(式中、Mは金属元素を表し、X、Y及びZは、X>0、Y>0、Z≧0及びX+Y+Z=100を満たす数値を示す。以下同様。)で表される化合物からなる第一層31、Inからなる第二層32、及び、一般式Si
で表される化合物からなる第三層33がこの順でそれぞれスパッタリングによって成膜されてなる。Alと比較して酸化しにくいSiを含むターゲットを用いることができるため、ターゲットに対するクリーニングの頻度を減少させることができ、生産性の向上を図ることができる。
【背景技術】
【0002】
自動車が周囲の物に接近したことを運転者に警告するために、距離測定用のミリ波レーダー装置を自動車の各部、例えばラジエータグリル、サイドモール、バックパネル、エンブレム部分等の背後に設けることがある。一方で、これらのラジエータグリル等に光輝性をもたせることが要求されることがある。しかし、これらのラジエータグリル等に単なる金属被膜を設けた場合、その金属被膜によってミリ波が遮断させられたり、大きく減衰させられたりするおそれがある。
【0003】
そこで、ミリ波の通過経路上に、光輝性を確保するための金属被膜を有するとともに、当該金属被膜にミリ波の透過性を具備させた光輝製品を設置することが考えられる。金属被膜にミリ波透過性を具備させるためには、金属被膜が不連続構造をなす、すなわち、金属被膜が一面に連続しておらず、多数の微細な金属膜が敷き詰められてなる構造をなす必要がある。
【0004】
従来、真空蒸着で不連続構造を形成しやすいという性質を有するInを用い、真空蒸着によって金属被膜を形成することが考えられていた。しかし、Inは高価であるため、Inのみを用いると製造コストが増大してしまうおそれがある。また、金属被膜の形成手法としては、真空蒸着の他にスパッタリングが知られており、金属被膜の膜厚制御や付着力では、真空蒸着よりもスパッタリングが有利である。
【0005】
そこで、In以外の材料を使用することでInの使用量を減らしつつ、スパッタリングによって金属被膜を形成する技術が提案されている。かかる技術としては、スパッタリングによって、Alからなる金属膜、Inからなる金属膜及びAlからなる金属膜をこの順で樹脂製の基材上に形成していくというものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の手法により得られた光輝製品(「Al−In−Al品」と称す)は、ミリ波透過性などの面で十分に良好な性能を有しているが、Al−In−Al品を生産する際には、比較的酸化しやすいAlがスパッタリングのターゲットとなる。そのため、Alターゲットに対し、酸化物を除去するためのクリーニング(例えば、プラズマを用いたプレエッチングなど)を製品の生産前などにおいて比較的高頻度で行う必要があり、生産性がやや劣る。そこで、生産性向上のために、Al以外の比較的酸化しにくいターゲットを用いつつ、Al−In−Al品と同様の良好なミリ波透過性等を有する光輝製品を新たに作り出すことが望まれる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好なミリ波の透過性を有するとともに、生産性の向上を図ることができる光輝製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0010】
手段1.所定の基材と、
前記基材上に設けられるとともに、一般式Si
xM
yO
Z(式中、Mは金属元素を表し、X、Y及びZは、X>0、Y>0、Z≧0及びX+Y+Z=100を満たす数値を示す。以下同様。)で表される化合物からなる第一層、Inからなる第二層、及び、一般式Si
xM
yO
Zで表される化合物からなる第三層がこの順でそれぞれスパッタリングによって成膜されてなる金属被膜とを備えることを特徴とする光輝製品。
【0011】
上記手段1によれば、少なくともSi及びMを含んでなるターゲットを用いて、スパッタリングにより第一層及び第三層を得ることができる。ここで、SiはAlと比較して酸化しにくい性質を有するため、ターゲットに対するクリーニングの頻度を減少させることができる。その結果、生産性の向上を図ることができる。
【0012】
尚、第一層及び第三層の形成時にスパッタリング装置のチャンバー内にO
2を供給し、O
2反応性のスパッタリングを行うことで、第一層や第三層が、ターゲット材料を構成するSiやMとともにO(酸素)を含むようにしてもよい。また、チャンバー内にAr等の不活性ガスのみを供給することで、第一層や第三層が酸素(O)を含まないようにしてもよい(つまり、Z=0としてもよい)。勿論、第一層を構成する各元素の質量比と、第三層を構成する各元素の質量比とを異なるものとしてもよい(つまり、第一層及び第三層で、X,Y及びZの値を異なるものとしてもよい)。
