とする。
【0019】
前記切削手段はレーザー光を照射して前記粗面を形成すると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明のICタグの取り付け方法によれば、金属体に形成した凹部はその上面と1乃至3側部が開口しており、これにより凹部中のICタグがリーダー等の外部器と確実に通信できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るICタグの取り付け方法によってICタグが取り付けられた鉗子を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るICタグの取り付け方法を示す説明図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るICタグの要部断面を示す説明図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態に係るICタグを収納する凹部の要部断面を示す説明図である。
図5図5は、本発明の第1実施形態に係るICタグの取り付け方法を示す説明図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係るICタグを収納する凹部を示す説明図である。
図7図7は、本発明の第3実施形態に係るICタグを収納する凹部を示す説明図である。
図8図8は、本発明の第4実施形態に係るICタグを収納する凹部(2面が開口)を示す説明図である。
図9図9は、本発明の第5実施形態に係るICタグを収納する凹部(4面が開口)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るICタグの取り付け方法によってICタグ2が取り付けられた鉗子1を示す斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態に係るICタグ2の取り付け方法を示す説明図である。図3は本発明の第1実施形態に係るICタグ2の要部断面を示す説明図である。図4はICタグ2を収納する鉗子1の凹部4の要部断面を示す説明図である。
【0024】
鉗子1は個体識別管理対象のものであり、そのためにICタグ2を、鉗子1に形成した凹部4内に設置又は貼付する(以下、設置という。)。ICタグ2は、後述するリーダー(図示せず。)と電磁波を介して無線通信することで、個体識別が行われる。鉗子1は、ユーザーが操作するためのハンドル部1aと、このハンドル部1aの動作で支軸1bを中心に回動し挟持動作を行う把持部1cとから構成されている。
【0025】
この鉗子1は、長さ12cm程度の短いモスキートタイプの医療用鉗子であり、使用後は所定の滅菌処理(薬品消毒及び煮沸又は高温スチーム消毒)を施されながら繰り返し使用されるものである。従って、鉗子1は、耐腐食性・耐熱性の観点から、金属製で、特にステンレス鋼(例えば、SUS規格の300番シリーズ)で製作されている。鉗子1のタイプはモスキートタイプであるが、これに限定されず他のタイプ、例えばケリータイプ、コッヘルタイプ又はペアンタイプであっても良い。
【0026】
鉗子1のハンドル部1aには、ICタグ2を収納するための凹部4が形成されている。凹部4は、特に、鉗子1の使用に直接影響がない部分に形成される。本例では、ユーザーが指を入れて持つためのハンドル部1aのリング部1dに、凹部4を形成している。このように凹部4が形成された部分は、ユーザーが鉗子1を持って作業を行うとき、作業に直接関係なく、かつ作業中に他の器具と接触することがほとんどない箇所が望ましい。
【0027】
図2(a)は、凹部4が形成されたリング部1dの一部を示す正面図であり、図2(b)はそのリング部材の長軸(長手方向)に沿った断面図である。図4(a)は、リング部1dを構成するリング部材の長軸に沿った断面図であり、図4(b)はリング部材の長軸と垂直面の断面図である。凹部4は、リング部1dの外周面を切削等して形成されたものであり、図2及び図4に図示したように、凹部4の底部4a及び2つの側部4bはリング部1dになっている。
【0028】
