特開2019-189543(P2019-189543A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特開2019189543-抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-189543(P2019-189543A)
(43)【公開日】2019年10月31日
(54)【発明の名称】抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/03 20060101AFI20191004BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20191004BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20191004BHJP
【FI】
   A61K36/03
   A61K31/737
   A61P31/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-81509(P2018-81509)
(22)【出願日】2018年4月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年10月24日に「第65回日本ウイルス学会学術集会」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】上野 幹憲
(72)【発明者】
【氏名】山田 道生
(72)【発明者】
【氏名】沖村 崇
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC55
4C088AA13
4C088BA09
4C088BA12
4C088CA05
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZB33
4C088ZC55
(57)【要約】
【課題】大量供給が容易で、HIVの感染を予防する効果を有する抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物を提供する。
【解決手段】アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)等の海藻由来の、例えば、フコイダン及びアスコフィランの一方又は双方を含む硫酸化多糖を有効成分とし、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する感染予防活性を有することを特徴とする抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻由来の硫酸化多糖を有効成分とし、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する感染予防活性を有することを特徴とする抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物。
【請求項2】
前記海藻が、アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)であることを特徴とする請求項1に記載の抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物。
【請求項3】
前記硫酸化多糖が、フコイダン及びアスコフィランの一方又は双方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、レトロウイルスの一種であり、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因病原体である。AIDSの治療には、アジドチミジン(AZT)、ジダノシン(ddI)等の核酸系抗HIV剤等が用いられているが、根治するにはいたっておらず、新たな抗HIV剤の開発が望まれている。
【0003】
新たな抗HIV剤の一例として、結核菌の熱水抽出物由来の多糖体を主成分とする組成物を有効成分とする抗HIV剤が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/53203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の抗HIV剤は、結核菌の熱水抽出物由来の多糖体を主成分とするため、大量供給が困難であり、製造コストが高くなるという問題がある。また、AIDSの発症前に、抗HIV剤を服用し、体内でHIVが増殖しにくい環境を作ることにより、AIDSの発症を予防する方法が知られているが、HIVの感染そのものに対する予防効果を有する薬剤は知られていない。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、大量供給が容易で、HIVの感染を予防する効果を有する抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明は、海藻由来の硫酸化多糖を有効成分とし、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対する感染予防活性を有することを特徴とする抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0008】
本発明に係る抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物において、前記海藻が、アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)であってもよい。