【0013】
また、上記手段1によれば、良好なミリ波透過性を得ることができる。これは、第一層を構成する粒子を成長核として、第二層を構成するInを相互に離間した又は一部のみが接触した独立的な島状に成長させることができ、不連続構造のより確実な形成が図られることによる。また、第三層は保護膜として機能するが、第三層は島状に成長したInの上に島状成長を維持する形で形成されるため、ミリ波透過性の点で悪影響を与えにくい状態にすることができる。
【0014】
手段2.前記Mは、Sn又はZrであることを特徴とする手段1に記載の光輝製品。
【0015】
上記手段2によれば、スパッタリングのターゲットとして、Si−Sn合金やSi−Zr合金を用いることができる。これら合金をターゲット材料とすることで、第一層や第三層の成膜スピードを十分に向上させることができ、生産性の向上をより確実に図ることができる。
【0016】
さらに、ターゲットがSnやZrを含むことで、ターゲットの変更に伴う設備変更を最低限に抑えることができ、ひいては生産に係るコストの増大を抑えることができる。すなわち、スパッタリングのターゲットを単なるSiやSiO
2とした場合、Siは半導体でありSiO
2は絶縁体であるため、スパッタリングを直流電源で行うと、チャンバー内に導入したガスがイオン化してなる正イオン(例えばAr
+)がターゲット表面に帯電してターゲットの表面電位が上がり、スパッタリング効率が落ちてしまいやすい。そのため、安定的なスパッタリングを行うためには高周波電源やパルス電源を使用してイオンによる帯電を打ち消す必要がある。これに対し、上記手段2によれば、ターゲットにSnやZrが含まれるため、ターゲットが導電体となってイオンによる帯電がなくなり、直流電源を用いてスパッタリングを行うことができる。従って、高周波電源などを用意する必要がなくなり、ターゲットの変更に伴う設備変更を最低限に抑えることができる。その結果、生産に係るコストの増大を抑えることができる。
【0017】
また、上記手段2によれば、MをSn又はZrとすることで、良好なミリ波透過性をより確実に得ることができる。
【0018】
手段3.前記第三層を構成する一般式Si
xM
yO
Zで表される化合物に関し、Z>0を満たすことを特徴とする手段1又は2に記載の光輝製品。
【0019】
上記手段3によれば、第三層を酸化物被膜とすることで、耐食性の向上を図ることができる。
【0020】
また、第三層を酸化物被膜とすることで、第三層を液体に対し優れた親和性を有するものとすることができる。つまり、第三層の濡れ性を良好なものとすることができる。従って、金属被膜の表面に抑え塗装などの塗装を行ったり、金属被膜の表面に接着剤を介してフィルムなどを貼付したりする場合に、金属被膜に対する塗料や接着剤などのなじみを良くすることができる。これにより、金属被膜に対する塗料や接着剤の密着性を高めることができ、塗料やフィルムの剥がれ防止をより確実に図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、光輝製品1は、樹脂製の基材2と、当該基材2の表面に形成された金属被膜3とを備えている。光輝製品1としては、ミリ波レーダー装置カバー等を例示することができる。尚、光輝製品1は、適用対象が特に限定されるものではないが、例えば、自動車の外装塗装製品(具体的には、ラジエータグリル、グリルカバー、サイドモール、バックパネル、バンパー、エンブレム等)に適用することができる。
【0023】
基材2としては、所定の樹脂により形成されてなる板材、シート材、フィルム材等を例示することができる。本実施形態における基材2は、誘電正接(誘電体内での電気エネルギー損失の度合いを表す指標値)の小さな樹脂材料であるAES(アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合)樹脂によって形成されている。尚、基材2を構成する材料として、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合)樹脂、PC/ABS樹脂、アクリル樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、PU(ポリウレタン)樹脂及びPP(ポリプロピレン)樹脂等を挙げることができる。勿論、基材2は、良好なミリ波透過性を有するものであれば、樹脂以外から形成したものであってもよい。
【0024】
また、基材2の上に(金属被膜3の下地となる)下地膜を成膜してもよい。下地膜としては、有機系化合物からなる下地膜〔例えば、有機系塗料(アクリル系塗料等)を塗布して形成された塗膜〕や、無機系化合物からなる下地膜〔例えば、無機系塗料を塗布して形成された塗膜や、物理真空蒸着法により形成した金属化合物よりなる薄膜等〕を挙げることができる。