そして、凹部4の2つの側部4cはリング部1dの切削されたもので、開口している。無論、凹部4の上面は開口している。ICタグ2は接着剤3によって全体を被覆された形態で凹部4の内部に収納されている。ICタグ2は、凹部4の底部4a及び側部4b、4cとの間に接着剤3の層が介在している。凹部4の底部4a内周面には多数の窪み・空洞(粗面)が形成されている。
【0029】
接着剤3がこれらの窪み・空洞に浸透・硬化し、底部4a内周面に強固に係止することにより、接着剤3が凹部4から剥離しにくくなっている。つまり、接着剤3と凹部4内周面との剥離強度が格段に向上している。ICタグ2は接着剤3によって全体を被覆された形態であるため、ICタグ2が凹部4から分離しにくくなっている。その結果、鉗子1が上記滅菌処理を繰り返し受ける場合であっても、ICタグ2は鉗子1の内部に強固に収納されることになる。
【0030】
ICタグ2は、書き換え可能な情報記録媒体(以下、「メモリ」という。)と、デジタル信号を高周波信号に変調するエンコーダと、高周波信号をデジタル信号に復元するデコーダと、高周波信号を送受信するためのアンテナ等の各素子が超小型・高密度に集積された電子基板を備えており、アンテナのコイルが高周波信号を受信する際に発生する誘導起電力を各デバイスの動作電力として利用している。
【0031】
ICタグ2は、リーダー(図示せず。)と通信し、メモリに記憶された電子データをリーダーへ送信し、リーダーからデータを受信してメモリに書き込む。リーダーは、ICタグ2と高周波信号によって電子データの送受信を行う。詳しくは、リーダーは、ICタグ2と通信してICタグ2内の電子データを読み込む電子データ読み取り機能、若しくは、ICタグ2に電子データを送信する電子データ書き込み機能を備え、又は両方の機能を備えた機器である。
【0032】
ICタグ2は、メモリに記憶されている電子データをリーダーへ送信し、リーダーから受信したデータを処理し、メモリに記憶する。リーダーは、ICタグ2から受信した信号を、有線又は無線通信で接続された情報システム(図示せず。)の制御部に送信する。情報システムの制御部は、リーダーから送信される情報を基に鉗子1の使用状況を正確に把握し、正常な使用状況であるか否か等の管理を行う。
【0033】
以下、説明をわかりやすくするために、ICタグ2を所定の厚さを有する四角形のカード型、言い換えると箱型の形状を例にして、上面、底面、4側面からなる物体と考える。凹部4の底部4aの上に接触又は接着剤3を介して配置される面をICタグ2の底面とし、ICタグの上面は通常底面と対向した面であり、底面と平行又はほぼ平行な面になる。ICタグの4側面は底面と上面に垂直又はほぼ垂直な4面であり、隣接する側面が垂直又はほぼ垂直な面になる。
【0034】
ここでは箱型と考えているので、4側面としているが、3側面、5側面以上の場合は、4側面に置き換えて考えることができるものとする。ICタグ2がコイン型、棒型等の形状をしていても、上述の箱型と同様に説明することができるものとする。ICタグ2の上面に垂直な方向(方位)を第1方向とする。ICタグ2のアンテナと垂直な面、言い換えるとICタグ2の側部4b、4c、に垂直な方向を第2〜5方向とする。
【0035】
リーダーのアンテナによって発生する磁束がICタグ2のアンテナを横切ることによって、リーダーとICタグ2が通信する。そのため、鉗子1が金属製である場合、凹部4が外部からの磁束が通過するためにできる限り開口されていることが望ましいが、鉗子1の用途要求のための、凹部4を形成する箇所、その大きさ、開口部分の大きさには制限がある。
【0036】
電磁誘導方式のICタグ2の場合、ICタグ2のアンテナと、リーダーのアンテナが平行になっているとき、両者の通信効率がもっとも良くなる。これは、リーダーのアンテナによって発生する磁束がICタグ2のアンテナを横切ることが最も多くなるからである。また、ICタグ2のアンテナは、平面上に配置され、平面状になることが多い。
【0037】
図3に示されるように、ICタグ2は、電子基板20と、電子基板20のデバイス取り付け面(凹凸面)に嵌合するように予め射出成形された下ケース21と、電子基板20のハンダ面に取り付けられる耐熱シート23と、電子基板20のハンダ面を覆うように射出成形された上ケース22とを具備して構成されている。なお、下ケース21と上ケース22は同一材質から成り熱融着により一体化されている。
【0038】