【0009】
本発明に係る抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物において、前記硫酸化多糖が、フコイダン及びアスコフィランの一方又は双方を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、大量に入手可能な海藻から、HIVに対し高い感染予防活性を有する抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物を得ることができる。本発明の抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物は、HIVの感染そのものを予防することにより、HIV感染細胞内でのHIVの増殖を抑制するための長期間に及ぶ薬物投与が不要になるという効果を有している。本発明の抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物は、食経験のある海藻由来の硫酸化多糖を有効成分とするため、高い安全性を有するという効果も有している。
【0011】
また、本発明によると、HIVの感染を予防する新規な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ヒトCD4陽性T細胞におけるHIV−1の感染予防活性の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。本発明の一実施の形態に係る抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物(以下、「組成物」と略称される場合がある。)は、海藻由来の硫酸化多糖を有効成分として含んでいる。
【0014】
<海藻>
組成物の有効成分の原料となる海藻は、HIVに対する感染予防活性を有する硫酸化多糖を含む任意のものを特に制限なく用いることができる。海藻の具体例としては、コンブ、ワカメ、メカブ、モズク、アカモク、ホンダワラ、アスコフィラム・ノドサム等が挙げられる。
【0015】
<硫酸化多糖>
組成物の有効成分となる硫酸化多糖は、海藻に含まれ、多糖類のアルコール性水酸基の少なくとも一部が硫酸エステル化している化合物で、その具体例としては、硫酸化β−1,3−キシラン、硫酸化β−1,4−キシラン、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン等が挙げられる。組成物の有効成分である硫酸化多糖は、1種類の硫酸化多糖であってもよく、任意の2種類以上のものを任意の割合で含む混合物であってもよい。
【0016】
硫酸化多糖は、原料となる海藻から、熱水抽出等の任意の公知の方法を用いて単離される。好ましい硫酸化多糖の例としては、フコイダン、アスコフィランが挙げられる。
【0017】
<アスコフィラム・ノドサム>
アスコフィラム・ノドサムは、北欧の海岸地帯に繁殖する大型の褐藻類の一種であり、家畜の飼料や植物の生長促進剤として用いられている。アスコフィラム・ノドサムは、アミノ酸、ビタミン類、灰分、ポリフェノール、各種ミネラルに加え、アルギン酸、フコイダン、マンニット、ラミナリン、アスコフィラン等の水溶性多糖類を含んでいる。アスコフィランは、アスコフィラム・ノドサムに特有の多糖類であり、L−フコース及び硫酸基を含む点でフコイダンと類似するが、糖残基の組成が異なっており、アポトーシス誘導能やある種のガン細胞に対する抗腫瘍活性を有することが知られている。
【0018】
<アスコフィラム・ノドサム抽出物>
アスコフィラム・ノドサムに含まれる化合物を分離する手段として、任意の公知の方法を用いることができるが、好ましい方法としては、溶媒抽出が挙げられ、特に好ましくは水を溶媒として用いる溶媒抽出が挙げられる。抽出原料であるアスコフィラム・ノドサムとしては、任意の産地のものを用いることができる。なお、生のままの藻体は水分含量が高いため、水洗により塩分を除去した藻体を乾燥し、粉末化したものを抽出原料として用いることが好ましい。抽出原料として用いられるアスコフィラム・ノドサム乾燥粉末の平均的な組成は、蛋白質5〜10%、炭水化物45〜60%、灰分17〜20%、脂質2〜4%、水分10〜12%である。なお、前処理として、アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末を酸水溶液で処理し、酸可溶分を除去しておいてもよい。
【0019】
アスコフィラム・ノドサムからの抽出は、例えば、アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末の10〜100倍(質量比)の水を用いて行う。アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末を加えた水を室温で12〜24時間撹拌すると、アスコフィランがアルギン酸等とともに水中に抽出される。必要ならば、水を新たに加え、100℃でさらに12〜24時間抽出を行ってもよい。このようにして得られる粗抽出物は、他の多糖、タンパク質、炭水化物、脂質、灰分、ミネラル、色素、ポリフェノール等を含んでいる。これらは、いずれも人体および動物に対して何ら害を及ぼさないため、アスコフィラム・ノドサム抽出物を食品や飼料に添加する場合には、分離することなくそのまま用いてもよい。
【0020】
組成物の原料として用いることができる、純度の高いフコイダン及びアスコフィランを得るためには、以下に述べるような方法で精製を行うことができる。抽出液に含まれるアルギン酸は、塩酸等を加えて抽出液のpHを低下させ、生成した沈殿をろ過することにより除去することができる。あるいは、アルギン酸リアーゼを添加し、アルギン酸のみを選択的に加水分解し、アルギン酸の加水分解物を透析により除去してもよい。抽出液に50%エタノールを添加すると得られる沈殿を水に溶解し、透析により脱塩した後凍結乾燥すると、ほぼ純粋なアスコフィランが得られる。さらに精製が必要な場合は、水−エタノールから再沈殿を行ってもよい。