【0025】
金属被膜3は、基材2の表面に形成された薄膜であり、光輝製品1における表面の光輝性を確保するために設けられている。本実施形態では特に図示していないが、金属被膜3の表面には、必要に応じて、トップ塗装やおさえ塗装などの塗装が施されたり、接着剤を介してフィルムが貼付されたりする。また、アクリル系又はウレタン系の樹脂材料からなる腐食防止層で金属被膜3を被覆することもある。
【0026】
金属被膜3は、
図2に示すように、基材2上において、第一層31、第二層32及び第三層33がこの順でそれぞれスパッタリングによって形成されてなる積層体であって、不連続構造をなしており、光輝性とともに良好なミリ波(例えば、波長が1〜10mmであり、周波数が30〜300GHzの電磁波)の透過性を備えている。尚、
図2は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた光輝製品1の断面画像に基づく模式図である。
【0027】
第一層31は、非常に薄膜(例えば、5nmの厚さ狙いで形成されたもの)であり、各層31〜33の中では最も基材2の表面寄りに形成されている。第一層31の構成粒子は、主に第二層32の成長核として機能する。尚、
図2では、第一層31を実際よりも厚肉で示している。また、
図2では、第一層31を層状(膜状)として模式的に示しているが、
図2はあくまで模式図であって、実際に(最終的に)形成される第一層31は必ずしも層状とはならず、基材2の表面上に分散状態で点状に形成される場合もある。
【0028】
第二層32は、第一層31の粒子を成長核として形成された厚膜部を備えており、また、第三層33は、第二層32の前記厚膜部に対し特に積層した状態で形成されている。これにより、金属被膜3は、不連続構造、すなわち、金属膜が一面に連続した状態とならず、多数の微細な金属膜が島状に互いに僅かに離間したり、一部だけ接触したりした状態で敷き詰められた構造となっている。
【0029】
また、第二層32は、例えば、25〜30nmの厚さ狙いで形成されたものであり、第三層33は、例えば、10〜130nmの厚さ狙いで形成されたものである。尚、ミリ波透過性の面で悪影響が生じてしまうことをより確実に防止すべく、第三層33の厚さを130nm以下とすることが好ましい。また、十分な光輝性を得るという点では、金属被膜3の厚さを10nm以上とすることが好ましい。
【0030】
さらに、第二層32はInにより形成されている一方、第一層31及び第三層33は、一般式Si
xM
yO
Zで表される化合物によって構成されている。Mは金属元素を表すとともに、X、Y及びZは、X>0、Y>0、Z≧0及びX+Y+Z=100を満たすものである。
【0031】
また、本実施形態において、前記Mは、Sn又はZrである。つまり、本実施形態において、第一層31は、一般式Si
xSn
yO
Zで表される化合物又は一般式Si
xZr
yO
Zで表される化合物によって形成されている。特に本実施形態では、Z=0を満たすものとされており、第一層31は非酸化物被膜とされている。
【0032】
加えて、第三層33は、第一層31と同様に、一般式Si
xSn
yO
Zで表される化合物又は一般式Si
xZr
yO
Zで表される化合物によって形成されている。但し、本実施形態では、Z>0を満たすものとされており、第三層33は、酸化物被膜とされている。第三層33は、保護膜として機能するが、島状に成長したIn(第二層32)の上に島状成長を維持する形で形成されるため、ミリ波透過性の点で悪影響を与えにくい。
【0033】
尚、第一層31及び第三層33の双方を酸化物被膜又は非酸化物被膜としてもよいし、第一層31を酸化物被膜とする一方、第三層33を非酸化物被膜としてもよい。酸化物被膜は、後述するようにO
2反応性スパッタリングを行うことで形成することができ、非酸化物被膜は、後述するように不活性雰囲気下でスパッタリングを行うことで形成することができる。
【0034】
次に、上述した光輝製品1の製造方法のうち、特に基材2に対する金属被膜3の形成方法について説明する。まず、必要に応じて、基材2の表面に下地膜などを形成しておく。その上で、
図3に示すように、スパッタリング装置100のチャンバー101内に設けられたターゲットホルダー102に、第一層31の成膜材料となるターゲット51をセットするとともに、チャンバー101内の基材ホルダー103に基材2をセットする。第一層31を一般式Si
xSn
yO
Zで表される化合物によって形成する場合、ターゲット51としてSn−Si合金(例えば、Snを50質量%、Siを50質量%含有した合金)からなるものが用いられ、第一層31を一般式Si