下ケース21と上ケース22の材質は、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフイド等のように、耐熱性と機械的強度を有したエンジニアリングプラスチックが良い。耐熱シート23は、薄いシート状のものであり、比較的耐熱性の高い合成樹脂製のフィルムである。この材質は下ケース21及び上ケース22と同一材質、又は異種材質であっても良い。
【0039】
耐熱シート23は、射出される上ケース22に係る溶融樹脂の熱から電子基板20を保護するためのものである。接着剤3は、エポキシ系接着剤、又はポリエステル樹脂等のホットメルト型接着剤を使用することができる。図2に図示したように、ICタグ2は、凹部2の底部4a、側部4b、側部4cとの間に、隙間が形成されている。
【0040】
電波(データ搬送波)がその隙間を通って、ICタグ2の底面側に回折すると共に、その逆にICタグ2から凹部底部4a側へ伝播されたデータ搬送波がその隙間を通って空間に伝搬することが可能となる。これによりICタグ2においてデータ搬送波の送受信特性が向上する。
【0041】
図5は、本実施形態に係るICタグ2の取り付け方法を示す説明図である。ICタグ2の取り付け方法は、鉗子1に対しICタグ2を内部に収納するための凹部4を形成する第一工程(図5(a))と、凹部4の底部4aを含む内周面にレーザー光6aを照射して粗面(レーザー照射痕)を形成する第二工程(図5(b))と、凹部4の底部4aに接着剤3を塗布(注入)して接着剤3の下地を形成する第三工程(図5(c))と、ICタグ2を接着剤3の下地に載置する第四工程(図5(d))、及びICタグ2全体を接着剤3によって被覆・封止する第五工程(図5(e))等の工程から成る。
【0042】
以下、各工程について説明する。図5(a)に示されるように、鉗子1のハンドル部1aの外表面をエンドミル5等の切削工具によって切削し、ICタグ2を収納する凹部4を形成する。凹部4の寸法は、例えば奥行き2m×幅6mm×深さ1.5mmである。エンドミル5を用いた切削加工以外に、凸部の金型(図示せず)で鉗子1のハンドル部1aの外表面を圧印する圧印加工(コイニング)等を適用することも可能である。
【0043】
凹部4は、図1に図示したように、鉗子1のリング部1dの外周面に形成している。その場所は、利用者が指をリング部1dのリングに入れて、ハンドル部1aを操作するときには、その機能に関わらない部分に、つまり、ハンドル部1aの後部に形成している。次に、図5(b)に示されるように、凹部4の底部4aを含む内周面にレーザー光6aを照射することによって、多数の窪み・空洞(粗面)が形成された面粗さ状態にする。
【0044】
窪みの径は例えば10〜100μmであり、深さは50〜200μmである。なお、本実施形態に係るレーザー照射範囲は、凹部4の底部4aであるが、底部4aと側部4bの双方であっても良い。凹部4は、2つの側部が開口されており、レーザー照射は開口されていない側部4bに照射される(図4を参照。)。
【0045】
また、レーザー光6aとしては、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することが可能である。また、レーザー光6aの照射モードとしては連続照射モード又はパルス照射モードを使用することが可能である。
【0046】
次に、図5(c)に示されるように、レーザー光6aが照射された凹部4の底部4aに対し、ノズル7を使用して接着剤3を塗布(注入)して接着剤3の下地を形成する。次に、図5(d)に示されるように、接着剤3の下地にICタグ2を載置する。このとき、必要であれば、ICタグ2を上からの圧力により、凹部4の底部4aへ押す。そして、図5(e)に示されるように、更にノズル7を介して接着剤3を注入してICタグ2の全体を接着剤3で被覆・封止する。
【0047】
接着剤3は液体であるので、表面から少し膨れ上がるように注入し、後でその形を整えることができる。例えば、凹部4の開口された側部4cがリング部1dの表面と一致するようにその形を整えることができる。このようにすると、鉗子1を洗浄する等の手入れするとき、従来通り行うことができる。接着剤3は凹部4の底部4aに形成された窪み・空洞に浸透・硬化し、凹部4の内周面に強固に接着する。
【0048】