【0021】
なお、上述の50%エタノール可溶性画分は、フコイダンを含んでおり、必要に応じて、分画精製を行うことにより、高純度のフコイダンを得ることができる。
【0022】
<フコイダン>
フコイダンは、主にL−フコースが多数結合し、L−フコース残基の少なくとも一部に硫酸が結合し硫酸エステルを形成した硫酸化多糖である。L−フコース残基以外に、グルクロン酸残基やガラクトース残基が結合していてもよい。フコイダンは、後述するアスコフィランと共に、アスコフィラム・ノドサムから単離されたものであってもよいが、コンブ、ワカメ、モズク、アカモク等の他の海藻から単離されたものであってもよい。
【0023】
<アスコフィラン>
硫酸基およびD−グルクロン酸基を含み、ポリアニオンであるアスコフィランは、水溶性で、HIVの感染抑制活性を阻害しない任意のカチオンと塩を形成していてもよい。そのようなカチオンの一例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0024】
組成物の有効成分として用いることのできるアスコフィランは、アスコフィラム・ノドサムより抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする任意の硫酸化多糖であればよく、分子量等に特に制限はない。硫酸基含量およびウロン酸含量についても特に制限はないが、硫酸バリウムによる比濁法で測定された硫酸基含量が7〜15重量%であるものが好ましく、また、カルバゾール硫酸法で測定されたウロン酸含量が20〜25重量%であるものが好ましい。
【0025】
<抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物>
アスコフィラム・ノドサム抽出物又はそれより単離されたフコイダン及び/又はアスコフィランを、医薬として許容される担体等と混合することにより、抗ヒト免疫不全ウイルス剤組成物の一例である医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入投与)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトへの経口投与の場合、一般には製剤中に含有される有効成分(アスコフィラム・ノドサム抽出物)の量で、好ましくは1日当り10〜1000mg/kg、より好ましくは1日当り20〜200mg/kgである。投与回数及び間隔は、ヒトへの経口投与の場合、1日1回(24時間間隔)である。もちろん投与量及び投与間隔は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。
【0026】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製することができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、アスコフィラム・ノドサム抽出物と、製薬学的に許容し得る担体または希釈剤、安定剤、およびその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0027】
組成物は、食品であってもよい。組成物を含む食品としては、アスコフィラム・ノドサム抽出物をそのまま食品として調製したもの、他の食品に添加したもの、あるいは、カプセル、錠剤等、食品または健康食品に通常用いられる任意の形態をとることができる。食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。また、適宜、食品原料中に混合して食品を調製し、HIVの感染予防活性を有する機能性食品として用いることができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:アスコフィラム・ノドサム由来のアスコフィラン及びフコイダンの精製
アスコフィラム・ノドサムを希クエン酸水で洗浄した後、熱水抽出(90℃)を行った。次に、遠心分離とろ過によって不溶物を取り除いた後、中和した。その後、酸を加えてアルギン酸を沈殿させて大まかにアルギン酸を除去したのち、アルギン酸リアーゼ処理により、残ったアルギン酸を分解除去した。得られた溶液にエタノールを加え、沈殿からアスコフィラン(図1中「As」)、上清からフコイダン(図1中「A−Fu」)を得た。
【0029】
実施例2:ヒトCD4陽性T細胞へのHIV−1の初期感染に硫酸化多糖が及ぼす効果の検討
MT−4細胞(ヒトCD4陽性T細胞)を、1×10 cellの密度でウェルに加え、硫酸化多糖(アスコフィラン:As、アルギン酸オリゴマー:Ao、シグマ社製フコイダン:S−Fu、アスコフィラム・ノドサム由来フコイダン:A−Fu、ポルフィラン:Po、デキストラン硫酸:De−S、デキストラン:De、濃度:100μg/mL)と共に1時間プレインキュベートした。その後、HIV−1 R9株を加え、48時間インキュベートした。HIVへの感染の程度を、細胞のライセート中のHIV p24タンパク質を定量(ウェスタンブロット法)し,MT−4細胞培養上清中に放出されたHIVをTZM−bl細胞に感染させ、ルシフェラーゼ法により評価した。
【0030】
結果を図1に示す。図1中、「Neg」は、HIVを添加せずにインキュベートした陰性対照、「Con」は、多糖類を添加せずにインキュベートした陽性対照を示す。図1の結果から、アスコフィラン及びフコイダンは、MT−4細胞へのHIVの初期感染を抑制することが確認された。
図1