xZr
yO
Zで表される化合物によって形成する場合、ターゲット51としてZr−Si合金からなるものが用いられる。
【0035】
そして、チャンバー101内に不活性ガス(例えばArガス)を導入しながら(つまり不活性雰囲気下で)、DC電源(直流電源)104によって基材2及びターゲット51間に直流高電圧を印加することにより、イオン化したArをターゲット51に衝突させ、弾き出されたターゲット51の構成物質を基材2に成膜させることで、第一層31を形成する。不活性雰囲気下でスパッタリングを行うことにより、第一層は非酸化物被膜となる。
【0036】
次いで、Inからなるターゲット51を用いて、上記同様に、チャンバー101内に不活性ガス(例えばArガス)を導入しながら、DC電源104によって基材2及びターゲット51間に直流高電圧を印加し、ターゲット51の構成物質を基材2に成膜させることで、Inからなる第二層32を形成する。このとき、第一層31を構成する粒子を成長核として、第二層を構成するInは、相互に離間した又は一部のみが接触した独立的な島状に成長する。
【0037】
さらに、Sn−Si合金又はZr−Si合金からなるターゲット51を用いて、チャンバー101内に不活性ガス(例えばArガス)とO
2とを導入しながら、基材2及びターゲット51間に直流高電圧を印加する。これにより、ターゲット51の構成物質とO
2とを反応させつつ反応物質を基材2に成膜する(つまり、O
2反応性スパッタリングを行う)ことで、酸化物被膜である第三層33を形成する。その結果、基材2上に各層31〜33からなる金属被膜3を形成することができる。
【0038】
以上詳述したように、本実施形態によれば、少なくともSi及びM(本実施形態ではSn又はZr)を含んでなるターゲット51を用いて、スパッタリングにより第一層31及び第三層33を得ることができる。ここで、SiはAlと比較して酸化しにくい性質を有するため、ターゲット51に対するクリーニングの頻度を減少させることができる。その結果、生産性の向上を図ることができる。
【0039】
さらに、金属被膜3において不連続構造をより確実に形成することができ、また、第三層33は、島状に成長したIn(第二層32)の上に島状成長を維持する形で形成されるため、ミリ波透過性の点で悪影響を与えにくい状態になる。そのため、光輝製品1において良好なミリ波透過性を得ることができる。
【0040】
加えて、スパッタリングのターゲット51として、Si−Sn合金やSi−Zr合金からなるものを用いることができる。これら合金をターゲット51の材料とすることで、第一層31や第三層33の成膜スピードを十分に向上させることができ、生産性の向上をより確実に図ることができる。
【0041】
また、本実施形態におけるターゲット51はSnやZrを含むため、ターゲット51が導電体となってイオンによる帯電がなくなり、DC電源104を用いてスパッタリングを行うことができる。これにより、ターゲットの変更に伴う設備変更を最低限に抑えることができ、ひいては生産に係るコストの増大を抑えることができる。
【0042】
さらに、本実施形態における第三層33は酸化物被膜とされているため、耐食性の向上を図ることができる。
【0043】
また、第三層33を酸化物被膜とすることで、第三層33を液体に対し優れた親和性を有するものとすることができる。つまり、第三層33の濡れ性を良好なものとすることができる。従って、金属被膜3の表面に対し、塗装を行ったり、接着剤を介してフィルムなどを貼付したりする場合に、金属被膜3に対する塗料や接着剤のなじみを良くすることができる。これにより、金属被膜3に対する塗料や接着剤の密着性を高めることができ、塗料やフィルムの剥がれ防止をより確実に図ることができる。
【0044】
次いで、上記実施形態で奏される作用効果を確認すべく、PCからなる基材に対し、第一層、第二層及び第三層をそれぞれスパッタリングによって形成してなる複数種類の光輝製品のサンプルを作製し、各サンプルごとにミリ波が透過する際の減衰量(dB)を計測した。ここで、減衰量が小さいほどミリ波透過性が良好であるといえ、減衰量が3.00dB以下であれば、ミリ波透過性が十分に良好であるといえる。表1に、各サンプルにおけるミリ波の減衰量をそれぞれ示す。
【0045】
尚、各サンプルにおける第一層及び第三層の形成にあたっては、Si、Sn−Si合金又はZr−Si合金からなるターゲットを用い、また、チャンバーにO
2を導入しながら又はO
2を導入せずに、DC電源を使用してスパッタリングを行うことにより酸化物被膜又は非酸化物被膜を形成した。つまり、酸化物被膜としては、Si及びOからなる化合物、一般式Si
xSn
yO