従って、ICタグ2は接着剤3によって鉗子1の凹部4内部に強固に収納されることになる。以上の通り、本発明のICタグの取り付け方法によれば、低コストで接着剤3によるICタグ2と鉗子1(被装着物)との結合力を飛躍的に高め、これによりICタグ2が取り付けられた鉗子1(被装着物)が、薬品消毒・煮沸消毒等の滅菌処理を繰り返し受ける場合であってもICタグ2が鉗子1(被装着物)から分離しにくくなる。
【0049】
凹部4の開口側部4cは、凹部4の両側に形成されており、リーダーからの電波がこの開口側部4cを介してICタグ2に到達しやすくなる。無論、凹部4の開口上面を含むと、リーダーからの電波が凹部4の3方面からICタグ2に到達することができる。利用するICタグ2は、国際規格ISO/IEC18000シリーズ、使用する医療環境の要求に合致した任意のICタグを利用することができる。
【0050】
ICタグ2とリーダーとの通信は、低電力を利用する電磁誘導方式の、135kHz以下、又は13.56MHz以下の通信方式が望ましい。本実施の形態においては、鉗子1を例に説明したが、他の分野に利用する場合は、伝播方式、例えば、920MHz帯の周波数帯域のICタグを利用することができる。本発明は、ICタグの発明、その通信方式の発明ではないので、詳細は省略する。
【0051】
図2に図示したように、矢印5a、5b、5cで示すように、凹部4の上面の第1方向5a、側部4cの第2方向5bとそれと180度(略180度)へ向く第4方向5cが開口されている。ICタグ2への電磁波(磁束)、ICタグ2から送信される電磁波は、これらの第1、2、4方向のICタグ2の開口部を通して送受信される。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本発明の第2実施形態は上述の本発明の第1実施形態と基本的に同じであり、異なる部分を説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係るICタグ2を収納する凹部4Aを示す説明図である。図6(a)は凹部4Aの正面図であり、図6(b)は凹部4Aの側面図である。
【0053】
この第2実施形態の凹部4Aは、長手方向に直交する側部4bの両側が開口している。また、ICタグ2が2面、すなわち底面2aと側面2bにおいて凹部4Aの底部4aと側部4bにそれぞれ直接に、又は接着剤3の層を介して間接的に接している。その結果、ICタグ2の他の側面2c,2d,2eと、凹部4Aとの間に隙間SP1,SP2,SP3がそれぞれ形成されている。
【0054】
隙間SP1,SP2,SP3が形成されることにより、電波(データ搬送波)がその隙間SP1,SP2,SP3を通ってICタグ2の底面2a側に回折すると共に、その逆にICタグ2から凹部底部4a側へ伝播されたデータ搬送波がその隙間SP1,SP2,SP3を通って空間に伝搬することが可能となる。これによりICタグ2においてデータ搬送波の送受信特性が向上する。その結果、リーダーがICタグ2に記憶されている情報を正確に読み取ることが出来ると共にICタグ2に所望のデータを書き込むことが出来るようになる。
【0055】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を説明する。本発明の第3実施形態は上述の本発明の第1実施形態と基本的に同じであり、異なる部分を説明する。図7は、本発明の第3実施形態に係るICタグ2を収納する凹部4Bを示す説明図である。図7(a)は凹部4Bの正面図であり、図7(b)は凹部4Bの側面図である。この第3実施形態の凹部4Bは、長手方向に直交する側部4bの両側が開口している。
【0056】
また、ICタグ2が3面、すなわち底面2a、側面2b及び側面2dにおいて凹部4Bの底部4aと側部4bにそれぞれ直接に、又は接着剤3の層を介して間接的に接している。その結果、ICタグ2の他の側面2c,2eと、凹部4Cとの間に隙間SP1,SP3がそれぞれ形成されている。
【0057】
隙間SP1,SP3が形成されることにより、電波(データ搬送波)がその隙間SP1,SP3を通ってICタグ2の底面2a側に回折すると共に、その逆にICタグ2から凹部底面4a側へ伝播されたデータ搬送波がその隙間SP1,SP3を通って空間に伝搬することが可能となる。