Z(式中、X、Y及びZは、X>0、Y>0、Z>0及びX+Y+Z=100を満たす数値を示す。次述するX、Y及びZについても同様)で表される化合物、又は、一般式Si
xZr
yO
Zで表される化合物からなるものを形成した。また、非酸化物被膜としては、Si、一般式Si
xSn
y(式中、X及びYは、X>0、Y>0及びX+Y=100を満たす数値を示す。次述するX及びYについても同様。)で表される化合物、又は、一般式Si
xZr
yで表される化合物からなるものを形成した。尚、第二層は、Inからなるターゲットを用いて形成した。
【0046】
加えて、各サンプルともに、第一層を5nmの厚さ狙いで、第二層を25nmの厚さ狙いで、第三層を15nmの厚さ狙いで形成した。
【0047】
また、参考として、それぞれのサンプルにおける、金属被膜の表面抵抗(Ω/□)と、JIS Z8741に準拠して測定角度60°の条件で所定の光沢計により測定したグロス値(光沢値)と、所定の色彩色差計によって測定したCIE1976表色系(JIS Z8729)に規定される表色系(L
*、a
*、b
*)の明度L
*とを表1に合わせて示す。
【0049】
表1に示すように、各サンプルともにミリ波の減衰量が3.00dB以下となり、良好なミリ波透過性を有することが確認された。
【0050】
また、各サンプルは、それぞれグロス値や明度L
*の点でも良好であり、十分に良好な光輝性を有することが確認された。
【0051】
次いで、Sn−Si合金又はZr−Si合金からなるターゲット(Sn−Siターゲット又はZr−Siターゲット)を用いてO
2反応性スパッタリングを行った場合(実施例)と、Siからなるターゲット(Siターゲット)を用いてO
2反応性スパッタリングを行った場合(比較例)と、Alからなるターゲット(Alターゲット)を用いて不活性雰囲気下でスパッタリングを行った場合(比較例)とにおいて、第三層を形成する際の成膜スピード(Å/sec・W)を算出した。成膜スピードとしては、スパッタリング時のパワー(印加電力)Wとスパッタリングの時間(sec)とを乗算してなる数値によって第三層33の形成厚さ(Å)を除算したときの値、すなわち、パワーの影響を除いた、単位時間当たりの成膜厚さに相当するものを算出した。尚、Sn−Siターゲット又はZr−Siターゲットを用いたときには、スパッタリング時にO
2分圧が33%となるようにチャンバー内にO
2を導入し、Siターゲットを用いたときには、スパッタリング時にO
2分圧が23%となるようにチャンバー内にO
2を導入した。
【0052】
成膜スピードを算出したところ、Siターゲットを用いたときには約0.008Å/sec・Wとなり、Alターゲットを用いたときには約0.007Å/sec・Wとなった一方、Sn−Siターゲットを用いたときには約0.032Å/sec・Wとなり、Zr−Siターゲットを用いたときには約0.018Å/sec・Wとなった。つまり、Sn−SiターゲットやZr−Siターゲットを用いた場合に、成膜スピードを顕著に向上できることが確認された。この結果から、より短時間で所期の厚さの金属被膜を形成するという観点では、スパッタリングのターゲットとして、Si−Sn合金やSi−Zr合金を用いることが好ましいといえる。
【0053】
次いで、スパッタリングのターゲットとして、Si、Sn−Si合金又はZr−Si合金からなるものを用いるとともに、O
2分圧が33%となるようにチャンバーにO
2を導入しながら又はO
2を導入せずにスパッタリングを行うことにより、第三層として酸化物被膜又は非酸化物被膜を形成した光輝製品のサンプルを作製し、各サンプルの濡れ性を評価した。濡れ性の評価は、
図4に示すように、サンプルの金属被膜3の最表面(第三層33の表面)に液滴Dを落下させ、接線法により液滴Dの接触角θを計測することで行った。ここで、接触角θが小さいほど濡れ性が良好であるといえる。表2に、各サンプルの接触角θを示す。
【0055】
表2に示すように、第三層を酸化物被膜としたサンプルは、第三層を非酸化物被膜としたサンプルと比較して、接触角θが著しく小さな値となり、濡れ性が極めて良好であることが明らかとなった。この結果から、塗料や接着剤などの密着性を高めるという観点では、第三層を酸化物被膜とすることが好ましいといえる。
【0056】
尚、第三層をAlにより形成した従来品についても同様に接触角θを測定したところ、接触角θは約75°であった。従って、第三層を非酸化物被膜とした場合であっても、従前よりも良好な塗料等の密着性を得ることが可能である。
【0057】
尚、本発明は、上記実施形態の記載内容に限定されず、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。