【0058】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を説明する。本発明の第4実施形態は上述の本発明の第1実施形態と基本的に同じであり、異なる部分を説明する。図8は、本発明の第4実施形態に係るICタグ2を収納する凹部4Cを示す説明図である。この第4実施形態の凹部4Cは、鉗子1のハンドル部1aのリング部1eの角部に形成されている。本例では、鉗子1を例にしているが、個体識別管理の対象物のエッジ(縁)又はアール(湾曲部)に凹部4Cが形成される。
【0059】
凹部4Cの上面と、1つの側部が開口されており、言い換えると、第1方向5aと第2方向5bが開口されている。他の3つの側部は開口されず、金属製の側面になっている。上述の第1〜3の実施の形態と同様に、この開口で電磁波の送受信が行われる。ICタグ2は、凹部4Cの中に、その底部と開口されていない側部に直接又は接着剤を介して間接的に接している。凹部4Cの底面及び/又は開口されていない側部の内周面はレーザー照射等の切削手段で粗面が形成されている。
【0060】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態を説明する。本発明の第5実施形態は上述の本発明の第1乃至第4の実施形態と基本的に同じであり、異なる部分を説明する。図9は、本発明の第5実施形態に係るICタグ2を収納する凹部4Dを示す説明図である。この第5実施形態の凹部5は、アール部1fに形成されている。
【0061】
凹部4Dの上面と、3つの側部が開口されており、言い換えると、第1方向5a、第2方向5b、第3方向5c、及び第4方向5dが開口されている。上述の第1〜3の実施の形態と同様に、この開口で電磁波の送受信が行われる。ICタグ2は、凹部4Dの中に、その底部と開口されていない1側部に直接又は接着剤を介して間接的に接している。接着剤は、図9に想像線で描いた元のアール部までに充填されることができるが、それ未満でも良い。凹部4Dの底面及び/又は開口されていない1側部の内周面はレーザー照射等の切削手段で粗面が形成されている。
【0062】
(その他)
上述の例では、凹部4は、上面と平行な底面を有し、側面が底面とほぼ垂直構造となっているが、底面から上面に行くに従って、徐々に大きくなるテーパー状の形状とすることもできる。また、同じく、開口している側面も徐々に大きくなるテーパー状の形状とすることができる。このようにすると、鉗子1がリーダーとは斜めに配置されても、リーダーからの電波が到達しやすくなる。
【0063】
言い換えると、リーダーから送信された電波がICタグ2に到達する角度が広くなり、ICタグとリーダーとの通信が向上する。上述のように、鉗子1を例にICタグ2を取り付けている様子を説明した。本発明は、鉗子1に限定されず、金属製の任意の器具にICタグを取り付けて個体識別管理をすることができる。凹部4は箱型の形状を例に説明したが、上面と底面が円形又は楕円形のシリンダ型にすることができる。
【0064】
上述の実施の形態に、ICタグ2が凹部4の底部に平行に設置された例を説明したが、ICタグ2は凹部4の底部に所定の角度に傾斜させて設置することもできる。更に、ICタグ2は凹部4の底部ではなく開口されていない側部に平行又は角度有して設置することもでき、この場合は、ICタグ2が設置された側部は、上述の凹部4の底部として置き換えて考える。
【0065】
前述の凹部4の底部4aは、レーザー光6aを照射することによって、多数の窪み・空洞(粗面)が形成された面粗さ状態にした。しかしながら、ミーリングマシン、印章彫刻機、彫刻機等の機械加工機械により、接着剤を溜める蟻溝を形成して接着力を強化する方法であっても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…鉗子
1a…指部
1b…支軸
1c…把持部
1d…リング部
2…ICタグ
20…電子基板
21…下ケース
22…上ケース
23…耐熱シート
3…接着剤
4…凹部
4a…底部
4b…側部
4c…側部(開口されている)
5…エンドミル
6…レーザー発振器
6a…レーザー光
7…ノズル
図1
図2
図3
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図8
図9